TITLE : 夜明けあと    夜明けあと   星 新一 夜明けあと    ●安政五年—慶応四年(一八五八—一八六八)    安政五年(一八五八)  幕府は、その権限で開国。日米通商条約が成立。英、蘭、露、仏とも。         *  江戸で福沢諭吉の蘭学塾《らんがくじゆく》が開かれた。    文久二年(一八六二)  在日米国使節の印象。日本人は貿易による利益を知らず。品物の輸出で、民衆は日用品不足。貧者は困窮。交易にむかない国民性のようだ(海外新聞)。心配なことですな。    慶応二年(一八六六)  年末、孝明天皇死去。つぎの天皇は十五歳。    慶応三年(一八六七)  東京・横浜間に電信の計画。この柱と線が全国に及べば、便利になる。いずれは外国人技師の助けなくして、建設や機械の製造も可能となろう(万国新聞紙)。         *  薩長《さつちよう》に討幕の密勅。徳川慶喜《よしのぶ》、大政を奉還。王政復古の大号令。         *  アメリカ合衆国、ロシアからアラスカを買い、代金の半分を鉄船ですます。その関係者たち、つぎは日本全土を買おうかと(万国)。さすが、お金持ちの国。    慶応四年(一八六八)  薩長による新政府成立。幼少の天子をかつぎ、政権を奪うのに利用した(中外新聞)。         *  御門《ミカド》(天皇)と大君《タイクン》(将軍)の戦争に、合衆国は中立を声明(中外)。         *  横浜ドル相場。一ドル、四十四匁《もんめ》七分《ぶ》にて、とくに異状なし(中外)。         *  栓《せん》に使うコルクを、黒く焼いて粉にして飲むと、コレラに効く。インドの療法(中外)。         *  在日外国人で、日本凶徒に殺されるのが多い。死者一名につき、千人を殺せ。最良の防止法だ(英文・横浜新聞)。         * 「かけまくもかしこき、天《あま》つ神《かみ》、地《くに》つ神の大前《おおまえ》に申さく……」五カ条のご誓文の前文のはじまり(太政官《だじようかん》日誌)。  官軍、関東へむかう(太政官)。         *  薩摩藩の大久保利通《としみち》の建白。「この際、人心一新のため、浪花《なにわ》(大坂)へ遷都《せんと》を」(中外)。         *  西郷隆盛《たかもり》、勝海舟の会談で、江戸開城。英国公使パークスの「恭順を表明した慶喜を攻撃とは」の意見で、戦闘中止。         *  パリ万博に出演した日本の手品師たち、ブダペストでも興行したが、強い酒を日本酒の調子で飲み、酔って大失敗(万国)。         *  江戸から諸大名の屋敷《やしき》がなくなったら、地価はただ同様だ。商人や地主の代表が集って、対策の相談が必要(中外)。         *  新政府の神祇局《じんぎきよく》は、高齢者を優遇の方針。百歳以上に三石、九十歳以上に二石、八十歳以上に一石の米を恵むと(行在所《あんざいしよ》日誌)。はたして、何人がもらえたか。         *  勝海舟、幕府から官軍へ、つぎの四艦を引き渡す。富士、観光、翔鶴《しようかく》、朝陽(公私雑報)。         *  オランダで二百年後を予想した本が出た。ガラス製の屋根。高性能の望遠鏡。磁石で進む風船。大国は軍備を廃止し、独立国はふえるだろう(公私)。         * 「もしほ草」という新聞が出た。海水をそそいで、塩を取るのに使う海草。かき集める、書き集めるに通じる。         *  下総《しもうさ》・結城《ゆうき》の城主、官軍支持を表明。江戸にいたその息子は「三百年の徳川の恩を」と兵と大砲を集め、城へ出撃。城主は逃亡。  それを官軍が知り「不孝不忠なやつめ」と攻撃。三日天下で、息子は逃亡(もしほ草)。いろいろなことの起った時代。         *  三百年の平穏に対し、薩長は悪者あつかいし、勝手に錦旗《きんき》を動かす。天下のためと自称し、まことに理不尽。世界の各国に訴えたい(もしほ草)。同様な意見は多い。         *  江戸の人口、約五十四万。所帯数、十三万。ただし、町人についてのみ(内外新報)。しかし、全人口となると、不明。外国人の推測にも、一千万から五千万まで、各説がある(中外)。パリよりの手紙によれば、江戸ほどの大都市は、欧州になしと(中外)。         *  江東の芸者は若い妓《こ》まで、なぜか漢語がはやっている。「先日ノ金策ノ事件ニツイテノ建白ノ御返答ハイカガ」など。  一方、在日仏人の説。新政府の布告は漢語の文が多く、わかる人は一割ぐらい。教育の水準が低いのか(都鄙《とひ》新聞)。         *  徳川慶喜将軍は、恭順で政権を返上。人柄《ひとがら》、頭脳、思慮すべてにすぐれ、いずれ大統領として善政をなすであろう(江湖新聞)。         *  ゴム風船にガスをつめ、宙に浮かしたのを売り、珍しがられる(各紙)。         *  江戸開城時までの官軍への帰順者(武士)には、勤王証明証を渡す(江湖)。         *  八幡大菩薩《はちまんだいぼさつ》は、八幡大神と改称する(中外)。楠木正成《くすのきまさしげ》の一族を勤王家とみとめ、千両を支出し、神社を作らせる(公私)。豊臣秀吉《とよとみひでよし》、加藤清正は、その至誠をみとめ、神社にまつるのを許す(太政官)。         *  官軍の江戸駐留の費用、一日に八千両と米二百俵(東西新聞)。         *  江戸の上野で幕臣が彰義隊《しようぎたい》を作り、反抗。官軍の大砲のそばに「神社を撃つな」と札を立てる者あり、中止される(公私)。  隊員の、ある戦死者の残した句(此花新聞)。   光るかと見る間に消ゆる花火かな  上野の一帯、ほとんど焼失、大雨もあり、悲しみの声、街に満つ。なげく人、多し。         *  ある在日米人の話。日本人は勇敢と聞いたが、新政府の前に、会津藩のほかは臆病《おくびよう》そのもの。千人の部下がいれば、この国を支配下においてみせる(そよ吹風)。そう感じた外国人もいただろうな。         *  すでに上海《シヤンハイ》には、百人を越える日本人がいる(もしほ草)。         *  延寿と改元のうわさが流れる(中外)。         *  大坂の旅館に、ひとりの異人が、とめてくれと出現。飯に梅干をのせたのを出すと、食べて悲鳴。役所にとどけた。アメリカ人の男で、放浪のあげく、日本に渡ってきたとのこと(浮世風聞)。         *  神戸の異人館で、英国人と妻の日本人の間に二人の子があり、高い鼻なり(浮世)。         *  駐日英国書記官、帰国の時に手品師の波五郎を同伴。紙のチョウを宙に舞わせる芸をやらせ、観客は感嘆(日々新聞)。         *  いつの日か、ヨーロッパ、アメリカに小さな店を出し、日本の産物を売り、その利益で留学生を呼ぶ。このような時代が来ればいい(中外)。なんと、いじらしい希望。         *  江戸を東京と改称。西の京と同じく重視との意味。知府事(市長役)をおく。形式上の民政移管(太政官)。         *  いわき地方。官軍は平潟《ひらかた》より小名浜の賊軍を平定。平《たいら》城を奪う(太政官)。私の父の故郷も、官軍の支配下に入った。         *  越後《えちご》の賊兵、敗走。平定す(太政官)。長岡藩の奮戦もむなし。私の母方の祖父の生地も、ついに官軍の支配下となる。         *  支那《しな》政府、米国へ派遣する使節の待遇を以前の日本の使節(幕府からの)と同等以上にするよう申し出る(もしほ草)。         *  旧暦八月二十七日、京都にて天皇の即位。式典がなされた。また、九月二十二日を天長節(天皇誕生日)ときめ、祝日とする(太政官)。         *  ハワイへ渡った三百人の日本人たち、待遇もよく、平穏な地で喜んでいる(もしほ草)。当時は独立国で、英語ではサンドイッチ諸島と呼ばれていた。         *  横浜市内で、立小便が禁止となる。文明国では、五ドルの罰金の行為なり(もしほ草)。         *  凶作と戦いのため、大坂の米価は上るばかり。輸入をとの声がある。米は日本で最重要の食物。輸入により安くしないと、大騒動が起る。外国米は毒との説は、無知によるものだ(もしほ草)。         *  アメリカの会社の構想。香港《ホンコン》、上海より日本へ電信をつなぎ、北海道、アラスカへ伸ばし、ニューヨークに連絡。よく学び、輸出をふやせば、日本も進歩する(もしほ草)。努力すれば世界情報の重要地点になれると、はげましてくれたのだろう。         *  九月八日、明治元年と改元。    ●明治元年(一八六八)  天皇、東京へ(東巡日誌)。  かくも東へのお出かけは、日本史上はじめてのこと。同時に、江戸城は東京城と改称された。  五十日後、京へお戻りに(還幸日誌)。         *  幕府の海軍副総裁・榎本武揚《えのもとたけあき》、船隊を指揮し、函館《はこだて》へ。英仏はロシアの介入を心配し、軍艦を回す(もしほ草)。         *  当時、ストーブを「へやぬくめ」と呼んだ。それが原因で、外人居留地で火事あり(崎陽《きよう》雑報)。         *  十二月二十八日、入内《じゆだい》、立后(太政官日誌)。左大臣・一条忠香《ただか》の三女、勝子《まさこ》さまが皇后に。天皇より二歳年長。         *  この年、タイで十五歳の国王が即位。ベルリンでは、ブラームスの子守唄《こもりうた》の曲が出版された(年表)。    ●明治二年(一八六九)  新政府の参与・横井小楠《しようなん》、朝廷よりの帰途に暗殺される(太政官)。肥後熊本の出身で、すぐれた学識の主。しかし、キリスト教に好意的だったので、保守派にきらわれて。         *  このころの長崎での主な輸出品は、茶、生糸《きいと》、石炭、干物《ひもの》。輸入品は、武器、砂糖、酒(崎陽)。         *  ドル暴騰《ぼうとう》(もしほ草)。各藩がむやみと武器を輸入したので、金銀の成分不足の通貨が出まわったため。         *  三月、天皇ふたたび東京へ(太政官)。  東京へ遷都。天皇の居住地となる。しかし、ここが首都との根拠は、ずっと明白でなかった。         *  さきに大坂への遷都を論じたのは、大久保利通。江戸っ子の多くは、その人のおかげと、ずっと思い込みつづけた。東京を主張したのは、江藤新平であった。  京都の人は、公卿《くげ》から住民まで、東京遷都を好まず、不穏な動きあり(中外)。  あげく、薩長体制をきらい、公卿たちはある宮様をかつぎ、反対運動をはじめた。旧徳川派へも働きかけたとのうわさ。その宮様を芸州浅野家へお預けとし、なんとか処理。         *  上州岩鼻の清蔵なる男、夜、悪漢に襲われ、鼻を切り落された。一年後、英人の医師ウィリス、ほかの部分の肉を削って移し、鼻をもとの形に戻した(遠近新聞)。整形手術の、第一号というべきだろう。         *  公議所を神田に作り、国のための意見を求める(六合新聞)。このような制度は、外国ではアメリカ合衆国にしかない(もしほ草)。 「官報・議案録」が発行され、そこでの多くの新しい主張が、掲載された。火葬廃止。通称でなく実名を使え。切腹廃止。罪を家族に及ぼすな。家財を召し上げるな。金銭による年季奉公はよくない。貴賤《きせん》の別をなくせ。利息の自由化を。物品の単位の統一を。         *  米人スネル、敗れた会津藩の住民を数十人つれ、カリフォルニアに移住させる。米の耕作も可能なり(中外)。これが後世、コメの大量生産となり、日本をおびやかす。         *  スエズ運河、開通。北米大陸横断鉄道、完成(年表)。日本からの留学生は、サンフランシスコに、すでに十人ちかくいた。         *  サンフランシスコの人、飛行機械を発明、博覧会に出す。十人は乗れる。いずれ日本でも、東京から長崎へ日帰りで行けるだろう(もしほ草)。ライト兄弟が試作に着手するより、三十年も早い。本当だったのか。         *  大学南校、東校の呼び方きまる。東大のはじまり。         *  光圀《みつくに》公に従一位《じゆいちい》が贈られる(太政官)。悪人退治の功でなく「大日本史」の作成に対し。         *  七月一日は日食のため、参内《さんだい》は差止め(太政官)。         *  大村益次郎、京都で暗殺される。  官軍の参謀として東海道を進んだ。その時、静岡地方の神官たち、途中で参加し、功を立てる。しかし、恭順の徳川家は、家康ゆかりのその地に移され、旧幕臣も集って住みはじめた。  神官たち、帰りにくい。益次郎は同情し、九段に作られた戦死者のための招魂社(のちの靖国《やすくに》神社)に職を与えた。その徳をしのんで銅像が作られ、いまに残る。彼は陸軍の基礎を作った人で、国民皆兵をとなえ、武士を軽んじたのが殺された一因。         *  英国より、第二王子、来日。その接待のため、タカ狩りの名手を集める。狐狩《きつねが》りの好きな国だから、喜び、これで楽しむようになるだろう(明治新聞)。         *  横浜の宣教師が、病身の妻のために車つきの乗り物を作る。和泉《いずみ》要助《ようすけ》ほか二人は、それを改良し、人力車の営業をはじめる。やがて、英国、東南アジアへ輸出。  機械の輸出は、車が最初だった。         *  日本人は、犯人も、不義の女も、すぐ刀で斬《き》り殺す。ぶっそうな国だ(英文・兵庫新聞)。         *  この年、ランゲルハンス島、発見さる。発見者のドイツ医学生の名がつけられた。医学上の重要な出来事。    ●明治三年(一八七〇)  元・水戸藩士の兄弟、父が京都で殺されたので、犯人をさがし、高知藩士となっているのを知り、殺して仇《あだ》を討つ(太政官)。関係書類がそろっていれば、それで終り。  外国人には、理解されまい。         *  外国行免許状(パスポート)発行条令きまる。祖国を忘れず、なにかを学んでくること。多くの友を作れ。個人の争いは、国のためにならない(もしほ草)。         *  米仏両国より、北海道調査の願いが出る(外務省日誌)。金銀銅鉄の豊富な島と思われたらしい。国内でも、旧幕臣、政府内に、大きな夢を抱いていた人が多い。         *  北ドイツ連邦より来信。桑《くわ》の種子を買い入れたいのだが、質の悪いのが届いたり、包み方が悪かったりだ。よい品の手配を(外務省日誌)。生糸の国産化をめざすのと、そうはさせないとの争いか。         *  多くの人が種痘《しゆとう》をするよう、布告が出された(太政官)。         *  米沢藩《よねざわはん》の雲井龍雄《たつお》は頭がよく、幕末維新に各地を旅した。東京で新政府の動きを見て、薩長閥打倒を計画。反乱連判状に三千人の署名を集めた。秘密がもれ、逮捕の寸前に連判状を燃やした。この年末に処刑。  火に消えて助かった人もいた。しかし、本物の署名が何割なのかは、不明のまま。         *  プロシャ(ドイツ)とフランスが交戦。わが国は中立を声明(太政官)。大げさだが、開港地の平穏のためか。         *  東京府、六つの寺のなかに、小学校を作った。在来の寺子屋の師の四百軒にも、私立小学校の資格をみとめた。棒で尻《しり》をたたくこともあったが、師弟の情愛は深かった。         *  国旗、軍艦旗、正式制定(太政官)。         *  東京で外国人が遊歩できる範囲を示す。社寺庭園など、見物を望んだ場合、問題がなければ立入りを許し、あれば断わること(太政官)。そんな英会話のできるのが、どれくらいいたのか。         *  平民に苗字《みようじ》を許可。一方、帯刀は禁止とする(太政官)。         *  工部省、新設。加工業、鉱山、製鉄、灯台、鉄道、電信などを管理(太政官)。行革など、考えもしなかった時代。         *  名古屋藩知事より、もはや無用のため、城のシャチホコの金の部分をはがし、新政府へ提供の申し出あり(太政官)。ほかにも、城をこわしましょうかなど、ゴマスリの申し出が多い。  一方、酔ったふりをし、大声をあげ、歌い、刀で町人をおどし、犬猫《いぬねこ》を殺す武士も多い(太政官)。日本的性格か。気分はわかるが。         *  開港所で商品を取引きする時は、必ず書類を作ること。口約束はよくない(太政官)。         *  中国原産、日本で栽培のスモモが、移民によりカリフォルニアに植えられる。品種改良され、やがてプラム(アンズ)の大産地となる。輸出産業へ成長してゆく。         *  坂本龍馬《りようま》は海援隊という組織を作った。岩崎弥太郎《やたろう》はその留守居役となり、官軍の物資調達、船舶輸送を一手に引き受け、利益と実績を築き、この年、九十九《つ く も》商会を創立。やがて三菱《みつびし》商会と改称、大財閥に成長する。         *  寺院の規律が乱れているので、寺院寮という役所を作り、取り締る(太政官)。新政府が神社ばかりをひいきするので、僧侶《そうりよ》たちは面白くなかったのだ。         *  このころより、牛鍋《ぎゆうなべ》を食べさせる店が繁盛しはじめる。仏教の力が弱まり、肉食が文明の象徴となったため。異人館に牛肉を納入する横浜の中川屋が、東京・芝に一般人用の店を出したのがはじまり。  しかし、調理法は西洋風でなく、イノシシ鍋と同じ。ミソ、ネギ、トウフなどを肉に加え、サンショを少々。関西の「すき焼き」の名に統一されてゆく。セルフサービスでもあり、外国慣習の日本化の、最初にしてみごとな例といえよう。    ●明治四年(一八七一)  東京・京都・大阪間に郵便開始、切手発行。廃藩置県。新貨幣制、一両や一貫を一円と称す。戸籍法の方針きまる。  簡単な歴史の本、せめて一家に一冊。         *  飛騨《ひだ》の高山の農民・清七。独力にて人馬用の二里余(十キロ)の山道を作る。七十歳ではじめ、八十二歳で完成。賞せられ、米を賜わる(民部省日誌)。         *  漁業をしている青年、希望すれば水兵に採用する(太政官)。         *  人家のそばでは、軍隊はラッパを吹くのを控えること。人が驚く(兵部省達)。         *  仙台の北・一関ちかくの農民の、兄弟の少年。八年がかりで父の仇を討つ(太政官)。ああ孝子の苦節、世人の模範なり、役所はなにをしていたのか(新聞雑誌)。         *  外国人の説。日本人は智巧だが、根気にとぼしい。肉食をしないためだろう。幼時から牛乳を飲めば、心身が向上する(新聞雑誌)。  この年末より、天皇も肉、牛乳を召し上るようになる。また、羊毛のフランス式軍服を日常服とし、革の靴《くつ》をはく。         *  天ハ自《ミズカ》ラ助クル者ヲ助ク。  英人スマイルズ著 "Self-Help" を中村敬宇《けいう》が訳した西国立志編が発売された。  天皇は和漢の書に加え、この本を最初に、西洋の政治を学者の講義で学びはじめる。         *  ユリの根が、輸出されるようになる。横浜から、年に十万個も。花もにおいも美しく、香水の原料になると。フランスで一鉢《ひとはち》、八十フラン(約十六円)とか(新聞雑誌)。一円で米が一斗数升、約二十五リットルのころ。         *  旧大名の藩邸を処分したいが、新政府の信用がなく、千坪二十五円でも買手なし。青山邸はどうしようもなく、墓地にした。現在の青山墓地。         *  盗みを四回やったら、金額をとわず、絞首刑(太政官)。さらし首、処刑死体、遺族より申し出があれば、下げ渡す(太政官)。         *  大学生に漢文の読めぬ者がふえ、まず書き下し文で教える(新聞雑誌)。         *  士族の断髪、廃刀、服装は各人の自由とす(太政官)。平民の羽織《はおり》、ハカマの着用、制限しない。華族と平民の結婚も可(太政官)。         *  東京城にて正午、号砲一発(太政官)。         *  江戸時代は貧民の子も、二十歳ぐらいまで働かなかった。最近は中流の子も、十歳ぐらいで仕事につく(新聞雑誌)。         *  給料。上等通訳、三十日五十円、中等四十円、下等二十五円(兵部省)。         *  国産ビールに臭気ありと。肥料に人糞《じんぷん》を用いるためか(横浜毎日新聞)。         *  長寿への祝。八十八歳は三両、百歳は十両に改正(太政官)。         *  岡山の北の、津山の森のサル。一匹が地面で死んだふり。鳥が舞いおりクチバシで突つくと、ほかのサルたちが木かげや枝から飛びかかり、川に入れて殺す。さすが、開化の世なり(新聞雑誌)。食肉鳥タカへの対抗か。         *  東京・長崎間に電信。そこから海底電線で上海、香港、ロンドンまで連絡している。  電信用の柱のため、横浜・小田原間の東海道の松並木の多くが切られた。いずれは鉄道も通る。自然は失われる一方(新聞雑誌)。         *  川へ物を捨てるな。死体の浮いてるのを見たら、届けよ。ほうびを出す(新聞雑誌)。  世はまだ不安定。一部士族や僧の不満で、各地にごたごた発生。奈良の三重塔が十円で売られ、雪舟の絵もただ同様。とくに大名屋敷からの古美術が、安く売り出され、外国へ流出した。         *  旗本の娘お絹《きぬ》、両親に死なれ、芸者となり、金貸しの妾《めかけ》となる。時間をもてあまし、美男の役者、嵐璃鶴《あらしりかく》を知り、深い仲となる。  乗り換えたいが、金貸しが許さない。そのあげく、毒殺。この年に発覚し、翌年に処刑。よほどの美人だったらしく「夜嵐お絹」と話題になる。         *  地位を利用し、官員が人民より金銭を取ることを禁ずる(太政官)。         *  浅草の魚屋の六助。七日ぶっ通しで逆立ちをし、神へ祈願しようとした。大まじめだが、両手での逆立ちは、長くつづかない。倒れる音を聞きつけ、近所の人がやめさせた(蒐集《しゆうしゆう》記録)。         *  年末、岩倉具視《ともみ》、木戸孝允《たかよし》、大久保利通、伊藤博文《ひろぶみ》ら、欧米へ。のちに女子大を作る津田梅子たち、少女五名、米国に留学のため、同じ船で出発。         *  米国の人口、三九〇〇万。統一ドイツ、四一〇〇万。英国、二六〇〇万。日本、三三〇〇万。    ●明治五年(一八七二)  サンフランシスコ新聞の記事。日本のこの四年間の文明開化は、英国の四百年に等しい。敬愛される天皇は、洋風化の範を示し、士民も旧風を改めはじめた(毎週新聞)。  岩倉使節団のなかの、英語のうまい伊藤博文の働きかけによる、日本PRだろう。         *  遊郭・吉原の新規定。健康のため、一日一夜以上のいつづけはよくない。お客を、無理に引っぱり込むな(日要新聞)。         *  獄中で死亡した男、親族に引渡した時に、生き返る。残りの刑期をどうする(日要)。         *  千葉の小湊《こみなと》海岸に、長さ五間半(十メートル)のイカが打ち上げられた(新聞雑誌)。         *  大阪の古道具店。外国人にヤカンの値を聞かれ「八百(文)だ」と答えたら、八百両を置いていった。役所に申し出て、相手に伝えたら「不足なのか」と、さらに二百両をくれた(東京日日新聞)。         *  朝鮮国は国を鎖《とざ》し、日本人の通訳だけに会話を許し、商人に話しかけて捕えられた女がいる。無礼だ。外国人をきらい、牧師を殺害した。これでは国が衰える(東日)。  日本だって、数年前は同じだった。         *  二月、銀座、築地方面に火事。薩長出身の高官、大火をはじめて見て驚き、レンガ造りの商店街を計画。銀座のはじまり。         *  断髪。男は未練がましく、長目にしたり、変形ものなどが多かった。  そのうち、女子に断髪がふえはじめ、最初は手入れが簡単と支持された。しかし、流行となり、ハカマに下駄《げた》、腕も露出となる。妙に色っぽく、禁止令が出る。モダン・ファッションの先駆といえよう。         *  米国への旅行者がふえたが、船室で大声で歌い、ベッドでタバコを吸う。上陸し、ホテルの女性をからかい、壁に落書きをする。新聞にのり、国の恥だ(新聞雑誌)。         *  浅草寺の山門を借りる契約をし、客をあげて、お茶を出し、望遠鏡を貸し、料金を取る商売をはじめた者あり(日要)。  大阪。米商人が伝書鳩《でんしよばと》を使って相場の変化を早く知り、利益をあげた(東日)。         *  春画の販売が禁止となる。名匠の浮世絵であろうが(新聞雑誌)。二束三文で外国へ。         *  横浜・品川間に鉄道開通。すぐに新橋までのび、祝典が行われた。         *  十人の行者、神のお告げと、太政官へ押しかけ、四人が射殺される。三味線、タイコで神がかって歌う集団が、いくつか出現(新聞雑誌)。伊勢神宮移転のうわさで、反対集会。数十人が逮捕される(名古屋新聞)。         *  七月末に大きな天変地異で、世界が泥沼になるとのうわさが広まる。山伏《やまぶし》、占師など、開化で商売のしづらくなる者たちの、策略か(日新真事誌)。それは彗星《すいせい》の落下との説も流れる(日要)。なにも起らずにすむ。  生きているうちに遊べで、結果としてもうけたのは、遊郭と料理屋(郵便報知)。         *  米国より牛七頭、神戸港へ。牧畜の指導者も来る。この分野が盛になれば、食用肉も自給可能にと(開化新聞)。ありがたい好意。         *  本郷の加賀藩邸のあとが、囚人の作業場となる(日要)。のちに東大が移ってくる。         *  アイヌ人を東京見物に連れてきたが、驚かない。いわく「お役人がエゾに来た時、集って眺めたら、いなか者とどなられた。ここでは、その何倍もの人が私を眺める。もっと、いなか者だ。なにが開化だ」と(新聞雑誌)。         *  京都に図書館ができる。和漢、翻訳書、各地の新聞あり、有料(日要)。やがて、東京の湯島にも。         *  麹町《こうじまち》に住む男。妻と口論し「出てゆけ」と叫ぶ。外出のために着がえ、化粧した妻を見て、美人だったのに気づく。あわてて表と裏の門をしめた(日真)。         *  熊本に軍隊が駐在することになった。土地の士族たちは、平民の兵隊とばかにし、兵は国の配下といばり、流血さわぎ(日真)。         *  両国の茶店で休んだ男。みごとな洋服、ボタン穴から銀のクサリ。かがんだために、その先がポケットから出た。懐中時計と思いきや、四角い穴あきの天保銭。見る者、笑いながらも名案と感心(新聞雑誌)。         *  ペットになり、ふやして売れば利殖にもなると、ウサギの取引きが流行。輸入もされ、黒いの、両耳の黄色いのなど高値がつく。  異常だと、政府は月に一円の高い税をかけた。床下《ゆかした》にかくす者もいたが、ほとんどのウサギは殺され、川に捨てられた。         *  伊豆のひとり暮しの老女。神棚《かみだな》に十円札を飾っている。海岸で包みを拾い、なかに数十枚あった。お札《ふだ》と思い、一枚だけいただき、あとは海へ戻したとのこと(峡中新聞)。         *  観賞用植物のオモトが、京都で大流行。五十円どころか五百円の高値がついた。         *  奈良の若草山を牛の牧場にする計画。外国人から反対意見が出た(新聞雑誌)。         *  天は人の上に人をつくらず。  福沢諭吉の『学問のすすめ』出版。  よく売れ、複製が出た。福沢、外国の例をあげ、著作権と印税の確立を主張。         *  横浜で、各国人二百人による射撃大会。鹿児島出身の村田経芳大尉《つねよしたいい》が第一位となり、みな感嘆。賞せられる(新聞雑誌)。  彼はそのあと海外へ留学し、銃の研究をし、小銃の国産化に成功する。この村田銃は世界から評価された。改良産業の先駆。         *  長州出身の陸軍大輔《たいゆう》(陸軍大臣)山県有朋《やまがたありとも》の昔の部下の野村三千三《みちぞう》、ある日、役所へ来てあいさつ。 「山城屋和助と改名し、これからは商人。陸軍で使う品を扱わせて下さい」  それだけでも大もうけなのに、予算を寝かせておくより、活用して利益をと持ちかけ、フランスで生糸相場をやる。しかし、普仏戦争で負け、大損。残金は酒と女で使いはたした。約七十万円が消えた。  帰国し、割腹自殺。薩摩閥は立腹したが、山県は金をもらっていず、西郷隆盛の力で、なんとかおさまる。         *  太陽暦となる。十二月三日をもって、明治六年一月一日とする。国家予算の一ヵ月分が節約できた。         *  天皇誕生日は九月二十二日を、十一月三日に変更。  各所で混乱はあったが、精神的な近代化への、ひとつのきっかけとなった。    ●明治六年(一八七三)  前年末に出た徴兵令で、大さわぎ。  士農の差を廃し、青年は共同で国家を防衛といえば無難だったが、解説の告諭に外国語の拙訳「血税」の語を使ったので、血を抜かれると思う者がほとんどだった。  それ以後は使われず、現在の辞書は「負担感の重い税金」が、先にのってるのもある。         *  新しい店が出来ると、見物人が集り、眺めつづけ。時間の空費は、文明ではないと考える(大阪新聞・投書欄)。         *  郵便料金、遠近に関係なく、全国均一。         *  越前のある住職の説。一年十二ヵ月の太陽暦になったが、月の満ち欠けを無視して、一月はおかしい。第一日から第三六五日まで呼ぶのが、合理的だ(新聞雑誌)。         *  仇討ち、禁止される。殺人者を罰するのは、政府の大権なり(郵便報知)。         *  石見《いわみ》の万平という男、近くの人妻と浮気。それぞれ、三年の刑。訴えた妻は、好ましからずと、七円半の罰金(郵便報知)。         *  今度はカナリヤの売買が流行(新聞雑誌)。         *  天皇、断髪なさる。皇后も少し前に、オハグロをおやめになった。         *  町の看板に「洋風散髪」や「西洋牛肉」などある。日本人の頭髪、日本の牛の肉ではないか、浮かれるな(大阪新聞)。         *  新橋で汽車に乗りおくれた子供。父親が品川駅から電信で連絡してもらい、つぎの便で無事再会(東日)。車内の男、窓から小便をして、罰金十円の判決(東日)。         *  皇居、失火により炎上。赤坂離宮が仮皇居となる。強風にて、太政官の建物も焼失。         *  駒込《こまごめ》の目赤不動の境内に、兎塚《うさぎづか》を建立。ウサギ・ブームで始末された霊をなぐさめに、多くの人が集った(郵便報知)。         *  米国政府は、幕末の長州藩との下関戦争で、二万ドルの償金を取った。その金を、日本からの留学生のために使う計画をたてる。偉大な国なり(新聞雑誌)。         *  夫は人力車、妻は針仕事で生活。ある日、妻が帰りに人力車に乗ったら、引く男が夫。代金は払ったという(新聞雑誌)。         *  上野の東照宮の祭典に、一般人の参拝が許される。近くの家々は、アオイの紋の提灯《ちようちん》をかかげ、大変な人出。徳川三百年の恩をしのんだ(東日)。         *  典侍・光子《みつこ》、皇子をご出産。死産にて、三日間の音曲停止(東日)。  静かなはずの町で、音楽をやる邸《やしき》あり。多くの人数。稲荷《いなり》の祭りとかで、奇妙な光景。キツネに化かされたのか(東日)。         *  葬儀用の人力車、十九台が許可される。上等はミコシの飾りにて、鳥居、花立もつく。棒でかつぐより便利(郵便報知)。         *  銭湯へ犬を連れてきて入浴させるのが、禁止となる(東日)。         *  娼妓《しようぎ》解放令を出したものの、どんな仕事をさせたものかわからず、売春が野ばなしで、取り締りようがない。もとの遊郭主たち、場所を限って許可し、税金をかける案を申し出る(郵便報知)。  東京の知事、そのほうがましだと、吉原、品川、新宿、板橋、千住を認可。         *  米国が、八丈島を捕鯨船の基地として買いたいと。地図にのっている、固有の領土。日本人が開拓すべきだ(新聞雑誌)。         *  この十月に政変。岩倉具視、大久保利通らと意見が合わず、西郷隆盛、江藤新平らが参議(閣僚)を辞任。外国視察がえり、内政専念派の対立。それぞれ内部での対立。くわしくは歴史の本で。  維新による徳川反対、豊臣の名誉回復。そのムードで征韓論の言葉が生れ、論争のきっかけに使われた。         *  明年以後、新年の和歌の会の勅題に、一般民衆の参加のお許しを望む(新聞雑誌)。    ●明治七年(一八七四)  天皇のお通りの時、平伏しなくてよい。車や馬を下り、帽子をとり、道ばたに直立し頭を下げればいい(東日)。         *  新橋・京橋間に、線路が作られ、何人も乗れる馬車が走る。鉄道馬車。見る者、進歩を実感する(日新真事誌)。その左右の両側には、歩行者用の部分を作る。歩道のはじめ。         *  国産の石鹸《せつけん》、セメント、製造(新聞雑誌)。         *  銀座のレンガ建物を払い下げたが、売上が少なく、分割払いが延期となる(日真)。         *  女子が通学にハカマをはくのを、非とする論が出た。それへの反論も出た。昔の宮中でも着用されたし、すその乱れもかくせる(郵便報知)。男物の点が、気になるらしい。         *  郵便を運ぶ者、短銃を携帯すること。現金があると思って襲う者を、防ぐため(日真)。         *  秋田の士族の子、軽業《かるわざ》を修業し、小虎《ことら》の芸名を名乗る。イギリス人に認められ、渡英。二年の契約が終ると、欧州の各都市を巡業。適応性あり、礼儀ただしく、大人気。  ドイツ美人と結婚、月に千円の収入。やがてアメリカに渡れば、年に十万円は得られるだろうと(東日)。すぐれた人は、いつの世にもいる。         *  新潟で、農作業にやとわれて働く者たち、密議して給料の値上げを要求。だめなら働かないと(新潟新聞)。  日本橋の芸者たち、値上げを要求し、三日前より、そろって休業(郵便報知)。         *  政府高官を辞した江藤新平、板垣退助、後藤象二郎ら、民選による議院を作るべきだと、公然と主張。税を払う者には、発言権があるはずと。         *  佐賀で、不平の人たち征韓論を叫び、あばれる。江藤新平の帰国で、士族たちも勢いづく(東日)。  江藤は維新に功があり、文部大輔となり、司法の独立を主張し、司法卿《しほうきよう》となり、ヨーロッパを視察。頭脳、才能、決断にすぐれていたが、短気な性格。         *  三井組、レンガ三階建ての社屋を完成。のちの三菱を作る岩崎、湯島の料亭を買収。         *  天竜川のそばに住む人、私費で橋をかけるのが許される。しばらくの期間、渡り賃を取れる(東日)。  徳川時代、多くの川に橋が禁止されていたが、各所で工事がはじまる。         *  山梨の県庁内に天皇の写真をかかげたところ、賽銭《さいせん》をあげて拝礼する者おおし。万歳を叫ぶ人も(新聞雑誌)。どうも官製のニュースくさい。         *  凧《たこ》をあげて、電線に糸をからませた者がいた。十日の刑だが、五歳の子なので無罪(新聞雑誌)。七歳まで刑はなし。         *  一銭銅貨が発行される。新しいために、金色に輝いて、十円金貨とまぎらわしい。夜の料亭でばらまき、芸者たちをさわがせる者が出た(東日)。         *  駿河《するが》へ引退させられた十五代将軍・徳川慶喜。陣頭に立って、伊豆の山でユリの根を掘り、輸出。かなり利益をあげた(東日)。         *  佐賀の江藤新平、さわぎを静めに来たのに、火に油となる。反乱とされ、官軍につかまり処刑される。  すべて、大久保利通の策。         *  天皇、二十三歳。新しい侍女と深い仲となり、皇后ご立腹。岩倉具視、その和解のために苦心。  なんとかおさまり、酒宴となる。その帰途、岩倉は食違坂《くいちがいざか》で暴徒に襲われ、あやうく命を失うところだった。         *  清水次郎長、山岡鉄舟のすすめで、囚人を使い、富士山麓《さんろく》を農地にする。         *  開港した新潟へ、西洋からチャリネ曲馬団が来た。大けがをしたコックのイタリア青年、先へ同行できず、置きざりとなる。  せわをする人があり、レストランを開業。評判となり、その名のホテルは今もある。         *  佐賀の乱で敗れた賊兵の七人、長崎より米船に乗り、渡米しようとしたが、横浜へ寄港の時に逮捕された(東日)。         *  浅草・伊勢屋弥兵衛《やへえ》、浜町の美人芸者と結婚。新郎新婦とも洋装、馬車へ乗る。ワインをグラスについで、三三九度(東日)。         *  函館の米国領事ホース、息子をこの地の医学校へ入れる。初の外人学生(郵便報知)。         *  本郷の小物屋で働く女、夜に屋外の便所へ行き、ぞっとした感じで、髪の毛が逆立ち、気を失う。悲鳴で集った人が見ると、髪が切られていた(東日)。この怪異は、少し前にも起っている。         *  麹町から人力車に乗った若い女。車ごと草むらに連れ込まれ、車夫におかされかけた。声をあげて、助かる。  新橋駅から人力車に乗った外国人、車夫に小便をかける。文句を言い、なぐろうとしたら、逆にかみつかれた(東日)。         *  京都の人の、君側《くんそく》の奸《かん》の四人を斬れとの、激しい建白書が記事になる(新聞雑誌)。ただし、人名部分は、すべて○○になっている。         *  伊賀のある村の、放火犯の女。車裂《くるまざ》きで処刑。いいのかと聞く者あり。その役人答えて言う。斬罪《ざんざい》にと判決。車による斤《きん》(斧《おの》で割る)だから、そうしたと(新聞雑誌)。         *  台湾へ出兵。その地へ漂着した沖縄の人が住民に殺されたので、大久保利通は征韓論の勢いをそらそうと、兵を派遣。償金を取って一段落。失業士族、少しうるおう。  仲介した駐清《ちゆうしん》イギリス公使ウェードは「日本は台湾より朝鮮へ進出を。援助もする」とそそのかす。         *  各地の開港で、長崎はすっかりさびれていたが、台湾の件でやや景気回復(東日)。         *   川柳  (郵便報知)  勧学 読み書きをせよとの布告読めぬ文字  巡査 針ほどの事にも棒はたちどまり  三尺棒は巡査の持ち物。         *  本州・北海道間に海底通信(新聞雑誌)。         *  ある会合で、英国人が関取に「アナタ、タクサン、ビッグ。ワタシ、スモール」と、たどたどしく話しかけた。関取「ワタシモ、スモー」と、相手になるぞと着物をぬぎかけ、英語のわかる人が仲に入った(東日)。         *  金星が太陽面を通過。英米仏などから、観測隊が来日。なんの役に立つのかとの疑問に、解説の記事がのった(東日)。いま読んでも、わかりにくい文。         *  函館のドイツ領事ハーバーを殺した犯人、斬刑(郵便報知)。のちに空中窒素《ちつそ》固定法でノーベル賞を受けたハーバー博士は、その甥《おい》。         *  東京に立教大学、創設。         *  銀座通りに、多くのガス灯がともる。         *  この年、アメリカのリーバイス社が、鋲《びよう》つきのジーンズを発売。鉱山師が、ポケットからこぼれないよう、そうしてるのを見て。    ●明治八年(一八七五)  年頭なのに、もはや裃《かみしも》の姿を、ほとんど見かけない(東日)。         *  ある女、西洋医で効果なく、漢方医へ行ったら「汚血《おけつ》を除かねば」と言われ、尻を見られるのはと、逃げ帰った(東日)。         *  ロシアの新聞にのった説。英国は日支両国を対立させ、もうけるつもりと(東日)。  ロシアも東方へ勢力を伸ばそうと、シベリア鉄道を計画。         *  清国での説。英人ウェードが日本びいきなのは、日本への貸金の元利を失うのが心配だからだと(あけぼの)。         *  北海道に屯田兵《とんでんへい》をおく。農業開発をやり、有事には防衛や治安の行動(東日)。         *  権典侍《ごんのてんじ》、柳原愛子、皇女をご出産。右、布告す。一月二十一日、太政大臣、三条実美《さねとみ》。         *  横浜で、国産マッチ製造(読売)。         *   風刺狂歌  (朝野新聞)  馬車はとび 郵便かける世の中に   なにとて電機 高値《たかね》なるらん  神はやり 仏はくちる世の中に   なにとて地獄は つきなかるらん  ガスは照り ランプは光る世の中に   なにとてドロボウ つきなかるらん         *  昨年末、清国皇帝が死去と発表。死因に不審があると。新帝は四歳。実権は依然として西太后にあり(東日)。         *  木戸、大久保などの高官が、大阪に集って会議。立法のための元老院、司法の独立、権力の分散など。自分たちの立場を悪くする問題が、まとまるわけがない。         *  治安がよくなったので、英仏両国、自国民保護の駐留兵を引きあげる(東日)。そんなのが、まだいたとは。         *  本所の回向《えこう》院《いん》で、鼠《ねずみ》小僧の墓碑を作る。参拝者おおく、官員、芸者、相場師も。寄進の金も集る。いずれ、京の七条河原に、石川五右衛門の神社が出来るか(東日)。         *  英国領事の説。日本の洋風化は、驚くほど早い。しかし、精神面は、まだまだ。鉱山開発や、タバコの製造輸出など、産業もさかんにしなければ。         *  大阪。火葬禁止で、火葬場のあった梅田、千日前は、すっかりさびれた。土地の買い手もなく、手品、見世物の人が集り、見物する者でにぎわいはじめた。  この年、火葬は各人の自由となる。         *  山梨の村で、修験者の娘が結婚し、妊娠。二十三ヵ月目に、大きな男児を出産。なぜか白髪。七日目に、いなくなる。父母は各地の神仏に参拝。三年目に、その子が戻る。  そんな話がひろがっている(あけぼの)。         *  廃藩置県の時、担当した井上馨《かおる》は、地位を利用し、秋田の銅山の権利を取り上げ、知人に渡した。被害者が訴えた。その取調べをした江藤新平は、すでに処刑されてしまった。  この年、判決が下りたが、井上は罰金三千円で、終り。江藤を惜しむ者、ふえる。         *  千島列島の日本領確認を条件に、ロシアに樺太《からふと》を渡すと。弱腰の政府め(東京曙《あけぼの》新聞)。         *  地方官会議、開院。民意を知るためだが、その議員はすべて、政府の任命した各県の、県令。しかし、村長民選も議題となる。その動きは、無視できない傾向にある。         *  台湾の島民、清国の支配に反抗、戦いをくりかえす。奪取した武器を使い、電信線を切断し、優勢(曙・ほか)。         *  新聞紙条令が公布され、政府批判がやりにくくなる。         *  光を利用し、壁に写真を映す幻灯を、外国人がやってみせる。ロンドンの風景などで、人が集る(朝野)。         *  福沢諭吉の話。在日外国人の、民権や自由はまだ早いとの話を引用する人がいるが、学者と呼べるのは、医学者など数人だ。また、外国を見てきて、外国通ぶる高官も、民権の話となると黙る(郵便報知)。         *  本紙の編集長、末広重恭《しげやす》、新聞紙条令の批判の投書を掲載した責任を問われ、二ヵ月の刑を受ける(曙)。         *  愛媛県の人、八十円の紙幣をマスに入れて神棚へ供え、一粒万倍を祈る。留守に、母が米をそのマスで鍋へ移し、ミソを加えてゾウスイにした。  食べ終って、紙幣もと知ったが、豊かな農家なので、笑ってあきらめた。         *  社説。征韓論も静かになった。われわれは何回も、その非を主張してきた。軽率な行為は、国をほろぼす(郵便報知)。  栗本編集長が、病気退職のため、これが最後と思って書いたのだろう。この問題は、政府内で、微妙だったらしい。  後任の責任者が裁判所へ呼び出され、朝野新聞の成島柳北も。この私、岸田吟香も編集人をやめたくなった(東日)。         *  夏、浅草に飛泉の店が開業。つまりシャワーで、糸を引くと樽《たる》の水が落ちてくる。         *  京都の蓮月《れんげつ》という尼の家へ、強盗。金をよこせで、百円を渡す。食事をと言われ、めしも。もっとなにかで、もらい物のお菓子を出すと、食った強盗は死ぬ。尼さんから三百円を借りた人からの品で、毒殺ねらいだった。  蓮月尼は和歌、陶器づくりにすぐれ、この年の十二月、八十五歳で死去。         *  北海道。高官が視察すると、五十頭の羊の世話に、係が何人も。西洋では、少年ひとりですむ仕事なのに(曙)。         *  醤油《しようゆ》が西洋で好評。まがいものも作られ、出回っている。文明国にも、たちのよくないのがいる(曙)。         *  銀座通りに夜店が出て、人がぞろぞろ歩き、にぎわうようになった(郵便報知)。         *  かな書き、分ち書き表記の提唱者が出て、文例を示す(曙)。いつの世にもいるが、旧かな使いは、そのまま。         *  ある銭湯。閉店で掃除をすると、着物が残っていた。近所の人のかと預っていたが、何日もそのまま。着物のなくなることはあっても、こんなのははじめて(曙)。         *  著作権についての法令、発布。ただし、所管は文部省より内務省に移る。         *  活字製造の先駆者、本木昌造、死去。十四年前に長崎で着手。大借金をしながらも努力し、東京にも製造所を作った。新聞をはじめ、文明開化のかくれた功労者(東日)。         *  京都。千家の分流の茶道の宗哲という人、椅子《いす》での点前《てまえ》の看板を出した(郵便報知)。         *  新聞紙条例に悩む各社、共同して内務省へ質問書。記事にできる限界は、どこまでかと。日がたち、法律論をする立場にないと、つまりは返答なし。         *  まだ征韓論を言う人がいるが、戦いは人命と物品を失うので、よくない(曙)。         *  日本の軍艦、雲揚が朝鮮の江華湾に入港。測量をはじめると、砲撃され、交戦。無断での行為で、非はこちらにある(郵便報知)。         *  ここ一年半ほどで、英国へ渡した日本の金貨、千四百万ドル。外国の物品を買い込みつづけると、どうなるか(郵便報知)。         *  玉撞《たまつ》き(ビリヤード)の店が、各所に開かれ、金を賭《か》ける客も出る(大阪新聞)。         *  講談の神田伯山、帰宅の途中、若い男が追ってくる。あなたの財布をすったやつを見て、つかまえて、とり戻したと。ご親切にと、酒と食事をおごる。あとで財布のなかを調べると、十銭札が一枚(曙)。         *  旧薩摩藩、左大臣・島津久光。参議・板垣退助。その職を辞す。政策に不満で。         *  残った参議、木戸と伊藤は三条派。大久保と大隈《おおくま》は岩倉派。こういう対立は、困ったものだ(曙)。         *  ある家の床下に、狸《たぬき》が入る。夜、その家の男の子が、火鉢をたたくと、下の狸が腹つづみを打つ。ポコポン、ポコポン。家族は面白がり、近所の人を呼ぶ。しかし、いつまでもつづき、眠れないとどなると、さらに調子づく。文明の世なのに(東日)。         *  町のうわさ。政府は征韓を口実に兵を召集し、各地の反乱の制圧に備えようとしている。適当な司令官がなく、駐ロシアの公使・榎本武揚を帰国させるとか(評論新聞)。         *  投稿。神道《しんとう》の振興もいいが、そのためのわかりやすい本を出して下さい(曙)。いわれてみれば、もっともだ。         *  わが社の末松謙澄、二十歳になったが兵になりたくないので、規定の代人料の二百七十円を出すと申し出ているのに、とにかく本籍地で検査を受けよと(東日)。  こういう記事は、問題にならなかったらしい。不合格なら、金は不用なのか。なお、末松はまもなく官職につき、兵役免除。         *  宮崎の学校の少年、なめて封のできる封筒で、近郊の父に手紙を書き「飯粒《めしつぶ》なしでも、手紙が出せる」と付記。父は読んで、さぞ空腹だろうと、食事をとどけた。         *  高杉晋作《しんさく》は長州藩士。経済感覚はないが、熱狂的な性格で奇兵隊を作り、藩論を討幕に統一させ、結核により二十九歳で死去。  それから八年。自分は晋作。死んだことにして諸外国を旅して、いま帰国。英国でとった写真を見せ、これから東京へと語る人がいた(神戸新聞)。いつの世にも、いるものだ。         *  この年のアメリカ。グラント大統領、バッファロー絶滅防止法案を拒否。         *  ビゼー作曲の歌劇『カルメン』が、パリで上演される。    ●明治九年(一八七六)  関西で人力車がふえ、乗り賃の値下げ競争。東京に、コタツつきの人力車出現(東日)。         *  相撲《すもう》の親方の多くが、マゲを断髪にする。いずれは力士たちもか(曙)。         *  政府の新聞の扱いは、不当ばかりではない。郵送料は半額。条例での処罰の時、士族平民を区別しない(読売)。皮肉なのか。         *  一切の官職を辞し、鹿児島で暮している西郷隆盛。朝廷よりの何回のお呼びにも応ぜず、世の人、いろいろとうわさ(評論新聞)。         *  朝鮮との戦いとなると、川や井戸へ毒の投入があるかもしれず、兵士も大変だろう(曙)。戦地での仮定だが、のちの大震災の時の流言のもとは、このへんか。         *  例の自称・高杉晋作、吉田松陰の次男と称する男と温泉地で保養。会ってきた人あり(曙)。沖田総司も出てくるかな。         * 「結婚、養子の仲介」の看板(浪花新聞)。         *  条例のため、新聞記事も○○論など、伏字がふえた。それに便乗し「○○亭」という寄席《よ せ》が出来た(郵便報知)。         *  江華湾の件で、特使の黒田清隆《きよたか》、井上馨らが朝鮮に行き交渉。修好条約が成立。これで平和に暮せる。日の丸を立てて迎えよう(東日)。         *  日韓の間は一段落したが、不平士族たちはおさまらず、乱を起すだろう(横浜ヘラルド)。平穏なのを、英国は不満らしい。         *  日曜を休日とする。土曜は午後から休み。  この四月一日は土曜。二日は日曜。三日は神武天皇祭。桜も咲く。初の連休。         *  廃刀令、公布。  士族のなかには、腰がさびしいので、長いキセルを代りに差すのが流行。         *  上野の山は整理されて公園となり、桜も植えられ、博物館も建築中。料理店は精養軒と八百善《やおぜん》の二つに限る。物売、音曲も禁止(読売)。         *  広島にて、斬罪された男。もと力士とかで、手製の派手な化粧まわしを身につけ、ジュズを首に、仕置場へ。あの知恵と勇気でまともに生きればと、惜しまれる(曙)。         *  ローラースケートの店ができる。オルゴールの音楽つきで滑る(浪花新聞)。         *  京橋で安物のマッチを買った男。タモトに入れると発火。着物が燃え、ヤケドも。商人は気の毒と、一箱を無料で進呈(曙)。         *  人糞を大鍋で煮て、粉末肥料を製造しようとした男。あまりの臭気に近所から文句が出て、中止させられる(郵便報知)。         *  皇太后が亀戸《かめいど》の天神に参拝。五円を奉納。  天皇、有栖川《ありすがわ》宮の勉強好きをほめ、ウェブスター辞書とコンパスを与える(東日・ほか)。         *  舶来品の店へ来て、客が「コンニャクを」と言う。迷う主人に、この洋酒だと買って帰る。調べると「コグナック」と書いてある。いいかげんな客だ(読売)。         *  包丁を持った男、妻の不義を知って、殺してやると銭湯へあばれこむ。男も女も、命ばかりはと裸のまま道へ飛び出す(浪花新聞)。         *  浅草雷門の車引き。男に声をかけると「タダなら乗ってやる」と。面白半分、深川まで乗せる。男は、気に入ったと、酒食おごり、泊ってゆけと。翌朝になり、車代として二円を渡した(郵便報知)。         *  朝鮮の使節団が東京へ。新橋駅からの行列を見ようと、大変な人出。使節の地位の高い人たち、だれもおそろいの眼鏡。ふしぎな風習だ(東日)。         *  東海道の三島にある寺の坊さん。ハエが好きで、夏から秋にかけて、一日に五十から百匹も食べる。ふしぎな人だ(読売)。         *  越後の村で、狐つきになった者が出た。祈祷《きとう》でなおらず、京都の伏見稲荷大社へ電報でお願い。やがて当人、お使いの狐の声で「去れ」と言う。それにて全快(郵便報知)。         *  江戸の町火消の頭《かしら》、侠客《きようかく》の新門辰五郎《しんもんたつごろう》親分は、昨年九月に七十八歳で死去。その息子の仁《に》右衛《え》門《もん》は親の名を利用し、借金し遊びまわり、周囲は弱りきってる(郵便報知)。         *  六月。天皇、東北への御巡幸に出発。皇后は千住まで、お見送り(曙)。仙台への途中、会津の民にお言葉があれば。  天皇、函館より軍艦で横浜へお戻り。約五十日の旅。         *  大阪の米相場を、山頂の人の合図で徳島へ伝える。電信が引ければ終りだが(東日)。         *  料理屋の代金。不足の場合でも、客の着物をはぐのはやめるようにとの通達(曙)。         *  人力車の客、車引きを見て、以前に奉公した旗本の若様と知る。おいたわしいと、所持金のすべてをさしあげた(曙)。         *  福岡のある池から、龍《りゆう》が黒雲中へ昇天したと、県令へ報告があった(東日)。タツマキの一種だろうと、解説する者あり。         *  生糸の値が高くなり、外国人中に支払えぬ者が出た。横浜の銀行、保証をとって融資。開国後、はじめての例(曙)。ドルも下落。大蔵省が買い支え、少し持ち直す。         *  当人が希望すれば、清国人の養子になれる(浪花新聞)。         *  駒込の旧柳沢邸(現・六義園《りくぎえん》)にて、何万ものトンボが、東西に分れて大決戦。かみつき合いは、夜までつづいた(江湖新報)。         *  上京して学ぶ者、金がなくなり、学資をお貸し下さいと、天皇の馬車に直訴状。有罪とされ、罰金二円二十五銭。         *  浅草の宿に男女が泊り、翌日、女は近所へと出たまま帰らず、男は首の傷で死んでいた。被害者から、高橋お伝の犯行と判明。  生れは悪くなかったが、男運がよくなく、人生の浮き沈み。娼婦もやる。自立しようと、まとまった金を求めての凶行。よほど美人だったらしく、物語としてひろまった。泣き叫びながら、斬首された。         *  お菊の幽霊で有名な、麹町・番町皿屋敷のあと五百坪ほどを、安く買った者あり。問題の井戸も埋めた。どう、たたるか(曙)。         *  清国より借金を申し込まれた政府。米国から金を借り、上乗せの利息をかせごうとしているとのうわさ(中外評論)。         *  女子師範の女学生たち。学科に不満、教師を替えるな、校則がきびしいなどでさわぐ。校長も大変だ(読売)。         *  薩摩の島津公、西郷隆盛、南九州を五百年の年賦《ねんぷ》で払い下げを願い出るらしいとの、うわさ(郵便報知)。         *  熊本の保守的士族の神風連《じんぷうれん》、反乱。鎮台の司令官が殺される。その愛人の元芸者は、東京の母へ電報。「旦那《だんな》はいけない、私は手きず」と。  これを都々逸《どどいつ》にしようと新聞が試み、下の句が集った(郵便報知)。   替りたかった 国のため   そこでおまえは どうおしだ   金のありかは どこである   これが今年のしめくくり         *  徳島のある村、昼なのに暗くなる。雀《すずめ》の大群が二派に分れ、合戦。夜に終ったが、重傷のが地面にたくさん。それを集め、どの家も数百串《くし》の雀焼きを、新年用に作った(東日)。なにかの予兆でしょうな。         *  この年、アメリカのベルが電話を発明、建国百年の博覧会に展示。  アリゾナのアパッチの酋長《しゆうちよう》ジェロニモ、部下を指揮し、十年にわたる抵抗を開始。    ●明治十年(一八七七)  横浜で数名の米人が、氷すべりで遊ぶ。日本でも、すぐはやるだろう(朝野)。         *  やはり徳島のある村。農作物の盗まれること多く、投票で犯人をきめる。六十数票のうち、十五がある男に。その男、平伏して自白。法で裁かれるだろう(東日)。         *  落ちぶれ士族。深川のある家に盗みに入りかけ、さわがれる。床下を逃げまわり、糞壺《くそつぼ》へ落ちる。かけつけた警官も、縄《なわ》をかけるのをためらった(読売)。         *  天皇、京都へ。この地では行幸と言わず、お帰りになったと喜ぶ人ばかり(東日)。         *  京橋から新橋へかけての銭湯の主人たち、回数券式の割引き共通入浴券を発売(曙)。         *  東京郊外の村の、酔いつぶれて凍死した男。本人も残念だろうと、遺族が背の高い棺《かん》を作り、死者を立たせて入れる。妙な葬列で、穴を掘るのも大変。これで終りと申し合わせた(読売)。新しい方法と、だれかが話したのがもと。         *  築地のお邸。古狸が家具を庭に出すなど、いたずらをする。殺そうかとの相談の時、主人は番犬を飼って餌《えさ》をやると思えばと、残りの食物を出す。狸も恩がえしと、毎日、タキギを持ってくるようになった(郵便報知)。         *  維新の大功労者の西郷隆盛。鹿児島に引退していたが、周囲の不平士族たちが挙兵し、本意でないのに朝敵にされてしまった。  古い友人で政府の実力者、大久保利通は、農民の乱には慎重に、不平士族は断固やっつけるとの、信念の持ち主。  挙兵は三万の士族。官軍は徴兵された農民の六万。銃砲の差で、官軍が勝ち、西郷は城山で自決。五十一歳。         *  その少し前、やはり維新の功労者・木戸孝允、病死。うわごとで「西郷、もう大抵にせぬか」と言いつつ。四十五歳。         *  この戦いで、士族に禄《ろく》の代りに払う大金が減り、北海道開発の資金となる。また、兵士の実戦体験にもなった。政府の計算は合っている(ヘラルド)。         *  戦争の記事が面白い。いま金を払うから、今後の一ヵ月分を、まとめて渡してくれと社に来た人がある(朝野)。気分は、わかるな。         *  反乱軍は「勝てば官軍、負ければ賊よ」と歌っていた。江戸開城の時、西郷が勝海舟に言った文句(曙)。         *  戦争がえりがもてるので、負傷兵をよそおい、花街でばれて罰金(東日)。         *  反乱軍の作った紙幣を、記念に一枚を安く売れとたのんだが、持ち主は涙して、西郷さまが勝てば本物なのにと断わる(朝野)。         *  岩崎弥太郎の三菱商会は、千五百万円の利益をあげた。戦費総額の三分の一。         *  浅草の男、泥棒のための宿をはじめた。安くとめ、盗品を引き取る。ひどいやつだが、まもなくつかまる(読売)。         *  養子になった男、養母と関係。養父の死後は、こわいものなし。戸籍上も夫婦にしてくれと届け出た。職業は新聞記者。仲間のつらよごしだ(読売)。         *  山梨で、西洋種のブドウの栽培がはじまった。名産となるか(朝野)。         *  人力車の走行距離を示す装置の、広告が新聞に(東日)。普及しなかったのは、お客がそれを信用しなかったためか。         *  開成学校と医学校が合併し、東京大学。         *  東大理学部の考古学教授、米人モース、大森で貝塚を発見、石器などを採集。         *  札幌の学校で教えたクラーク博士「少年よ大志を抱け」と言い残して、帰米。在任中に「ライスカレー」を生徒たちに食べさせた。日本で、この名称をはじめて使った人。         *  エジソン、手まわし蓄音機を発明。    ●明治十一年(一八七八)  鉛筆、国産化。輸入もへるだろう(朝野)。         *  西郷軍に奪われた、乃木希典《のぎまれすけ》指揮下の連隊旗、新しいのが授与された(朝野)。         *  大阪府下の飴《あめ》売り、鐘をたたいて「おかあさんの銭《ぜに》、持ち出しておいで」と調子に乗って歌い、処罰される。         *  清国の北部の諸省、大凶作。金銭や米を送ろうと、実業家たちが呼びかける(朝野)。皇室、政治家、一般から、かなり集る。われわれも貧しいとの、不満の声も出る。         *  神田で大火、四千戸焼失。つづいて駒込の山林、五千坪が焼失(曙)。         *  宮内省《くないしよう》と工部省に、電話が通じる(朝野)。  電話機の国産に成功した人あり。舶来品に劣らずと(曙)。日本人の才能。         *  東京電信中央局の開業式、日本ではじめてアーク灯が輝く。         *  天皇、上野山でお花見をなさる(東日)。         *  髪形、ハカマ、、カバン。女教師風の美人娼婦が大阪に出現。評判となる(朝野)。         *  結婚しても、宗旨は変えなくてもいいのかの件。政府は、各人の自由と(曙)。         *  神戸より西の人力車。すれちがう時に、指で金額を交渉し、客を交換する。少し時間がかかるが、たちの悪いのはいない(朝野)。         *  五月十四日、参議・内務卿の大久保利通、出勤の途中、斬殺さる。犯人は西郷隆盛の崇拝者で、不平士族。大久保の遺産は友人よりの借金ばかり。その点は清潔。四十九歳。         *  だまっていればすむのに、自分も大久保利通を殺した一員と、自首した者あり(東日)。         *  大阪の美人芸者、卵巣の病気で死が近いと知らされる。医学のため死体の解剖をと言い残す。百人以上の学生が見学に集る(朝野)。         *  ある旧大名、本所より高輪への引っ越し。旗を先に、長持《ながもち》をかつぎ、大名行列を再現した(朝野)。         *  新宿あたりの田畑で、害虫が大発生。虫を一升、三十銭で買い上げる(東日)。         *  進化論が大流行。絵入りの本が出たが、春画まがいのもある(かなよみ)。         *  皇族は、買った切符を、改札口で見せずに汽車に乗ってよろしい。         *  宇和島のある医師。早目に帰宅すると、妻が浮気中。二人を裸のまま柱にしばりつけ、別室へ人を集めて大宴会。やがてフスマを開き、事情を説明し、棒でひっぱたく。客が仲裁し、離婚にて片がつく。男は裸で追い出された(朝野)。         *  大阪では盆栽《ぼんさい》の流行が終り、カジカになり、蘭の取引きがさかん(読売)。ねずみ講のようなのは、この時代からあったのだ。         *  大阪の写真屋。見合い用にと繁盛。男女とも、巧妙に化粧し、美しく修正した上で撮影するから(読売)。         *  何種もの新聞をそろえた人力車が出現(読売)。だれかが考えつくものだ。         *  大久保殺しの島田一郎たちの墓。西郷隆盛の一派の墓。大阪の大塩平八郎、静岡の由井正雪の墓など、反逆者への参詣者がふえる(読売)。そんな時代か。         *  高知の旧士族。自分も暗殺で注目を浴びようと、伊藤博文を目標とする。斬奸状《ざんかんじよう》の書き方を聞いてまわる。拳銃《けんじゆう》を買う金を貸りられず、友人宅から金時計を盗むが、銃の入手法がわからない。  伊藤邸へ忍び込むが、顔を知らず、引き返す。ばかげていると、知人が警察へ告げる。逮捕にむかうと、当人は短刀を手に、二階から脱出、地面で手をくじく。七年の刑となる(東日)。流行なんでしょうな。         *  竹橋の砲兵を主とする約三百名。西郷軍に勝ったのに、予算不足で減給とはと反乱。たちまち鎮圧され、ほとんどが処刑。  各種の乱があるが、徴兵で集めた連中は、士族ほどの頭がなかったのだ。また、戦いに貴重だったのは、兵士より大砲の時代。         *  天皇、赤坂の仮御所より、北陸東海のご巡幸に出発。         *  官軍が江戸へ入った時、本所の金座《きんざ》の一同に、軍資金を献金すれば、造幣の仕事をつづけさせてやると約束。それに従ったが、みな失業のまま。願いの文書を出したが、献金を返せとはなんだと怒られる。あきらめきれない(郵便報知)。よくあることだ。         *  宮城県の原町《はらのまち》の住民。息子の葬式をヤソ教でやって、罰金二円五十銭。父親、これぐらいの金で、死者を天国へ送れる。みなさんもどうぞと話してまわる(朝野)。         *  浅草の男。酔って帰り、足を洗わずに寝ようとした。注意した養父母をひっぱたき、手足にかみつき、終身懲役の刑(曙)。家庭内暴力の発生と、再発への対策。         *  暗殺された大久保利通の愛妾《あいしよう》。男子を出産。利賢《としかた》と名づけられた(朝野)。         *  神田のある女学私塾で、優秀な生徒に、校名を記した銀色のメダルを与えたいと、許可を願い出た(朝野)。         *  天皇、ご帰還。計四百二十七里二丁五十五間と数尺の旅。ありがたきこと(東日)。         *  〓月堂、チョコレートを発売。好評。         *  この年、米国ダコタ地方で、天然痘《てんねんとう》が流行。勇敢で若い女性開拓者、マーサ・ジェーンは、男装して奉仕活動。カラミティ(疫病神《やくびようがみ》)・ジェーンの名がひろまる。  疫病と戦ったのだから、いまなら聖母《マリア》ジェーンと呼ぶのが適切。    ●明治十二年(一八七九)  西郷隆盛の側近で、ともに戦死した桐野利秋《きりのとしあき》。その残された二人の愛人、宮崎で芸者となり、大変な人気(郵便報知)。         *  横浜のうなぎ屋。妻が若い男といい仲になり、家財を持ち出してかけおち。主人は生活に困り、東京の弟の家に居候《いそうろう》。ある日、男をみつけ、とっつかまえた。それが言うのには「わたしも飽きられ、あの女は別な男と家財とともに消えました」と(横浜毎日)。         *  名古屋地方で、土地国有のうわさ。公債を地主に渡し、私有できなくなると。地価が暴落。東京では耳にしないが(読売)。         *  生活のため、売春する女が多く、見ぐるしい。まとめて上海へ連れてゆき、かせがせる案を内務省に出した人あり(朝野)。これが、唐《から》ゆきさんの発想のはじまりか。         *  懲役十年の囚人。仲間のコレラ患者の看護をし、自分も死亡。父親は表彰され、多額の埋葬料をもらい、感激(曙)。         *  大蔵省印刷局製肉部。骨からニカワを取る時に出る脂肪で、石鹸の製造を開始(曙)。         *  英仏の女性に日本のカンザシがはやり、横浜からの輸出がふえた(東日)。         *  石油の値上りで、石炭からとった油が出まわる。石炭酸がコレラ防止になると聞き、石炭油をまいて火事になる人、飲んで死にかけた人が出た(曙・ほか)。         *  大阪の民権主張の愛国社の演説会が評判。車引きも芸者も、なにかというと束縛だ、圧制だと叫ぶ(曙)。         *  新潟のある村で、神前結婚がなされ、奇妙なことと話題になる(郵便報知)。おはらい、のりと、神酒《み き》と、現代と同じだが。         *  上野の不忍《しのばず》の池《いけ》に、蓮《はす》がたくさん植えられた。花が咲けば、美しいだろう(朝野)。         *  野津中将、西郷軍との戦いで、松の大木にかくれ、弾丸をよけた。今回、その地に旅して、弾痕《だんこん》の残る木と再会。金をかけて東京へ運び、新築の家の床柱とした(曙)。         *  マッチ製造機が輸入され、女子作業員三百二十人の仕事が、十人ですむようになる。失業を心配したが、その社は新事業にも乗り出し、問題は解消(郵便報知)。         *  米国の前大統領グラント、来日。  歓迎の両国の花火に、見物人が大ぜい。夜になって大夕立。大混乱になる(曙)。         *  金沢の近郊、コレラを追い払おうと、旗、ワラ人形、笛、太鼓で「あっちへ行け」と行列を作って進む。その方向の住民たち、来るなと乱闘となる(曙)。各地で発生。         *  八月三十一日、権典侍柳原愛子、皇子をご出産(東日)。明宮嘉仁《はるのみやよしひと》。のちの大正天皇。         *  高崎の銭湯で、芸者は普通の二倍の料金ときめる。文句が出たが、湯を三倍も使うからと。仲介者は考えた上、主人に「湯上りの美人を見ようと、男湯へ来る客もいる」と。もっともだと、以前に戻す。         *  大阪の没落士族。集団で稽古《けいこ》着姿、商店の前に並び、撃剣会を開くので、番付けを進呈する。ついては、ご協力をと、あたりをにらむ。やむをえず、金を渡す。いずれは、取締られるだろう。         *  山梨県の村で、落語家が「開化なのに、取締りばかり。いまに屁《へ》でも罰金だ」と言い、警官に制止される。そこで、反論。こちとら、しゃべるのが商売。東京や甲府の演説会では、これ以上の話をしているぞ。署長、ものわかりがよく、警官に謝罪させた(東日)。         *  関西地方にニセ札が出回っているとのうわさ。長州藩で井上馨と親しかった商人、藤田伝三郎が怪しいと、警察の手入れがあった。  西郷、大久保と薩摩の実力者の消えたあと、長州系がうまい汁を吸うのだろうとの想像が、事実らしさを加えた。  自白めいたものは集るが、証拠品や書類はなにひとつない。うやむやに終る。薩摩系の大警視・川路利良は欧米旅行の帰途、結核で死去。毒殺説も出る。  三年後に、熊坂長庵《くまさかちようあん》という男が真犯人とされ、無期刑の判決が下るが、世間は信用しなかった。各種の仮説が作れる。         *  姫路の私塾でルソーの「民約論」の講義をした男。警察官に中止させられる。この本は一昨年に、政府の許可で翻訳が出版されたものだと抗弁。読むのはいいが、教えるのはいかんと、妙な命令(朝野)。         *  棋士に入門し、囲碁を習いはじめたドイツ人あり。いずれ翻訳書を出し、ヨーロッパにひろめるつもりと(郵便報知)。                 *  横須賀の仏人の医師。コンニャクは栄養にならなくても、からだにいいと主張(読売)。                 *  この年、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学で、サッカリンが発明された。  ロシアの医学者・パブロフが犬を使い、条件反射の実験をした。    ●明治十三年(一八八〇)  民権を主張する演説会、各地でさかん。それを取締るための、巡査教習所が開設。         *  鹿児島で、西郷隆盛の挙兵の三年目と、二月に盛大な祭りが催された(郵便報知)。         *  大阪では、夜に巡回する警官は、ワラジばきとなる。音を立てないため(朝野)。         *  地方官会議で「寒いから火鉢をふやせ」の提案があり、すぐに実現。炭酸ガスがこもって、気分の悪くなる者が続出(東日)。         *  コメを米国へ輸出。もめん布のノリ付には、中国米より仕上りがいいため(いろは新聞)。         *  名古屋では市内から近郊の農家まで、西洋酒(ワイン)が流行。酒造家は減産。一方、伊丹《いたみ》の酒造家は釜山《ふさん》に支店を出し、好評。上海からも大量の清酒の注文(朝野)。         *  新潟県の村。村会を開いたが、議案の字をだれも読めず、勉強会となる(新潟日報)。         *  滋賀の大津の刑務所で、多数が脱走。まじめな囚人は連れ戻そうと追いかけるが、脱走者との区別がつけにくい(朝野)。         *  三月十八日の夕方、近畿地方の各地で、大きな火の玉の飛ぶのが目撃された。家は地震のように揺れた(朝野)。ヒノキの林では、こすれあって火の玉が出やすいとの説あり。         *  築地に住む英人ウイルス、在日が長く、端唄《はうた》、どどいつ、かっぽれ踊りが得意。和服を着用し、新内《しんない》をはじめたと(朝野)。         *  芝の芸者たち、線香《せんこう》ではかる報酬を、一時間いくらにと要求し、そうきまる(東日)。         *  米、株、金の相場はバクチだとの説。大蔵省と財界人や学者の会議で、合法ときまる。         *  下谷の八百屋の、ヘソの深さが二寸(約六センチ)が自慢の男。腹が痛んで大さわぎ。医者がさわると、虫が出てきた(朝野)。         *  甲府地方の絹織物の値が高くなり、作る妻に、亭主は頭が上がらなくなる(朝野)。         *  清国はロシアとの対立の悪化のため、日本の軍隊に応援をたのみたいと(曙)。         *  皇后、ドイツ王妃へ、小型犬チンを二番《つがい》、贈呈する(曙)。新任大使が持参。         *  神田に住む未亡人、夢に亭主が現れ、銀貨のかくし場所を告げられる。さがすと、戸棚の奥にあった。喜び、涙にくれ、なつかしがり、やがて頭がおかしくなった。         *  熱海で大火。二百軒が焼失。残った旅館は二軒のみ(東日)。         *  米国で日本製の扇子、生糸、茶が好まれ、輸入額をへらそうと、国産化の計画(曙)。         *  翻訳物あきられ、漢学の本が売れるようになった。出版する者がふえる(有喜世《うきよ》新聞)。         *  奇人、芦原《あしわら》将軍、清国の実力者に電報を打とうとして、制止される。三十一歳(東京自由)。このころから有名だったようだ。         *  小塚原で刑死した人のために、吉原など遊郭の関係者が大供養。酒色におぼれての犯罪が多かっただろうと(朝野)。         *  文武にすぐれた徳永という巡査。酒ぐせに注意し、禁酒をつづけ、昇進もした。しかし、ある日ふと飲んだ酒でとめどなくなり、吉原で男女七人を殺傷(東京絵入)。  翌年の判決は、十年の刑。条約改正をめざし、死刑をへらす方針のためか。         *  旧大名の華族たちも、国会開設やむなしの意見。薩摩の島津氏のみ不明(東日)。         *  天皇。皇居の新築は、民衆の生活が苦しいのだから、急がなくてもよいと(朝日)。         *  千金丹売りがむやみとうろつき、相手を見て高く売る。にせ物がほとんどで、本家の支店は困っている(朝野)。         *  六月に開通した、京都・大津間の逢坂山《おうさかやま》のトンネル。女の幽霊が出るとのうわさで、汽車の利用者がへる。客をのせたい、人力車の車ひきの流したデマ(朝野)。         *  第一連隊の小原伍長、赤坂仮御所の前にて切腹。国会開設を願って(朝野)。         *  内務省から出る時、一本の傘《かさ》を盗んだ男、四十日の刑。本社の記者なり(東日)。         *  長崎県のある村。戸長(村長)に当選した男、大喜びで二人の芸者を役所に呼び、飲めや歌えのさわぎ。ために免職。         *  広告。私、三浦和夫は米国より帰り、改姓した。鳩山《はとやま》和夫(東日)。のちの衆議院議長。その子が鳩山一郎である。         *  土佐の政治団体、立志社が主張。政府が国会を開かなければ、私立で国会を(東日)。         *  富山県の魚津で、米の値上りに大ぜいがさわぐ(東日)。のちの米騒動も、ここから。         *  米価の高値で、都市の民衆は息もたえだえ。一方、農民たちは景気がよく、遊郭、芝居、呉服などに大金を使う(曙)。農村地方へ身売りする東京の女も、ふえる。  京都では生活難で、自殺増加。投身、首つりなど、多い日は市内で十三人も(東日)。         *  浅草の観音さま、お札《ふだ》を安売り。神仏まで不況なり(東日)。         *  玉ネギ、札幌地方で栽培に成功。         *  京都の守護職より朝敵となった、旧会津藩主の松平容保《かたもり》、日光東照宮の宮司に。         *  この年、ロンドンで最初の電話帳が発行された。のってる人名、二五五人。  ロサンゼルスの人口、一万人を越える。  南ア共和国、英国の支配下で成立。    ●明治十四年(一八八一)  東京の神田方面で大火。一万戸が焼失。前年末、大阪では三千五百戸が焼失。  郵便ポスト。不燃の鉄製にする計画。         *  山口県のある村の男。鶏卵《けいらん》の商売をしようと、許可を求める。役場の人、そんな項目はないと。男は文書をのぞき「この鶏印《とりじるし》がそれに当るのでは」と(朝野)。         *  例年より寒さがはげしく、隅田川《すみだがわ》に厚い氷がはり、子供が滑って遊ぶ(曙)。         *  甲府市、火の番を各戸の交替制とする。目の不自由な人、免除を申し出たが、例外はみとめぬと(東日)。         *  旧大名の華族の夫人。浅草へ外出中、腹痛となる。共同便所に入り、あまりのよごれと臭気で、頭が変になり、療養中(東日)。         *  滋賀の大津の人力車。下駄ばきの車引きが多く、乗っても早く行けない(朝野)。         *  勝海舟、友人にたのまれ二枚の揮毫《きごう》をしてから「各所で、この本人よりうまい書を、かけ軸にして売っている。その人にたのんだほうが、簡単だぜ」と(横浜毎日)。         *  ハワイの皇帝、来日。全人口、五万七千九百八十五人(東日)。国会のある立憲政治。         *  新橋・横浜間の列車。三等一台の三十人乗りを、四十四人乗りにする(東日)。また、天皇や国賓用の車両の製造も進行中。         *  大阪で、実母と離別の願いを役所に出した男。父が死に貧しくなり、母は金持ちの実家に戻りたがるため(朝日)。         *  浅草の平野亭では、家庭むきの牛肉スープを作り、配達もすると(朝野)。  長野の佐久の塩川という人、いちごジャムの缶詰の国産に成功。         *  新潟県のある村。財産のある四十男の医者が、隣村の貧しい男に「美人の女房をお持ちだが、わが全財産、五歳下の妻、三人の子のすべてと交換しないか」と話し、成立。忠告に耳を貸さない(東日)。いずれが得か。         *  宮内卿より、華族の子息は軍人になるようにと、お達し(朝野)。         *  大阪の西成の村。イタチがふえ、ネズミと対陣。双方とも何十万匹が大合戦(朝野)。         *  官吏が株を持つのはいいが、職務上の関係のある会社のはいけない(朝野)。  榎本武揚、北海道の土地の払下げを買い、十万坪を所有。小樽《おたる》の中心部を含む(東日)。         *  東京で「ぱあになった」が流行語。ある落語家がはじまりとか(朝野)。         *  有名な漢方医、浅田宗伯に学び、鳥取で開業した者が「洋服の患者おことわり」の掲示を出した(朝野)。その浅田宗伯は、息子を外国留学へ出発させた(東日)。         *  北方、エトロフ島に開拓使支庁を置く。         *  明治生命保険会社、許可が下り正式に営業開始(東日)。この分野の、日本で最初。         *  ロシアにて、人力による飛行機が発明された(東日)。変な外電も多かったようだ。         *  森林太郎、東大卒業。医学士となる(曙)。         *  福島県いわき地方で、良質の炭鉱開発に着手。社長は医師、支配人は剣術師。陣頭指揮の態勢(東日)。         *  奈良県の老婆《ろうば》。転輪王と称し、深夜に白衣を着て、教えを説く。信者は三百名ほど。妄信《もうしん》か(大阪新報)。のちの天理教の開祖、中山みきについての、最初の記事。         *  種子《たねが》島《しま》の銃を作る職人たち。仕事がなく困っていたが、村田銃の量産のため、東京に招く。みな優秀で好評(朝野)。         *  横浜十全病院の、英国製の高性能の顕微鏡が紛失。質屋で発見、犯人逮捕(東京絵入)。         *  天皇に、英国から手紙。訳すと「同封の紙にサインして下さい」だった(東日)。         *  印刷局で製造の壁紙は好評で、外国からの注文が多い。洋食の皿の下に敷く紙も、花の模様で作る計画(東日)。         *  京都の寺の関係者たち、協議。ヤソ教の防止のための、募金と対策をきめる(東日)。         *  西郷軍と戦い、勲七等を受けたが、病気で金に困る者。それを買いたい者がいる。郡役所に連名で申し出た(東日)。         *  戸籍局の調査。全人口、三千五百万人。         *  鹿児島で「西郷隆盛こそ、国会開設の最初の主張者」の説がさかん。遺志を実現との、団体ができた(東日)。         *  札幌農学校は外国で有名だが、日本で小学校と扱った新聞あり(東日)。         *  北海道開拓使の長官、黒田清隆。国費で作った事業を、友人の実業家に払下げようとした。きわめて安価で、三十年の無利息年賦。しかも、この地をご巡幸の天皇のお供もしない。批難の声が高まる。         *  農地局の外人技師。赤坂、麻布、麹町の土は、セメントにまぜるのに適当と(東日)。         *  新潟県の柏崎《かしわざき》で、演説会。途中、十六歳の美少女が、みごとな口調で男女同権論を展開した。みな驚く(朝野)。流行の傾向。         *  生糸の高価に、横浜の外国の多くの商社が不満。国内各地での、自由な買付けをみとめよと要求(朝野)。         *  北海道スキャンダル。政府内の対立。各地の民権論の高まり。十年後の国会開設が決定する。その勅語の一部。  明治二十三年ヲ期シ、議員ヲ召シ国会ヲ開キ、以《もつ》テ朕《ちん》ガ初志ヲ成《な》サントス。  十月十二日付だが、天皇はその前日、北への長い旅から戻られたばかり。         *  政府の要職の、著名な自由民権論者たち、辞職(朝野)。辞表を求められる者は、福沢の弟子に多いようだ(いろは)。         *  最初の政党、自由党が結成される。代表に板垣退助が就任。         *  西郷隆盛、じつはインドで健在、近く帰国との本を売る者が、大阪に出現(郵便報知)。  天候不順で、またも地球滅亡説はやる。         *  茨城県の人、日本政府の支配はいやと、国籍返上の届を役所に出し、懲役百日の刑を受ける(朝野)。かなり話題になる。         *  やとわれていた車引きが、主人の一家の四人を殺す。住職一家を殺した事件もあった。いずれも共犯者たちと逮捕され、斬首。  これが最後。翌年からは、絞首刑。         *  官吏と新聞記者の交際がふえ、好ましくない風潮だ(朝野)。         *  医学部の教師のベルツ博士、米飯は洋食よりすぐれた食品と、講演(東日)。         *  飯盛山《いいもりやま》に、白虎《びやつこ》隊の碑が建つ(朝野)。         *  ヨロイ姿での、アメ売りがふえる(東日)。         *  アメリカ。総人口が五千三百万人。  ビリー・ザ・キッド、殺人罪で投獄されたが脱獄。しかし、二ヵ月後、保安官パット・ギャレットに射殺される。七月十五日。  OK牧場で、アープ保安官兄弟とドク・ホリデイが、クラントン一家との決闘に勝つ。十月二十六日。いずれも米国の日付。    ●明治十五年(一八八二)  軍人勅諭、公布。国民の統一と、国政と軍事の分離のため。  昭和十六年に、東条陸軍大臣が勝手に作った「戦陣訓」と、同一視すべきでない。         *  東京があり、西京(京都)がある。東北地方の振興のため、北京を作れとの説(東日)。分都論の第一号だが、なんと読むのか。         *  イザナギ、イザナミの陵《りよう》をさがそうと、出雲地方を三年も歩き回った者あり(朝野)。         *  三味線の名手が、伊勢で興行。当地の金持ちが一席もうけ、祝儀をはずみ、金屏風《びようぶ》に字をとたのむ。音曲以外はと断わるが、なんでもいいからと。ぬるぬると五行ほど書き、去る。だれにも読めず、がっかり。  ほかの三味線ひきが来た時、話題にと見せると、義太夫《ぎだゆう》のさわりの譜で珍品とのこと。一転し、大喜び(朝野)。         *  千葉県のある村。盗みが発覚すると、赤い手ぬぐいを頭に巻かせる。ほかの泥棒をつかまえると、はずすのを許される(朝野)。         *  長野県の松代町。ヤソ教の信者、日曜のため、祭礼に参加しない。けしからんと、交際禁止の申し合せがなされた(朝野)。         *  東京の近くの村。ワラを自然発火させ、信者を集める者あり。念力か手品か不明だが、防火上危険と、警察へ(東日)。         *  北海道を函館、札幌、根室の三県に分け、開拓使は廃止となる。         *  伊豆。太陽暦になじめぬが、旧暦になおすのもめんどう。二月一日を元旦として祝う家が多い(朝野)。月おくれの行事の初め。         *  伊藤博文、側近と渡欧。憲法研究のため。         *  大隈重信、改進党を組織する。少しのち、早稲田大学を創立。自由と独立の心を高める教育をめざして。         *  関西や九州で鉱山がふえ、蒸気機関の技師が不足。機関士を引き抜くので、汽船の欠航がふえる(東日)。         *  四月六日。板垣退助、岐阜での演説のあと外で、青年に「国賊」とどなられ、短刀で刺された。軽傷。  同行の自由党員は「板垣死すとも自由は死せず」との言葉を聞いたと、政党新聞に電報し、号外を発行。全国の話題となる。         *  北海道沿岸のラッコ、外人の船での乱獲で絶滅が近い(日本立憲政党新聞)。         *  長崎で、東洋社会党が結成された。旧藩主をまつる寺院に、額を奉納した。貧民の援助をした徳をしのんで(東日)。         *  大阪の警察。便利なので親分たちや子分衆を利用していたが、廃止の方針(東日)。         *  村田銃の発明者、村田中佐、妙技を示す。銅貨、碁石、梅のタネなどを空中に投げ、百発百中。みな驚嘆(兵事新聞)。         *  某高官、民権派の動きをさぐるのに、芸者を利用したらと提案(郵便報知)。         *  新潟の農民の甚太郎。財産を米相場ですって、上京。詐欺《さぎ》で服役後、没落旗本の老車夫の養子となり、松平慶承《よしつぐ》と名乗る。  仲間を集めて名古屋に行き、一流旅館に泊り「徳川家の親類だ。銀行をこの地に作りたい」と話す。銀行からのニセ電報を使ったりし、大金を集めて、ドロン。やがて逮捕されたが、面白いやつと、大衆に人気。         *  三重の農民、太モモに腫《は》れ物が出来、人の顔のよう。口に当る部分、声は出さないが、米飯を与えると食べた(岐阜日日新聞)。         *  板垣退助、渡欧。旅費は政府が三井に出させたらしいとのうわさ。評判が少し落ちる。         *  朝鮮。清国の指示に反し、独自に国旗を制定(時事新報)。現在の、韓国の国旗。         *  福島事件。県令(知事)の三島通庸《みちつね》は、道路工事を企画。県会議長で自由党員の河野広中が反対。対立し、暴動も発生。くわしくは歴史の本で。         *  佐田介石、死去。六十五歳。仏教を学び、天動説を主張。外国の学説や製品に反対し、全国を講演して回り、名物男だった。         *  築地の外人居留地の二名の英人、巡査は来ないと、家に人を集めて連日のバクチ。領事に話し逮捕に行くが、すでに逃亡(日の出新聞)。         *  ニューヨーク・タイムズに、めざましい進歩と、日本特集の記事がのった。         *  この年。  イタリアの作家コローディ『ピノキオ』を発表。  アメリカ。銀行強盗のジェシー・ジェームズが、賞金ほしさの仲間に射殺される。四月三日、三十四歳。同情者がふえる。    ●明治十六年(一八八三)  新年の御歌会の御製。   沖つ波 よりくる舟も としどしに    数そふ世こそ たのしかりけれ  そふは、添うで、加わるの意味。         *  結婚条例、公布のうわさ。新潟地方で、これにも税かと、幼児の縁談が流行(東日)。         *  仙台の、伊達《だ て》家につながる名門の美女。町人と結婚。訪れた青年「おいたわしい。せめて出世できる、士族の私のほうが」とくどいて、家財を運び出し、よそで同居(東日)。         *  千島のクナシリ島で、イオウ採掘産業。         *  三重県の酒造会社。経営不振のため、葬式をあげた。社名を書いた紙を棺に入れて川に流し、廃業(郵便報知)。         *  時計の国産化に成功。いずれは輸入しなくてもいい時代が来るだろう(東日)。         *  清国の海軍、大拡張。英国は「西太平洋は清国の支配下か」と心配(東日)。         *  上流婦人が犬を愛するのはいいが、肺結核が犬にうつり、それが野良《のら》犬にも。神戸から紀州へと、ひろまりつつある(南海日報)。         *  名古屋の近郊。女芝居で、弁慶が苦しみはじめる。楽屋へ運び、富樫《とがし》の役の助産婦により、ぶじ出産(東日)。         *  東京の巡査用のサーベル、製造の見とおしがつき、四月一日より帯剣の予定(東日)。         *  大阪の銭湯で、政治演説をはじめた男。ひとりが「中止せよ、わしは巡査」と言うが、ニセだろうと、袋だたき。官服を着た時は、みなが逃げたあと(郵便報知)。         *  銭湯の女湯をのぞこうとする、外人の男。巡査がつかまえた。ドイツ人で、名はオンナスキーだそうだ(朝野)。         *  新潟県の豪農。民権をとなえるからと、貧民たちの借用証書を、すべて返却(朝野)。         *  三菱会社は、民権派、政府系をとわず、新聞記者や演説家へ金銭をくばり、酒食のもてなしもする(自由新聞)。         *  群馬県の村。借金が返済できないので、娘を抵当に差し出す。数日し、娘は逃げ帰り、父親は「期限切れの前に手をつけるとは」と、どなりこみ、ひとさわぎ(朝野)。         *  兵庫県に、生れつき舌が二枚の人あり。不便なので、病院で一枚を切断。ぶじに退院。喜んでいる(朝野)。         *  大阪。造幣局の桜の通り抜けが、はじめて許可される。四月二十日。         *  新潟県のある寺。古い大樹が、夜中になると泣き声をあげるようになった。見張り番をおく。原因は不明(京都絵入)。         *  在日の英人教授、チェンバリン作の和歌。   夜もすがら 声こそたえね時鳥《ほととぎす》    月もさやけき 有明《ありあけ》の浜         *  知人に借金返済で訴えてもらい、被告となって、徴兵のがれをする者が出た(東日)。         *  神田で酒の飲みくらべ大会。一斗八升(約三十二リットル)の人が優勝(東京毎日)。         *  京都の華族の夫人たち、製糸工場で作業。児《こ》は子もりに世話をさせて(郵便報知)。         *  広告。酒と女を避けていたが、方針変更。今後は、酒や遊郭へおさそい下さい。訪問の時には、お酒を。中条町、村山(新潟日報)。         *  七月二日。官報の第一号が発行される。         *  昨年の福島事件。県会議長、自由党員の河野広中らの東京での裁判。公開で自由に発言させ、大評判。有罪か無罪かの賭けもなされた。薩長閥への、司法関係者の抵抗のあらわれ。河野七年、他は六年の刑。         *  岩倉具視、死去。公卿の出で、天皇親政、開国論者。維新後は飾り物あつかいだった。         *  伊藤博文、帰国。憲法作成に専念。         *  日本で灸《きゆう》の研究をした仏人の医師、帰国して効果ありと発表。治療もはじめる(読売)。         *  十月三十一日、東北地方で金環食。当日、東京は雨、東北は曇天。新潟では見えた。         *  悪く書かれた者の代理だと称し、新聞社を「告訴する、金で解決か」と、ゆする者がふえ、連絡所も出来た(郵便報知)。         *  ニューヨークの日本人たち、交際のため苦楽部《クラブ》を作り、集会(郵便報知)。当時はこう書いた。苦楽を共にでか。         *  ルター生誕四百年祭。外人教師たち、演説会でカソリックを排撃(朝野)。         *  鹿鳴館《ろくめいかん》が完成。不平等条約の改正のため、文明向上の実例を示そうと、日比谷に作られた洋風のレンガ二階建て。洋食も出され、舞踏会《ぶとうかい》も開かれる。         *  本所のカワラ業者の、カマドのなかから声が。呼んでも答えない。焼くぞと言うと、十数人の浮浪者が出てきた。寒さをしのいでいたのだ(東京毎日)。         *  貸金取立て会社を作った人あり、債務者の家の前で、さわぎたてる(郵便報知)。         *  東京の荒川へ放した魚、サケの子。大きく成長して戻ってきた(絵入自由)。         *  この年。パリ・イスタンブール間の、オリエント急行が運行開始。  ジャワ島の西のクラカタウ島、史上まれな大噴火。八月二十七日。数日後、東京の空は異様に暗く、天皇もご心配なされる。    ●明治十七年(一八八四)  外国で日本の金魚の人気が高く、昨年の輸出、八万匹(東日)。  ウグイスを清国に運ぶと、百五十倍の値で売れる(東京絵入)。         *  イギリスから、花の美しいツバキの木を数百本との注文があった(京都絵入)。         *  碑を建てるのが流行している。山陽のある寺に出来た碑の文に、文句をつけ裁判で勝った人。相手が訂正しないので、そばに判決文を記した碑を建てた(東京絵入)。         *  昔から四国にキツネはいないとされていたが、そのフンを見た人が出た。買って飼ってたのが、逃げたのでは(日本立憲)。         *  駐仏公使館員の鈴木貫一。砂糖相場で、多額の公金を使い込む。スイスにかくれたが、自首し帰国。裁判は七年の刑と軽くすむ。         *  天皇、西郷隆盛に心くばり。遺児あれば、海外留学や官職など、世話をするようにと。聞く者、感涙(開花新聞)。         *  最後の将軍、徳川慶喜の子、家達《いえさと》。近衛《このえ》家より夫人を迎え男子誕生。竹千代と命名。         *  英国人、新橋で汽車に乗りおくれる。車引きに「品川で追いつけたら、大金を払う」と言う。引き受ける者あり、四分前に品川着。普通の百倍の料金をもらう(蒐集記録)。         *  山口県の萩《はぎ》あたりの士族、おちぶれたのが多い。商人、その株を買って得意(朝野)。         *  宮城県のある村。鉄道が開通、荷物を運ぶ仕事がなくなり、とほうにくれる(朝野)。         *  ドイツで日本紹介の本が出た。文中「日本人は善良で、子供っぽく、遊び好き。新奇な物に熱中するが、すぐあきる」と(いろは)。         *  オーストラリア。海底の真珠貝を採取するため、日本人を百五十人やとう(いろは)。         *  東京近郊の村。飼われているメスのネコ。夜になるとオスのキツネが来て、仲よしになる。ある日、その二匹の死体、井戸のなかで発見される。心中ではとのうわさ(読売)。         *  高官の夫人や娘、鹿鳴館でバザー開催。         *  田中平八、死去。信州に生れ、商才、努力、大志で幕末から明治に働き、生糸や茶の貿易で、富を築く。天下の糸平《いとへい》と呼ばれた。         *  京都でヤソ教の演説会。五百人以上の者やじり、警察の制止に反抗し、大さわぎ(郵便報知)。政府への不満のあらわれか。         *  兵庫県の刑務所。囚人がふえ、その排泄物《はいせつぶつ》の処理に困る。コレラ予防の消毒剤を入れるので、肥料に売れない。巨大な穴を掘ったが、一ヵ月分にすぎない(郵便報知)。         *  神田の銭湯。湯上り客のために、上から風を送る。大形のウチワを下げ、番頭がヒモを引いて動かすもの(時事)。         *  熊本県の天草、大阪府下の村などの農民、生活できないと、家族とともに夜逃げをする者が多い(東京毎日・ほか)。         *  伊豆にはじまり、神奈川の多くの村、福島県のいわき地方で、借金党を名乗る集会。金貸し会社へ押しかけ、利息なしの五十年で返済を要求。不穏な動き(朝野)。         *  政府内に対立あり、民権論は理屈だけ。現実の解決のため、政党の形をとってのさわぎとなった。         *  埼玉県秩父《ちちぶ》にはじまり、栃木、福島、茨城の自由党員。爆弾を用意して暴動を計画。発覚し、指導者たちが逮捕される。  過激と思われてはと、自由党が解散式。         *  清国が仏国に宣戦(メイル新聞)。ベトナム支配について対立の結果。一年後に講和となり、仏国の植民地と認める。         *  鹿鳴館の会のため、高官の夫人と娘に、舞踏を練習させる(時事)。         *  先に羽毛をつけたムチの注文。用途を聞くと、ハエをいやがって馬がはね、落ちるのを防ぐためだと(東日)。         *  火薬の個人製造を禁止。ただし、マッチ、花火などは例外とする(官報)。         *  東大前の文房具店。洋行帰りの教授のすすめで、大学ノートを製造、販売。  丸善で、万年筆を購入し、発売。少し前、ニューヨークのウォーターマンという保険業の人が発明した。         *  この年のアメリカ。  大リーグで、投手が上手《うわて》から投げることが許される。打者は、球の高目、低目を要求できた。  外科医ハルステッドが、南米コカの葉の成分から、コカインを抽出、麻酔に使用。当人はその中毒になり、二年かけてやめたが、その時はモルヒネ愛好者になっていた。    ●明治十八年(一八八五)  一月二日は恒例の初荷だが、元日から動いている乗合馬車の上の人間こそ、真の初荷というべし(東日)。         *  前回の場所で横綱の梅ガ谷を投げた、大関の大達。親方の高砂《たかさご》と口論し、頭をなぐり、破門される(郵便報知)。         *  東京の銀行集会所の開業式で、四十四個の電球が輝いた。エジソン式発電機による。         *  学生が集って、大さわぎしたり、奇異な行為をするのを禁じる(官報)。         *  華族の女性は、名のあとに子《こ》をつけ、省《はぶ》かぬようにと通達(改進新聞)。         *  土佐の貧しい家に生れ、維新の時にもうけた三菱商会の初代社長、岩崎弥太郎、死去。五十二歳。  盛大な葬式。料理や菓子を六万人分を用意したが、それでも不足。事故はなし(東日)。         *  京の本願寺の御堂《みどう》再建のため、材木を寄付する者が多い。その運搬には髪の毛の綱《つな》がいいと、新潟の未婚女性たちが献納。十八万人が尼の頭となる。感心だと、縁談も早い。         *  会合の時刻におくれる人が多い。京都で時間会を作り、遅刻者は除名し、氏名を新聞に公表する規則。会員ふえる(京浜毎日)。         *  米国での万国子午線会議で、午後一時を十三時と呼ぶのがいいとの提案があったと。そのための時計を試作とのうわさ。いまのは旧式になり、安値になるか(東日)。         *  浅草でゴム印を作るのに成功した人。軽くていいと、有名な書家、画家から注文あり。         *  青森県で、金銭などでの失敗者が集って、なぐさめあう会が開かれた(東横毎日)。         *  六人を乗せて、二人で引く人力車を製造した者あり。調子がいいので、九人を乗せ三人で引くのを作り、横浜・小田原間を走らせると(横浜毎日)。         *  からゆきさん増加。日本人の娼婦の店、シンガポールだけで三十軒とか(朝野)。         *  仙台で町ごとの組長の選挙。二十五歳以上の戸主なら、女性にも投票を許した(改進)。         *  米国へ輸出する日本の扇子、フランス製のに押される。外見は同じだが、丈夫で安く、美しいため(東日)。  夏のムギワラ帽は、外国から注文多い。         *  軍医・松本良順、大磯《おおいそ》を海水浴に最適と推薦し、旅館を建てる。湘南《しようなん》の発展のはしり。         *  熊本の本願寺へ、長崎の遊女を身うけし献上した者あり(朝日)。なんの役に立つのか。         *  西洋にならい、高知に競走健足会が出来、賞を与える(自由灯)。マラソンのこと。         *  借金党、困民党、貧民党。借金すえおきの運動、各地で、つぎつぎに起る。         *  天候不順で凶作のため、食う物に困り、犬や馬、草の根まで食べる(朝野・ほか)。それなのに、徴兵のがれがあとをたたない。血税の呼称が、まだたたっているのか。         *  北海道への屯田兵の志願、各県に平均して千人。ハワイへ、さらに千人が移民(東日)。         *  本年に入って、海軍はすべて麦飯。脚気《かつけ》患者の発生、ひとりもなし(東京絵入)。         *  婦人の髪形は手間がかかり、洗うのもめんどう。西洋風の簡単な束髪にしようとの動きがあり、ひろがる(朝野・ほか)。カンザシなど、髪かざりの品の店、今後を心配。  一方、西洋人は従来のを好む(東日)。         *  鹿鳴館の会合で、和服禁止の規則に、英国人が「不自然」と反対。いまのままとなる(東日)。  また、ある英人「日本人の舞踏は上達したが、欧州の社交界では若い女性に限る。年配の婦人は、遠慮したほうが」と(郵便報知)。         *  隅田川を上下する蒸気船、営業を開始(読売)。いわゆる一銭蒸気で、かなりつづいた。         *  降雨が多く、各地に洪水《こうずい》が発生(東日)。一昨年の、クラカタウ島大噴火の影響か。         *  芦原将軍、気象台に潜入し天空を観察。追い出し、警戒を厳重にする(朝野)。         *  東大の月謝、一円五十銭に値上げ。医学部は二円五十銭に(東日)。         *  京橋で文字合せの錠のついた金庫が作られた。鍵《かぎ》を盗まれても安全と、注文が多い。         *  日本の娼婦、二十数名。上海から強制的に帰国させられる(朝野)。         *  ある地方の村会。農繁期で議員の半数以上が欠席。村長、役場の者で席を埋め、議事を進める。名案と賛同者あり(朝野)。         *  値下げ競争でごたついていた、三菱と共同運輸、協力して新会社を創立することとなる。日本郵船会社、発足。         *  五代友厚《ごだいともあつ》、死去。鹿児島の藩士。幕末に欧州を見学。維新後、多くの事業を育てた。大阪経済界の恩人。五十一歳。         *  筆の軸にインキを入れる、字を書く道具を作った者あり。売れるかな(京浜毎日)。         *  ヘチマをフランスへ輸出したら、それで作った夏帽子の見本を送ってきた。来年は買わされるか(時事)。商売のうまい国だ。         *  欧州へのカナリヤの輸出がさかん(京浜毎日)。大西洋のカナリー島の原産だが、よく鳴くよう教えるのが日本人の特技。だから、ふやしても売れるのは、オスだけ。         *   東京名所狂歌     団子《だんご》坂の菊   さけさけと きくの莟《つぼみ》の団子坂    下戸《げこ》と見るまに 花は盃《さかずき》     上野の春景色   青天に 赤ひげ白歯黄八丈    花にいろそう 上野黒門     日本橋の繁盛   すごろくを ふり出す雨の日本橋     風が変って あがりにぞなる         *  相撲の一行、東北・北海道に巡業。宮城、青森は昔からさかんで、見物も多く、祝儀の品も山積み。ただし、四角い土俵(京浜毎日)。         *  石川島造船所では、事務現場、社員すべてに生命保険をかけ好評(郵便報知)。         *  上海など清国の都市。日本製の人力車が大流行。東洋車と呼ぶ。ごたごた防止のため、車と着衣の背に、番号を記させる(東日)。         *  東京の山手線の工事が、進行中。         *  特許第一号は、さびどめ塗料。  座敷風車で特許を出願した者あり(朝野)。扇風機のアイデアか。         *  以前よりの希望により、東大の学生たち、欧州風の制服、制帽を制定。慶応の学生も、同様。ペンの交差のマークも作る(時事)。         *  十二月二十二日。内閣制度を制定。  総理大臣、伊藤博文。外務大臣、井上馨。  逓信《ていしん》大臣、榎本武揚。前日に作られた省だった(官報)。         *  大臣の年俸、六千円(郵便報知)。  京都では散髪代の値下げ競争で、六銭から一銭にした店もあり(朝野)。         *  この年。ドイツの技師カール・ベンツの製作した、世界最初のガソリン自動車、走る。  フランスでパスツールが、狂犬病のワクチンを試み、少年を救って評判になる。アメリカでは、手術によって盲腸から虫垂を切除するのに成功。  ニューヨークに、世界最初のセルフサービス・レストランが開店。    ●明治十九年(一八八六)  人力車の利用は運動不足になると、禁車会が作られた(東京絵入)。         *  鳥取の西の村の奇習。新婦が来て、新郎の「なにしに」との問いに「この家で死ぬために」と答え、ともに家に入り、祝宴(太平)。         *  英国、ビルマに進攻。領土にすると発表。清国は黙認料を取る(メイル)。         *  水戸の公園に、数千本の梅を植える。名所となるか(東日)。         *  寒中に水をかぶって神仏に祈るのは、不健康と禁止のうわさ(東横毎日)。         *  三県に分けた北海道を、もとに戻す。開発事業の統一のため(朝野)。         *  日本女性と結婚したと称し、出国の許可を取り、海外で稼《かせ》がせる英国人が多い(神戸)。         *  不便な地方では、官報のとどくのがおそくて、法令の成立日とずれが生じる(東日)。         *  北関東で、食料難のため、ワラの粉を大量にモチやソバにまぜた食品がはやる。やがて禁止(改進)。センイ質には富むわけだが。         *  東京府の人口、幕府の最盛期にくらべ、やっと六割ちかくに回復した(朝野)。         *  三月。ドイツ留学から帰国の小金井良精《よしきよ》。東大教授となり、解剖学の講義をはじめる。         *  立派な家のそばの、貧しい家はみっともない。それらをどこかにまとめる方針を、東京の知事が立てた(朝野)。         *  公用には、メートル法を使うことになる。         *  英国で船員や軍人たちに、氏名やマークの刺青《いれずみ》がはやり、日本の職人が四人、いい報酬でやとわれた(朝野)。認識票の役目。         *  ある農民。わずかな納税不足で山林が競売され、残金がとどく。思わぬ入金と大宴会。事情を知った時は、手おくれ(山陰新聞)。         *  馬車に旗を立て、音曲をかなで、宣伝をする会社ができた(内外新報)。  東京で、辞職催促会社を作る計画。役に立たぬ老官吏に、忠告をする(朝野)。  赤鬼の顔と鉄棒の絵のハンテンを着て、旗を持った数名で、貸金を取り立てる会社。来られて、外人がびっくり(内外)。債鬼だね。         *  逓信大臣・榎本武揚、防火器を発明と、公開実験。小屋は全焼し、失敗(内外)。         *  浅草のソバ屋で「受取りをくれ」と言う客に、店主「出したことがないが、食べた物を書いて署名したなら」と。客は筆で書き並べて、右、正に飲食と書いた(読売)。         *  五月一日。条約改正の交渉開始。わが国の論客たちが、泣いて激論し、なげいてきた問題だ。この喜ばしい日を忘れるな(東日)。         *  日本橋の洋酒問屋。共通切手(商品券)を発売。〓月堂で洋菓子も買える(毎日)。         *  電灯会社の設立計画。機械をエジソン社に発注。ガス灯の三分の一の価ですむ(毎日)。         *  樺太から石狩川へ移住した一族。祖先より伝わる文書を、役所に提出。文面は「われ世に出れば、取り立てる。義経」(内外)。         *  薬の規準を示す、日本薬局方がきまる(官報)。ドイツのものの邦訳らしい。         *  農家で飼う牛をふやさないと、食肉の大部分を輸入にたよるようになる(郵便報知)。         *  京都でコックリさん、流行(朝日)。やがて大阪や東京でも。         *  英人の宣教師、ショー。軽井沢に別荘を作り、避暑。この地の発展のはじまり。         *  綿布を大量に清国に輸出。子供服に加工され、ドイツで売れてる(内外)。商売上手だ。         *  撒水《さんすい》会社の計画(朝野)。東京の道路は舗装されたのはなく、乾いた日のホコリは大変なもの。一方、雨の日はぬかるみ。         *  静岡の銀行に五人組が「政治資金を出せ」と強盗に入る。やとわれた剣術家が二人「さあこい」と刀を抜く。仲間のひとり「帰るがいい」と制止。どさくさで負傷。銀行から多額の礼金をもらうが、一味と判明(朝野)。         *  清国の軍艦が長崎に寄港。上陸した水兵たち、酔って大あばれ、巡査隊と争う。民衆は屋根からカワラを投げ、応援(改進)。         *  清国水兵が巡査の官帽を奪ったの文は、官棒に訂正。電報の誤読のため(大阪)。         *  サンフランシスコで、人力車流行。引く者に困り、日本から人をやといたい(毎日)。         *  ビン入りの日本酒、発売となる。水や安酒をまぜられる心配が、なくなる(毎日)。         *  京都の村の、二人の農民。それぞれ相手の女房、相手の馬に目をつける。あれこれあったが、交換成立で幕(改進)。         *  品川、新宿、板橋、千住。道路を十二間《けん》、約二十二メートルにひろげる(朝野)。道にそった家の裏は、どこも農地の時代。         *  宣教師で医師の米人、ヘボン。滞日も長く、八年がかりで和英辞典『語林集成』を出版。このローマ字表記が、ヘボン式。         *  ソロバンは時代おくれ、西洋式の筆算に統一せよと、文部省内で言う人あり(時事)。         *  英国船ノルマントン号、横浜から神戸への途中で沈没。英人の乗員二十六名はボートで助かり、日本人の客二十三人は、みな水死。抗議の声が高まる。船長は軽い刑(東日)。         *  寄席で長い落語を、何回かにわたって語る時は、前回までのあら筋を話すこと(東日)。         *  病弱であっても、当人より年長の者を、財産相続の養子にしてはいけない(内外)。         *  出雲大社の宮司は千家《せんげ》という姓の家柄。いま八十代目。記録に残る上で、約二千年以上も、男子の血統の絶えたことなし(郵便報知)。         *  フランスに依頼して作った軍艦、畝傍《うねび》。日本へと出発(内外)。アジアの海で消息不明。砲を多くし、船体を二重にしなかったためか。海上保険つきで、損害はない。         *  初代ピストル強盗、清水定吉つかまる。侵入、射殺、盗みと、凶悪な犯行を重ねた。翌年に死刑。         *  この年、各地に婦人会、女学校、看護婦学校など、いろいろと作られた(郵便報知)。あみもの会、洋食の会も。         *  印刷局がドイツより輸入し、使用していた印刷機。技師の沼井は、それを手本に、改良したものを製作した(朝野)。         *  この年。アメリカでホールが、フランスでエルーが、ほぼ同時にアルミニウムの製法を発見。年齢も同じで二十三歳。特許はホールを先としたが、おたがいに長所を活用しようと、共同で事業化をすすめる。  コカコーラが発売される。十月、自由の女神像が建てられた。  作家スティーブンソン。SF『ジキル博士とハイド氏』を執筆。    ●明治二十年(一八八七)  宴会の流行はいいが、立食式だと食物の奪い合い、急ぎ食いで、戦争のようなさわぎ。みっともない(東日)。         *  ナショナル・リーダーの海賊版を、各社が出した。米国の出版社より抗議があり、役所は関係者を集め版権を話し「この出版社名を削除しろ」と命じた(郵便報知)。         *  天皇、京都へ先帝の祭儀のためご旅行。そのお供の人数の少ないのをからかった記事が、清国の新聞にのる。民とともに節倹のみ心が、わからぬのか(高知新聞)。わざわいのもと。         *  二月十八日。天理教の教祖、中山みき、死去。九十歳。         *  お寺の下宿営業に、禁止の通達(朝野)。  遊郭での心中者を、同じ墓に埋め、比翼塚など呼ぶと、まねするのが出る(読売)。         *  相馬事件、はじまる。福島県の名家の当主をめぐり、有名人が何人もからみ、スキャンダル記事が新聞をにぎわす。何年もつづき、当主は死に、真相は不明のまま終る。         *  大阪。呉服商の大丸。頭の古い番頭たちをなだめ、洋服を扱いはじめる(内外)。         *  陸軍省では、各種の色を使いわけ、暗号に利用しようと研究(郵便報知)。         *  政府の官報はわかりにくく、地方官も困るし、反対論も出やすい。そこで説明欄を作って、補足の文をつける(朝野)。         *  花まつりの日。甘茶をかける仏像に悪口を言い、さらに地面に投げた男がいた。坊さんは怒り、なぐり合い。やがて警官が来て、男を連行(東日)。ヤソ教信者。         *  大阪の刑務所で、囚人に石をせおわせ、一日に二時間ずつ歩かせる試み(朝野)。そのかわり刑期を短縮なら、一案か。         *  土佐犬を軍用にと研究(高知日報)。         *  舞踏会さかん。伊藤博文邸で仮装大会。高官たち、弁慶など奇妙な姿に(やまと)。これもお国の地位向上のためだ。         *  ショウユが、世界的に好評。ジャワ島製のも、日本産として出まわる(高知新聞)。         *  大隈重信、板垣退助、後藤象二郎、勝安芳《やすよし》など、それぞれ伯爵《はくしやく》に(官報)。危険性のある人物を、手なずけておく。         *  手さげ電灯、試作。重さはわずか一貫(約四キロ)なり(東日)。         *  芝の高利貸の家へ、棺桶《かんおけ》を運び込んだ女。「二年も無給で働かされ、父はくやしさで頭が変になり、死にました」と。来た巡査も困り、埋葬費にと五円を出させた。         *  新橋の芸者だった花井お梅。付《つ》き人《びと》の峯吉《みねきち》を包丁で殺す。多くの男性関係のあげくだが、美人のため評判になる。裁判にも人が集り、芝居にもなる。無期刑だが、十五年で釈放となる。あとは、不遇な人生。         *  大橋佐平、他誌の文を無断で集め「日本大家論集」という雑誌を出し、大いに売れる。版権問題となるが、方針を変え成功する。         * 「ソバはモリかカケか」と聞かれた書生風の客が「どっちでもいい」と。両方を出すと、どっちも食べ、一銭おいて帰りかける。主人が「もう一銭」というと、客「入口に〈もりかけ一銭〉とあるよ」(読売)。         *  カラカサでなく、布製の洋傘が流行。製造がまにあわない(朝野)。         *  郡役所での喫煙は、きめられた時間と場所で(千葉新報)。キセルの時代のこと。         *  丹後・大江山のそばの村。なぜか地租が高い。石川という男。不当を訴えつづけ、投獄にも負けず、十三年の尽力で減税を実現。住民の謝礼も断わり、義人と呼ばれる(朝野)。         *  足尾銅山が開発され、渡良瀬《わたらせ》川の鮎《あゆ》が全滅した。一万二千人もふえた人の排泄物の流入のせいか(読売)。やがて鉱毒とわかる。         *  東北地方で百一年ぶりの皆既日食があったが、雲のため、暗くなっただけ(東日)。         *  地方より中央官庁への報告書のなかで、本県や本年などと書くのをやめ、県名や数字を使うこと(東日)。         *  宮中に信用があり、華族女学校を作った教育家・下田歌子が小学読本を作る。文学的すぎて実用に不適と悪評。使用中止(朝野)。         *  盛岡で、納税延期の歎願書を印刷し、売ろうとした者。説諭されて破棄(読売)。         *  本郷の女の子。宮参りで買った張子《はりこ》の犬、こわれたので親が見ると、その家の祖先が元禄時代につけた帳簿の紙。奇縁(東日)。         *  浅草の老人。海草からヨード抽出に成功。外国製にまさる純度(郵便報知)。         *  参謀本部、地図作成のための三角測量を、全国的に開始(官報)。         *  日本橋で、はじめてアスファルト舗装の道が作られる。長さ一五〇メートル(時事)。         *  浅草公園に、材木と板で富士山を作る。珍しいと登りたがり、巡査が整理(東日)。大阪の西成にも。費用もかかるが、採算可能と。         *  盛岡以北の鉄道工事。思ったより平坦《へいたん》で、工事はきわめて容易(朝野)。         *  船で塩を運ぶ時、俵に竹筒を刺して抜く者が多い。そこで重量での取引きとする(東日)。         *  保安条例、発布。集会の解散命令など。危険人物とされると、東京の外へ追放(朝野)。         *  この年。  ポーランドの眼科医ザメンホフ、国際語エスペラントを考案。  英国の医師で作家のコナン・ドイル、小説にシャーロック・ホームズを登場させる。    ●明治二十一年(一八八八)  英国での日本美術品の評判、すっかり回復し、よく売れる(朝野)。         *  浦和へ追放された危険人物、宿泊を断わられる。横浜へ行こうにも、東京の鉄道を利用できず、きわめて気の毒(時事・毎日)。         *  吉原のある娼婦、客の所持金をぴたりと当て、評判(読売)。占いをたのむ人もふえる。         *  大隈重信、外相に就任し入閣(東日)。         *  上野に可否《コーヒー》店が作られる。一杯、一銭五厘《りん》で、牛乳入りは二銭。         *  所得税、実施。年間収入、三百円以上に、一から三パーセントの累進課税《るいしんかぜい》。これまでは地租と間接税だけでやってきた。         *  東京見物に来た夫婦。みやげ話にと吾妻《あづま》橋の厚さをはかろうとした。巡査は身投げかと思い「早まるな」と注意(東日)。         *  外国からの観光客。大阪での淀川《よどがわ》や山々の眺めは優美、京都にまさると(大阪日報)。         *  サンフランシスコに、日本人用のホテルを作り、移住者の世話もする計画(毎日)。         *  天気予報をのせる。百発百中ではないが、見ないよりいい(時事)。傘などの絵つき。         *  大阪の商家の子弟、洋行する者が多い。交易のために(大阪日報)。         *  電信線を鉄から銅にしたら、調子がいい。いずれ、すべてそうなるだろう。         *  ビールを生産すれど、ビン不足。その製造会社の開業を待ちかねている(朝野)。         *  枢密院《すうみついん》が出来、伊藤博文が議長に。後任首相は黒田清隆(東日)。憲法制定のため。         *  帝国の字をつけるのが流行。大学、工業会社、掃除屋まで。多くておぼえにくい。         *  日本銀行が紙幣を発行しているが、その裏付けの金銀を見た話を聞かない(朝野)。         *  福沢諭吉、女優の必要を話し、市川団十郎は、二人の娘にやらせる気になる(東日)。         * 「君が代」の現在の曲の楽譜。海軍省より外交関係のある諸国に送付。         *  神奈川の海岸の海水浴。男女の場所を区別して、違反者は罰する(東日)。         *  会津の磐梯山《ばんだいさん》、大噴火。死者多数。         *  警察へ電話をとりつけるのは便利のようだが、東北出身の人と、南九州出身の人と、話が正しく伝わるだろうか(東日)。         *  東京で、洋服姿の女性が半減。胃に悪いらしいと。コルセットになれてない(東日)。         *  長崎の高島炭鉱の、悲惨な労働条件が問題となる。雑誌「日本人」に、坑夫になりすました者の手記がのり、世に知られた。         *  米国で発行の邦字新聞「世界の魁《さきがけ》」は、治安を乱す内容があり、輸入禁止(郵便報知)。         *  九月末。森林太郎ドイツ留学を終えて、帰国。それを追って、エリスなる女性が来日。         *  大阪で明治浪人会の集りがあった。条例違反、官吏をなぐったなど、反政府の裁判を受けたのが入会資格で、二十二人(東日)。         *  新皇居が落成。宮城《きゆうじよう》と呼ぶ(東日)。         *  官報では親王の配偶者を、御息所《みやすんどころ》と称しているが、やがて妃殿下に統一されよう(朝野)。皇室典範は、枢密院でほぼ決定。         *  新潟県で、四十歳で殺された男の遺族。人生は五十年、十年分の収入に相当する金を払えと犯人を訴え、そう判決が下る(高知)。         *  日本・メキシコ間で、対等の通商航海条約が調印された。利害関係のないためか。  大隈外相は、関税権など条約改正のため張切り、これが第一号の成果。         *  資生堂が国産の、ねり歯磨を発売。陶器の容器入り。粉のは以前からあったが、歯を磨く人はあまりいなかった。         *  クリスマス・カードが輸入される。         *  山梨県下のブドウ。収穫は多いが運送が不便で、利益が少ない。ブドウ酒の製造に成功したので、産業として伸びるだろう(東日)。         *  千葉県会の議員。議長に不満で辞職を表明したが、引きとめられる。二日後、会わす顔がないと、ヒョットコ面《めん》で入場(東日)。         *  この年。スコットランドの獣医ダンロップが、空気入りタイヤの特許を取る。病弱な息子の三輪車用にと。しかし、その権利は安く売ってしまった。  アメリカの電信技師パーカーが、二十四歳で万年筆を改良し、大量生産をはじめる。イーストマンが、コダック・カメラを量産し、写真が大衆化する。  ヨハン・シュトラウスが『皇帝円舞曲』。  ロンドンで「切り裂きジャック」の連続殺人事件。    ●明治二十二年(一八八九)  政党大会がふえ、政府は各府県に秘密探偵《たんてい》を置く(東日)。記事になっていいのか。         *  東京株式取引所。その株主に対して、五割四分の配当(東日)。         *  造幣局の英人技師、帰国。明治二年以来、やっと日本人だけの運営となる(大阪毎日)。         *  赤坂に弁慶橋が作られ、擬宝珠《ぎぼし》の飾りがつく。むかし弁慶小左衛門という棟梁《とうりよう》がいて、彼の作った堀の上なので(読売)。         *  二月十一日。憲法発布。国内、お祝いの声があふれる。国旗は売り切れ、酒も値上り。衆議院議員の選挙は、翌年に。  西郷隆盛は朝敵の汚名が消え、正三位《み》が贈られた。政治犯、追放者も自由となる。         *  文部大臣・森有礼《ありのり》が西野文太郎に暗殺される。西野もその場で殺され、埋葬役の二人が衣服をはぎ、発覚して逮捕された。         *  地方の資産家、先祖伝来の田畑を売り、票を買収しようとする者が出る。貧富の差をへらすので、いい傾向との説も(東日)。         *  東海道の鉄道がつながり、新橋から京都まで、わずか十七時間で行けるようになった。         *  後藤象二郎は民権派だったのに、逓信大臣で入閣。怒り暗殺しようとした者、逮捕。  その後藤邸にて、蓄音機の吹込みの会。百人一首や笛の音など(郵便報知)。         *  土地を国民に平等に分配せよとの主張者。過激だと、発言禁止を命じられる(時事)。         *  東京に馬車会社。製造をし、また臨時や長期の貸し出しに応じる(時事)。         *  条約改正の大隈外相の案が「ロンドン・タイムズ」に掲載された。外人被告の時、外人判事を使う件で、賛否両論が起る。         *  幼児を貸す商売が流行。乞食《こじき》や行商の時、連れていると同情してくれるので(都)。         *  暑さを避け、大ぜいの外国人が比叡《ひえい》山でキャンプ(東日)。文明人らしくなく異様だと。         *  東京市会、開かる。会期をのばし、収入をふやそうとする市会議員が出るかも(東日)。         *  大演習を見たドイツ軍人の日本将校の評。事態を安易に考える。末端まで指揮をしたがる。むずかしい言葉を使いたがる(朝野)。         *  海軍の軍艦旗、制定される(官報)。         *  新吉原遊郭の賄賂《わいろ》事件の被告たち。落着《らくちやく》の時に、判事、検事、弁護士、新聞社員ら関係者たちの像を、上野に作る計画(東日)。         *  来島恒喜《くるしまつねき》、大隈外相の馬車に爆弾を投げ、自決。大隈は右足を切断したが、生存。「これで血のめぐりがよくなる」と話す。         *  コーヒーを宮崎県で育てる試み、不適と判明。種子島でのレモンは生長(東日・ほか)。  日本製のワイン、スペイン万国博で金賞。         *  金銭の代りに飲食切符を売り、料亭でバクチを催した一味、逮捕される(郵便報知)。         *  この年。アメリカのオーティス社、ニューヨークのビルに電動エレベーターを設置。シンガー社が、電動ミシンを発売、百万台を売る。「ウォール・ストリート・ジャーナル」が創刊された。  パリ万国博で、エッフェル塔が作られた。  ベルリンのコッホの研究所で、北里柴三郎が破傷風菌を発見。    ●明治二十三年(一八九〇)  米人のブライ記者が、日本を通過。『八十日間世界一周』に挑戦《ちようせん》。大西洋、欧亜大陸を横断し、一月七日、横浜出航。七十二日の記録を作る。新聞の読者増をねらって。         *  新聞用達会社が設立される。通信社と広告代理店を兼ねたもの。         *  外賓案内会社が設立される。通訳、ガイド、ボーイ、コックを養成する(時事)。         *  鉄道線路に屋根は採算にあわないと、米国より除雪車を輸入(東日)。         *  東京・横浜間に電話が開通。貿易会社にすすめたが、まだ加入者がない(中外商業)。         *  金鵄《きんし》勲章の制度が出来る(官報)。         *  熊本県のある村の娘。縁談が二つあり、待ちかねた一家が連れ出して三三九度。他の一家が抗議し、ついにくじ引きで(郵便報知)。         *  キリスト教徒の廃娼運動さかん。在日のベルツ博士は存娼論の演説をした(朝野)。         *  議会の貴族院議員になりたく、貧乏華族をさがし、養子になろうとする者あり(中外)。         *  在米邦人の白人女性との結婚に、モンゴル人種だからと役所で許可が出ない(中外)。         *  日清両国の海軍力。仏国との海戦の体験がある上、質量ともに清国優勢は明白(東日)。         *  開国の時の話題の女性、唐人お吉。下田の川で投身自殺。         *  東洋英和女学校に、二人組の賊が入り、カナダ人の校長、ラージ夫人を傷つけ、その夫を殺害。犯人はあがらず。         *  上野での博覧会の宣伝に、公園内のレール約四百メートル、電車を走らせた。         *  森〓外《おうがい》『舞姫』を発表。エリスという女性を登場させ、話題性をねらう。         *  新宿の貯水池で浄化し、市内に供給する水道事業。工事を開始(中外)。         *  条約改正について、だれも議論しなくなった。衆議院の選挙が先決なのか(東日)。         *  電球の炭素線、日本産の竹なのに、製造法不明。それに成功した技師あり(朝野)。         *  電柱への広告。産業振興にもなり、許可を受ければ、やってもよい(時事)。         *  大阪の骨董《こつとう》店、英米仏へ仁王像を三十六対《つい》も輸出したが、まだ注文があり、新しく彫刻させて売るつもりと(東日)。         *  大阪の連隊で、ある兵隊。夜の便所でお化けを見て声が出なくなったと、仮病。軍法会議の結果、罪にならずとの判決(東日)。         *  横浜の娼婦、代金の請求に米人宅へ行くと、出てきた夫人になぐられた。抱え主は商品に傷をと抗議し、金と謝罪書を取る(東京朝日)。         *  長野県の人、東京は軍艦に砲撃されるおそれありと、松本市への遷都を提唱(朝野)。         *  七月一日。第一回、総選挙。十五円以上の納税をした、二十五歳以上の男子が有権者。  全国の合計、四万三四七四票。定員の三百名が選出された。         *  浅草で、蓄音機により役者の声を聞かせ、多くの客が集る(時事)。         *  米国船にやとわれた渋谷という男。ニューヨークで水夫とけんか、殺害。死刑の判決あり、電気椅子による第一号となるか(毎日)。         *  浅草にレンガづくり十二階の、凌雲閣《りよううんかく》が完成。見はらしよく、人でにぎわう。  エッフェル塔のまねなり。         *  芝の家屋に、男が十歳の長女と七歳の長男を連れ、越してきた。夜中に火鉢、鍋など、家具や食器が浮揚し、眠れない(東京朝日)。         *  十月末、教育勅語(官報)。  議会の召集が近いのと、関連があってか。当時、あまり世の話題にならなかった。  明治時代の詔勅、合計二千を越える。         *  帝国ホテル、新築されて開業。ライトの設計によるのは、大正十二年に改築したもの。         *  能面が欧州で好まれ、高い値で流出している(読売)。国内では、さほどでない。         *  十一月末、第一議会が開会。なれていないので、進行に手ちがいが多い(東日)。  早くも「だまれ」の声が。議席の机に書類をつみ重ねたまま帰る者も。         *  新聞記事にのると、その自宅の近くで大声で売る。自殺者の遺族など、大迷惑(朝野)。         *  外国船が、清国から労働者を大量に連れてくるので、横浜での失業がふえる(あづま)。         *  来日の英人、横浜で気球で上昇し、落下傘《らつかさん》で飛びおり、見物人たちを驚かす(東日)。         *  世界的なインフルエンザ、日本にも及ぶ。かかる人は多いが、死者は少ない(毎日)。ビールスの知識のない時代、不安だったろう。         *  この年。  アメリカで乾電池、ピーナッツ・バターが商品化される。サイ・ヤング投手がプロ野球に入り、以後二十三年かけて、五百勝の記録を残す。ロサンゼルスの人口が、五万人に達する。  イギリスで、リプトンが「高級で安い」を看板に、紅茶業界に進出。ロンドンでは、地下鉄が開業。  画家、ゴッホ、拳銃自殺。三十七歳。    ●明治二十四年(一八九一)  電話での新年のあいさつ、流行。         *  壮士におどされる代議士がふえ、護身の拳銃を議場にまで持ち込む者も出る(東日)。  保安条例で、危険壮士を東京から追放。         *  小鳥の剥製《はくせい》の輸出が、十万羽を越える。農村の産業に成長(国民)。         *  前年に米国で判決のおりた、殺人犯の渋谷という男、絞首でとの願いもむなしく、エレキ椅子で処刑。史上、二番目なり(毎日)。         *  評論と文章で名を残した、中江兆民。代議士だが、酔って議席で眠りこむ。         *  まだ成果をあげないのに、議事堂焼失。衆議院は学校の講堂を借りる(東日)。原因は、電力の消費による高熱との説が出る。  電灯会社は、名誉回復の訴訟を起す方針。         *  吉原遊郭。高い電気料に困っていたが、これを口実に、石油に戻す店がふえる(都)。         *  宮中も電灯を廃止。ヒノキ造りなので燃えやすいため、万一を考えて(都)。         *  電話でも火事になるのではと、問い合せる者が多い。コレラの伝染はとも(郵便報知)。         *  徳島県のある村、地租の値下げの請願書を貴族院へ提出。三万五千人の署名つき。並べると二里(八キロ)以上になる計算(東日)。         *  明治美術会で「裸体画と風紀問題」について討論。その二枚の絵は、いずれも幼い男の子の草刈りと、牛にまたがった姿(東日)。         *  宮中に勤める者。上等な服を制定しなければ、給仕とまちがえられると申し出る。  天皇。給仕の服をさらに質素にすればと。         *  公卿の出で維新に功績のあった三条実美。インフルエンザに感染。五十五歳の高齢のため、ベルツの手当てもむなしく、死去。  その寸前に、正一位。生存中に受けたのは史上、五人目。ここ千二百年なかったこと。         *  衆議院は、政府提出案をすべて修正。議事堂再建予算だけは、たちまち通過(東日)。         *  東京・練馬《ねりま》はタクアンが名産。注文がふえて、肥桶《こえおけ》をも利用。問題となる(都)。         *  駿河台に、ニコライ堂が完成。のちに震災にあうが、ほぼ同様に修復。現在に至る。         *  婦人に紺《こん》の足袋《た び》が流行。足の白さをひきたて、品がいいと(国民)。         *  辻村《つじむら》という男。使い込み、逮捕、脱獄。上京して改名、法律学校で学び、判事の職につく。故郷の長崎に転任となり、発覚(郵便報知)。         *  シカゴ在住の高峰譲吉博士、日本のコウジで作る酒会社を創立。原価が安くなる。         *  最初は九州の新聞記事。西郷隆盛の生存説が話題に。敗戦のあと、ドイツ人と船で外国へ。近く来日するロシア皇太子と共に帰国とか。会った人も出るが、否定論もさかん。         *  天皇。隆盛が戻ったら、西南の役《えき》での勲章を、将校たちから取り上げようかと。         *  隅田川ぞいの店、国会汁粉《しるこ》を食べさせる。セイフ餡《あん》、シュウセイ餡など(日本)。         *  ハルという十六歳の美少女。ニューヨークで踊りを公演。好評で、習う者が多い。わかりやすさが特色(朝野)。         *  壮士は、つまらぬ。美女に演説を教え、政治活動をさせよ。その養成所を作る計画(朝野)。         *  ロシア皇太子、長崎より大阪、京都へ。各地で歓迎される。大津で、抜刀した津田という巡査に斬りつけられ、頭を負傷。         *  天皇、ただちにお見舞い。なんとかおさまる。津田は相当する法律がなく、無期刑。  この決定をした児島《こじま》大審院長は、事件の五日前に就任したばかり。         *  ロシア皇太子のニコライ二世へ、謝罪と慰問の手紙が一万通。日本的感情の翻訳が、大変(朝野)。         *  この皇太子はのちに皇帝となるが、革命により、家族とともにシベリアで殺される。         *  丸の内の陸軍関係の建物、移転。岩崎に払い下げられるが、利用案なく、草ぼうぼうの無人の原野。さびしい光景なり(朝野)。         *  夜中に、宮城内より数発の砲声。ふえすぎたカラスを、追い払うためだった(国民)。         *  日本で最初の、靴みがき業が出現(国民)。東京は道路がひどかった。         *  貧しい家庭の婦人の内職、髪結《かみゆ》いのほかは一日ずっと働いて、十銭(朝野)。  総理大臣の年俸、九千六百円(官報)。         *  タスマニアに旅した日本人、石碑の苔《こけ》を除くと「銭屋五兵衛の領地」の文字あり。英人が来て撤去。五兵衛は徳川時代、手びろく密貿易をし、獄死した人(読売)。         *  シンガポールで「賃銀の安い日本人の出かせぎ、百人が来る」との広告。東南アジアでのこの現状は、うれうべきこと(国民)。         *  ネコ会社の計画。ふやして上等なのは輸出に。劣るのは皮は三味線、毛は織物、肉は肥料に。ネズミをとるのは、賃貸し(読売)。         *  独身ぐらしの男性に、月三円で、土曜から日曜にかけての、女性派遣業がはやる。         *  十月一日。外国の王族へ危害を加えた行為への刑の法案を作成。同日、犯人の津田、北海道の網走《あばしり》にて死去。         *  清国の社会が不穏。外国人とキリスト教への反感が高まる。役人の腐敗も一因(東日)。         *  明治になり昨年までの二十三年間。公布された法律法令、三万を越す。一日に三・五件の割。なんたること(濃飛日報)。         *  十月末。名古屋地方で、震度八・四の大地震。死者七千、倒壊家屋は十四万戸。名古屋から「岐阜なくなる」の電報あり。         *  幸田露伴、小説『五重塔』を発表。         *  このころ「どうする連」が流行。竹本綾《あや》太夫《だゆう》という美人で美声の女義太夫に熱中、書生たちが芝居小屋にかよいつめ、さわりで「どうする」と声をあげる。取締りの対象に。         *  天変地異の年は、柿《かき》のタネの上下が逆になるとの言い伝え。本年、その傾向があり、珍しさで、柿の実がよく売れる(東日)。         *  議事堂、新築落成。焼失から十ヵ月。一般に開放したら、見物人、三日で十万人以上。         *  第二議会、開会。一部で失火。すぐに消したが、念のためにとストーブをやめ、各議員に湯タンポを渡す。  そのかわり、枢密院の本館が全焼。         *  樺山《かばやま》海軍大臣、答弁で「日本の今日あるのは、薩長内閣の功績」と言い、議員に「天皇と国民を無視」と、かみつかれる(国民)。  ついに、衆議院、解散。         *  書生にはじまり、尺八が流行。ハーモニカが輸入される。         *  この年。アメリカン・エクスプレス社が、独自のトラベラーズ・チェックを発行。  ニューヨークにカーネギー・ホールが落成し、チャイコフスキーがロシアから来て、指揮をした。  果物や野菜の高級缶詰が、デル・モンテの商標つきで発売される。もとはホテルの名。  ロシア政府、皇帝の許可を得て、シベリア鉄道の建設に着手。    ●明治二十五年(一八九二)  政府支持の吏党の看板は、産業振興。民党のは、冗費節約、民力休養の減税。どっちも悪いと言うのは、あいまい党で、調子のいい側につくつもりの人(郵便報知)。         *  下賜《かし》された木杯を、自分は禁酒主義と、返上した人がいる(朝野)。         *  資金に困った民党の首領、長崎のカソリック教会から五万円を借りた。勝った時の、布教の保護を条件に(東日)。  無責任で、許しがたい記事だ(毎日)。         *  政府、予戒令を公布。粗暴の言論、集会の妨害などを禁ず(官報)。         *  高知県、石川県をはじめ、各地で政治対立が激化。拳銃、刀などを使う。軍隊も出動。全国の死者、二十五。負傷は四百人弱。         *  二月十五日の選挙結果。独立や無所属が多く明確でないが、やや民党が優勢。         *  京の祇園《ぎおん》の美女たち、奈良の大仏へ参詣。よだれかけを寄進。あたしたちを見て、よだれをたらすはずと(読売)。         *  毎朝新聞の発刊、ご発展を(国民)。こういう名の新聞が実在したとはね。         *  岐阜県のある村。料理屋にやとわれている女性が、妖術《ようじゆつ》を使う。客の男は魂を奪われたようになって、財産を失い、家族と別れることになるのが多い。  亭主がそこへ入りびたりになった妻が、盗難届を出した。警察の手で、夫を取り戻して下さいと(読売)。         *  検事や判事など司法関係の高官が、料亭で芸者をまじえ花札で賭博《とばく》をしたとのうわさ。証拠不充分で不起訴だが、辞任者は出た。         *  その芸者を見たがる客が多く、おかげで思いがけない人気と収入(東日)。         *  東京で眼鏡が流行。おしゃれ気分だが、眼鏡をかけた赤ん坊の、外人による絵が残る。         *  はおりや着物の紋、男女をとわず大きくするのがはやる(濃飛日報)。         *  平清盛《たいらのきよもり》の旗なるもの、徳川家に伝わる。赤い絹に「九億九万七千七百七十二神将」と書かれているが、意味不明(読売)。         *  狩猟法、成立。ツバメ、ツル、ヒバリ、キツツキなどの鳥と、一歳未満の鹿《しか》が禁猟。         *  衆議院、条約改正上奏案を決議(東日)。これで進展するのなら、簡単なのだが。         *  東大寺の大仏殿の修理のため、参詣人が料金を払えば、鐘を一回つかせる(読売)。         *  福島安正中佐、ベルリン勤務が終り、馬とともに単身でシベリア横断に出発。四八八日の苦労の末、ウラジオストックに到着する。         *  石鹸や化粧水が流行。各種の品が作られ、売行きも業者が驚くほど(郵便報知)。         *  壮士のなかに、実業家を攻撃し金銭を要求するのがふえ、取締る法令が出る(時事)。         *  海軍技師の下瀬雅允《しもせまさちか》。外国の火薬を分析して、製造に成功。下瀬火薬の名が残る。         *  旧和歌山藩士の、神野という老人。百九歳なのに元気で泳ぎ、みな感嘆(国民)。         *  在日三十三年、日本の近代化に功のあったヘボン博士、老齢のため米国へ帰る。七十七歳。長命で、さらに九十六歳まで生きる。         *  大阪で、興信所が開業した。企業や個人の信用調査を、引き受ける。         *  東大教授・星野恒《つね》「史学雑誌」に、豊臣秀頼《ひでより》は落城後、薩摩へ脱出の説を紹介。         *  開始された小包郵便は好評で、東京では一日に十個も。人にたのむより、役所を利用したほうが、安くて確実(東日)。         *  社会に活気を与え、景気向上のため、賭博公認を求める演説会の広告が新聞にのる。         *  大分県の村で、母の眼病の治療にと、妻を殺して肝臓を取った男。妻の浮気に立腹してとの説もある(朝野)。         *  仏国製の日本の砲艦、千島。瀬戸内海で英国船と衝突し沈没。死者七十余名(国民)。         *  衆議院、侮辱する記事を掲載したと、東京日日新聞の告訴を決議する。         *  議員たち、大臣や役所の悪口は言いたいほうだい。自分が言われると告訴とは、なんだ(東日)。         *  自称・北斎の三代目。洋酒屋の看板に、グラスから出る幽霊を描くのが得意(読売)。         *  この年。シカゴのセールスマンのリグレーが、チューインガム販売をはじめる。  イタリア人のカンパリ、食前酒を製造。  コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』を発表。    ●明治二十六年(一八九三)  京都の三十二歳の男。餅《もち》を元日に七十五、二日に七十六、三日に七十七個も食い「これぐらいで」と残念そうに箸《はし》を置く(読売)。         *  京都で国会芝居が上演され、大受け。どなり、ヤジ、反対、なぐりあいなど(東日)。         *  投書。商店の小僧は、一月と七月の二回の休日のみ。道草や、忍び出ての夜遊びをすることになる。ご一考を(時事)。         *  東京・日比谷の練兵場跡が、公園となる。         *  ハワイ。米国の影響が増大し、革命でリリオカラニ女王は退位。共和制となる。この女王は「アロハ・オエ」の作者といわれる。         *  議会で、軍艦予算を削減。詔勅が出て、皇室費を節約し、六年間の援助をと。官吏の給料も一割を提供となる。議会も、そのための予算をみとめざるをえなくなる。         *  三重県の御木本《みきもと》幸吉。うどん屋の子で、外人相手に商売をし、真珠の養殖に成功。         *  奈良県のある村の男。墓から幼児の死体を掘り出し、焼いて食う。禁錮《きんこ》三ヵ月(朝野)。         *  楠木正成の子孫は申し出よと、宮内省。五十名が出現したが、どれも怪しい(東日)。  本当の子孫と思い込む、神戸の男。上京と運動費のため、娘を遊郭に売る(東日)。         *  広島県のある村。妻が犬神つきとなり、なおらない。夫と息子が、犬神社へ連れていって、焼き殺した。裁判でどうなるか(東日)。         *  朝鮮で農民が反乱。日本と清国、自国民保護にと、仁川《じんせん》へ二隻《せき》ずつ軍艦を入港させる。         *  ラフカディオ・ハーン。小泉セツと結婚、日本に帰化し、小泉八雲となる。         *  ドイツより帰国の北里柴三郎、芝に伝染病研究所設立の計画。住民が反対運動(東日)。         *  東京弁護士会が創立。予想どおり、発言者が多く、大声ばかりの混乱の会議(東日)。         *  神戸で、国産の蒸気機関車の第一号。         *  清水次郎長、死去。遺言「人生で得たのは傷あとだけ。若者は暴力に自省を」(朝野)。         *  カナダ船の日本人乗員、タルに入れ女性を密輸出しようとし、税関で発覚(東日)。         *  大分県の男。放火で十三年の刑。再審を求め、十年がかりで無罪の判決を得る(東日)。         *  祝日大祭日の儀式唱歌。「君が代」が、その第一に選定される(官報)。つまりは国歌。         *  関西の紡績会社。新入工員を二つに分け、二週間と限っての生産競争。高い賞金で、だれもが熱中。あまりのことに、重役はあわてて、双方に金を与え中止に(東日)。         *  九月二十九日は、巳《み》の年、巳の月、巳の日で金曜。金もうけの祈願、各地で(東日)。         *  大阪の高橋という技師、電灯計を発明。使用した電気の時間がわかる(毎日)。外国の発明の流用か。これまで同一料金だったのか。         *  文学の分野が不振だというが、さかんだった時期などない。これからの問題だ(毎日)。         *  貴族院のある会派、政府の味方をしても謝礼がないので、反対党になるかと(毎日)。         *  海軍の郡司成忠《ぐんじなりただ》大尉、千島列島調査隊を作り、東京を出航、長期滞在し、気象観測。         *  無条約の国の民でも、外人は外人だ。指定居留地に住むべしと指示(東日)。         *  徳島県のある村の、男の赤ん坊。生れて二十日で下の前歯が生え、飯やイモを食い、酒を与えたら、喜んで飲んだ(読売)。         *  札幌農学校の管理、開拓使から文部省に移される(官報)。各官庁の行政整理がなされ、わかりやすいものとなる。         *  赤痢《せきり》が関西から関東へひろまり、全国の患者、十万を越す。治療法不明で、明治時代の死亡率最高の病気。         *  旧会津藩主・松平容保、死去。五十九歳。京都守護職となり御所を警備し、維新で朝敵とされ、悲惨な敗戦。晩年は東照宮の宮司。         *  日本郵船、インドのボンベイまで、航路を延ばす。         *  オーストラリアに出稼ぎの日本人、外国人のなかで、勤勉と清潔の点で、最もまさる。英語を学ぼうとし、農業以外の各種の仕事にも適す(ロンドン・タイムズ)。         *  米人が横浜に、時計会社を作る。日本人の器用さを活用して製造、輸出も計画。両方の利益となる(東朝)。現地企業の先駆。         *  警察の密偵は、泥棒、スリ、バクチなどの犯人は捕えるが、政治犯は苦手《にがて》。学識不足の上に、交際費も不足(中央)。         *  明治八年に開始した、郵便貯金。その人数が百万人を越えた。         *  この年。  アメリカのシカゴで、万国博。直径八十メートルの、世界初の大観覧車が評判。展示のチョコレート製造機を、ハーシーが買って量産を開始。日本館は、お茶の味を宣伝。  ノルウエーの画家ムンクは『叫び』などが認められ、フランス留学の資金をもらう。  パリでは、ロートレックが石版画のポスターを製作。キャバレー用のと、日本の浮世絵三百点の展覧会のものと。  昨年末より滞米中の、チェコの作曲家ドボルザーク。交響曲『新世界より』を発表。  ニュージーランドで、女性にも投票権。世界で最初の国となる。    ●明治二十七年(一八九四)  米国の下院に、ハワイ国統治権の買収案を主張する議員が出現(時事)。         *  ハワイの人口。原住民、五万。日本人、二万。清国人、一万五千。米国人、二千。         *  東京市内の紙屑《かみくず》ひろい、約九百人。早朝より深夜まで歩き、生活費とする(国民)。         *  岩谷というタバコ業者、東京の乞食のなかの健康な男女を、製造職人に採用(読売)。         *  天皇、皇后。ご成婚二十五年の祝典がなされ、大臣、外国の公使などがまねかれた。  記念切手が、外国人に好評(時事)。         *  祝典の日に岡山県の村で飛ばした気球、二十日がかりで山梨県の村に落下(時事)。         *  京都での正午の号砲は、山での反響が大きすぎる。お寺の鐘をつくことに(郵便報知)。         *  浅草の見世物小屋。防腐剤を注入した、大鯨が陳列された(時事)。         *  日英の新条約が成立(時事)。不平等条約改正、ひとつ前進。         *  新橋・上野間に、高架で鉄道を走らせる計画。人馬との立体交差のため(時事)。         *  香港でペスト流行。北里柴三郎博士、出張し、ついに病原菌を発見する。         *  韓国の農民が反乱。清国が兵を派遣し、日本も出兵(時事)。日本の政府は議会と対立、何度も解散。国民の目を外にむけさせたいと、苦慮していた。         *  六月二十日、東京に地震。官庁の洋風建物に、被害が多い(時事)。         *  京都で飼犬に保険をかける会社、保犬会社が作られた(読売)。         *  清国。強硬派の意見が通り、韓国にいる日本兵に大軍を進める。軍艦も出動。         *  八月一日。日本、清国に宣戦。         *  清国も。わが属邦を保護するためと。         *  東京湾に、防備のため機雷を敷設《ふせつ》。赤色灯にて、場所を明示する(時事)。         *  キリスト教徒、戦争への協力のため、全国的運動を開始(郵便報知)。         *  戦争の絵が売れ、オモチャ屋にサーベル、ラッパが並ぶ。講談や落語で、戦争を大げさに話さないようにと注意がされた(時事)。         *  広島に大本営を進め、天皇、首相と陸海軍の大臣、その地へ(時事)。         *  戦争での兵器や艦艇の実情見物に、欧米より二十数人が来日、帝国ホテルへ(国民)。         *  黄海の海戦で、日本艦隊、清国艦隊に大勝利(時事)。清国の艦は、外見は立派だが、性能でかなり劣っていた。         *  赤十字の看護行動『婦人従軍歌』(国民)。   火筒《ほづつ》の響き遠ざかる   あとには虫も声たてず……         *  議会、広島にて開会。天皇より勅語。政府の議案は、一日ですべて通過(時事)。         *  父の星一《はじめ》、勉学のため横浜より渡米。         *  日本軍、鴨緑江《おうりよくこう》を渡り、清国領へ。遼東半島《りようとうはんとう》の旅順、大連を占領。         *  勝利を祝し慶応義塾の学生、タイマツ行列。二重橋まで進み、万歳を叫ぶ(時事)。         *  この年。米国が、清国からの移民数を制限する。テキサスで油田を発見。  ロシア皇帝、死去。日本で負傷したニコライ二世が、あとをつぐ。  ユダヤ系のフランス陸軍大尉、ドレフュスに、スパイ罪の判決。人種偏見のため。  画家、ビアズレーの本が出版された。    ●明治二十八年(一八九五)  清国、講和使節の人選にかかる。日本の反応をさぐるためか、ゆっくりと(東日)。         *  戦いも順調で、新年ともなり、新橋の料亭は、景気をとりもどす(東朝)。         *  本年に入って、大勝利、かちどき、万歳などの名のついた商品がふえる(経済雑誌)。         *  奥様と呼ぶのがはやる。殿様・奥様。旦那様・ご深窓《しんぞう》様。ご亭主・おかみさん。この組合せが正しいのに(経済雑誌)。         *  社説。坪内逍遙《しようよう》君は、シェークスピアの劇の全部の翻訳をすべきだ(毎日)。         *  広島県、ある村の男。ヘビ、カエル、各種の昆虫を好んで食べる。変なやつだ(報知)。         *  神戸から帰っていった清国人たち、あっちはつまらないと、つぎつぎに戻る(報知)。         *  清国の北洋艦隊、損害多く、降伏。  指揮官、丁汝昌《ていじよしよう》は服毒自殺。         *  仏国人記者の談。日本軍は規律よく、行動に乱れがなく、優秀だ(報知)。         *  丁汝昌は、香港の英国生命保険に加入していたが、自殺のため、その三万ポンドは支払われない(毎日)。         *  戦争以来、各地の写真館は、人物撮影で思わぬ利益をあげた(毎日)。         *  米国の仲介で、清国から李鴻章《りこうしよう》が講和全権として下関に到着。日本側は伊藤博文首相、陸奥《む つ》宗光《むねみつ》外相。         *  小山という暴漢、李鴻章を短銃で撃つ。軽傷だが、お見舞いのため勅使が派遣された。         *  米国は日本の勝利を喜び、婦人たちに和服がはやる。妙な姿だが(国民)。         *  日本艦隊、台湾の西の澎湖《ほうこ》島を占領。         *  夜空に大流星。愛媛県に隕石《いんせき》が落下。         *  第二師団の兵十三人に、逃亡罪で軍法会議が判決。軽禁錮《けいきんこ》三月から三年の刑(日本)。         *  京都の博覧会で、黒田清輝《せいき》作の裸体画が問題となる。賛否両論あり(東日)。         *  小学校教員が、自宅で教えるのを禁ずる。不公平になり、運動不足にもなる(日本)。         *  講和条約成立。朝鮮の独立。遼東半島、台湾、澎湖島を日本領に。賠償金、二億両《テール》。諸外国と同様の貿易の権利。         *  独、仏、露の三国の干渉で、遼東半島の返還となる。詔勅を発布。欧州諸国は意外と思いつつも、日本の物わかりのよさに好感。         *  日本陸軍、台湾に上陸。台北に総督府を置く。前途多難か(東日)。         *  台湾近海で、日独の艦隊が交戦との記事。虚報とわかり取り消し(東日)。         *  ロシアとフランス、賠償金のため、清国に金を貸す(東日)。         *  屈辱外交を批判の演説会。どの弁士の発言も中止を命じられる。詔勅を読みはじめても中止となる(日本)。         *  遼東半島返還とかけて、セミの声ととく。心は、つくづく惜しい(読売)。         *  女剣舞がはやる。少年少女による楽隊が作られ、制服でマーチ、ワルツなど演奏。各所から呼ばれ、人気がある(女学雑誌)。         *  ハワイの日本移民、工場でも働く。だが、戦勝でいい気になり、白人にいやがられる。         *  東京市内に、甘酒の露店がふえる。酒や麦湯だと、許可が必要なので(都)。         *  山陽鉄道で、列車が海に突入の大事故。百三十名が即死。主に帰還負傷兵(東日)。         *  鎌倉・七里浜・藤沢間の鉄道建設に着工。のちの江ノ島電鉄。         *  捕虜の日本兵、清国が十一名と報告。もっと多いはずと、調査を要求(時事)。         *  富士山頂に測候所を作り、年間の記録が可能となる。野中至氏の私費による(毎日)。         *  英人十七名の救世軍、来日。軍隊の組織をまねた、キリスト教の一派(日本)。         *  東京美術学校に、各地から銅像の注文が多い。日蓮上人《にちれんしようにん》、豊臣秀吉など(読売)。         *  新聞記者と称し、金をせびる男、五人を逮捕。なげかわしい(時事)。         *  日本橋区に住む人、野犬に残飯を与えていたら、ある日、札束をくわえてきた(東朝)。         *  町を走る路面電車、京都で開通。日本ではじめて。         *  東京の神田に、ローラースケート場が出現した。車滑りと呼ぶ。         *  遺言により、死体を解剖用に提供した者。東大医学部長・小金井博士、骨格を永久保存す。         *  外国人が株主となるのは禁じてないが、土地の所有は条約でみとめていない。株を持てば、間接的に所有となるのでは(国民)。         *  三菱合資会社に、銀行部が新設された。         *  樋口《ひぐち》一葉『たけくらべ』を発表。         *  かつては岩倉様など敬称をつけたが、最近は首相を呼び捨てにする(経済雑誌)。         *  青山光子、オーストリア公使のクーデンホーフ・カレルギ伯と結婚。翌年ウィーンへ。         *  遼東半島の返還の代償とし、清国は日本に三千万両《テール》を支払う(官報)。戦争償金とを合計すれば、二億三千万両。その一割は、すべて小学教育のために使う(国民)。         *  札幌のある夫婦。本年中に六十八回の別居と、仲直り。どういうつもりか(都)。         *  この年。米国。ニューヨークにピザの店が出現。ケロッグがコーンフレークを製造。ジレットがかみそりの薄刃を製造。コダック社が小型カメラを発売。ハーストが各地の新聞を買収。  仏国のプジョー兄弟、荷物輸送の自動車を製造。独国のベンツが乗合自動車を製造。ディーゼルが新エンジンを開発。  英国でH・G・ウェルズがSF『タイムマシン』を発表。    ●明治二十九年(一八九六)  貴族院議員は上流の人ばかり。歳費不要の提案をした者がいたが、否決(日本)。         *  特許法を施行して十年。出願は一万に達したが、くだらないものばかり(時事)。         *  東京の水道料金。世帯の人数を基準にするより、建坪に比例の方が合理的だ(国民)。         *  日本郵船、欧州までの就航を発表。突然すぎ、乗客は二人で、積荷も少ない(国民)。         *  歌舞伎座《かぶきざ》で、娘道成寺《どうじようじ》の踊りの音楽に、ピアノを加えた。評判がよくない(朝日)。         *  正岡子規、ベースボールのルールの解説文を連載(日本)。         *  島根県で慈善講と称し、私的な富くじを多量に売った連中、逮捕される(東日)。         *  原料を清国より輸入、ブラシに加工して輸出する産業、大きな利益をあげる(国民)。         *  酒税法の改正。ミリンも酒なり(官報)。         *  昨年末にドイツのレントゲンの発明によるX線装置、日本に。東大で魚や小動物、財布などを撮影した写真を展示した(報知)。         *  女医、好評にて数が増加。医塾を出て開業試験に合格すれば、営業できる(報知)。         *  小石川の菓子屋。婦人客が米を一合ずつ持ってきて、菓子と交換。あとをつけると、金持ちで倹約家の亭主が、現金を渡してくれないので、子供に泣かれてと(読売)。         *  反日運動の被害者のため、朝鮮政府に十二万円の要求をする。まずい外交だ(毎日)。         *  広島市の遊郭に、豪華な便所が作られた。入るとオルガンの音が響く(都)。         *  浅草公園に、鏡ばかりで作った迷路が作られ、評判となる(報知)。         *  米国で紙製のヒキガエルの景品が流行。工賃の安い日本に百万個の注文が(読売)。         *  大山巌《いわお》の長女の信子、結核にて死去。二十歳。小説『不如帰《ほととぎす》』のモデル。         *  新橋、横浜駅に婦人上等客専用の待合室があるが、入りたがる男が多く迷惑(東朝)。         *  三陸海岸に大津波。死者は三万に近く、惨状はなはだし(東日)。         *  小田原・熱海間の、レール上の車を人間が引く、人車鉄道。利用者が多い(国民)。         *  山陽鉄道は遠くから通学する小学生に、四分の一の値段の割引切符を発行(時事)。         *  戦争の時、物資納入、相場でもうける人、費用の一部をかすめる軍人は国賊だ(報知)。         *  肥桶の自分の名の上に、勲八等と書いたのを見た。従軍者なのだろうがね(日本)。         *  日本軍の下で働き、戦後、日本式の兵営や訓練法の軍隊を作った清国人がいる(報知)。         * 「よくッてよ」の言葉がはやる。山の手の下層から、屋敷町の令嬢へと(早稲田文学)。         *  ある代議士。姫路師団設置を知り、仲間と予定地を買収し、不当の利益を(国民)。         *  ある夏の日。午後三時から四時までに日本橋を渡った数。男、一六八八。女、二一二。鉄道馬車、三三台。人力車、一二一台。荷車、二一台。日本犬、一匹(報知)。         *  横浜の菓子店。夜中に侵入した賊、金に目もくれず、大マンジュウを六十、餅を九十も食べ、そとへ出た時に逮捕された(時事)。         *  学齢未満の児童の、小学校にかようのを厳禁する(官報)。託児所ではないのだ。         *  盛岡に大地震。岐阜に大暴風。三重県の海岸に津波。大阪府下は大洪水(東日・ほか)。         *  天皇のお好きなバナナ。小笠原《おがさわら》から運ぶよりと、新宿御苑で栽培、結実に成功(読売)。         *  大阪の天王寺の塔の上から、若い男が投身自殺した。身元不明。仮埋葬(毎日)。         *  貴族院議員で某県知事の娘、千坂みつ子。美人、頭よく、英語たくみ。金づかいが派手で、離婚となる。男をあさり、詐欺をやり、そのあげくつかまる。三十四歳(時事)。         *  東京の電灯は、暗い。手術中に光が弱まるのは危険だ。独占事業のためか(時事)。         *  この年。八幡製鉄所に製鉄所官制公布、鋼鉄の主要生産国をめざす。日本車両製造会社が設立、鉄道関係を国産化する。川崎造船所会社も。日本製粉は、この分野で日本最初。  戦争償金は、産業をも振興させた。         *  この年。クーベルタン男爵の努力で、第一回近代オリンピック大会が、ギリシャのアテネで開かれた。  アマゾン川の千五百キロ上流の町マナウスに、大歌劇場が完成。自転車、自動車の生産向上で、ゴム園主たちが成金となったため。    ●明治三十年(一八九七)  元日号より、尾崎紅葉の小説『金色夜叉《こんじきやしや》』の連載開始(読売)。大変な話題となる。         *  皇太后、崩御。京都で大葬。大赦もなされる。英照皇太后とお呼びすることになる。         *  日刊の英字新聞「ジャパン・タイムス」が発刊となる。         *  千坂みつ子の公判。千五百人が傍聴券を求めて押し合い、けが人が出た(毎日)。         *  三井・住友両家の婚儀。貨車七両で、箪笥《たんす》二十五ほかの品々を大阪より東京へ(報知)。         *  足尾銅山の鉱毒問題。請願のため、八百人が上京、不穏な動きとなる(東日)。         *  人力車の発明者、和泉要助。老いて貧苦の生活。議会で恩給支出の提案が(報知)。         *  奈良へ出張した役人、勅使河原《てしがはら》という男。宿帳に署名したら、勅使《ちよくし》の河原さまがと、大歓迎され、警官も来る(毎日)。         *  堕落書生がふえる。また「おい大将」と気安く呼ぶのがはやる(経済雑誌)。         *  オトウサマ、オカアサマと呼ばせる家がふえた。昔はオトッサン、オッカサン。町の子はチャン、オッカアだったが(経済雑誌)。         *  軍人のなかに部下の、財産家の出の兵卒から、金を巻き上げるのがいる(時事)。         *  大阪についで東京で、活動写真が上演された。連日、超満員(風俗画報)。         *  岡山県のある村。十六歳の娘が、ふっと家出。なんの連絡もないまま、九十年たって帰宅。どこにいたのか(東朝)。         *  英国はロシアの東洋進出と、日露の協調傾向を、警戒している(国民)。         *  台湾を視察の報告。すぐに利益の出るものはない。港や倉庫を整備すれば、香港のように交易基地として発展する(東北新聞)。         *  建物の建築が多いので、レンガとセメントの不足と値上りがつづいている(報知)。         *  成田まで鉄道が通じ、不動さまへの参詣者がふえ、増発してもまにあわない(報知)。         *  浅草の凌雲閣が、質屋の所有に(毎日)。         *  足尾銅山に、鉱毒を排除するよう、政府が命令(中外)。しかし、工事は不完全。         *  日本橋の白木屋呉服店。六月に入って三日間、朝の五時より営業。客の数はふえないが、売上げは昨年の二割まし(報知)。         *  米国、ハワイを併合。このままだと、日本領になってしまうと(日本)。         *  外国航路の日本船の船長は、ほとんど外国人。日本人は二名のみ。養成が必要(東北)。         *  小石川の貧乏神の神社に、参拝者ふえる。貧乏を預ってくれると解釈して(読売)。         *  天皇。台湾で最も高いモリソン山は、新高山《にいたかやま》に改称すると告示(報知)。         *  上京の学生のため、学資保管会社が開業。遊びに使わぬよう、預って監理(報知)。         *  台湾の住民に、賄賂の風習が残っている。日本の役人に、純金製の名刺を出す(報知)。         *  タバコ業の村井商会。景品が当ると宣伝して、なにも出さない。怒った群集、店に乱入し、家具や家屋をぶちこわす(日本)。         *  両国の花火に人が集り、欄干《らんかん》がこわれ、約二百人が川へ落ちる。九十一年前にも、同様の事件が起っている(時事)。         *  東京で、浪花節を演じる者が出た(太陽)。十年後に、大流行になる。         *  華族も、品格をそなえていれば、存在の価値がある(日本人)。三宅雪嶺の文。         *  浅田飴の広告がのる。ずっと使われる「良薬にして口に甘《あま》し」の標語で(東朝)。         *  葉書《はがき》のあて名のそばに「親展」と書いた人がいる(読売)。         *  長野県の飯田。精米がおくれ、米価上昇。祭りの酒に酔った連中、米騒動を開始。加わる者がふえて、警官と大乱闘に(東朝)。         *  植物学者の平瀬氏がイチョウ、池野氏がソテツ。いずれも精子で結実と解明。この研究は世界的に話題となる(時事)。         *  玩具《がんぐ》会社。米人に十二支を選ばせた。タヌキ、クマ、シカなどが混入(時事)。         *  手形、小切手。インクだと消せるので、墨《すみ》に限ると、三井銀行が注意(時事)。         *  シベリアの漁場で作業中の、日本人の漁夫が五名、射殺される(東朝)。         *  英国で製造の戦艦・敷島、朝日。米仏へ注文の艦も合せ、計十隻がつぎつぎと完成。         *  ソバが一銭五厘から、二銭に値上げ。銭湯も同様。いつも同一歩調だ。         *  厘の単位を、切捨てる銀行がふえた。値上げの業種も出たが、国税は減収(国民)。         *  ドイツ艦隊、自国の宣教師が強盗に殺されたのを理由に、清国山東省の青島《チンタオ》や膠州《こうしゆう》湾に出兵、占領する(日本)。         *  ロシア艦隊は、旅順を占領(東朝)。三国干渉は、なんだったのだ。         *  京橋の高利貸。貸金の代りに、妾を取り上げる。食事代がかかる上、手をつけて子がうまれた。養育はどうする(東日)。         *  資生堂薬局。化粧品の製造、販売を開始。         *  この年。第一回、ボストン・マラソン。  スーザが『星条旗よ永遠なれ』を作曲。  ニューヨークにアストリア・ホテル完成。  アイルランドでボイコット氏、死去。悪質な地主には、農民は共同して排斥せよと主張し、支配下の農民にそれをやられた。    ●明治三十一年(一八九八)  故皇太后の喪中、正月の町に飾りが少ない。         *  飼犬の税、一頭につき年に二円(報知)。ソバの代金の百倍。         *  電話交換の仕事に適当とみなされ、多数の女子を募集(国民)。         *  ドイツ、青島と膠州湾の租借権を得る。         *  京都貯蓄銀行、倒産。預金者に京都御所の女官が多いが、どうにもならぬ(読売)。         *  照山鈴という男、学術講演会を開いたら、女弁士と思った客で満員。本人を見て、ヤジと文句。正巳《まさみ》と改名した(読売)。         *  男どうしの性行為は、犯罪とみなす。         *  政府はなにを質問されても「ただいま調査中」ですます。便利な言葉だ(東朝)。         *  愛知県のある村。ベニショウガを製造し、清国、仏国に輸出し好調(報知)。         *  衆議院議員に軍人がいないので、軍備問題で政府に迫れない。名案はないか(時事)。         *  乃木希典、行政が苦手で台湾総督を辞任。後任に児玉源太郎。実務を担当する民政局長には、後藤新平。         *  静岡県の三島の寺。連夜、猫念仏という会が催される。若い男女が集り、念仏のあとで雑魚《ざ こ》寝《ね》する。注意もききめなし(東日)。         *  旅順、大連を占領しつづけの露国、清国より租借権を得る。ああ(東朝)。         *  山梨県庁の役人、予算の出張費を年度内に使わなければと、旅行が多い(東日)。         *  論点数倶楽部が出来た。ローンテニスのクラブ。会員に政府高官が多い(報知)。         *  多くの新聞に、講談の速記が連載されるようになった。小説より多い(太陽)。         *   打ち揚《あ》ぐるボールは高く雲に入りて   また落ち来《きた》る人の手の中に  子規         *  東京へ遷都、三十年。二重橋前で、奉祝。天皇、皇后に、祝辞と音楽、歌、万歳。学生が多い(国民)。ほぼ十万人とか。         *  内務省は永楽病院を作り、貧民は無料。医術開業試験場に付属する施設なり(東日)。         *  不良学生が多く、寄宿校舎を作って収容。教育する計画が進行中(東日)。         *  米国とスペインが開戦。米艦隊、マニラのスペイン艦隊をほぼ全滅させる(東朝)。         *  雑誌の裸体画、発行禁止がつづく(報知)。多く売ろうと、のせすぎた傾向もある。         *  神戸では、開港三十年の祝典。内外の関係者、三千人が集り盛会(国民)。         *  天皇、物価上昇による食料難をご心配。侍従たちに、各地の視察を命じる(京華日報)。         *  戦死者遺族に下賜金。そのなかの女性の珍しい名を、選び出した人がいた(報知)。  うん、よて、むち、りか、うま、かつを、との、あん、けん、にわ、よえ、あり、他。         *  大臣の交代の時、次官が辞表を出す例があるが、慣習になってはと禁止(東朝)。         *  伊藤内閣、総辞職。新首相に大隈重信。内相に板垣退助。国会開設後、はじめて薩長以外の人物での内閣(国民)。         *  第一回総選挙から丸八年なのに、すでに六回も選挙をやった。         *  海外へ出て売春する日本女性。北はシベリアから、南はもちろん、西はトルコに及ぶ。         *  軍医学校長・森鴎外。深夜まで読書の健康法を聞かれ、一日に卵十個、牛乳三合と。作家の斎藤緑雨《りよくう》、試みたがだめ(報知)。         *  開国の恩人・ペリー提督の孫という男、来日。各地で歓迎会を開いたが、いつのまにか帰国。本物だったかの議論あり(日本)。         *  日本は花が多いから、蜜蜂《みつばち》の産業に適当だと、英米の組合からすすめられた(日本)。         *  自転車会の五人の男、神戸から五十三次を走り、五日目に東京へ(国民)。         *  東京・神田の青物市場、二百年祭。山車《だ し》や飾りを見に、多くの人が集った(読売)。         *  需要増加のインキ。丸善洋物店が、良質の国産品の発売をはじめた(東日)。         *  北京《ペキン》の政情が不安定。西太后、強力な行政が必要と摂政《せつしよう》の地位に復帰、実権を握る。         *  台湾神社を造営。領有の初期に陸軍を指揮し、病死なされた北白川宮の霊のため。         *  カナリヤ飼育のブームが去り、つがいの値段も、全盛期の二百分の一(東朝)。         *  野党の時は地租軽減を主張していた大隈内閣、増税の必要を言う(国民)。         *  北京で改革派が弾圧されかけている。日本は清国政府に、極刑は中止し温和な解決をと尽力。いくらか効果があったようだ(日本)。         *  清国皇帝の自殺説、暗殺説(国民)。デマ。         *  東京に市制が適用。市長、助役がきまる。         *  西欧諸国、中国利権で自分勝手な案を作成。イタリアまで。だまっているのは、日米ぐらいだ。         *  尾崎行雄・文相。演説会で不適当発言。辞任する。ああ、またも安易な解決(日本)。         *  閣内の統一を保てず、大隈内閣は行きづまる(時事)。つぎは山県有朋内閣。         *  ドイツ人の医師ベルツ。日本人は山歩きをし、体育にはげむべきだと講演(太陽)。         *  伊藤博文の夫人の趣味は、看護。病人がいると、手当てしたがる。赤十字の模範社員。芝居見物は、二年に一回ほど(報知)。         *  上野の西郷隆盛の銅像、除幕式。集る者、多数(東朝)。犬のモデルは、徳川家の愛犬、外国産のトラの孫とのこと(報知)。         *  政府案に賛成し、金をもらったと自慢する代議士。なんということ(東朝)。         *  この年。米国がスペインと交戦。フィリッピン、グアムを領有。  ニューヨーク、三五〇万人の大都市に。  米国の自動車の生産数。前年の百台から、千台に増加。  キューリー夫妻、ラジウムを発見。  アヘンが原料のヘロイン。セキドメの薬として、バイエル社が発売。飲み薬。  ルイ・ヴィトン、自社のマークを登録。宝石商のカルティエ、パリに店を出す。    ●明治三十二年(一八九九)  新聞を発行し、十七年。全号を保存していたら、五八貫だ(時事)。二一八キロ。         *  勝海舟、死去。七十七歳。葬式は簡単にして、その費用を貧民救済に寄付(中外)。最後の言葉は「これでおしまい」とのこと。  男子なく、孫娘と結婚した養子の、徳川慶喜の十男が、あとをついで伯爵に(国民)。         *  所得税改正。累進の最高が五・五パーセント。利子には二パーセント、法人の利益には二・五パーセント(官報)。         *  米国に禁酒論者が多い。雇った部下にも飲酒を許さない。日本移民のなかに、酒粕《さけかす》で代用する者あり、輸出がはじまる(報知)。         *  関東地方で五十件の犯行の、稲妻強盗が逮捕された(時事)。凶悪と、死刑の判決。         *  群馬県の伊勢崎《いせざき》織が好評。女性の収入が男の倍以上(報知)。カカア天下。         *  代議士の犬養毅《いぬかいつよし》が「歳費値上げ論だが、実現したら、もっと欲しいとなる。清潔は当人の性格の問題」と(報知)。         *  大本教の教祖・出口ナオ。王仁三郎《おにさぶろう》を迎えて、布教にはげむ。         *  巡査はオイやコラを、中流以上の人にはモシモシに改める。中流の基準は不明(日本)。         *  大阪。寿屋《ことぶきや》が国産の赤玉ポートワインを製造。阪神電鉄の会社設立。住友倉庫が開業。         *  ある新聞、全能全知の露国皇帝を、無能無知と誤植。号外で訂正した(東日)。         *  新橋駅の三等待合室に掛時計がなく、懐中時計を持つ上等客待合室には、ある(読売)。         *  小学生の女の子に、歌舞伎の子供役者の写真を持ち歩くのがはやる(読売)。         *  近衛師団の軍楽隊。料金を出せば、越後獅子《えちごじし》、かっぽれなどの邦楽の出張演奏もする。         *  千葉県で、女賊つかまる。力があり、米を三俵せおって盗んだこともある(読売)。         *  駅の切符発売を、女子にまかせるのが好ましいのではと、検討に着手(東日)。         *  横浜市、大火。焼失、三千二百戸(時事)。  富山市、大火。焼失、五千三百戸(国民)。         *  虎の門の東京女学館。学生がふえ風紀の乱れるのを心配。月謝を値上げし、上流の子女だけにする方針(国民)。         *  内務省。口論のあげく防疫《ぼうえき》課長が、衛生局長をなぐり、逆に椅子でたたかれる(日本)。         *  森永太一郎、アメリカより帰国し、菓子製造を開始。キャラメルを販売。         *  銀座通りの新橋ちかくに、ビアホールが出現。広告もかねる。増加の傾向。         *  パナマ帽がはやっているが、あれは西洋では老人のかぶるもの(読売)。         *  子爵・桂《かつら》太郎。子の出生届がおくれ、罰金五円。高官からは多く取るのか、まけてくれと執事が役所に交渉。話題となる(報知)。         *  ヱビスビールを、旅順・大連に輸出しようとしたが、相手にされない。日本では福の神だが、ロシア語では品のない言葉(中央)。         *  栃木県。強盗に斬られ、両腕のない男。県議選の投票所で、自筆との掲示を見て、筆を足の指の間にはさみ、有効となる(時事)。         *  鳥取県のある村。集りに勝治という男が来ない。みなで名を呼んだら、火事かと大さわぎ。その家は、やがて洪水にあう(時事)。         *  東京の市内電車。市営か民営かで、議論がつづく(国民)。         *  かつては大声で主張の条約改正。やっと実現したが、皇室主催の祝宴ぐらい(日本)。         *  板垣退助、変型ザブトンを考案。楽にすわる方法の普及をめざす(国民)。         *  ペスト、神戸に発生。古綿、古着、古紙、古革、古羽毛の南方からの輸入を禁止(国民)。         *  年賀郵便の特別扱いを開始。元日に配達してくれる(日本)。         *  東京の水道工事、落成式(中外)。         *  清国に、各国に分割支配され、文明の向上を望む声がある。虫がいいが、それをやってくれる国はないだろう(中外)。         *  豊田式の紡織機が全国に普及。好評で、生産がまにあわない(中外)。         *  この年。英国は金鉱を狙《ねら》い、クルーガー大統領のボーア共和国に開戦。南アフリカ。  米国で、ビン詰めのコカ・コーラが発売。  ハンバーグ・ステーキの呼称が定着。  ドイツの学者が、アスピリンを完成。バイエル社より販売され、超ロングセラーに。  ルノー兄弟、自動車製造に着手。アネッリ、仲間とフィアットを。 『オー・ソレ・ミオ』の歌と曲が完成。    ●明治三十三年(一九〇〇)  幸徳秋水、新年の楽しさを語る。この一週間だけは、借金取りも来ず、権力の役所も休み。自由と平等の生活だ(万朝報)。         *  未成年の禁煙法に、祇園の芸者たちが大反対。キセルなければ、ムードもない(大阪朝日)。         *  稲妻小僧。処刑執行。被害にあった各地、安心会を催し、餅や酒で祝った(国民)。         *  ドイツ皇帝、本年より二十世紀と言い、あわてる国あり。わが国は年号と神武紀元があるので、気にしなくていい(東日)。         *  ペスト防止で、東京市がネズミを買い上げる(読売)。やがて飼育する人が出て、中止。         *  花札で勝ち、業者から大金を巻き上げた代議士。除名したいが、少額ならやっている者が多く、やりにくい(大朝)。うやむやに。         *  福本日南の新聞論。国論も大切だが、世界をも考えよ。英国政府は新聞に秘密費を提供し、外交を有利に展開している(日本)。         *  宗教家の責任ある立場の者への、兵役免除の案が討議されたが、成立せず。         *  浅草の花屋敷で火事。動物小屋が燃える。やじ馬がさわぎ、高価な大猿《おおざる》一匹が焼死。老人ひとりがショック死(報知)。         *  横浜。外人案内のガイドに、不適なのがいる。組合か免許で、質の向上を(東日)。         *  日本橋の岡田小学校は、初の会社組織。商業科があり、昼夜とも授業をする(東日)。         *  子供がタバコを吸えば、親から罰金。それで親をおどす子供の漫画(時事)。         *  五月十日。皇太子ご結婚(国民)。  のちの大正天皇。妃殿下は、九条道孝公爵の四女、節子《さだこ》さま。         *  在米邦人たちが、お祝いにと自動車を献上した。試運転中、ふしぎそうに見とれる老婦人をよけ、三宅坂《みやけざか》の堀に落ちる。宮内省は、使用を中止する。         *  牛乳はブリキ缶をやめ、ガラスビンに入れることに。また、比重、脂肪量も規定がきまる(官報)。うすめて売った人がいたのか。         *  二六新聞は、三井銀行は大赤字と、何回も記事にした。新聞紙条例で中止させられる。         *  義和団が北京に迫る。反キリスト教、反外国の集団。日本も諸外国から、それに対して共同行動を求められる。         *  国語、国字の改良の件。調査と議論を重ねているが、委員たち、手におえない問題と、やる気をなくしつつある(報知)。         *  英国より寝台車を輸入。東海道線(読売)。         * 「汽笛一声新橋を」の鉄道唱歌が作詞作曲されて、大流行。         *  東京の中央駅の予定地。岩崎氏は坪四十円でなければ手放さないと、ねばる(東日)。         *  清国政府、西太后の決断で、義和団を支持し八ヵ国に宣戦(中外)。諸国からの要求で、日本も軍隊を派遣(国民)。         *  落語家の三遊亭円朝、死去。「牡丹灯籠《ぼたんどうろう》」や「文七元結《もつとい》」など、多くの話を作った。         *  伊藤博文。新政党、政友会を作る。         *  北京を攻撃。西太后と皇帝は西へ逃亡。事件は一段落。         *  自転車好きの米人と日本人。富士山の六合目から、そろって麓《ふもと》まで下りた(二六新聞)。         *  向島の剣舞をやる芸者。調子に乗って、相手をした青年を傷つけた。鳩山和夫など、数十人が見物の席で(東朝)。         *  夏目漱石《そうせき》、英国留学に出発。  野口英世《ひでよ》、フレキスナーをたよって渡米。         *  ハイカラの言葉が、はやる(読売)。         *  上野の展覧会で、黒田清輝作や外国の裸体画の一部を布でおおい、抗議される(国民)。         *  娼妓の自由廃業制がきまる。吉原では百名もやめ、店は待遇向上に苦心(時事)。         *  歯科医は全国で四百人。いない県もある。政府は増員策を立てるべきだ(時事)。         *  軍艦・三笠《みかさ》。英国で進水式、命名式。         *  ある銀行。二十五年の定期預金を新設。一円が十円にふえる。五十年なら百円(時事)。         *  東京市の参事会に収賄事件。横浜取引所で商法違反。呉造船所の疑獄(日本・ほか)。         *  徳川光圀。従一位だったのを、さらに正一位に昇格。勤皇の念があつかったと(東日)。         *  滝廉太郎《たきれんたろう》『花』を作曲。   春のうららの隅田川……。         *  漢文の授業。存続論は、日清交流のため必要。廃止論は、むずかしい用語を覚えさせ、生徒が困り、世をまどわす(日本)。         *  ブラジルのサンパウロ州。補助金を出し、日本から五万の移民を招きたいと。そこの食生活が、あうかどうか(中外)。         *  自転車の好きな人。京橋では会社に近すぎると、品川へ越した(読売)。         *  京都の少女劇団、東京で公演。座長が十二歳で、多くは十歳以下(報知)。         *  この年。米国の人口、七六〇〇万人。都市に住むのは半分以下。平均寿命、四十七歳。舗装か砂利じきの道路は、計二三〇キロ。電話は十三軒に一台の割で普及。  ドイツで、ツェッペリンが飛行船を作る。  精神分析のフロイト『夢の解釈』を出版。  世界の人口、一〇億六五〇〇万人。    ●明治三十四年(一九〇一)  新しい世紀。百年前は鎖国の徳川時代。すばらしく進歩したが、これからは列強の圧迫も強まるだろう。いっそうの努力を(時事)。         *  慶応義塾で、十九世紀を送る会。事件を回想する芝居が、余興として上演された(時事)。         *  未来予言。鉄道が世界に普及。短時間でどこへも行ける。台風の防止。遺伝操作で知能向上。身長も二割は伸びる。手術で肺臓を出し、消毒できる。動物と会話する(時事)。         *  満州でのロシアの支配権を、清国がみとめる密約が成立と、外電が報じている(時事)。         *  軍隊内での敬礼をきびしくすると、下士官になりてがないので、簡略化する(日本)。         *  福沢諭吉、死去。六十七歳。近代化につくしたが、日常では和服がほとんど。葬儀の柩《ひつぎ》には、一万人が徒歩でしたがった。         *  言文一致の討論。法律も口語体にとの主張が出て、さらに難航(報知)。         *  バイカル湖畔で、百年前にこの地で死んだ日本人の墓を発見。仙台の人で、仲間十五人と漂流のあげくらしい(報知)。         *  司法官の昇給予算が議会で否決。判事検事たち、全員で辞職もとさわぐ(時事)。         *  将来は広告の時代。意匠と文案が重要視され、米国のように報酬も高くなる(時事)。         *  頭のはげる病気が目立つ。台湾から来た風土病との説も(毎日)。         *  寝台車につづいて、食堂車が東海道線に。そのため下級車両がへり、さらに混雑することになる(報知)。一利一害のいい例。         *  四月二十九日。皇太子妃殿下、男子をご出産。裕仁《ひろひと》親王。のちの昭和天皇である。         *  伊藤内閣退陣。桂太郎内閣が成立。         *  ペスト予防のため、東京市内では、ハダシで歩くのを禁止。下駄屋が繁盛する(毎日)。         *  泉岳寺で、吉良《き ら》上野《こうずけの》介《すけ》の二百回忌(読売)。元禄十四年は、一七〇一年。         *  神戸・六甲山上に、英人により日本初のゴルフコースが作られる。四ホール。         *  すぐ廃刊になる雑誌を、三号雑誌と呼ぶ人がふえる。三日坊主からの連想(読売)。         *  黒岩涙香の論。最近の大新聞は「義」はそっちのけ読者に媚《こ》び、売れ行きの「利」で営業している(万朝)。涙香の経営する新聞。  元衆院議長、前逓信大臣、星亨《とおる》が短刀で殺される。各新聞は大悪党よばわりをしておいて、いま才を惜しむ記事。読書家、私財をたくわえず、など。なお、私の親類でない。         *  電報通信社が創立される。のちの電通。         *  軽井沢の手前で、列車が逆行。乗客の日本鉄道の技術長、息子を抱えて飛びおり惨死《ざんし》。ほかの乗客は、みな無事(時事)。         *  講習会が流行。著名人の名を並べて客を集め、話は代理人というひどいのも多い(時事)。         *  九州日の出新聞。砲台の記事が、軍機保護法違反とされる。適用第一号(東日)。         *  日本アルプスの呼称が定着(春秋)。         *  本をつんどく。この言葉が流行(学燈)。         *  横浜遊郭で、通行人にからむグレン隊の一団、逮捕(時事)。このころからの呼称か。         *  三井物産の実力者、益田孝の養子の青年、日光・華厳《けごん》の滝で投身自殺。原因は失恋。女の写真を焼き、笛を吹いてから(二六)。         *  九歳で舞台へ上った娘義太夫に驚いたら、三歳四ヵ月のが出現。うまい(報知)。         *  義和団事件、終結の調印。清国は諸国に、三十九年年賦で賠償を。うちロシアには約二十九パーセント、日本には約八パーセント。         *  その交渉の疲れでか、清国の政治家・李鴻章は二ヵ月後に死去。         *  国営の八幡製鉄所、作業開始(中外)。         *  ロシア、旅順港の軍事施設の工事を進行。東洋、日本への脅威が強まる(日本)。         *  人力車は有望な輸出産業。業者が組合を作り、規格の統一案を作ったが、当局は乗り気でない(時事)。一社だけ大きすぎたからか。         *  足尾鉱毒問題で、議会開院式より帰途の天皇に、田中正造が直訴する。代議士を辞任しての行為。全文が新聞にのり、不起訴に。         *  京浜電鉄の新線工事を、人力車の車引き二百名が集って、妨害(東日)。         *  米国より三菱造船所に、砲艦二隻の注文。フィリッピン海域用に(中外)。         *  横浜からの生糸の輸出、開港以来の最高の一年となった(国民)。         *  中江兆民、死去。五十五歳。遺体は医学のため解剖用に提供、告別式は無宗教。         *  この年。在米の高峰譲吉、共同研究でアドレナリンの分離に成功。  ジレット、安全かみそりの製造に着手。  マルコーニ、大西洋を越えての、無線通信に成功。  シカゴの日系人、加藤悟《さとり》がインスタント・コーヒーを製造。バッファローで開催された博覧会で販売。  第一回ノーベル賞。物理学では、レントゲン。平和賞は、赤十字の父のデュナン。  石油王ロックフェラー、医学研究所設立。  世界の大都市の人口。ロンドン、六六〇万。ニューヨーク、三四四万。パリ、二七〇万。ベルリン、一九〇万。シカゴ、ウィーン、ともに一七〇万。東京、一四五万。  ロサンゼルス、一〇万。ダラス、四万。    ●明治三十五年(一九〇二)  上野動物園、ドイツの業者からライオンとダチョウを買い入れる(風俗画報)。         *  青森県の八甲田山。雪中行軍を強行し、将兵二百九名が凍死する(時事)。         *  日英同盟、成立。小村外相の努力による。世界の大国と結ばれ、多くの国民が喜ぶ。         *  軍隊内での賭博が問題になる。経理部の者が主宰した(日本)。         *  足尾銅山の鉱毒の件で、暴動を起した人たちへの判決。ほとんどが無罪(時事)。         *  神田で開催の東北青年会の席上、本郷の学生、神田の学生、二派に別れ大乱闘(時事)。         *  麹町で少年が殺され、尻の肉を切り取られるという、怪事件が発生(時事)。         *  女学生用に、五角形のベースボールが考案される(読売)。四角のまま、塁間を短くしてもいいように思えるが。         *  人力車、エジプトに輸出。当地では、ラバに引かせるように改良(大朝)。         *  滋賀県の米が、米国の博覧会で入賞。日本国内の展示会で、賞状を額に入れて飾る。裸体画つきなので、注意された(時事)。         *  大阪・中之島で、小男と自認する者が集会を開く。頭は大男に勝ると、大盛会(大朝)。         *  芝・増上寺の法会《ほうえ》で、大変な人出。そばでキリスト教伝道師たちが説教をはじめ、参詣人となぐりあいとなる(読売)。         *  漢文読本。象の鼻を肉柱と形容している。変な感じなので、削除すべきだ(日本)。         *  東宮御所の建築工事。請負った三好組《みよしぐみ》と原田組が、定礎式後の酒宴で、大げんか。百余人が、なぐりあい(時事)。         *  露国で製造の軍艦も回航してきた。外国へ発注の艦、全部がそろった(時事)。         *  芸人派遣の、余興《よきよう》社。舞踊、芝居、音楽、邦楽、講談、落語、手品、花火などを(時事)。         *  姫路師団の将校を、軍服の無頼漢と地方紙が報道。警察が社を調べると、軍隊内からの投書が大量に出た(時事)。内部の紛争で。         *  皇太子妃が、男子をご出産(宮内省)。のちの秩父宮殿下である。         *  郵便ポストを黒から赤に変える。評判がよくて、遠くても入れに行く人あり(読売)。         *  富士登山が盛んになり、新橋からの汽車の切符の、割引券が発売される(風俗画報)。         *  大隈重信が創立した東京専門学校。以来二十年、早稲田大学と改称。         *  英国の大辞典。日本人の絵として、まだチョンマゲ頭が描かれている(学燈)。         *  京都で、でぶの人たちが集り、便腹倶楽部を作る。大きな腹を、自慢しあう(国民)。         *  千葉で発生した毒のある蝶《ちよう》が、銀座の柳でふえ、小児たちに被害(報知)。         *  神田の牛鍋店、燃料にガスを使う(時事)。それまでは、木炭を使用。         *  中央線の、甲府の東の笹子《ささご》トンネル。七年がかりで、やっと貫通(時事)。約四・六キロ。         *  正岡子規、死去。三十六歳。最後の句は、   をととひの糸瓜《へちま》の水もとらざりき         *  ロンドンで売り出した日本公債、すぐ全部に買手がつく(時事)。         *  自転車に下駄での乗車を禁ず。夜間は灯火をつけること(時事)。         *  横浜。ペストの伝染防止のため、海岸通りの一画の家を焼く。鼠退治が目的(時事)。         *  明治二十三年、英人宣教師ラージ氏を殺した犯人、刑事の執念で十三年目に逮捕。しかし、わずかな差で時効が成立していた(時事)。         *  新橋・京都の往復割引券、発売。紅葉見物のための(時事)。         *  代議士・大橋新太郎、財政整理のためにと歳費を辞退(日本)。博文館の創立者で、経済界でも活躍、資産家だった。         *  教科書検定に関し、贈収賄。視学官、出版関係者など、取調べを受ける(万朝)。         *  丸善が「エンサイクロペディア・ブリタニカ」の予約募集。五〇〇セット完売。         *  この年。ブーア戦争、終る。勝った英国側は、敵の攻撃による死者の、五倍の病死者を出した。  米国の化学者リトルが、レーヨンを発明。  歌手のカルーゾーが、レコードに吹込む。超ロングセラーとなる。  セオドア・ルーズベルト大統領。狩猟で母熊《ははぐま》を射《う》たなかった。それにちなんで、ぬいぐるみのテディ・ベアが作られ、売行き良好。  ハワイでパイナップル栽培会社、設立。    ●明治三十六年(一九〇三)  教科書疑獄、逮捕者ふえる。しかし、なぜか国論は沸騰しない(報知)。         *  明治座で川上音二郎、シェークスピア『オセロ』を上演(都)。大評判、新しいタバコの名かと思い、買おうとした人あり(読売)。         *  海底事業会社、創立。沈没船の引揚げ、海産物採取、築港工事などをやる(時事)。         *  静岡郵便局で、貯金箱の貸与を検討。鍵は局があずかる(国民)。         *  新しい試みの好きな、山陽鉄道会社。三等寝台の車両を入れる(中外)。         *  大阪で勧業博覧会。駅と会場とは蒸気自動車、つまりバスで結ばれ、日本では初のメリーゴーラウンドが動いた。         *  またも総選挙。奥田義人《よしと》氏は、横浜と鳥取の両地区に立候補。いずれも当選(時事)。         *  平凡な事件なのに、号外を発行し、大声で売るのが取締られる(報知)。         *  浅草公園で噴水を作るため、筆塚の石の亀《かめ》を移す。黒い妖気が出て、空に散ったとのうわさ。調べると、たき火の残りを穴に入れ、土をかけたためと判明(時事)。         *  西本願寺法主《ほつす》・大谷光瑞《こうずい》。調査隊をひきいての、西域の旅より帰国。  仏教学者・河口慧海《えかい》。ただひとり鎖国状態のチベットに潜入、六年ぶりに帰国。         *  露国が約束した満州からの撤兵は、なかなか実行されず、逆に兵員を増加させ、石炭や食料を買い占めている(時事)。         *  各国で使われはじめた無線通信機、海軍で採用される(東朝)。         *  秋田県の知事に任命された人、方言の会話に困り、上京のたびに何人かを同行。話し方の講習会も開き、改善の傾向(報知)。         *  露国、満州にて清国兵を多数やとう。清国に、密約を結ぶよう迫る(東朝)。         *  東京で催眠術教習所がふえた。被害者が多いらしく、取締るための実態調査を(日本)。         *  大阪の博覧会、八十メートルの高塔が風で倒れ、家三軒つぶれ、死者一名(東朝)。         *  夜間。ポストから郵便を盗み、為替券を抜き取る犯罪が多い。注意を(東日)。         *  万世橋のそば、活動写真の看板を首から下げ、うろつく男(読売)。サンドイッチマン。         *  自動車のベルを、人力車につけるのがふえる。前の人に声をかけずにすむ(読売)。         *  露国人が、鴨緑江の朝鮮側の土地を買入れようと交渉している。条約違反だ(東朝)。         *  尾崎紅葉、幸田露伴、森鴎外など、文学博士の候補になったが、すぐれた作家に与える性質のものではないので、考慮中(大朝)。         *  十八歳の一高生、藤村操《みさお》が日光・華厳の滝で投身自殺。そばの大樹の幹を削り、そこに巌頭之感《がんとうのかん》の一文を書き残した。         *  歌舞伎座で、着色活動写真を上映。曲芸、火災、自然界などの実写物(中外)。         *  藤村につづき、学生が自殺。まだまだつづきそう。防ぎにくい流行だ(東朝)。         *  東京帝大の学位ある教授、七名。満州問題で露国に強硬な主張をと、桂首相に意見書を提出(東朝)。文部大臣より注意があり、記者との会では、あいまいな発言(東日)。         *  駐日の露国公使、清国の留学生に、日本の立憲制と民権思想は危険。露国で学ぶのが有益と、勧誘している(日本)。         *  ハワイのパールハーバー。米国は軍港とするための工事を進行(東朝)。         *  小西本店が、小型カメラを発売。         *  桂内閣、改造。内務大臣兼、台湾総督兼、文部大臣、陸軍中将・児玉源太郎(官報)。         *  左側通行の慣習が乱れ、衝突増加の傾向。各警察に、指導するよう内訓(東日)。         *  日比谷公園の夜間開放は、花や枝を折り取る者のあるため、見あわせとなる(日本)。         *  見えなくても、電気は物。これを盗めば罪になると、大審院で判決。         *  日本の対韓外交は、相手の心理を無視し、強引だ。露国の宣伝に利用される(報知)。         *  国勢調査の法律が成立したが、実行の予算が否決され、いつになることか(中外)。         *  明治法律学校を、明治大学に改称。  和仏法律学校を、法政大学に改称。         *  露国内で、日本人は最も不可解との説がひろまり、不安感が高まっている(報知)。         *  東京の路面電車、営業を開始。まず有楽町と神田橋の間で(中外)。         *  モルガン財閥の息子、日本で祇園のお雪を見て、熱を上げた。帰国しても、手紙ぜめ。大金を出し、夫人とする。翌年に渡米。         *  内村鑑三、非戦論を主張。強硬的な対露同志会は、派閥争いで分裂寸前。         *  東京近郊の村の道で、二十七銭を強奪した男、裁判所で懲役九年の判決(東朝)。         *  露国の探偵・スパイが増加。軍港の近くを歩く白人、清国人に注意を(報知)。         *  汽船の東海丸、ロシア船と衝突して沈没。乗船者二百名中、百五十名が死亡(東朝)。         *  ロシア語を学ぶ学生がふえ、英独語以上。教室に入りきれぬほど(東朝)。         *  尾崎紅葉、死去。三十七歳。『金色夜叉』は未完となる。         *  新橋駅で切符売り係、女性四名を採用。好評だが、珍しがっては仕事の邪魔(東日)。         *  平山博士が観測した小遊星、新しい発見とみとめられ『東京』と命名す(東朝)。         *  将校の定年。大将、六十五歳。大佐、五十五歳。大尉、四十八歳。元帥《げんすい》は終身(官報)。         *  十二月より、東海道線の客車に、蒸気で足を暖める設備がつく(中外)。         *  議会開院式の勅語への奉答文。原案を作成し、なかに政府批判の部分があった。直せ、だめだで、解散となる。翌年三月に総選挙。         *  東郷平八郎、連合艦隊司令長官になる。         *  この年。ブロードウェイで、ミュージカルの『オズの魔法使い』上演される。  初の物語性のある映画『大列車強盗』が完成。迫力ある、十二分の大作。  フォード自動車会社、創立。  ニューヨークで、メアリーという女性が話題になる。発病しないが発疹《はつしん》チフスの保菌者で、病気をひろめた。  自転車レースのツール・ド・フランスの第一回が開催された。  野球の第一回ワールド・シリーズも。  ライト兄弟、ガソリン動力の飛行機で、空中を飛ぶのに成功。  シベリア鉄道、バイカル湖ぞいを残して完成。ロシア国内は凶作のため、数百万人が死亡。    ●明治三十七年(一九〇四)  小村外相と、露国駐日公使ローゼンの会見で、双方の要求を示し会談。難航(東朝)。         *  名古屋の九歳の男児が、ためた金を軍に献金。安易な流行になるのが心配だ(万朝)。         *  露国に国交断絶を通告。陸軍の第一軍、韓国の仁川へ向う。護衛の軍艦は、帰途に交戦し、露国の艦の二隻を沈める。         *  宣戦布告。詔勅。……露国ニ対シテ戦ヲ宣ス……豈《アニ》朕ガ志ナラムヤ……(官報)。         *  文部省訓令。献金の精神はいいが、父兄にねだった金では、好ましくない(官報)。         *  暴落していた株式、大暴騰(中外)。         *  東京の市民、気分が落ち着かず、旗を持って各所を歩き、万歳を叫ぶ(毎日)。         *  東郷司令長官戦死の報道あり。混乱による誤報で、わが社の報道は正確だ(時事)。         *  ハルビンより南へ避難する日本人。男女をとわず、露兵に乱暴され、荷物を強奪され、言語に絶す(東朝)。         *  東京の路面電車内は、禁煙となる(万朝)。         *  菓子の老舗《しにせ》・壺屋で、老夫婦と娘が殺される。財産も社会的地位もあるが、複雑な家庭で、だれも品行がよくなかった(報知)。         *  三月一日。衆議院議員の総選挙。さすがに違反の件数は少なかった(東朝)。         *  二月八日夜。九州霧島神宮より、無数の火の玉が列を作り、高千穂の峰へ飛んだ。日清戦争の勝利の時にも、それを見た(報知)。         *  移動のため兵士の一隊が、高輪泉岳寺に宿泊。人数は四十七名。隊長は大石良弼。偶然だが、墓前に努力を誓った(国民)。         *  義太夫組合、男と女の二派に分裂(都)。人気は女、実力は男か。         *  露国の巡洋艦ボヤリン号、不注意で味方の機雷に触れ、沈没との情報(東朝)。         *  軍の需要を期待し、カンピョウを買い占めた人。おもわくはずれ暴落(中外)。         *  議会、非常時特別税を可決。煙草《たばこ》は政府の専売となる(官報)。軍への感謝決議、法案、なにもかも満場一致で可決。         *  広瀬武夫中佐、旅順港で戦死。辞世の語。   七生報国 一死心堅 再期成効 含笑上船         *  日比谷公園の洋風喫茶店。落札により、松本楼が営業を継承することになる(国民)。         *  露国海軍・マカロフ司令長官、撃沈され戦死(東朝)。しりとり歌に名が残る。  ……金の玉、マカロフ、ふんどし……         *  金銭紛失や身体検査で、女学生を裸体にしたのが二校あり、問題となる(二六)。         *  蒙古人《もうこじん》に変装し、敵中に侵入、活躍中につかまった横川省三、銃殺さる。自由民権家、新聞特派員、米国留学など、多彩な一生。         *  日比谷公園で、戦勝祝いに十万の人出。提灯行列、花火、爆竹、軍楽隊。大量の酒の寄付。大混乱となり、死者二十人(東朝)。         *  社告。重大事件は、電報で通知する。費用負担の人に限る(読売)。安いものではない。         *  露軍、旅順の海戦で死んだ日本兵、二十六人の死体を葬《ほうむ》る。棺を日本国旗で包み、護衛兵が立ち、音楽も演奏。立派な行為(東朝)。         *  連合艦隊、遼東半島を封鎖宣言。中立国の船も、通過を許さない(時事)。         *  戦争記事の新聞に押され、小説や講談本は読まれない(東朝)。新聞は、煙草が専売になり、広告収入が激減して困っている。         *  常陸《ひたち》丸《まる》は、欧州航路の客船だった。軍用に使われ、将兵を乗せて外洋へ出た時、露艦の砲撃を受けて沈没。千人以上が戦死。         *  満州方面軍。総司令官に大山巌。総参謀長に児玉源太郎。         *  大阪市の人口、百万人を突破(大朝)。         *  輸送船で捕虜になった日本兵。露国の発表によると将校二十六、兵百八十二(日本)。         *  露国のバルチック艦隊、バルト海から東洋へむかうと。まず五隻編成のが(東朝)。         *  東大内で、放火犯逮捕。造船の図面を盗んで、露国に売ろうとして(東朝)。前科三犯、教育のない若者、本気だったのか。         *  文部省訓令。全国の学校で、なるべく多くの植樹をするのが望ましい(官報)。         *  紫色の鉛筆が、学校で使用禁止。粉が目に入ると、有害との説が出たため(報知)。         *  ウラジオストックの露艦。津軽海峡や、房総沖に出没、伊豆大島で砲声(東朝)。         *  戦死と伝えられた椎名《しいな》大尉。遺族の請求で生命保険金が支払われた。やがて捕虜として生存と判明、返還させられた(報知)。         *  車引きは、ひざから上を股引《ももひき》でかくさなければならない。ほかの仕事の者も(東朝)。         *  浅草で、旅順陥落と叫び、号外を高く売って消えた者あり。けしからん(東朝)。         *  劇場、寄席、催物などの広告が、都新聞にのるようになる。便利だ。         *  東京では、月に約四百の縁日がある。         *  戦勝を祝し、夜の東京を電球で飾った電車が走る。見物人、歓声をあげる(毎日)。         *  南満州の戦いで、寺内陸相、福島安正少将の子息が戦死(時事)。         *  外人が吉原遊郭を見て、治安もよく、秩序があり、子供づれの老人も散歩する。他国に例を見ないと感心(報知)。         *  日本軍の傷病兵、一万人が帰国し、病院へ収容された(国民)。         *  千島探検、開発をした郡司成忠大尉、カムチャツカ半島に上陸。日章旗を立てたが敵に囲まれ、捕虜となる(東朝)。         *  与謝野晶子《よさのあきこ》、弟への詩を「明星」に。   君 死にたまふことなかれ         *  大阪の四天王寺。戦争でおくれたが、大きな鐘と鐘楼を、やっと完成(大朝)。         *  日本軍、旅順の水源地を占領。敵軍は飲用水や水力発電に困る(東朝)。         *  戦死通知は死亡診断書でないと、役所が死亡届を受け付けぬ。法改正の案が(東朝)。         *  枯草色のカーキ色。軍服に効果あり、量産開始。原料植物は、台湾に自生(日本)。         *  雑誌「道楽世界」は、よくない。ある娼妓はいいとの記事を見て乗り込み、丸め込まれて借金の山を作った男が出た(東朝)。         *  渡米、苦学の野口米次郎《よねじろう》(ヨネ・ノグチ)。英語詩人として世界的に。このたび一時帰国(報知)。         *  脱出した露兵の話。旅順の山腹に日本兵の死体、数千。放置されたまま、腐ってゆく。臭気はなはだしく、悲惨(東朝)。         *  南満州の戦いでは、日本軍が優勢。敵の総司令官は、クロパトキン。         *  バルチック艦隊は、日本艦とまちがえ、北海の英漁船の二隻を撃沈。露国の謝罪と賠償とで、決着(東朝)。         *  神田青年会館の、社会主義協会の演説会は、満員。警官の解散の指示で、大混乱。露国と同じ圧制だとの野次も(毎日)。         *  平民新聞が、共産党宣言の訳をのせ、発禁となる(東朝)。いくらか売れた。         *  多くの戦死者を出したが、旅順の二〇三《にひやくさん》高地を占領(東朝)。ここを観測所として、港内の敵艦を砲撃。全滅させた。         *  三井呉服店、三越呉服店と改称。米国式のデパートに。品種が多く。正札販売。         *  乃木大将の二人の令息。相ついで戦死。後つぎなくなる。同情と涙を捧《ささ》ぐ(東朝)。         *  東京。高官や富豪の広大な邸宅は、山林の名義で、安い税金ですませている。         *  東郷大将、上村第二艦隊司令官は、一時帰京。天皇に戦況を報告(東朝)。         *  この年。米国が仏国からルイジアナ州を買って、百一年。セントルイスに活気。  同市で万国博。電力の時代がテーマ。ハンバーグ、アイスクリーム・コーン、アイス・ティが、会場で売れる。有害着色料の食品展示コーナーは、人目をひいた。  同市では、オリンピックも。  サイ・ヤング投手、初の完全試合。  ニューヨーク・タイムズ、新社屋へ。その一帯をタイムズ・スクエアと改称。  英国の電気技師フレミング、最初の電子真空管を作る。ロシアの学者パブロフ、条件反射の学説でノーベル賞をもらう。  バリー作の『ピーター・パン』ロンドンで上演。好評で小説にもした。また、マーラーの『交響曲第五番』も初演された。  三重苦のヘレン・ケラー、大学を卒業。  トランプのオークション・ブリッジのルールが、確定された。    ●明治三十八年(一九〇五)  旅順の司令官ステッセル将軍、降伏、開城。乃木大将と会見。         *  旅順の戦利品。砲、五百門。砲弾、八万発。銃、三万丁。銃弾、二百万発(時事)。         *  露国の首都ペテルスブルグで、皇帝への請願デモ十数万人に、軍隊が発砲。         *  川上音二郎の実弟・秀二郎は各所で事件を起す困り者。短刀を持ち、貞奴《さだやつこ》に金をねだりに行き、逆に叱《しか》られた(都)。         *  二十一年わが子で育て   三月《みつき》見ぬ間に国の神(万朝)         *  鳥取県のある村。地主で金持ちの村長の口調がどもるので、みなそうなる(読売)。         *  南満州の奉天で、大激戦のあげく勝利。この三月十日が、陸軍記念日となる。         *    御製  (征露図会)   四方《よ も》の海みなはらからと思ふ世に    などあら浪の立ちさわぐらむ         *  英国の産業界に、日本警戒論。綿布製造をはじめ、漁業、輸送業、貿易など、先の話だが、現実になりかねない(中外)。         *  執行猶予《ゆうよ》の法律が成立(官報)。米、英は以前からあり、仏、独は近年になって。         *  神戸の米人の母娘。日本負傷兵のためにと、芸者になり、収入を献金(報知)。         *  東京の千住で、社会主義のビラをまく者あり。巡査が調べると、もと救世軍、壮士などの経歴で、さわぎ好きの者(東朝)。         *  四谷のお岩稲荷。参詣者へったが、復興を考えた者あり。鳥居、狐も作り、芸者たちに大人気。当局が閉鎖を命じた(東朝)。         *  大阪。阪神電鉄が開通。         *  日本に文明を伝えたヘボン博士。帰米して現在、九十歳。勲章を贈呈した(日本)。         *  バルチック艦隊、上海沖を北へ進む。         *  五月二十七日。敵艦見ユトノ……本日、天気晴朗ナレドモ、浪高シ。         *  日本海大海戦。敵艦隊三十八隻のうち、撃沈十九、捕獲五。損害は水雷艇三のみ。         *  米国ルーズベルト大統領、日露の講和を提案。両国に通知(官報)。         *  野口男三郎《おさぶろう》、逮捕。猟奇的な話題になったが、恋に狂った生活力のない男の、金ほしさの殺人(報知)。ああ世は夢か、幻か。         *  露国、会談出席を米国に回答。日本も大本営会議で、方針を決定。         *  七博士、またも集り、沿海州を領土になど、景気のいい話をぶちあげる(日本)。         *  東京の占い師の団体。日本からの全権大使の前途の運命に心配ありと、代表が伊藤博文に手紙を送った(万朝)。         *  大阪の六人殺し。愛人の浮気に立腹した男、女の親族をみな殺しにする。巻きぞえの芸者・妻吉は、両腕を失う。結婚もうまくいかず、のちに尼となる(東朝・ほか)。         *  新橋・下関間に直通列車。三十七時間。         *  村有財産の運営で、住民の税金負担のない村が、全国に四つだけある(万朝)。         *  戦勝に関連し、新煙草「ほまれ」が発売される。使用の葉は、日本産のみ(国民)。         *  講和全権委員・小村寿太郎と一行、見送りのなかを、横浜から出発。         *  慰問袋が戦地へかなり送られたが、ある女性のは、なんと亭主にとどいた(国民)。         *  日本軍、樺太を占領(東朝)。         *  神戸でロシア語の新聞を発行。捕虜たちに、世界の事情を知らせるため(東朝)。         *  名古屋に収容の捕虜、美男なのがいて、芸者たちにもてもて。静岡に移す(日本)。         *  大阪では退屈の捕虜たち、裸で雨の中を踊る。そこへ落雷、四名が即死(東朝)。         *  大連地方、日本から娼妓たちが密航。一方、事業家は、役人から冷遇される(万朝)。         *  東京・千住の一帯。夕方に白い小さい蝶が数十万、地上ちかくを飛び交《か》った(都)。         *  両国全権、ボストンのそばのポーツマスで、会談を開始。         *  七博士のひとり戸水教授。強硬論を主張しつづけ、文部省は休職を命じた(官報)。         *  清国を亡《ほろ》ぼすのは、日本だろう。在日清国の留学生の雑誌に、このような説をのせた者があり、警察が押収した(東朝)。         *  露国の体面や経済事情から、交渉の難航が予想される。ルーズベルト大統領、露国側を説得。あるいは決裂か(東朝)。         *  日本側の大譲歩以外に、講和なし(東朝)。         *  八月末。日露講和、成立。朝鮮での優越権、遼東半島租借権、南満州鉄道、沿海州漁業権を得る。賠償金はゼロ。         *  陛下、和議を廃し、戦争続行を(大朝)。         *  国民は重税も、家族の戦死も覚悟。あくまで賠償を取れ。国民の戦いなのだ(大朝)。         *  投書から。ひどい話だ。戦時中がなつかしい。講和への旅費は、全権たちが払え。兵役や国債には、もう応じない(東朝)。         *  大阪での市民大会。内閣の辞職、戦争の継続を決議。小村と満州軍へ電報(大朝)。         *  東京で国民大会。放火、建物破壊、警官と乱闘、投石、交番襲撃、大暴動(東朝)。         *  東京に戒厳令。暴動をあおる記事を禁止する。危険物の所持を調べる(官報)。         *  桂首相の愛妾、お鯉《こい》。小村全権と芸妓、小柳との仲の記事など(大朝)。         *  在露の日本軍の捕虜。将官五名以下、確認できたのは、計一六二九人(読売)。         *  佐世保港内で、三笠艦が火災。爆発し沈没する。原因調査に着手。引揚げ計画(報知)。         *  詔勅。茲《ここ》ニ平和ト光栄トヲ併《あわ》セ獲《え》テ……其《そ》レ善《よ》ク朕《ちん》カ意ヲ体《たい》シ……。         *  十月。小村全権、帰国。伊藤博文、桂首相、山本海相、横浜に出迎え。暗い雨の日で、旗も歓迎の声もない(東朝)。         *  百数十隻の連合艦隊、横浜海上で大凱旋《がいせん》式。東郷司令長官、万歳の声をあびて、新橋から皇居へ。大衆は熱狂(東朝)。         *  上野の山で、海軍の大祝賀会。人出が多く、満員の電車が迷子になる(東朝)。新橋の芸妓たちは、宴会の席で東郷大将の周囲に押し寄せ、大さわぎ(報知)。         *  軍用の民間船と捕獲船を解除。南洋航路を充実させる計画が進行(東朝)。         * 『戦友』の歌詞が出版された(文化史)。   ここは、お国を何百里……。         *  宣教師バチェラー編集のアイヌ語の辞典によれば、一万三千語で、高い文明(国民)。         *  日本は韓国の皇室を尊重し、その下に統監府をおき、外交の事務をする(官報)。         *  日露戦争。日本軍の死傷者、病気患者、ともに約二十二万。この比率は、医学の進歩で病気発生の減少を示す(東朝)。         *  大山総司令官、児玉総参謀長、凱旋。大群衆が万歳で歓迎(東朝)。         *  捕虜になった郡司大尉、帰国(日本)。         *  伊藤博文、韓国統監に。文治派の伊藤を遠ざけたと、武断派の連中が喜ぶ(万朝)。         *  この年。アインシュタインが特殊相対性理論を発表。二十六歳。  南アフリカで、三一〇六カラットのダイヤを発見。世界一。英国の王冠を飾る。  野球のタイ・カップ選手、活躍開始。二十三年間で、〇・三六七の打率を残す。  ノルウエーが、スエーデンから独立。デンマークの王子が王位に就き、統治。    ●明治三十九年(一九〇六)  丙午《ひのえうま》の年。大化二年以後、丙午の年は、ほとんど泰平無事。前回は弘化三年で、米艦が浦賀に来た年(東日)。         *  乃木大将、東京に凱旋。晴天でもあり、最大の人出となる。涙を流す人も(東朝)。         *  皇居内に侵入した男、逮捕。日時、精神状態、経路、目的など、発表なし(東朝)。         *  織物の行商人、二人が殺される。盗品の質入れで、犯人の大久保を逮捕。ほかの殺人も発覚、裁判は死刑判決(国民)。         *  福島県から東北にかけ、大凶作。東京でも、馬の飼料の芋屑《いもくず》を食う人多し(東朝)。         *  大阪。玉子屋円辰《えんたつ》、三河万歳《まんざい》をアレンジし、お笑い漫才の発端となる。         *  女権拡張会、別名はオテンバ会。有料演説会は満員だったが、女弁士は一名だけ。男弁士は、反対論。詐欺だ(万朝)。         *  東京、市内電車に値上げの動き。日比谷公園で反対集会。赤旗と太鼓で行進。ついに値上げは却下となる(東朝)。         *  小村寿太郎、枢密顧問官に。反対論に伊藤博文は、悪評を一身に受け、戦争の処理をした彼は最大の功労者だと(万朝)。         *  台湾、嘉義地方で大地震。死者は千人を越え、家屋の倒壊は約四千(東朝)。         *  ガマ、ヘビ、ナメクジを混合して飲めば妊娠しないと、ひそかに流行(東日)。丙午の年なので、子を作らないようにと。         *  夏目漱石『坊っちゃん』を発表。         *  戦勝記念の切手と絵葉書、発売。どこの郵便局も大混雑。気絶者も出る(読売)。         *  その絵葉書。明治三十七八年戦役の、役が没と印刷されていた。交換することに。         *  台湾民政長官・後藤新平、自転車競走会で一等、賞金をもらう。喜ばせて賞金以上をおごらせようとの、作戦だった(国民)。         *  女子参政権。温順貞淑、良妻賢母が望ましく、混濁の政治とは無縁がいい(日本)。         *  通信社は多いが、本からの引用、作った事件など、怪しげな記事もある(万朝)。         *  東京市が託児所を計画。図面ではみごとだが、実現はかなり先らしい(報知)。         *  南満州鉄道会社、設立。露国から取得した鉄道を運営する、半官半民の大会社。         *  京都。結婚記念の盃を進呈し、格の上の人には失礼と、怒られた人がいた(日本)。         *  広島県には、海外に移住や出稼ぎの人が多く、そのための学校が出来た(東朝)。         *  高野山は女人禁制だったが、参拝自由となる。僧の肉食も可(東朝)。         *  キリスト教信者として尊敬されていた、押川方義《まさよし》。貿易、製鉄などの事業で成功。金銭もまた神聖なりと、大いに語る(東朝)。         *  新略字の募集に、千も集る。だが、漢字の使用を減らすのが先決のようだ(報知)。         *  青山斎場、落成。埋葬者の全員と、戦いの死者の供養が、まず執行された(国民)。         *  児玉源太郎、死去。五十五歳。七男五女の子がある。日露戦で、力を使い果した。         *  練習艦上。将校二名が口論から抜刀、一名が死亡。ともに歴戦の勇士(東朝)。         *  日米間が、海底電線で通信可能に。グアム、ミッドウェー、ハワイを経由して。         *  神社は約二十万。寺院は約十万。多すぎる。放置されているのは、整理が望ましい(東朝)。         *  三井、三菱などに政府が気を使うことはない。弱味を握って、威力を示せ(万朝)。         *  天皇、皇后は毎朝、まずコーヒーをお飲みになる。豊太閤《ほうたいこう》の愛用した、黄金の茶釜《ちやがま》でわかしたお湯でとのこと(時事)。         *  斎藤実・海軍大臣が、帽子で顔をかくして、人力車を走らす。あとをつけた者、不遇な旧友の見舞いと知り、感心(都)。         *  大連を自由港とする。ここで輸出や輸入する貨物には、関税をかけない(東朝)。         *  東京で、春画製作所の手入れ。版木五千枚以上を押収。暴利を得ていた(東朝)。         *  富士登山、流行。八合目に郵便局を開設した。記念スタンプの葉書が人気(東日)。         *  隅田川に、水上料理店が。川魚を食べ、涼風に当る(万朝)。屋形船のはじまり。         *  大阪の美人芸者。高橋是清《これきよ》夫人の写真を見て、あまりの美しさに驚き手紙を出す。東京に招待され、夢みる気分(都)。         *  蓄音機で語学を習う試演会。聞きなおし可能、アクセントも明解で便利(万朝)。         *  日本娘の評判を聞き、ロシアの男がつぎつぎと来日。主に長崎で、金をばらまいて女遊びをする。連れ帰るのも(万朝)。         *  電車値上げで、またも反対運動。一万人以上の集団に憲兵が空砲。問題に(東朝)。         *  無電の完備で、海軍の伝書鳩が不要となる。横須賀で二百数十羽、払下げ(東朝)。         *  旅順の指揮官・ステッセル。士気高く、弾薬食料あるのに降服したと、悪評。寒村で謹慎生活。奉天の敗戦、海戦の全滅は許されるが、旅順だけは別らしい(報知)。         *  南満州鉄道の株式。所有したがる人が多く、申込みは千倍を越えた。         *  関東州のムチ打ちの刑。一回は二十五打以内、一日一回以下とする(官報)。         *  戦争での死者をしのび、各地で碑を建てる計画があるが、中止を望む。靖国神社だけで充分。寺内陸軍大臣(日本)。         *  今日までの本年の流行は、エスペラントと浪花節。あと、なにが加わるか(東朝)。         *  小田原の近くに住む美人。学者の未亡人の才女とか、スリの女親分とか、各種のうわさが立つ。美人なら、文句なし(報知)。         *  最新技術、秘薬などと、医師が根拠のない広告をするのを、取締る方針(万朝)。         *  雨宮敬次郎。還暦の祝いに、二百五十人に二日の作業をさせ、庭に富士山を築く。二千人を招待、さすが大金持ち(報知)。         *  日清製粉会社、設立(国民)。         *  冷蔵船の会社が新設。各地の美味の魚が食べられるようになる(中外)。         *  落ちぶれて魚の行商をしていた男。見習って剥製の技術を身につけ、いまや第一人者で、博物館、大学の仕事も(時事)。         *  野球の早慶戦。本年は応援合戦で不穏になりそうと、中止になる(時事)。         *  南満鉄道、創立。児玉源太郎の死去のため、初代総裁・後藤新平(東朝)。         *  秋田の海岸で、機雷をいじり爆発。死者発生。二千発を処理したのに(中外)。         *  兵庫県。人力車の先に犬をつなぎ、引っぱる助けをさせるのを禁止する(読売)。         *  乃木大将、驚いた馬から転落。一時、気絶状態、周囲の者あわてる(東朝)。         *  激戦で軍旗を失った第四十九連隊に、陛下が新品を親授。土肥原賢二少尉、旗手としてそれを拝受(東朝)。         *  光圀公の着手した『大日本史』ついに完成す。三九七巻、二五〇年を要した(東朝)。         *  新橋・神戸の急行列車で、車内で元日を迎える人に、おせち料理を用意(国民)。         *  この年。  サンフランシスコで大地震。市の三分の二が焼失。  ルーズベルト大統領。日露講和の仲介の功で、ノーベル平和賞を受ける。  オーストリアの医師、ピルケがアレルギーという用語を使い、過敏症に代る。  自動車好きの気球家ロールスと、自動車製造業のロイスが、ロールスロイス社を作る。騒音のないので有名になる。  ある雑誌で、五ヵ月間の自動車事故の死者は米西戦争のより多いと。アメリカン・フットボールの一シーズンの少年の死者は、一八人、重傷者は一五四人。  オー・ヘンリー、短編集を出版。    ●明治四十年(一九〇七)  長野県・諏訪湖《すわこ》に、スケート場が新設。交通の便、設備、温泉、風光、あらゆる点で、日本最高。さらに発展する(万朝)。         *  リボンが大流行。輸入をへらそうと、大急ぎで会社と工場を作る(時事)。         *  新橋駅に高級貸馬車が出現。外国人、外国商会の番頭、婚礼用などに利用(都)。         *  一月二十一日。新年より上昇一方だった株価、大暴落する(中外)。         *  乃木大将、学習院長に就任(官報)。         *  足尾銅山、九百人が大暴動。物価上昇のため、賃銀引上げを要求して(東朝)。         *  東京の糞尿の引取り料の値上げのため、一ヵ月のストを提案した者あり(万朝)。         *  兵庫電鉄の株を募集したら、一万三千倍で、処理に名案なく、みな困惑(時事)。         *  東京の自動車が十六台となり、警視庁は時速十三キロ以下に制限。         *  ソテツの精虫の発見で、世界的に有名になった池野氏。まだ学位をもらえない。法学博士ばかり乱発している(日本)。         *  福沢諭吉の創刊の「時事新報」。満二十五周年で、二百ページもの記念号を発行。もっと厚くできるが、郵送の限界で。         *  北海道、旭川の連隊。三十七名の兵が夜間に外出し、飲酒して大さわぎ(平民新聞)。         *  義務教育の小学校、四年から六年制へ。         *  三越デパート。品数を多くし、食堂、写真室を作り、音楽の演奏もやる(東朝)。         *  平民新聞が「父母を蹴《け》れ」という文章をのせ、廃刊を命じられた(平民)。         *  最近、金もうけのため、いいかげんな経済情報を流す者がある(東朝)。         *  日本の全人口、四千六百万人。ただし台湾は除く(報知)。         *  夏目漱石、朝日新聞に入社。子供が多く講師の給料では、暮すのが大変だ(東朝)。         *  浅草の芸者・羽田よし。内務大臣・原敬《たかし》とかわした昔の恋文が発覚(報知)。         *  新華族令公布。板垣退助子爵が華族一代論を主張し、話題になる(東朝)。         *  東京駅の拡張、検討中。辰野博士の設計だが、完成には年月がかかりそう(東朝)。         *  露国通の軍人、戦死をよそおって降伏。発覚して退役に。宗谷地方で働いていたがクマの群に食われて死んだ(報知)。         *  欧米視察より帰った、乙竹岩造教授。性教育の必要性について報告(万朝)。         *  ある彫刻家、展覧会場にて自作をぶちこわす。審査への不満から(報知)。         *  西園寺《さいおんじ》首相、有名な作家二十名を、自宅に招待しようとした。漱石の返事(東朝)。   ほととぎす厠《かはや》なかばに出かねけり         *  国語調査委員会(時事)。慎重に熟慮で、延々とつづいている。         *  芝の料亭・紅葉館は芸者を入れない。美人に給仕させ、踊り、音曲、英語、教養も教え、評判がいい(都)。         *  宮中の女官。箔《はく》をつけ、良縁さがしに熱心な、現代風のがふえて問題に(日本)。         *  浪花節の桃中軒雲《くも》右衛《え》門《もん》。本郷座の公演で、一ヵ月、満員をつづけた。         *  露国から一流の音楽家たちが来日。演奏会に聴衆百人。ただし、日本人は数人。         *  ラムネより高級な、サイダーが流行。         *  オランダのハーグの平和会議。韓国の皇帝が、現状に反対の密書を送る。発覚し退位。日本優位の新協約が成立(東朝)。         *  隅田川の灯籠《とうろう》流しが復活。無鉛白粉《おしろい》を作った業者が、役者追善と宣伝にと(万朝)。         *  山手線に電車が走る。それまでは、すべて石炭による蒸気列車(東朝)。         *  日露戦争で、露軍に協力し、帰化し、教授となった人物。来日して豪遊した。憤激した男に、短刀で刺殺された(東朝)。         *  ある女学校の関西旅行。精神教育と、夜間、雷雨中などを歩かせた(東日)。         *  華厳の滝で、大法要。藤村操から、計一八五人(都)。         *  フィリッピン社会が不安定。米紙に「いっそ、日本に売ってしまえ」との説が。         *  函館で大火。一万戸が焼失(東朝)。         *  韓国で断髪令。日本の理髪師が、この時とばかり、かせぎに出かける(福岡日日)。         *  露国人の土地所有を認める。外人で第一号。シベリアで日本人が土地を所有し、農業をやっているので、やむをえぬ(東朝)。         *  日露戦争の功での授爵。山県、伊藤、大山は公爵に。乃木、小村は伯爵に(官報)。         *  旭《あさひ》硝子《ガラス》会社が創業。国産の窓ガラスは失敗の連続。三菱がやっと工業化に成功。         *  バイオリンの国産に成功。それによる演歌がはやりはじめる(日本)。         *  中山慶子《よしこ》、従一位局《つぼね》、薨去《こうきよ》。明治天皇の実母。七十三歳(東朝)。         *  大阪の工場で、廃弾二万発が、一時に爆発、死者多数(万朝)。         *  実業家は戦争で利益をあげたのだ。爵位を与える必要はない(報知)。         *  故、団十郎の娘が二人、女優になる。顔をしかめる役者もあったが、同等になったと思えば頭も下げないですむと納得(都)。         *  地方議会では対立案の投票妨害に、議員を料理屋にとじこめる。缶詰と称す(万朝)。         *  戦時に参謀で大功績をあげても、中将以下に授爵なし。役人は頭がかたい(万朝)。         *  浅草に芸者養成の小学校あり。卒業証書を与えたのが発覚、閉鎖となる(東朝)。         *  京大の学生と職員が、合同で松茸《まつたけ》狩り。蜂《はち》の大群に襲われ、被害者が多数(報知)。         *  早大で大隈重信の銅像の除幕式。当人の演説あり。この時、七十歳(東朝)。         *  軍艦・鞍馬《くらま》の進水式。以後、すべての艦船を国内で作ることになる(東朝)。         *  浅草に新聞閲覧店がふえる。手入れをごまかす、風俗営業。女性をそろえ、当初は矢場、飲み屋となり、いまは新手法(日本)。         *  箕面《みのお》有馬電気軌道、設立。のちの阪急で、専務取締役が小林一三。  日本蓄音機会社、設立。のちの日本コロムビア。         *  速記者の若林〓蔵、日本文字用のタイプライターを試作。三年がかり(万朝)。         *  伊藤統監、梅謙次郎法学博士に、韓国憲法の作成を依頼(京城新報)。この時、併合の方針は、考えていなかった。         *  男女を問わず、顔を美容する店が増加。客層は広いが、相撲取りはまだ(日本)。         *  韓国皇帝、国是を公布。その第一条。上下心を一にして盛《さか》んに経綸《けいりん》を行《おこな》うべし。         *  菊五郎の話。結婚で女性のヒイキは減っても、男性がふえる。気にするな(日本)。         *  男爵・伊東海軍中将、部下の女性工員と関係。手かげんするなとの説もあったが、証拠不足で、とりあえず左遷(東朝)。         *  この年。英国の東洋学者スタイン、敦煌《とんこう》で多量の仏画、古文書を発見。  アメリカで株価の変動が激しく、金融が不安定。デマへの警告がなされる。  キャデラックの新車、八〇〇ドル。馬一頭は一五〇から三〇〇ドル。  スエーデンでベアリングの会社が設立。  アメリカの通信社、UPが設立さる。  活躍中の画家。ピカソ、モネ、マチス、ドラン、ユトリロ、ルソーなど。  モレ『黒い瞳《ひとみ》』を作曲。  電気の洗濯機、掃除機が試作された。  アルプスに、常設のスキー教習所が。  ロシアの化学者メチニコフ、ヨーグルトで長命が可能との説を発表。  パリの新聞「ルマタン」の主催で、北京パリ間の自動車大レース。一位は六〇日。  フランスの自動車業者、有人ヘリコプターを作り、一・八メートルに二〇秒浮上。    ●明治四十一年(一九〇八)  本年中に、内地の人口は五千万人を越えるだろう(東朝)。         *  佐久間象山の未亡人、死去。七十三歳。勝海舟の妹で、豪放な性格だった(二六)。         *  名古屋近郊の男。娘が十八歳の時に男と関係したので怒り、四十四歳の今まで、小部屋に閉じこめていた(東朝)。         *  東京府の仕事は、大部分が市の関係。千代田県を作り、市外をまかせよ(時事)。         *  天下に知られた新橋の名妓、ぼん太のおとろえの記事あり(都)。二十八歳なのに。         *  洋服業、運送業の人も官報を読む。大礼服、転任の注文を早くとるため(経済雑誌)。         *  派出所の名を、交番に改正。警官の服は陸海軍服の、中間の形に変る(経済雑誌)。         *  三越がデパートメントの名を使ったのに対抗し、松屋がバーゲンデーをやる(経済雑誌)。         *  和田垣博士が憲法発布当時を回想し「万歳」を唱えさせたのは自分だと。森有礼は「奉賀」を主張したが、練習で叫ばせると「阿呆《あほう》が」と聞こえ、中止となる(報知)。         *  日比谷公園で増税反対大会ありと、大ぜい集る。しかし、主催者は出現せず、酔っ払いがさわぎ、妙な形で終る(東日)。         *  デアボロという遊びが流行。ヨーヨーのようなもの。すぐにすたれた(英学生)。         *  裁判所で芸者が、印を押せと言われ、忘れたと答えた。拇印《ぼいん》でもと言われ、意味を知らず、そのボインも忘れてきてと(笑)。         *  第一連隊の兵三十二名。訓練がきついと隊列を作って脱出。二日後に帰る。だれも黙ったままなので、処分しにくい(東日)。         *  天皇、午前十時から政務。夜まで文書に目を通すことも多い。尊きかな(時事)。         *  朝日新聞社主催、世界一周旅行の五十七名が横浜港出発。パックツアーの第一号。         *  湯屋をのぞいた亀太郎、美人に熱をあげ帰途を襲い、さわがれて殺した。歯が出ているので、デバカメと呼ばれる(東日)。         *  その被害者の女性、野口米次郎の前妻。ただし、英詩人とは同名異人(東朝)。         *  韓国外交顧問のスチーブンス、米国で日本の政策を賞賛したため、韓国人になぐられ、つづいて狙撃《そげき》されて死亡(東朝)。         *  静岡のある村で、隣家の豚《ぶた》と関係した男あり。怒られ、高価で買わされて幕。めでたく同居となったわけ(国民)。         *  三田のあたり、地区整理で由緒のある建物が消えてゆく。惜しい(報知)。         *  有栖川宮の皇子、盲腸炎で死去。二十二歳。父宮の意見で、医学のために遺体を解剖に提供。新知識を得た(国民)。         *  本郷の奥井館という下宿。明治十六年より営業。博士を二十一名、出した(東日)。この時の博士総数は、五百五十人ほど。         *  四月八日夜、花が満開の帝都に大雪。みな、がっかり(東日)。         *  靖国神社中央の、大村益次郎の像。催しの邪魔だが、移すわけにもいかない(東日)。         *  東京朝日新聞に「万年筆」と称するコラムがあるが、ルビは、まんねんふで。         *  自由主義の作品が流行。風葉《ふうよう》や花袋《かたい》などきわどい。首相が招待したからだ(国民)。         *  六十六歳の警官が引退。大事件を四つも解決し、二千人近い犯人を逮捕した(都)。         *  小学校に、二人で組んでポルカを踊るのがはやる。明るく楽しいものだ(二六)。         *  五月。第十回総選挙。私の父・星一、福島県で当選(報知)。三十六歳。         *  新橋駅あたりに、花売りの少女が出現。かわいく、好評で、よく売れてる(報知)。         *  田子の浦で、和歌や句を残して、三人の女性が入水自殺。若くなく、動機不明。         *  国語調査会。酔《ゑ》うは酔《よ》うになどの統一案を出したが、解決はいつのことか(東日)。         *  丸の内のお堀に、蛍見物の人が多い。戦勝祝いに放ったのがふえた(時事)。         *  夏は、電車内で客を誘う娼婦がふえる。狙いは銀行会社員、清国留学生も(二六)。         *  ふざけた死亡広告。西園寺内閣、病状悪化で死去。本人の遺言で、同情は無用。嗣子、桂太郎。後見人、山県有朋(二六)。         *  帝劇女優養成所、開校。渋沢栄一のあいさつ。三百年、実業家と女性と俳優が軽視されてきたが、これで一つの進歩(都)。         *  桂内閣となり、後藤新平、逓信大臣として、はじめて入閣する(官報)。         *  出版社が約束を守らないと、女性が自殺す。父は憤激し、乗り込んで刺す。よく見ると社長でなく、その義父だった(都)。         *  神田に育つ大銀杏《いちよう》。幽霊が出るとか、供物《くもつ》で願いかなうとか、見物人集る(東日)。         *  デバカメに、無期の判決(東朝)。数年で出所。噂《うわさ》と自白のみで、冤罪《えんざい》の説が残る。         *  東京で世界大博覧会の計画。前内閣の意見だが、話がふくらむ一方で、失敗の可能性大。延期と決定(報知)。         *  侯爵・松方正義。六十歳を越す夫人が男児を出産。役所に庶子としての扱いを依頼し、孫にしたらとか(東朝)。本当の話か。         *  井上馨、病気。見舞客のため、新橋神戸間の急行を、静岡の興津《おきつ》駅に一分間の停車をさせる(中外)。         *  日本女子商業で、英語速記と英文タイプライターを教える科が新設された(中外)。         *  池田菊苗博士、コンブのうま味を分離。量産開始。翌年より「味の素《もと》」の名で発売。         *  東海道線の急行に、喫煙車両を新設。全面的な禁止は気の毒なので(報知)。         *  東京・青森間の陸軍自動車の試験は、結果わるし。軍馬を驚かすので、しばらくは導入しない(国民)。道も悪かったのでは。         *  文部省。再来年《さらいねん》より陰暦を廃止。明治五年以来、定着しないので実力行使(東日)。         *  清国の実力者、西太后が死去。溥儀《ふぎ》が帝位につく。ラスト・エンペラー。         *  人造肥料に、砂をまぜたりして、不当にもうけてはいけない(東日)。         *  浅草のある寺に、煩悶《はんもん》引受所が創立。来訪や手紙で、悩みを相談する人が多い。のろけを並べる人もまざるが(都)。         *  戊申《ぼしん》の詔書。維新以来、挙国一致と対外交易とで、ここまできた。今後は仕事に熱中、産業の発展を(官報より要約)。  ずっと緊張つづきで疲れ、個人主義が目立ちはじめたので(大百科全書)。         *  東京で自動車がふえた。これだと、人命や財産に危険が及ぶ。目に見えぬ被害も。いまのうちに対策を(東朝)。         *  幻の湖、楼蘭などを発見した探検家のヘディン、来日。宮中を訪問(東朝)。         *  公文書の文字。太政官令で墨に限られていたが、インキでも可となる(東朝)。         *  北原白秋や上田敏が集り、パンの会を結成。牧神の意味だが、食用パンで労働者のなにかかと、警察は注目した。         *  東京の路面電車、値上げ。怒った利用者は不乗同盟をやり、ラッシュ時もがらすきとなる。いつまでつづくか(東朝)。         *  この年。  グランド・キャニオンを保護地区に指定する。ニューヨークの二つの川の底に地下鉄用トンネルが開通する。フィラデルフィアで、母の日の行事がはじまる。  ドイツ。化学者ハーバーが、空気からアンモニアを合成する。物理学者のガイガーが、放射能を探知する計数器を作る。  活躍中の作家。アナトール・フランス。女流作家、コレット。チェスタートン。詩人のリルケ。『赤毛のアン』のモンゴメリー。  メーテルリンクの『青い鳥』初演。音楽はマーラー、ラフマニノフが、交響曲をそれぞれ発表。  東シベリアのツングースカに、巨大な火の玉が落下し爆発。調査隊が出かけたが、隕石の破片もなく、なぞが残る。    ●明治四十二年(一九〇九)  内藤鳴雪の句集が刊行。なかの一句。   元日や一系の天子富士の山         *  自動車、東京だけで、なんと三十八台。うち、国産は八台。馬車、人力車は、ほとんどふえない(国民)。         *  学校での催し物は、派手。下品にならないように、と文部省訓令(東朝)。         *  浅草、十二階建ての凌雲閣の上から投身自殺の男。吉原の女にふられて(万朝)。         *  浅草でヨカロー会の新年会。一種の消費組合だが、交友が優先のようだ(万朝)。         *  韓国皇帝、国内を巡幸。爆弾などの噂あり、伊藤統監その車両に同乗す(報知)。         *  香港の華舫《かほう》、いまの水上レストランで爆竹から大火災に。歌妓《かぎ》など三百人が死亡。ほかにも負傷者千名の惨事(国民)。         *  ピアノの国産化は山葉《やまは》氏だが、バイオリンも鈴木政吉氏が成功(大朝)。         *  救世軍が太鼓をたたいて行進。老女になにかと聞かれた見物の青年、考えたあげくに「耶蘇《ヤソ》の法華《ほつけ》さ」(万朝)。         *  神奈川県下の旅館や別荘を荒していた賊を逮捕。美男にて、語学、美術、音楽の才あり。女にもてて金の必要から(東朝)。         *  日比谷公園にて、憲法発布の二十周年祝賀会。東京市が主催(東日)。         *  来日外人は、武芸を見物したがる。そのための館を横浜に設立した(東朝)。         *  陸海軍が外国より軍需品購入に関し、リベートを取ると、議会で問題になる。集団でやるので発覚しにくいと(読売)。         *  劇場の楽屋への、女性の出入り禁止。妻だ妹だと、勝手に言って入り、なれなれしくて、確認しにくい(都)。         *  日本橋の呉服店。品物を大量に持ち出した者あり、店員がつかまえる。否定するので、なぐる、ける、ついに死亡(東朝)。         *  昨年に米仏を回って帰国の、永井荷風。作品『ふらんす物語』が発禁になる。         *  陸軍、海軍、逓信の各省。それぞれ内密に、無線の改良をしている(東日)。         *  小説の原稿二重売りは耳にするが、評論にも出現。題のみ少し違い、内容は大差なし。しかも同じ月の雑誌にとは(読売)。         *  日本橋の柳屋、煙草の密造で手入れ。小さな容器への詰め替えで、徳川五代将軍以来の営業と弁明。どうなるか(読売)。         *  二葉亭四迷、露国よりの帰途、インド洋上の船中で死去。シンガポールに碑が。         *  日本海の無人島に小屋を作り、羽毛を製造し、外国へ売った一味を逮捕(東朝)。         *  両国に国技館、開館。これで雨天でも相撲がとれる(中外)。現在のとは別。         *  伊藤博文・韓国統監、辞任。後任は副統監だった曾禰荒助《そねあらすけ》(東朝)。         *  贈賄事件の記事をのせるなの命令書を掲載し、新聞社が起訴される(大朝)。         *  東京衛生試験所長・田原良純がフグの毒を抽出。テトロドトキシンと命名(薬学誌)。         *  ロシア・パンが好評。売子としての露人を、各店が争奪しあう(東日)。         *  隅田川の水防事業を組織化。川岸や船の火事、人命救助、橋の管理など(東日)。         *  井伊大老の銅像への反対論に反論。歴史教科書に、日本開国の実行者とあるぞと投稿(東日)。ぶじに除幕式が挙行された。         *  伊藤公帰京、参内。宮中より一旅団の儀仗《ぎじよう》兵が出迎え。暗殺の危険防止より、功績をたたえるために(東朝)。         *  小学校で、農業、園芸、林業などの植物の実習をさせるのが望ましい(大朝)。         *  娯楽は活動写真が大人気で、館は増える一方。株や米相場の資金も流入(万朝)。         *  東京市が米国ワシントンの、ポトマック河畔の公園に、桜二千本を寄贈(大朝)。         *  横浜での不良少年、堕落学生などの集団の愚連隊。警察が追い散らしたが、今度は不良少女の集団が出現した(万朝)。         *  京都大学。仙人《せんにん》を自称する男に、電気を流す。一般人なら気絶するほど強度にしても平然。異常体質と認定(報知)。         *  米の鉄道王、ハリマン死去。ウォール街の株式大暴落。さすが大物(読売)。         *  政友会十周年の会場で、老壮士が党員を短刀で殺す。恋のうらみのため(報知)。         *  社会主義者の北山という男。美人に一目ぼれ、同居。同志の平林という男、すきあらばと近づく。決闘は、仲裁が入り中止。美人は仲裁男と消えてしまった(報知)。         *  米国の新大統領のタフト。サンフランシスコで演説し、今後五十年、いや百年は太平洋が世界最大の問題となろうと(大朝)。         *  三井財閥。関係者が集り、欧州の財閥を模範に、新方針をきめる(大朝)。         *  伊藤博文、露国蔵相ココフツォフとの会談のため、満州へ出発(東朝)。         *  日本の農商務省。鯨の乱獲を規制す。違反者からは罰金、漁具没収。         *  軍事上秘密を要する特許の件。出願または改訂の書類は、大臣の指示により、特許局長は密封し、封印すべし(官報)。         *  伊藤博文、ハルビン駅へ到着。列車を降りて歩き出したとたん、韓国人の民族主義者、安重根の拳銃弾を受け、死去(東朝)。         *  大隈重信の追憶。彼は知識が豊富で、性格が調和的、じつに立派な政治家だった。         *  尾崎行雄。最初は敵として戦ったが、卑劣な手段での応戦がない。で、考えた。         *  伊藤博文の国葬。日比谷公園にて挙行され、曇天の下に数十万人が参集。養嗣子の博邦は、井上馨の子で幼名勇吉(東朝)。         *  北海道の東部から、サンフランシスコに無電を発信。しかし、返電なし(万朝)。         *  日糖乗取り事件の被告。法廷で裸になって叫び、連れ出すと皇居に向い土下座。帰宅させると、高笑いに号泣。わけがわからん。長期の取調べのためか(報知)。         *  陰暦を併記の暦を出版。発行の神宮司庁を手入れできず、処理に困る。         *  東京の山手線、一部開通。烏森《からすもり》(新橋)、浜松町、田町、代々木、上野の五駅。         *  ある歌会にて、人力車夫のよめる歌。商人を客にした時の気分。   乗る人も乗せて行く身もかけひきの    道にはなやむ浮世なりけり         *  この年。ボストン美術館、完成。  五大湖でワカサギの養殖がはじまる。  米国のアイスクリーム消費量。十年前の年間五〇〇万ガロンが、六倍に増加。  キューピー人形の意匠登録を買い取り、製造した男。巨万の富を得る。  化学者レービンが、核酸のRNA、DNAを発見した。    ●明治四十三年(一九一〇)  米国から七百名の旅行団。鎌倉、新橋、日光などを見物し、各地で大歓迎(国民)。         *  米国より満州への共同投資の提案。露国がいやがるのでは(大朝)。         *  相撲の八百長の噂に、誓約文を発表。私情、情実、見苦しき行動を慎む(報知)。         *  七里が浜で、中学のボート部員が遭難。   真白き富士の嶺《ね》 緑の江の島……         *  物理学者・長岡半太郎。強力な磁場は光に影響を与えると思うが、実験の条件がそろわず、将来の計画とすると(読売)。         *  雄弁会主宰・野間清治。雑誌「雄弁」を発行。好評のため、講談社を設立し、雑誌「講談倶楽部」を発行の方針をきめる。         *  三宅坂よりお堀をへだてて皇居の堤を、午前十時ごろから毎日、子連れの狐が出あるく。見物人がふえる一方(万朝)。         *  清国、チベットに武力進駐。ダライラマはインドに避難。         *  韓国。親日派もあるが、反日派もある。集団で日本人を殺傷する事件も(国民)。         *  小学六年間の教育漢字、一三六〇字に増加される(東朝)。いじるのが好きだね。         *  武者小路実篤《むしやのこうじさねあつ》が雑誌「白樺《しらかば》」を創刊。  慶大教授となった永井荷風「三田文学」を創刊。         *  心理学者・福来《ふくらい》友吉。御船《みふね》千鶴子の千里眼を世に紹介しようと、努力する(東朝)。         *  木曾義仲の後裔《こうえい》、三十三年の恋みのり結婚。新郎は七十二、新婦は四十二歳(東朝)。         *  第六号潜水艦、訓練中に沈没。艦長・佐久間大尉、詳細な記録を残し絶命(東朝)。         *  長距離と夜間の電話料金、値下げ。         *  ハレー彗星、大接近。尾の有害ガスが大気に混入との流言(読売)。夜空は鮮明で壮大な、天体ショーだった。         *  ロンドンで、日英博覧会、余興として、芸人や職人、百五十人が渡英(東朝)。         *  陸軍大臣・寺内正毅《まさたけ》が朝鮮統監を兼任。         *  幸徳秋水ほか、重大事件の疑いで逮捕される(東朝)。詳しくは不明。         *  株式相場を伝える有線通信、ティッカーが兜町《かぶとちよう》区域に敷設された(国民)。         *  青山の夜道で、女性に抱きついた男。指を食い切られ、つかまる(東朝)。         *  韓国の警察事務の実権、日本が握る。         *  日露協約。相互の利益を確認(官報)。米国が手を出せないようにした。         *  上野の木が枯れる。汽車の煙ではなく、近郊から追われた鳥のフンのため(都)。         *  文部省。小学用唱歌を選定。「月」「カラス」「春が来た」「虫の声」など。         *  淡路島の二ヵ所の要塞《ようさい》。白アリのため使用不能となる(報知)。台湾産の種類とか。         *  関東、東北に大雨。東京は大洪水。         *  八月、日韓併合条約調印。呼称を朝鮮とし、皇帝を王とする(東朝)。伊藤博文の柔軟方針も、暗殺で消えてしまった。         *  朝鮮総督府が新設され、初代総督が寺内正毅。消極派の曾禰統監は、更迭《こうてつ》。曾禰は帰国して、まもなく死去(東朝)。         *  国語調査会、口語の研究に着手。その歴史と東京弁。うまくつながるか(東日)。         *  出版界に小型判の文庫が流行。表紙の絵の、銀杏の葉がしゃれている。         *  奈良軌道が設立。のちの近鉄。         *  栃木県の煙草耕作者。一枚の葉を私物化したと、有罪判決。弁護士たち、法の本質を論じ、上告し無罪に(東朝)。         *  戦場で押収した露国の切手。焼却せずに業者に払い下げた。露国で新図案のを発行したため、対策に困る(万朝)。         *  京都の大広間で、五十畳あまりの白紙に筆で忠魂と書く。世界一の大きさ(報知)。         *  函館港の日本唯一《ゆいいつ》の灯台船、ついに廃止となる。ガス灯のブイに替る(報知)。         *  数えで二十歳の頭のいい少女。医術開業試験に合格。しかし、未成年のため、免許は来年になってから(東日)。         *  選挙違反による失格の法律。成立に日時がかかり、現議員には及ばない(東朝)。         *  日本最初のエンジンつき飛行機。戸山が原で試験。滑走のみで、離陸せず(東朝)。         *  在郷軍人会に、海軍は不参加。徴兵での入隊でないと(大毎)。のちに参加する。         *  郵便振替貯金加入者なら、それで集金ができるように改正された(中外)。         *  文部省に文芸奨励賞の計画。審査委員はとやかく言われ、森〓外などは不要と言うだろうし、問題がある(大朝)。         *  不二家洋菓子店が、横浜で開業。コーヒー、紅茶、洋菓子を出してくれる。         *  本年、十月末日まで、晴天は八十六日。百八十年ぶりに、雨の日が多い(中外)。         *  井上馨の日本最大の銅像、完成。静岡県興津に運ぶ(東日)。まだ存命なのに。         *  透視をやる千里眼婦人、今度は丸亀《まるがめ》に出現。学者の前で的中してみせた(東日)。         *  浅草名物の水族館。人気が落ち、売物となる。活動写真の流行に負けた(やまと)。         *  白瀬矗《のぶ》中尉の指揮する、南極探検船が東京を出発(報知)。資金援助をしたのは、大隈重信と朝日新聞社ぐらい。         *  日野大尉。代々木練兵場で、ドイツ製単葉機に試乗。十メートルの高度を六十メートル飛行(万朝)。         *  やはり代々木で、徳川大尉は複葉機に乗り、高度七十メートルで三千メートルを。         *  衆議院の委員会の、報道が不正確。その上、記者たちの野次がひどく、今後は、入場と傍聴を禁止(東日)。         *  株式投機、強気の方針で大損をした証券業者。取引所内にて短刀で自殺(大毎)。         *  鈴木梅太郎、オリザニンを発見。ビタミンB1で、不足が脚気の原因。         *  幸徳秋水らの大逆事件。裁判は進行中だが、公開禁止で実情不明(東日)。         *  この年。米国のコンクリート舗装の道路。十年前の二三〇キロが、一六〇〇キロに。  建築家ガウディ、バルセロナにカサ・ミラを完成。五年がかりで。  ワシントン州で、父の日が祝われる。若い女性が、なき父をしのんで。  ロシアの画家カンディンスキー、世界ではじめて抽象画を制作する。  ストラビンスキーの『火の鳥』が、パリのオペラ座で上演された。  南ア共和国、英領から独立。  アルゼンチン・チリ間のアンデス横断鉄道、完成。チリの埋蔵豊富なチュキカマタ銅山の開発が進む。    ●明治四十四年(一九一一)  大阪の梅田駅。新橋に次いで乗降客が多い。入場券の自動販売機が設置された。煙草販売機を改良したもの(大毎)。         *  米国航路の日本の船舶に、無線の送受信装置がつく。かなりの進歩(国民)。         *  初場所を控え、関取たちが待遇改善を要求。だめなら土俵に上らぬ気勢で、それをかちとる(国民)。運営が古いままだった。         *  丸亀の透視女性。学者との実験前に、フイルムが紛失。念力で、線路の南の溝《みぞ》にと予想。的中し、みな驚く(東朝)。         *  幸徳秋水ら二十四名に、死刑の判決。大逆事件(東朝)。新聞記事では詳細不明。         *  透視女性の新しい出現で、その第一号の千鶴子は、服毒自殺。人気が落ちたと思ってか、家庭の事情のためか(東朝)。         *  大逆事件の判決で、うち十二名は無期懲役に恩赦減刑(東朝)。手まわしがいい。         *  宮中歌会の入選者。政界の圧力、選者の不正などで、悪評がひろまる(東朝)。         *  幸徳秋水ら十二名、死刑執行。はおり、はかま姿で、落ち着いて台に上る(東朝)。         *  北満州でペストが大流行。南への移動者が多く、混乱。列車は運休に(報知)。         *  ハンガリーのブダペストで、日本美術展覧会。入場者、多数(国民)。         *  歴史教科書。北朝支持派と南朝支持派とで、学者、代議士らが大論争(東朝)。         *  長野の善光寺に、鉄道便で荷物が。あけると、五十歳ぐらいの女性の死体(東朝)。         *  東京帝国劇場が落成。三月一日、開場。         *  有力代議士の人力車ひきが集り、宴会。大演説あり、芸あり、酒も充分(読売)。         *  夏目漱石に文学博士。出頭せよとの通知に、ただの夏目がいいと、辞退(東日)。         *  同時に医学博士となった野口英世は、在米中で、ありがたくいただく(国民)。         *  日米通商条約、更新。関税自主権は回復したが、移民の制限はつづく(東朝)。         *  日本白十字社、設立。御下賜金により、低所得者の結核防止のための団体(東朝)。         *  埼玉県の所沢に、二十三万坪の飛行場が完成。東洋一の大きさ。東京住民は、汽車で二時間ほど。大発展を期待(東朝)。         *  天皇、南朝が正統と勅裁。教科書の文を少し手直しする(官報)。南朝を吉野朝に。         *  日本橋、近く完成。橋の名には徳川慶喜の書いた字を使用する(大毎)。         *  白瀬隊。上陸して南極へ進むが、結氷状態の悪化で、途中から引きかえす。         *  銀座にカフェー・プランタン開業。一般の人には、何の店かわからない。作家や芸術家が会員制にして、常連となる。         *  警視庁、指紋法実施。         *  米国に移民流入。南部をのぞく地域で、住民の四分の一が外国うまれ。         *  吉原遊郭で大火。六千五百戸が焼失。ほとんど全滅(東朝)。移転論も出る(都)。         *  桂、寺内など、朝鮮併合の功で、爵位が昇格。意味不明で、大反対だ(大毎)。         *  井上馨を総裁に、維新史の事業開始。薩長本位のものになるにきまっている(都)。         *  朝鮮総督府、「京城新報」を発禁に、内地の新聞もすべて押収。言論弾圧だ(大朝)。         *  清国の広東《カントン》地方で、革命党員により、暴動発生。拡大の傾向をたどる(東朝)。         *  文部省が『小学唱歌』を刊行。「おぼろ月夜」や「春の小川」などを収録。         *  上野動物園に、カバが加わる(東日)。         *  ライオン歯磨。チューブ入りのを発売。         *  北海道。強風で各地に山火事(国民)。         *  平塚雷鳥《らいちよう》ら青鞜《せいとう》社を結成、雑誌を発刊。         *  浅草。売春で逮捕した女。調べると、日露戦で戦死した陸軍大佐の未亡人(中外)。         *  東北七藩。維新史作成について、資料の提供を拒絶(都)。         *  昨年より低迷をつづけてきた株価、つづいて米相場、急に大はば上昇(国民)。         *  遊郭反対の団体、結成される(東朝)。         *  米の買占めの張本人の自宅の塀《へい》に、損をした者が、うらみの文句を落書き(東日)。         *  日英同盟、再延長。必要ではないが、なくしてしまうのも不安(東朝)。         *  大阪・中之島公園で、第一回模型飛行機大会が開かれた。         *  ペルーヘの移民、許可される。約八百名が、年内に出発。砂糖耕作に従事(万朝)。         *  太田海軍大佐の講演。海軍大臣は文官がいい。経理部に民間人を。軍艦は現状のままで充分。元帥は不要(東日)。         *  ルーブル美術館の「モナリザ」が盗まれる。二年後に回収。         *  大逆事件を機に、警視庁に特別高等課を設置。略して、特高。         *  第二次西園寺内閣、成立。内相・原敬。         *  三浦環《たまき》が帝劇で公演。美人、派手、好評のため、女優たちが非協力的(東日)。         *  清国の四川省で暴動。独立を叫ぶ者もあり。戒厳令が布《し》かれる(大朝)。         *  ヘボン式ローマ字のヘボン氏、米国で死去。九十六歳。この九月二十一日に、明治学院内のヘボン記念館が、焼失(東朝)。         *  鳩山和夫・法学博士、死去。米国留学、早大学長、衆議院議長、政界の名士。         *  三越百貨店が、苦情係をおく。         *  東大文学部の学生、試験に落第し自殺。採点の誤りで、内規の教授会も開かずに。そのため、責任の教授が辞表を(東朝)。         *  キエフで観劇中の、露国首相ストルイピン。革命家に狙撃され、死亡。         *  講談を筆記した立川文庫、大阪で発行され、大流行。ロングセラーになる。         *  反清革命党、支配地域を拡大し、中華民国として独立の声明を出す(東朝)。         *  岐阜。老婆がぼた餅を奪われた事件。二つの裁判所で、それぞれ別人を有罪とし、懲役に服しているのが判明す(万朝)。         *  浅草の銭湯。料金は一銭で電話は自由、庭も美しく、お茶も出る。評判に(都)。         *  巣鴨《すがも》病院の園遊会。芦原将軍の指揮する仮装行列が、派手で大がかりだ(報知)。         *  星一。着手した製薬業に応援者がつき、十一月三日、株式会社の登記をした。         *  清国のしたたかな政治家、袁世凱《えんせいがい》。首相に任命される。混乱がどうおさまるか。         *  清国にて、断髪が自由になる(万朝)。         *  モンゴル。これはいい機会とばかり、独立を宣言。宗教国家に。         *  日本でフランス映画『ジゴマ』を上映。怪盗物なので、やがて禁止された。         *  キューリー夫人、二度目のノーベル賞を受ける。         *  小村寿太郎、死去。五十七歳。米国に留学。駐清代理公使。外務大臣。日露講和条約を結ぶ。日韓併合。侯爵(東朝)。         *  電気技師オリベッティが、ミラノの西にタイプライターの設計、製造の会社創立。         *  米国でパイナップル缶詰の、自動大量生産機が作られる。一分間に九十個を処理。         *  十二月中旬。ノルウエーの探検家アムンゼンの一行、ついに南極点に到達した。         *  十六年にわたる亡命生活から、孫文が上海に帰国。十二月に南京《ナンキン》の臨時革命政府により、中華民国臨時大総統に選ばれた。         *  米国の人口、九四〇〇万人。露国、一億六七〇〇万人。日本、五二〇〇万人。仏、三九六〇万人。中国、四億二五〇〇万人。    ●明治四十五年(一九一二)  元日。前日より東京の市電スト。たまに動くので、外出したものか迷う(東朝)。         *  ドイツの地球物理学者ウェーゲナー、大陸移動説を発表する。         *  大阪。火災防止のため、ガラス製のランプは、なるべく使わないようにと(大毎)。         *  上野駅。列車出発を告げる、電気で鳴るベルが、設置される(東日)。         *  清国で革命をつけるのが流行。革命靴、革命帽子、革命旅館、革命踊り(大毎)。         *  神奈川県。小学校新築資金を着服した人物。住民たちが連名で書類を作り、村八分を約束する。裁判はどうなるか(都)。         *  清国最後の皇帝、溥儀。六歳にして退位す。清朝はここで終る(東朝)。         *  皇帝の退位により、首相の袁世凱、革命軍と取引き。大総統に就任。孫文は、最高顧問の地位につく(東朝)。         *  某代議士、泥酔し議場で大声。退場と言われても、大あばれ。休憩となり、各派が協議中、当人は控室で大いびき(読売)。         *  新潟県の高田でスキー、群馬県の榛名《はるな》湖でスケート。大会が開かれる(報知)。         *  JTB、設立。のちの日本交通公社。         *  美濃部達吉博士『憲法講話』を刊行。天皇機関説をとなえる。         *  横山、鳥潟、北村の三技師。無線電話を作製。既存の外国製より、高性能(万朝)。         *  文部省の文芸委員会。漱石に賞をの意見が出たが、博士を断わったやつはと、否決に。民間からの委員、怒る(東朝)。         *  米国の福の神、頭の大きいビリケンの人形が、日本で流行。ビリとはと、けなす者もあり、各所で話題となる(都)。         *  本郷の学生街の食堂。みな高い料理を食うようになった(国民)。そのくせ、米が高くなったとの文句もふえた(都)。         *  軽く見られる輜重兵《しちようへい》の大隊が、青山で馬や車両への感謝の祭りをした(東朝)。         *  英国の大型客船、タイタニック号。北大西洋で深夜、氷山に激突して沈没。乗客は約二千二百人。うち、死者は約千五百人。         *  大阪。吉本せいが文芸館を買い、寄席とする。吉本興業の誕生。         *  古本屋の主人の嘆き。十年前の学生は本を買ったが、いまは着る物が優先(東朝)。         *  博士論文は文部省が受付け、国立大学の教授会が審査。趣味にする人は、珍論文を連続して郵送。対策に困っている(東日)。         *  ロシアで日刊の新聞「プラウダ」が創刊される。共産主義で、豊かな未来を。         *  第二回学士院賞、アドレナリン発見の高峰譲吉博士ら、五名に授与(東朝)。         *  那須《なす》に、御用邸が落成(東朝)。         *  薬の看板や広告の、誇大宣伝を禁止。ニキビ、発毛、性病など特に多い(東朝)。         *  武蔵野鉄道、設立。のちの西武。         *  飛行機製作の、ライト兄弟の兄のほう、ウィルバーが死去。四十五歳。         *  尼崎沖で、女性による和船の競漕《きようそう》。         *  明治一代女・花井お梅の芝居を上演中、見物席の本物が舞台に上り、無断でやるなと。仲裁が入り、手打ちに(中外)。         *  米人の操縦する水上飛行機。東京・横浜間を、海上から海上へ(東朝)。         *  紡績工場の女子労働者。一日十八時間の仕事は苦しいと、投書。六十七通(万朝)。         *  奇術師の松旭斎《しようきよくさい》天一、二年前より痔《じ》を病み、療養のため各地の温泉を回る。ついに福島の温泉で重態になり、死去(東朝)。         *  米価値上りで、民衆は買えず、問屋は不安で出荷を控え、米屋は倒産(報知)。         *  事故多し。左側通行の徹底を(東朝)。         *  商業学校の校長。問屋から外国米を仕入れ、生徒に安く売る者が出現(東日)。         *  桂太郎、後藤新平、露国へ出発(読売)。友交と満州の権益の、確認のため。         *  七月十日。天皇、東大卒業式にご出席。         *  郵便物、自動車の利用を開始(万朝)。         *  天皇のご病状。糖尿病に加え、十四日より消化器も悪化。睡眠の増加と発熱。東大より、青山、三浦の医師が拝診(官報)。         *  ご病気の報道で、株が暴落(中外)。         *  ご病状は、一日に五回、発表(万朝)。         *  多数の国民が二重橋前に集り、ご回復を祈願(読売)。夜、芸者と自動車で来て、ラッパを鳴らす者。言語道断だ(東朝)。         *  勲五等以上でないと、宮中に入れない。看護婦なしで、医師をふやす(東日)。         *  市電の音、線路に油をさし、低くする。  正午の号砲、場所を市が谷に移す。         *  ご病状。ご疲労が加わる。はじめて、カンフル、食塩水の注射をおこなう(東朝)。         *  七月三十日。天皇崩御。午前零時四十三分。六十一歳。嘉仁《よしひと》皇太子、践祚《せんそ》。元号は大正と発表。         *  暁の号外。市民は二重橋前で、大ぜいが雨のなかでひざまずく(読売)。         *  元号の原案に「天興」や「興化」もあったとのこと(読売)。         *  黒の衣服は値上り。犯罪はへる。株式はゆっくり上昇。演劇は休み(読売)。         *  裕仁《ひろひと》親王、皇太子に(都)。         *  先帝を明治天皇とお呼びする。御陵は京都の伏見桃山の地に(東朝)。         *  先帝のご生誕日、十一月三日をどうするか。各界の意見、明治節が多い(国民)。         *  与謝野晶子の和歌。在パリ(東朝)。   小雨降り白き沙漠《さばく》にあるごとし    巴里《パリー》の空も諒闇《りやうあん》に泣く         *  明治大学の課長の談。明治をたたえての校名ですから、改称しません。学生に明治という名のがいますが、当人次第(読売)。         *  芝浦で、写真師と花火師がマグネシュームを実験中、大爆発。死者あり(大朝)。         *  第一師団が千葉県で、新式野砲の実弾演習中、爆発。死傷者あり(報知)。         *  英国皇帝の大葬へのご名代、コンノート親王殿下、横浜着。日本の接待役、乃木大将、お迎えに出る(読売)。         *  九月十三日。大葬。ひつぎは午後八時、号砲とともに宮城を出て、青山祭葬所へ。         *  その号砲を聞き、乃木希典大将と妻、自殺。希典、六十四歳。静子、五十四歳。  希典の辞世。   うつし世を神さりましし大君の    みあとしたひて我はゆくなり  夫人の辞世。   出てましてかへります日のなしときく    けふの御幸《みゆき》に逢《あ》ふぞかなしき         *  東郷平八郎の和歌。   見るにつけ聞くにつけてもただ君の    真心のみぞしのばれにける         *  黒岩涙香・万朝報主筆の和歌。   今日まではすぐれし人と思ひしに    人と生れし神にぞありける         *  頭山満《とうやまみつる》の談(『小村外交史』)。 「先帝は小村を先供に、乃木を後供にせられて、ご満足でしょう」         *  新渡戸稲造《にとべいなぞう》の談。 「私はキリスト信者だが、乃木さんの切腹は、純粋な武士道のあらわれだ」         *  菊池大麓《だいろく》、数学者・学士院院長の談。 「乃木さんの行為は、時弊への清涼剤」         *  夏目漱石。『こころ』の一部の要約。 「軍旗を取られてから、三十五年間。どれだけ苦しい日々だったか……」         *  明治天皇の御製のひとつ。   あさみどりすみわたりたる大空の    広きをおのが心ともがな      明治天皇の崩御の年の、生存者の年齢。上より満年齢、人名、職業または地位、業績。一歳以下は略。  人物評価でなく、後世につながる感じを出したく、その方針で選んだ。         *   77 井上馨(元老)   77 松方正義(財政家・首相)   77 前島密《ひそか》(郵便事業の功労者)   77 カーネギー(米国の鉄鋼王)   75 徳川慶喜(十五代将軍)   75 板垣退助(自由党創立者)   74 山県有朋(陸軍大将・首相)   74 大隈重信(首相・早大創立者)   74 安田善次郎(銀行家)   74 モース(来日して大森貝塚を発見)   73 J・ロックフェラー(石油王)   72 渋沢栄一(多彩な実業家)   72 ロダン(彫刻家)   71 田中正造(足尾鉱毒事件)   70 大山巌(陸軍大将)         *   65 東郷平八郎(海軍大将)   65 桂太郎(陸軍大将・首相)   65 エジソン(発明家)   63 河野広中(自由民権運動)   63 西園寺公望《きんもち》(首相・元老)   63 ベルツ(東大医学部教師)   62 昭憲皇太后(明治天皇の皇后)   61 大山捨松(米国留学、巌の夫人)   60 山本権兵衛(海軍大将・首相)   60 寺内正毅(陸軍大将・首相)   60 福島安正(軍人・シベリア横断)   60 北里柴三郎(細菌学者)         *   58 高峰譲吉(化学者、アドレナリン)   57 犬養毅(首相)   57 菊池大麓(東大総長・文相)   57 頭山満(国家・アジア主義者)   56 原敬(首相)   54 小金井良精(医学者、私の祖父)   53 青山胤通《たねみち》(東大医学部長)   53 コナン・ドイル(作家)   52 加藤高明(首相)   51 白瀬矗(南極探検)   51 内村鑑三(宗教家)   50 新渡戸稲造(学者・教育家)   50 牧野富太郎(植物学者)   50 黒岩涙香(万朝報社長、周六)   50 森鴎外(作家・軍医)         *   49 ヘンリー・フォード(自動車王)   48 ラスプーチン(ロシア宮廷の怪僧)   48 明石元二郎(軍人、対露工作)   46 黒田清輝(画家・帝国美術院長)   46 H・G・ウェルズ(作家)   46 孫文(反清革命の指導者)   45 夏目漱石(作家)   45 幸田露伴(作家)   45 鈴木貫太郎(軍人・首相)   45 豊田佐吉(織機発明者)   44 横山大観(画家)   44 秋山真之《さねゆき》(海軍軍人・参謀)   44 ニコライ二世(ロシア皇帝)   43 マハトマ・ガンジー(インドの指導者)   42 レーニン(ロシア革命)   41 川上貞奴(俳優)   41 ライト弟(飛行機発明者)   40 島崎藤村(作家、『夜明け前』)         *   39 泉鏡花(作家)   39 与謝野鉄幹(歌人)   39 星一(私の父)   38 市村羽左衛門(十五世・歌舞伎俳優)   38 チャーチル(英・首相)   37 松永安左エ門(電力界の実力者)   37 小栗風葉《おぐりふうよう》(作家)   36 野口英世(医学者)   36 カザルス(チェロ奏者)   34 吉田茂(首相)   34 広田弘毅(首相)   34 与謝野晶子(歌人)   33 嘉仁親王(大正天皇)   33 アインシュタイン(物理学者)   33 永井荷風(作家)   33 スターリン(ソ連政治家)   33 トロツキー(ソ連政治家)   32 松岡洋右《ようすけ》(外相)   32 鮎川義介(日産創立者)   32 米内《よない》光政(海軍大将・首相)   32 マッカーサー(軍人)   31 A・フレミング(ペニシリン発見)   31 ピカソ(画家)   31 モルガンお雪(在米、資産家夫人)   30 五島慶太(東急創立者)   30 種田山頭火(俳人)   30 F・D・ルーズベルト(大統領)         *   29 鳩山一郎(首相)   29 志賀直哉《なおや》(作家)   29 ムッソリーニ(伊・総統)   28 貞明皇后(大正天皇の皇后)   28 三浦環(歌手)   28 東条英機(陸軍大将・首相)   28 山本五十六(海軍大将)   28 トルーマン(大統領)   27 正力松太郎(読売新聞社長)   27 北原白秋(詩人)   27 尾崎放哉《ほうさい》(俳人)   27 武者小路実篤(作家)   27 尾上《おのえ》菊五郎(六世・歌舞伎俳優)   26 谷崎潤一郎(作家)   26 藤田嗣治《つぐはる》(画家)   26 フルトヴェングラー(指揮者)   25 蒋介石《しようかいせき》(中華民国総統)   24 菊池寛(作家)   24 アービング・バーリン(作曲家)   23 早川雪洲(俳優)   23 ヒットラー(ドイツ総統)   23 チャップリン(俳優)   23 ネール(インド初代首相)   22 古今亭志ん生(落語家)   22 アイゼンハウアー(大統領)   22 ド・ゴール(仏・大統領)   22 ホー・チ・ミン(ベトナム主席)   22 アガサ・クリスティー(作家)   21 ロンメル(ドイツ軍人)   20 フランコ(スペイン総統)   20 吉川英治(作家)   20 芥川龍之介《あくたがわりゆうのすけ》(作家)   20 西条八十《や そ》(詩人)         *   19 毛沢東(中国主席)   19 ダレス(CIA長官)   18 江戸川乱歩(作家)   18 豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)   18 フルシチョフ(ソ連政治家)   18 徳田球一(共産党指導者)   18 徳川夢声(弁士・俳優)   18 松下幸之助(松下電器創業者)   17 ジョン・フォード(映画監督)   17 ベーブ・ルース(野球選手)   16 岸信介《のぶすけ》(首相)   16 土光敏夫(財界指導者)   16 宮沢賢治(詩人・作家)   15 花菱《はなびし》アチャコ(漫才師・俳優)   15 藤山愛一郎(外相)   14 周恩来(中国首相)   14 東海林《しようじ》太郎(歌手)   14 ルネ・クレール(映画監督)   13 池田勇人《はやと》(首相)   13 田河水泡(漫画家、「のらくろ」)   13 ヒッチコック(映画監督)   13 アル・カポネ(ギャング)   13 広沢虎造(浪曲師)   12 ルイ・アームストロング(音楽家)   12 大宅壮一(評論家)   11 裕仁親王(昭和天皇)   11 ディズニー(映画製作者)   11 スカルノ(インドネシア建国の父)   11 柳家金語楼(新作落語家)   10 小林秀雄(評論家)   10 横溝《よこみぞ》正史(作家)   10 リンドバーグ(飛行家)   10 バイニング夫人(皇室の英語教師)         *   9 山本周五郎(作家)   9 玉錦《たまにしき》(横綱)   9 嵐寛寿郎《あらしかんじゆうろう》(俳優)   8 古賀政男(作曲家)   8 榎本《えのもと》健一(喜劇俳優)   8 〓小平《とうしようへい》(中国政治家)   8 ジャン・ギャバン(俳優)   8 ビング・クロスビー(歌手)   7 福田赳夫《たけお》(首相)   7 木村義雄(将棋名人)   6 坂口安吾(作家)   6 溥儀(清・満州の最後の皇帝)   6 オナシス(海運王)   5 三木武夫(首相)   5 淡谷《あわや》のり子(歌手)   5 ハインライン(作家)   5 ジョン・ウエイン(俳優)   4 カラヤン(指揮者)   3 松本清張(作家)   3 太宰治《だざいおさむ》(作家)   3 上原謙(俳優)   3 田中絹代(俳優)   3 キャサリン・ヘップバーン(俳優)   3 横山隆一(漫画家)   2 大平正芳(首相)   2 黒沢明(映画監督)   2 ライシャワー(駐日大使)    あとがき  少年時代、私のまわりには明治がたくさんあった。晩婚だった父は、明治六年(一八七三)の生れ、母方の祖父の小金井良精は、なんと安政五年(一八五八)の生れ。  本郷に住んでいて、その家は明治二十九年の建築のもの。家の前は、大名だった土井家の土地が広がっていた。やがて分譲され、住宅が建っていった。夏目漱石の住んだ家も、近くにあった。いまは明治村にある。旧制の一高は、現在の東大農学部の場所にあった。  思い出に残るそれらの光景は、戦争末期の空襲で、ほとんど消滅した。なくなってみて、はじめて、なつかしさが高まる。戦後は品川に住んだが、たまに本郷を訪れ、歩きまわった。地形はそのままだし、古いお寺や神社は、残っているのもある。  そのうち、明治に関する本を、買いはじめた。趣味としてである。それを役立てることがあるとは、思いもしないで。  そのうち、ある編集者から、亡父の星一について書かないかとすすめられた。なんとか『人民は弱し官吏は強し』をまとめられたのは、明治が頭に入っていたおかげだろう。  のちに、父の青年時代を『明治・父・アメリカ』で書いた。明治の中期におけるアメリカの事情なども、いちおう調べた。  また、祖父の小金井良精についても、書いてみたらと言われた。たまたま、ドイツ留学の時からつけはじめた日記がみつかった。死去の一年前まで、毎日である。読むのが大変だったが、明治がさらに身近なものになった。『祖父・小金井良精の記』は、売れ行きは別とし、森鴎外のドイツ人女性の件で新発見の資料となった。  こうなると、亡父と交友のあった人物の十人についても書きたくなる。野口英世や後藤新平などの短い評伝をまとめたのが『明治の人物誌』である。資料を買い込む。厚い伝記を通読すると、新知識も得られる。  ここで、一段落とすることにした。はばをひろげるのは、私でなくてはならない仕事ではない。人生の区切りとして、ショートショート一千編の達成を目ざしたのだ。それも、なんとか仕上った。小説はしばらく休みときめた。  ある日、ふと書庫にあった『新聞集成、明治編年史』という、大判で全十五巻のセットをのぞいた。場所をとる資料だ。こんなものを買ってたのだから、私の明治趣味もかなりのものだ。  ページをめくりながら思いついたのが、本書のような形式である。新潮社の「波」という雑誌に、一九八八年一月号〜九〇年一〇月号まで、二年余にわたって連載した。かなり好評だった。  福島県いわき市の、亡父の知人の弁護士は九十歳で死去したが、その寸前まで「波」のことを言っていたそうだ。遺族は「波」を知らなくて、告別式の時に私に質問した。  おかげで、膨大な量の全ページに、目を通してしまった。楽しい作業なので、苦労はなかった。連載だったのも、よかった。こういうのは、あせったらだめだ。  こんな構成を、どうして思いついたか。途中で気がつき、考えてみて判明した。新潮文庫にある、私の著作の『進化した猿たち』全三巻である。一時期、アメリカのヒトコマ漫画を収集したことがあり、それをテーマ別に分類整理したのが内容である。これも月刊誌での連載だった。  これも趣味のようなものだから、ゆっくりやれば面白い。笑いの文句は、簡潔でなければならない。日本語訳に頭を使った。直訳では、おかしさがない。  その延長上の仕事が、新潮文庫の『アシモフの雑学コレクション』である。その編集と訳をやった。アメリカ人むけのを、除外した。おやっというのを、重点的に残した。科学の知識があったので、変な訳にはなっていないはずだ。  この『夜明けあと』も、テーマはちがうが、過去の体験が役に立った。それがなかったら、だらけたものになったろう。私としても、まとめてよかったと思っている。  つい成立事情を書いてしまったが、読者に楽しんでいただければ、もう、それで充分だ。どう受け取るかは、各人それぞれ自由でいい。政治的事件は、歴史の本で読むべきだと思い、ここでは簡単にすませた。  徳川時代の長い鎖国のあと、文明開化の大変化。普通だと内乱状態だろうが、意外に平静で、ユーモアもある。落語を育てた社会の、つづきを感じる。  ラジオも、テレビも、週刊誌もなかった時代。新聞は、娯楽性を持つ必要があっただろう。悲惨な事件や、理屈の主張は、あまりない。現代のテレビの、ニュース・ショーと共通したものがある。  現代の新聞は、社会の複雑化もあろうが、裏の裏まで解説しようとし、明快でなくなっている。ページを減らし、テレビと共存しても、いいのではないか。野球の結果をテレビで知っていながら、スポーツ新聞を買う人もいる。その数は知らないけど。  テレビ時代になってからの新聞からは、本書のような手法では、まとめられないのではないか。深刻さの比率が、笑いの何倍にもなっている。しかし、これについて論じるのは、私としては好きでない。  明治時代には、夢や、将来への期待や、面白いことが、いっぱいあった。それを知っていただければ、それでいいのです。   平成三年一月 著 者      参考資料 新聞集成・明治編年史(財政経済学会) 新聞集録大正史(加藤秀俊ほか) 新聞資料・明治話題事典(小野秀雄) 明治大正昭和 世相史(加太こうじほか) 実記 百年の大阪(読売新聞大阪本社) 近世日本世相史(斎藤隆三) 明治東京逸聞史1・2(森銑三) 世界史大年表(トレーガー、鈴木主税訳) 20世紀全記録(講談社編・小松左京ほか) 江戸東京学事典(三省堂) 舶来事物起源事典(富田仁) 明治奇談〓・〓・〓(清水谷漫歩) 人物・日本の歴史(読売新聞社) 明治ニッポンてんやわんや(紀田順一郎) 幕末維新人物100話(泉秀樹) 明治大正風俗語典(槌田満文) 近代日本風俗史(雄山閣) 明治東京犯罪暦(山下恒夫) 幕末 明治・女の事件簿(田井友季子) 明治新聞綺談(篠田鑛造) 日本の歴史(中央公論社) にっぽん裏返史(尾崎秀樹) 文明開化東京1・2(川崎房五郎) 江戸っ子百話上・下(能美金之助) 明治世相百話(山本笑月) 疑獄100年史(松本清張編) 明治大正史・世相編上・下(柳田国男) 東京風俗志(平出鏗二郎) 奇事流行物語(宮武外骨) 絵本明治風物詩(長崎抜天) この作品は平成三年二月新潮社より刊行され、 平成八年七月新潮文庫版が刊行された。 Shincho Online Books for T-Time    夜明けあと 発行  2001年8月3日 著者  星 新一 発行者 佐藤隆信 発行所 株式会社新潮社     〒162-8711 東京都新宿区矢来町71     e-mail: old-info@shinchosha.co.jp     URL: http://www.webshincho.com ISBN4-10-861115-2 C0893 (C)Kayoko Hoshi 1991, Coded in Japan