TITLE : あっと驚く三手詰 ◆目 次◆ はじめに あっと驚く三手詰 村山聖の詰将棋ノート  はじめに  三手の詰将棋を作っていて、四コマ漫画に似ているなと思った。四コマ漫画には起承転結の中にハッとさせられるオチがあり、なるほどとうなずくものも、さっぱり意味不明のものもある。順番通りでなく、どこから読み始めてもけっこう楽しめるところも同じだ。  解く人のレベルや好みもあるが、三手の詰将棋もハッとさせるものがあるかどうか、それがすべてだろうと思っている。 「詰将棋の基本は捨て駒にあり」が普通のセオリーなのだが、「たかだか三手詰なのだから解けないはずがない」という人も、何とかあっと驚かせてみせようというのが作者の魂胆である。とはいえ三手詰なのだから、盤面いっぱいに駒が配置されていても、中段玉、入玉の形でも気にしないで挑戦してほしい。  八題がワンセットで、初めはやさしく最後はかなりひねった作もある。どこから解いても八題でひと区切り、楽しめる構成にしてあるのも特徴だ。  作者からの注文は、解いた後に答えを確認してほしいことと、一作一作のねらいを見破ってほしいことの二つである。棋力アップというよりも、個性ある駒の動きの不思議さユニークさ、そして詰みの迷路の楽しさを味わっていただけたらと願っている。  もっともっと詰みの多様さを追求したかったのだが、作りつづけているうちに、とうとう飛、角に追いかけられる夢まで見た。とりあえず限界である。ただ、三手の詰将棋はまだまだ可能性のある世界だと思う。  実戦や実生活の息抜きに、三手詰の遊びの世界を楽しんでいただければ幸いである。  二〇〇〇年八月 森 信雄   〈詰将棋のルール〉 1 攻め方(詰める側)は、王手を連続させて詰める。 2 盤上や持ち駒以外の残り駒は、玉を除きすべて玉方の持ち駒として自由に使える。 3 攻め方は迂回手順(一手で詰むのに三手で詰ましたりする)を避け最短で詰める。 4 玉方は最長で最善の手順を尽くして逃げる。 5 玉方は意味のない無駄な合駒をしない。 6 その他はすべて指し将棋のルールと同じ。 あっと驚く三手詰 第一番 【第一番解答】  5三銀不成3四玉4四銀成まで。  詰将棋が苦手でも「三手詰なら何とかなるわい」、そんな人が多いだろう。金はタテ、ヨコ、銀はナナメ、そんな駒の特性を生かした5三銀不成から4四銀成の二段活用で詰み。 第二番 【第二番解答】  9七飛8九玉8七飛まで。  飛車を横に振るのだが、9七飛が限定手。6七飛でも同じに見えるが、7七桂(香)の中合いのテクニックで失敗する。  ワナを仕掛けていたりするので、解けたと思っても解答を確認されたし。   第三番 【第三番解答】  2五銀2六玉3六銀まで。  初手2四竜や2四飛成は1六玉以下詰まない。2五銀から3六銀とスルスル銀のナナメ使いで、馬の利きを止める。  三手詰は一、二、三の呼吸でリズミカルな駒の動きが特徴だ。   第四番 【第四番解答】  1七金同桂成4八角まで。  角を動かす前に1七金は詰将棋の基本の捨て駒だが、少しわざとらしい。同桂成に4八角と竜を素抜かれない引き場所がテーマである。角のシャープな動きで、守りの竜を影にしてしまう。   第五番 【第五番解答】  5七馬3六玉2八飛まで。  できるだけ新味を出そうと作り始めて、手筋っぽいのは除くことにした。開き王手なのだが、俗に5七馬と引き、3六玉に2八飛が田舎っぽい飛車の動きだ。2七歩を支える大駒らしくない一着。   第六番 【第六番解答】  7五角7七玉7八飛まで。  5六飛6七玉の局面でいくら考えても詰みはない。柔軟思考の初手7五角がコロンブスの卵の発想だ。香車を取られても7八飛で逃がさない。しがみつかないで手を放せば道は開ける。   第七番 【第七番解答】  6八角7五玉6四竜まで。  角を動かす地点が十ヵ所ある。よく見ると8六歩を守り、7五玉から8六玉と脱出させない6八角がこの一手。7五玉に6四竜でぴったり詰んでいる。責任感の強い裏方の角の芸である。   第八番 【第八番解答】  3四飛1六玉1四飛まで。  飛車の開き王手しかないが、十四ヵ所のうち盲点になりやすい3四飛が正解だ。1六玉のとき1四飛で合駒利かずの詰み。  同銀と取られそうな目の錯覚をねらったのだが、心理的な問題。   第九番 【第九番解答】  2六銀同桂1四飛まで。  入玉形は逆さに攻めるので、駒の効率が悪くなる。ただで取れる桂をみすみす2六銀同桂と跳ねさせて1四飛までの詰み。  単純だが、この捨て味が私のお気に入りでもある。   第十番 【第十番解答】  3三金1三玉4四竜まで。  初手に上から2四金は2二玉以下足りない。俗に3三金と打ち、1三玉のとき4四竜とそっぽに動くのが急所。飛車と香の利きをいっぺんに止める、そっぽの竜がカッコいい。   第十一番 【第十一番解答】  2八金2三玉3八金まで。  初手2七金は1八歩と、竜の横利きで受け止められる。カニの横ばいのように2八金から3八金がユーモラスな動き。  児玉孝一七段のカニカニ銀戦法もユニークだが、カニカニ金の三手詰。   第十二番 【第十二番解答】  7八角3六竜7四角まで。  一瞬、答えを忘れてしまった。初手4五角3六竜6三角成はワナで、4五角に7六歩同飛8七玉と脱出される。  7八角が地に足がついた手で、3六竜を強要、7四角と出るまで。   第十三番 【第十三番解答】  8七銀6七玉5五飛まで。  はじめただちに飛車で開き王手するのは、玉が広くて捕まらない。初手8七銀で6七玉と追い込み、5五飛で御用になる。  飛、角のコンビネーションで、着地がぴったり決まる。   第十四番 【第十四番解答】  4七金5九香成1一竜まで。  初手5七金も目につくが、4八歩とされ失敗。4七金でわざと5九香成と角を取らせるのがミソで、1一竜と転換して詰む仕組みだ。初手6五竜は3五歩と受けられて詰まない。   第十五番 【第十五番解答】  4五竜4八玉6八角まで。  初手6六竜は4八玉。6七竜は4六玉で詰まない。4五竜と角の背後に回るのが意味深長で、4八玉のとき6八角が静止画面のような詰め上がりだ。5九玉と逃がさない角のファインプレー。   第十六番 【第十六番解答】  6六飛7三桂5五歩まで。  大駒を使った三手詰の素材は色とりどりだが、新パターンの発見には限界があるかもしれない。6六飛がソツのない引き場所で、7三桂に5五歩。この歩を突いて詰みなのが本作のねらい。   第十七番 【第十七番解答】  2三角同竜2四桂まで。  単に2四桂は2三玉と逃げられる。かといって4一角は3二歩の受けで駄目。  素直に2三角で同竜とさせてから2四桂で波乱なく詰みだ。桂跳ねで詰ます初歩のパターンだ。   第十八番 【第十八番解答】  2三竜同銀3三金まで。  竜捨てを惜しんで2四竜は4三玉で、ひと目駒不足。2三竜は手筋っぽい決め技だが、同玉なら2四金まで。  本来の三手詰はこのパターンが多いはずで、水戸黄門のドラマのようでもある。   第十九番 【第十九番解答】  7五角8二玉6四角まで。  さりげない7五角で、守りの金を不動の金縛りにさせる。合駒利かずで8二玉もやむなしのとき、6四角とひょっこりのぞいて詰み。地味な角のさばきだが、アクセントがあるので気に入っている。   第二十番 【第二十番解答】  2五馬4四玉5六飛まで。  2一飛成は4六玉。3六飛も2五玉で王手は続くが詰まない。2五馬が局面打開の一着で、同香なら3六飛まで。  4四玉のとき5六飛で、広そうな玉も一発でダウンする。   第二十一番 【第二十一番解答】  8二角成2二角2八馬まで。  初手7三角成は2二飛で失敗だ。そこで8二角成が飛車を釘づけにさせる限定手となる。2二角に2八馬と引きつけて詰み。大舞台でもネタはたいしたことないが、攻防の角の軌跡が見どころか。   第二十二番 【第二十二番解答】  5七銀5五玉7五飛まで。  ぶらんこでちょっと手を放す感じの5七銀が、小さなスリル。5五玉に7三飛成でなく7五飛がいかにも渋い味。飛車を成るより6五歩を守る役目だ。5五玉で詰む形を都詰めという。   第二十三番 【第二十三番解答】  4六飛1六玉3五歩まで。  二十二番の飛車浮きと、十六番の歩突きの詰め上がりをミックスしたような作。初手4三飛成は1六玉で守りの角が利き、詰まない。4六飛がねらい澄ました一着で、今度は1六玉に3五歩で合駒利かずの詰み。   第二十四番 【第二十四番解答】  6一飛成5九竜9一竜まで。  6九飛9六玉8六馬が偽作意で、実は6九飛に8六香合同角9六玉で詰まない。裏通りを遠回りするような6一飛成から9一竜が大胆な活用となる。  急がばまわれの作である。   第二十五番 【第二十五番解答】  3八角2三玉5六角まで。  手慣れてくると3八角はひと目で見破るだろう。香車を取らせない限定の角だ。  2三玉に5六角と、Vの字に角を転換させるのは心地よい。大見得を切った役者のような角が主役となる。   第二十六番 【第二十六番解答】  7三角打同桂6六角まで。  初手6六角と早まると7三玉5一角7二玉で詰まない。もったいないようでも7三角打でフタをしてから、6六角がセオリー通りの順となる。三手詰だとどうしても、開き王手が主流となるようだ。   第二十七番 【第二十七番解答】  6二飛成5七竜7三竜まで。  金に目がくらむ6一飛成は8二玉。ただちに両王手の6三飛成も8二玉で、いずれも失敗する。要《かなめ》のと金を取らせない6二飛成が冷静な一着で、5七竜に7三竜と竜が変化球のような面白い動きをする。   第二十八番 【第二十八番解答】  2六飛1七玉2三飛成まで。  初手2六飛の両王手で入玉をくい止めてから、2三飛成と慌ただしい飛車の活躍で詰ます。竜で角を取られない意味で2三飛成が限定の動きとなる。初手1六飛は御法度で、2九玉で失敗だ。   第二十九番 【第二十九番解答】  3七角1七玉3四金まで。  初手3四金に誘われると1五玉で詰まない。香車の利き筋に3七角と野暮ったく角を使い、1七玉に3四金が限定手。  飛車を無力化させる独特のパターンだ。  むしろ初手の俗手の角の味わいがテーマ。   第三十番 【第三十番解答】  4五馬同桂5六飛まで。  どこかで見たような手順だが、二十番と双子の作なのだ。形は異なれどねらいは同じ。4五馬に3七玉なら5八飛まで。意識して作ったわけでなく、思考回路が同じなので、つい出来てしまうのだ。   第三十一番 【第三十一番解答】  4四竜同金3七角まで。  とりあえず王手の3七角は4六歩で詰まない。この形は中段玉特有の手筋があり、4四竜がその一手。同金とさせて3七角で、二枚角のエネルギーを最大限に発揮させる詰みパターンとなる。   第三十二番 【第三十二番解答】  5五飛4四玉5三飛成まで。  一時停止の5五飛がユニークな一着で、合駒利かずにさせてから4四玉に5三飛成でストップをかける。先入観にとらわれた5三飛成4六歩3三竜は3四香で詰まない。   第三十三番 【第三十三番解答】  1五銀同玉2五竜まで。  2五銀と打ち1五玉に3三馬の順は実戦の感覚だ。詰将棋では数の攻めでなく針でツボを押さえる考えがいい。1五銀がそれで、同竜なら4一馬で詰み。5一馬の利きで3三桂の弱点をつく攻め。   第三十四番 【第三十四番解答】  9五角同香7七竜まで。  6八角は紛れ筋で、7七歩同竜9五玉とされ失敗だ。敵の急所は味方の急所で、玉の逃げ道に一本9五角のパンチを放つ。あいまいな態度を取らせず、請求書をつきつけて決着をつける。そんな角打ちだ。   第三十五番 【第三十五番解答】  3七桂同馬5六金まで。  守りの駒がいっぱい利いている地点、むしろそこが弱点になることがある。3七桂がその例で、同香成でも3五金まで。  これを焦点の捨て駒という。オーソドックスな詰めの手ざわりである。   第三十六番 【第三十六番解答】  6四角9八竜6六角まで。  7五角の両王手や5三角左成はいずれも8二玉で詰まない。と金を守る6四角が仕事師の動きで、9八竜に6六角とコンビプレーで詰ます。私はどうも地味な働き、些細な効果が好きなようである。   第三十七番 【第三十七番解答】  7七角2五馬8七桂まで。  6四角2五馬8七桂は例によってワナである。二手目7五歩とされ同飛8六玉7三飛成6四歩以下詰まない。  7七角と香車にヒモをつけ、2五馬に8七桂がソツのない順となる。   第三十八番 【第三十八番解答】  4八角3五玉5七角まで。  作りながら自分のクセに気づくことがある。食堂で似たようなおかずを注文するようなもので、4八角と3七歩にヒモをつけ、3五玉に5七角と再活用で詰ます。 5五玉なら6六竜まで。   第三十九番 【第三十九番解答】  5二竜3三玉2二竜まで。  5二竜は待ち伏せのような手で、3三玉に2二竜と犯人を捕えた。ドジな刑事だと5一竜3三玉3一竜と追うが、3二歩以下失敗する。さりげない2三歩の存在をヒントに推理すればよい。   第四十番 【第四十番解答】  2六飛1五桂2一飛成まで。  初手2三飛成や3四飛、工夫して1四飛もすべて1五馬で竜の受けが利いて詰まない。2六飛が絶妙の呼吸で1五桂に2一飛成と道が開ける。思わず自分でうまく出来ているなと感心してしまう。   第四十一番 【第四十一番解答】  3七角同馬4九飛まで。  3七角が焦点の捨て駒で、馬で取ると4九飛。桂で取ると1四飛までとなる。  数に物をいわせる1四飛は、詰将棋だと効率がよくない。1七歩同飛同桂成同竜2九玉で詰まない。   第四十二番 【第四十二番解答】  6二竜同銀8二角まで。  初手9一角は8二香。5一角も6二歩と合駒されて詰まない。上っ面の手でなく6二竜が大振りの強手で、同玉なら5一角まで。大駒捨ては基本中の基本なので、大胆に踏み込むこと。   第四十三番 【第四十三番解答】  2三銀1五玉3七角まで。  2三銀1五玉4四角はこれまで何回か出てきた3五歩の中合いで逃れ。  3七角がねらいだが、初手の銀打ちが俗手すぎたので、やや不完全燃焼気味の作。2三銀に1三玉なら2二角成まで。   第四十四番 【第四十四番解答】  7二桂成8三玉6二銀成まで。  毎日数題ずつ作っていったのだが、素材の着想が浮かばない日もあった。それでも強引に駒をいじっていると、ふとできるのだ。  7二桂成8三玉に6二銀成と成るのがミソで、とぼけた味。   第四十五番 【第四十五番解答】  5五香6四玉7四歩まで。  大駒の派手さに飽きると、小駒の小さな動きがいじらしく見えたりする。  5五香で竜の守りを消し、6四玉に7四歩まで。小駒を使って絵を描くのも、漬物のおいしさのようなものか。   第四十六番 【第四十六番解答】  2八飛3七玉6五金まで。  ひと目は2九飛だが、3七玉6五金3八玉で詰まない。逆さ思考で2八飛と引けばよいのだとピンとくればしめたもの。2三飛成も3七玉6五金3八玉で入玉されてしまう。2八飛がこの一手。   第四十七番 【第四十七番解答】  3六歩4四玉4二竜まで。  初手3三竜は2五玉と脱出される。ちょこんと3六歩と突き、4四玉に4二竜が不思議な詰め上がり。  三手目も3三竜と欲張ると4五玉以下詰まない。   第四十八番 【第四十八番解答】  3九角3五玉1七角まで。  角をどこに動かすかだが、3九角が絶妙。3五玉に1七角と大回転するのが巧みな構想となる。いちばん盲点となりやすい順を考えて作る。誘いの順があればなおいいわけだ。5五玉なら6六竜まで。   第四十九番 【第四十九番解答】  3四銀成同馬1五竜まで。  手が狭いので3四銀成の発見は容易だろう。同玉なら2三竜まで。  飛んだり跳ねたりばかりだと、たまに手筋物もいいなあと思ったりする。2三銀が邪魔駒で、それを消去するねらいだ。   第五十番 【第五十番解答】  2二香成3四玉2三飛成まで。  2五香とひとつ浮く筋で作りたかったが、結構作りづらく、2二香成にした。  ミニトリックで2三飛成までの詰み形を想定すればよい。2七香と引く形で作れれば傑作だが、ルール違反の禁じ手である。   第五十一番 【第五十一番解答】  7六銀1六玉8七銀まで。  守りの馬の利きを徹底的にはずす7六銀から8七銀で、あっけない幕切れとなる。理屈がわかれば何でもないが、5六銀だと6五桂が限定合いの受けなのだ。6五歩は同飛から1六歩でトン死する。   第五十二番 【第五十二番解答】  2二銀成2四玉3二成銀まで。  初手2二銀不成とやってしまうと2四玉のとき、手が詰まってしまう。  2二銀成から3二成銀と銀を成っていないと詰まないのがミソ。玄人っぽい銀のさばきである。   第五十三番 【第五十三番解答】  4五飛5六玉6七角まで。  5三飛成で詰んでいそうだが、5五桂の中合いで抵抗され、同竜は7七玉。同角は5六玉で手は続いても詰まない。  4五飛と横に小さく動かし、5六玉に6七角で、わりと単純に詰む。   第五十四番 【第五十四番解答】  8三銀不成6四玉7四銀成まで。  8三銀成は6四玉6三角引成7五玉で詰まない。ここは8三銀不成が正解で、6四玉に7四銀成がぴったりとなる。成るか成らざるか、それが問題だ。単純な選択が素朴でいいのだ。   第五十五番 【第五十五番解答】  3三竜6二竜2四竜まで。  初手4六竜は1五玉、4三竜は3五歩で詰まない。竜が小駒のように3三竜から2四竜と小回りする動きが面白い。  表の筋より裏の筋をひねり出すのが、私のクセである。   第五十六番 【第五十六番解答】  4七飛3三桂9八飛まで。  8四飛3三桂は手が途切れてしまう。4七飛が奇手で、8六玉なら8八飛の両王手まで。3三桂に9八飛で妙な詰み形となる。初手6四飛も同じようだが、6六歩で詰まない。難解作かもしれない。   第五十七番 【第五十七番解答】  6八角8七玉9八竜まで。  6八角と守りの竜の利きを消せば、8七玉に9八竜が成立する仕組みだ。  単純で明快な意味づけなので、駒の配置もパラパラで少なくてすむ。なあんだと思うかなるほどと思うか、どうだろう。   第五十八番 【第五十八番解答】  2四竜同桂左1一竜まで。  他に適当な手もないので、2四竜と打開するのはひと目だろう。同玉は2二竜。同桂右なら3三竜まで。  応手によって、三手詰を三回解くことになる。   第五十九番 【第五十九番解答】  5三銀成3四玉2三馬まで。  一番の姉妹篇で、成るか成らざるかシリーズのひとつ。今度は5三銀成が正着で、3四玉に2三馬で詰み。詰将棋は初形から形を変えれば、銀をどこに動かしても作るのは可能で、答えを作るのが創作でもある。   第六十番 【第六十番解答】  3五角3四玉5七角まで。  5三飛が浮いているので初手3五角はほぼ必然だが、3四玉のとき5七角が限定の決め手。3九香を取らせない意味なのは明白だ。さりげない初手を加えて、手順にメリハリをつけてみた。   第六十一番 【第六十一番解答】  5八金3八玉3九飛まで。  馬で飛車を取られないように、5八金とそっぽに動くのが急所。ただし、3八玉に3九飛は平凡すぎたか。  駒がそっぽに行くのは、へそ曲がりな私の性に合うのだろう。   第六十二番 【第六十二番解答】  9八飛1七桂成9三角成まで。  9八飛と大きく動き、9九竜の利きを止めてしまう。1七桂成に9三角成でジ・エンドとなる。広くして考えにくくしているわけでなく、大きな動きの方が作っていても心地よいからである。   第六十三番 【第六十三番解答】  2六竜1八玉4七角まで。  初手に角をどこに引くかと考え出すと詰まなくなる。2六竜と入玉に誘い、1八玉に4七角がねらい澄ました一着だ。ざわついた中でもしっかりと急所を見つけ、意表の詰まし方をする。殺し屋の角である。   第六十四番 【第六十四番解答】  4八銀6八玉7六飛まで。  初手3六飛は4六歩同角成6六玉以下詰まない。4八銀は意外だが、6八玉のとき、7六飛が面白い詰み上がり。  歩の上に腰掛ける飛車の動きと二枚角のコンビネーションで制する。   第六十五番 【第六十五番解答】  3七銀1五玉2六銀まで。  かくれんぼするような3七銀から2六銀の、銀の仕草に好感が持てる。3五銀1五玉2六銀の作意だとつまらないのだ。簡単でもいいから、トリックの味が出ているのがよい。自分勝手にそう思う。   第六十六番 【第六十六番解答】  2八銀同と2四飛まで。  初手2四飛だと2六歩の中合いで詰まない。しっかりと2八銀同とで穴埋めしてから、2四飛で合駒利かずの詰み。  開き王手のひとつの基本パターンで、大駒の限定の動きがテーマである。   第六十七番 【第六十七番解答】  4五桂同馬7五角まで。  攻防のバランスがとれ、静寂感のある局面。ぽつりと4五桂が打開手で、同飛は6二竜。同馬も7五角までとなる。  守備駒の力を弱める捨て駒で、どこかに弱点が生まれ、そこをつく理屈である。   第六十八番 【第六十八番解答】  3五角3四玉2五角まで。  初手5三角成3四玉のとき、5二角は4三桂合で逃れ。桂合以外だと3五に打てるので詰んでしまう。  3五角と短く使い、3四玉に2五角の直打ちで詰み。意表かどうか微妙な作だ。   第六十九番 【第六十九番解答】  1五飛1八玉2六銀まで。  5八飛は2八歩で、同銀でも同角でも1八玉以下詰まない。1五飛と背後から攻め、1八玉に2六銀でバック攻めが決まる。タテかヨコか、飛車をどっちに使うか大違いなのだ。   第七十番 【第七十番解答】  5七桂5四玉3四飛まで。  初手6六飛は3四玉4三角2四玉2六飛1三玉で詰まない。5七桂と跳ね、同馬なら5五とまで。5四玉に3四飛の開き王手までの詰み上がり。飛角のコンビゆえに成り立つドラマである。   第七十一番 【第七十一番解答】  5五竜同桂5九馬まで。  5五竜が焦点の捨て駒で、同竜は4二馬。同桂なら5九馬まで。同じようでも1九竜は同桂成で、竜の守りに阻まれて詰まない。いかにも三手詰らしい5五竜の手ざわりである。   第七十二番 【第七十二番解答】  6四飛8八竜6六角まで。  6二飛成も有力だが、6六桂の空跳ねが受けの好手で、同角右5四玉で王手が続かない。6四飛が好着想で、8八竜に6六角で合駒利かずの詰み。三手詰は特に論理的な仕組みになっているのだ。   第七十三番 【第七十三番解答】  5三銀成4五玉5四竜まで。  手の調子は5三銀不成だが、4五玉で詰まない。トーンを落とす感じで5三銀成が味な手で、今度は4五玉に5四竜まで。ある種のそっぽの銀成りを明快に表現している。私の好みのタイプだ。   第七十四番 【第七十四番解答】  2二角成4二馬5五馬まで。  初手3三角成は4二飛3四馬4六玉で詰まない。2二角成が限定手で、4二馬とさせて5五馬がテクニカルプレーだ。大駒をだらりと動かすのでなく、限定というところに意味があり、引き締まる。   第七十五番 【第七十五番解答】  2六桂1三玉2七銀まで。  2七銀の引き技は2五玉で詰まない。2六桂で玉を下段に落とし、1三玉に2五銀でなくポツリと2七銀が小味な決め手。大駒が主役なら、小駒は職人芸を思わせる渋い脇役である。   第七十六番 【第七十六番解答】  1六金同玉1七竜まで。  盤上に桂が多いと考えづらいが、1六金と玉を馬のラインに呼びこむ。3五玉なら2五馬まで。同玉に1七竜は同桂成とされそうな錯覚に陥るが大丈夫だ。  目くらましの桂の配置だが、考えすぎか。   第七十七番 【第七十七番解答】  4九馬8六香3六香まで。  初手8五馬は3六歩。5四馬も8六香で詰まない。4九馬が玉の死角をつく妙手で、8六香に3六香が決め手。  守りの角筋を消す動きで、まさかの詰め上がりに玉もびっくりである。   第七十八番 【第七十八番解答】  2六馬3四飛4八馬まで。  5七馬3四飛4八馬でも詰みと早とちりしそうだが、5七馬に3七歩と中合いされ、同飛4九玉で詰まない。2六馬に3七歩は同馬が利き、駒余りで詰む。ヤマ勘で詰ますのは駄目という問題。   第七十九番 【第七十九番解答】  2五馬同玉4三馬まで。  オーソドックスな両王手の三手詰。2五馬に4五玉は5五馬、4四玉は4三馬左まで。同玉に4三馬で、馬を入れ替えているようで面白いが、両王手に合駒は利かない。うまく出来ているものだ。   第八十番 【第八十番解答】  8七角8三玉6五角まで。  ねらいが見えにくい作だが、8七角で玉は意外に狭くなる。7五玉でも8五玉でも8四竜まで。作者の意図は8三玉に6五角の決め形だったが、印象が薄くなってしまったようだ。構成がイマイチだったか。   第八十一番 【第八十一番解答】  2七桂1六玉3六角まで。  3六角は2四玉。2三角成も2五玉で詰まない。2七桂から3六角が呼吸がぴったりの決め手となる。2四玉は2三飛成まで。桂馬が持ち駒だと素っ気なくなるが、詰将棋も情緒的な面があるのだろう。   第八十二番 【第八十二番解答】  4六飛同桂2三馬まで。  よく見ると意外に手がなく、4六飛の応手を考えるのが主眼でもある。同銀右は5四竜。同銀左は3六馬。同玉なら4七竜まで。4六飛では4六歩でも同じく詰むので、飛車はオーバーアクション。   第八十三番 【第八十三番解答】  5四金2七玉5五金まで。  忍びの者のごとく竜に気づかれないように5四金から5五金と角の開き王手をする。抜き足、差し足、忍び足の金の動きだ。このパターンはいろんな組み合わせが可能だが、慣れると単調に見えてくる。   第八十四番 【第八十四番解答】  5七銀同馬3四角まで。  5七銀に4七玉なら5六角の両王手までの詰め上がり。同馬なら今度は2四飛の利きを止めながら3四角までとなる。  4四竜を馬にも飛車にも取らせない工夫という仕組みだ。   第八十五番 【第八十五番解答】  4六香3七玉4四香まで。  ただちに4四香は4五玉と逃げられて詰まない。まず4六香とブレーキをかけ、3七玉と限定させ、4四香と再発進させて詰み。香の複合手筋で面白い動きだ。ユーモラスな分野の三手詰。   第八十六番 【第八十六番解答】  6七銀4七玉8五飛まで。  どこかで見たような筋だが、十三番と類似作。ただし三手目は3五飛でなく、8五飛と9六角の利きを止めるのが決め手。  いろんな答えをしぼり出すのだが、手品の種を仕込む作業のようなもの。   第八十七番 【第八十七番解答】  2八竜2五玉3五桂まで。  初手3八竜、3七竜と考えて詰まず、2八竜に行きつくだろう。2五玉のとき3五桂と角道を止める桂跳ねで、一瞬の詰み形となる。1八歩は不要で邪道だが、いたずら心からわざと置くことにした。   第八十八番 【第八十八番解答】  1六角6九竜1七馬まで。  6七角は3八玉で失敗。香の利きを止める1六角が奇手で、6九竜に1七馬まで。1七馬を可能にさせる初手1六角は理詰めだが、会心の一着である。角のシャープな切れ味が心地よい。   第八十九番 【第八十九番解答】  2五香4八角成2四竜まで。  何となく2五香よりなさそうで、あまり変化はない。1四玉なら2三竜まで。4八角成なら角が消え、2四竜までとなる。三手詰は詰みのエキスと思うと、単純もうなずけるものがある。   第九十番 【第九十番解答】  3四金同竜4三香成まで。  4三香成3四玉や4三馬2二玉と追うのはイモ筋で、上達に不安が……。  こんなときは玉の逃げ道が急所で、3四金が手筋中の手筋となる。同玉なら4三馬まで。   第九十一番 【第九十一番解答】  2八銀2三玉3九銀まで。  十一番の姉妹篇で、前者が金の横ばいなら本作は銀の引き技が目玉となる。初手2六銀だと2三玉で、1五銀でも3七銀でも2九竜で失敗。三手目3九銀を見せているのが含み味である。   第九十二番 【第九十二番解答】  4四角同角1六飛まで。  力でゴリ押ししても駄目なときは、たいてい焦点捨てが急所となる。同竜は6一飛成。同歩でも1六飛まで。  4四角の一発で、角、竜、歩のどれかで取らざるを得ないシステムなのだ。   第九十三番 【第九十三番解答】  2六馬同玉3五金まで。  もったいぶって3五金は2六歩で詰まない。未練を絶ちきり、2六馬と決断すれば同玉に3五金で、あっという間の解決。ツボをはずすと駒の効率が悪くなるのが、当たり前でも不思議な気がする。   第九十四番 【第九十四番解答】  8六金同と9九飛まで。  初手8七金に色気を出すと、5九香成9六金同竜で大失敗だ。金を惜しまず、8六金で同ととさせれば、玉が角の射程圏に入り、9九飛で詰み形となる。  素朴といえば素朴な作だ。   第九十五番 【第九十五番解答】  4四角4五竜2七桂まで。  4五竜を守るのでなく、香か竜のどちらで取らすかという内容だ。4六角は4五香で詰まない。残るは4四角で、4五竜と竜を動かしたので2七桂と打てる。  変化が少ないので単純明快だ。   第九十六番 【第九十六番解答】  9六飛4四飛7七角まで。  6八飛4四飛7七角は数は多いのだが、8八歩同銀同と同角9八玉4四角9七玉以下詰まない。9六飛が奇妙な手で、4四飛に7七角。合駒利かずなのだが、少し不気味な詰め上がり形。   第九十七番 【第九十七番解答】  2五金同角2三銀まで。  玉の周りの空白地点のどこに、そして金か銀をどう打つかという問題。意外といえば意外、当たり前といえば当たり前で、2五金と焦点に捨てて打開する。同銀なら1五銀打まで。銀を残すのがよい。   第九十八番 【第九十八番解答】  2四銀成1二角1三竜まで。  2四銀不成の両王手は2五玉で失敗。2四銀成が銀成りの基本パターンで、1二角に同竜と寄り道せず1三竜と決める。銀が変身して金の働きをする、小さな感動が発想の出発点である。   第九十九番 【第九十九番解答】  9六金同桂6五角まで。  9六金と逃げ道にフタをしてから、6五角。守りの馬と香の利きをいっぺんに封じる限定手だ。5一香の形なら5四角、7一香の形なら7六角が正解になる。パズル的な要素が含まれている。   第百番 【第百番解答】  5五角5六玉5八香まで。  直感で3三角成とか4四角も浮かぶが、5六玉5八香4六玉で詰まない。単純明快に5五角とし、5六玉に5八香で空中詰めのような詰み形だ。5五角のセンスがちょっぴりおシャレ。   第百一番 【第百一番解答】  4七銀1七玉5八銀まで。  馬の守りの利きを消す、銀の動きにスポットが当てられる。4七銀と引き、1七玉に5八銀で馬を無力化させてしまう。  攻めの利きより受けの利きを、しっかり把握するのがコツといえる。   第百二番 【第百二番解答】  2九金同飛成4四香まで。  初手4五香は6六歩。4四香は7五飛2九金同香成で詰まない。  はじめに2九金で同飛成とさせ、4四香で角道を遮断するまで。ストッパー4四香の決め技の前に金捨てで準備を。   第百三番 【第百三番解答】  1二竜5一角2二桂成まで。  4四竜は5一角で詰まない。竜をどこに引くのかと考え出すと迷路に入る。  柔軟な発想の1二竜がユニークな一着で、5一竜でも2二桂成まで。変則的な詰まし方が気に入っている。   第百四番 【第百四番解答】  8七角3六玉6九角まで。  4三角成でも詰みそうだが、3六玉6六竜3五玉で失敗だ。8七角が牛若丸のような機敏な動きで、3六玉に6九角と大転換させて詰み。解いて納得の意表の詰まし方。盤上を角が舞う。   第百五番 【第百五番解答】  1五角同竜2二飛成まで。  2二飛成は1五玉。1四角成も3三玉で詰まない。こんなときは1五角が手筋の見本で、同玉なら1四飛成まで。  逃げ道に捨て駒一発を放てば、玉の動きが制限されるシステムだ。   第百六番 【第百六番解答】  1四飛同玉2四馬まで。  力まかせに2三馬左同銀2四銀だと、1四玉でするりとかわされる。1四飛とわざと呼び込み、同玉なら2四馬が利く。同桂は3一馬。同銀は2四馬。4一馬の利きに玉を誘いこむ。   第百七番 【第百七番解答】  3七馬1四玉3六角まで。  6三角成は2六玉2七馬右3五玉で、桂が受けに利き詰まない。3七馬の王手は1四玉と銀を取られるが、そこで3六角と2五歩を守りながら開き王手がねらいの一着。抜け目のない角さばき。   第百八番 【第百八番解答】  4四桂4六馬2五飛成まで。  2四桂としたくなるが、2六合で詰まない。目くらましのような4四桂のそっぽ跳ねで、4六馬に2五飛成まで。素直に考えると何でもない手ではある。  ひねらない良さもひとつのパターンだ。   第百九番 【第百九番解答】  5六角3六玉3四角まで。  いったん5六角と両王手をして3六玉に3四角が小さな離れ技である。2五飛を取られないように、3四角とする最終手は飛角の名コンビネーションプレーだ。  角の器用さが渋い。   第百十番 【第百十番解答】  4八竜5一角1八竜まで。  百三番の姉妹篇。本作は4八竜とオーソドックスな手が正解で、5一角に1八竜と竜をタテヨコに使う。4四竜だと5一角と角が利いて詰まない。知恵をしぼり、答えをひねり出すのは結構面白いもの。   第百十一番 【第百十一番解答】  3六角引1三桂2九角まで。  2九角2七玉2四竜は3七玉以下詰まない。ひねって5八角1三桂2九角2七玉4九角も、竜は取れるが3六玉で詰まない。一時停止の3六角引から2九角で、玉はどこにも逃げられない。   第百十二番 【第百十二番解答】  6六竜同馬6七飛まで。  不安感のある詰め上がりをねらった作。6六竜に7三玉なら7五竜まで。同馬に6七飛が不気味だが、理路整然とした一着で、5五合が利かず、確かに詰み形だ。将棋の不思議さを見る詰み形である。   第百十三番 【第百十三番解答】  2四竜同銀4三角成まで。  マンネリの筋ではあるが、大駒三枚の攻めでもゴリ押しは通らず、2四竜とすっきり思いっきり捨てて詰ます。同玉なら1四飛成まで。創作のリズムがあって、本作のような習いのある竜捨ても必要なのだ。   第百十四番 【第百十四番解答】  2六銀2四玉3六桂まで。  押しても駄目なら引いてみな。2六銀と引くのがまさにそれで、2四玉に3六桂まで。1四銀は2四玉で全然詰まない。  小駒が主役の三手詰は、渋味を出すよりなさそうだ。銀の引き技がテーマ。   第百十五番 【第百十五番解答】  3五金同桂3三銀成まで。  まず、3五金同桂で銀を動かす準備をしてから露骨に3三銀成と両王手するまで。両王手に合駒利かずで、ましてや逃げることもできない。守り駒が多くとも関係がないのだ。両王手の詰め上がりは明快。   第百十六番 【第百十六番解答】  6六角同竜4六銀まで。  6六角と角を銀のように使い、同銀なら5六銀まで。6六同竜に今度は4六銀が両王手の詰め上がり。  なるべく両王手のにおいを消す配置にするのが、作者の工夫なのだが。   第百十七番 【第百十七番解答】  2三飛同馬3四歩まで。  3四飛2三玉4三竜同香2四歩は打ち歩詰め。1四飛3三玉3四竜同馬同飛2三玉も詰まない。2三飛が強手一発で、同玉なら3四竜まで。パンチ力のある飛車捨てである。   第百十八番 【第百十八番解答】  4四馬同玉6四飛まで。  初手4四馬が何となく手筋っぽい馬捨てで、同竜なら6三飛成まで。同玉に飛車を滑らすように6四飛の両王手で詰み上がる。飛角のラインに玉を呼び寄せると両王手が生じるのがコツだろうか。   第百十九番 【第百十九番解答】  5八角3五玉5七角まで。  三手詰でも小さなトリックの味がする作である。5八角で竜の受けを消して3五玉に5七角が成立する仕組みだ。  詰将棋の詰みは勝ち負けの詰みでなく、ひとり遊びの要素があり、夢がある。   第百二十番 【第百二十番解答】  6九飛5五竜8八銀まで。  どんな手で詰ましても自由だが、案外と新味は出せないようだ。6九飛と下段に引き、5五竜に8八銀で、これもひとつの詰み形。気づきにくい筋ではあろう。8八銀同と6九飛は8九銀成で詰まない。   第百二十一番 【第百二十一番解答】  2三桂同馬4二竜まで。  実戦なら2三桂同馬4一竜としそうだが、同馬右で詰まない。竜を切る筋でなく4二竜で平凡に詰ます。三手詰とわからなければ悩んでくれるかもしれない。  ウーン、困った作である。   第百二十二番 【第百二十二番解答】  7三竜同桂9三銀まで。  いきなり7三竜とせずとも詰みそうなものだが、初手一発。同竜なら8五銀打まで。守り駒の多いところが弱点になるという皮肉さがある。長所に見えるところが短所。これは人間にも通じるものがある。   第百二十三番 【第百二十三番解答】  2三銀不成2六玉3四銀不成まで。  馬の死角をつく銀のさばきがテーマだ。2三銀不成から3四銀不成は銀の特性を最大限に生かした動き。銀が成る、成らずは大きな差が出てくる。そのギャップが詰めの味を楽しませてくれるのだ。   第百二十四番 【第百二十四番解答】  6六金打5七玉3七角まで。  駒を効率よく使うなら6六金だが、5七玉で手が行きづまる。6六金打が重ね打ちの好手で、5七玉に3七角でぴったり詰みだ。重ね打ちは読み切らないと悪手になってしまう。好手たる所以《ゆえん》だ。   第百二十五番 【第百二十五番解答】  7五金同飛5五桂まで。  7五金と捨て、同飛に同桂は実戦の手段で、詰将棋らしく5五桂が切れ味のよい桂跳ねとなる。飛と馬の守りの利きを順に消していく作業だ。5五桂までの詰み上がりの緊張感がよい。   第百二十六番 【第百二十六番解答】  5四角1九玉7三馬まで。  5四角が好位置で、1九玉のとき7三馬を可能にしている。パターン化した動きなので、5四角の意味もねらいも明快だ。単なる王手を続けるのでなく、小さな意味を持たすのが詰めの味である。   第百二十七番 【第百二十七番解答】  6三銀成8三玉7二成銀まで。  6三銀不成は6五玉で詰まない。6三銀成に6五玉なら6四飛まで。8三玉にも7二成銀で、銀が金に変身して詰め上がる。成銀の二回の動作で詰んでしまっているのがユニークだ。   第百二十八番 【第百二十八番解答】  5四角9七竜3九桂まで。  6九角9七竜3九桂でも同じに見えるが、6九角に4七との受けがあり、同飛3六玉で詰まない。5四角で3六とを釘づけにし、9七竜に3九桂まで。紛れがあると厄介だが作意が生きる。   第百二十九番 【第百二十九番解答】  4七角同と6五飛まで。  4七角が焦点捨ての一着で、同馬は3九飛。同とに6五飛で詰み。  ひねって2五角は3六歩で詰まないが、2五角が答えなら傑作となるだろう。ただし作れるかどうか疑問だが。   第百三十番 【第百三十番解答】  4七香5九竜2五竜まで。  角の守りを消す4七香が機敏な香上がりで、5九竜に2五竜まで。  香の動きの初歩パターンの作で、単純明快なねらいである。6五竜、6九馬の形だと4五香が正解になる。   第百三十一番 【第百三十一番解答】  2四金同角3五桂まで。  初手3五桂は2五歩と中合いされ、同角2四玉で詰まない。2四金で同角と形を決めさせてから、ふんわりと3五桂で今度は合駒も利かない。金を投資する価値が充分にあるのだ。   第百三十二番 【第百三十二番解答】  7七角8四玉7六桂まで。  8六角は8四玉。8六桂も9三玉で、竜の受けが強力で詰まない。7七角がこの一手の引き場所で、8四玉に7六桂が打てる仕組みだ。7七角で受けの竜の姿を消してしまう。   第百三十三番 【第百三十三番解答】  5六香同竜3三角成まで。  ぼんやりした5六香に6四玉、5五合なら5三角成まで。同竜に3三角成と香の前に角を動かして詰め上がる。  五手詰の雰囲気のある作で、5六香で竜を移動させておくのがミソ。   第百三十四番 【第百三十四番解答】  7七竜7四玉8七角まで。  9七竜は6六香合以下詰まない。7七竜が絶妙の位置で、7四玉のとき8七角の開き王手までとなる。竜をどこに動かすかだが、7六角とのコンビネーションを考え、7七竜がベストだ。   第百三十五番 【第百三十五番解答】  5三金3五玉5二金まで。  5一香の利きを消しながら5三金から5二金と直進していく、金の活用がテーマである。攻め駒がいっぱいあっても中段玉を捕まえるのにはひと苦労する。5一香の守りの網をかいくぐっていく。   第百三十六番 【第百三十六番解答】  5六飛3四玉5四飛まで。  5六飛の開き王手で3四玉と追い、5四飛の両王手の派手な詰め上がりとなる。  飛車のぶん回しのような手順で、空中で詰ますようなムード。角と馬がそれぞれの活躍をする。大舞台のドラマだ。   第百三十七番 【第百三十七番解答】  1三飛同香2四歩まで。  2四歩1三玉2三歩成同玉2五飛は2四香同飛1三玉で詰まない。  1三飛が逃げ道を絶つ好手で、同香に2四歩の突き歩詰めまで。飛車より歩が主役に見えてくる。   第百三十八番 【第百三十八番解答】  7六角同玉8五竜まで。  初手8七角や4三角成は8六玉で、馬が8五の地点に利き詰まない。  7六角の短い動きが野球のバントのようで、8六玉にも8五竜とできる。6七馬の利き筋を消す意味である。   第百三十九番 【第百三十九番解答】  5三銀成4五玉5五馬まで。  銀がそっぽに成るのがテーマだが、4三玉と逃がさないのがねらいだ。4五玉の一手に5五馬まで。5三銀不成4三玉でも詰みそうだが、4四銀成4二玉で足りない。成ると成らずでは大違い。   第百四十番 【第百四十番解答】  7四桂9七竜7六桂まで。  7四桂で香の利きを消すのがこの一手。9七竜と角を取らせて、鬼の居ぬ間に7六桂と打つまで。何となく詰んでしまうのは少し工夫が足りないか。8六桂でなく、7五香の形から7四香で詰ます方がまさる?   第百四十一番 【第百四十一番解答】  2五銀同桂1八竜まで。  少し考えないと手を出しにくい形だが、2五銀が急所の銀。同玉は3四竜。1七玉も3九馬まで。同桂に1八竜の両王手が飛び出す。2五銀に三つの応手があり、すべて異なる変化となる。   第百四十二番 【第百四十二番解答】  3五竜5六玉5五桂まで。  2八馬5六玉と追う形では詰まない。俗手だが時間差攻撃のような3五竜が正解で、5六玉のとき5五桂の王手で詰みの形となる。ふんわりとした詰まし方で、スローテンポに見える作だ。   第百四十三番 【第百四十三番解答】  3五香1六玉3四桂まで。  二枚角の受けに桂、香の開き王手で正確に対応する作。初手3四香は2七桂同飛1六玉1四桂4六桂と桂合二回で詰まない。3五香から3四桂の順に開き王手すれば、角二枚を完封できる。   第百四十四番 【第百四十四番解答】  3二竜2八馬6二竜まで。  7七竜も有力だが、2八馬でなく5五桂合とされて詰まない。3二竜と裏口から攻めるのが正着で、2八馬のとき6二竜と大模様を描くように詰ます。自由自在に走る竜の動きは痛快だ。   第百四十五番 【第百四十五番解答】  2三飛1四玉2四香まで。  他に王手しづらいので2三飛から2四香は簡単である。駒の不器用な動きがねらいで、いろんな詰み形があるなあと感心するか、つまらないと思うか、分かれるだろう。それでもやっぱり単純すぎたか。   第百四十六番 【第百四十六番解答】  3三銀打同桂2一角まで。  初形で持ち駒に角ともう一枚、頭に利く駒なら何でも詰む。角と歩では味気なく、飛と角では大袈裟だ。そこで角と銀にしたのだが、3三銀打で同銀なら4三角まで。  珍しい実戦形の三手詰。   第百四十七番 【第百四十七番解答】  5五金同馬2四角まで。  手筋一発の5五金に同玉なら4四角の両王手まで。同馬に1三角成でなく、そっと2四角の限定手で決める。  手筋二つをミックスさせて、盤面の緊張感を高める意図だ。   第百四十八番 【第百四十八番解答】  5五桂1六玉4四桂まで。  5五桂で7三角の利きを止め、1六玉に4四桂で5三角の利きを止める。  飛と桂でタイミングよく二枚角の利きを消していけばよい。このパターンは限りなくできるが、同じニュアンスになってしまう。   第百四十九番 【第百四十九番解答】  4四竜同と4六角まで。  4五竜は同角成とされ失敗だ。4四竜が渋い一着で、同金でも2四玉でも2五竜まで。よく見ると4四竜以外に打開手がないが、微妙にひと味違う竜捨てではあるだろう。   第百五十番 【第百五十番解答】  7三角右成2三飛7四馬まで。  7三角右成の限定には二つの意味がある。2三飛とされたとき、飛車の横利きを避けるためと、2三飛に7四馬と引いて詰み形を実現させること。大きな構図で二枚角のコンビネーションの呼吸が合致した。   第百五十一番 【第百五十一番解答】  3七竜同桂成2四角まで。  2四角は3六玉で詰まない。3七竜が決断手だが、同桂成のとき今度は3六歩に紐がつき、2四角が成立する。  超短篇の締めくくりの形として見られる詰め形で、うまく出来ているものだ。   第百五十二番 【第百五十二番解答】  3六飛同玉5八角まで。  初手5八角は4六金合で詰まない。金合以外だと3六飛から4六飛で詰む。  先に3六飛が正解で、同玉に5八角とすれば、4七とが身動きできない最終形となる。三桂の壁の守りのスキをつく。   第百五十三番 【第百五十三番解答】  1三銀成1五玉1四竜まで。  銀を動かして王手をするよりないが、角が宙ぶらりんになってしまう。1三銀成が状況にマッチした一着で、1五玉に1四竜と引ける仕組みだ。紛れがないが、初めて見るとハッとさせられる銀成りである。   第百五十四番 【第百五十四番解答】  2四竜同竜2五香まで。  2四竜と捨て同竜に同香は2六歩同馬2四玉で詰まない。ブレーキをかけて2五香でストップさせる香の動きがテーマである。エサに飛びつかないで、玉を詰ます一点に集中する。   第百五十五番 【第百五十五番解答】  7四銀5四玉7三銀成まで。  7四銀はもどかしい銀打ちで、7二玉なら8三飛成が見せ手である。5四玉のとき、角筋を止めながら6三玉も防ぐ意味の7三銀成が限定手。手なりで7三銀不成とすると、6三玉で詰まなくなる。   第百五十六番 【第百五十六番解答】  8四銀同銀6四桂まで。  桂跳ねの開き王手をしたいが、8四玉と脱出される。その逃げ道に8四銀と先に捨てておくのがミソで、7四玉なら7三角成まで。同銀に堂々と6四桂と跳ねて開き王手。合駒利かずの詰み形だ。   第百五十七番 【第百五十七番解答】  2四飛2七玉1七角成まで。  4六飛や1四飛は2七玉とされたとき続かない。2四飛と背後に回るのが巧妙な一着で、今度は2七玉に1七角成が利いて詰み。同桂成とさせないための2四飛だったのだ。   第百五十八番 【第百五十八番解答】  4九飛2五銀1九飛まで。  4六飛は3六歩の中合いで抵抗され、同角2五桂で詰まない。4九飛と深く引くのがねらいの一着で、1三玉でも1九飛まで。飛車を浮いて使いたくなるので、4九飛が目立たず効果満点だ。   第百五十九番 【第百五十九番解答】  8六飛7七玉4四角まで。  飛角がナマなので、初手に迷うところだろう。8六飛と歩の上に回るのが正解手。7七玉にひょいと4四角で、確認しないと気づかないような詰み形となる。二枚角の利き筋を点検する作業が厄介そうだ。   第百六十番 【第百六十番解答】  5六銀6四玉4五桂まで。  初手5六銀が頭を悩ませそうな一着で、同玉、4六玉なら4五竜まで。6四玉のとき4五桂でぴったり詰み。4五桂が5三玉を阻止しているのだ。少し複雑な感もする作で、詰ましにくい味がある。   第百六十一番 【第百六十一番解答】  1四銀同竜3三角成まで。  3六竜の形で銀二枚なら3四銀同竜1四銀以下五手詰となる。1四玉の形なら銀三枚で七手詰。この作り方を逆算式という。三手の素材から延ばしていくわけだ。1四銀が竜を打診する手筋の一着。   第百六十二番 【第百六十二番解答】  3三銀不成5三玉4四銀成まで。  初手3一銀不成は同玉で、馬が強力で詰まない。3三銀不成と活用し、5三玉のとき4四銀成の両王手まで。銀の成らずと成りをミックスさせた作で、やさしいがリズミカルで素早いタッチだ。   第百六十三番 【第百六十三番解答】  9四竜7四玉8三銀成まで。  7五銀や9五銀は8三角で失敗。9四竜が抜け目のない一着で、同玉なら9五馬まで。7四玉のとき8三銀成が細かい配慮で、銀を成って詰み形に誘導する。桂香を使っていないと考えやすい。   第百六十四番 【第百六十四番解答】  2五金同香3八角まで。  3四角は1八竜。3八角も2五玉で詰まない。2五玉と逃がさないで3八角と引く手段。それが初手2五金で、同香に3八角で解決する。角、香のコンビによる開き王手、独特のスタイルだ。   第百六十五番 【第百六十五番解答】  6六角2九竜6八馬まで。  2八角は5九銀で詰まない。香車の頭に6六角が面白い一着で、2九竜に6八馬で詰み。竜の利きより香の利きを消すのがポイントだったのだ。個性的なねらいの作で、何となくユーモラスである。   第百六十六番 【第百六十六番解答】  1八竜同玉2八銀まで。  2八銀2六玉3七角は、同馬同竜1五玉で逃げられる。1八竜と1筋に玉を誘い込み、同玉に2八銀の開き王手ですっきりした詰み形となる。竜でバッサリと玉を仕止める。   第百六十七番 【第百六十七番解答】  4五竜同桂4三角成まで。  4三角成4五玉7六馬も危ないが、5六玉7八角4七玉以下詰まない。  4五竜に同桂とさせる二手が急所で、4三角成とすれば明快な詰め上がり。初手の紛れが厄介な作かもしれない。   第百六十八番 【第百六十八番解答】  7六馬5九竜6四歩まで。  2五馬も目につくが5五桂が受けの好手で、4三馬右6三玉で詰まない。  7六馬とすれば、今度は5五桂の受けにも6四歩で詰み。歩を突いて詰ます形はささやかな意外性の含みがある。   第百六十九番 【第百六十九番解答】  2五桂同桂3三飛まで。  2五桂で打開してもあまり意味がなさそうだが、同銀は2三飛。同桂に3三飛と打つまで。少し不気味な詰め上がりながら2三合は同香成で無駄合となる。不安定で居心地の悪い最終形だが……。   第百七十番 【第百七十番解答】  2七銀同馬2四角まで。  2四角2七玉2五竜では玉は大海に逃げてしまう。2七銀がいいタイミングで、同玉なら2五竜まで。同馬とさせてから2四角は何度か使った手口である。  角が上下で活躍する趣向だ。   第百七十一番 【第百七十一番解答】  2八銀2三玉3七銀まで。  2六銀の王手は1九馬で失敗。2八銀は馬の利きを防ぐ銀引きだ。2三玉に今度は3七銀の王手で馬に邪魔をさせず、香の開き王手二回で詰ます。解きにくさはなく遊びの心なのがいいのだ。   第百七十二番 【第百七十二番解答】  2一馬同銀1四飛まで。  堅い感じのする初形で、1四飛は5五竜で詰まない。2一馬が揺さぶるような手で、同玉は4一飛成。同銀なら1四飛の両王手まで。本作はむしろ五手詰くらいの素材のようだ。   第百七十三番 【第百七十三番解答】  5七銀4七玉6八飛まで。  はじめに開き王手とすると詰みそうにないので、5七銀と打開する。4七玉のときが問題で、6八飛と5八歩を守るのが最善の位置だ。飛車が脇役のような地味な地点に動くのが、私の好みでもある。   第百七十四番 【第百七十四番解答】  7五角4四玉6六角まで。  7五角で玉の逃げ場所を4四玉に限定させるのが急所だ。4四玉のとき、さりげなく平凡に6六角で詰み形となる。  角の大技でなく、小技を用いた作なので、目立たない順をねらったが、地味だったか。   第百七十五番 【第百七十五番解答】  4九竜5五飛成2八歩まで。  4八竜は2八歩で守り切られる。ぽつりといる6五角に着目して4九竜がねらいの一着。5五飛成に2八歩と突いて意外な詰め上がりとなる。推理して解いていくような作で、ドラマ性がある。   第百七十六番 【第百七十六番解答】  4九角3六玉3五竜まで。  8五角を動かす地点は十ヵ所ある。6七角は3六玉。6三角成も5六玉で詰まない。4九角がいかにも鍛えの入った一着で、5六玉は5五竜で詰み。2七桂に紐をつける4九角は印象深い。   第百七十七番 【第百七十七番解答】  1八角1六玉2九角まで。  3八角は3六玉で詰まないので、1八角と王手する。1六玉のとき2九角引きでスラスラと解ける作だ。大駒の角が遠慮がちにバックしていく姿がユニーク。息抜きの作はやさしくとも心地よさが味わえる。   第百七十八番 【第百七十八番解答】  3七角2三玉3五桂まで。  角の引き場所がテーマだが、3七角と例によって竜の守りの利きを止める。2三玉のとき、初手の角引きの効果で3五桂まで。単調ではあるが、ねらいが明快な作ほど作るのも楽しい。   第百七十九番 【第百七十九番解答】  2五銀同桂4五飛成まで。  3五銀も手筋だが、同馬で詰まない。2五銀と打開して、同馬、3五玉なら4四飛成まで。同桂に4五飛成で詰み。4五銀は筋悪の攻めで、3五玉で失敗。局面を打開する焦点捨ての銀打ちだ。   第百八十番 【第百八十番解答】  1五飛同金2六香まで。  初手に香をどこへ動かすかと考え出すと迷路に入る。1五飛が急所で、同金と穴埋めしてじっと2六香が味わい深い。もっとも似たような筋も出てきているので、カンのいい人はひと睨みだろう。   第百八十一番 【第百八十一番解答】  3五銀2八竜6五竜まで。  どうやっても詰みそうだが、5七銀だと5五歩合とされワナにはまる。3五銀でしっかりと竜の守りを絶つのが好手。2八竜にゆうゆうと6五竜で詰み。銀の動きに確かな意味づけがあり、そっぽの銀。   第百八十二番 【第百八十二番解答】  4五馬同桂3四飛まで。  3七飛4四玉3三飛成は5四玉で手は続くが詰まない。4五馬とあっさり捨て、同金でも同桂でも3四飛の直打ちまで。単純明快な順だが、他にも詰みそうな甘い顔をしているので迷うこともあろうか。   第百八十三番 【第百八十三番解答】  7五銀7八玉6四銀まで。  銀を動かす地点が四つあるが、7五銀と角の利きを消すのがよい。9七玉なら8六竜まで。7八玉のとき、もう一回角の利きを消しに6四銀で詰み形。初手が幅広いので、銀の動きが強調されている。   第百八十四番 【第百八十四番解答】  9四竜2五馬9一竜まで。  3一竜、3二竜、5四竜はいずれも2五馬とされ詰まない。8三桂が曲者の配置で、初手9四竜の発見につながる。今度は2五馬に9一竜まで。竜の大転換で詰ますのは痛快である。   第百八十五番 【第百八十五番解答】  2四竜2二歩2三桂まで。  2三桂で同香は2二竜なので詰みのようだが、同飛同竜2二歩で失敗。  初手2四竜がひねりを利かした名手で、2二歩に2三桂で詰み。へそ曲がりのような竜の動きが面白い。   第百八十六番 【第百八十六番解答】  4五角同と1二飛成まで。  2七角は2九玉3八角3九玉5六角3七歩で詰まない。4五角が焦点捨ての一着で、同角なら3八飛成まで。詰まない均衡状態から守りの利きのスポットに角を打ち、打開するわけだ。   第百八十七番 【第百八十七番解答】  3六角6四馬2六桂まで。  初手2六桂は同馬3六角4四歩で詰まない。手順前後は利かず、3六角と先に角を引き、6四馬に2六桂まで。  持ち駒の桂を使うには2六桂しかないので、それを主題に考えればよい。   第百八十八番 【第百八十八番解答】  8七角8三玉6五角まで。  8五角とすると、9八歩でも8三玉でも詰まない。初手8七角と技を用いて、8三玉のときひらりと6五角で詰み。  角の曲芸のような順で、守りの馬を翻弄する。   第百八十九番 【第百八十九番解答】  3六飛2五玉3五飛まで。  とりあえず3六飛が両王手で、2五玉と逃げる。そこで3三飛成は1五玉で詰まない。再び3五飛の両王手が慌ただしい順だが、確かに詰んでいる。両王手二回で飛角の連携プレーが際立つ詰まし方。   第百九十番 【第百九十番解答】  2二香成4七竜3二角成まで。  3二角成は同飛とされて詰まない。2二香成がこの一手で、4七竜に3二角成と飛びこんで詰み。2二香成は何となく形で考える筋だ。2二香成から3六角までの作意でも作れる。   第百九十一番 【第百九十一番解答】  2五桂1四玉3六角まで。  3六角は1四桂同香同竜2五桂打同竜同桂同竜で詰まない。初手4五角も1四桂で失敗。2五桂は心もとないが、1四玉に3六角がぴったり。1二玉なら4五角。眠れる竜を刺激しない。   第百九十二番 【第百九十二番解答】  7四竜7七玉6八銀まで。  9四竜7七玉9七竜は同飛成で詰まない。竜をどこに動かすかだが、7四竜がユニークな一着で、7七玉に6八銀。同桂成とさせない意味の竜の動きだ。7四竜の着眼は意表をつく。   第百九十三番 【第百九十三番解答】  2六飛成1八玉2五銀まで。  2七銀は2八玉で詰まない。いったん2六飛成とし、1八玉に2五銀と開き王手で詰み。玉が狭いのにもどかしいが、飛車成りから銀出以外では詰まない。ワンクッション置いた時間差攻撃だ。   第百九十四番 【第百九十四番解答】  1六竜2四玉2五竜まで。  3三竜は5八とで詰まない。1六竜の両王手で2四玉と逃げられるが、そこで何とも平凡な2五竜まで。緩急を織りまぜた順で、何が飛び出すのかと思いきや、実に平凡。そこが渋い作である。   第百九十五番 【第百九十五番解答】  7六金9八玉8六金まで。  9六飛を意識して、初手7六金の王手だ。9八玉にも8六金で詰み。金の横這い、カニカニ金の動きで詰ます。  角と金の連携プレーは、一貫して守備駒を無能化させるねらい。   第百九十六番 【第百九十六番解答】  3五竜1五玉1七飛まで。  2五桂の利きに惑わされないのがコツ。初手3五竜が正着で、1五玉に1七飛で決める。このとき、1六とも2五桂も受けに利かなくなっている詰み形。ぼんやりとしながら意表の順をねらった作だ。   第百九十七番 【第百九十七番解答】  3三香成1六玉2四香まで。  初手3三香成は、1一角の利き筋を止めてほぼ必然手。1六玉に2四香とひとつ上がり、1四飛の利き筋を止めて詰み。  香の開き王手で角、飛の守りをクリアしていけばよい。   第百九十八番 【第百九十八番解答】  2六角4六玉1七角まで。  1七角は2四玉で詰まない。2六角の直打ちに2四玉は1五竜まで。4六玉とかわすが、そこで1七角が決め手。1五角だと3五玉で失敗する。角のしなやかな活用で、上品な手順である。   第百九十九番 【第百九十九番解答】  4四竜1六玉1四竜まで。  4七竜は3七歩同角1六玉で失敗。4四竜が好位置で、1六玉に1四竜が正確な動きとなる。3六玉は3七金まで。4四竜に3七歩は同角で駒余り変化で詰む。局面の死角をつく竜の機敏さ。   第二百番 【第二百番解答】  6四飛同玉4六角まで。  3三角成は4五玉3四竜4六玉で詰まない。6四飛と捨て、4五玉なら2五竜まで。同玉に4六角で、銀が釘づけとなり詰み形。筋金入りの角の働きで、明快な意味を持っている。    村山聖の詰将棋ノート  村山聖《さとし》九段が私のマンションに内弟子としてやってきたとき、広島の家からどっさり将棋の本を持ってきた。その本の間に「詰将棋ノート」がぽつんと挟んであった。 「詰将棋を作るのか、見せてみいや」「いやです」の応酬があって、翌日こっそりのぞいてみた。  お父さんが会社で使うノートをもらって、詰将棋の創作ノートにしたようだ。  鉛筆で将棋盤の桝目を書き、何度も何度も消しゴムを使って修正した跡がある。力をこめて書いたらしく、骨太な意外にしっかりした字だった。図面は百六図あるのだが、詰将棋の数は五十番で終わって、後ろにきちんと答えが書いてあった。  学校から帰った村山君に「さっき詰将棋ノート見せてもらったけど、なかなか面白いのもあるやないか」と声をかけると、見られてしまったかという表情で「あの、一題だけ詰将棋パラダイスに載った五手詰があるんです。余詰なんですけどねえ」と頭をかいた。  五十題の詰将棋は基本の手筋物から始まり、盤面いっぱいに駒が広がっているものや、と金や成香が一段目、二段目に逆さになっているものなど、夢中で作った跡が見られる。 「いやいや、詰将棋を解くのはいいですけど、作るのは実戦にマイナスですから」  ゴタゴタした局面のわりに、幼い感じのする作なのが照れくさかったのだろう。  詰将棋を解く方の集中力は凄まじく、かなりの難解作を解くだけでなく、変化を読み切る力量もあったのに驚かされた。  村山君が先に詰むと、「これは簡単だ。森先生も詰ましましたよね」。 「当たり前だ。次に行こう」と言うとすかさず村山君が「初手は何ですか」と追及する。 「初手? 初手は王手に決まってる」 「まだ解けてないんだ。ヒントを教えましょうか?」  たまに私が先に解けたとき、「村山君、ヒントを教えようか」「初手はな、王手やで」とからかったのを覚えているのだ。  入門当時、村山君と指したのは一局だけで、それも師匠の私が玉を素抜かれて負けというハプニングで終わった。そのせいでもないが、指し将棋より詰将棋で盤を挟むことが多かった。  村山君がわずか二十九歳でこの世を去って二年になる。先日、本を整理していたら、村山君の詰将棋ノートが出てきた。入門当時のマンションで、何かの折に紛れこんだのだろう。あるいは大事にあずかっておこうと思ったまま、今まで忘れてしまっていたのかもしれない。村山君の詰将棋ノートは古びてきて、ノートの背を補強してあったセロハンテープも変色し、はがれてきている。  村山君と同じで、私も将棋を覚えたころから創作ノートで詰将棋を作っていた。横着して、寝転んだまま板盤を使って作るのも今と同じで、あまり変わっていない。 「三つ子の魂百まで」というが、どんなに稚拙でも、幼いときに熱中したものが、忘れ得ない楽しみの出発点なのだろう。 「森先生。これも余詰ですよ」  村山君に詰将棋の検討を頼むと、余詰をいっぱい発見し、うれしそうに言ってくる。 「そんな変化は誰も読まへんから大丈夫やろ」と私はガッカリして負け惜しみを言う。 「いいえ、詰みは詰みですから。まあ、がんばって直してください。ウン、ウン」  修正してもまたつぶれたりすると、「そんなに偉そうにつぶすなら、自分で作ってみろや」と私はおとなげないセリフを吐く。 「森先生は作る人、僕はつぶす人ですから」  どう見ても師弟関係ではなく、こと将棋に関しては大人と子供が逆転していたようだ。『聖の青春』(大崎善生著・講談社刊)の中に、奨励会入りを決める親族会議で、村山君が「谷川を倒すのはいま、いま行くしかないんじゃ」と話すシーンがある。  私は本を読むまで、このことをまったく知らなかった。当時のことを思い出しても、あのあどけない顔からは想像もつかないセリフである。人なつっこさの裏に、生きる迫力からくる冷たく透き通った、純粋なものを持ち合わせていたのだろう。  村山君の残した詰将棋ノートは何回も何回も書き直した絵のように見えてくる。あまりうまくはないけれど、将棋への思いがこめられていて、勝負抜きのひたむきさが伝わってくる。  確実に言えるのは、名人になるという村山聖よりも、私はこの詰将棋ノートの村山聖の方が好きだということだ。 『あっと驚く三手詰』は、毎日コツコツ作りだめして三ヵ月あまりかかった。  トリッキーな趣向でネタ探しに知恵をしぼったのだが、しぼってもしぼっても出ないものは出ない。悔しくて夜を徹することもあったが、ムキになるのは私の悪いクセだ。  それでも、お気に入りの作もあり、楽しんでもらえるはずと淡い期待も抱いている。  何とか完成できたのは、村山君の詰将棋ノートが出てきたおかげかもしれない。完成した今は「三つ子の魂百まで」で、いつかまた挑戦してみたいという気持ちになっている。 [著者]森信雄六段(もりのぶお) 一九五二1952年愛媛県伊予三島市の生れ。一九七五75年四段昇段。第11回新人王戦優勝。詰将棋や次の一手の創作には定評があり、著書に詰将棋作品集『水平線』、次の一手作品集『スーパートリック109』がある。また世界各国、日本全国を写真取材した「風景」を将棋世界誌に長期連載中。故村山聖九段の師匠としても知られる。 あっと驚《おどろ》く三手詰《さんてづめ》 講談社電子文庫版PC  森信雄《もりのぶお》 著 Nobuo Mori 2000 二〇〇二年一二月一三日発行(デコ) 発行者 野間省伸 発行所 株式会社 講談社     東京都文京区音羽二‐一二‐二一     〒112-8001 ◎本電子書籍は、購入者個人の閲覧の目的のためのみ、ファイルのダウンロードが許諾されています。複製・転送・譲渡は、禁止します。 KD000278-0