雪夫人痴戯 矢切 隆之 雪夫人痴戯   1  朝方からしんしんと降りはじめた雪は、午後になってから、広いお庭の芝生を銀色に染め、椿の木の傍の燈籠の頭までも隠してしまいました。盆にのせたお茶を手に、シンガポールからお帰りになったばかりの旦那様の居られるリビングに向かったわたしは、襖を開けようとしてはっと息をのんだのでございます。 「あ、お義父《とう》さま……」  甘ったるい若奥様の声が、ひきつれた猫の声みたいに聞こえました。襖の隙間から覗き込んだわたしの手が震えました。  前田元男爵の血を引いておられる若奥様は、絹のような白い肌を優雅な着物に包んでおられます。一見してまだ独身のお嬢さんのような可憐なお顔立ちなのですが、柿色の植物染めの織縞の裾が、後ろからかぶさった旦那様の手でめくられると、白い足袋が艶めかしく跳ねました。二人が躯を重ねて立っているのは、リビングの出窓の前でした。きっと東京では珍しい雪を眺めていたのでありましょう。 「雅子……」  旦那様の片方の手はすでに身八つ口から忍び込み、しっかりと熟れた胸の果実を揉みこんでいるようで、緋色の帯が盛り上がっていました。もう片方の手が、着物の上から臀部を揉みまわしています。 「おまえの尻を撫でると、ふふ、日本に帰った気がする」 「いやなお義父さま」  旦那様は雅子様の双臀を撫でていた手を、そっと着物の裾の中にもぐらせました。いやいやをした若奥様の腰が小山のように左右にくねるのを見ると、裾から入り込んだ手の狼藉が窺えます。織縞の着物の裾が割れ、真紅の長襦袢が覗きました。目の前のあられもない眺めに、手にした盆を落としそうになったとしても、無理からぬことだったでしょう。いくら旦那様が半年前に奥様を亡くされたとしても、まさか、息子の嫁に手を出すような御方だったとは……。 「あ、あ、いけませんわ」  振り向いた若奥様の紅唇が塞がれました。合わさった口と口の合わい目から、燃える二枚の舌が覗きました。息子の嫁の着物の裾までめくりあげると、膝が覗き、ふくらはぎが覗き、とうとう白桃のようなお尻までが丸出しになりました。それはもう、見事に熟れたお尻でございました。 「絹のような肌じゃな、ふふ、羽二重餅みたいな尻をしてる」  旦那様はそういうと、はち切れそうな双臀をじかに撫でまわしているのです。骨董品を愛でるように、息子の嫁の尻を、あのように撫でまわしてもいいものでしょうか。ですが、雅子様のすんなりのびた両脚が震え、鏡餅のような臀部の肉が、捏ねられて悶えます。男の指を立てられ撫でまわされると、ますます肉感的な丸い臀部が紅らんできました。臀部の割れ目が、金色の産毛で光っています。着痩せするタイプなのか、剥き出しの白い臀部は人妻らしくむっちりと脂がのっています。割れ目の合わい目までまさぐると旦那様の指が鼠蹊部に隠れました。 「おうおう、こんなに熱い」 「うっ、お義父さま、そんなことされると、夜、眠れなくなりますわ」 「ひとり寝がそんなに辛いか」 「ああ、辛うございます……」 「ふふ、どうせ正夫は今夜、箱根から戻らない」  正夫というのは若旦那のことで、母の死後、父に逆らって父の経営する会社を辞め、いまは青山でスナックを経営しています。正夫様が若奥様と結婚したのは、まだ父親の会社に勤務していた一年半前でした。見合い結婚で、雅子様との縁談を熱心に勧めたのが旦那様でした。母に死なれると正夫様は父親に逆らうかのように荒れる日々を送っていました。荒廃した息子を宥めるように旦那様が雅子様との縁談をすすめたのでした。 「許して、お義父さま」  出窓の縁に掴まりながら、若奥様が腰を突き出す格好になりました。むっちりした豊臀を突き出し、白魚のような指が、レースのカーテンを引っ張りました。 「おうおう、なんて可愛いんだ」  旦那様の大きなてが、鏡餅の合わい目をくぐりました。指戯のせいか、後ろから合わい目をまさぐられると、白いお尻がくねるのでした。 「こんなに濡らして……」  旦那様が濡れた爪を雅子様に見せると、優雅な頬が真っ赤になりました。二人が動いたので、出窓に飾られた黄色い菊が、微かに首を振りました。旦那様はいやがる若奥様をテーブルにずるっと引き寄せると、仰臥位に寝かせました。キスをして若奥様の口を封じながらゆっくりと乱れた裾をめくっていきました。臙脂色の帯留が隠れると、乳白色の腰が真紅の長襦袢から躍り出ました。 「うっ、ああ、フミが来ます」  着物の裾をめくった途端、わたしの名が出たのでびっくりしました。お手伝いのフミというのがわたしですが、シンガポールの暮らしが長くなった旦那様には、わたしのことなど眼中にないのでしょう。 「……フミは部屋で寝てる、いつもは帰国すると真先に挨拶に来るのじゃが、来ないというのは、惰眠を貪っている証拠だ」  旦那様はそんなことをいいながら覗かれているのも知らずに、若奥様の裾を腰までめくりあげ白い肉に溺れているのです。足袋をはいた両足が、テーブルの上で鯉のように跳ねました。  ふくらはぎから膝まで、旦那様の口が触れていきました。唾液で肌が濡れると若い内腿が、ひくひくと痙攣しています。雅子様は着物のときには、下着をつけません。それをいいことに旦那様の口髭が、すべすべした乳白色の内腿にまで接近しました。 「いや、こそばゆい、ああ、お義父さまったら」  むっちりした太腿を大きな角度に拡げられると、若奥様が悲鳴をあげました。下腹部の膨らみがぽってりと隆起し、羞ずかしい秘部を目の前に、旦那様が貝柱をつつくように肉の芽にそっと舌を当てました。 「うっ、いや、お義父さま」  なんとも艶めかしい声が、花びらのような唇から洩れました。艶めかしい眼で旦那様を見つめると、若奥様が微笑んで指を突き出しました。 「いやなお方、お髭を濡らして」  女というものはなんと浅ましいものでございましょうか。夫の父親に抱かれながら、あのふだんは貞淑そうな、上品で玲瓏なお顔をなさった若奥様の股唇が、しゃぶられるたびに薔薇のように色づきを増しているではありませんか。羞ずかしいばかりに太腿を拡げると尾根を抱いた肉の芽がすっかり脹れあがって、エンドウマメのように太っています。隆起した莢を撫でながら、旦那様が人さし指と中指で、中身を揉み出すようにしながら囁きました。 「おまえがなんと言おうと、ふふ、おまえの女が欲しがってる」 「嘘、ああ、いけませんわ」 「おまえの女が欲しがってる」 「でも、あ、こんな場所じゃいや」  若奥様が涙声になるのを見ながら、旦那様がいいました。 「興信所で調べた……やはりおまえが疑ってたように正夫には女がいる。組合の旅行だといって箱根に行ったが、違うんだ。あいつは女と一緒だ。おまえという女房がいながら正夫はわしに逆らって女をつくった」  旦那様はそういいながら、両方の手で、さらに乳白色の太腿を左右に拡げ、躍りでている肉の芽にキスをしました。嬌声が洩れ、足袋が宙を蹴るのを見ながら、旦那様は雅子様の帯をゆるめにかかりました。着物の腹部がゆるくなり、すっかりめくられると裾が花びらのように拡がりました。  旦那様が雅子様の鼠蹊部に口を寄せました。匂うような神秘の秘門から肉襞が燃えるようにめくれています。小陰唇の花びらがめくれあがり、淡い繊毛がカリフラワーのように隆起した秘唇から、鮭肉色の襞が躍りでて濡れてきました。旦那様の口と舌が、念入りに肉襞をしゃぶるのでした。 「あ、あうっ……」  感じまいとしても感じてしまう、女の浅ましい業なのでしょうか。粘る欷《な》き声が、若奥様の紅唇から洩れ出しました。 「感じてるのか」 「いやいや、あ、気が狂いそう……」 「ふふ、ここがおまえの急所なのか」 「ヒ、ヒィ——、お義父さま」  敏感な部分を責められて若い女体は耐えられないのでしょうか。腰を跳ねあげた若奥様が拷問から逃れようとします。けれどもグルメが美味しいものを味わうように、旦那様が舌で肉襞をめくりあげ、躍りでた肉の芽をジュルっと音をたてて吸うのです。舌で吸われると、意地汚い猫がスープを啜るような音がしました。その淫らな音は聞いていて羞ずかしいほどでした。 「あうっ、もう、堪忍……」  若奥様の頬が上気して、真っ赤な酸漿《ほおずき》みたいになってきました。剛毛の生えた二本の指が、神秘の秘門を楕円から円形にまで広げてしまいました。花孔がひきつり、真紅の淵からはたらたらと粘液が噴きこぼれます。 「おうおう、こんなに燃えるような色をさせおって……」 「お義父さま、ああ、狂いそう……あ、どうか、土蔵に連れてってくださいまし」 「ふふ、土蔵で狂いたいか」 「はい、狂いとうございます……」 「雅子も、わしなしで暮らせないようになったか」 「はい、雅子は、もう、身も心もお義父さまのもの……」  肉欲に悶え、虫一匹殺せないような若奥様の口からその言葉を耳にすると、わたしはゆっくりと廊下を立ち去る決心をしたのでございます。二人の愛撫は初めてではない——これから土蔵に行ってさらに燃えあがるに違いない。そう思ったわたしの瞼の裏に、真っ赤に爛れた若奥様の羞ずかしい部分がやきついておりました。   2  旦那様の名前は合田裕司といって、この秋にシンガポールで株式を上場した「合田プラスチック」の会長です。当年とって五十八歳。一代で世界のメーカーにのしあがったといえば聞こえはいいのですが、当人は中小企業の苦肉の策だと申しておるようです。人件費の高い日本ではやっていけないとして海外進出をしたようですが、わたしにはやれバブルだの、やれ円高だの、やれ不良債権だのということは皆目分かりません。  わたしが世田谷の合田邸にお手伝いとして住み込むようになったのは、半年前で、それまでは亡くなった奥様が入院された病院の付添婦でした。咽頭癌を病んでいた奥様は入院中は何かと心細いらしく、年寄りのわたしをひたすら頼りにしてくれました。すでに咽頭癌は奥様の喉から、声まで奪ってしまったのでわたしたちは筆談をしていました。皮肉なことに奥様の病気がひどくなるにつれ、旦那様のお仕事が波に乗りはじめ、旦那様は世界を駆け回りやがてシンガポールに工場を持ちました。母の病気が長引くのを覚悟したのでしょうか、それまで看病をしていた長女の典子様はわたしと入れ代わりにお父様と共にシンガポールに滞在し、現地に滞在していた日本人の有能ビジネスマンと結婚しました。こんな忙しい中、奥様は再入院をし、そこで呆気なく息を引き取られました。シンガポールから駆けつけた旦那様と長女の典子様は、奥様の臨終に間に合いませんでした。奥様の最期を見取ったのは、正夫様と雅子様、それにわたしだけでした。奥様の死後、わたしは旦那様の勧めでお屋敷のお手伝いになりました。  奥様の逝去と同時にお払い箱になるのを覚悟したわたしでしたが、旦那様にしてみれば、身の廻りの世話をしてくれる女が欲しかったのかもしれません。かつての旧家だったせいか、お屋敷に上がって広大な地所に眼をまるくしました。なにしろお庭だけでゆうに百坪はありますし、離れには土蔵までありました。近所でもこれほどの大きな土蔵は珍しいので、通りがかりの人が壁に絡まった蔦を眺めていることがあります。ときには写真撮影をしてゆく人もあるのです。  一人息子の正夫様が、父に屈折した感情を抱くようになったのは、病弱の母を放り出して、父上がビジネスに奔走したせいでしょうが、母の死後は立ち直れないほど、浴びるように悪酔いしていました。まだ新婚のはずなのに、若奥様との夫婦喧嘩の絶え間はありませんでした。やがて正夫様は会社を飛び出し、友人と共同経営で青山にスナックを出しました。その頃には、若奥様との間の溝も深いものになっていったのでした。夫に愛人がいる——そのことを悩んで、若奥様が幽霊のような顔で夜中に歩きまわったこともありました。やがてその苦しみを訴えるために、若奥様がはるばるシンガポールまで義父である旦那様を訪ねていったことがございますが、思いかえせば、旦那様と若奥様の不倫は、あの狂おしいばかりの熱帯の地で始まったのかもしれません。  長い廊下の突き当たりの四畳半の自室に戻ると、わたしは何か居ても立ってもいられないような不安を覚えました。仕方なく自分でいれたお茶をすすりながら、不吉な予感がこみあげるのを禁じえませんでした。年寄りのお手伝いであるわたしの部屋は、昔風にいえば女中部屋で、なんの変哲もない薄暗い場所です。壁にカレンダーが掛かり、衣服を収納する箪笥だけが置かれていました。  観葉植物が好きなので、箪笥の上に鉢に入ったポトスを置いていました。炬燵に入り背中を丸めて緑の葉を仰ぎ見ていると、匕首で胸を裂いたように心臓のあたりが痛くなりました。今夜、もし箱根から正夫様が帰宅したら、どうなるのでしょうか。旦那様と若奥様がしていることが、人の道に外れていることは誰が見ても明らかです。正夫様の愛人問題はともかくとして、夫が浮気をしたから妻が浮気をしていい理由にはなりません。しかも夫の父親と関係するなんて、まるで獣のすることです。わたしには旧家のお屋敷が、なにか不吉なダイナマイトを抱えているように思えました。  先程のリビングでの旦那様と若奥様の様子から、あのような愛撫の時を持ったのは初めてではないに違いない。これは女の直感でしたが、そのときふと脳裏に甦ってきたのが、いつかの国際電話で、雅子様が口にした言葉でした。わたしはこんな言葉を立ち聞きしていました。  ——わかってください、わたしはあなたとご一緒できるから、正夫さんと結婚したのよ……。  さりげなく聞いていた言葉でしたが、今になって思うと、あの電話はシンガポールの旦那様に向かっていった言葉に違いありません。ということは、旦那様と雅子様の間には、正夫様との縁談以前に何か因縁があったのかもしれません。本命の愛人といつも一緒に居たいために、その息子と結婚したのだとしたら、雅子様も不幸なお方です。  それからわたしの脳裏をよぎったのは、旦那様が帰国すると、いつも消えてしまう正夫様のことでした。父と顔を会わしたくないというのがその理由でしょうが、そのことが二人をさらに結びつけてしまったようです。夫の不在を利用して、若奥様と旦那様は何度も土蔵で会っていたに違いない——迂闊にも今頃になってそのことに気がついたわたしの胸は騒ぎました。もしかしたら、その危険な密会はわたしがこのお屋敷に来る前からのことかもしれないのです。  シンガポールに本社を持つ旦那様が帰国するのは不定期で、月に二度も帰ることもあれば、三カ月に一度も帰国しないこともございます。でも、帰国する度に、二人は土蔵で愛しあっていたに違いない。土蔵の中での、燃えるような痴戯、狂ったような愛が、いま、お屋敷ごと漂流させているのかもしれないのです。不倫の愛——狂おしい蜜戯を思うとわたしは火傷をしそうなものを感じました。  やがてうつらうつらしていましたが、わたしは裏口まで行きました。長靴をはき、木戸を開けてから雪の積もったお庭に足を向けたのは、やはり不吉な予感にそそのかされたせいでしょうか。まだ奥様が健在だった頃から、わたしの予感は不思議に当たるのです。付添婦の第六感といえばそれまでですが、病院でもわたしは何号棟の誰々さんにいつお迎えがくるかを当てたものです。  お庭に出てみると本降りだった雪はすでに細かな雪に変わっていました。暗い天からの雪はふわふわした綿のように舞っていて、近くでみると燈籠の上の雪も思ったよりも量が少なくなっていました。雪の上を踏んでいると、すぐに真新しい雪上に、四つの足跡を見つけました。その足跡はたしかに土蔵に向かっているのでした。わたしが年寄りだと思って、二人は足跡にまで気を使わなかったのでしょうか。それとも愛しあっている二人には、足跡から秘密を知られる恐れさえも気にする余裕を失っていたのでしょうか。  燈籠の向こうに、三角屋根の雪を頂き灰色の壁に蔦の這った土蔵が見えてきました。足跡は土蔵の扉の前で消えていました。長靴をはいたわたしは、ふかふかする雪を踏んで、そっと土蔵に近づいていました。  雪のせいで湿って重い木の扉を押すと、意外なことに開きました。仄かな雪明かりで紅殻《べんがら》塗りの漆喰が目に入り、壁にはガラクタがひしめいて、じめっとした三和土はひんやりし一寸先が見えないほど真っ暗でした。もう一枚の格子扉いは、古い木の扉がありましたがその向こうに人の気配がありました。扉の向こうには閂が掛かっているに違いありません。わたしは物音を立てないようにしながら、手さぐりで扉の節穴をさぐるようにそっと眼をあてました。 「あ、お義父さま……」  せつない声がしたので眼を凝らすと、ダルマストーブの上に薬罐がのせられていました。蓋がないので湯気が吹き出し、薬罐からは徳利の頭が覗いていて、そばに日本酒の五合壜が置かれています。ストーブの向こうの茣蓙を敷いた床の上に、若奥様が長襦袢をはだけて仰向けになっていました。帯を解かれているので、縮緬の赤い長襦袢の上の白い女体が浮世絵のように見えました。若奥様はすでに湯文字までもお外しになって、その両膝をくの字に立て、大きな角度で開いておりました。豊満な双つの乳房がぶるっと震え、若奥様の表情がうっとりしています。旦那様が徳利を手にして、なにやら、若奥様の股の間に顔を近づけていました。 「いや、もうやめて……」  のけぞった若奥様の頬が、すでにほんのり紅潮しています。 「もっと飲め、ふふ」  徳利を手にした旦那様が、若奥様の秘唇に燗をしたものを注いでいるようでした。 「あ、熱い」 「熱くはあるまい、人肌じゃ」  旦那様が徳利を手に、美しい秘唇にゆっくりと注いでいるようです。  ストーブのせいで土蔵の中の温度はかなりのもののようです。若奥様の頬が上気しているのは、女のもうひとつの口から飲まされた酒のせいなのでしょうか。旦那様も和服に着替えていて、裾が割れると足袋をはいた足首が見えました。  徳利で中身を注いでから、旦那様が腹這いになり腰を上げて白い股間に口を寄せているのです。ジュル……という淫らな音がしました。 「あ、あうっ、堪忍」  のけぞった若奥様の声が、なんとも色っぽく聞こえました。長襦袢はすっかり肩まで落ちて、双つの乳房が震えています。堅く屹立した桃色の乳首が、男を唆すように立ち上がっていました。旦那様が白い太腿の付け根にさらに注ぎ、ふたたびゆっくりと口をおつけになりました。淫らな音が出て、上体を折った旦那様の腰が高くなりました。 「うぃっ、いい酒だ……ふふ、頃合いの燗じゃな」  顔を上げた旦那様が、手で口の汚れを拭いました。 「いけない方、ああ、わたしはお盃じゃございません」 「おまえは、絶品の盃じゃ、いや、男を救う菩薩だ……」  旦那様はそう囁くと、さらに徳利を近づけるのです。さすがに覗きをしているわたしの鼓動が高鳴りましたが、まさか、聞かれているとは知らずに旦那様は若奥様の顔を引き寄せてこう囁きました。 「雅子……おまえが可愛い」 「お義父さま、ああ、シンガポールに連れてってくださいまし」 「それは無理というもんだ……典子の手前だってあるし」 「ああ、心が苦しゅうございます」  若奥様は仰向けのまま、旦那様の首に両腕を廻しました。 「女房を放り出してまで仕事に専念したおかげで、いつしか不能になっておった。男が男でなくなる苦しみは、おまえには分かるまい。それを救ってくれたのが、雅子、おまえだったのだ」  わたしはいつか、付添婦をしているときに、患者の一人からあぶな絵を見せられたことがございます。土蔵の中で、日本髪に結った美しい女が素裸に剥かれ、人相の悪い素浪人風情の男に逆様に括りつけられ、豊満な尻を突き立てている絵でした。茹で卵を立てたような女の尻が、なんとも淫らでした。いまの若奥様は決して括られてはおりませんが、長襦袢をはだけ、秘唇を吸われた格好はあの絵の女そっくりでした。  覗きをしているわたしは、そばにあったガラクタの山を無意識にまさぐっておりました。手に触れたのは壺に立てられた孔雀の羽で、暗いのでわかりませんが思わず嚔《くしゃみ》をしそうになって困りました。あらためて節穴を覗くと、よつんばいになった若奥様が、腰を突き出して悶えていました。旦那様が褌を外し、後ろから挑んでいるところでした。 「あうっ、お義父さま」  旦那様の両手が、むっちりした臀部を引き寄せました。 「雅子、さっきおまえは、土蔵の中で狂いたいっていったな」 「はい……」 「よし、狂わせてやる」  旦那様が褌をお外しになると、切り株のような雁高のエラが青筋を立てています。亀頭をそっと、燃える花孔に当てがいながら旦那様が囁きました。 「さ、なんておねだりをする?」  鎌首はネチョッと音をたて、鮭肉色の肉襞を左右に分けるのです。肉の芽は充血し、エンドウマメの莢が割れて突き出ていました。捏ねられると、若奥様が羞恥に染まった顔でいやいやをしています。小陰唇の花びらが左右に分かれ、ぽってりした膣口が剛直を呑み込もうとします。ああ、女ってなんて浅ましく貪欲で欲深い生き物なのでございましょうか。小陰唇の花びらは、熱い肉棒を咥えるかのようにしっかりと肉茎に張りついているのです。ですが、挿入直前に、鎌首がすっと離れました。 「あ、イジワル、お義父さま」  よつんばいになった若奥様のおでこと白い首筋に、黒髪がはらりと何本か垂れてきました。白い双臀が白桃のように突き出し、獣のように背後から挑まれているのです。本物の浮世絵を見るようで、わたしは息をのみました。 「欲しいのか、さ、なんておねだりする?」  旦那様はそういいながら、鎌首を挿入せずにいたぶるのです。真横から見ているわたしには、鎌首が熟れた花肉をいたぶる様子が覗けるのです。ぽってり爛れた膣口を突かれると、若奥様はしばらく羞恥に耐えないようにいやいやをしていましたが、そのうちにとうとう、おねだりの声を発しました。 「ああ、欲しいの」 「そんな言い方じゃ駄目じゃ」  鎌首を抜かれると、ふっくらした下腹部が息づきました。抜かれた花孔に、旦那様の目が迫りました。 「おうおう、なんて熱いんじゃ……ほれ、こんなに真っ赤になりおって」 「お義父さま、あ、あうっ、お○○こしてくださいまし」  なんともいえぬその声音には、貴族の血統も、女の誇りもかなぐり捨てた情欲が迸っていました。ただの浅ましい獣の戯言でしたが、旦那様はその言葉を言わせてから、腰をぐいっと前に突き出しました。ぬらぬらした肉襞の合わい目に鎌首が埋まり、ミミズ腫れの血管の浮き出た肉茎が濡れたオチョボ口にすっぽりと吸いこまれました。その途端の若奥様の哀れなまでの、せつない歓喜の欷歔を、なんと形容したらいいのでしょうか。牝としての歓喜の絶頂を示す嗚咽が、抽送の度に、ときには甲高くときにはうねるようにして、若奥様の紅唇から洩れはじめたのでした。よつんばいの若奥様に後ろから挑んだ旦那様は、一匹の獣でした。挿入しながら片方の手で垂れ下がった乳房を愛撫し、振り向いた雅子様のお口を吸います。 「く……くく、ああ」  若奥様はすでに虫の息になって、下腹部を振りました。 「うっ、熱い……おう、燃えてる」  二人の息が乱れ、合わさった腰が熱気でむんむんしています。旦那様が腰を突き出すと、白い豊満な尻が、その動きに合わせるように突き出るのです。 「あ、もっと突いて」  若奥様の声に、旦那様の腰がねっとりと前方に突き出ました。こともあろうに、夫の父親にこのように哀願する女が、広い世間の何処にいるでしょうか。そう思いながらも、わたしは節穴に眼を当てながら息を乱しているのでした。貪欲に逸物を頬張ると小陰唇の花びらが、血管の浮き出た肉茎に張りつき、抽送の度に花びらが満開になります。ぬらぬらした淫液が噴きこぼれました。 「ふふ、雅子はいま、何してる」  旦那様の意地悪な言葉に、若奥様が頬を染めていうのでした。 「あ、あうっ、雅子は、ああ、あうっ、雅子はいま、お義父さまと、ああ、つながっております……」  その言葉をいい切ったときの、若奥様のなんと淫らで美しい表情だったでしょうか。同性でありながら、わたしはその美しさにうっとりしてしまいました。どんな男でも、あの若奥様のイクときの表情を眺めればさらにそそられるに違いありません。そう雅子様の表情は菩薩の顔になっていました。  ふと、土蔵の向こうにクルマのエンジン音を聞いたのはそのときでした。わたしは音を立てないように、扉の外に出ました。いったんやんだはずの雪でしたが、見上げると風花となっていて、静かに舞っている雪がいまのわたしには天からの警鐘のように見えます。  雪のお庭を玄関の方に向かったとき、ガレージに向かって、黒いベンツがバックで車庫入れするところでした。黒いベンツは正夫様の愛車です。心臓が割れる思いで、ガレージまで行って煙のような排気を見つめました。ドアをガタッと開けると、正夫様が降りてきました。わたしを見つけると、 「フミ、親父が帰ってきたんだろ」  と声をかけました。 「ええ、でも……」 「なんだ」 「たった今、お出かけになりました」 「で、雅子はどうした」 「ええ、ご一緒に」  わたしはそういうと、玄関の扉を開けて若旦那様を誘ったのですが、正夫様の表情がこわばっていました。何かを覚悟して、戻って来た気配がありありと窺えます。何か証拠を掴んだとでもいうのでしょうか。 「フミ、俺がなんにも知らないと思ってるのか、退け」  いったん扉に入りかけた正夫様でしたが、お庭の雪を見つめました。そこにあった四つの足跡を発見すると、正夫様はシャパードのようにして雪を蹴って突進したのでした。雪煙が上がって、正夫様の姿が遠のいていき、赤い椿の花が、純白の雪の上にポトリと落下しました。         オンライン文庫           ——————————————————————    ・雪夫人痴戯・                              著者 矢切 隆之    ——————————————————————                           初 版 発 行   1998年 7月10日      発 行 所   株式会社フジオンラインシステム          住所 東京都豊島区東池袋3-11-9                 ヨシフジビル6F          電話(03)3590-9460                                                          制 作 日   1998年 7月10日      制 作 所   株式会社フジオンラインシステム          住所 東京都豊島区東池袋3-11-9                 ヨシフジビル6F          電話(03)3590-9460                                    本書の無断複写・複製・転載を禁じます。