[#表紙(表紙2.jpg)] 愛人の掟 2 梅田みか [#改ページ]  はじめに  わたしが『愛人の掟《おきて》』を執筆したのは、わたしの不倫の恋に関するエッセイへの反響がきっかけでした。そして『愛人の掟』に向けて、読者の女性たちからたくさんのお手紙が届きました。  不倫の恋をする女性たちは、自分のつらい恋としっかり向き合いながらも 「この本に出会えて本当によかった」 「もっと早く『愛人の掟』を知っていれば涙の量がずいぶん少なくてすんだのに」 「こうすればつらい恋の中でも楽しんだり喜んだりできるのだ」 という思いを抱いていました。  実際『愛人の掟』に書いてあるとおりにしたら、どうにもならなかった不倫の恋に一筋の明るい光が見えてきた、というコメントもありました。  そのときわたしは、『愛人の掟』が明らかに不倫の恋をする女性たちに何らかの効果があったことを確信しました。  もちろん、彼女たちに幸せな結末が訪れる例は極めて稀《まれ》であることに変わりありません。  ただ、不倫の恋をしている自分に自信を持ち、卑屈にならず、愛する彼のことも、そして自分自身のこともなるべく傷つけないためには、この『愛人の掟』を実践するしかないのだと彼女たちは実感しているのです。  けれど、わたしの予想以上に、彼女たちは深い苦しみの中にいました。「掟」を守ることができれば楽になるのはわかっていても、それがなかなか実行できないのです。頭ではわかっていても、彼への愛情とつら過ぎる状況が、彼女たちを追い込み、さらに深い苦しみの中に飛び込んでいくような行動に駆り立ててしまうのです。  わたしが『愛人の掟 2』の執筆の必要性を感じたのは、彼女たちがみな、たったひとりで戦っていることを強く印象づけられたからです。こんなに苦しい思いをしているのは世界中にたったひとりなのだと、暗闇《くらやみ》の中で膝《ひざ》を抱えている。わたしは彼女たちの肩を抱いて、こう言ってあげたかった。  つらい思いをしているのはあなただけじゃない。  あなたはひとりじゃない。  でも、あなたの恋がいちばんつらい。  わたしが彼女たちのためにできることは、その言葉を一冊の本に綴《つづ》ることだけです。 『愛人の掟』そして『愛人の掟 2』は、あなた自身と愛する彼のためにあります。 [#改ページ]   Contents はじめに 第一章 「愛人の掟」をふり返って 第二章 不倫の恋愛ステップ別対処法     Step 1 不倫の恋のはじまり     Step 2 はじめの一か月     Step 3 一か月から三か月まで     Step 4 三か月から半年まで     Step 5 半年から一年まで     Step 6 一年から二年まで     Step 7 二年から三年まで     Step 8 三年から四年まで     Step 9 四年以上     Step 10 不倫の恋の終わり 第三章 「愛人の掟」読者の手紙から 第四章 つらい恋を楽にするクイック処方箋100     涙———泣きたいときは     夜———眠れぬ夜に     朝———一日のはじまり     デート—彼と会うときは     電話——彼の声が聞きたい     仕事——あなたにしかできないこと     週末——好きなことをしよう     友達——あなたはひとりじゃない     孤独——ひとりの時間を大切に     記念日—幸せなひとときを  文庫化にあたって [#改ページ]  第一章 「愛人の掟」をふり返って [#改ページ]  第1条 いつもきれいにしていること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]デートはもちろん、自分の部屋や近所で会うときも、TPOに合ったお洒落《しやれ》やメイクはきちんとすること。彼は家で、かまわない格好の奥さんを見ているのだから、奥さんとは立場が違うことを自覚しなければいけません。彼に「いい女を連れて歩いている」と思わせる存在でいましょう。  第2条 最初の誘いは彼から ———————————————————————————— [#この行2字下げ]「あなたが彼を想っているほど彼はあなたを想っていない」のです。あなたのほうからモーションをかけてしまったら、はじめから負け試合に挑むようなもの。どんなに恋焦がれていても、初デートは彼が誘ってくれるまで待って。初めてのキスやHも同様。どんな小さなことでもこちらから誘っては駄目。  第3条 彼への電話は控えること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋の場合、電話ひとつかけるのだって、ものすごく勇気がいる。彼に「あとでかけ直す」と言われていつかかるかわからない電話を待つのは本当につらい。彼があなたに電話をしてくるときは、心からあなたと話したがっているのだから、あなたから電話したときの何倍も優しいはず。  第4条 毎日会ってはいけない ———————————————————————————— [#この行2字下げ]毎日少しでもいいから会いたいと思うのは当然のこと。でも、彼と会う回数は多ければ多いほど不倫の恋のつらさは倍増する。不倫の恋が長続きするかどうかは、つきあいはじめた頃のデート回数をいかに少なくするかにかかっている。彼が情熱的に会いたいと言ってきても、デートは週二、三回までに。  第5条 デート費用はすべて彼にまかせる ———————————————————————————— [#この行2字下げ]デート代をあなたが出すということは、彼と会うためにあなたがお金を払っているということ。この事実は結局あなたの首を絞めることに。何気なく彼に払ってもらっているときは気づかないけれど、本来家庭にまわるべき彼のお金の中から、あなたとのデートが成り立っている、という図式こそが大切。  第6条 自分の生活をすべて彼に明かさない ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋に「ふたりの間に秘密はつくらないのがベストな関係」なんて通用しない。そもそも、秘密と嘘《うそ》の上に成り立っている恋なのだ。自分と会ってないときは一体何をしてるんだろう、と思わせるぐらいでちょうどいい。一日中家事をしながら彼の帰りを待っているのは奥さんのすることなのだから。  第7条 合鍵《あいかぎ》を渡さないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼をあなたの部屋に上げるのは仕方ないこと。けれど決して彼に合鍵を渡してはいけない。合鍵を渡すということは、いつ部屋に来てもかまわないという許可の証《あかし》。いつ踏み込んでもほかの男がいる可能性がないと宣言しているようなもの。あなたが鍵をあげても、彼からもらえる鍵はないのだから。  第8条 写真はたくさん撮ろう ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の関係だからこそ、どこかへ行く度にラブラブのツーショット写真を撮るような、初々しい恋人気分が大切。ふたりのうちどちらかが極端な写真嫌いでないなら、彼との素敵な思い出になる写真をたくさん撮ろう。先の見えない恋だからこそ、宝物のような一瞬一瞬を形に残したい。  第9条 手紙で気持ちを整理する ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋での手紙の役割は、それを書くあなたの行為自体にあるのだ。彼に読ませるかどうかはあまり問題ではない。つらい恋をしていると、どうしても彼に言いたいことがたまってしまう。そんなときは日記を書くようなつもりで思いのたけを手紙に託すと、自然と気持ちが整理されるはず。  第10条 卑屈にならないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]どうせ、わたしなんか日陰の身、と卑屈になるのがいちばんいけない。そうなるとあなた自身の魅力も半減。自分と彼との関係を冷静に受け止め、不倫の恋をひとつの自由恋愛として胸を張って認めてあげること。「どうせ愛人」な卑屈な思いは卒業して「ちゃんと愛人」をやり遂げよう。  第11条 彼の安らぎになること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]愛人であるあなたが多忙な彼にしてあげられること、それは彼の安らぎになることだけ。忙しい生活の中で唯一彼がほっとできる、そんな時間をつくってあげるのが愛人の大切な役目である。どんなに忙しい毎日も、「あなたがいるから頑張れる」と彼に思ってもらえたら、愛人として本望というもの。  第12条 なるべく彼の前で泣かないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]女の涙で男の心を動かせるなんて幻想。つらいことはあっても彼の前で泣いてばかりいたら、あなたは彼の愛《いと》しい女でありながら、同時に面倒《めんどう》な女にもなってしまっているのだ。これは男性に嫌われる女の条件だから、彼の前での涙は精一杯こらえる努力をすべき。不倫の結果は涙によっては変わらない。  第13条 彼を引き止めないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼があなたの部屋を出て家路につくその瞬間がたとえ身を切られるほどつらくても、帰ろうとする彼を引き止めてはならない。つらいのはあなただけではない。あなたと離れる瞬間は彼だってつらいのだ。きちんと身支度を整えた背中にすがりつきたい衝動を何とか抑えて、笑顔で送り出してほしい。  第14条 一泊するのは年に数回のイベントにすること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼と一泊するのは、年に何回かしか訪れないイベントにすること。ごくたまに彼と一泊できるチャンスがあったら、どこか小旅行に出かけたり、ホテルを予約するなど、なるべくあなたの部屋以外のところで。それを神様からのプレゼントと思ってこそ、ふたりの時間は素晴らしいものになる。  第15条 自分の不倫難度を知る ———————————————————————————— [#この行2字下げ]自分の不倫の恋の「難度」をきちんと知っておくこと。不倫難度A‐妻が働いていて子供がいない場合。不倫難度B‐共働きで子供がいる場合。不倫難度C‐妻が専業主婦で子供がいない場合。不倫難度D‐専業主婦で子供がいる場合。不倫難度E‐専業主婦で子供がいる上、彼の両親と同居している場合。  第16条 奥さんや家庭を恨まないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼と一緒になれないのを奥さんのせいにしてはいけない。奥さんや子供など彼をとり巻く家族を恨むのは見当違い。彼の愛するものはすべて愛するという広い心を持つこと。彼の奥さんとあなたは、たまたま同じ男を愛したふたりの女。ただそれだけのことなのだ。憎しみはあなたを醜くするだけだから。  第17条 彼の家族にばれてしまったときは ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋はまず、出来るだけ家族に知られないよう細心の注意を払うこと。それでもばれてしまったら、あわてず騒がず波風がおさまるのを待つ。こんなときこそ離婚話の切り出しどきなんて思ってはいけない。あなたには決定的な事件に思えても、夫婦の間では案外早く解決してしまうものだから。  第18条 「愛してる」は彼が言うまで待って ———————————————————————————— [#この行2字下げ]あなたから彼に「愛してる」と言うことは、確実にあなた自身の首を絞めることになる。なぜなら、妻子ある男性にとって「愛してる」という言葉は嬉《うれ》しい反面、恐ろしい重荷になるものだから。どうしてもこの言葉を口にしたいなら、せめて彼から「愛してる」と言われるまで待つこと。  第19条 セックスは会う度に、が理想 ———————————————————————————— [#この行2字下げ]夫婦の場合が「子はかすがい」なら、不倫の場合は「セックスはかすがい」なのである。ふたりのセックスさえぴったり合っていれば、とりあえずは安心。彼との密なHを保つためにも、愛人はいつもセクシーで魅惑的で刺激的な存在でなくてはならない。彼にとって心も体も手放せない女になること。  第20条 避妊はきちんとすること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]あなたはもちろん、彼の人生も傷つける不倫中の妊娠は避けるべき。厳しいようだけど、万が一妊娠してしまったら彼に言わずに中絶するぐらいの覚悟を持って。あなたの子供の存在は、どこをどうまわりまわっても彼を苦しめるだけ。一生彼に重い十字架を背負わせることになる。  第21条 日曜日の過ごしかた ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼にとっては、あなたと過ごす時間も、家族との時間も同じように楽しいのだ。彼に会いたくて会いたくて寂しい休日を過ごすのはあなただけなのだという事実を、つらくてもちゃんと受け止めること。日曜日まで彼の心を占領しているなんて思い上がってはいけない。  第22条 年中行事の過ごしかた ———————————————————————————— [#この行2字下げ]年末年始やゴールデン・ウィーク、クリスマス・イヴなどは想像を絶するほどつらいもの。でもどんなに悲しくてもそれを彼にぶつけては駄目。彼と会えない連休やイベントは、ほかのボーイフレンドと出かけたり、ふだんゆっくり会えない家族と過ごしたり、有意義に時間を使うことを第一に考えて。  第23条 プレゼントは彼の行きつけの店で選ぶ ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼へのプレゼントは奥さんに疑われるようなものであってはいけない。でも彼が直接身につけられるものを贈りたいもの。それなら、彼がふだんからよく身につけているブランドや、行きつけの店でプレゼントを選ぶのがいちばんいい。彼が「いつもと同じように見える」服や小物を選ぶのがポイント。  第24条 指輪をねだらないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]男性から指輪を贈られるということはステディの証明。ほかのアクセサリーをもらうのとは全然意味合いが違ってくる。けれど、あなたが彼に贈られた指輪は最初はとても嬉しいものだが、あなたのつらさを増す小道具にもなってしまう。指輪は結婚と密接につながるイメージだから。  第25条 彼の生活に近づかないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼が今まで生きてきた周辺には、あなたの知らない彼の世界が必ずある。そこにずかずかと勝手に上がり込むような真似《まね》をしてはいけない。彼が古くから大切にしている場所や友人、仲間たちとの交遊関係には一切近づかないこと。そして、もちろん彼の自宅にも近づかないこと。  第26条 ほかの男性ともデートすること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]どんなに彼に夢中でも、ほかの男性と会うのをやめてはいけない。仲良しのボーイフレンド全員と疎遠になってしまうようでは、不倫の恋を貫くのは困難。そして、ほかの男性と会っている間は、彼のことは頭の隅に追いやってデートを楽しむこと。妻子持ち相手に貞節を守る必要はないのだから。  第27条 第三の女を許してはいけない ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋をする男性に浮気は許されない。あなたとの恋が真剣ならば、彼があなた以外の女性に目を向けることなどあり得ない。家庭があるのは仕方ないけど、二番目は二番目でも大いなる二番目でなければ何の価値もない。第三の女の影がちらつくやいなや、未練などきっぱり捨てて決別すること。  第28条 公式の場にふたりで出席しないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋が長期戦になってくると、ふたりで訪れる店や、特定の人々の間で彼のステディとして扱われることがある。でも、本当にステディになったような錯覚に陥って、公式の場に出席してはいけない。パーティが終われば彼は家族の元に戻り、あなたはひとりぼっち。あとに残るのはむなしさだけ。  第29条 親には打ち明けないほうがいい ———————————————————————————— [#この行2字下げ]何でも正直に打ち明けるのがいいとは限らない。どんな親でも娘の幸せな結婚を夢見ているのである。彼との関係は、離婚が成立するまで口にしないこと。もしどうしても話す状況になったときは、冷静に事実だけを伝えること。仮にお母さんが応援してくれたとしても心の中で傷ついているはずだから。  第30条 相談する友人を選ぶこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]恋愛に対して保守的な考え方を持つ女性も多い。不倫を打ち明けた途端、急に軽蔑《けいべつ》の目で見られたり、大袈裟《おおげさ》に騒がれたりして、友情が壊れてしまっては元も子もない。あなたと彼の真剣な気持ちを理解して、静かに聞いてくれる女性だけを選んで。何でも正直に話すことだけが友情ではない。  第31条 中傷に対して言うべきこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]あなたの不倫の恋に対して様々な口をはさむ人が出てきたときは、ただひたすら聞き流して、相手がその話題に飽きるのを待つこと。自分を正当化するような言い訳をすればするほど、あなたがみじめになるだけ。相手を刺激するのを避け、にっこり笑ってさらりとかわすのがスマートなやりかた。  第32条 夫婦の真似ごとをしないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼があなたの部屋に来たとき「お帰りなさい」などと言ってはいけない。また、しょっちゅう凝った手料理でもてなすのは考えもの。Yシャツのボタンをつけてあげたり、帰り支度を手伝ってネクタイを結んであげたりしてはいけない。それはすべて奥さんのすることで、あなたの役目ではないのだから。  第33条 結婚の二文字は絶対に口にしないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]彼を心から愛していて、まだこの恋を終わりにしたくないと願うなら、結婚の二文字は絶対に口にしないこと。白黒をはっきりさせたら、不倫の恋はそこで終わってしまうのだから。あなたが結婚に関する言葉を口にした途端に、彼とのかすかな可能性も永遠に消えてしまうことを忘れずに。  第34条 約束を信じて待たないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]結婚を約束するタイプの男性と恋をした場合、決して彼の口約束だけを頼りに盲目的に待っていてはいけない。離婚が決まる前から不確実な約束をしてしまうような優柔不断な男性が、そう簡単に離婚話を切り出せるはずがない。ずるずる引き延ばされて十年も経ってしまったなんてことのないように。  第35条 何も望まないこと ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋に、こうすれば彼と結婚できるなんて便利な法則はない。彼との結婚に関してはなるべく早く絶望するべき。あなたにできることは、何も望まず、何も期待せず、ただ愛することだけ。何も望まずに彼の愛をすべて手に入れるのが、いちばん賢い愛人の生き方だということを決して忘れずに。  第36条 不倫を終わらせるのは必ず女性であること ———————————————————————————— [#この行2字下げ]不倫の恋の別れは必ず女性が決断しなくてはならない。これは不倫の恋における最も大切なルール。身を切られる思いで別れを進め、お互いの未練を振り払い、最後まであなたが責任を持ってやり遂げる。彼の人生にとって、あなたが、誰よりも素晴らしい女性として残るために、いい女を演じきること。 [#改ページ]  第二章 不倫の恋愛ステップ別対処法 [#改ページ]  恋の試練は重ねた年月によって変化するものです  この「不倫の恋愛ステップ別対処法」は、不倫の恋における女性の感情の流れを大まかにまとめたものです。月日を重ねるごとに、その時期によって引き起こされやすい精神状態や出来事、陥りやすい失敗など、そしてそんなときどうすればいいかという対処法が書かれています。  不倫の恋の当事者になっていると、つい、こんなつらい思いをしているのは自分だけなのではないかという不安に苛《さいな》まれます。でも、大まかな流れをつかんでおくことで、それが真剣に不倫の恋をする女性なら誰もが陥るひとつの症状であることがわかるでしょう。  何の道標もなくこの恋に踏み込んでいくよりは、その時期その時期に起こる変化の表れ方や恋の成長過程を前もって理解しておくことは、あなたの恋に対する不安をやわらげます。そして、あなたの恋を襲う危機を避けられることにもなります。  一度に全部読まなくてはいけない、と思う必要はありません。不倫の恋には、その時期さえ気をつければあとは忘れてしまっていいこともあれば、ある時期からこの恋が終わるまでずっと注意していなくてはならないこともあるからです。  あなたの不倫の恋の進み具合で、その時期に当たる部分だけを読めばいいのです。あなたの恋がはじまったばかりなら「はじめの一か月」のところを、彼との一周年記念日を迎える頃なら「一年から二年まで」のところを読んでください。  ひとつかふたつ、ステップを先まわりして読むことであなたの安心感が得られるならそれもいいでしょう。ステップをさかのぼって読むことで、過去をふり返って反省をしたり、現在をあらためたりする部分が出てくるかもしれません。 「この時期陥りやすい症状」を索引がわりにして、自分に思い当たる症状の部分だけを拾い読みしてもかまいません。その時期に陥るほかの症状も合わせて読んでおくと参考になるでしょう。ただ、ここに書いてある時期とあまりにかけはなれた時期にその症状が起こっているとしたら、あなたの恋は何らかの病を知らせているのかもしれません。  もちろん、ここに書いてあることがすべてあなたの恋にぴったり当てはまるとは限りません。当然、個人差はあるし、ふたりの置かれた状況によっても恋の進行は大きく異なってきます。ただ、大体の目安にはなります。あとはあなたの恋に置き換えて、あなたふうにアレンジをしていけばいいのです。  この「不倫の恋愛ステップ別対処法」は、あなたにいちばん合った方法で、自由に活用してください。 [#改ページ]  Step 1 不倫の恋のはじまり   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼が妻帯者であることを知る 不倫をはじめようか迷う まわりの人に彼の家庭についてリサーチする 彼をあきらめようとほかの男性とつきあいはじめる こちらから彼に電話する こちらからデートに誘う 彼に告白をする 「結婚していてもいいの」と言う [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  ひとりの魅力的な男性と出会い、そして恋に落ちる瞬間は、女性にとって最も感動的な出来事のひとつである。彼のほうもあなたに好意を持っていることが感じられれば、誰もがこれこそわたしの待ち続けていた運命の恋なのかもしれないと心を震わせる。  ところが、天にものぼるようなまさに次の瞬間、崖《がけ》から突き落とされるようなショックがあなたを襲う。彼がすでに結婚していること、さらには子供を持つ父親であることを知らされる。あなたは決して避けては通れない最初の壁に突き当たり、不倫の恋の苦悩の扉を開くことになる。  あなたは何気ない会話の中でこの事実を知らされるかもしれない。「先週まで北海道にいたんですよ、妻の実家があるのでね」「そのイベントにはちょっと参加できないかもしれません、子供の幼稚園の運動会があって」。あなたは微笑《ほほえ》みを絶やさないまま、彼に気づかれないようにそろそろとため息をもらす。この人はすでにほかの女性と結婚しているのだ。わたしの運命の恋人などではなかったのだ。胸の中で、軽い絶望感が広がっていく。  あなたに彼を妻帯者だと知らせるのは彼の左手の薬指に鈍く光る結婚指輪や、彼のまわりの誰かのひと言かもしれない。「ああ見えてあいつは愛妻家なんだ、まあ、あんなにきれいな奥さんなら当たり前だけどね」「彼は子煩悩でいつも二歳の娘の写真を持ち歩いているよ」。また、出会ってからずいぶんあとになって、彼の口から言いにくそうに「実は結婚しているんだ。でも君に対しては本当に純粋な気持ちだ」と打ち明けられるかもしれない。たとえそれがどんなシーンでも、できることならかき消してしまいたいような記憶だろう。  特にはじめての不倫の恋では最初のショックは大きい。彼を妻帯者だと知った日から、あなたの脳裏には常に同じ悩みがつきまとい、片時も離れない。この恋に足を踏み入れるべきなのかどうか。ここで迷わない女性などいないのだ。けれど、迷いながらも、あなたの不倫の恋はもうすでにはじまっている。心にブレーキをかければかけるほど彼への想いは募る。彼をあきらめようとしてほかの独身男性に目を向けようとしても、彼の素晴らしさがかえって気持ちをかき立てるだけ。  今なら引き返せると思うこの時期に、実はもう戻れない場所まで来てしまっている。不倫の恋のはじまりは、それほど強烈なものなのだ。なぜなら、ここできっぱり彼のことなど忘れて、独身の男性だけに目を向ける努力ができるくらいなら、こんなに数多くの女性たちが不倫の恋に苦しむ必要はないのだから。  彼が妻帯者だということだけで、あなたの中で燃えはじめた恋の炎を吹き消してしまえるなら、そんな幸せなことはない。あなたと同じようにまだ一度も結婚したことのない男性はたくさんいるのだから。もともと不倫の恋に抵抗があるか、迷った揚げ句あきらめることにしたか、どちらにしろ、そこでやめられるのなら最初から大した想いではなかったのだ。  でも、彼が結婚していると知った上でも、そんな理由だけでこの恋をあきらめることなどできない、と心から思うのなら、不倫の恋をただのつらい思い出ではなく、あなたの人生でいちばん素晴らしい恋にしてほしい。  それにはあなたの深い愛情と真剣な想いと強い意志、そして絶え間ない努力が必要。彼でもなく、ふたりの共同作業でもなく、あなたが不倫の恋の中に幸せをつくりあげていくしかない。この恋のつらさやせつなさをやわらげることができるのは、あなた自身だけ、なのだから。  彼を特別な男性と意識した瞬間から、あなたは実に注意深くことを進めなくてはならない。ここで失敗すると、あなたと彼との関係は決していい恋に育たないのだ。  大切なのはまず、今自分の置かれている状況を客観的にきちんと把握することである。  はじめて不倫の恋をするあなたは、自分の気持ちを正当化しようと様々な言い訳を考えるかもしれない。「最初から結婚しているのを知っていて、それでもいいと思って恋愛をするのだからわたしは大丈夫」「結婚なんて望まない、彼とは今を楽しみたいだけ」「わたしは仕事に生きる女だからもともと誰かと結婚する気なんかないもの」「恋愛と結婚は別、そこら中の泥沼不倫みたいにはならないわ」「今恋人もいないし」。  ところが、不倫を強く意識したとき、同時にあなたの中で結婚願望も大きくなっている。どんなに強がっても、気持ちをごまかしても、何度自分に言い聞かせようと「結婚したいけどできない」という図式は永遠に続いていく。それはあなたの中できちんと受け止めなくてはならない最初のハードルである。  周囲の人に、彼の家庭についてそれとなく聞きまわり、「彼は奥さんとうまくいっていない」らしい、「何年も前から別居している」らしい、「彼は子供が欲しいのに奥さんのほうが仕事を続けたがっている」らしい、などという噂《うわさ》にお守りのようにすがってはいけない。あなたが受け止めるべきことは、彼がすでに結婚していてあなたとはできない、という事実だけ。  そして、彼のことをもう一度よく見ること。恋心にうるんだ瞳《ひとみ》ではなく、できるかぎり冷静な目で。彼が本当にあなたの恋にふさわしい人間かどうか、そしてあなたの想いが本物かどうか、しっかりと判断する。「恋は盲目」では、不倫の恋をはじめるには危険過ぎるから。  きちんと見極めなくてはならないのは彼のことだけではない、あなた自身のことももう一度見つめ直すのもこの時期に大切なこと。あなたは今、なぜ不倫の恋をしようとしているのだろうか? あなたが不倫の恋に落ちたのは、「彼にたまたま奥さんがいたから」ではない。  世間のイメージとは裏腹に、不倫の恋に落ちる女性のほとんどが、自分の将来をきちんと考えている賢く真面目《まじめ》な女性たちである。彼女たちに共通するのは向上心が非常に強いことだ。もっと大人になりたい、もっといい女になりたい、もっといい仕事がしたい、もっといい生活がしたい、という向上心が女性たちを不倫の恋に走らせる大きな要因になっている。  何事もあまり深くつきつめて考えたりせず、ものごとを楽観的にとらえ、そのときその場を楽しめるタイプの女性は「不倫だけは絶対にしない」と口を揃《そろ》えて言う。自分に対する向上心が希薄だから、同年代の男性や気心の知れた仲間たちとの恋でじゅうぶん満足できる。あえて障害のある苦しい恋愛を選ぶ女性の気が知れない、のである。  それに対して向上心の強い女性は、思春期を過ぎた頃から、彼女たちのような恋愛に物足りなさを感じている。恋愛の対象となる男性に、尊敬や、自分などはるかに超えた完成されたものを求める。自分のまったく知らない世界に導かれたいという願望がとても強い。  そこにちょうど当てはまるのが妻帯者の男性なのだ。妻帯者は、少なくともあるひとりの女性の心を射止め、結婚することのできる人間性と社会性、そして子供をつくる能力、それを養っていく経済力がすでに証明されている存在だ。まわりの同年代の独身男性たちはそのどれひとつまだ証明されていないのだから、向上心の強い女性たちが妻帯者により強く引きつけられてしまうのは本能と言ってもいい。逆にそうでない女性は本能で不倫を避けている。  特に、まだ自分にはっきりとした人生の目的や仕事や生き方などが確立されていない十代後半から二十代前半にはじめての不倫の恋と出会う女性が多いのは、彼女たちの向上心が最大になっているときだからだ。このあたりの年齢で不倫の恋をはじめると、続けて何人かの妻帯者と恋に落ちるケースも多い。この頃は、体力、精神力、そして時間の余裕もある貴重な年代。不倫の恋をするには多大なパワーが必要だからこの年代を過ぎてしまうと少々遅い。  二十代後半から三十代になって最初の不倫の恋をするのは、年齢的にも社会的にもリスクが大き過ぎる。精神的にも肉体的にもぼろぼろになってしまう可能性が非常に高い。結婚や出産までのタイムリミットも短く、不倫の恋から立ち直ってもう一度やり直すだけの時間もない。自《おの》ずと相手への執着心が強くなり、あまりいい結果を生まない。人によっては一生|癒《い》えない傷を抱えてしまうこともある。その年齢まで不倫の恋をせずにいられたということは、一生しなくても生きていける性質かもしれないから、もう一度よく自分の気持ちと向きあってほしい。もちろん若過ぎてもうまくいかない。まだ自分を見つめることのできない少女には、不倫の恋は早過ぎ、これからの素晴らしい恋の蕾《つぼみ》を摘みとってしまう。恋愛に年齢など関係ないとはいえ、はじめての不倫の恋だけは「適齢期」があることを覚えておいてほしい。  女性たちがいくつものハードルを乗り越え、これだけの覚悟をして不倫の恋をはじめようとするとき、男性側はまだ何もしていない。あなたに好意は持っていても、あなたの想いとは比べものにならない。もしかしたらあなたの気持ちに気づいてもいないかもしれない。「奥さんとうまくいっていない」はずの彼は、次の連休に家族旅行の計画を立てたり、マイホームを建てるために貯金をはじめたりしているかもしれない。  そんなとき、あなたのほうから誘いをかければ、彼はもちろん乗ってくる。あなたのことを可愛《かわい》い子だな、と思っているし、自分がまだまだ男として魅力があることを確認したいという願望もあるし、女の子から誘われればまんざら嫌な気はしない。そしてあなたは何度か彼とセックスすることになるだろう。据膳《すえぜん》食わぬは男の恥などという言葉をいまだに信じている男性がほとんどなのだから。  でも、あなたのほうから彼にアプローチをして不倫の恋をはじめれば、あなたは必ずほんの数週間か数か月後、彼の変わり果てた態度や冷たい言葉に深く傷つくことになる。あなたは一日中鳴らない電話を待っていることになる。彼があなたの職場に関係している人なら、気まずくなって仕事もやりづらくなる。あなたは被害者意識でいっぱいになる。女性はどんな恋愛でも「据膳」になっていいことなど何もないけれど、不倫の恋では特にいけない。ただでさえ女性にリスクが大きいこの恋愛を、最初から不利に進めては絶対にうまくいかない。  だからこそ、あなたの気持ちがどんなに燃え上がっても、決してこちらからアプローチしてはいけない。彼に電話をしたり、デートに誘ったり、「ずっと好きでした」と告白したりしてはいけない。ましてや彼の気持ちをつかもうとして「結婚していてもいいの」などと間違っても言ってはいけない。それでは不倫の恋をしたことにもならない。  今、あなたにできることは、彼からデートに誘われるのをじっと待つことだけ。彼にあなたを食事に誘うほどの情熱もないのなら、この恋をはじめるべきではないのだから。 [#改ページ]  Step 2 はじめの一か月   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 一日中彼のことばかり考えている 不倫の恋に罪悪感を感じる 毎日電話してしまう 毎日デートしてしまう 「愛している」と言ってしまう ほかのボーイフレンドに別れを告げる 自分の部屋の鍵《かぎ》を渡す 仕事や習いごとに身が入らない [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  ずっと抑え続けてきた彼への想いが成就したときから、あなたは一気に天上まで昇りつめていく。彼とはじめて口づけをした瞬間、恋焦がれた彼の胸にはじめて抱かれた瞬間、大袈裟《おおげさ》でも何でもなく「生きていてよかった」と素直に感じることができるだろう。  あなたは今確信しているはずだ。今まで恋だと思っていた気持ちが、ただの幻想にすぎなかったことを。これこそが本物の恋。わたしは彼と出会うために生まれてきたのだと。  彼にはじめてふたりきりのデートに誘われた場面をくり返し再生する。「来週、一緒に食事でもどうかな?」。奇跡のような彼の言葉を何度も何度もかみしめ、その度に甘さを増していく果実を味わう。  ふたりの心にかかっていたブレーキが音を立てて外れ、互いを求め合う濃厚な蜜《みつ》のような時間。愛《いと》しい彼の顔、愛にあふれた表情、ずっと包まれていたい彼の匂《にお》い、ちょっと耳にするだけで全身の細胞が沸き立つくらい官能的な声。彼のすべてが、あなたがついぞ見たことのない輝きを放っている。彼がそこに生き、あなたの前に存在しているという事実があなたの世界を何もかも薔薇色《ばらいろ》に染めていく。  彼さえいてくれれば、もう何もいらない。あなたは心から正直にそう思える。ついこの間まで、彼が結婚していることにあんなにこだわっていた自分が小さく見える。今のあなたにとって、彼が妻帯者であることなど、指先に目に見えないほどの切り傷をつくったくらいの些細《ささい》なことなのだ。彼は彼なのだ。自分のものでもないかわりに、誰のものでもないのだ。そして、あなたには確かに彼に愛されているという自信がある。これ以上、何を望むというのだろう。  物欲に支配された恋や、友情がちょっと深まっただけの恋や、相手に何かしてもらうことばかり考えていた恋を、あなたはひとっ飛びで卒業することになる。そんな恋愛をくり返しているまわりの女性たちに優越感さえ感じる。彼女たちはこんな素晴らしい幸福を味わったことなど一度もないのだから。それを今、自分は確かにこの手にしている。  けれど、その幸福感を知ると同時に、あなたは本当の寂しさを知る。これまで大切にしてきたものや楽しいと感じてきたことも、彼の存在によってかすんで見える。彼と会うまであなたはこんなせつなさを味わったことはなかった。  けれど、そのせつなささえも心地よいもののように思える。それはあなたと彼との間に絶対に必要な、宝物のような空間なのだ。彼が決して手に入らない存在であるという悲しい設定も、ふたりの恋をエスカレートさせる小道具になる。「この恋に足を踏み入れたことはやっぱり間違っていなかった。もし踏みとどまっていたら、わたしは生きていないも同然だったのだから」。あなたの確信は、彼と会う度に強さを増していく。「この素晴らしい愛を知らずに生きていくぐらいなら死んだほうがまし」。  この時期は、不倫の恋にとって、なくてはならない貴重な蜜月期である。あなたは何に臆《おく》することもなく、今このときを思う存分楽しみ、彼との幸福に浸るべきなのだ。不倫の恋をすることに対して、罪悪感を持つ女性も多いが、その必要はない。不倫の恋をするのは「悪いこと」と決めつけて、幸福感を罪悪感にすりかえ無理やり打ち消そうとするのがいちばんよくない。その考え方は今のあなたを決していい方向には導かない。必要以上に自分を追いつめ、せっかくの幸福な時間を台無しにし、彼も苦しくなって離れていかざるを得なくなる。この罪悪感をどうしても切り離せないというのなら、あなたは不倫の恋に進むべきではない人なのだ。  確かに不倫の恋には一般的に受け入れられない部分もある。誰かを傷つけ、自分も傷つく可能性も高い。けれど、その想いは純粋なものだ。何の打算もなく、将来の保証もない、ただひたすら彼への愛情だけで成り立っている恋愛が「悪いこと」のひと言で片づけられるはずがない。あなたは自分の恋に自信を持つべきなのだ。そこまで本気で人を好きになれたことに感謝し、心から愛する人に抱かれる幸せをじゅうぶんに感じる権利があることを忘れないでほしい。  およそひと月の間に、ふたりの関係は急速に深まっていくはずだ。何度か顔を合わせただけだったり、他愛ない会話を楽しむだけの間柄から、一気にお互いの人生にとってかけがえのない相手となる。この時期の幸福感が後々までずっとこの恋に影響をもたらしていく。ふたりの高揚感が栄養となってふたりの愛を育てていく。このときふたりでつくった貴重な思い出の数々が、ふたりの恋の危機を何度も救うことにもなる。  逆に、この時期に幸福感を得られない不倫の恋は、何かが違っていると思ったほうがいい。あなたにそこまでの想いがなかったか、彼のほうにそこまでの度量がなかったか、お互いに間違った相手を選んでいるのか、何が原因にしろ、この恋はそう大したものにはならないだろう。あなたが決定的な傷を負わないうちに、何らかの結論を出す必要が大いにある。  だからこそ、あなたは今、どこかで冷静な目を持たなくてはならない。恋の魔力にフィルターをかけられた目ではなく、ひとりの自立した女性にふさわしい、正確な判断力を持つ目を。この蜜月期にそれが何より難しいことだと誰もが知っているが、あなたにとって何より大切なことなのだ。  あなたは一日中彼のことばかり考えるようになる。彼に会っている時間はもちろん、彼と会っていない時間も、彼のことを想って過ごす。あなたの生活の中心に置かれていた仕事にも集中できなくなる。かなり熱を入れていた習いごとや習慣になっていたスポーツも、彼と会う時間をつくるためにフェイドアウトしていく。彼以外の人と会っている時間も、そわそわと彼のことばかり想って過ぎていく。どんな話をしていても、「彼だったらこんなつまらない受け答えはしないのに!」と上の空になってしまう。  これはあなたが恋におぼれやすいタイプだからそうなるわけではない。この恋をすれば、誰もが一度は経験する熱病なのだから。この時期ほとんどの女性が、まったく何の抑制もなしに毎日彼に電話してしまったり、時間の許す限り毎日彼と会ったりしてしまう。これまでのボーイフレンド全員に「好きな人ができたから」と別れを告げ、彼以外の男性はまったく目に入らなくなる。そして、彼にも正直に心のままを口にしてしまうのだ。「あなたを愛してる」「もうあなたしかいないの」。けれど、この愛の言葉を口にするには、この時期はまだ早過ぎる。  不倫の恋のはじまりを思い出してほしい。もうぎりぎりのところまで燃え上がったあなたの想いに対して、男性は「まんざらでもない」程度ではじまった。このスタート地点でのふたりの差はこの恋に最後までついてまわる。その距離を少しでも縮めるのは、あなたがどこまで自分の想いを抑制できるかにかかっている。まんざらでもない程度ではじまった男性側の不倫を、どこまで本気の恋に引き上げられるかが、この時期の一大事業なのだ。あなたの彼への情熱を何とかセーブしなければ、不倫の恋は次のステップに進めない。この甘く幸せな時間はそう長く続かないことを忘れてはいけない。  どんなに会いたくても毎日彼と会ってはいけない。彼がどんなに情熱を傾けて会いたいと言ってきても、あなたの強い意志を持って押しとどめなくてはいけない。今、彼に求められるままにその欲求を満たしてしまえば、男性の熱が冷めるのはびっくりするほど早い。今毎日会おうが会うまいが、ほんの数か月後には、毎日会えなくなるときがやってくるのだ。  そのときダメージを受けるのは一方的に女性側である。毎日が一日おきになっただけで、彼の愛情が変わってしまったかのように感じる。それを避けるためにも、この時期彼とのデートは多くても週に二、三度までに抑える。最初はつらいかもしれないけれど、何とかひと月続けてみてほしい。そうすればあなたはきちんと自分の時間を持てるし、ほかの男性と一切疎遠になることもなく、仕事や習いごとをさぼったりしないですむ。そして何より、自分自身を見失わなくてすむ。これが、今後何か月か何年にわたって不倫の恋をしていく中で、最も大切な部分なのだ。  ふだんはきちんと理性を持ち、自分の仕事にも誇りを持っている聡明《そうめい》な女性たちが、恋に盲目になるあまり、この恋の主導権を握るたった一度のチャンスを逃してしまう。彼が熱心にこちらを向いている時期に、相手よりさらにのめり込んでしまうことで彼はあなたへの興味を失ってしまう。彼にとってあなたが「もっと会いたい」「もっと知りたい」「もっと電話してほしい」存在でいることでやっと対等な立場で恋をすることができるのだから。  彼にあなたへの飢餓感《きがかん》を与えておくことで、さらに彼の想いを募らせることができる。不倫の恋を女性側優勢に逆転させることができるのは、この時期のほかにない。どんな努力をしてでも、彼と会わない時間をつくり、ほかのものごとに熱中するふりをし、胸の奥から沸き上がってくる数々の愛の言葉を心の奥にそっとしまい込み、もうとっくに暗記してしまった彼の電話番号をダイヤルせずに彼からの連絡を待つ。  彼一色の生活になることは、不倫の禁じ手である。あなたのつらさを倍増させるだけなのだから。逆に、この部分さえ乗り越えられれば、まずひと安心である。最初のデートから自分の部屋に彼を招き入れ、帰りに合鍵《あいかぎ》を渡してしまうような失態は絶対に避けるべき。その時点であなたの恋はもうあなたの意志ではどうにもならないところまでいってしまう。この恋をただ耐えるだけのつらい恋にしたくなければ、ここで何とか頑張りとおすしかない。  また、恋の熱に浮かされているのはあなただけではない。恋の熱は彼からも冷静な判断を奪い、男性をロマンティックな非現実的な生き物に変えてしまう。  この時期、彼はとても雄弁になる。あなたが涙を流して歓喜するような愛の言葉をたくさん浴びせてくれる。「今までどんな女性に対してもこんな気持ちになったことはない」「君のためならどんなことでもできる」「君にもっと早く出会いたかった」。あなたへの、非日常的な情熱が、彼をドラマティックな主人公に仕立て上げていく。  しかし、この時期の彼の言葉をそのまま受け止めてはいけない。もちろん、彼の言葉がすべて嘘《うそ》だというのではない。ただ、本当にあなたのことを考えれば適切でない言葉であることは確かなのである。将来の約束など決してできない身でありながら、彼がそれをほのめかす言葉を口にするのはこの時期特有の男性の熱病である。彼の言葉に嬉《うれ》し涙を浮かべるのはいい。けれどそれを切り札にして何年間もずっと彼を責めるようなことにならないように。 [#改ページ]  Step 3 一か月から三か月まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 生活のすべてが彼中心になる 彼の訪問が習慣になる おそろいのスリッパやマグカップを買う 日曜日や祭日が憂鬱《ゆううつ》になる 女友達全員に彼のことを自慢したくなる 女友達と疎遠になる 毎日のスケジュールを彼に伝える 予定していた旅行をキャンセルしてしまう [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  あなたの彼への想いは、はじめの一か月にも増して強くなっている。彼のことが好きで好きでたまらない。いつも会いたい、いつでも一緒にいたい。  今や、あなたの生活の中心には、常に彼がいる。すべては彼中心にまわっている。あなたは彼の好みを考慮して服や靴や髪形を選び、彼のスケジュールに合わせて自分のスケジュールを決める。女友達とコンサートに行くのにも、彼とのデートがない日であることを確かめてからでないと約束できない。中学生のときから大好きなアーティストのコンサートよりも、ほんの三十分彼と会えるほうが、今のあなたにとってはプラチナ・チケットなのだ。  小説を読んでいても、その行間に彼の顔が見える。映画を観ていても、ハッピーエンドをあなたの恋に重ね合わせている。テレビで野球の試合を観ていても、どちらが勝っているのかさえわからない。彼のことを考えはじめると胸がいっぱいになって食事をするのも忘れてしまう。あなたの鼓動だけがどきどきと彼に会う瞬間までの時を刻み続ける。  彼とのデートは楽しい。待ち合わせ場所に向かう足が自然と早足になる。一分でも一秒でも早く彼に会いたい。彼と会えた瞬間、あなたを見つけた彼の顔全体に微笑《ほほえ》みが広がる瞬間、寝不足も疲れも仕事のストレスもすべて吹き飛んでしまう。この微笑みさえあれば、この微笑みが自分に向けられている間は、どんなつらいことも耐えられる。確かに生きていることを実感できる瞬間。  あなたは周囲の人たちから、急にきれいになったと賞賛されているだろう。「まるで別人みたいだ」「どうしたの? 急に色っぽくなっちゃって」「肌がきれいになったわね。化粧品を変えたんじゃない?」などと行く先々で言われることに戸惑っているかもしれない。あなたの変化は、それほど誰の目にも明らかなのだ。肌や髪や瞳《ひとみ》は輝きを増し、ひとまわりほっそりしてすっきりと美しくなったあなたは、今、うち震えるような幸福のオーラに包まれている。  もし機会があれば、この頃にふたりで一緒に写真を撮っておきたい。そして、あなたが彼とつきあうことでどれほど美しく変身したかを確かめてみるといい。不倫の恋であなたが美しくなっているのは、この恋がただの恋ではなく、一世一代の大恋愛に発展していく兆候だ。幸福とせつなさとの狭間《はざま》を揺れながら、あなたは確実に女として成長しはじめている。不倫の恋は女を磨く。あなたを内面からも外面からも、細胞のレベルから磨いていく。  なぜなら、不倫の恋が、地上に残された最後の純愛だからだ。何でも手に入るこの時代に、たったひとつ決して手に入らないもの、それが不倫の恋なのだ。その宝石のような恋愛と正面から向きあったとき、無自覚な少女は大人になり、自立した女性は艶《つや》とたおやかさを身につける。最愛の彼と、ぎりぎりのところで決してひとつにはなれないのだという緊張感が、あなたの生きる姿勢を凜《りん》としたものにする。だからこそ、不倫の恋がいくらつらく苦しいものであっても、それをするだけの価値は常にあるのだということを忘れないで。  ふたりの関係は、ふたりにとって日常の中に溶け込んでくる。彼があなたの部屋を訪問することが習慣化しているかもしれない。あなたは彼の来る日はワインを買って家に飛んで帰り、得意の手料理をつくって彼をもてなすだろう。テーブルをお洒落《しやれ》にセッティングし、ワイングラスも、彼とふたりのときだけに使うものを新調するかもしれない。ふたりがもっと強い酒を好むのなら、あなたと彼のイニシアル入りのオン・ザ・ロックグラスがそれにかわるだろう。インテリアに凝ったり、部屋を整頓するのも彼が来ることを考えると楽しくなる。  彼はもちろん、あなたのもてなしをとても喜んでくれるだろう。こんな美味《おい》しい料理を食べたことがない、と言うかもしれない。あなたのインテリアのセンスを褒めたたえてくれるかもしれない。ここであなたは意地悪な質問を思いつく。「奥さんはいつもどんな料理をつくってくれるの?」。あなたがもっとシニカルな言葉を使うほうなら、「あなたの奥さんはもうあなたとこんなロマンティックなテーブルで向き合って甘い夜を過ごそうなんて思いもつかないんでしょうね!」というぐらい強烈なことを言うかもしれない。  ところが、あなたの冗談めかした言葉に、彼は必要以上に反応する。彼の顔に深刻な表情が浮かぶ。質問にはっきり答えようとせず、話題を変えようとするか「家でゆっくり食事なんかすることはないよ」とごまかすかもしれない。でも、そこであなたは彼との決定的な距離を感じることになる。彼の帰る家はここではなく、妻のいる家なのだということを。  経済的なことを考えても、いつも外食とホテルでのひとときというわけにはいかないだろう。でも、あなたの部屋で過ごすことが習慣になればなるほど、あなたのつらさは増していく。だからこそ、そのつらさをできるかぎりやわらげる工夫が必要だ。それには、彼のためにあなたの部屋を特別な空間にしないこと。決しておそろいのスリッパやマグカップを買いに行ったりしてはいけない。彼が来ようが来まいが、あなたの部屋はあなただけの部屋なのだという意識をしっかりと持つこと。  彼とふたりの巣づくり願望にまかせていると、彼のいない部屋にいるあなたは抜け殻になってしまう。彼の訪問のない夜は家に帰りたくなくなる。これまではひとりきりでも楽しめた日曜日や祝日が憂鬱な空虚なものになる。不倫の恋をしているときだからこそ、ひとりで過ごす時間を充実させなくてはならないのに、これではどうにもならない。あなたの生活空間をまるごと彼のものにしてしまおうとするのは、あなたが幸福にではなく苦悩に向かって準備をしているようなもの。あなたの大切な居場所が失われてしまうことは、あなたを追いつめる。  この時期陥りやすいミステイクは、あなたの部屋の中だけではなく、あなたの交遊関係にも広がっていく。あなたは理想の男性とつきあいはじめたことを、親しい女友達全員に言ってまわりたい衝動に駆られる。「やっと運命の人に出会えたの。心からそう思うわ」。  彼女たちはそんなあなたを見るのははじめてなので、当然祝福してくれる。彼の顔立ちや背の高さや仕事について興味津々で質問の嵐《あらし》を浴びせるだろう。あなたは彼のことを話しているだけで幸福だし、今ここに彼を連れてきて、みんなの前で紹介できたらどんなに素敵だろうと想像する。けれど、あなたはそこで、重大な事実を打ち明けなくてはならなくなる。彼がすでに結婚していることを。  女友達の期待に満ちた表情は一瞬にして暗いものに変わり、気まずい雰囲気がその場を包む。「わたしたち、今とてもうまくいっていて、彼とはいい関係なの」。あなたがいくら明るく答えても、彼女たちは耳を貸さない。不倫に嫌悪感を抱いている女性は「そんな人と恋愛してどうするつもり? 今すぐやめなさい」とあなたを説得しようとする。不倫の経験のある女性は「最初は誰だってそうなの。でも結局その恋愛はあなたに苦しみしか持たらさないわ」と忠告するだろう。もちろんあなたの彼への想いはそんなことでは揺らがない。問題は、あなたがここでも自分の居場所を失っていくことだ。  誰もが不倫についてフランクに話をするようになってきたとはいえ、まだまだ一般的に歓迎される話題でないことは頭に入れておいたほうがいい。彼女たちの中には本当は不倫の恋の素晴らしさを理解している女性もいるかもしれないが、それが友人のこととなれば反対せざるを得ないのだ。あなたも同じ立場なら、彼女たちと同じような反応をするかもしれない。  不倫の恋についてあなたが語り過ぎることは利口なやりかたとはいえない。彼女たちとは今までと同じ調子でつきあっていくべきである。不倫の恋をきっかけに仲のいい女友達と疎遠になることはとてもよくあるケースなのだから。あなたは自分の楽しい空間をまたひとつ自分の手でつぶしてしまうことになる。ますます彼に依存する時間が増える。悪循環である。  彼女たちの中の誰もが、あなたのような想いを味わっているわけではないのだ。あなたが彼と出会えたように、彼女たちが皆、運命の相手と思える男性に出会えているわけではないのだ。世の中のすべての女性たちがあなたほど恵まれているわけではないのだ。それほど今のあなたの状態は希少な経験なのである。  あなたが彼のことなら何時間でもしゃべっていたいと思っても、この恋についての詳細は胸の中にそっととどめて。そしてあなたの話を興味本位でもなくいつも親身になって受け止めてくれるたったひとり信じられる親友にだけ、あなたの恋の全体像を伝えておく。あなたの選んだ女性の反応が頭ごなしの反対や説得や一般論ではなく、淡々とさらりとしたものなら、あなたの選択は間違っていなかったことになる。彼女はあなたがこの恋をしている間中ずっと、あなたを見守り続けてくれる、貴重な存在になるだろう。  そして、気をつけたいのはあなたの空間だけでなく、あなたの貴重な毎日の時間についても同じ。彼に会っていない時間の過ごしかたがこの恋の行方を左右するといっても過言ではない。あなたの毎日が「彼に会いたい日」であることは揺るぎようのない事実。けれど、あなたのスケジュールが「彼に会いたくて会えた日」と「彼に会いたいけれど会えない日」の二種類しかなくなってしまうとしたらどうだろう。あなたひとりの時間はいつも「彼に会いたいけれど会えない」時間ということになる。それではあなたがどんなに強い人でもこの恋のつらさを乗り越えることはできない。  あなたの仕事や日課や趣味や気の合った仲間たちとの時間も、あなたにとって、この恋と同じくらい重要なことなのだ。毎日のスケジュールを彼にお伺いを立ててから決めるというのはよくない習慣である。彼と会っていない時間をあなたが誰と何をして過ごしているかを彼にすべて伝える必要はない。彼にはあなたの知らない時間も空間もたくさんあるのだから、あなたも努めてバランスをとらなくてはならないのだ。世界中で会いたいと思う人は彼ひとりでも、彼の知らない楽しい予定をたくさんつくることが、この恋を楽しむ方法のひとつである。  彼に出会う前から計画していた休暇の旅行を、彼に会えなくなるくらいなら高いキャンセル料を払ったほうがまし、とやめにしてしまってはいけない。もともと予定がなくても、この時期に誘われた旅行や出張には積極的に出かけるべきである。彼と会えない数日間、数週間は、今のあなたにあまりにたくさんのことを教えてくれる。あなたの彼への想いの真剣さ、そして彼のあなたへの想いの真剣さ、そしてふたりがお互いをどれだけ求め合っているかがはっきりとわかるはず。不倫の恋を育てるのはふたりの会えない時間なのである。 [#改ページ]  Step 4 三か月から半年まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼を自分のものにしたくなる 彼の奥さんや子供のことをあれこれ想像する 家庭のことを聞きたがる 彼の仕事場に行ってみる 彼の会社|宛《あ》てにラブレターやファックスを送る 彼の自宅の住所や電話番号を聞き出す 彼にプレゼントを贈りたくなる デートを引き延ばそうとする [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  あなたと彼の関係は、あなたがこれまでいちばん長くつきあった男性とも比べものにならないほど親密になっている。あなたは彼とつきあいはじめてまだ三か月だなんてとても信じられない、と思うだろう。これまでのふたりのつきあいは、普通の恋人たちの何年分にも相当する密度の濃いものだったはず。  あなたはもう彼なしには生きていけないという考えを新たにしているだろう。会う度に何倍も好きになる。嫌いなところなどひとつもない。ほかの人には欠点に映るかもしれない部分も、あなたにとっては彼の最も魅力的な部分のひとつだ。この世で彼を疎ましく思う人などひとりもいないように思える。彼との食事もセックスも会話も、今まで味わったことのないような輝きに包まれている。  ここまでのあなたは、せつなさや寂しさや悩みを抱えてはいながらも、全体は幸せや楽しさで彩られていた。人間は多少いやなことやつらいことがあっても、全体が楽しい色ならば明るくやっていける。あなたの幸福感や彼に愛されている実感は、この恋の障害を忘れさせてくれるほど強烈なものだった。寂しい涙や不安な夜も、彼に会うことでにわかに陽が射し、心が晴れていく。  そこに一筋の暗雲が立ち込めてくるのはちょうどこの時期だ。楽しい色の中に、少しずつ黒やグレーの部分が表れてくる。それは、あなたが今まで目を伏せようとしてきた、彼の家庭の存在が大きくなってくるからだ。あなたの目は彼を見つめていても、彼の向こう側の世界を凝視しているのである。  彼の笑顔の中にほんの少し曇りがちな表情を見つけたり、彼がデートの途中でちらっと時計を見ただけで、あなたは絶望的な寂しさを味わってしまう。今朝、彼は家を出るとき玄関で、「今夜は早く帰ってきてね」と妻に送り出されたのだろうか。それとも昨夜、毎晩帰りの遅いことを優しくたしなめられたのだろうか。それともヒステリックに証拠のない浮気を責められたのだろうか。それとも、わたしと会っているよりも、妻の待つ家に早く帰りたいというのだろうか。  あなたはまだ見たことのない妻の顔を想像する。きっと、主婦という肩書きにぴったりの平凡な顔立ち。手入れをしない髪に艶《つや》はなく、化粧っ気のない目元には小皺《こじわ》が見えはじめ、育児や生活の疲れが彼女を蝕《むしば》みはじめている。体型を気にしなくなってから、彼女の体のあちこちにはぶ厚い脂肪がまとわりつき、もう何年も離れることがない。  彼はなぜそんな魅力のない女と暮らしていけるのだろう。ふたりの間に歴史があるから? 世間的に夫婦でいなくてはならないから? 子供の母親だから? 身のまわりや、両親の世話をしてくれているから? もう空気のような存在だから? それとも、今も愛しているから? あなたの妄想はとどまるところを知らずに彼の妻の様子を描き続ける。  情熱的な彼とのセックスの中にも妻の存在が影を落とすようになる。彼は奥さんにもこんな丁寧な愛撫《あいぶ》をするのかしら? 眠るときはいつも同じベッドにいて、まどろんでいる妻の体に彼のほうから手を伸ばすのだろうか? 寒い夜には、彼女の肩を毛布でくるんでそっと抱き寄せるのだろうか? そして彼は、妻の中で果てるのだろうか? その結果として生まれてきた子供は彼に似ているのだろうか?  彼は日曜日に、奥さんと子供を連れて、ドライブに出かける。小さな娘を肩車して、あるいは小さな息子にキャッチボールやサッカーを教え、奥さんのつくったお弁当を仲良く食べるのだ。彼の妻は彼を信じ切っているに違いない。彼がほかの女性とあんなに情熱的に愛し合っているなどとは夢にも思わずに。  彼らはどこから見ても、誰の目にも幸せでいっぱいの家族だ。そこにあなたの影など何ひとつない。昨夜、あんなに強く口づけた唇の跡はもう消えてしまったかしら? 日曜日の午後、家族の楽しいひとときの合間に、彼が不倫の恋を思い出すことなどないのだ。それとも、ほんの一瞬、ひとりで彼のことを想っている女の存在を思い浮かべることがあるだろうか。ほんの一瞬でも。  あなたはこうした想像から逃れることができずに、眠れない夜をくり返すことになる。あなたの鋭い感性や豊かな想像力が、このときばかりは仇《あだ》となってしまう。不倫の恋に苦しまないためには、どちらかといえば想像力の乏しい、楽観的な女性のほうが適しているということになるが、そういうタイプの女性は真剣な不倫の恋に落ちたりしないものなのだ。  彼の奥さんや子供のことをとりとめもなく想い描くことは、あなたにとって何の意味ももたらさない。あなたのつらさやせつなさが募るだけなのだから、あなたの貴重な時間をそんなことに費やしてはいけない。そんな妄想が頭をもたげてきたときは、親友に電話をしたり、ほかの男友達と飲みに行ったり、熱いシャワーをさっと浴びるとかして、あとかたもなく打ち消してしまうしかない。  もちろん、想像しているぶんには、誰に迷惑をかけるわけではない。けれど、想像だけでは我慢できなくなる。あなたはそのうち、彼に家庭のことをあれこれ質問するようになる。あなたは深刻な表情などせず、あくまでも明るく、何気ない質問を装って彼にたずねる。「奥さんのことは何て呼んでるの?」「奥さんはあなたよりいくつ年下なの?」「どんな髪形をしているの?」「わたしと似ている? それとも全然違うタイプ?」「子供は今年いくつになるの?」「結婚記念日は?」「いちばん最近奥さんと寝たのはいつ?」。  この手の質問に、わりあい無頓着《むとんちやく》に答える男性もいる。でも心の中ではいい気持ちはしていない。多くの男性は、あまり家庭のことをしゃべりたがらない。不機嫌にならないように気をつけながらごまかしごまかし返事をして話題を変えようとするか、不快な顔で黙ってしまう男性もいるだろう。あなたは彼とのせっかくの夕べを、あなたの妄想と同じくらい何の意味もない質問で台無しにしてしまうことになるのだ。  あなたと彼の関係を気まずくする最も多いきっかけは、あなたが彼の家庭にこだわることである。あなたは彼の家庭のことなど、まったく気にしていないのだという態度をくずさないように気をつけなくてはいけない。それがあなたと彼との絆《きずな》を深め、彼にとってあなたがより愛《いと》しい存在になるいちばんの方法なのである。  あなたは、彼を自分のものにしたくなっている。彼と過ごす数時間の素晴らしいひとときでなく、彼のすべてを共有したくなる。あなたの欲求は日増しに強くなり、実際彼にそれをぶつけるようになる。とびきり楽しいデートが終わりに近づき、彼が帰ろうとスーツの上着に手を通すとき、あなたは何とかデートを引き延ばそうとする。もう一杯コーヒーを一緒に飲まないかとか、一緒に観たいビデオがあるのだとか、あと一時間ぐらいしないとタクシーがつかまらないとか。  最初は彼も、それをあなたの深い愛情と受け止め、できるだけ一緒にいてくれようとするかもしれない。でも、彼の滞在を一時間延ばしても二時間延ばしても、彼があなたのところにとどまるわけではない。必ず彼は家に帰っていくのだ。せいぜい数時間後には彼が帰ってしまう瞬間がやってくる。あなたが引き延ばせば引き延ばすほど、その瞬間をよりつらいものにするだけなのだ。  あなたが執拗《しつよう》に彼を引き止めようとすると、彼は何度かため息をついたり、迷惑そうな顔をするようになる。そのときあなたは、彼とつきあってはじめて自分のことをみじめだと思う。これまでの人生で、あなたは男性にすがろうとしたことなどなかったのだから。でも、あなたが変わってしまったのでも、弱い人間になってしまったのでもない。結婚している男性を愛したことのある女性は、みな同じ思いをしている。  それでは、不倫の恋の前でどんな女性も無力であるかというと、そんなことはない。あなたには、なるべくそうした行動を抑える努力をすることはできるはずだ。あなたは家に帰ろうとする彼を引き止めないあらゆる努力をするべきである。  いつまでも帰ってほしくない彼を笑顔で送り出すのは大変むずかしいことだけれど、もしできたなら、その効果は絶大なものだ。彼はさらにあなたを愛するようになる。あなたは彼が帰ったあとどうしようもない孤独感に襲われて涙をこぼすことも少なくなる。それは、彼が帰るという行為をあなたも一緒にしてあげることになるからだ。ふたりで共同作業をすると思えば、彼との別れ際の寂しさはずいぶん軽減されるだろう。  この努力をしなければ、彼はあなたに会いづらくなってしまう。楽しくデートをしても、帰る時間が近づくと、またあなたが悲しい顔をするのだと思うと気が重くなるのだ。あなたに電話をしたときも、用件を終えて彼が切ろうとするとあなたは声のトーンが暗くなり、なかなか切ろうとしない。そうなると彼は、あなたの声が聞きたいと思っても、かえって電話をかけづらくなる。そうなれば当然、あなたの悲しみも増す。  この時期、あなたの陥りやすい精神状態をそのままストレートに行動に移していると、必ず彼はあなたから離れていく。少なくとも距離をおこうとする。そうなるとあなたの行動はさらにエスカレートし、彼にもっと近づこうと必死になる。  彼の会社|宛《あ》てに手紙やファックスを送ったり、彼の仕事場に訪ねて行って、会社の近くのレストランでランチを食べようと誘ったりするのも大抵この頃である。また、彼の自宅の住所や電話番号を聞き出そうとしたり、彼が家に持ち帰らなくてはならない贈物をしたがったり、何とかあなたの知らない彼の世界に入り込もうとする。中には彼の自宅の近くまで行って様子をうかがわなくてはいられない女性もいる。彼はあなたの行動に当惑し、さらに離れていく。あなたは彼の顔色をうかがっては傷つくことをくり返す。  今、この不倫の恋が素晴らしいものになるか、あなたがつらさに耐え切れずに終わってしまうかの大事なときに来ている。あなたは彼のほかに、興味を持てることを何か見つけるべきである。仕事、趣味、習いごと、読書、別の男性、彼以外のことなら何でもいい。それが見つけられるかどうかが、今後の恋を大きく左右することになる。 [#改ページ]  Step 5 半年から一年まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼と一泊旅行に出かける 彼の行きつけの店に行きたがる 彼と同じフィットネス・クラブの会員になる クリスマス・イヴやバレンタイン・デーを彼と過ごしたい 連休を楽しく過ごせない 彼の前で泣くようになる 日曜日に彼の自宅や携帯電話に連絡する どうせ愛人だと思う [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  あなたの涙は、日を増すごとにその量を増していく。近頃のあなたは泣いてばかりいる。夜眠りにつく前の、ベッドの中で。朝、シャワーの水《みず》飛沫《しぶき》にまぎれて。事務処理をしている最中に、ふと彼の横顔を思い出して。お母さんに「あなたまだ結婚しないの?」と何気なく聞かれたとき。そしてひとり部屋で膝《ひざ》を抱えて、何時間も声を出さずに泣き続ける。涙が枯れ果ててもなお、あなたは平静な顔で心の涙を流し続けるのだ。  その涙は、やがて彼の前でもとどまることを知らなくなる。彼と会えない寂しさに泣き、彼と会えたときは彼と永遠に一緒にいられないことを悲しんで泣く。会いたくてたまらなかった恋人にやっと会えたとき、悲しみの涙がこぼれる。これは不倫の恋をしたことのない女性には決して理解できない、この恋特有の涙だ。  残念ながら、あなたの涙を減らす方法はない。ひとりのとき、彼が帰ってしまったあと、彼との電話を切ったあと、思い切り泣くのはいい。涙には浄化作用があるから、それであなたの心が少しでもすっきりするのなら、涙を流すのは無駄なことではない。けれど、毎日|腫《は》れた瞼《まぶた》で会社に行くようなことがないように、涙のあとのケアを忘れずに。あなたはいつもきれいでいなくてはならないのだから。  本当にこらえなくてはならないのは、彼の前で流す涙である。彼の前で流す涙は、あなたを自己嫌悪に追い込むだけでなく、彼のことを苦しめる。彼はあなたに幸せな時間を与えることはできても、幸せな未来を約束することができない自分をふがいなく感じている。あなたが彼に会う度に泣いてばかりいれば、彼は自分の存在があなたを不幸にしているのではないかと思ってしまう。  彼があなたを不幸にしているわけではないことは、あなたがいちばんよく知っている。あなたは彼に最上級の幸せをもらっているのだから。彼はあなたをじゅうぶん幸せにしているのだ。そのすぐあとを、必ずせつなさや悲しみが追いかけてくるというだけで。  だからあなたは、彼にはできるだけ苦悩の部分を見せずに、幸せな部分だけを見せる努力をする。彼の前では、彼と会えたことだけで、彼に抱きしめられるだけで、天にも昇るほど幸せなのだということをきちんと言葉や態度にして表す。涙で彼に何かを伝えようとする必要はない。彼は実際その涙を目にしなくても、あなたがやりきれない涙を毎日のように流していることを知っているのだから。  あなたが涙を流せば流すほど、あなたの中の彼の占める割合はますます大きくなっていく。あなたは彼に会えない時間も、何とか彼の匂《にお》いを感じていたいと願う。あなたは一度だけ連れていってもらった、彼の行きつけのバーにひとりで出かけたり、彼と同じフィットネス・クラブの会員になったりする。彼を知っている人と接することで、彼にもっと近づけたような気がするのだ。  一時はいい気分転換になるかもしれない。けれど、彼の生活に近づこうとすれば、あなたはすぐに現実にぶつかってしまう。あなたが彼の永遠の伴侶《はんりよ》でなく、愛人であることに。  あなたは自暴自棄になり、自分のことをどうせ愛人なのだから、と蔑《さげす》んだりする。本来のあなたなら、今のあなたが決してそんな状態などではなく、最愛の男性とめぐりあえたラッキーな女性であることがわかるのに。あなたは毎晩お酒を飲むようになったり、お菓子を一袋全部食べても落ち着かなかったり、手の届かないような高価なものを衝動買いしてしまったりする。ひとりの日曜日に耐え切れず、彼の自宅や携帯電話に連絡してしまったりする。そして彼の他人行儀な応対や電波の届かないことを知らせる無機質なアナウンスに立ち直れないほどのダメージを受けることになる。  こうなるとあなたの生活は完全に不倫の恋に打ちのめされてしまう。この時期、あなたは何とか自分自身を立て直さなくてはならない。今、自分の救いになると思うことなら何でもいい。彼に出会う前の自分の生活習慣を取り戻し、涙に潤んだ目で彼以外のものをしっかりと見る努力をするのだ。  不倫の恋のつらさには必ず波がある。大きな波をひとつ乗り越えれば、必ず凪《なぎ》がやってくる。この恋が苦悩の連続ではなく、苦悩と幸福の波のくり返しであることをあなたはもう知っているはずだ。一筋の涙をふいてすっと顔をあげれば、そこには喜びに満ちた笑顔がある。それを忘れていると、これから次々にやってくる嵐《あらし》をやり過ごすことはできない。  ふたりの関係がはじまってから、カレンダーが十二枚すべてめくられるまでには、様々な年中行事がやってくる。お正月、バレンタイン・デー、ホワイト・デー、ゴールデン・ウィーク、お盆休みや夏季休暇、クリスマス。そのどれもが近づいてくる度に、あなたは彼との恋愛がごく普通の独身者同士の恋だったらどんなにわくわくするだろうかと考える。けれど、今のあなたには、あなたを苦しめる日付でしかない。  なかでも特にこたえるのは、クリスマス・イヴの夜。街には恋人たちがあふれ、あちこちにジングル・ベルが流れ、純白や鮮やかなグリーンのツリーが銀色の光を放っている。そんな光景に押しつぶされそうになっているあなたに、彼がクリスマスのディナーをしようと誘う。あなたは息を詰めて、彼があなたと過ごすファースト・クリスマスがイヴの夜であることを願う。彼は、そこに深い意味など何もないのだというように、ふだんよりトーンの明るい声で言う。「二十五日の夜はどうかな?」。  あなたは詰めていた息をそろそろと吐き出す。やっぱりそうなのだ。イヴにわたしを誘うことなどあるはずがない。イヴの夜は大きなクリスマスケーキを抱えて、一分でも早く家に帰るのだ。妻や子供たちは彼の帰りを首を長くして待っているのだから。  彼はあなたの気持ちに気づいている。恋する女の子なら誰でも、いちばん愛する彼とイヴを過ごしたいと思っていることを知っているのだ。でも彼はあくまでも知らないふりを装う。彼にはそうするしか術《すべ》がないのだ。「よければ、君の好きな店を予約しておくけど、プレゼントは何が欲しい?」。でも、あなたは大喜びで欲しいものをあれこれ考えはじめる気分にはなれない。あなたの頭は、彼がホーム・クリスマスを過ごすという事実でいっぱいなのだ。彼の妻は滅多《めつた》に飲まないワインを用意して、子供たちが喜ぶような可愛《かわい》らしいクリスマス料理をつくる。部屋の片隅にはきらきらとライトが点滅する偽物の樅《もみ》の木、子供と一緒に何日もかかって飾りつけた手づくりのオーナメント。そして彼は妻と一緒に子供たちの寝顔を見守りながら、そっと靴下の中に贈り物を入れるのだ。  そしてリビングのソファでゆったりとくつろぎ、夫婦ふたりきりのイヴがはじまる。彼は奥さんに何をプレゼントするのだろう? さっきわたしに聞いたように、何が欲しいかを尋ねたのだろうか? 日曜日に一緒にジュエリーショップに行って選ぶのだろうか? それとも、彼女の好みや欲しがる物などもうすべてわかっていて、いきなりリボンをかけた包みを差し出してびっくりさせるのだろうか? あなたの妄想は出口がない。  しかし、イヴを愛する人と過ごせないのは世界中であなたひとりではないのだ。恋人のいない女性もいる。多忙で会えないカップルもいる。恋人だと信じている男性にはいつもほかの予定があって、裏切られたような思いをしている女性もいる。遠く離れた恋人にクリスマスカードを送ることしかできない人もいる。実際にイヴに街を歩く恋人たちの中の、一体どれだけのカップルがあなたと彼のように心から愛し合っているというのだろう。  同じように、連休やバカンスを彼と過ごせないことで、この世の不幸をすべて背負ってしまったような気分になったら、視点を少し変えてみることだ。あなたはもともと自分の余暇をすべて恋人に支配されてしまうような恋愛を望んでいたわけではないはずだ。それぞれの生活を楽しみ、それぞれの独立した仲間たちを持ち、お互いに相手の持つ世界を尊重する、そんなカップルが理想なのだ。必ずセットでなければどこにも誘われないようなつまらない関係に憧《あこが》れたことなど一度もないのだ。  あなたが彼に、どんなバカンスを過ごすのか尋ねれば、彼はとても言いにくいことを話すように行き先を教えてくれるかもしれない。そして、「向こうに着いたら真っ先に君へのお土産を探すよ」「離れていても、いつも君のことを考えているから」「何もしないでひとりでのんびりしてくるさ、元気になって君に会いに来るために」とつけ加えるだろう。あなたはそれ以上の言葉を彼に求めてはいけない。あなたの存在によって、彼が家族との海外旅行をキャンセルしたり、彼や彼の妻の実家への里帰りを延期したりすることは決してないのだから。  大丈夫、あなたは必ず、彼のいない連休を楽しく過ごすことができる。あなたは彼のバカンスの間中、眠れない夜を過ごし、ひとりで涙を浮かべていられるほど無気力な人間ではない。あなたには行ってみたいところもたくさんあるし、かねてからやってみたいと思っているレジャーに熱心に誘ってくれる友達もいる。新しいことにチャレンジする勇気や好奇心をほんの少しの間忘れていただけなのだ。連休が終わり、また何事もなかったように世の中が動きはじめたとき、積極的に楽しい休暇を過ごしたあなたの話を、真っ先にいちばん喜んで聞いてくれるのは彼なのだ。あなたが新たにつくったたくさんの思い出を聞きながら、彼もあなたとふたりでそんな休暇が過ごせたらどんなに楽しいかと心から思うだろう。  その証拠に、彼はきっとあなたに素晴らしい贈物を計画してくれる。ふだん会えない時間を埋め合わせてもまだ余りあるような、素敵なふたりきりの時間を。時計を気にせずにゆっくりとあなたと過ごせる、記念すべき日を。彼とはじめての一泊旅行や遠出のドライブに出かけることが、今のあなたに必要であることを、彼はちゃんと知っているのだ。  あなたは素直に彼の素晴らしい提案を受け入れ、思う存分幸福に浸るべきである。夢のような時間は瞬く間に過ぎ去ってしまう。後先の余計なことを考えている暇はない。彼もあなたと同じ気持ちなのだから。ただ彼の計算にないのは、旅から帰ってきたあなたが、さらに強い孤独感を持つということ。あなたはその孤独感とひとりで戦っていかなくてはならない。だからこそ、このひとときは一生忘れられない宝石となってあなたの中できらめき続ける。きらめき続けなくてはならないのだ。 [#改ページ]  Step 6 一年から二年まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] デートの回数が減る ふたりの関係が噂《うわさ》になる ふたりの関係が彼の家族にばれる 彼に妻と別れる可能性を尋ねる 彼にもっと会いたいと思う いつも彼の電話を待っている 彼の携帯電話をしょっちゅう鳴らす 彼が新たな愛人をつくる [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  あなたと彼がつきあいはじめて一周年記念のシャンパンを空ける頃、あなたの気持ちは少し安定してくるだろう。ふたりの間にはまだ短いながら歴史が築かれはじめ、立ち止まってそれをふり返る余裕も出てくる。ほんのひと月前に、あなたが彼に絶対に帰ってはいやと泣きじゃくった夜のことを、ふたりで笑って話すときがあるかもしれない。  そして、この一年のつきあいの中で、彼にもいくつかの欠点があることにあなたは気づいているだろう。時間のないときにいらいらした口調を隠せないことや、自分の理解を超えたことに対して歩み寄る姿勢を見せないことや、欲しいものに対してわがままなことや、熱中しやすく飽きっぽい性格や、時折簡単にばれてしまう嘘《うそ》をつくことなど。けれどそれはあなたを悲しませることにはならない。彼が変わってしまったのではなく、あなたが彼を以前より冷静に見られるようになった証拠なのだ。  彼はあなたに会うことで、刺激よりも安らぎを感じるようになる。あなたに以前よりも弱い一面を見せるようになったのもこのためである。彼はあなたに心を許し、ふたりの間柄はいっそう親密さを増している。あなたは不安定なこの恋の中で、いくらか安心できる場所を見つけるかもしれない。もう彼がわたしから離れていくことなど決してないのだと。  しかしその反面、はじめの一年のような新鮮さはなくなる。永遠に変わらないように思えた彼の情熱が、ほんの少しずつ薄れていることをあなたは感じている。でもそれは不倫の恋だけでなく、どんな恋人たちにも訪れる節目なのだ。  一年目は何より優先されていたあなたとの逢瀬《おうせ》が、彼の仕事の都合や家庭の行事などの出来事でつぶれるようになるのも、ちょうどこの時期だ。それは、二年目になって突然彼の仕事が忙しくなったわけでもなく、彼の子供が熱を出す回数が増えたわけでもない。これまでは彼のあなたへの情熱が、それらを上回っていたというだけなのだ。あなたが彼に対してある種安心を感じはじめたように、彼もあなたに安心している。この程度のことであなたが離れていかないことを本能で感じているのだ。  彼が冷たくなったわけでもないのに、物理的にデートの回数が減ったことにあなたは非常に敏感に反応してしまう。一週間のうちにどれだけ彼と会っているか、一日に何回電話があるか、その部分ばかりに目を向けていると、そのペースがほんの少し落ちただけで彼の気持ちを疑ったり、この恋に危機感を持ってしまう。  燃え上がる情熱だけに不倫の恋の価値があるわけではない。今の状況は決してあなたが考えているような、悪い方向ではないのだ。彼のあなたへの愛情が冷めてしまったわけではない。ただ落ち着いてきただけなのだ。けれど、あなたもそんなことは頭ではじゅうぶんわかっているのに、なかなか気持ちを安定させることが難しくなる。彼と会うことでしか愛情確認をしにくいこの恋の中では、誰もが陥りやすい精神状態である。  あなたは彼にもっと会いたいと思う。ひとりの時間はすべて、彼からの電話を待つことに費やされる。あなたのほうから何度も連絡をとろうとしたり、無理やりデートの約束をとりつけようとする。彼の携帯電話をしょっちゅう鳴らすようになり、自分の提案が受け入れられなかったり、彼に忙しそうな対応をされたりするとさらに絶望的になる。一年前の今頃はあんなに会っていたのにどうして、と彼に詰め寄る。わたしの想いは一ミリも変わっていないのにあなたは変わってしまった、という一点でしか彼の行動をとらえられなくなってしまっている。あなたは今、自分をさらに落ち込ませるために必死になっているようなものなのだ。  彼にしてみれば、せっかくふたりがいい関係になってきたのに、あなたがなぜそんな焦燥しきった行動に出るのか理解できない。仕事と家庭のほかにあなたという大きな存在が生まれたために、この一年間で彼の生活は相当なオーバーワークになっているはずだ。彼はかなり疲れている。あなたが安らぎとなって彼を支えてあげなくてはいけないこの時期に、あなたは正反対のことをして彼をつらい状況に追い込んでいるのだ。もちろん、あなたの本意ではない。それは彼も知っている。けれど、お互いを大切に思い、深く愛しているからこそ、ふたりは傷つけ合ってしまう。  不倫の恋にかかわらず、どんな恋にも、ふたりの関係性が以前の状態に逆戻りするということはあり得ない。ふたりのときめきに満ちた幸せな日々がそのまま再生されるということはない。女性なら誰もが「出会った頃に戻りたい」と願うことがたびたびあるが、それは決して果たされない夢なのだ。  今、あなたは変化を恐れてはいけない。ふたりのつきあいかたが変わっていくのは、愛情が変わってしまったからではなく、ふたりの恋が成長していく過程なのだから。あなたと彼の関係が変わったのではなく、ほんの少し役柄を変えただけ。変化を恐れるあまり、本当の愛が見えなくなってしまうのがいちばん恐《こわ》い。ふたりの終局を早める結果になる。  あなたが彼とのつきあいを秘密にしているか、わりあいオープンにしているかは場合によって異なるが、どちらにしても、ふたりの関係が周囲の噂になることがある。彼とのつきあいが遅かれ早かれ一年を過ぎる頃には、必ずそういう場面にぶつかる。あなたが特におしゃべりな女性でなくても、あなたの生活習慣ががらりと変わったり、ふたりでいるところを何度か見られたり、もっと些細《ささい》なことでもふたりの仲は露見していくものなのだ。  ふたりのことが周囲に発覚すること自体は大した問題ではない。彼が社会的にまずい状況に陥ることもあるが、それはあなたでなく彼が解決することだ。そこであなたのせいにして大騒ぎするような男性なら、あなたは恋の相手を間違えたというだけのことだ。あなたが故意に彼を困らせようとしたのでなければ、責任を感じることではない。  大切なのは、そのときのあなたの対応である。あなたの恋についてあれこれ中傷するような人に向かって、あなたは多くを語り過ぎてはならない。彼とのつきあいを否定したり嘘を並べたてる必要はないけれど、あれこれ説明したり言い訳したりする必要もない。「わたしたちはよくある不倫とは違うの」「彼の家庭を壊すつもりなんかないし」「奥さんのことなんか全然気にならないわ」と、まるで自分に言い聞かせるような言葉を口にすればするほど、あなたは周囲の目に「つまらない不倫にはまっている都合のいい女」として映ってしまう。  彼との純愛を、まわりの人全員にわかってもらおうなどとしてはいけない。これは経験したことのない人には決してわからない種類の事柄だし、たとえ似たような経験をしていても、その人の恋があなたと同じように質の高いものとは限らないのだ。あなたはただ、幸せそうにしていればそれでいい。そうすればまわりもそれ以上|詮索《せんさく》することはなくなる。  また、れっきとした証拠があってもなくても、ふたりの関係が彼の家族にばれてしまうこともある。彼のあなたに対する想いが真剣なら真剣なほど、この関係が彼の妻の知るところとなる確率は高い。誠実な男性は、浮気は隠せても本気は隠せない。そして彼の妻はそれを必ず見抜く。彼女もあなたと同じように彼を深く愛しているのだから。  彼は家庭でのひと騒動を正直にあなたに話すか、簡単に事実だけを伝えるか、あるいはまったく話さないかもしれない。あなたは彼の態度や、彼が急に早く帰るようになったことでそれを察知するかもしれない。あなたはもちろん動揺する。もう彼と会えなくなるのではないかという不安と、これが離婚のきっかけになってくれるのではないかという期待を半分ずつ抱えて、高揚した気持ちで決着の日を待つだろう。  けれど、あなたが不安を持つことも期待を持つことも、おそらく明確な結果にはつながらない。なぜなら彼は、妻に関係が知れたからといってあなたとのつきあいをきっぱりやめることも、離婚してあなたと一緒になる決意をすることもしないからだ。この時点でどちらか一方をはっきり決断できるような男性は、滅多《めつた》にいない。いたとしても、その選択はあなたを幸せには導くものではないだろう。  だからあなたは不安も期待も持たずにただ彼を見守っているしかない。あなたの言動が彼の行動にいい影響を与えることはない。でも、ふたりの関係にマイナスの要素を注ぎ込むことは容易にできる。ここであなたが、彼に妻と別れる可能性を追及することだ。  一度結婚した男性が、滅多に妻と別れるという選択をしないことをあなたは知っている。特に彼のような、愛情に満ち、人の心の痛みをわかる男性は。簡単に家族を捨てられるような相手に、あなたがここまでのめり込むはずなどないのだから。それでも、あなたは彼に聞かずにはいられない。「奥さんと別れて、わたしとずっと一緒にいようと思ったことはないの?」。  彼が本当にそのことについて考えたことがあるかないかにかかわらず、そこで「そんなことは夢にも思ったこともないよ。僕は妻を心から愛しているし、一生添い遂げたいと思っている」と答えられる男性は少ない。「もちろん考えたことはあるさ。できることなら君と人生を共にしたいと思う。けれど、自分の幸せのために誰かが不幸になるなんて、僕には耐えられない」と言うのが精一杯だろう。  あなたがもっと彼を問いつめれば、彼はあなたに見せたことのないような深刻な表情で重い口を開く。「もし僕が妻と別れることがあったとしても、君にいいことなど何もない。僕はすべてを失い抜け殻になり、今君が愛してくれている僕ではなくなってしまう」。さらに状況が悪化すれば、彼はあなたにとって最もつらい言葉を口にするしかなくなる。「僕は妻とは別れられないよ。このままじゃいけないのかい?」。  彼と妻の間には、あなたの想像をはるかに超えた歴史と絆《きずな》があるということを忘れてはいけない。彼が明確な答えをくれないからといって、彼を責めたり恨んだりしてはいけない。あなたはできる限り心を強く持って、この波が静まるのを待つしかないのだ。悲しいことに、あなたの存在がかえって夫婦の絆を新たにするきっかけになってしまうことさえあるのだから。  この時期、あなたが彼に安らぎではなく追いつめるような場面ばかり与えるようになると、彼は楽なほうへと逃げていく。男性側の人間性にもよるが、彼があなた以外の、新しい愛人を持つきっかけになるのもこの状況がいちばん多い。そんなひどい事態は絶対に避けなくてはならない。あなたの真剣な想いが、そんなことで踏みにじられる必要はどこにもないのだから。 [#改ページ]  Step 7 二年から三年まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼に結婚の約束をせまる 「指輪が欲しい」とねだる 彼におごってあげたりタクシー代を出したりする 彼の家族を恨むようになる 情緒が不安定になる 夜眠れなくなる セックスの回数が減る 彼の子供が欲しいと思う [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  あなたは彼との結婚の可能性を半ばあきらめはじめている。けれどその反面、ほんのひと握りの希望を抱いている。こんなにも愛し合っているふたりが、離れられるはずがないではないか。こんなにも愛している女性がいながら、ほかの女性と生活を共にしていけるほど彼は器用ではないだろう。今は時期が悪いのかもしれない。でもいつかきっと、彼とずっと一緒にいられるときが来る。それこそ本来あるべきわたしたちの姿なのだから。  あなたは、つきあいはじめて間もなく彼と「結婚できないこと」を意識しはじめたのに対し、今度は「彼と結婚できること」を意識しはじめる。不思議なことに、彼が「妻とは別れられない」とあなたに宣言したのを境に、あなたは真剣に彼との結婚を考えはじめるのだ。できない、と言われた途端、そこに必ず存在するであろう万にひとつの可能性が、たったひとつ残された希望の星のように浮かび上がってくるのである。  あなたはもう焦ってはいない。ただ、何年先でもいいから、いつか彼と一緒になれるという確かな約束が欲しい。その約束さえあれば、あなたは五年でも十年でも耐えることができる。けれど、その一筋の希望もなくなったら、果たして自分はやっていけるのだろうか? 何の約束もなく、このまま彼との数年が過ぎれば、あなたは確実に齢《とし》をとっていくのだ。その不安がとても現実的なものとなってあなたに襲いかかる。  あなたは彼に尋ねる。「あなたとこのままつきあっていたら、わたしはどうなるのかしら?」当然口ごもる彼にあなたは続ける。「今、あなたが奥さんと別れられないのはわかっているの。でも、たとえば三年とか五年経ったとしたら?」。彼は困った揚げ句、「もちろん先のことはわからない。絶対、というのはこの世にないからね」などと言って逃げようとするかもしれない。  あなたは彼の答えにはぐらかされたような気持ちになるだろう。でもこの言葉は、彼がとても誠実な人間であり、あなたのことを真剣に考えている証拠なのだ。あなたのことが大切であるからこそ、軽々しい約束などできない。あなたの未来に自分がいることが果たしてあなたの幸せになるのかどうか自信がない。あなたの幸せを思えばこそ、自分はいなくなったほうがいいのではないかと彼は本気で思っているのだ。  逆に、この時点で将来の結婚の約束を簡単にするような男性は、もっと早い時期にも同じようなことを言っているかもしれない。あなたの彼が「形だけの夫婦だから時間の問題だ」とか、「あとは慰謝料の問題さえ片付けばね」とか「子供が小学校に上がったら妻に話す」とか「いつになるかわからないけれど必ず離婚して君を迎えに行くよ」など、何の見込みもないことを平気で口にできる男性なら、もう一度彼の人間性を見つめ直す必要がありそうだ。たとえそのほかにもっともらしい約束を百個もしてくれても、あなたはできるだけ早く彼を見限って新しい恋を見つけに行くべきである。あなたのことを本当に愛している誠実な男性は、守れない約束などではなく、もっと別のことであなたを喜ばせようとするはずだ。  そして、あなたは同じ理由で彼から指輪を贈られたいと思う。今まで、彼にプレゼントは何がいいか聞かれる度に、何度も飲み込んできた言葉を口にする。「クリスマス・プレゼント、考えたんだけど、指輪は駄目? もちろん、高価なものでなくていいんだけど」。そのとき彼はどんな反応をするだろう? 大抵の男性は、そこに深い意味のあることなど気づかないふりをして、ブレスレットとかネックレスをねだられたような何でもない素振りで、あなたに指輪を贈るはずだ。  その指輪は、今まで贈られたほかのどんなプレゼントよりも嬉《うれ》しいあなたの一生の宝物になるだろう。けれど、その指輪が、彼からの約束の証《あかし》などでは決してないことをあなたは知っている。そのうち、指輪を贈られた幸福感よりも、その指輪が何の意味も持たないことの失望感が上回るときがやってくる。不倫の恋において、幸せの象徴である指輪の存在は一変して、あなたを苦しめるいちばん効果的な小道具になってしまうのだ。  また、あなたとのつきあいがここまで続いてくると、彼の経済状態に余裕がなくなってくることもある。男性が不倫の恋をする場合、はじめの頃は多少無理をしてでもグレードの高いデートをしようとする。彼なりに、あなたに最高の思いをさせたいという意識がとても強いからだ。そのためにカードローンで借金をしたり、会社のお金を使い込んだりする人までいる。あなたに費やしたお金はそのまま、彼の社会的な自己存在確認になるからだ。あなたとのデート費用が彼の収入に見合っていれば、また彼がそんな心配も無用なお金持ちであれば問題ないが、ついつい無理を重ねていると、一気にそのつけがやってくるのがこの時期なのだ。ふたりの関係が彼の妻に知れてから、急に彼の自由になるお金が激減するというケースもある。  金の切れ目が縁の切れ目の関係ならそこでふたりの仲も終わっているのだろうが、あなたと彼はそういうわけにはいかない。あなたは彼に食事をおごってあげたり、タクシー代を出してあげたりするようになる。あなたは彼に会えることを思えば、お金なんてあるほうが出せばいいじゃないかと思うだろう。彼のためにできることならどんなことでもしたいのだから。  しかし、ここにもあなたが新たな苦しみに陥ってしまう落とし穴がある。あなたはすぐに、なぜふたりがこんなに追いつめられているのか疑問に思うだろう。ごく普通のつきあいならば優越感に浸ることもできるのに、不倫の恋において女性側はお金を出すことによってかえって卑屈になる。彼の向こう側に、彼の妻の存在があるからだ。あなたのために使うお金はなくて、ほかの女性がすべて操っているという事実があなたをやりきれない思いにさせる。あなたの被害者意識は最大になり、彼に会ってもらっているような気持ちになる。彼は愛する女性にお金を出させているふがいなさにあなたに連絡をとるのをためらうようになる。  これは単なる経済的な問題ではなく、ふたりの関係を蝕《むしば》む大きな要因なのだ。この状態まで来たら、とにかくあなたはできるだけ経済的負担のないように注意しなくてはならない。それがあなたのつらさをやわらげる唯一の方法なのだ。間違っても彼のために定期預金を解約したりしてはいけない。不倫の恋を続ける女性たちにとって貯金は、将来の不安をいくらか軽減してくれる大切なもの。しばらくの間はふたりでお金のかからないデートを楽しむ様々な工夫をして、この時期を乗り越えるしかない。ここでかえって新鮮な気持ちが味わえるようなら、ふたりは大丈夫である。そして、彼のことをもう一度見つめ直すいい機会にもなる。彼があなたにおごってもらって平気な顔をしているようなら、彼はそれだけの男性なのだ。  この時期、あなたは約束を得られないまま日々を過ごす中で、様々な要因が重なり、この恋に対して欲求不満になることが多い。その不満は彼本人でなく、彼の家族の存在に向けられる。あなたは何かにつけて彼の家族を恨むようになり、いっそのこと彼を残して全員死んでしまわないかしら、などと恐ろしいことを考えてしまったりする。決してあなたが本来そんな人間だというのではない。不倫の恋のつらさがそこまであなたを追いつめているのだ。  こうしたネガティブな思いは、必ずあなた本人に返ってくる。自己嫌悪、自己|憐憫《れんびん》などがもたらす結果は、あなたが非常に情緒不安定になることだ。ものが喉《のど》を通らなくなって何キロも痩《や》せてしまったり、夜眠れなくなったり、頭痛やめまいに悩まされたり、ひどいときは本格的な鬱病《うつびよう》や、胃潰瘍《いかいよう》などの症状が出てきたりする。そんなときずっとそばにいてほしい彼は自分のことを支えるので精一杯であなたを包み込む余裕がない。  その時期に重なるように、以前は会う度に積極的にセックスを求めてきた彼が、デートをしてもあなたに指一本ふれないなどということが出てくるかもしれない。彼が精神的にも時間的にも経済的にもぎりぎりのところにいることを考慮すると仕方のないことなのだが、女性にとってこのダメージは意外なほど大きい。デートの回数が減っても、会う度に彼とのセックスが楽しめる状況なら何とかなる。会えない、一緒にいられない、約束もない、すべての愛情確認の手段を奪われた中で、セックスは不倫の恋の中で最も愛情確認をしやすい貴重なアイテムだ。もちろん、彼のセックスに対する情熱をあなたへの愛情とすりかえているわけではない。けれどあなたは、わたしたちは一体何なのだろう、という思いに苛《さいな》まれる。夫婦でもない、恋人でもない、友達でもない、わたしはどこにいてもいないほうがいい存在なのだと思い込んでしまう。  あなたが彼の子供が生みたい、と強く思うのはこんなときだ。彼とあなたの間に築かれた愛の確かな証《あかし》を求める気持ちと、あなたがこのまま年齢を重ねていくことへの不安がオーバーラップした結果である。恋愛や結婚に自由な考えを持つ女性にとって、出産が大きな焦りを生む原因となるのは、出産だけが年齢制限のある問題だからだ。今、あなたにとって彼の子供を生むことが、すべてを一気に解決する唯一の方法のように思える。けれど、本当にそうだろうか?  愛する男性の子供が欲しい。その気持ちを否定することは誰にもできない。けれど、不倫の恋の場合、そこに様々な現実が複雑に絡み合っている。あなたの強い意志や愛情だけではどうにもならないこともあるのだ。子供は夫婦そろって育てなければならないとか、私生児をこの世に送り出すべきではないとか、そんな社会的通念を気にするあなたではないだろう。ただ、子供を不倫の恋の切り札にするのは間違いだ。あなたの運命を切り開いていくのは子供の存在ではなくあなた自身でなくてはいけない。  まず、あなたが本当にそれで幸福になれるのかどうか、夢ではなく現実を見つめてよく考えて欲しい。そして、彼はあなたが子供を生むことによって多大なる傷を負うことにはならないだろうか。まず、彼にも合意の意思がなければあなたのはかない望みはそこで終わる。彼の合意なしに妊娠をしたり出産をしたりすることは、いくらあなたのつらい立場を考えても避けるべきである。もし、彼もそれを望んでいるという希少な状況の中だったとしても、あなたにはさらに考えなくてはいけないことがある。  子供を生むことを彼を自分のものにできるたった一度のチャンスだなどと思ってはいないだろうか? 今子供を持つことができるなら、彼を失ってもかまわないと心から思えるだろうか? 土壇場になって彼に堕《お》ろしてほしいと懇願される絶望を想像したことはあるだろうか? あなたは子供をひとりで育てていけるだけの経済力と精神力、そしてまわりの人々の理解が得られる環境にあるだろうか? できることなら、そんな苦しい道程をたったひとりで歩き続けるようなことは回避してほしい。けれど、その選択をするのは、あなた自身である。 [#改ページ]  Step 8 三年から四年まで   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼に会うのも会えないのもつらい 仕事に影響が出てくる 彼との関係を親に打ち明ける 彼との別れを決意する 職場や住居を変える 彼の引き止めに応じる もう一生ほかの男性を好きになれないと思う 別れたいのに別れられない [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  妻子ある男性との恋愛によって、自分の生活をめちゃくちゃにされてしまう、そんな女性たちが数多くいることをあなたは知っている。身近にもそんな女友達が何人かいた。でも自分はそんなことにはならない。あなたは自分を大切にしているし、遊びやひとりの生活を自由に楽しみ、仕事にも誇りを持っている。誰かがいないと生きていけないような、自立心のない女とは違うのだ。  それなのに、彼と会えない日が何日か続いただけで、自分が自分でなくなってしまうような喪失感に襲われる。鳴らない電話の前でじっと彼からの連絡を待つことがあなたの日常となってしまった。そして、待ち焦がれた彼と会えるときがやってきても、以前のような幸福感は訪れない。今のあなたは彼に会うのも、会えないのも同じくらいつらいのだ。  会えなくてつらい、という気持ちは、恋をしたことのある人になら容易に想像することができる。けれど、どうしても会いたい、と思い続けて会ったのに、実際に会えばさらにつらいのだ。そんなあなたの気持ちを理解できる人は少ない。あなたを目の前にしている彼にも100パーセント理解することは不可能だろう。  男性は、どんな問題が山積みになっていようととりあえず、あなたと会っているときは楽しくしていたいと思う。でも、あなたは彼のことが好きだからこそ楽しくしていられなくなる。これは彼があなたのことを真剣に考えていないからではなく、男女の間にはじめから存在する精神的ギャップなのである。女性が「あなたに会いたかった」と言って胸に顔を埋めて泣くことも、「だから今会っているんじゃないか、会えたのに泣くことはないだろう」というのが男性側の理論なのである。今のあなたの苦しみを、ほかならぬ彼と分かち合うことさえできない。あなたは不倫の恋の最も厳しい局面をひとりで迎えることになる。  どんなにつらくても、彼と会い、愛し合うことで自己の存在を確認できる間は、何とか頑張れる。けれど、それすらなくなってしまうと、そこは八方|塞《ふさ》がりの世界だ。あなたは真《ま》っ暗闇《くらやみ》の中でひとり膝《ひざ》を抱えて、傷ついた魂が血を流し続ける。このままではいけない。何とかこの状態を抜け出さなくては。あなたは不倫の恋の網の中でもがく。けれど、もがけばもがくほど、苦悩の湖の底に落ちていく。  不倫の恋における、ある意味で末期症状ともいえるこの時期に、淡々と日常生活を送るのはむずかしい。慢性的な不眠やめまいと戦いながら、必死で立っているような生活は、あなたの容姿をも蝕《むしば》みはじめ、仕事への影響も隠しきれなくなるかもしれない。これまで懸命に仕事をすることは、あなたの心の拠《よ》りどころになっていた。不安定な恋愛を支え、何とかバランスをとるためには、より一層仕事の中に自分の位置を確立しようとしなければならなかった。結婚退職をしていく女子社員や、子供を抱いて幸せそうにしている女友達を尻目《しりめ》に、いいの、わたしは仕事に生きていくのだから、と自分に言い聞かせてきた。実際、仕事に没頭している間だけ、ほんの一瞬、彼を忘れていられた。仕事があなたにもたらす多忙さや、より高い質の能力を要求されることがあなたにいくらかの安らぎを与えていたのである。  けれど、あなたの中で仕事が担っていた部分も、その役割を果たせなくなってきている。それは、あなたが心の底では、こう思っているからだ。現在の仕事も、これまで築き上げてきたキャリアも人間関係も、半ば約束されている将来も、何もかも失ってもいいと。この人生を、彼と共に歩んでいけるのなら。あなたは彼と一緒に生きていけるためならば、すべてを失ってもいいとさえ思っている。  その気持ちが確かなものになっていけばいくほど、あなたは仕事への意欲を失っていく。たががはずれたように、すべての事柄に無気力になっていく。あなたはまたひとつ、自分の居場所を失ってしまうのだ。たかが恋愛の悩みが仕事に影響を及ぼすなんて、無自覚な弱い女のすることと、あなたもこの恋を経験するまではそう信じていただろう。でも、無自覚な弱い女に、この恋のつらさはとても耐えられるものではない。常に自分の人生を自分の手で切り開いてきた能力のある女性だからこそ、この恋をここまで貫き通すことができたのだ。あなただから、ここまでがんばることができたのだ。  でも、あなたの気力も体力もすでに限界に来ている。あなたは無断で仕事を休み、一日中部屋に籠《こも》って空《くう》を見つめているかもしれない。そこであなたは考える。もしあなたが重大な病に倒れても、彼は飛んできてはくれないだろう。彼がそばにいてくれるのは仕事中でもなく、そばに家族もいない、限られた時間だけ。彼が何かを放り出してあなたのために奔走することは決してない。もしこのまま死んでしまっても、何日も発見されないかもしれない。家族を持たないということはそういうことなのだ。もしかしたら、自分はこの数年間、何の意味もないことをしてきたのではないだろうか。そんな悲しい考えがあなたの頭の中を旋回する。  このとき、あなたの話を親身になって聞いてくれる人はいるだろうか。彼のことを口にするだけで涙声になってしまうあなたの肩を朝まで抱いていてくれる優しい手はあるだろうか。あなたの恋のこれまでの経過をすべて理解してくれている女性がひとりいてくれれば、あなたの大きな助けになってくれるだろう。  救いの手を求めて、あなたはついに彼との関係を親に打ち明けるかもしれない。ひとりでいることに耐えられず、生まれ育った実家に戻りたいと思うかもしれない。もちろん、あなたは親に余計な心配などかけたくないと思っているし、親に頼らなくては生きていけないほど自立心に欠けているわけでもない。そのあたりの理性をすべて飛び越えてしまうほど、ぎりぎりのところまであなたが弱っているということなのだ。けれど、不倫の恋をする娘に対して、親は無力な存在にならざるを得ない。近い将来、幸せな結婚をしてくれるものと信じてきた娘から聞かされたこの恋愛は、あなたを生んだ女性をことごとく傷つける事実に違いない。けれどどうすることもできないのだ。あなたの行動を頭ごなしに否定することも、頑張りなさいと応援することも、見て見ぬふりをすることも。なぜなら、心に決めた男性を一途《いちず》に愛し続けるあなたの強い心は、あなたのお母さんの中にも必ず存在しているものなのだから。  しかし、立ち上がるのは誰の手を借りるでもなく、あなた自身の足だ。そのための準備もあなたの中で生まれている。あなたはもう気づきはじめているはずだ。世の中には、どんなに強く望んでも決して手には入らないものがあることを。どんなに激しい愛や情熱にも微動だに揺るがないものがあることを。彼とあなたはもう決して人生を分かち合うことはないのだと。  あなたは、はじめて彼と別れることを決意する。今のどうしようもない状況を抜け出して、本来の自分自身を取り戻すには、彼と別れるしか方法がないのだから。あなたの頭に、彼と別れるというひとつの答えが浮かんだとき、あなたは一瞬すべてから解放されたような気持ちになるだろう。あなたは束《つか》の間《ま》明るさを取り戻すかもしれない。けれど、そう簡単にことは運ばない。あなたにとって、彼を失うことは、すべての幸福と喜び、そして確かに自分が生きているという実感さえすべて失うことと同じなのだから。  この時期、あなたは彼と別れるか、それともこのままつきあい続けるかの決断を迫られることになる。不倫の恋の大きな岐路に、あなたはひとりで立たされている。この選択は、彼とふたりで決めることでも、誰かの導きに従うことでもなく、あなたひとりで決断しなくてはならない。決断し、強い意志をもって実行するのはあなただけなのである。  あなたは彼に決別の言葉を告げようとする。ここまでは頑張れた。でももうここから先は無理なのだと。「あなたが離婚してわたしと結婚するのは無理でしょう? 離婚をしなくてもわたしと事実上一緒に暮らしていくというのも駄目でしょう? そしてひとりであなたの子供を生むことも許されないのね。じゃあもうこれ以上つきあっていくことはできないわ」。けれど、胸の中で何度も何度もシミュレーションされた言葉を、あなたはついに口に出すことはない。愛《いと》しい彼の顔を見てしまうと、どんな決意も瞬く間にくずれさり、今日を明日に、明日をあさってにと一日一日先延ばしにしてしまう。どんなに決意を新たにしても、彼に会うと、別れなくてはいけないという気持ちを、彼を好きだという気持ちが悠々と追い越していく。  面と向かっては彼と決して別れられないと思うあなたは、最終手段として、職場や住居を変えることで何とか彼と離れようとするかもしれない。彼の知らない、新しい環境に身を置いて、自分を立て直そうとするかもしれない。彼がそのままあなたの行動を見守ってくれれば、あなたの長かった不倫の恋はそこでエンドロールが流れる。しかし、男性はあなたが本気で離れようとすればするほど、決してあなたを放すまいと情熱を燃やすものなのだ。  彼はあなたを決して失いたくないと思う。彼にとってこの恋はやっと手に入れた大切な純愛なのだ。あなたが別れを決意した途端、彼はあなたに精一杯の愛情を見せて引き止めようとする。彼があなたをぎりぎりのところで引き止めたものは、数日間の旅や海外旅行かもしれない。彼がはじめてあなたに見せた涙かもしれない。泣いてすがって、あなたにあらゆる愛の言葉を浴びせ、やり直してほしいと懇願するのだ。最後にもう一度だけ、ふたりでゆっくり思い出のレストランで食事をしよう、というロマンティックな提案かもしれない。あなたは情にほだされて、あるいはそれを最後の思い出にするつもりで彼の誘いを受け入れるだろう。けれどそのとき、あなたはすでに、さらに深いこの恋の沼にずるずると引きずり込まれているのである。  別れたいのに別れられない。そこには、彼と永遠に別れられないのではないかという恐怖と、本当に別れてしまうことの恐怖が同居しているはずだ。彼といつまでもつきあっていたら、このままどうなってしまうかわからない。でも、彼と別れるということは、もう二度と彼に会えなくなるということだ。そんなことに果たして耐えられるだろうか? そんな思いを味わうくらいなら、一生結婚できなくても、泣いてばかりいても、まさに死ぬ思いをしてでも彼と一緒に居続けるほうがいいのではないか?  今までのあなたなら、ひとつの恋が終わっても、またすぐに次の恋がやってくる、そう素直に思えたはずだ。今までだって、ずっとそうだったではないか。でも今度ばかりはとてもそんな希望を持つことすら考えられない。あなたは今、今後あなたの人生に、彼以外に好きな男性など絶対にできない、彼以上の男性は決して現れないと信じているのだから。 [#改ページ]  Step 9 四年以上   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼に結論を出させようとする 彼の結婚の約束を信じて待ち続ける 彼との信頼関係がくずれる 彼や彼の家庭を壊そうとする 彼の妻と接触を持とうとする 彼のことを恨む 一生結婚できないかもしれないと思う 一生愛人でいる覚悟をする [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  不倫の恋には、必ず限界のときが訪れる。男と女が、お互いを愛するという掛け値なしの気持ちだけでやっていくのは並大抵のことではないからだ。特に「彼の離婚」そして「あなたとの結婚」というはっきりとした目標がない場合、最も長くてもふたりがつきあいはじめておよそ四年でその限界に突き当たる。  だからこの時期に入ったふたりは、まさに不倫の恋の限界を超えている。すでにふたりの関係は純粋な恋愛とはいえないかもしれない。ふたりの関係を支えているのは恋愛感情以外の何かなのである。  あなたの中には彼と別れなければならないという気持ちは常に存在している。それはもう今日で終わりにしよう、明日こそ別れの言葉を言い出さなくては、というような切羽つまった気持ちではない。彼は「いつかは別れなくてはいけない」人なのだ。多くの女性が、その「いつか」を決定する勇気もきっかけも持てずに日々を過ごしているのである。  この時期まで来て、この不倫の恋の決着を彼につけさせようとしても無駄である。もし、あなたが「このままあなたといてわたしは幸せになれるのかしら?」と問いかけたとしても、彼は「それは君が決めてくれ」と言うことしかできない。すでに男性の手には、この恋に関する何の決定権もないのだ。  今後、ふたりの関係が何年続いたとしても、彼からは「別れよう」という言葉も「結婚しよう」という言葉も聞けないだろう。なぜなら彼がそれを自らの手で決定できるような人間なら、とっくの昔にその結論は出ているはずだからである。この時期までこの恋がはっきりとした指針のないまま続いているということは、彼には結論を出す能力がない、もしくは結論を出せる状況下にないということなのだ。  だからこの時点で、いまだに彼の結婚の約束を信じて待ち続けている女性は危険である。もちろん、あなたは男の常套句《じようとうく》を鵜呑《うの》みにして、自分の都合のいいように解釈するほど愚かな女性ではないだろう。ただ、純粋に彼を信じているのだ。けれど、大切なのは、男性の言葉よりも行動を見ることだ。彼が何と言ってくれたかということよりもまず、あなたに何をしてくれたかをもう一度冷静に考えてみてほしい。彼の実際の行動を無視して言葉だけを追いかけていると、ふたりの現状を見失うことになる。現状に目をつぶったまま先へ進めば進むほど、あなたの人生にとり返しのつかない傷を負わせてしまう。  どちらにしろ、この恋の結末は、あなたがひとりで決めなくてはならないのだ。何とかしなくてはと思う反面、あとはもうなるようにしかならないのではないかという気持ちもあるだろう。あなたにとって大事なのは結婚に向かって進んでいることではなく、どんな形であれ彼と共に生きていくこと、なのかもしれない。  その場合、あなたの拠《よ》り所となるのは、彼に女として愛されていることだけである。妻としてでもなく、母としてでもなく、彼の前でただのひとりの女として存在し続けることである。たとえ男女の恋愛感情がなくなっても、信頼関係さえあれば成り立っていくのが結婚というものならば、不倫の恋はあなたが女として愛されることを基盤としている。だからこそ、彼の愛情が感じられなくなったとき、もしくはふたりの愛情のバランスが大きくくずれたとき、お互いの信頼関係まで一気にくずれ去ってしまう可能性があるのである。  彼が、あなたが信じていた彼の愛情を根底から突きくずすような行為をしたとき、その嵐《あらし》は起こる。ひとつは、彼の決定的な嘘《うそ》がばれた場合である。たとえば「妻とは別居している」と言っていた彼が実はずっと前から同居していた、「妻とは何年もセックスしていない」はずの彼と奥さんとの間に子供が生まれる、「妻とは離婚話が進んでいる」と言い続けていたのに、現実は離婚の「り」の字も出ていなかった、など。  信じたくないようなことばかりだが、不倫の恋の中で実によく見られる例である。これらは彼が特別不誠実な人間であるとか、重度の虚言癖の持ち主であるとか、特殊なケースに起こることではない。男性にとって、「言わなくてはならないと思いながら、なかなか言い出せなかった」種類の事柄だったというだけのことなのだ。  もうひとつはあなた以外の愛人の存在が発覚した場合。これは不倫の恋において決して許されることのない、はっきりとした彼の裏切りである。あなたと不倫をしたのだからほかの女性とも不倫をするのは仕方ないなどということはない。これは彼の人間性の問題である。する人はする、しない人はしない。ただ、その事実がはっきりした以上、あなたはどんなことがあっても彼を許すべきではない。  あなたが今まで信じてきたものがすべてくずれ去る瞬間。一体、この数年間、わたしは何をやっていたのだろう、と途方に暮れる。自分自身の存在まで消え去るような喪失感をあなたは味わうに違いない。このような状況を目の当たりにしたとき、彼のことが一瞬にして嫌いになれたらどんなに楽だろう。しかし、ほとんどの女性がこれらの現実を目の前にした上でもまだ、彼を愛しているのである。そこまでされているのに馬鹿じゃないかと自分で自分を情けなく思いながらも、彼への執着から逃れられない。  ここで逆上すると女性は何をするかわからない。実際行動に移すか移さないかでは天と地ほどの差はあるが、男に捨てられてその妻を刺し殺してしまったり、相手の家に火をつけてしまったりした女性の気持ちが今のあなたには理解できるだろう。不倫の恋の中で負った決定的な傷は、それほど女性にとって計り知れないダメージを与えるのだ。  あなたの中には、自分の存在を彼の家庭に知らしめたいという思いが強くなっていくかもしれない。彼の奥さんに会いに行ったり、自宅に電話をかけて話そうとしたりする女性もいる。できたらあなたの存在が原因となって彼の家庭がめちゃくちゃに壊れてしまえばいいと思う。実行に移さないまでも、この状況に陥った誰もが一度は考えたことがあるだろう。  また、彼の妻ではなく、彼自身に根深い恨みを持ってしまうケースもある。たとえば彼の職場に乗り込む、怪文書を送りつける。上司に密告するなどしてふたりの関係を暴露し、彼の仕事や将来を妨害しようとする。また、本人に無言電話や脅迫などの嫌がらせを続ける。彼自身にまったく責任がないというわけではない。そこまでひとりの女性を追いつめた男性にも当然非はあるだろう。  けれど、だからといって、女性たちのこれらの行動を正当化することはできない。恋愛は、誰かを傷つけ、痛めつけるためにするものでは決してない。もし、あなたの中の何かがこのような行動に駆り立てているとしたら、それはあなたに何の意味ももたらさない。あなたの女としての格を下げるだけである。今、あなたをこの恋に繋《つな》ぎ止めているものが何なのか、よく自分の気持ちと向き合ってみてほしい。現在のあなたを包んでいる感情は、純粋な恋愛感情だけではないはずだ。彼への執着、情、未練、そして女としての意地などではないだろうか?  この恋はすでに終わっているのだ。それが見えただけでもあなたはラッキーだったのだ。あなたはもう彼の言葉ひとつひとつにふりまわされることのない、ひとりの自由な女性に戻ったのだ。どんなにつらくても、真っ直ぐ前だけを見つめて、後ろをふり返ってはいけない。すでに恋ではなくなっている不倫を深追いしてあなたにいいことなどひとつもない。  そのような悲しい出来事もなく、彼に過度な期待を持つわけでもなく、ふたりがとてもいい関係を築いている場合もある。ふたりの関係の基盤に信頼関係があれば、かなり長い間小康状態を保つことができる。その場合、あなたと彼は夫婦ではないけれど、パートナーとして周囲からも認知されているだろう。彼と会うことはあなたの中ですでに日常化している。毎週決まった曜日に彼があなたの家を訪れるとか、週に一回同じ店で待ち合わせをするとか。五年、十年という長期戦となり、いずれは事実婚のような形に落ち着くこともある。しかし、あくまでも籍を入れた夫婦とは決定的に異なる部分がある。  あなたはもう一生、一度もきちんとした結婚はできないかもしれない、と感じている。そして、一生愛人でいる覚悟を決めているかもしれない。けれど、一生愛人でいるということは、「結婚」も「自分の子供」もあきらめ、ただひたすらひとりの男性に女として愛されることだけを選ぶということだ。これはもしかすると、彼との別れを決意し実行するよりも苦しい選択なのではないだろうか。  世の中には、こうした関係をずっと続けていながら、女としてじゅうぶん幸せに暮らしている女性が確かにいる。けれどかなり希少なケースであるには違いないし、どんな女性にも可能だというわけでもない。やはり彼女たちにははっきりとした人生の目的があり、確かに生きがいと思える仕事を持っている。だからこそ、男性と自立した関係を保っていられるのではないだろうか。彼女は彼の存在によって幸せであるという以前に、自分ひとりでも幸せをつくり出せる女性なのである。  だからあなたが一生愛人である決意をするときがくるとしたら、それはあなたが仕事に新たな意欲を見出したときかもしれない。その支えもなく、ただひたすら彼を愛し続けるという視点だけにとどまっていたら、すぐにくじけてしまうだろう。もしあなたが真剣に、一生涯彼の愛人であることを望むなら、とにかく一生涯かけても悔いのない仕事を持つことである。あなたが人生をかけて愛する彼と同じくらい大切なものを見つけることである。  女性には何度か人生のターニングポイントが訪れるが、不倫の恋の中で最も大きな転機となるのは「三十歳」という年齢かもしれない。不倫の恋に陥りやすい年齢を考えると、ちょうどこの時期、三十歳を迎える女性も多いだろう。二十代の大半を不倫の恋に費やした女性が、この三十歳を機にまったく新たな道を歩んでいくという場合がある。三十歳という年齢は、女性にとって様々な意味を持つ特別な年齢だ。責任のある仕事をまかされるようになったり、結婚への焦りが消えていったり、若さへの執着が薄れていったり、ひとりの大人の女性として歩き出す要因がすべて揃《そろ》っているのがちょうど三十歳の頃なのである。  今まで、不倫の恋の中でもがいていた自分が嘘《うそ》のように、一瞬にして霧が晴れ、心の底からすべてがふっ切れる。あなたにもそんな日が訪れるかもしれない。 [#改ページ]  Step 10 不倫の恋の終わり   [この時期陥りやすい症状] ———————————————————————————— [#ここから2字下げ] 彼と別れたことを後悔する 別れたあともずるずる彼と会い続けてしまう すべてに絶望的になる 不倫の恋をしたことを後悔する もう二度と不倫の恋などしないと誓う 彼以外の人と結婚を決めようとする 独身者との恋がうまくいかない 別の妻帯者とつきあいはじめてしまう [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  不倫の恋にようやくピリオドを打ったあなたを包んでいるのはどんな感情だろうか。数年間の不倫の恋に別れを告げて、すぐに清々《すがすが》しい思いに浸っている人は非常に少ないだろう。  あなたは彼と別れるという、ふたりにとって正しい決断をした。彼と別れるために、数か月か一年近く、あなたのすべての神経と労力を使ってきた。けれど、そこまでで精一杯なのだ。あなたがより充実した生活を送るという次のステップに行くまでには、もういくつかの階段を上らなければならない。そこまでひとっ飛びで駆け上がることは誰にもできないのだ。  あなたは世の中のすべてに絶望的になっているかもしれない。あなたにとって彼との恋愛は、それだけ大切なものだったのだから。今は過去のことも未来のことも考えるのを中止して、あなたの疲れきった心と体をゆっくり休ませることが何より大切である。あなたの心を癒《いや》してくれるのは、親友の言葉でもなく、新しい恋人でもなく、時間だ。彼との激しい恋にもつれあった運命の糸を、ひとつずつ、ゆっくりと結び目をほどいていってくれるのは時間だけなのだ。  あなたの部屋には彼を思い出させるものがあちこちにあるだろう。彼との写真を飾ったフォトフレーム、彼から贈られた小さなぬいぐるみやセーター、愛の言葉に満ちた手紙やカード、彼があなたのために描いてくれた肖像画。愛《いと》しい彼の手が触れていったものすべてが彼の存在を映しだしている。あなたはそれを全部片づけてクローゼットの奥にしまう。この数年間、肌身放さずつけていた指輪や腕時計も一緒に。いつか懐かしく思い出せる日まで、そっと封印する。  あなたはそれらを捨ててしまうことなど決してできないはずだ。彼との思い出は、つらく苦しいだけの過去ではなく、あなたのほかのどんな思い出よりも輝いた季節なのだから。それを捨ててしまうことは、あなたの彼との数年間を否定してしまうことになる。あなたは彼を嫌いになったわけでも、彼を好きになった自分を嫌いになったわけでもないのだ。あなたは彼を愛すると同時に、彼を愛する自分をも愛していたのだから。  ようやく別れを告げた途端、彼と別れたことを後悔してしまうこともある。数日後か、数か月後か、あるいは数年経ってそんなことを考えるかもしれない。彼はやっぱり、わたしにとってなくてはならない人だった。その人と別れるなんて、とり返しのつかないことをしてしまったのではないだろうか。もちろん、あなたはまだ彼のことを心から愛しているだろう。その気持ちは出会った頃と少しも変わっていないかもしれない。けれど、今あなたが後悔する気持ちは、純粋にまだ彼を愛しているから、だけではない。  不倫の恋には、通常の恋をはるかに超える麻薬性がある。毎日が、幸せの絶頂と悲しみのどん底のくり返しのような数年間をあなたは送ってきたのだ。彼のいない生活が、空虚でつまらない退屈なものに思えてしまうのは当たり前のことなのだ。あなたの不倫の恋への禁断症状が、あなたの後悔する気持ちに拍車をかける。  けれど、よく思い出してほしい。あなたの不倫の恋はもう限界だったのだ。あなたがこの恋に別れを告げたのは、あなたのためにも彼のためにも、賢明な選択だったのだ。今、あなたは人生に何ひとつ目標がなく、充実感のない生活を送っている。だからこそ、彼とよりを戻せば、またあの素晴らしい日々が送れるのではないかと錯覚する。あなたは自分の人生を価値のあるものにする何かを見つけなければいけない。誰かに依存するのではなく、自分の手で何かをはじめる。今はその絶好の時期なのだ。  自分の人生にその目的意識が持てないまま暮らしていると、別れたあともずるずる彼と会い続けてしまうことになる。彼のほうもできることならあなたとつきあい続けたいと思っているのだから、彼に会うのは新しい恋を見つけるより百倍簡単だ。彼と会えば楽しい。世界中でたったひとり、会いたくてたまらない相手なのだから。あなたは一瞬、以前の喜びを味わい、元気を取り戻すかもしれない。けれど、彼との間の状況は、別れたときと何も変わっていない。彼との再会に嬉《うれ》し涙を流すときが来るならば、それは彼が離婚をしてあなたの前に単身迎えに来たときだけである。根本的な状況が何も変わっていないのに、ふたりが新しい関係を築けるはずがない。  あなたの中にはすぐに別れを決意したときに苦しみ抜いたあの感情が蘇《よみがえ》ってくる。彼と別れることに費やした大変な努力を自分の手で水の泡にしてしまったことに気づく。あなたはもう一度、彼との別れをやり直さなくてはならない。それは一度目よりもむずかしいというわけではないが、今度は以前よりももっとやりきれない、悲しい別れになる。彼との別れに後悔し、再会したことに後悔する。今彼と再会することは、あなたが二重に傷つくことにあえて挑戦していくようなものなのだ。  あなたが後悔しているのは彼と別れたことではなく、不倫の恋をしたことについてかもしれない。二十代から三十代にかけての二度と戻らない月日を、あとに何も残らないまったく無意味な恋愛に費やしてきたのではないだろうか。一体わたしは何をやっていたのだろうか、と立ちすくむような思いに襲われるのだ。確かにこの恋は、形としてはあなたの中に何も残さなかったかもしれない。だからといって、それであなたの恋が無意味であったなどとなぜ言えるのだろう?  愛情を形にすることはもちろん非常に意味のあることだ。不倫の恋において、男性側が愛情を形にすることは、何よりも困難なことであるだけに、さらにその意味は大きい。けれど、人の愛はそれだけがすべてではない。形にならない愛情が無意味であるということには決してならない。形だけがすべてなのだとしたら、あなたはどうしてすでに結婚している人との恋に情熱を傾けたりしたのだろう? 「結婚」という形に最も遠い恋愛に自ら身を投じたのはなぜだろう? それは、彼との恋愛があなたにとってかけがえのない素晴らしいものだったからだ。たとえ、形にはならなくても。  もう一度、初心に戻って考えてみてほしい。彼はあなたを裏切って、妻の元に走ったのではない。彼はあなたと出会うずっと前から、別の女性と家庭を築いていたのだ。その生活を全部捨ててしまわなかったからといって、あなたを拒否したことにはならない。あなたにとっては、彼は世界を変えるほどの存在だった。そして彼にとっても、あなたは人生を揺るがすほどの大きな存在であったに違いないのだ。  人生で、何の掛け値もなしに純粋に人を愛せることなど、そう何度もあることではない。一生に一度でも、そんな想いをしたことのある女性がどれだけいるだろうか。つらく苦しい、けれどこの上ない幸せと輝きに満ちたあなたの経験は、それほど貴重な恋なのだ。あなたは女としてそこまでひとりの男性をとことん愛し抜いたことに大きな満足感を得るべきである。この恋を立派にやり遂げたことは、あなたのこれからの恋愛に必ずプラスの要素をもたらしてくれるはずだ。今後のあなたに女として、そして人間として、確かな自信と勇気を与える。  あなたは女として、一段も二段も大きく成長しているはずだ。女性としての魅力は、この恋をはじめる前のあなたとは比べものにならないほど素晴らしいものになっている。あなたは恋愛の中で最も難しいテキストをトップクラスの成績で卒業したのだから。  それでもあなたは、もう二度と不倫の恋などしないと誓うだろう。もうどんなに魅力的な男性が現れても、不倫の恋だけは絶対にしないと心に決めているだろう。それほど、不倫の恋の別れはつらい。またこんなつらい思いをするくらいなら、その手前にあるめくるめく愛の日々などすべて失ってもいいと思うだろう。  あなたは、目の前にいる非常に心|惹《ひ》かれる男性を「妻子持ちであること」の一点で恋人候補のふるいからふり落とすようになる。そして、独身者に目を向ける努力をするだろう。あなたは恋のターゲットを独身者にしぼって、目を皿のようにして探す。けれど、あなたはなかなか魅力的な独身男性とめぐり会えない。あなたの同僚の女の子から見たらいくらでもつきあいたい独身男性が見つかるのに、あなたにとって決定的な魅力を持つ男性はどこにも見当たらない。  その理由は簡単だ。あなたが今求めているのは、妻帯者にしか持つことのできない男性の魅力なのだから。顔立ちも、立ち居振る舞いも仕草も、女性の扱い方も、優しさもセクシーさもすべて、独身者のものとはまるで別の種類の、こなれた魅力なのである。  それでも、あなたの決心は岩のようにかたい。一年か二年の間、あなたは何人かの独身者とつきあいをはじめるだろう。けれど、あなたの独身男性との恋愛はことごとくうまくいかない。それはあなたが本当に好きな男性と恋をしているわけではないからだ。ある男性を好きになり、恋に落ち、つきあい、結婚する。これが自然の流れである。ところがあなたは最初から、「好きな人」ではなく、「結婚できる男性」を探しているのだ。「恋をした」からつきあうのではなく、「つきあう」の先に必ず結婚を予想できる相手を。これでは本末転倒である。あなたが恋愛への視点を無理やり狭めた途端、あなたは恋と無縁な存在になってしまっているのだ。  もちろん、独身者の中にも、あなたが本気で好きになれる男性は必ずいるはずだ。あなたが純粋に恋を求める目を持っていれば、未来の夫を見つけ出すこともできるだろう。でも、あなたは再び不倫の恋に落ちることを恐れるあまり、本来の目を失ってしまっているから、出会うことさえむずかしい。それでも独身男性と知り合い、ほんの少し気が合ったり、共通項を見出しただけで、この人かもしれない、この人かもしれない、と乱暴に恋をはじめようとする。そのまま、その中のひとりと早々に結婚を決めようとするかもしれない。けれど、その結果、最も自分に合わない男性や、あなたを深く傷つける男性を選んでしまうのである。  そんなむなしい恋愛未満の生活を続けていくうちに、あなたの決意がぐらつきはじめるときが来る。仕事で厳しい局面に立たされたとき、精神的に落ち込んでしまったとき、孤独と寂しさに打ちのめされそうになっていたとき。あなたの前には、まるで運命のような理想的な男性が立っているかもしれない。あなたの直感は正しい。彼はあなたにとってきっと理想の男性なのだ。ただ、妻子持ちであるということを除けば。  あなたはこれからもたくさん恋をするだろう。それでもあなたは、こう思わずにはいられない。もし彼と人生を歩んでいたら、わたしはどんなに幸福だっただろうと。けれど、それはわからない。あなたにも、彼にも、誰にも、永遠にわからないことなのである。 [#改ページ]  第三章 「愛人の掟」読者の手紙から [#改ページ] Story 1  彼と別れ切れずに……。この先が不安でたまらない  こんにちは。「愛人の掟《おきて》」何回も読み直しました。今、不倫まっ最中の私には、「ああそうだ」って思えることや「そうか、そうすれば、そう思えば気が少し楽になるよね」ってことがいくつも書いてありました。なんとなくわかっているけど、見ようとしていなかった部分がズバっと書いてあったり……。  彼のことで落ち込むことがあると、必ず読み返して少し気がラクになります。どうしようもないので、つまらないヤキモチやいたりわがまま言ったり失敗ばかりです。そのたびに思い出すのは、本の中にあった�あなたにできることは、何も望まず、何も期待せず、ただ愛することだけ。何も望まずに、彼の愛をすべて手に入れる�っていう言葉です。そう思いたくて、頑張ろうって思ってるのに、うまくできない。�あの人は私のこと好きでいてくれるのかな��面倒臭《めんどうくさ》い女になっていないかな�って不安ばっかり。�私の他に誰かいるのかな��会いたいって思ってくれてるかな�とか余計なことばかり考えて……。  私は、彼の奥さんじゃないんだから結果はわかっていることなんだけど、これ以上彼を好きになるのは正直いってつらいです。遅かれ早かれ別れるなら、早いほうがいいと思って、一度別れを告げましたが、結局別れられず、元に戻ってしまいました。2人で会っていると、よく奥さんから彼の携帯にTELが入ります。「今、ひとりなの? そこに誰かいるんじゃないの?」って大きな声だから、こっちまで聞こえるんです。彼は気付いてないっていうけど、気付いてる奥さんに、彼が気付いていないだけなのかも……。  子供にも奥さんにも愛情たっぷりみたいで、少しさみしい。私も彼も今26歳。周りもみんな結婚していて子供もいます。私もそのうち結婚したいし、子供も欲しい。でも今は彼以外目に入らない状態。いつまでこの生活が続くんだろう、何やってるんだろう……って思ってしまうんです。今つきあっていることは、決してムダではないと思っているけど、18で家を飛び出して19から今までずっと水商売。前の彼とも結婚の話までいったけど、彼の浮気で別れました。母とはたまに会ってるけど、その時は目の前で泣かれて。「花嫁姿を見るのが、ずっと私の夢だった」と言われて、迷惑と心配をかけっ放しなんです。父とはもう6年くらい会っていません。借金、流産、いろいろあって、自分が本当に情けない。全部私がしっかりしていないために起こったこと。早くいい人と家庭が持てたらと思いつつも、他人の家庭に迷惑をかけてる。彼のことは本当に好きだけど、どうしたらいいのか、わからないんです。友達は「あせらなくていいよ。自分の速度でゆっくり行けばいいよ」って言ってくれるけど、私はどこか落ちつかないんです。わけのわからない焦りと怖さがあるんです。 [#地付き](神奈川県・26歳) [#改ページ]  彼以外の男性に目を向ける努力をして  あなたは二十六歳という年齢にしては、とてもたくさんつらい思いや苦しい体験をしてきたように思います。あなたは「全部自分がしっかりしていないために起こったこと」というひと言で片づけていますが、わたしには、あなたは今も、これまでも、精一杯頑張っているように見えます。ちょっと、可哀相《かわいそう》なくらい。  十八歳という若さで家族と離れたあなたにとって、彼ははじめて手にした安らぎの場だったのではないでしょうか。彼が独身者だったら、すぐにでも結婚してお母様を喜ばせてあげられるのに、という気持ちが強かったでしょう。  早くいい家庭が持ちたい、そう願う気持ちが人一倍強いあなたが、不倫の恋という結婚といちばん遠い恋愛をしてしまった理由が少しわかるような気がしました。  あなたは今、女性としても人間としても、大きく成長しようとしている時期にさしかかっているのです。もっと大人になりたい、もっといい女になりたい、もっとしっかりしなくちゃ、といつも思っているはず。その心が、恋人に対してより完成されたものを求めたのではないでしょうか。  あなたと彼は同い年ですが、結婚をして子供もいるということで、自分よりずっと大人の男性のような魅力を感じたのだと思います。もし彼が既婚者でなかったら、あなたは彼に恋をしていなかったかもしれません。とても皮肉なことですけれど。  あなたは不倫の恋をしていることを自分の中できちんと受け止め、誰のせいにもしていません。これはあなたの若さではなかなかできないことなのです。自分では弱いと思っているかもしれませんが、あなたはとても強い心の持ち主なのです。  不倫の恋をしていることで、自分を責めてはいけません。あなたの気持ちはとても純粋なもの。その気持ちに罪悪感を持つ必要などありません。  ただ、このお手紙を読んでまず感じたのは、あなたも彼も、そして彼の奥さんも、まだ若いなあ、ということです。彼もまだ遊びたい盛りのようだし、彼の奥さんは携帯電話にしょっちゅう電話をかけたりしている。今までにも、彼はあなたのような恋人を持った経験があるのかもしれません。  もちろん、彼にとって、あなたとの恋愛はこれまでの浮気とは一線を画すものだとは思います。でも、わたしには今ひとつ、彼のあなたへの真剣さが伝わってきません。あなたもそう感じているからこそ、「ほかに誰かいるのかな?」などと悲しいことを考えてしまうのではないですか?  彼が本当にあなたのことを愛しているのなら、あなたにそんな「余計なこと」を考えさせるような言動もないでしょう。あなたの不安は、彼が家庭を持っているという事実だけでじゅうぶんのはずです。  彼が結婚しているという事実は仕方がないこと。でも、それ以外は100パーセント、あなたに向いているという状態でなければ、本物の不倫の恋は成り立たないのです。彼の、仕事と家庭以外の時間はすべてあなたに使われて当たり前なのです。  それなのに、あなた以外にも親密な女性がいたり、あなたと会う時間より遊びを優先したりすることがもしあるのなら、なるべく早くあなたの中で結論を出すべきです。  あなたが「わたしのことを好きでいてくれるのか」「会いたいと思ってくれているのか」などという不安を持つのは、彼に確かに愛されているという自信がないからです。それでは、このつらい恋を続けていく意味がありません。こんなにつらい想いをしているあなたが、ちょっと割りに合わないような気がします。  でも、わたしが今言っていることは、もうあなたにはじゅうぶんわかっているのでしょう。だからこそ、あなたのほうから一度別れを告げているのではないですか?  あなたにはふたりのつきあいを客観的に判断する冷静さがあります。「結果は出ているのだから、いつか別れなければならないのなら早いほうがいい」というあなたの判断は正しいと思います。でも、別れたいのに別れられない。妻子ある男性とつきあった女性のほとんどが経験している気持ちです。不倫の恋にはっきりと決別するのは、本当にむずかしい。だからこそ、ちゃんとやり遂げられたとき、あなたは女性として飛躍的に成長するのです。  もう一度、自分の気持ちと向き合ってほしい。彼という男性のことを見つめ直してほしい。あなたは彼のどこが好きなのでしょうか? 彼はあなたのことを大切にしてくれているでしょうか? 彼はあなたに何をしてくれましたか?  今は、あなたにとって彼は必要な存在かもしれません。でも明日になればわからない。もっと大きく包み込んでくれる愛があなたを待っているような気がしてなりません。 「今は彼以外目に入らない」というあなたの気持ちは痛いほどわかります。でも、ちょっと無理をしてでも、彼以外の男性に目を向ける努力をしてください。  彼のように同年代の男性だけでなく、もっと年上の男性や、今までの恋人とまったく違うタイプの男性や、ふだんあまり接することのない世界の男性など、広い視野を持ってください。そして何よりあなただけを見てくれる、ありのままのあなたを愛してくれる、あなたを安心させてくれることをいちばんの条件にして。肩に力が入り過ぎているあなたの心を優しくときほぐしてくれるような男性がきっといるはず。  二十六歳からの数年間は、女性にとって、大きな節目になる時期です。今から三十歳までの四年間、あなたがどんなふうに生き、どんな恋をするかで、あなたの人生は大きく変わっていくでしょう。その大切な時期を「彼しか見えない」状態で過ごすのは本当にもったいないこと。思い出してください。恋はこの世でいちばん楽しいものなのです!  今、あなたが感じている「わけのわからない焦りと怖さ」こそ、既婚者の男性とつきあったことのある女性なら誰もが感じる心の叫びです。でも、あなたなら不倫の恋に打ちのめされることなく、次の恋に向かえると思います。  焦ることはありません。しっかりと自分の気持ちと向き合って、あなた自身の答えを出してください。答えが出たのなら、もう感情や状況に流されず、冷静な目を失わず、自分の決めた道を進んでください。  あなたには、親身になってあなたの恋の話を聞いてくれる素晴らしい友達もいる。これまでもしっかりと自分の道を歩いてきたあなただから、きっと大丈夫。自分に自信を持って、これからも素敵な恋をたくさんしてくださいね。 [#改ページ] Story 2  恋愛大好き! いつも年上の人ばかり好きになるの  今、高3の受験生で17歳でちなみに水瓶座《みずがめざ》、でもAB型。中2の頃からいろんな人とつきあって彼氏は重なった時期はあっても、いない時期はないのです。恋愛大好き。だからかな、あとは環境とか性格とかかなあ……。でも不倫ははじめて。最初は会えない時がつらくて、けっこう大変だったけど、3か月たった今、うまく割り切って楽しめるようになりました。不倫の彼の他にもうひとりの独身のカレがいるので平気なのかも。  でも決して遊びじゃない。結婚はしたくないケド、別れたくないくらいの気持ち。不倫の彼は予備校の先生。28歳で3か月の子供がいます。私の場合、彼が結婚してることを知らなかった時は、なんとも思わなかったのに結婚してることを知った時からひかれはじめたので、奥さんにはけっこう感謝しています。結婚してなかったら、たぶん好きになってなかったから……。私はもともとかなり年上好き。いちばん近くても6歳年上以下はつきあったことはなし。 「愛人の掟《おきて》」を読んでみて、けっこー掟守れてた私。なんか安心。だって予備校の彼の授業週1回だから、毎週その後にデートなの。私、彼とTELするのあんまり好きじゃないからかけたくもないし、デート代もちゃんと彼持ちだし……。指輪ももらってないし、ほしくないし。日曜はもうひとりのカレとすごすって決まってるし、友だちも超仲いい3人のみに話した。もちろん親にはヒミツ。不倫難度はDだった。でも離婚されなくてOKだからね。されたら困るし。なんてたま〜に冷めてるって言われる私です。  恋愛ってほんとたのしい。何にもかえられない。やめられない。重ねるたび自分が成長できるし、狙《ねら》った獲物は逃さないし、逃したこともない。これからもたのしみのひとつだよなあ。「愛人の掟」には同感できることはた〜くさんあった。梅田さんの他の本も読んでみます。そしたらまたLetter書きます。 [#地付き](埼玉県・17歳) [#改ページ]  恋愛を楽しめるあなたの魅力をもっと成長させて  恋愛体質。あなたの手紙を読んで真っ先に思い浮かんだ言葉です。  あなたが本当に心から恋愛を楽しんでいるのがうかがえます。十七歳という若さで、これだけ恋を楽しめるのは、持って生まれたひとつの才能と言っていいでしょう。最近、恋に臆病《おくびよう》になってしまっている女の子が多い中で、あなたはとても頼もしい存在。わたしは「若い頃の恋愛は質より量」と思っているので、とても嬉《うれ》しいです。  あなたが、彼が結婚していると知らなかった時は何でもなかったのに、結婚していると知って惹《ひ》かれはじめたのも、とてもよく理解できます。  これは世間でよく言われているような、「人のものだから燃え上がる」などという理由ではありません。だってあなたの中には、奥さんから彼を奪ってやろうなんて気持ちはこれっぽっちもないのですから。彼の奥さんがどんな女性かとか、それすら興味がないでしょう。  あなたが「結婚していた」彼に惹《ひ》かれたのは、あなたが向上心や好奇心がとても強い女の子だからです。あなたの、知らない世界に踏み込んでみたいという思いが、彼への気持ちを恋に走らせたのです。「すでに結婚している」というあなたにとって未知の部分が、彼の魅力を一気に引き上げたのです。 「もともとかなりの年上好き」というあなたの言葉がそれを証明しています。あなたにとってまわりの同級生や同年代の男の子たちではつまらなくて、興味が持てないのでしょう。あなたは恋人に自分にないものを求めているのです。  そして、それはあなたとつきあう男性たちも同じこと。彼らもあなたの中に自分にないものを求めているのです。たとえあなたが「年上好き」だったとしても、あなたにそれだけの魅力がなければ、子供扱いされて終わってしまうはずです。  あなたの「年上好き」は、援助交際が流行《はや》ったからといっておじ様たちを相手にしはじめた女の子たちとはまったく次元の違う、生粋のものです。あなたには年上の男性の心を引きつける何かがあるのです。それはあなたの若さだけでなく、純粋さや素直さ、ストレートな感情表現など、大人になるにつれて失いがちなものでしょう。 「狙った獲物は逃さない」あなたはきっと魅力的な女の子なのだと思います。これからのあなたに大切なのは、その魅力を成長させていくこと。  年齢にともなった女性としての魅力を持ち続けていくことは、決してたやすいことではありません。常に内面に磨きをかけていないと、二十代半ばあたりでがっくり魅力を失ってしまう女性がたくさんいます。  若さや可愛《かわい》らしさだけで通用するのは長くてもあと五、六年。十年後も今のまま楽しく恋ができると思っては駄目。あなたもあなたの恋も、これからどんどん成長していかなくてはならないのです。  そのためにも、あなたが今はじめての不倫の恋をしたことは、とてもよかったのではないかと思います。わたしの考える「不倫適齢期」にはちょっと早いのですが、あなたの恋は普通の女の子より早いスピードで進んでいるから、ちょうどいいのかもしれません。  彼との恋は、あなたにたくさんのことを教えてくれるはずです。たとえあなたがまったく結婚を考えていなくても、不倫の恋のつらさに変わりはありません。年齢も関係ありません。ただ、あなたは真剣に結婚を考えはじめるまでにまだまだ時間の猶予があるので、そのぶん気持ちは追いつめられなくてすむのです。  不倫の恋のほかにもうひとつ、独身者の恋人を持つことはとてもいいことです。本当は不倫の恋をするすべての女性にすすめたいくらい。なぜなら、わたしが「愛人の掟」の中で書いていることのほとんどが、もうひとり恋人を持っておくことで解決されてしまうのですから!  でも、多くの女性は、彼を一途《いちず》に愛するあまり、彼以外の男性とつきあうことなど考えられません。ほかの男性など一切目に入らなくなってしまうのです。そして不倫の恋をさらにつらくしてしまう。  でも、その点、あなたは根っからの恋愛体質ですから、好きな人も次々とできるし「同時に複数の人とつきあうなんて」などという常識にもしばられていない。だからこそ、「けっこー掟守れてた」のです。  今後、彼との関係に何が起ころうとも、決して彼ひとりにしぼろう、なんて思わないこと。今のあなたにとってはそんなこと思ってもみないことでしょうが、不倫の恋があなたの気持ちにどんな変化をもたらすかわかりません。  彼とつきあって三か月、「割り切って楽しめるようになった」とありますが、その状態がずっと続くとは限りません。そう言うあなたも「最初は会えない時がつらくてけっこう大変だった」のでしょう? この先あなたがもっと彼を好きになり、彼とずっと一緒にいられない寂しさと悲しみでいっぱいにならないという保証はどこにもないのですから。  今はとにかくこれまでどおり、「恋愛大好き」なあなたでいてください。あなたの言うとおり、恋愛は「何にもかえられない」人生で最も楽しいことのひとつです。恋を重ねる度に自分が成長できると実感しているあなたはきっといい恋をたくさんしてきたのでしょう。あなたが恋の道を踏み外してしまわないように願うばかりです。  今の自分に慢心せず、謙虚な心を忘れないでください。いつも自分を客観的に見る目を持っていてください。そうすればあなたは不倫の恋からも貴重な宝物をたくさんもらえるはず。  これからのあなたの恋がどう発展していくのか、とても興味があります。二十代、三十代になったあなたに、ぜひお会いしてみたい気持ちでいっぱいです。 [#改ページ] Story 3  優しい上司と大好きな本命の彼と二股愛《ふたまたあい》進行中 「愛人の掟《おきて》」を読むことができてとても良かったです。実際読んでみて、「うん、そうそう」と納得できるものもあれば、「それはちょっと……」と思うものもありました。愛人の掟として書かれていましたが、不倫に限らず、普通の恋愛でもそうすべきなんじゃないかな、と思うところもありました。  というのも私の不倫はちょっとパターンが変わっているので、�愛人�ということにあまりあてはまらないからです。毎日会おうと思えば会えるし、旅行にも行ける。電話も指輪もプレゼントもくれる。ずっと一緒にいてくれ、というのも向こうで、既婚者という肩書きがないかのような相手です。私の場合、不倫難度超Aタイプ。彼は結婚して10年ぐらいですが、子供はなし。奥さんは夜勤などでいないことが多いので、夜中に電話したり、車で迎えに来て家まで送ってくれます。毎日会いたいと言うのも、泊まりで旅行に行こうと言うのも、土日に会おうと言うのも全部彼です。だから深みにはまるのも、遊びだけにするのも私次第なんです。でも関係が始まってまだ4か月ぐらいですが、私は今でも不倫はいけないことだと思っているし、自分の中でどこか境界線を引いている部分があります。  私の相手の人は仕事の取引先の責任者で35歳の人です。だから仕事のやり方も教えてくれるし相談にものってくれます。私にとっては自分をすごく伸ばしてくれて大人に成長させてくれる人です。相性もすごくいいんです。はじまりは彼から誘われました。たぶんはじめは遊びのつもりだったんでしょうが、いつのまにか私にはまってしまったみたいです。私は彼に別れてほしいとも思わないし、結婚したいとも思いません。パートナーとしては最高だと思いますが、結婚相手としてはちょっと……。きっと彼と結婚しても、私が理想としている家庭を築けるとは思えないから……。それに、これは私のエゴですが、結婚するなら初婚同士で……というのが私の中にあるから……。でも、彼が心の支えになっているのは確かです。いつも守ってくれるし……。だからいわゆる不倫っていう状況にあまりあてはまらないんです。  おまけに、今私には独身で本命の彼がいます。すごく好きなんです。その彼は私の不倫相手の部下です。つきあい始めたのは上司の方と関係が始まった後でした。でも上司と始まる前からずっと好きで、そのことは上司も知っていましたが彼は知りません。だから、彼とつきあうことになった時、上司の方はやめようと思ったのに、本命の彼ともあまりうまくいってなかったりで、上司の優しさを求めてしまい、ズルズルと今に至っています。  私ってズルイ女なんだと思います。だから、このところ二股みたいになっていて、私自身ちょっと苦しいです。まっ、自分が悪いのかもしれないけど……。だから、「愛人の掟」を読んできちんと私から不倫にピリオドを打たないと……と思いました。上司も本命の彼とのことを、「お前が頑張るなら応援してやる」って言ってくれてるから。上司に比べれば、本命の彼はすごく子供なので、大人の上司の彼にいつも甘えて優しさに包まれていました。でも、いつまでもそれじゃいけないって思っているので……。私自身もっと強く、大人にならなくてはと思っています。だから、そろそろ不倫は終わりにします。ちゃんと終わりは女の私から……。この本を読んで恋愛とは、女とはどうあるべきか、ちょっと勉強になりました。参考にしながら、自分の恋愛観を確立させていきたいです。失礼かもしれませんが、結構考え方が似てるかなあと思いました。ファッションセンス以外は……。私は自分にあまり自信がないので、梅田さんみたいに断言はできないけど、読んでいて納得できる部分が多かったと思います。  上司の彼とつきあったおかげで、最近私は強くなったと思います。思っていることも言うことができるようになったし。それに、恋愛に関して行動力もでてきたし。本当はこうなれた自分が上司の彼のために何かしてあげられたらよかったんですけど、たぶんそうもいかないだろうから……。私なんか不倫の恋愛のうちに入らないと思うかもしれませんが、私にとっては一世一代のことで、たぶん不倫の恋愛は二度とないことだと思います。もう少し、上司の彼に育ててもらいたかった気がしますが、本命の彼が大切だから、後悔する前にけじめはきちんとつけておこうと思ってます。それができたら、また少し私も大きくなれるのかな。 「愛人の掟」私には役立ちました。どうもありがとうございました。 [#地付き](東京都・26歳) [#改ページ]  不倫を甘く見てはダメ。本気でないなら今すぐ決断を  あなたは自分でも認めているように、とても恵まれた不倫の恋をしている、と言っていいでしょう。夜中の電話、旅行、週末のデート……もっと苦しい立場で不倫の恋をしている女性たちから見たら、何とも羨《うらや》ましいような状況ですものね。  あなたに今ひとつ不倫の恋に対する真剣さが感じられないのはそのせいだと思います。ちょっときつい言いかたをすれば、あなたはすごく不倫を甘く見ている。  この恋を「私にとっては一世一代のこと」と言いながら、それでもあなたの中に「不倫はいけないこと」「結婚するなら初婚同士で」などという社会的通念が同居しているのも、心のどこかで真剣につらい不倫の恋をしている人たちを冷笑するような気持ちがあるからではないでしょうか。  そういうあなただからこそ、今のような状況が生まれたのでしょう。あなたは完全に「上司の彼」との恋の主導権を握っています。それは「はじまりは彼から誘われた」ことや、あなたに「独身で本命の彼」がいることだけが原因ではありません。あなたの「上司の彼」に対する気持ちが、それほど大したものではないからです。  あなたは不倫の恋をしながら、「わたしのは普通の不倫と違うの」「向こうがはまっただけでわたしははまったりしない」「わたしはこれだけじゃないのよ」という逃げ道をつくっているのです。もしあなたの「上司の彼」への感情が本物の恋だとすれば、あなたはもっと真っ正面から不倫の恋に向かっているはずですから。  もちろん、不倫の恋の中で女性が主導権を取ることはとてもいいことだし、もうひとり独身者の恋人をつくることには大賛成です。でも、その「本命の彼」が「上司の彼」の部下だというのはちょっとどうかと思います。  もちろん、恋愛に関しては、好きになってしまったらもう何でもあり、という部分があります。わたしも、いろいろなしがらみに縛られず、恋愛に自由な考え方を持てるのは素晴らしいことだと思います。でも、あなたの文面からは、ふたりの男性を同時に好きになってしまったことへの戸惑いや、ふたりの間に立って苦しみ抜くようなぎりぎりの感情はまったく伝わってきません。だからあなたのしていることに、恋の理屈は通用しません。  この場合はあなたが人として、やっていいことと悪いことをわきまえているかいないか、ということです。あなたの女性としての恋愛感情以前の、人間性の問題です。  あなたの言うように、もともと「上司の彼」とつきあいはじめる前から「本命の彼」のことがずっと好きだったのなら、やはり「本命の彼」とつきあいはじめた時点で「上司の彼」とはきっぱり終わりにすべきだったのです。  あなたが「上司の彼」と別れられずにずるずるつきあい続けてしまったのは、「上司の彼」のことを別れ難いほど好きだったからではなく、「上司の彼」の甘やかな愛情を手放したくなかったからです。あなたが「ちょっと苦しい」という程度の感情で、平気な顔をしてふたりの間にいられるのは、すべてを知っている「上司の彼」の気持ちなどまったく考えていないからです。  いくら年上で包容力のある男性だからといって、あなたが何をしても傷つかない、スーパーマンではありません。彼だって恋に心を痛めるひとりの男性なのです。「上司の彼」が「本命の彼」のことを「お前ががんばるなら応援してやると言ってくれている」というのも、額面どおりに受け取るのはどうでしょうか? 「上司の彼」は、毎日でも会いたいと思うほどあなたのことを好きで、あなたのためなら何でもしてくれている。その想いが本物であるとしたら、あなたが自分の部下とつきあっていることで「上司の彼」が傷ついていないはずがないではありませんか!  でも自分はあなたと結婚して幸せにしてあげることはできないから、潔く身を引こう、としているのです。「上司の彼」はあなたと違って、自分の意志や感情よりも、あなたの想いや幸せを尊重しようとしているのです。  逆に、もし本当に少しも傷ついていないのだとしたら、「上司の彼」のあなたへの気持ちもそれほど真剣なものではないし、「私にはまってしまったみたい」というのもあなたの思い上がりでしょう。あなたとのつきあいはちょっとした気まぐれ。あなたと同じように、自分本位な感情しか持っていないのです。  どちらにしろ、今の状態にできるだけ早くピリオドを打つことです。あなたも自分のことを「ズルイ女」と認めているし、いつまでも甘えてばかりじゃいけないと思いはじめているのでしょう? それなら「そろそろ不倫は終わりに」などとのんびりしたことを言っていないで、今すぐ行動に移してください。  このままの状況を続けることは、「上司の彼」を深く傷つけるだけでなく、「本命の彼」を立ち直れないほど裏切り、あなたの恋も駄目にしてしまうことになるのですから。  あなたはそろそろ「自分がしてもらう」ばかりの恋を卒業して、「相手に何かしてあげる」恋をする時期に来ているのではないですか? 「上司の彼」とつきあうことで強くなったと思うのなら、その強さを今後の恋愛やあなたの人生に生かしてください。あなたは「上司の彼のために何かしてあげられたらよかった」けど、「そうもいかないだろう」とはじめからあきらめていますが、それがあなたの「上司の彼」にしてあげられる唯一のことだと思います。  この手紙を読んでとても嬉《うれ》しかったのはあなたが「愛人の掟《おきて》」に対して「不倫にかぎらず普通の恋愛でもそうすべきなんじゃないかな」という感想を持ってくれたこと。わたしも同じ思いだからです。これからあなたがどんな恋愛をしたときも、それを頭の片隅で覚えていてくれたら……きっと素敵な恋ができると思いますよ。 [#改ページ] Story 4  もう二度と不倫はしないと誓ったのに、パーティで再会して 「愛人の掟」を読んで、まるで自分のことを書かれているみたい、とドキッとしてしまいました。わたしは、20歳から4年間不倫をしていました。その人との別れを決めてから、ちゃんと別れるまでに8か月ぐらいかかりました。  彼は渋谷で飲食店をやっていたのですが、わたしは全然違う店で客同士として紹介されて会いました。わたしにとってははじめて本気で人を愛するというのはこういうことだったんだ、と思えるような素晴らしい恋でした。それまでは、男の人の職業とか学校とか肩書きとか、ファッションとか、お金持ちかどうかとか、そういうものを込みで好きになっているようなところがありました。  でも、彼の場合は、水商売だし、高卒だし、いつもジーンズだし、お金全然ないし、でも、こんなに優しい人がこの世にいたの? と思ってしまうぐらい優しい人でした。わたしは毎日お店に行き、彼が仕事終わるのを待って深夜のデート。デートといってもお金がないから、居酒屋で閉店まで飲んだりとか。それでも、世界中に自慢したいくらいの大好きな彼でした。  でも、わたしも若かったから、この本の中で�悪い例�として書いてあることもたくさんやってしまいました。奥さんも子供もいるのに自宅に電話をかけて、無理やり彼を呼び出したり、彼の仕事場に毎日のように会いに行ったり、まわりの人に「わたしの彼」ってべたべたしまくったり。つきあいの後半は平日、彼はお店に泊まると言ってわたしの部屋に泊まって、土日家に帰る、というようなかんじだったので合鍵《あいかぎ》も渡してしまったし、夫婦の真似《まね》ごとも、「お帰りなさい」とか「お揃《そろ》いのスリッパ」とか思いっきりやってたし……。  そういうことをするのが、かえって自分をつらくさせていたんだと、この本を読んではじめて気づきました。わたしは「不倫なんだから会える日は毎日会わなくちゃ」と思っていたけど、毎日会うことが余計会えない日をつらくするし、この恋全体をつらくしてしまうんですよね。  そのうち、奥さんにもわたしのことが知れて、彼はお店をやめさせられて、ほとんど会えなくなった時期があったりして、もうつらすぎて、わたしは鬱病《うつびよう》みたいになって、何か月も微熱が続きました。それで、もう限界だって思った。もう彼以上好きな人なんて絶対できないに決まってるけど、このままじゃ、私は駄目になる、と。  彼は、奥さんと別れるつもりはない、と言いました。わたしのことはもうとろけそうなくらい好きだけど、たとえどんな女性が出てきても一生離婚はしないって。わたしは「いつか結婚しよう」なんて言われてたら、5年でも10年でも待っちゃってたと思うから、その点では彼にすごく感謝してる。  それでもなかなか別れられなくて、顔を見てしまうと彼を好きだ、好きだ、って気持ちばっかりになっちゃって。それで、ひとり暮らししてると別れられないから、母親にも理由を話して、実家に戻ることに決めたんです。実家に戻っても、しばらく月に1回か2回、デートしていたんですけど、やっぱり長く続かなかった。会えない時間が増えていくうちに、やっぱり何となく距離ができてきて。やっぱり恋愛って会ってないと駄目なのかな。  そのあと、こんな苦しい思いをするなんて、もう二度と不倫はやめようと思った。そのあと、すっごい好きだなあっていう人が出てきても、奥さんがいるって聞いたらもう見ないようにしてた。それ2年ぐらい続いて、その間、独身の男の子と何人かつきあったんだけど、本当にロクなのがいなくて。だけど、妻子持ちということだけを抜かしたら、いい男がいくらでもいる。でも絶対くり返さないって心に決めてたから、必死で我慢して、近づかないようにしていたんです。  でも、3か月前、その妻子持ちのひとりと偶然再会したんです。一昨年《おととし》のクリスマスパーティで出会って、お互い一目ぼれっぽい雰囲気だったんだけど、わたしは絶対電話しないぞって決めていた人。でも1年ぶりに会って、彼から電話をもらって、はじめてデートしたらもう、ブレーキがきかなかった。1年我慢したぶん、加速度がついちゃって、もう駄目。せっかく2年も我慢したのに水の泡、という気持ちの反面、何だか久し振りの恋愛らしいときめきを感じられて、女として生きててよかった、と思う気持ちもあります。覚悟を決めて、もう一度だけがんばってみるしかないか、と。 「もう二度と彼以上の人は現れない」と思っていたけど、今の彼のことを今まで会った誰より愛していると心から思えます。一度目の不倫はとにかく無我夢中だったけど、今度は少しは学習してるかな……と思ったけど、つらさは同じ。  そんな時、この本を読んで、とても励まされました。一度通して全部を読み、自分に必要なところを何度も何度も読み返しています。今のところ、最初の誘いは彼からだし、電話は彼のほうからだけなので、これから掟を守っていけば、素晴らしい恋にできるかな、とちょっと安心したり、この本はわたしの強い味方です。あとがきにあったように、いつもベッドサイドに置いておこうと思っています。 [#地付き](神奈川県・26歳) [#改ページ]  不倫の恋を正しく判断して確実に成長しています  二十歳からの四年間。それはあなたにとって、なんて長く、重く、苦しい四年間だったことでしょう。  でも、ようやく終わりを告げた恋に、きちんと真正面から向き合い、いいところも悪いところもすべて認めた上で、「素晴らしい恋でした」と言い切れるあなたはとても素敵。拍手を送りたいくらいです。  あなたの貴重な四年間を費やした恋が、「わたしの四年間を返してよ」などという別れにならなかったのは、あなたが別れを最後まで、自分ひとりで頑張りとおしたからです。あなたは彼に決断をゆだねることもなく、何かを要求するわけでもなく、たったひとりで「限界」を見極め、愛する彼と別れようと決めた。  そして、なかなか別れられない原因を「顔を見てしまうと彼を好きだ、好きだ、って気持ちばっかりに」なってしまうのだと判断し、それには「ひとり暮らししてると」また会ってしまうから、実家に戻る、という実に適確な行動に移しています。もちろん、そう決めるまでには大変な苦悩があったと思うけれど、あなたの行動はいつも冷静です。  わたしは彼に対してもとても好感を持ちました。あなたが若さゆえのイレギュラーな行動に出てしまっても、あなたを責めたり、逆上したりせず、あたたかくあなたの涙を受け止めている。あなたが彼を好きだという想いを過剰なほどに表しても、あなたへの情熱を持ち続け、あなたの気持ちに応えている。  そして、いい加減な約束を一切していない。あなたを前にして、「奥さんと別れるつもりはない」「たとえどんな女性がでてきても一生離婚はしない」とはっきり言うことは、彼にとっても身を切られる思いだったと察します。  けれど、あなたもそれを憎しみなどではなく、そう言ってくれたことにきちんと感謝の気持ちを抱いている、というところから、ふたりの関係のレベルの高さがうかがえます。彼はあなたが「もう彼以上好きな人なんて絶対できない」と信じるにふさわしい男性だったのだと思うし、彼にとってもあなたは一生に一度のかけがえのない相手だったのでしょう。  それほどにまで愛する彼と別れたあと、「もう二度と不倫はやめよう」とあなたが誓いを立てたのも、別れの苦しさを二度と味わいたくないという気持ちもさることながら、「不倫の恋では彼が最高なのだから、もうする必要はない」と素直に思えたからでしょう。だからあなたは二年間もブレーキをかけていられたのです。  問題は、その間につきあった独身男性に「本当にロクなのがいなかった」という部分です。これは、あなたがたまたま、まわりに魅力的な男性がいない環境にいたというわけではありません。あなたが妻子持ちの男性しか好きになれない体質になってしまったというわけでもありません。  あなたはまだ、彼との恋の後遺症をひきずっていたのです。そこから早く脱することばかり考えて、目の前の男性と純粋な気持ちで向き合うまでには回復していなかった、ということなのです。  あなたは目の前に現れる男性たちを、「妻子持ち」か「独身者」かという分類でしか見ていなかったのです。もちろん、あなたの一度目の不倫の苦しさを思えば、そうなってしまうのも無理はなかったのでしょう。  でも、ひとりの男性を分類でしか見ることができなければ、その人の人間性や性格や、あなたを大切にしてくれる人であるかどうかなど、恋に最も大切な部分は二の次ということになります。それではまるで目隠しをして恋の相手を選んでいるようなもの。  こうした曇った目で選んだ男性が、あなたにとってロクでもなかったのは当然の結果なのです。あなたは恋に対する直感やフィーリングをすべて奪われていたのですから!  あなたがそんな男性たちの中から結婚相手を選んでしまわなくて本当によかったと胸をなで下ろします。不倫の恋のあとに、次々と独身男性とつきあってうまくいかず、でも結婚という形だけに惹《ひ》かれて将来の伴侶《はんりよ》を早々に決めてしまうこともあるのです。そんなことをしていたら、曇った目が元のように澄みわたる日が来た時、横にいるのは魅力のかけらもない、ただの既婚者になった男性、ということになってしまいます。  あなたは彼と過ごした最上の幸福感をもう一度味わいたいとずっと思っていた。そこへ、現在の彼との出会いが訪れたのです。その人が最初に現れた瞬間、あなたの中ではすでに、彼となら再び素晴らしい恋ができると確信したに違いありません。あなたはどんなに恋に落ちたかったことでしょう!  でも悲しいかな彼もまた、妻子持ちだったために踏みとどまった。その後一年間もずっとブレーキをかけ続けた。あなたは本当に意志の強い女性です。そしてそれだけ、最初の不倫で学んだことをあなたの中で大切にしていきたいという気持ちが強かったのです。  でも、その強固なブレーキをも取り外させたのは、偶然の再会です。この再会がなければ、あなたが現在の彼とつきあうことはなかったでしょう。軽々しく使う言葉ではありませんが、これは偶然でなく、運命、と言ってもいいかもしれません。  あなたは今、再び不倫の恋の道に足を踏み入れています。前の恋と同じくらい、いえ、前の恋よりつらいことがたくさんあるかもしれません。そして、現在の彼との間にハッピーエンドが訪れる可能性も、前の恋と同じくらい少ないでしょう。  けれど、わたしは「二年間も我慢したのに水の泡」とは思いません。あなたは単に同じ過ちをくり返しているわけではありません。あなたは一度目の不倫の恋とはまったく違った、貴重な何かをこの恋に見つけ出すでしょう。そしてまた涙の中からひとりで立ち上がり、少しずつ確かになった自分の道を歩いていくのです。  あなたはひとつ恋をする度に確実に成長していく女性に違いないからです。わたしの本が、そんなあなたの涙を少しでも減らすことができたら、こんな嬉《うれ》しいことはありません。 [#改ページ] Story 5  三年越しの不倫で�ちゃんと愛人�することを決意  私は3年前から不倫を続けている24歳の女の子です。正直言ってこんなに続くとは思っていませんでした。最初は辛《つら》くて体を壊しました。だけど気持ちは変えることができず�開き直る�ことにしていました。何事も深く考えない、泥沼にハマらない、お互いのどちらかにでも別れなければならない事情ができたら別れよう。そして、どうせ明るい未来のない関係なのだから、私は私で別の幸せを見つけよう……。とライトな感覚と打算を失わないようにしていました。  しかし、3年が経ち、私は結局彼から離れられなくなっている自分に気付きました。この3年間で私達は2度別れましたが、それでも復活してしまいました。そして私はそういう自分をちゃんと認めていかなくてはと思いました。まず、これまでのズルイ打算や開き直りを捨てるよう努力することから始めました。「愛人の掟《おきて》」にあるように�どうせ愛人�でなく�ちゃんと愛人�をするように。彼が秘密主義で、家庭を含むプライベートなことをいっさい話したがらない人なので、私も対等にプライベートを頑《かたく》なに隠してヘンに張り合っていたのです。でもそんなしょうもない意地は捨て、普通に話すようにしました。さっさと家に帰ろうとする彼を目の前にして、シラケるのもやめて、笑顔で「じゃあ、またね」と送り出せるようになりました。すると彼は以前と比べてびっくりするほど優しくなり、積極的に愛情を表現してくれるようになったのです。  そういう、彼の変化を手放しで喜ぶ私を、親友は不安そうに見ています。それは言うまでもなく、未来のない恋だから、喜びが大きいほど、後の悲しみも大きいからです。確かにそれはわかります。でも、私は自分に素直にならなければ、と思ったのです。愛人だからってイジケる必要なんてないんですね。奥さんがいるから私は2号、なんて思わない。なにも奥さんと張り合おうなんて思わない。彼にとって奥さんと私は別のものであるはず。だって奥さんと愛人がまったく一緒だったら彼に愛人なんて必要ないじゃないですか。  この本を読んで改めてそう思いました。だから私は奥さんをほとんど意識していません。�無視�なんていうわけじゃないんです。奥さんよりできる女になりたい、というライバル意識は持たないようにしています。ただ、常にキレイでいなければ、という気持ちは強くなりました。奥さんは家でラフなスタイルでいるわけだから、私はオシャレにもっと気を遣おうと。彼は私に�2人目の奥さん�を望んでいるのではないんですよね。私とつきあうことで、彼が生活にハリを持てたらうれしい。だったら家庭臭さや日常臭さはタブー。  いくら今不倫がブームとはいえ、世の中には�不倫�の言葉にしかめ面をする人はまだまだいます。でも私は私。彼は結婚している人だけど、私にとっては�好きな人�ただそれだけ。結婚してる人なんか好きにならないわ、という人は恋愛をそうやってコントロールできる、自分にとって不都合な恋愛はしないようにできている人なんでしょうね。  この本は私の強い味方です。私はすごく元気になれたし、この本のおかげでどんどんプラス思考になってポジティブな自分が好きになれたと思います。ちなみに私の彼は31歳で家柄のせいもあって彼は親の決めた女性と結婚しました。私とつきあい始めたのは彼の結婚式の3か月前。彼の奥さんは専業主婦で子供もいて、おまけに彼の両親と同居。(不倫難度Eというパターンです)とはいっても彼に離婚を望んでいるわけじゃないからべつにかまわないけど……。  これからもこの本を参考にして、がんばりたいと思います。 「愛人の掟」をどうもありがとうございました。 [#地付き](大阪府・24歳) [#改ページ]  今が決断のとき、もっと幸せな恋にパワーを向けて 「彼は結婚している人だけど、私にとっては�好きな人�ただそれだけ」というあなたの言葉に心を打たれました。本当にそのとおりですね。不倫の恋の原点はまさにここにあると思います。  あなたはまだ二十四歳なのに、もう三年もつらい恋に心を痛めている。その中で、必死に自分を立て直そうとがんばっている。あなたが笑顔で彼を送り出せるようになるまでには、たくさんの涙と大変な努力があったと思います。そんなあなたを、彼は決して手放したくないと思うに違いありません。  ただ、気になるのは、「私とつきあい始めたのは彼の結婚式の三か月前」というところです。あなたは、婚約者があるとはいえ、独身者の彼と知り合い、つきあいはじめたということですよね。  彼は結婚を決めた女性がありながら新たなつきあいをはじめ、あなたという女性がありながら、別の女性と結婚した。これは、あなたが知り合った時点ですでに彼が結婚していた通常の不倫の恋とはまったく意味が違います。  わたしは、彼が彼女と結婚したのは「家柄のせい」でも「親が決めた女性」だからでもないと思います。おそらく彼があなたにそう説明したのだと思いますが、それはあなたを繋《つな》ぎ止めるための彼のずるさです。  彼は最初から、彼女のことは結婚相手として考え、あなたに対してはそうでなかったのです。あなたのことを本当に真剣に考えているなら、結婚までにまだ三か月も猶予があったのですから、どんなことをしてでも白紙に戻すことは可能だったはず。  彼の結婚式の当日、あなたがどんな気持ちで過ごしていたかを思うと、胸が詰まります。二十歳を過ぎたばかりのあなたにとって、どんなに苦しかったことでしょう。つらくて体を壊してしまうのは当たり前です。  たとえどんな事情があろうと、あなたにそんな思いをさせた彼は、男性として決定的な間違いを犯しています。そもそも、結婚を目前とした状態でほかの女性と深い関係を持ち、結婚後も何年間も継続するなどということは、婚約者に対してもあなたに対してもあまりに誠意がなさすぎます。彼はどちらのことも根本から裏切っているのです。  男性が結婚前に陥る「男としてこのままで終わりたくない」というような気持ちが、あなたとの恋愛に走らせたのではないでしょうか。ふたりの恋がどんなふうにはじまったのかわかりませんが、彼にとってあなたは最初から二番目の存在だったのです。きついことを言うようですが、この先もそれは変わることはないでしょう。わたしは今、会ったこともない「彼」に対して、腹立たしい気持ちでいっぱいです。 「私とつきあうことで彼が生活にハリが持てたらうれしい」などというあなたの健気《けなげ》な心を、彼は理解しているでしょうか? あなたが彼のために美しくありたいと思い、必死で寂しさやつらさに耐えていることをわかっているのでしょうか? わたしには、彼という男性が、あなたの純粋で真剣な気持ちにふさわしい相手とはどうしても思えません。  もちろん、あなたがこれだけ想いを寄せている彼なのですから、男性としてきっととても魅力のある人なのだと思います。けれど、ほかの女性との結婚と前後してあなたとつきあい続けているという事実は、彼の人間性を疑うに充分なものがあります。  恋愛の基盤となっているものは信頼です。ひとりの男性を、人間として心から信頼でき、尊敬できるかどうかが恋愛の第一歩なのです。けれど、不倫の恋の場合、男性を人間としてとらえる機会と時間がとても少ないのです。  公の部分で一緒にいられないぶん、彼の男性としての魅力だけが際立ってしまうという傾向があります。人間同士の関係性よりも、恋愛感情だけが燃え上がってしまうのです。ごく普通の恋愛にくらべて、セックスが大きな役割を占めるのもこのためです。  男性として彼に惹《ひ》かれているというあなたの気持ちはとても大切なものです。でももう一度、彼のことをしっかりとよく見て。彼を男性としてではなく、ひとりの人間として見つめ直してみてください。  きっと、あなたの中に、新たな視点が生まれるはずです。あなたは彼をもっと冷静に見られるようになるでしょう。その上で、彼が本当にあなたの貴重な時間を費やすに値する人間であるのかどうか、考えてみてください。  あなたの友達があなたの恋を不安そうに見ているのは、あなたの恋が不倫の恋だからというだけではないでしょう。彼女たちも、きっとわたしと同じ気持ちなのです。あなたも、自分の親友が、彼女とつきあいながらほかの女性と結婚したような男性と何年も続いていたら、そんな男は早くやめなさいと真っ先に言っているのではないですか?  この恋の中で、ただひとつの救いは、あなたが「彼を好きなあなた」を好きになれたということ。恋愛をしていく中で、その恋をしている自分を好きになれるかどうかは、とても大きな意味を持っています。  ここまでネガティブな条件のそろった状態で、あなたがこんなプラス思考になれたということは、あなたにとってこの恋が決して無駄ではなかったということ。この恋はあなたを大人にし、大きく成長させてくれた。あとはこの恋からいつ卒業するか、ということだけ。それを決めるのは、彼ではなく、あなた自身です。 「私は私で別の幸せを見つけよう」と「ライトな感覚」でいたあなたに戻ってください。これは打算でも開き直りでもなく、今のあなたに必要な感情なのですから。  二度も彼と別れようとしたあなたの勇気を、もう一度ふるい起こしてください。あなたの判断は正しかったのです! 今度こそ、最後までやり遂げてください。当然彼はまたあなたを何とかして繋ぎ止めようとしますが、もう戻ってはいけません。 「彼に離婚を望んでいるわけじゃないから」なんて言い訳で自分を納得させようとしては駄目。もし彼が知り合った時、決まっていた結婚をとりやめてあなたとつきあおうとしたのなら、あなたは彼との結婚を考えたはずです。でも、彼はそうしなかったのです。  あなたは今決断の時に来ています。これ以上彼とのつきあいを続けても、あなたのつらさが増すだけ。まず、彼と会う時間をなるべく減らすように努力すること。あなたは新しい何かをはじめて忙しくしてください。彼と会わない時間を増やせば、あなたの恋の熱を冷まし、それだけ冷静な目を持つことができます。  あなたの素直さと恋に対するパワーを、もっと幸せな恋に向けてほしい。あなたが次のステップに進むためには、彼はもういらない人なのですから。 [#改ページ] Story 6  わかってもらえなくてもいい、愛し合っていれば 「愛人の掟《おきて》」を読んで大変感謝したことと、これほどまでに共感を得た考えの人がいたことに驚きました。というのは、私自身今その立場にいる人間で、以前、この恋愛のことを友人に話したとき、言われたひと言は�人の物である��相手の家族のことを考えたら、奥さんの立場になったらできるのか?�ということでした。そのときの私の気持ちは�そんなこと言われなくっても覚悟の上のこと。それでも好きなのだから仕方がない。世間の全部にわかってもらわなくてもいい�という思いでした。相手に対しても、�私から言いだしたことなのだから、無理なことは言わない、望まない、まわりの人にどんなことを言われてもつらくない。本人同士が愛し合っているのなら�と思い�つらいことやさみしいことがあるけど、自分でそう覚悟したのだから�と自分に言い聞かせてきました。  しかし、ある日彼から「ふたりのことで脅迫文が届いた、少し会うのをやめよう」というTELがありました。さらにショックなことに、彼が以前つきあっていた子のことも含めて脅されているということでした。そのとき、もうやめてしまおうと思ったのですが、思いが断ち切れず、脅迫文もその後なく、また以前のようにつきあっています(前の彼女のことはすべて話してくれましたし、今は私だけで、これが最後の恋愛と誓ってくれたので)。いちばんうれしかったのは、梅田さんが、この恋愛を�純愛�と言ってくれたこと。�わかってくれる人が世の中にいたのだ�とすごくうれしく、また心強く感じ、思わずペンをとりました。おかげで気持ちがラクになり、つらいという思いが断ち切れそうです。 [#地付き](千葉県・27歳) [#改ページ]  彼の言葉を信じるだけでなく、人間性を見つめ直して  あなたは不倫の恋を一生懸命前向きにとらえて、いい恋にしていこうと努力しています。そしてあなたは相当な覚悟を持ってこの恋に臨んでいます。  これは誰にでもそう簡単にできることではありません。あなたはとても頭のいい、理性的な女性なのだと思います。  ただ、「わたしから言い出したことなのだから無理なことは言わない」というのは、あなたのほうからこの恋をはじめたということなのでしょうか? だとすれば、少し気をつけなくてはならないことがあります。  わたしもあなたもそう思っているように、「不倫の恋は純愛」と言えるのは、相手の気持ちがあなたと同じくらい真剣である場合だけです。そこまでの気持ちがないのに不倫の恋をする男性はたくさんいます。そういうケースでは、女性が一方的に苦しみ、傷つき、不幸になっていく可能性が高くなります。  だからこそ、不倫の恋は女性のほうからはじめてはいけないのです。「愛人の掟」の第2条にあるように、女性のほうから積極的にアプローチしてしまえば、彼はまんざらでもない程度の気持ちでつきあいはじめてしまいます。つきあってみればもちろん楽しいし、刺激になるし、家庭以外の場所で男として認めてもらえる場所があることが、男性にとってはかけがえのないものだからです。  あなたのケースがそのどちらなのかは、この文面だけでははっきりと判断することはできません。でも、あなたの前にもつきあっていた女性がいたこと、あなたのことも含めて脅迫文が届くような事態になっていることを考えると、少し不安になります。あなたもその時、不安を感じたから、この恋をもうやめてしまおうと思ったのでしょう?  彼にはもともと浮気癖があり、前の彼女もあなたもその中のひとりなのかもしれません。あなたに話してくれた彼女の前にも、何人かの愛人がいたかもしれません。そしてまたしばらくすれば、あなたのあとにも同じようにほかの愛人をつくってしまうかもしれません。  でもそれは仕方がないことなのです。もしあなたのほうから彼を好きになり、アプローチしてはじめた不倫の恋だとすれば、彼の想いがあなたほど真剣とはかぎらないからです。それはあなたの責任ではありません。悲しいかな、あなたがこの恋をはじめたときには「愛人の掟」を知らなかったのですから!  でも、今からでも遅くないのです。これからのあなたがきちんと掟を守っていけば、彼の愛が本物かどうか、きちんと見分けることができます。あなたのほうから電話をするのを控え、彼が毎日会いたいと言ってきても応じず、彼以外の男性にも目を向ける努力をし、きちんと自分ひとりの時間を持つようにしていれば、その答えは彼の行動に表れます。  あなたのほうから一定の距離を保って、彼がそれを尊重しないようなら、彼はあなたにふさわしい男性ではないのです。いつまでも自分本位に自分の会いたいときに思いどおりになる女性を求めているだけなのです。 「今はわたしだけで、これが最後の恋愛と誓ってくれた」彼を、あなたが信じようとするのは間違いではないと思います。相手の愛情や誠意を信じることは、恋愛の土台となるものですから。けれど、彼の言葉だけを信じ続けるのは賢い方法ではありません。  彼の言葉よりもまず、行動を見てください。口ではどんな言い訳ができても、男性の行動は本心に忠実です。彼の言葉にばかりこだわっていると、彼の行動にすべて目を伏せ、彼という人間を見失うことになるのです。  でも、彼はあなたとの関係を「最後の恋愛」と言っただけで、将来の約束をしたわけではありません。そういう意味では、軽々しく見込みのない結婚の約束をする男性より誠実だと言えます。今後、愛の言葉の代用品として、そのような言葉を言ってきたら、彼はほかの女性にも同じようなことを言ってきたのでしょう。あなたの観察力と洞察力を総動員させて、彼の今後の言動を見守ってください。  また、あなたがこの恋について友人に話したとき、彼女が言ったことは、世の中で常識があるとされている人たちが口を揃《そろ》えて言うことばかりです。  もちろん、「世間のみんなにわかってもらわなくてもいい」という考えはまったく正しいのですが、親しい友人と不倫の恋を打ち明けたことをきっかけに気まずくなる、という状況はできるなら避けてほしいと思います。友人はあなたの、大切な宝物なのですから。  今後、友達から彼との恋愛について聞かれても、詳細を語る必要はありません。「彼はわたしのことを大切にしてくれている」とか「わたしは彼を信じてるし、愛してるの」とか「結婚できなくてもいいの」などと言ってはいけません。  不倫の恋の素晴らしさもせつなさも、経験したことのない女性には決してわからないものです。話せば話すほど、あなたはわかりきった忠告をたくさん聞かなくてはならなくなります。不倫は悪だと思っている友人からは、それだけで敬遠されてしまうかもしれないし、あなたも理解してくれない友達と打ち解けることができなくなるでしょう。  本当にあなたの気持ちをわかってくれる親友以外には、恋人がいるということは話しても、彼が結婚していることは話さないほうがいいでしょう。話さないだけなら、嘘《うそ》をついたことにはならないでしょう? 正直に何もかも話すことばかりが友情ではありません。話さないほうが気持ちよく友達とつきあえるなら、そのほうがずっといいのです。  あなたが今、彼との結婚を夢見ているかどうかはわかりませんが、二十七歳のあなたは年齢的にそろそろ結婚したくてたまらない時期に入っていくのではないでしょうか。そうなったとき、あなたの恋のつらさはさらに増していきます。  それまでに、決して結婚できなくても彼と一緒にいたいのかどうか、あなたの中ではっきりとした決断がつけられれば、この恋は素晴らしいものになると思います。 [#改ページ] Story 7  友だちの夫と深い関係に、でも別れたくない  私は26歳のOLです。とりあえず、今、5年間つきあってる3つ年上の独身の彼がいます。ただし、彼が大阪に転勤になったので、今は遠距離恋愛中。もうひとりの彼は私の同僚のご主人なのです。その彼とは知り合って1年半。最初は彼女に紹介されて3人で飲みに行ったりしていたのです。ところが、今年の4月、その日もいつものように3人で食事をして、もう一軒飲みに行こうということになったのです。でも、彼女がめずらしく、気分が悪いと言って先にひとりで帰ってしまい、私と彼はふたりで飲むことに。店では私の大阪にいる彼との恋愛の悩みを相談したり、いつもと変わらない雰囲気だったのですが、店を出て彼がタクシーで送ってくれたところから様子が変わってきたのです。このとき、彼も私もかなり酔っていたのですが、タクシーが私の家の前に着いたとき、彼もいっしょに車を降りたんです。私も酔った勢いで、彼を部屋に入れてしまいました。しばらく普通に話をした後、「もう帰らないと彼女が怪しむから」と私が言っても彼は「もう先に寝ているよ」と帰ろうとしません。そして、急に私のことを好きだ! と言ってキスしてきたのです。はじめはびっくりして「やめてよ」と言って拒んだのですが、彼に少なからず好意を持っていたので、されるがままに……。そしてそのまま彼に抱かれてしまいました。彼はその日朝方になって彼女の所に帰って行きましたが、彼女にかなり怒られたそうです。でも、彼女はまさか私とそんなことがあったとは夢にも思っていなかったようで、とりあえず安心。私もこのときは、彼とのことは一晩限りの間違いだったってことにしようと思っていたのですが、彼からTELがあって「今度はふたりだけで会いたい」って言われて、ついふらふらと出かけてしまったのです。それから、ふたりで食事をしたり、ドライブに出かけたり、彼が私の部屋に来たりという関係になりました。もちろん、彼女と3人で、今までどおり、�友だち�として遊びに行ったりもしています。私としては、大阪にいる彼に悪いなと、思いつつも、日を追うごとに、彼に対する愛情が強くなってきている自分を抑えることができない状態です。私は彼女と友だちだから、友だちを裏切っているという後ろめたい気持ちがある反面、仲良さそうにしているふたりを目の前にすると、彼は彼女に対しても、「愛してる」って言ってるんだろうか? 週に何回か彼女を抱いているんだろうかなどと余計なことを考えて、嫉妬《しつと》してしまうんです。まだ彼との関係ができて約3か月。いけないことと思いつつも、今、彼と別れたくないのです。  最近、彼女に「なんかキレイになったね、新しいボーイフレンドでもできたの?」と聞かれ、ドキッとしましたが「うん」と答えてしまった私。まさか、彼だとは言えなかったけど……。彼女にヒドいことをしていると思いつつも、ふたりの関係がずっと続くことを望んでいる私です。 [#地付き](東京都・26歳) [#改ページ]  あなたと彼の関係は不倫の恋とも呼べないお粗末なもの  あなたは自分の意志とは関係ないところで、台風に巻き込まれてしまったようなもの。あなたの恋の話にわたしはそんな印象を持ちました。  あなたはもともと何も行動を起こしてはいないし、同僚の彼女を裏切ろうとしたわけでもないし、彼のことが積極的に好きだったわけでもありません。この不倫の恋の嵐《あらし》を巻き起こしたのは、あなたでなく彼です。  今あなたは彼に当時「少なからず好意を持っていた」と言っていますが、それは同僚のご主人、という域を超えない程度の好意だったはずです。だからこそ「彼とのことは一晩限りの間違いだった」ということにしようと思ったのです。  あなたが少々軽はずみなことをしたのは確かです。でもそのときあなたはお酒が入っていたのだし、彼の押しつけてきた流れに逆らえなかったのはある程度仕方がないかな、というところもあります。  それに対して、彼の行なったことはすべて卑劣そのもの。彼のほうも、あなたのことがかねてからずっと好きだったというわけではないのです。三人の飲み会の途中でたまたまあなたとふたりきりになったから、というその場の思いつきに過ぎないのです。それも、奥さんの友達との、奥さんのいない隙《すき》のラブ・アフェア、という設定に酔いしれているといういたって低レベルの思いつきです。  そのあとあなたと「ふたりだけで会いたい」と言ってきたのも、一晩を共に過ごしたことであなたへの愛情が一気に高まってしまった、などという理由ではありません。彼はそのスリリングなゲームを気に入って、しばらく楽しんでみようかという気になっただけなのです。  あなたもあなたで、彼の仕組んだゲームにうまくのせられてしまいました。あなたが再三、「彼女が怪しむから」「友だちを裏切っているという後ろめたい気持ちがある」「彼女にひどいことをしている」と言いながら、大して好きでもない彼に会い続けているのはなぜでしょう? それは、あなたが罪悪感を持っているふりをして、実は彼女に対してある種の優越感を持っているからです。  彼女の知らないところで彼女の夫があなたを抱いている。それはあなたが彼女よりも女として魅力があるのだという優越感につながります。とても仲のよい女友達の恋人と彼女に内緒でつきあいはじめてしまうパターンが多いのはそのためです。  あなたが「嫉妬」だと思っている感情も、彼が彼女のこともあなたと同じだけ抱いていたらくやしい、ただそれだけのこと。あなたが女として彼女に勝っていると思える拠《よ》り所がそこしかないからです。そんなものは嫉妬でも何でもありません。嫉妬という感情は、深い愛情があってこそ生まれてくるものです。けれどあなたは彼に対して本物の愛情などこれっぽっちも持っていないではありませんか。  今あなたは「日を追うごとに彼に対する愛情が強くなってきている」と錯覚していますが、それはただの幻想です。あなたは本物の彼とは遠距離恋愛なので、たまたま近くにいて頻繁に会っている彼がよく見えてきただけのこと。そして、あなたの中でもこのゲームが面白くなってきたからです。  あなたたちがいまだに三人でよく出かけているのは、彼女に怪しまれないためではなく、刺激を与えてほしいからです。あなたと彼は本当に愛し合っているわけではないから、ふたりきりではそんなに間が持たない。誰かに見ていてもらわないとやる気が起こらないのです。だって、ふたりが本当に惹《ひ》かれ合ってしまったというのなら、今までどおり三人で会えるはずがないでしょう?  あなたが同僚の彼女とどのくらい親しいのかわかりませんが、彼女を失ってでも彼を手に入れたいと思うには、とても強いどうしようもないほどの愛情が必要です。そんな愛情があなたにないことは明らかですが、今は様々な条件が重なってそんな気がしているかもしれません。それならば今度は、友達の夫を奪うという設定のゲームを楽しんでみたくならないとも限りません。そんなことをしようとすれば、彼は大慌てで逃げていくでしょうけれど。  あなたの彼とのつきあいは、不倫の恋とも呼べないお粗末なものです。不倫の恋は、まずふたりの真剣な想いがなければ何もはじまらない、純粋な恋なのですから。こんな状態を不倫の恋だと思ったら大間違いです。不倫の恋はそんなゲーム感覚で参加できるような生やさしいものではありません。  こんな馬鹿馬鹿しい茶番に酔いしれるのはやめて、あなたの本物の彼を大切にしてください。今の状態を続けていれば、いずれ彼女にばれることになり、本当に大切な彼まで失うことになりますよ。そのときいちばん損をするのはあなたなのですから。 [#改ページ] Story 8  �愛人�ではないけれど、彼には同棲《どうせい》している女が  私は二十一歳、医療秘書をしているごく普通のOLです。三か月前に、三歳上の妻子ある男性とのおつきあいをはじめるべきか、やめておくべきかで悩み抜いた時期がありました。でも結局私たちは、友人としてつきあっていこうという決断をしたのです。つらくて悲しい思い出です。  けれども、今、私には新しい彼がいます。前の恋を予想外に早く忘れることができたのも、彼がいてくれたからだと思います。なのに私は彼の愛情を独占できているわけではありません。実は、彼には同棲している彼女がいて、私は「愛人」みたいな存在だからです。本物の愛人というわけではないけれど、梅田みか先生の「愛人の掟」を読ませていただいて、自分にも当てはまることが多いことにハッとしました。彼への電話は控えること——。本当にそうですよね。仕事中に電話をして、そっけなく「あとで電話するから」なんて言われると、「あとでって、いつ? いつなの?」ってイライラするし、電話がかかってくるまでの時間は淋《さみ》しくて淋しくて落ち込んでしまうし。彼の前では泣いたりせずに、別れるときも笑顔で「送ってくれてありがとう。気をつけてね」って素直にかわいく言えたらどんなにいいだろうと、心から思いました。反省しなければいけないことばかりです。  もともと私は淋しがり屋で、思ってもない余計なひとことを彼にぶつけてしまって後悔することが多いのです。常に誰かを好きでいたいと思っているのも、淋しがり屋だからだと思います。甘えたりもするし。でも、彼に会えたときには最高にいい女でありたいな。私の場合はちょっと違うのかもしれないけど、�愛人�としてつきあっていくことだって、考え方ひとつですごく素敵な恋愛になるんだということが、よくわかりました。やっぱり今の彼に出会えて本当によかった。今の私があるのは、彼がいてくれるからです。永遠に続く恋なんて、ないのかもしれない。それでも今は、自分の中で一番大きな彼を好きだという気持ちを大切にして、そして彼にも私を大切だと思っていてもらうためにも、頑張りたいと思う。少し前まではひとりになると「なんで出会っちゃったんだろう」とくよくよ考えて落ち込んでばかりでしたが、今は神様がくれた偶然だと笑って言えます。この恋が終わったあとも、しあわせな恋だったと言えるように、常にキレイで笑顔のいい女を目指さなくっちゃ、と思っています。 [#地付き](兵庫県・21歳) [#改ページ]  同棲と結婚には天と地ほどの違いがあります  あなたは素直で常識もあって、とてもものわかりのよい女性。きっと優しくて、男性ならきっとお嫁さんにしたいと思うタイプでしょう。  あなたが不倫の恋の一歩手前で踏みとどまったのも、本能的に「自分には合わない」と直感した部分があったのではないでしょうか。彼も、あなたと同じように感じたからこそ、友人としてつきあっていこうという結論を出したのだと思います。  そして、次にあなたがはじめた恋が「彼には同棲している彼女がいる」というところまできて、わたしは何だかもったいないなあ、という気がしたのです。あなたにはごく普通の幸せな恋をして結婚してほしいな、というような印象を持ったからです。  あなたの文面からは、その「同棲」というのがどの程度のものか詳しくはわかりません。でも、あなたの二十一歳という年齢から察すると、彼のほうもそんなに本格的な内縁関係というわけではなさそうですね。  あなたは彼が同棲していることで、「私は愛人みたいな存在」と決めてかかっていますが、「同棲」と「結婚」では天と地ほどの違いがあります。だって彼はまだ正真正銘の独身なのですから! 「結婚なんて紙切れ一枚のこと」とまるでそれが些細《ささい》なことかのように言う人がいますが、その紙切れ一枚のことでどんなにたくさんの女性が苦しんでいることでしょう。紙切れ一枚はわたしたち女性にとって、何より重大な意味を持っているのです。  籍が入っているかいないかは天と地ほどの違いでも、彼が彼女と同棲しているかしていないかはそんなに大した違いはないのです。むしろあなたのつきあっている彼が、「彼女がいる状態でもほかの女の子とつきあいはじめる」男性であること、そして「彼女とは簡単に同棲をはじめる」男性であること、のほうが大きな問題です。  あなたが、今彼が同棲している彼女の場所と入れ替わることはそんなに難しいことではありません。彼と彼女のつきあいの深さや年月にもよりますが、彼が結婚していることに比べたら、あなたは百倍も千倍も希望を持っていいのです。  けれど、彼はあなたとも簡単に同棲をはじめるのと同様に、また今のあなたのような別の彼女を必ずつくります。それはまず間違いないと思います。この手の男性の癖というのは一生直るものではありませんから、独身男性が今の恋人にしていることは、そのままあなたにもすることだと思ってください。  あなたは今の彼女のように、彼と同棲して外にもうひとり彼女をつくってもらいたいですか? もしそうでないのなら、彼とのつきあいはほどほどにしておいたほうがいいかもしれません。あなたが今の彼女の立場に立って、彼の浮気癖に悩まされることが目に見えているのに、あなたの恋を心から応援することはできません。  また、すぐに同棲をしたがる男性の大きな動機は、彼女を愛していて片時も離れたくないからではなく、楽だから、なのです。身のまわりの世話をしてもらえて、家に帰れば自由にセックスができ、その上結婚にまつわる様々な責任もない。男性にとってこんな都合のいい状況はほかにないのです。同棲を、結婚までの一段階と考えるのは女性側の大きな誤算です。誰がこんな居心地のいい状態を捨てて、がんじがらめの結婚生活に入りたいと願うでしょう?  あなたがこうした危惧《きぐ》をすべてふまえた上で、それでも彼のいちばんの存在になりたい、と願うのなら、今から「愛人の掟《おきて》」をしっかり守って、彼の心をがっちりつかむことです。彼と彼女の間には、遅かれ早かれ必ず危機が訪れます。たとえ今日、どんなにうまくいっているふたりでも、明日にはどうなるかわからない。あなたがふたりの間に入り込むチャンスはいくらでもあるのです。彼らが籍を入れる前であるならば! 「この恋が終わったあとも幸せな恋だったと言えるように」なんて、少しものわかりがよすぎませんか? もう一度言います。彼はまだ、正真正銘の独身なのです! [#改ページ] Story 9  前向きに恋を受けとめることで満足感が生まれた  私は二十一歳、現在二十八歳の人と不倫中です。妻子持ちと知ってて好きになったことを悔やんだことも、永遠にはずすことのない指輪を見て涙したことも、幸せな普通の恋愛がしたいと叫んだこともありました。だけど、今はこの出会いに、恋愛に、そしてなによりも彼に感謝しています。  苦しみのあまり涙がピークだったころ、彼と旅行に出かけました。寂しい思いをさせているから、と彼からのプレゼントでしたが、余裕がなく苦しみ、悲しみ、寂しさ、涙から逃げたかった私は、この旅行を最後に別れを考えていました。最後だから、奥さん、子供、彼をとりまくすべてのことを、私の中でしっかり受けとめ、思いきり楽しもうと、前向きのような、後ろ向きのような……そんな気持ちでした。約束もできない将来、孤独に押しつぶされる毎日、それなのに彼の生活は私と知り合う前も今も変わらない。  そんな涙なしでは語れない恋が、この旅行でずいぶん楽になりました。彼をしっかり受け止められたことや、その瞬間を精一杯楽しめたことで、充実感、満足感で胸がいっぱいになりました。私は流した涙の分輝けて、この恋を自慢できて、そしてなによりも、私自身をほめてあげられる気がしたのです。不安に涙した私の恋愛観が大きく変わってから元気になり、楽しい時間がすごせるようになりました。  そんな時、梅田さんの「愛人の掟」を読んでさらに元気になりました。今ここがつらいけど、なんだ、こうすると喜べるじゃない! もっと早くこの本に出会っていたら涙の量もずいぶん減ってただろうなって思いました。だって、こんなにもつらい恋なのに、よかった、幸せって思うのって大変だし、時間も体力もたくさんいる。そんな時、この本があったら、涙も減るし、気持ちもラクになる。  私この恋愛、精いっぱい頑張ります。一生懸命輝く努力をして、笑顔を増やしていきます。梅田さんこんなにも素晴らしい本をプレゼントしてくれてありがとうございます。すごくうれしい想いでいっぱいです。 [#地付き](東京都・21歳) [#改ページ]  今のまま、前向きな姿勢と冷静さを失わないで  あなたはまだ二十一歳で、本当ならまだわがままばかり言っていたい年頃の女の子。それなのに、涙と孤独でいっぱいのこの恋は、あなたにはちょっと荷が重いような気もします。  でも、あなたがこの恋と出会ったことは、決して偶然ではありません。あなたも言っているように、あなたがこれからより一層輝いていくためには、今、この涙と苦しさが必要だったのだと思います。この恋に出会い、つらいけれど心から素晴らしい恋だと思えるときが、あなたの不倫適齢期なのですから。 「こんなにもつらい恋なのに、よかった、幸せって思うのって大変だし、時間も体力もたくさんいる」。あなたの言うとおりです。だからこそ、不倫には適齢期が大切なのです。  不倫の恋を経験するのが早過ぎれば、この恋の素晴らしさにたどり着かないまま、表面的に不倫の関係をとらえるだけで終わってしまいます。まだ本当の恋を知る前から、恋愛観に大きな影響を与えてしまうことになります。逆に遅過ぎても、心身共に疲れ果て、ぼろぼろになってしまう可能性が高い。  もちろん個人差はありますが、わたしはこの不倫適齢期を大体、十代後半から二十五歳ぐらいまで、と思っています。その理由はまず、この恋とじっくり向かい合えるだけの時間のゆとりがあること。これは仕事の多忙さなどの物理的な時間と、結婚や出産までのタイム・リミットの問題です。  次に体力。不倫の恋は精神力もさることながら、実は体力勝負のようなところもありますよね。何の約束も安定もない恋愛に全身全霊をかけるのはものすごく体力のいることなのです。眠れなかったりものが食べられなかったり、そんな状態でも「もつ」のはやっぱり体力のある若いうちだからでしょう。  恋愛はいくつになってもできる、とはいえ、時間的にも体力的にもあまりにハードな恋愛はやはり「若いからこそここまでできる」という部分も大きいのではないでしょうか。二十一歳のあなたには時間も体力もどちらもたっぷりあります。もしあなたが今、三十歳を目前にしていたとしたら、この恋で輝くよりも先に壊れてしまうかもしれません。  あなたにとってこの恋は、絶好のタイミングでやってきた神様からのプレゼント。そんな気がしてなりません。きっとあなたはこの恋をしたことで、まわりがびっくりするほど大人になったのではないでしょうか。  今、あなたは彼とつきあったことを後悔していないし、本当に彼と出会えたことを感謝している。この若さで、不倫の恋に卑屈にならずに幸せや楽しさを見出そうとする姿勢には、本当に感心してしまいます。  彼が「いつも寂しい思いをさせているから」とあなたを旅行に誘ってくれたのも、あなたの健気《けなげ》な想いにできるかぎり応《こた》えてあげたいと思ったから。彼は真剣にあなたのことを想っているし、自分にできることならあなたに何でもしてあげたいと思っているのでしょう。  でも、不倫の恋の中で彼と旅行に出かけることは、必ずしもふたりをいい方向へ導くとは限りません。女性は彼と一泊以上の旅行をすることで、時間を気にせず、彼と一緒に朝を迎えられる至上の幸せを感じます。それだけならいいのですが、旅行から戻ってきた途端、たとえようのないむなしさを感じてしまうのです。  毎日彼と一緒に朝を迎えられないことにかえって悲しみが増し、以前よりさらに強い孤独感に苛《さいな》まれてしまうのが普通です。男性たちは旅行を計画することはできても、そのあとの女性の心情までは計算できません。だから旅行をしたあとさらに落ち込んでしまう女性たちに戸惑い、かえってふたりの関係をぎくしゃくさせてしまうことがあるのです。  ところがあなたは、彼に旅行に誘われたとき、これを「お別れ旅行」にしようと思った。この考えは非常に冷静です。彼と旅行できることの喜びに舞い上がったりせず、自分の立場や状況をきちんとふまえた上で、彼の最後のプレゼントを思う存分楽しもうとした。あなたは「前向きのような、後ろ向きのような気持ち」と言っていますが、これはなかなかできることではない、とても前向きな発想です。  そんなあなたがあったからこそ、この旅行を精一杯楽しみ、深い満足感を得ることができたのです。そうでなければ、あなたは今、自信を持ってこの恋を自慢できるようなあなたではなかったはずです。この旅行をしたことで、ふたりの絆《きずな》はさらに強まったのではないでしょうか。彼も、そんなに喜んでくれるなら、また機会をみつけてあなたを旅行に連れていってあげようと思っているでしょう。  今、この恋の中であなたの心はいちばん安定している時期ではないかと思います。あなたが彼の前でも明るく笑顔でいられることで、彼もあなたのことをさらに愛《いと》しく、大切に思っている。ふたりの関係は、不倫の恋の中で最もいい方向に向かっています。  けれど、放っておいてもその状態が保てるわけではありません。何しろこの恋は、細い糸の上を歩いていくような困難な道なのです。あなたが必死で向かい風に胸を張り、精一杯頑張っていることで、やっとバランスがとれているのです。何かのきっかけでそのバランスがくずれれば、あなたはまた「苦しみのあまり涙がピークだった頃」に戻らないとは限りません。  あなたが孤独で苦しい日々を送っているのに、彼の生活はあなたと知り合う前から何も変わらない、という図式はそのまま、残っているのですから。  あなたなら、きっと大丈夫と安心していますが、今のまま、あなたの前向きな姿勢と冷静さを失わないでください。そうすれば、あなたは五年後、十年後、「あの恋に出会わなければ今の私はなかった」と胸を張って言える、素敵な女性になっているでしょう。 [#改ページ] Story 10  奥さんと私の間で揺れる彼。苦しいけど少し幸せ  私は25歳のフリーターの女性です。「愛人の掟《おきて》」を読んだ、第一の感想は�つらすぎる�ということでした。  私はバイトをしていたスナックで知り合った彼(40歳)と不倫していました。あるとき、彼が東京に出張に出かけている間に、奥さんが手紙や写真を見つけるまでは幸せにすごしていました。彼とつきあい始めたとき、私には別の彼がいました。結婚する予定でしたが、あまりうまくいっていない時期だったんです。そんなときに彼と出会い、私は逃げたかったのかもしれません。私は何度も不倫をやめようとしましたが、彼はイヤだと言ってきかなかったのです。前の彼と3人で話し合ったこともありました、淋《さみ》しさのあまり私が前の彼と会って、ふたりがどなり合いになったのです。そのとき彼は「俺《おれ》が面倒《めんどう》をみる。責任も持つ、君はもう俺たちに関わらないでくれ」と、そして、私といっしょに生きていくと言ってくれたのです。  でも、奥さんに不倫がバレたとき、彼は�奥さんのことが好きだと気づいた今まで、それに気づくために私といっしょにいたのかもしれない�と言って、泣きじゃくる私を置いて、迎えに来た奥さんの車に乗って帰って行きました。次の日、私は彼の家に乗り込んで、彼と奥さんと、彼のおばさんと私の4人で話し合いました。  彼は私とはもう二度と会わないと、みんなの前で頭を下げたんです。一週間前は、私を抱いて、「愛してる、誰にも渡したくない、絶対に離さない」と言ってたのに……。裏切られたと思いました。  その後、彼の家に何度も何度もTELしたり、精神的におかしくなって救急車で病院に運ばれ彼を混乱させたりもしました。しばらく放ったらかしにされて、とても悲しい思いをしました。それから何日かたって、彼から連絡があって私の部屋に来たんです。私は精一杯強がってみたけれど、会いたかったからうれしかった。そうしたら彼が抱きしめてキスしてくれたんです。そして、その日ふたりで決めました。奥さんを裏切ることになるけれど、好きなんだって。すこししか会えないけれど、彼は今、家庭を壊すことはできないけれど、今度こそ覚悟をしようと。その一週間後、彼とホテルに行き、2か月ぶりに彼に抱かれました。そのとき、私と会えないときに奥さんを抱いたと聞きました。でも私を誰にも渡したくないと言ってくれたのです。そして私を抱いて私の中でイキたいって言ったのです。そして初めて私の中で……。  私は彼がどうして、もう会わないって約束したから離婚をとどまっている奥さんを裏切ってまで私と会うのかなと考えるのです。簡単に考えると、私を愛しているから、ですみますが。今は淋しいし、苦しいし、将来のことも不安です。どうなるかわかりませんけど、もう少し頑張ってみようと思います。自分の中で、良くも悪くも結果が出るまで、このままでいるつもりです。自分の気持ちが決まらないから、今は感情に従うことにします。今は苦しいけど、でも、ほんの少し幸せです。 [#地付き](秋田県・25歳) [#改ページ]  あなたにふさわしくない彼とは今すぐ別れて再出発を  あなたの手紙を読んだわたしの第一の感想は、あなたがわたしの本を読んで感じたことと同じ「つらすぎる」ということです。あなたのつらさは、目的のないつらさだからです。  最後に、「もう少し頑張ってみる」とありますが、これ以上頑張る必要はないと思います。それだけの意味が、この恋にはありません。あなたは「良くも悪くも結果が出るまで」と言いながら、心の中では彼が良い結果に導いてくれることを望んでいる。でも、この恋があなたに「良い結果」をもたらすことは絶対にありません! 絶対に!  彼があなたにとって、どんなに魅力的な男性なのか、わたしには知る由もありません。けれど、彼という男性は人として最低です。それだけは間違いないことです。  まず、あなたは何度も不倫をやめようとしたのに彼がどうしても嫌だと言っている。それも、あなたが結婚しようとしていた相手とどなりあい、「俺が面倒をみる、責任も持つ」などとまったく何の見込みもない約束までしている。これが四十歳にもなる男性のすることでしょうか?  この時点ですでに彼はあなたの恋人にふさわしくない男性です。それなのに、あなたにそこまで言い切っておきながら、不倫が奥さんにばれた途端、掌《てのひら》を返してあなたとはもう二度と会わないと家族の前で頭を下げる。そんな彼の言うところの、「あなたと一緒に生きていく」という言葉に、一体何の意味があると言うのでしょう。  確かに、愛人の存在が夫婦の絆《きずな》を深めてしまうことはあります。でも、それを面と向かってあなたに言う必要がどこにあるのでしょうか? 「奥さんのことが好きだと気づくためにあなたと一緒にいた」ですって! 甘えるのもいい加減にしてほしい。それも、いい年をして、まだ若いあなたをそんな言葉で傷つけるなんて、「好きなんだからしょうがない」と許せる範囲をとうに超えています。  彼の家に乗り込んだり、何度も電話をかけてしまったあなたを、責めることなど誰にもできません。彼の思慮のない言動があなたをそうさせてしまったのですから。ただ、あなたを余計につらくさせてしまったことは確かです。  そのとき泣きじゃくるあなたを置いて彼が妻のもとに戻っていった時点で、あなたはすっぱり彼と縁を切るべきだったのです。それでも彼のことですから、反省もなくまたあなたのところへ来て「愛している、やり直してくれ」ということぐらい簡単だったとは思いますが。  その後の彼の行動も理解しがたいことばかりです。あなたの精神状態が不安定になっているときは放ったらかしにしておいて、自分が会いたくなるとやってくる。あなたと会っていない間、奥さんとの間にセックスがあったことまであなたに報告する。一体、何を考えているのでしょう。おそらく何も考えてなどいないのです。ほんの少しでもあなたのことを考えていたら、どれひとつとってもできない行動です。  彼の「今度こそ覚悟しよう」などという言葉に、未来を見出してはいけません。あなたとの関係が続いていることが奥さんに知れれば、また彼は前と同じことをするのです。奥さんに泣いてすがって、あなたとはもう二度と会わない、別れないでくれと懇願するのです。そしてまたほとぼりが冷めれば、何食わぬ顔であなたのもとにやってきて「愛している」と囁《ささや》いてあなたを抱く。そんなことをくり返したいですか? 「あなたと会わないという約束のもとで離婚をとどまっている奥さんを裏切ってまで」彼があなたと会う理由は簡単です。それは「あなたを愛しているから」ではありません。彼はあれもほしい、これもほしいと駄々をこねている子供と同じなのです。彼は年齢を重ねていても、精神年齢は小学生レベル。  大人の世界では、あなたを誰にも渡したくないなら、それに見合った努力と誠意と愛情が必要です。そのどれひとつ、彼はあなたに見せてもいないではありませんか!  わたしがどんなに憤りを露《あらわ》にしても、あなたの心には何も届かないのかもしれません。あなたは彼のことが好きで好きでたまらないのですから。彼以外のことは一切目に入らなくなってしまっているのでしょう。それでもわたしがあなたに何とか彼との別れを決意してほしいと願うのは、手紙の文面から、あなたがたったひとりでこの恋と向き合っているような印象を覚えたからです。  あなたにはこの恋のすべてを打ち明けている友達はいますか? あなたの気持ちを理解し親身になって話を聞いてくれ、アドバイスをくれる人はいるのでしょうか。  もしここに書いてあることをすべて誰かに話したら、あなたの恋を応援する人などいないと思います。もしいたとしたら、あなたのことなどどうでもいいと思っている人だけです。あなたのことを大切に思ってくれている人なら、みんなわたしと同じことを言ってあなたが彼と一日も早く別れるように説得するでしょう。  わたしが最も心配するのは、あなたがこのままさらに彼とのつきあいを続けて、二度と立ち直れない決定的な傷を負うことです。  たとえば、彼の子供ができてしまうこと。あれほどどうにもならない状況の中で、「あなたの中でいきたい」などと平気で言う男性なのですから、可能性はじゅうぶん過ぎるほど考えられます。彼があなたの中で射精したいと言ったのは、あなたを愛していて子供がほしいと思っているからではありません。  彼は自分の快感と征服感を味わいたかっただけなのです。こんな自分本位な行動を決して許してはいけません。彼はその場の感情に任せていくらでも後先を考えない言葉が言える人です。あなたが「もし子供ができたらどうするの?」と言えば、「僕の子供を産んでくれ、一生面倒をみる」と言うかもしれません。  でも実際そんなことになれば、彼はまたパニックに陥ります。彼には大きなことを自分で決定する能力などないのです。あなたに今度だけは堕《お》ろしてくれと泣いて頼むか、力でねじふせるような行動に出るでしょう。そして心も体も傷ついたあなたにまた優しい言葉を浴びせ、関係を続けようとするだけです。そんなことになったら、あなたはもう死んでしまいたいと思うほど傷つき、想像を絶するほどつらい思いをします。 「今は感情に従う」とありますが、あなたにもうそんな時間はありません。今のあなたの盲目的に彼を好きだという感情に従って、あなたにいいことなど何もありません。  あなたは今「ほんの少しの幸せ」があると言うけれど、それすら感じられなくなるのは時間の問題なのです。  面と向かうと別れられないのなら、ご両親や友達の協力を得てもいいから、彼に行き先を告げずに引っ越しをして、再出発してください。どんなに会いたくなっても、こちらから連絡をとってはいけません。彼があなたを捜し出して会いに来ても絶対によりを戻してはいけません。しばらくはつらくても、必ず彼と別れてよかったと思う日が来ます。  早く目を覚まして! あなたはまだ若いし、今ならやり直せる。早く彼の呪縛《じゆばく》から逃れて、本来の自由なあなたに戻ってください。 [#改ページ]  第四章 つらい恋を楽にするクイック処方箋100 [#改ページ]  涙 [泣きたいときは] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    1 涙はあなたの心の痛みをやわらげてくれる大切なもの。でも無駄遣いは禁物!    2 涙には浄化作用があります。ときには子供のように声をあげて泣いてみること、しばらく忘れてない?    3 泣きたくなったら水のそばに行こう。海、川、湖……もちろんお風呂やシャワーでも心が落ち着きます。    4 いちばん素敵な涙は嬉《うれ》し涙。きれいなのはせつない恋の涙。怒りや悔しさの涙は嬉し涙のためにとっておこう。    5 泣き虫のあなたへ。泣きたくなったら二回に一回、がまんして。その強さがあなたに新しい魅力をくれます。    6 ひとりで泣いているとき彼から電話がかかってきたら、いつものように明るい声で答えよう。涙声はタブー!    7 止まらない涙は、あなたの心の叫び。どうして泣いているのか、自分の胸に聞いてみて。    8 彼に見せた涙のぶんだけ、彼はあなたから離れていきます。部屋にひとりきりになるまでぐっとこらえて。    9 涙のあとは残さない。泣きながら眠るのはやめて、きちんと洗顔、肌の手入れも忘れずに。    10 涙に腫《は》れた目の治し方。まず熱いタオルで、次に冷たいスプーンを逆さにして瞼《まぶた》をぎゅっと押さえて! [#ここで字下げ終わり]  夜 [眠れぬ夜に] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    11 なかなか寝つかれない夜は、あたたかいミルクを一杯。カルシウムは不眠の特効薬。    12 夜は絶対眠らなくちゃ! なんて決めつけないで。朝まで本を読んだら、明日はぐっすり。    13 彼のことばかり考えてしまうなら、その気持ちを日記に書こう。日記はあなたの心を整理してくれます。    14 ゆっくりとバスタブにつかって、ボディ・チェック。あなたの理想の体型をイメージして。    15 彼が大好きだと言っていた映画のビデオを借りよう。夜遅くまでテレビを観るより素敵な夜の過ごしかた。    16 不安でいっぱいの夜は、明日することを全部リストにしよう。なぜか安心して眠くなるから不思議。    17 頭の中が恋のつらさでいっぱいになったら、彼との初デートを思い浮かべて、コースを順番にたどってみて。    18 たまっている領収書や名刺、ポストカードをファイルにしよう。部屋の整理整頓は魅力的な女性の基本!    19 お気に入りの靴を全部床に広げて、片っ端から丁寧に磨こう。彼との大切なデートに備えて!    20 ラベンダーの香りやキャンドルやエッセンスオイルを枕元に。素敵な彼の夢を見せてくれるかも! [#ここで字下げ終わり]  朝 [一日のはじまり] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    21 朝目覚めたらきれいな水をグラスに一杯。あなたの心も体もきれいにしてくれます。    22 「今日はきっといいことがある」と思って。「今日もいやだな」と思ったらそのとおりになるのです。    23 朝いちばんに思い浮かべるのは彼の笑顔。厳しい表情やつらい言葉ではなくて。    24 出かける前に、鏡に向かって微笑《ほほえ》んで。あなたのいちばんお気に入りの笑顔を。    25 彼に会えない日も、お洒落《しやれ》やメイクはいつもどおり念入りに。あなたを見ているのは彼だけではありません。    26 彼と会える日は、仕事のあとにリフレッシュできるメイク道具やブラシ、アクセサリーなどを忘れずに。    27 朝から気分が落ち込んでいたら、ベランダに出て深呼吸。生まれたての空気があなたにパワーをくれます。    28 今日も一日彼と会えないなんて、ため息をついてはいけません。ため息は幸せを逃していきます!    29 気分の乗らない日はいちばんいい靴をはいて出かけよう。靴が素敵なところへ連れていってくれるから!    30 暗い気分の朝も、誰かに会ったら、笑顔で挨拶《あいさつ》しよう。まわりの人も、あなたも気持ちよく一日が過ごせます。 [#ここで字下げ終わり]  デート [彼と会うときは] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    31 彼と会うなり「今夜は何時に帰らなくちゃいけないの?」なんて聞いては駄目。今を楽しまなくちゃ!    32 仕事や人間関係でいらいらした気持ちは、彼と会う十分前までにふり払って。一杯のお茶で気分転換。    33 流行よりもあなたをいちばんきれいに見せる服を選んで。可愛《かわい》らしく、女らしく!    34 服と同じように下着にもお洒落を。セクシーな下着は彼とのロマンティックな夜に欠かせないアイテム。    35 当日の夕方いきなりデートに誘われたら? 彼がいつもいつもそうなら、勇気を出して断って!    36 デートに誘われた日に、もう予定が入っていたら? いくら彼に会いたくても仕事や約束を優先させて!    37 彼が急にデートをキャンセル。奥さんが熱でも出したのかしら、なんて想像する前に明るく許してあげて。    38 デートの前に、友達の結婚話に影響されたりしないで。あなたと彼のデートに「結婚」の二文字は禁句です。    39 デート代はあなたが出さなくてOK。食事のあとは彼に「ごちそうさま」を忘れずに。    40 帰り際、もう少しだけ彼と一緒にいたい。でもあなたが引き止めなければ、すぐにまた彼に会えるのです! [#ここで字下げ終わり]  電話 [彼の声が聞きたい] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    41 彼に電話をしたくなったら、最近あまり会っていない友達に電話しよう。    42 今すぐ彼の声が聞けなければ死んでしまいそう! そんな気持ちは熱いシャワーでさっと流して。    43 彼から電話があってもずるずる長電話するのは厳禁。切り際は潔く、そして明るく!    44 「ずっと電話を待っていたのに」なんて言わなくても、彼は今、電話をしてくれているでしょう?    45 彼への相談ごとや悩みごとは彼とゆっくり会えるときに。顔が見えない会話ではうまくいきません!    46 彼の自宅の電話番号を持っていたら今すぐゴミ箱に捨ててしまおう。もちろん暗記しては駄目!    47 彼の携帯電話のナンバーは短縮ダイヤルに登録しないこと! しょっちゅうコールしたい熱を冷ますのに効果的。    48 お酒を飲んだときに受話器を持つのは危険! 一本の電話があなたの努力を台無しにしてしまうから。    49 「会いたい」「寂しい」「声が聞きたくて」は、あなたの心の中にそっとしまって。    50 鳴らない電話を見つめていても何も起こりません。彼からの電話は見ていないときにかかってくるのです! [#ここで字下げ終わり]  仕事 [あなたにしかできないこと] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    51 あなたの仕事はあなたにしかできない素晴らしい仕事。自分の仕事に誇りを持って。    52 仕事中もあなたの頭は彼のことでいっぱい。でも彼はあなたに早く会うために仕事に集中しています!    53 目の前に積まれた書類の山を見て途方に暮れていないで。ひとつひとつ片付けていけば早く終わるのに!    54 彼との恋に疲れきっていても、仕事は休まないこと。今日休んだら明日はもっと行きたくなくなるから。    55 あなたがいい仕事をしたら、いちばん喜んでくれる人は誰でしょう? もちろん彼です!    56 彼に会いたくて残業を断ってしまう? その仕事をしていれば、彼はもっとあなたに会いたくなるのに!    57 今の仕事に感謝しよう。あなたと彼との不安定な恋愛を、いつもそっと支えてくれているのですから!    58 職場にかかった彼からの電話に甘い声を出しては駄目。怖い上司だけでなく、彼のこともがっかりさせます。    59 今の仕事に不平や不満ばかりのあなた。もし彼がそうだったら、とても悲しい気持ちにならない?    60 どうせやるならやりがいのある仕事をしよう。あなたの意欲にまわりも必ず応《こた》えてくれます。 [#ここで字下げ終わり]  週末 [好きなことをしよう] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    61 何の予定もない一日があったら、まず部屋をきれいに掃除しよう。あなたの心もすっきりします。    62 彼に会えない日曜日。電話の前はあなたの指定席ではありません。携帯電話を持たずに外に出かけよう!    63 学生時代ずっと続けていたスポーツを再開しよう。今ならすぐに勘を取り戻せるでしょう。    64 公園やデパートで家族連れを見て落ち込んだりしないで! そこにいるのは彼ではないのですから。    65 彼は今、何をしているかしら、なんてあれこれ想像するより、昨日の素敵なデートを思い出すほうが先。    66 何でも好きなことができる週末があるあなたはとてもラッキー。多忙な彼のぶんまで、時間は有効に使おう。    67 楽しい心はあなただけでなく彼にも伝わります。あなたが楽しむことは、そのまま彼も楽しむこと。    68 どこか旅に出たら、彼に絵葉書を書こう。たとえ彼に出せなくても、あなたの今の心を素直に表現して。    69 どこにいても、彼がいたらもっと楽しいのに、と思ってしまう。隣のボーイフレンドに失礼じゃない?    70 楽しい週末にユーウツな月曜日がついてこないのはあなただけ。何より待ち遠しい月曜日なんだもの! [#ここで字下げ終わり]  友達 [あなたはひとりじゃない] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    71 友達はあなたの鏡。あなたのまわりにどんな友達がいるかで、あなたがどんな人かわかってしまいます!    72 女友達が集まったら、あなたの恋の話をするより、みんなの恋の話を聞いてあげよう。そのほうが楽しい!    73 彼との恋を全部ちゃんと理解してくれている親友は、あなたの何より強い味方。一生大切にしよう!    74 友達との時間は、あなたの気分をリフレッシュする時間。そして彼とのひとときを待っている時間。    75 ほかのボーイフレンドともどんどん出かけよう。彼に悪いなんて思わないで。あなたの心は彼だけのもの。    76 女友達の助言や忠告は軽く流して。反論しても無駄。彼女はあなたのような思いをしたことがないんだから。    77 友達の心が見えなくなったら、あなたは彼女の(彼の)味方なのか敵なのか、考えてみて。答えが見つかるよ。    78 寂しいときはいちばんの親友と長電話。でも、彼女の迷惑になっていない? もう一度時計を見て!    79 友達は大切な宝物。でもお互いに一緒でなければ何もできなくなったら、それはただの玩具《おもちや》です。    80 世界中でわたしはひとりぼっち? 大丈夫、あなたのことを今も考えてくれている友人がひとりはいます! [#ここで字下げ終わり]  孤独 [ひとりの時間を大切に] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    81 ひとりの時間はあなたの大切な宝石。大切にしていれば、どんどん輝きと深みを増していきます。    82 誰だってひとりは寂しい。でも考えてみて。いつでも誰かと一緒なんてちょっとうんざりしない?    83 「ひとり=寂しい」は間違い。「ひとり=自由」が正解。ひとりの時間は、最高の自由時間。    84 天気のいい日は散歩に出かけよう。散歩はあなたの心に栄養を与え、感受性を豊かにしてくれます。    85 ひとりで映画館に入ったこともないなんて、自慢にならない。恥ずかしくて誰にも言えないこと!    86 気持ちのいいカフェでひとりで大好きなお茶を一杯飲もう。ずっと手つかずだった分厚い小説をお供に。    87 作文、絵、ハーモニカ、なわとび、手芸……小学校のとき得意だったことにもう一度挑戦してみたら?    88 恋上手な女性はひとり遊びが上手。あなたの趣味は何ですか? 誰かがいないとできないこと?    89 孤独に耐えきれなくなったら、とにかく何かをはじめて! 彼に電話する以外のことなら何でも!    90 彼とふたりきりの時間をあんなに楽しく過ごせるのも、今、このひとりの時間があればこそ! [#ここで字下げ終わり]  記念日 [幸せなひとときを] [#ここから改行天付き、折り返して5字下げ]    91 彼とはじめて出会った日、彼とつきあいはじめた記念日。いつもよりちょっとお洒落《しやれ》をして特別なことをしよう。    92 誕生日に彼と会えなくても、この世の終わりみたいな顔しないで。次の日に祝ってもらえばいいでしょう?    93 彼の誕生日をあなたと過ごせなくて悲しいのは彼もおんなじ。明るい声でハッピーバースデー!    94 彼が何をプレゼントしてくれるかよりもまず、あなたが彼に何をプレゼントしてあげられるかを考えて。    95 彼に贈物をするのに高価なものはいらない。あなたの愛情とあなたとの時間がいちばんのプレゼント。    96 彼と過ごせないイヴに涙はいらない。ひとりのイヴが過ごせたら、とびきり優しい彼の笑顔が待ってる!    97 はじめてのキス、はじめてのセックス、彼との「はじめて記念日」はあなたの心の中でそっと祝って。    98 彼のいないバカンスを楽しく過ごせたら、真っ先に彼に報告しよう。それだけでわくわくするでしょ?    99 彼のいない年末年始は家族と一緒にゆっくり過ごそう。あなたのご両親もあなたに会いたいんだから!    100 記念日はあなたにとって大切な日。でももっと大切なのは、彼と素晴らしいときを過ごす普通の日です! [#ここで字下げ終わり] [#改ページ]  文庫化にあたって  三年前に出版された『愛人の掟 2』が文庫化されるにあたり、久しぶりにページを開いた。  この三年の間に、世の中は二十一世紀を迎え、良くも悪くも様々な変化を見せ、確実に新たな時代へと歩を進めた。けれど、本書の向こう側に見える不倫の恋に悩む女性たちの中では、果たして何かが変わっただろうか。  遥《はる》か昔から、あらゆる国で、どんな時代を迎えようともなくなることのなかったこの恋は、今も変わらず彼女たちの心を悲しみの涙で濡《ぬ》らし続けている。その先に薔薇《ばら》色の幸せなど待っていないことに気づきながら、この恋に足を踏み入れていく美しく聡明《そうめい》で向上心|旺盛《おうせい》な彼女たちのせつない想《おも》いと情熱は、決して消えることはないのだ。  以前、わたしはこの恋について「どんなものでも願えば手に入る世の中で、たったひとつ絶対に手に入らないもの」それが不倫の恋なのだ、と書いた。ところが「どんなものでも願えば手に入る世の中」などもうどこにもない。安定した生活も、信じていた未来も、ささやかな夢も幻になった。明日のことすらまるで予測のつかない現在、誰もが自分にとっての本物の幸福を追い求めている。ひとりの男として、女として、人間として、本当の幸せとは一体なんなのか、を問い続けている。  その中で、たったひとりで不倫の恋と向き合っていくのは想像を絶する苦しい日々に違いない。でも、こんな時代だからこそ、何の打算も保証もなく、「愛する人とずっと一緒にいたい」という純粋な気持ちだけでつながっているこの恋は、更なる輝きをもって女性たちを魅了していくのではないだろうか。  不倫の恋をする女性たちを、ただ不道徳で節操のない、刹那《せつな》の快楽や物欲に溺《おぼ》れる女たちだと決めつけてしまえる時代は終わった。不倫の恋は地上に残されたたったひとつの純愛、女性たちが胸を張ってこう言える時代がやってきたのだ。  ハッピーエンドではない。けれど、決してアンハッピーでもない。はかなく、そして強く激しい、究極のピュア・ラブストーリーがここにある。  わたしの作品に触れてくださったかたがたに最上級の幸せを。   二〇〇一年 秋 [#地付き]梅田 みか   角川文庫『愛人の掟 2』平成13年12月25日初版