さくっとEVANGLION [九条公人] http://www2.raidway.ne.jp/~kimito/eva_index.html -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#1 --------------------------------------------------------------------------------  「君は誰?」  「僕は君だよ」  「じゃ僕は誰?」  「僕だよ」  「どうして・・・こんなことをするの・・・」  「君を開放してあげるよ」  「何から?」  「全てから」    次の瞬間、碇シンジの意識は、闇に飲まれた・・・。    「ふう・・・まったく世話が焼けるねぇ」  出ていない額の汗をぬぐう動作とともに、碇シンジはそんなことを口走る。    ここは、箱根湯本の駅前。  まるで閑散としている理由は、関東甲信地方に特別非常警戒宣言が発令され、官民問わずシェルターへの避難が行われているためだ。    カッターシャツにワンショルダーのデイバック、そして黒い学生ズボンといういでたち、中性的な相貌なのは、まだ彼が14才という年齢だからだろう。  「しかし、どうしたものだろう」  中天を仰ぎ、つぶやく。  少年の感覚には、巨大な存在がゆっくりと近づいてくるありさまが捉えられているのだ。  このまま迎えを待つか、自分で何らかの手段で目的地まで移動するかを思案しているところである。    「でもなぁ、ここまで来ちゃってるからなぁ」  そうつぶやいたとき、いきなりビョウビョウと送電線がうなりはじめ、そこにとまっていた鳥たちが一斉に飛び立った。  そして視界に飛び込んでくるのは、超近代的なティルトエンジンタイプのS/VTOL攻撃機「甕星重工」VF/A−4A<ハヤテ>だ。    「まったく街中でこんな低空を飛んで、迷惑じゃないか」  ジェットブラストに煽られた髪を抑えつつそんなことをつぶやく。    ・・・熱くないのか?    さらに上空を良く見れば、P3−C対戦哨戒機と思われる大型の機体が数機、編隊を組み雲間を横切っている。  「あ〜あ、税金と人命の無駄遣いなのになぁ」  P3−Cのハードポイントには、大型対艦ミサイルSSM−3Bが鈴なりになっていた。  もちろん弾頭フェアリングは模擬弾をあらわす「赤」でなく実弾である「白」だ。    そのとき、少年の目前に遷移し、微後退ホバリングを行っていた4機のハヤテのボフォース40ミリチェーンガンが、一斉に火を吐いた。  アスファルトの地表に排莢が涼やかな音でぶちまけられてゆく。    その火線の遥か向こうに、緑色の巨人の姿か垣間見えた。  「だぁぁぁぁっ、うるさいよ!! いきなり!!」  碇シンジという名を持つ少年は、耳を抑えその場に座り込む。    「ったくサキエル、君には悪いけど、僕はもう少し静かな環境が望ましいんだ、君にはひとまず休んでもらうよ」    チェーンガンでは埒があかないということなのだろう、翼下のハードポイントに吊下したロケット弾ポッドから、75ミリロケッド弾が次々と打ち出されてゆく。    「まったく、通常火器なんて効かないってわかってる筈なのになぁ」  少年はそのロケット弾数発に仕掛けを施した。    緑の巨人は、体表に着弾する40ミリ機関砲弾に頓着せずに、ゆったりとした動作で歩み続けている。  そこへ無数のロケット弾が着弾した。      「観たか!!」  まるで艦橋構造物であるかのようなひな壇作りの巨大な指揮発令施設の最上段に陣取った、戦略自衛隊の将補の階級章を持った男たちが、スクリーンに映った光景に歓声をあげた。    「敵性体進攻を停止、再生に入った模様」  そのロンゲのオペレーターの報告に、戦略自衛隊の指揮官逹より一段下のひな壇にパイプ椅子を持ち込み座っている悪党面の髭親父が、吐き捨てるように口を開いた。  「ばかめ・・・ATフィールドを張りそこなったな」  「意外と間抜けなのだな」  「蚊や虻だと思っていたら、スズメバチだった程度のことでしょう」  「確かにそんなところだろうな」    スクリーンでは、右肩を吹き飛ばされた緑の巨人が、座り込み一生懸命に傷口をなでていた。      「それは、僕を怒らせた罰だよサキエル」  碇シンジもまたその光景を眺め、冷たい口調でそう宣言をしていた。  ATフィールドをロケット弾にまとわせ、着発と同時に、そのATフィールドを弾けさせたのだ。  サキエルの腕が繋がっている事の方が、驚きたった。  「意外と、君は丈夫だったんだね」    などと、のんきな事を言っているがハヤテが下がり、低空に下りてきたP3−Cがアタックポイントに滑り込もうとしていた。    それに気がついたシンジは、緑の巨人へ向かい呼びかけた。  「LCLも飽きたしなぁ・・・サキエルもう沈んでみるかい?」      「目標・・・沈黙、パターンブルー消失しました・・・使途殲滅です」    「ば・・・かな」  「これは予想外の結果になったな碇どうするのだ」  「まだシナリオを書き換えることはできないわけではない」  「ふむ、そうだな」  「ああ、まだ時間は、残っている」    「観たかね!! 碇君、君ご自慢の人造人間なんぞいらんのだよ!!」  「我々にはまだ切り札も残っていたのだがねぇ」  「ああ、そうだ! 君ご自慢の<木偶の坊>は、あの死体処理に十分使えるだろう」  「何か言うことはないのかね」    「戦略自衛隊の実力には舌を巻かせていただきました。  次回もこうだとこちらとしても楽でよろしいですな」  戦略自衛隊の指揮官逹の嫌味に嫌味で応えたのは、冬月コウゾウだった。  ゲンドウは、苦虫を噛み潰した表情で、スクリーンに映っている死体を睨み付けたままだった。    「はい、所詮NERVなど必要ないとお分かりかと・・・はい、今後も我々だけで十分、はい、はい、お任せください事務総長閣下!」  「いいえ、もちろんです総理、こんな学者上がりの青瓢箪どもに、まともに戦闘などできるはずがありません!」  一人の指揮官の持っている電話の相手は国連事務総長、そしてもう一人の電話の相手は、日本の総理大臣であったようだ。    「では、後の死体の処理くらいはきちんと頼むよ、この陽気では腐ると環境問題になるからね」  そういうと、数名の護衛だろう迷彩服の隊員たちを引き連れて、指揮官たちは発令所を出て行った。      「えっと、碇シンジ君?」  青いルノーから、駅前のベンチでマンガ雑誌を所在なさそうに見ていたシンジに声がかかった。  声の方向へ向かい上がった顔には、怒りマークがたくさん浮かんでいる。    「待ちくたびれましたよ、葛城ミサトさん」  その冷たい吐き捨てるかのような口調に、ルノーの運転席に座った妙齢の女性士官は、汗を背負って、謝るしかなかったのである。  「あは、あは、あは、あはははは・・・ごみん」    既に警戒宣言の「解除」から5時間が過ぎ、陽もとっぷりと暮れていた・・・。        「報酬と待遇、それさえきっちりしてくれたら、乗らないこともないよ」  ジオフロント(黒き月)にある黒いピラミッドの頂点付近の1フロアをぶち抜き作られた、NERV司令室。  はったりと虚栄、そして欺瞞によって作られたその組織を象徴するかのような無駄な容積のその場所に、碇シンジは立たされていた。  「そうかね、いや助かるよシンジ君」  「頼まれてくれるか」  「僕がこんなものに乗る必要なんてなさそうですけどね」  既にEVANGELION初号機との対面は終わっていた。    「あれは、あの使徒が間抜けだっただけだ、本来、使徒に通常兵器は効果を持たないのだシンジ」  使徒が倒されてしまったことに余程狼狽えたのだろう、無口なゲンドウがやけに饒舌になっていた。  「あ、そうなんだ、ふ〜ん、で報酬なんだけど」  「ああ・・・契約金は、日本円で3億、1会戦ごとに1千万、待遇は特務二尉扱い。  仕官待遇だから、衣食住は本来本人負担だが、それは私が出すのが当たり前だな」  「あ、出してくれるんだ」  「金にしても、私のポケットマネーから出すようなものだ」  とはいえ、チルドレンと呼ばれるパイロットが無報酬と言うわけではない。  「父さんからのお駄賃って感じ?」  その言い方に、ゲンドウもコウゾウも、相好を崩した。  「そんなようなものだ・・・だが駄賃としてもだ、お前にさせることは危険すぎることだ、すまんなシンジ」  「全人類の中で、僕にしかできないことなら仕方ないじゃないか」  「そう言ってもらえると助かるよシンジ君」  「シンジ、お前はお前を迎えに行った葛城君の下に配属される、いう事を良く聞いて、頑張るんだぞ」  「判ったよ父さん」  「ああ・・・それから、ここ以外では、司令と呼ぶようにしてくれ」  「うん判った公私混同は、組織のモラルに関わるからね」  「生意気な口を利くな、だがその通りだ、頼むぞ」  「了解しました司令」  「ぷっ・・・敬礼のやり方は、葛城君に教えてもらったほうが良いなシンジ」  「あ、やっぱり、じゃあ」  「ああ、秘書にお前の仮の部屋に案内させよう、明日には契約金と上の町に部屋も用意できる、外の受付の上山君に聞くといい」  「うん、それじゃ失礼します」  そう言ってシンジは司令室を辞していった。      「お前の息子にしてはできが良すぎるな」  「ユイの息子でもあるんですよ冬月先生」  「なるほど、しかし使徒が敗れたお陰で、お前も肩から力が抜けたようだ」  「そうですね、こんなにシンジの奴と話したのは初めてですよ」  「これからも、そうすると良いだろう」  「ええ、そうしたいと思います」      「まいったなぁ、なんか父さんの印象が違うよ・・・使徒が簡単に倒されちゃって、気が抜けちゃったのかなぁ」  案内された本部棟内の宿直室でベッドへ寝転がりながら、そんなことをつぶやいたシンジだった。    「でも、なぁんかひとつイベントを忘れているような気がするんだけどなぁ・・・」  なんだっけ・・・。  ま、いいや、今日のところは疲れたから寝ちゃおう。  そうひとりごちると、速やかに眠りに落ちていったのだった・・・。      そのころ忘れられた本人は、病室で想人の登場を待ちくたびれていた。  「碇君・・・来ない・・・私はもう用なしなの? 碇くぅん・・・」   -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#1 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#2 --------------------------------------------------------------------------------  「・・・いや、まあそういうこともあるだろう、次の使徒に期待しようではないか」  「左様、たまたま間が抜けていただけであろうからな」  「それであるならいいのだがな」  「我々は補完計画が遂行されれば、それでいいのだよ」  「だが、EVANGELIONが必要ないならば、量産計画に支障をきたすぞ」  「ところで、私は何のために呼ばれたのでしょう」  「まあまあ碇君、我々の雑談にしばらく付き合いたまえ」  第三新東京市突入以前に、使徒が通常兵器によって殲滅されてしまったため、はっきり言って肩透かしを食らった形のNERVとSEELEご一行は、思い切り気が抜けていた。  「はあ・・・」  ———まったくこいつら、暇なのか。  そう心の中で毒づきつつも、逆らうことのできないゲンドウは、黙って戯言に付き合うしかない。    「おお、そういえばバルトリンデン通のヒルダの店の新しいケーキが美味くてなぁ」  「ああ、あれは美味いぞ」  「いやいや、ライプニッツのドラヴのフルーツケーキには及ぶまい」  「それもいいのだがな・・・」    ・・・使徒の情けなさにすっかり気が抜け、どこぞの爺の集会と化しているホログラム会議だった。      「綾波ぃ〜、悪かったって言ってるじゃないかぁ」  ここは、綾波レイの病室である。  そうシンジの忘れていたもうひとつのイベントとは、言うまでもなくファーストチルドレン、綾波レイとのファーストコンタクトであり、病院での二度目の邂逅と見舞いであった。  「知らない・・・どうせ私は用済みだもの」  「もう、そういう風に拗ねるんだったらこっちにも考えがあるよ」  「・・・好きにすれば」  「判った」  シンジは、レイの枕もとへ歩み寄ると、いきなりレイのあごへ手を伸ばす。  そして自分のほうへ顔をけると、唇を重ねた。    「・・・碇君・・・」  綾波レイはいきなりの事態に、顔を真っ赤に染めて、そうつぶやくのがやっとであった。  「そうやって拗ねてるとまたキスしちゃうよ」  「拗ねてないとしてくれないの?」  「それは・・・、今後の綾波の反省しだいかな」  「そう・・・でもやっぱり、思い出してくれなかったのは碇君だから、碇君が反省するべだと思うの」  「ううう、だから、悪かったっていってるじゃん」  「誠意がこもってないの」  「男の誠意なんて、一生に一度見せたら、良いんだよ〜」  「それを見せて欲しいの」  上目遣いで両手を胸の前に組まれじっと見つめられる。  超級美少女にこの必殺コンボを使われ、平常心を保てる男が居たらお目にかかりたい。    「いや、だからね・・・」  「誠意、見せてくれる?」    この言い合いは、延々と二時間にわたって続けられ、結局シンジは、レイに男の誠意という品物を献上させられてしまったということである。    ところで綾波さん、君、重症じゃなかった?      「学校ですか?」  と、そんなことのあった日の午後、ミサトに呼ばれシンジは、作戦課へと出向いていた。  ちなみにミサトの執務室は、腐海と化しており、本人以外そこで一分以上の時間をすごすことは不可能な状態と成り果てていた・・・。  着任一週間で・・・  「そう、まあ特務機関とはいえ、国連の所属だから、教育をきちんと受けさせないと、うるさいのよ」  「大検、合格してれば文句は出ないでしょ?」  「あ〜、学力の問題じゃないところが、困るのよ」  「はぁ?」  「拘束時間に制限があるのよ実際には」  「国連もずいぶん呑気なことですね」  「私もそう思うわ、訓練に身を入れてもらって、生き残る確率を少しでも上げたいっていうのに」  「自分たちで少年兵を作っておいて、その戦力化に掣肘を加えるというのは、明らかに偽善でしょう?」  「・・・シンちゃん、あなた性格キツイわ」  「あの司令の息子ですから」  「自分から言う?」  「だって本当ですもん」  「判った、学校の件は保留にしとくわ、どうせレイもしばらくいけないんだし・・・そうと決まれば」  「訓練ですか?」  「その通りよ」  「判りました」    ということで、EVAシミュレーターという名前の巨大筐体ゲーム機の出番である。  VRディスプレイを頭にかぶり、プラグスーツ姿でシンジは3Dゲームに興じることとなった。  しかしなぁ国連の特務機関がゲーム作ってたらいかんだろうになぁ・・・。    『目標をセンターに入れてスイッチ・・・』    「巧いもんですね」  「まあ、ゲームみたいなもんだし、レイだって、このレベルなら軽くクリアするでしょ?」  「でもレイは訓練を受けた上での話、シンジ君は、初めてでこれよ」  「おお、いい腕してるわね」  「ひょっとしてゲームヲタクとか?」  「「それは・・・ありそうねぇ」」  『お三方とも、まるっきり聞こえてるんですけどぉ』  「う・・・ごみん」  「「あ、あらごめんなさい」」    「それにしても、この調子だとシミュレーターなんて要らないわね」  「・・・そうね」  「シンちゃん、上がって頂戴、体を使った訓練の方が、よさ気だわ」  『了解しました』      と、そんなこんなで三週間が瞬く間に過ぎ去ったとさ。      「駿河湾上空で、重力異常! 現在護衛艦こんごうが、詳細を確認のため、急行中!」  「総員第一級戦闘態勢、使途迎撃準備」  「おい、いいのか碇」  「用意をする程度は、かまわんでしょう」  「だが、向こうはやる気満々だぞ」  「ふっ・・・ATフィールドさえ奴が忘れなければ、我々の出番はかならず来ますよ」  ファイティングポーズを崩さず言い放つ。  しかしその語調は、あまり強くない。  「だといいのだがなぁ」  コウゾウも、なにやら天を仰ぐような調子でそう応える。  「・・・多分」    ゲンちゃん<多分>ってずいぶん弱気じゃん。      「かまわん! 百里も、横田も、厚木も全部上げろ、今回もあんな木偶人形の出番はない!!」  『了解!』  新横須賀にある統合参謀本部横須賀支所では、再び出現した使途迎撃の準備が進んでいる。  百里からはF/A−22Jラプター4群16機が、横田からはF-35J(JSF)3群12機が、そして厚木からはF−2D2、4群16機がすでにスクランブル発進を終えている。  さらに海上では、イージス護衛艦こんごう、きりしまを含む10隻の護衛艦が迎撃体制を整えつつある。    「ラプターがやはり最初に接触します」  「さすが超音速巡航ファイターというところか」  いかにもファイターパイロット上がりに見える空将の徽章をつけた50代の小柄な男が口元に笑みを浮かべ報告に応えた。  「タイミングを合わせて、こんごうときりしまからもハープーンを打ち込みます」  「そうしてくれ、使徒など飽和攻撃ならば恐れるに足らんとあの連中に思い知らせてくれる」  「はっ!!」      「・・・うげぇぇぇ・・・なぁにあの趣味の悪い格好」  「今回は、イカかえびという感じですねぇ」  NERVの放った初期弾道軌道型UAV(Unmanned Aerial Vehicle )からの映像が第一発令所の正面レーザー干渉ホログラムスクリーンに映し出されている。  「あんなのがどうやって空を飛んでるの」  ミサトのつぶやきに応えたのは、その隣で猫の描かれたマグカップからコーヒーを飲んでいた猫好きマッドサイエンティストだった。  「ATフィールドかしら?」  「・・・リツコぉ、あんたなんでもATフィールドって、ドラえもんじゃないんだからさぁ」  「だって他に考えられる要因なんてないんだから仕方ないでしょ」  「まあATフィールドで浮いてるなら、通常兵器は、効かないわよね」  「あら、判らないわよ」  「どして」  「重力遮断にATフィールドを使っているって事は、防御に使えるATフィールドがないかもしれないもの」  「しょしょんなぁ・・・がんばってよぉイカさぁん」  イカではなくシャムシエルという立派な名前があるのだか・・・しかしイカで決定か。      「今回も、沈んでもらうよシャムシエル」  そんなミサトのはかない祈りを知ってか知らずかエントリープラグのスクリーンに映るイカに向かい、なむなむぅと手を合わせている薄情なシンジの姿があったのだった。     -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#2 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#3 --------------------------------------------------------------------------------  ラプターからは、AIM−120AMRAAMが計36発。  こんごう、きりしまからは、二艦合計で40発の対艦ミサイルのハープーンが、放たれた。    最初に着弾したのは、AMRAAMであったようだ。  その内20発あまりは、シャムシエルのATフィールドによって、防がれたようである。  だが、残った十数発は、シンジの施した細工によってATフィールドをつきぬけ、その頭部に突入、小なりとはいえ高性能炸薬とそして残った固体ロケット燃料の爆発によって、その頭部の三分の一を吹き飛ばした。    シャムシエルは、上空で光のムチを打ち振るい、激痛にのたうつ。  ATフィールドを纏った光のムチが海面をたたき、津波のような波頭がシャムシエルを中心に四方へと散ってゆく。  しかし、よくよく観察すれば、シャムシエルの傷口は、かなりの速度で修復されつつあった。  そのままでは数分で回復してしまうだろう。    その様子に第一発令所の人間たちはホッと息をついた  自分たちの出番がこれ以上奪われてはたまらない。  莫大な予算をつぎ込んだNERVが役に立つところを全世界へアピールしなくてはならないのだ。    しかし、まさにそのホッとした瞬間ハープーンの追い討ちが突入したのである。  ハープーンは、ポップアップ機動によって使徒の背面と腹面からほぼ同時に突入した。  やはり半数が強化したのであろうATフィールドにはじかれたが、20発あまりが突入に成功、内腹面からポップアップした13発中7発がコアと思われる赤い光球を直撃、直後に使徒は、N2級の爆発によって消滅してしまったのである。      その爆光が十字架状に吹き上がるという物理法則を完全に無視した死に様に、第一発令所の面々は、ため息をもらすことしかできなかった。    「あ・・・あらら・・・い、イカさんの根性なしぃ〜・・・とほほほ」  ミサトは、がっくりと顔を落とし座り込んでしまう。  「ATフィールドは、効いていたはずですけどねぇ」  つんつん頭の日向マコトが誰にともなくつぶやいた。  「そうね・・・飽和攻撃には対処しきれないのかもしれないわ、所詮は生き物だし」  それを受けてマグカップを持った猫使い赤木リツコがそう解説をしてみせた。  「リツコぉ使徒ってなんなのよぉ」  ペタンと女の子座りに座り込んだまま親友を見上げミサトが言う。  「ま、それなりに強いけど無敵じゃない戦闘生物ってところかしら」  「それって役立たずじゃん」  「そう、無様よね」      「いやはや・・・まいったなこれは、どうするのだ碇」  「ら・・・ラミエルは、必ず我々の期待に応えてくれます」  ファイティングポーズの両腕はわずかに震えている。    「・・・ま、期待はせんほうがよさそうだな」  「冬月先生ぃ」  「おまえにもわたしにもどうにもならんことだろうが」  「しかしぃ」  「まあ、神にでも祈るんだな、ラミエルがここまで進攻できますうにとでもな、もっともおまえに祈られた神は迷惑かもしれんが」    そのやや忘れられた感のある神様はというと、エントリープラグのLCLに包まれてすっかり熟睡をぶっこいていた。    ———遠隔でATフィールド操るのは疲れるんだってば。  あ、さいですか。      「困ったな」  「左様、困った」  「こんなことは、想定外だ」  「使徒とは、あのように脆弱な存在だったのか」  「いやATフィールドさえ完璧であれば、このような事態にはならなかった筈なのだ」  「裏死海文書の記述に齟齬があるとするならば、われらの補完計画を推進するわけには行かなくなる」    ホログラム会議は紛糾していた・・・というよりも、SEELEの爺様たちは、事態の推移に頭がついて行っていなかった。  会議開始から3時間あまり、完全に話題がループで固定され、それにつき合わされているゲンドウもさすがにお尻が痛くなってきていた。    いや、そういう問題か?    「では皆様、再び裏死海文書の再解読に始まり技術的な再評価を行った上で補完計画の再企画と再推進を行う心積もりがおありなのでしょうか?」    「我々には時間がないのだ碇」  「ローレンツ議長閣下、しかし、完璧な戦闘生物である筈であった2体の使徒は、現にたかがロケット弾の飽和攻撃で撃破されてしまっております」    「その完璧な戦闘生物という下りだよ問題なのは」  「完璧には程遠いではないか」  「だか裏死海文書にはそう記述がなされている」  「左様、裏死海文書こそが我々SEELEが進める人類補完計画の拠所であった」  「だが、記述に誤りがあるとすれは、その記述によってなされた補完計画は拠所を失うぞ」  「その通りだ、記述に従ったにも関わらずその我々自体が滅びてしまうのでは補完計画に意味がないではないか」  「だが、裏死海文書の通り使徒は来た、スケジュールには遅れがない」  「その能力には問題があったのだ、記述内容について再評価を行う必要があるだろう」  「その前に解読自体に問題があったのやもしれぬ」  「そこまで計画を戻している時間などないことは諸君らもわかっているはずだ」  「約束のときはきてしまったのだ、もはや躊躇している暇などないのだ」  「しかし、根拠のない計画となれば、再度の仕切りなおしが必要ではないか」  「そんなことをしている時間がないのだ」  「人も金も使えばよい」  「どこにその人材がいる、金もこれ以上国連からは搾り取れんよ」  「左様、裏死海文書の解読は碇ユイ博士と惣流キョウコ・ツエッペリン博士の業績だ」  「その二人が失われている今、それを行える天才が居るとは思えぬ」  「Dr惣流はともかく、ユイ博士ならばサルベージが可能なのではないか?」  「サルベージをスケジュールに組み込むのか?」  「それしかあるまい、解読の失敗の責任は本人に取ってもらうしかない」  「聞いたな碇」  思わぬ形で碇ユイの初号機からのサルベージが俎上されてしまったのである。  「しかし今初号機からユイをサルベージなどすれば・・・初号機が動かなくなります」  「おまえの手元には、零号機があるではないか、ドイツから弐号機も届けよう、もっとも現状ならば、EVANGELIONなどなくとも使徒は、殲滅できるだろうがな」  「かしこまりました弐号機の戦力化以降の碇ユイのサルベージを手配いたします」  「うむ・・・碇今度は失敗をするなよ、フォースチルドレンなどに我々は用はないのだからな」  「判っております」  内心の狂喜を押し殺しゲンドウはそう応えた。      「なんとSEELEがユイ君をサルベージしろと言ってきたのか」  会議の顛末を聞かされたコウゾウは驚きの声を上げた。  初号機のゼーレと化したユイのサルベージの結果、初号機が戦力として使えなくなるどころか、補完計画そのものが立ちゆかなくなる可能性するあるというのにだ。    「そうだ・・・だが初号機は覚醒していない、サルベージなど不可能だ」  「そう言ってやれば良いではないか」  「あれ以上老人どもの戯言に付き合わされては堪らん」  心底嫌そうな口調で、ゲンドウはそう切り捨てた。  その様子に、コウゾウは口元を歪めて首肯した。  「なるほどな、だがなにもしないわけには行かんぞ」  「弐号機が戦力化されねばサルベージはできんとは言っておいた」  「そうか、しばらくは時間が稼げるな」    ———ふぅ〜ん、母さんのサルベージねぇ、父さんとの交渉の切り札にしようと思ってたんだけどなぁ。    保安部の格闘訓練の教官と柔術の乱取りを行いながら、司令室の様子を伺っていたシンジは、そんなことを思っていた。    弐号機とアスカのことはどうやらどうも良いらしい。    ———アスカと二号機がどうでも良いのはあなたの方でしょ?  ごもっとも(爆)      でもなぁ、どうやってサルベージしちゃおうかなぁ。  う〜ん・・・この時期だったらやっぱラミエル戦の<ドサマギ>が一番良いよねぇ。  そうすると母さんを起こしとく必要があるのかぁ。    シンジは教官を腕ヒシギ十字固めに持ってゆきつつ、呑気にそんなことを考えていた。    「碇君・・・強い・・・でも男の人と組みつ解れつは、いけないとおもうの・・・っきゃ〜♪」  その様子を壁際で見ている女神様は、両頬に手を沿え、くねくねと体をくねらせつつそんなことをのたまわっていたのである。      初号機の拘束されているケージ、その首もとのアンビリカルブリッジにシンジの姿がある。  その鬼面を見つめ、なにやら深刻そうな面持ちでもう数十分は、そうしていた。  初号機の整備員たちは、その様子を観察しつつも、なにをする訳でもなさそうなので、放って置いているというところなのだろう。    なにしろまったく戦闘を行っていない初号機は、装甲にさび止めのワックスまで塗られ、ピカピカに磨き上げられていた。  たとえパイロットとは言え、俺たちの初号機に勝手に触るんじゃねぇ! というのが整備員たちの心情だろう。    だがもちろんシンジは、初号機のコアに取り込まれているユイを覚醒へと導くために、力を使っていたのであった。    ———さあ母さん、そろそろあなたも、その避難所から出てもらいますよ。  まったく、人類が生きた証だなんて言ったって、要するに自分が年をとりたくなかっただけじゃないですか。  自分だけいい目を見ようなんて甘いんですよあなたは。  だいたいあなたが居なくなったお陰で僕がどれだけ苦労をしたと思っているんです。  さっさと起きて、あの髭親父を二三発ぶん殴ってやってくださいよ。    ・・・おまえそれ愚痴言ってるだけジャン。 -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#3 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#4 --------------------------------------------------------------------------------  シャムシエル来襲・・・というか撃破・・・から二週間あまり、国連からNERVの組織縮小が発表された。  もっとも、縮小されるのは各国の支部であり、本部となっているジオフロントは、現状のまま維持される。  さすがのSEELEも各国からの突き上げには勝てないらしい。  予算規模は10分の1、人員は5分の1にまで縮小、そしてEVANGELIONの建造は、現在北米第二支部で90%まで進んでしまった参号機で停止され、武器その他の開発も基本的には中止となることなった。  もっとも各支部が縮小・統廃合されれば、予算が減っても、十分NERVという組織は成り立ってゆくのである。    本部および松代の東洋支部の人員は、その代わり増員がなされ各国からトップレベルの能力を持った人間が集められることとなった。    現状維持、もしくは増勢という本部において、その中で、一番予算削減の割を食ったのが、本部の作戦課だった。  「・・・とはいえ、作戦部は・・・縮小かぁ」  作戦課は、人員が三分の一に減らされた上、使徒迎撃設備設置のために潤沢であった予算は、EVANGELIONの維持管理関連予算以外は、軒並み削られてしまったのである。  「もともとがここって研究機関ですからねぇ、仕方がありませんよ」  「そうなのよ・・・ってシンちゃんどうしてここに居るのよ」  「だってぼく作戦課の課員ですやん」  「あらそうだっけ? 技術部だとばかり思ってたわ」  シンジは、訓練などかないときには、リツコの研究室へ入り浸っているのである。  ———だってミサトさんの執務室は腐海だよ、入り浸れるわけがないじゃないか。  ごもっとも。    「そりゃミサトさんの指揮で実戦は、してませんけど直属の上司は、ミサトさんです」  「ありゃん・・・ごみん」  「それにしても予想外に使徒が弱かっただけで、どうしてこんなに慌てているんでしょうね」  「まあね、EVANGELOIN一機で、原子力空母20隻分の建造費じゃあね」  「・・・なんですかそれ」  「だからね・・・え〜とシンちゃんニミッツ級原子力空母って知ってる?」  「そりゃ僕だって男の端くれですから、それくらいは」  「その建造費が一隻約4500億円(量産効果込み)それの20隻分で約10兆円」  ———ニミッツって、<オーバーザレインボー>のことだよなぁ・・・あんなのがそんなにするのかぁ。  します。  ———あ、そう。    「じゃあそれだけの<お金>は、いったいどこから出ているでしょう」  「そりゃNERVは、国連の非公開特務機関なんですから国連でしょ?」  「その通り、でも国連は別に税金とか取ってないわ、それらのお金は国連に所属している国々から集めているの」  「人類をサードインパクトから救うために・・・ですよね」  お題目をシンジは唱えて見せた。    「そう、だからね、無駄に使えるお金じゃない訳」  「でもってもしかしたならEVANGELIONって無駄だったかもって思われちゃった訳ですか」  「そうなのよ〜・・・シンちゃんなんとかしてぇ〜」  よよよっと泣き崩れるミサト。  「・・・ミサトさん」  そんなミサトにやや冷たい口調でシンジは声をかけた。  「なに?」  「大人の人が嘘泣きしても、可愛くありません」  「悪かったわね・・・」  そうシンジにきっぱりと言われ、ブスくれるミサト。  「・・・ううう、でも本当次は主導権を握らなくちゃ、このままじゃ本部だっていつ縮小されるかわかったもんじゃないのよ・・・ってシンちゃんに愚痴ってもしょうがないんだけどねぇ・・・はぁ」    ———愚痴られても、僕のやり方は変わりませんよミサトさん。  現状を作り出した神様は、心の中でニヤリと親父譲りの嗤いを浮かべていたのであった。      「ところでラミエルは、まだだったかな」  ここのところ国連へ二人揃って出払っていた親父と爺だったが、ようやく日本へ帰ってきることができた。  二人揃ってやつれているのは、そうとう国連人類補完委員会で絞られたのだろう。  だが、この二人を絞ったところで、不甲斐なかったのは使徒であるのだ。    もちろん、補完委員会も、そんなことは理解していた。  だが、国連各国の大使から、さんざんに扱き下ろされ、無駄飯ぐらいと罵られた「補完委」としても、そのもって行き場のない怒りの矛先として、いいスケープゴードされたというところだった。    ホッとした雰囲気の中で、冬月はスケジュールを確認していた。  「今日には出る筈だ」  「・・・今度こそ、ここまで来てくれるといいな碇よ」  「ああ・・・」  ———頼むぞラミたん×2。  などと心の中で、使徒の奮戦を祈っている、使徒迎撃特務機関の司令職二人だった(ぉぃ。    「そういえば、零号機の起動実験が・・・今始まったな」  「あ・・・ああそうだったな・・・」  「いかんのか?」  「レイの特殊任務は解いた、ユイが戻ってくるなら、レイへ執着する必要はない」  「そうか」  ———レイ君もシンジ君という話し相手ができて、コヤツのことに頓着しなくなったからな、丁度よかろう。    二人の心の叫び「頼むぞラミたん!!」が届いたわけでもないだろうが・・・いや届いていたなら、絶対に来ないだろう、気色悪いし。  雷の天使ラミエルは、その姿を、いきなり内陸部に「どぉぉぉぉぉん」とばかりに顕現させ、戦自とUN極東軍の観測網を大混乱に陥れたのであった。      「ぱ、パターンブルー、ご、強羅絶対防衛線直上に出現んんんっっ!!」  このときとばかり、ロンゲ兄ちゃんが叫びまくる。  「総員第一級戦闘態勢! 使徒は、われらがテリトリーに侵入している、総力でこれを叩き潰す」  ミサトも力みかえった声が発令所に響き渡った。  『司令、零号機、初号機ともに出撃準備が終わっています』  「作戦指揮は葛城君の仕事だよ赤木君」  『あ、ごめんなさい、ミサトどうするの』  「・・・いきなりレイを実戦には投入できないわ、シンちゃん、悪いけど一人でいけるかしら?」  『ええ、僕も綾波をいきなりは、まずいと思いますから』  「ごめんなさい。ありがと、じゃあ作戦を聞いて頂戴、強羅の防衛線とは、丘をはさんで、ここに出すわ、兵装ビルから、MLRSポッド2基を受け取って、この位置まで進出、ATフィールドを中和、同時に絶対防衛線の火力と同調して攻撃、相手の出方が判らないから、もしもこっちの火力が通じなかったら戻って、もっと火力の厚いポイントまで進入してくるのを待つ事にします」    ———うわぁ〜い! このミサトさん、すっごくまともだ〜♪  並の指揮官ならこの程度の作戦は児戯だと思います。  それに結局決戦兵器で威力偵察ぶちまかしてますし。  ———だってミサトさんだよ、ここまで考えてくれたのはそれこそ奇跡だって。  ごもっとも(汗)  ———でも結局初号機は、荷電粒子砲に撃たれちゃうのさ♪  ひでぇやつ。    『了解です』  「EVANGELION初号機! 発進んんっっ!!」  「エヴァ初号機、リフト・オ〜フっっっっ!!」  なにやらマヤちょんが、コンソールの赤いボタンを拳で樹脂カバーをわざわざ叩き割りながら押し込んだのは、気のせいだろう・・・きっと。    その瞬間、人体の限界に近い加速度であろう瞬間最大10Gに達する、リニアモーターによる加速で紫色の鬼が、ジオフロントの地下深くから地表へ向かい打ち上げられてゆく。  「ぐぅぅ・・・こ、この加速」  「耐えて頂戴シンちゃん」  『くっ・・・癖になりそう』  感極まったようにつぶやかれた、その声に発令所のオペレーター達がコンソールへ突っ伏したり、シートからずり落ちたりしている。  「・・・あ、あのねぇ」  「シンちゃん余裕ね〜、もしかして絶叫マシンマニアなの」  「それって、ある意味で人間止めてますよね」  『ミサトさんも、マヤさんも聞こえてますってば』  「あらら、ごみん」    「使徒、縁周部に粒子加速反応!」  ロンゲ君再び絶叫す。  「マヤちゃんロックボルト解除!」  その絶叫にミサトがすかさず反応する。  「初号機射出口正面に熱量集中!!」  「リフト静止機構抑止」  「荷粒子砲、来ますっ!!」    「そんなことしたら初号機、ぶっ飛んじゃいます」  「いいからやってっっ!!」      「さて、母さんは起きてるかなぁ」  発令所の大騒ぎは、シンジのシンクロ率の変動をオペレーターにまったく気づかせず400パーセントにまで上昇させろ事に成功したのだった。  そう荷電粒子砲に直撃されても過剰シンクロでLCLに解けてしまえば、熱くないのである。    ・・・しかし、だれか一人くらい冷静な奴は居ないのかNERV発令所。 -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#4 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#5 --------------------------------------------------------------------------------  そこは、薄暮が支配する薄暗闇の世界。  そこにシンジの意識が揺らぎながら形をなしてゆく。    ———ここが初号機のコアの表層か、母さんは目がさめてると良いけど・・・。  ゆっくりと辺りを見回し、そしてさぐるがごとく意識を広げてみる。    ・・・居た。    そう意識をした瞬間、見つけたもうひとつの意識のそばへと移動している。  ———へぇ便利だねぇ。    シンジの足元には、綾波レイを20代にしたような女性が、ヤンキー座りで・・・さめざめと泣いていた。    「どうしたの」  「シンちゃんが・・・私をいじめる・・・」  「い、嫌だなぁいじめてないじゃん」  「私のこと我侭とか自分勝手とか、年増とか無責任とか、責めたじゃない」  「だって本当のことじゃん」  「私はシンちゃんに」  「かあさんが居なくなってから、あの髭親父に僕がどれだけ苦労させられたと思っているのさ」  「ゲンちゃんは、やさしくて可愛げのある人だもん」  「そりゃ、母さんにだけだって、僕や他の人たちには冷酷無常無慈悲な髭親父なんだよ」  「ちがうもん・・・」  「もう母さんも現実をきちんと見つめてよ・・・ほら!」  シンジは母の体を背中から抱きしめる  ユイの意識に、情報がなだれ込んできた。    『乗らないなら帰れ!』  『私は忙しいんだくだらないことで電話などするな!』  『LCLの圧縮率を上げろ、子供の戯言に付き合っている暇はない』  『パイロットのシンクロをカット、ダミーを使え!』  『臆病者は必要ない!!』  『シンジなぜ戦わぬ!!』    ・  ・  ・  ・  ・  ・      「こんな・・・」  「これが僕が経験したことだよ母さん」  「こんな・・・。  こんな・・・。  ほらこぉんなにゲンちゃんってば、格好いい!!」  両手を胸の前で組んで、夢見る少女の瞳に星を散らせつつそんなことをのたまう碇ユイ(主観年齢約40才)    「う・・・裏切ったな、僕の気持ちを、僕の気持ちを裏切ったな!! 母さん!!」  「でもねシンちゃん、これが、私、これが裸の碇ユイ」  「って裸になってどうする!!」  「だぁってぇ、ゲンちゃんよりもお肌ピチピチしてそうだしぃ、精神体だから一回くらいわからないって」    ———ねえこの雌、殲滅していい? ねえ、いい?  止めときましょうよぉ、このままの方がなんか面白そうだし。  ———でもこの雌あの髭親父を上回るものごっつい鬼畜に見えるんだが?  ・・・そうかも・・・。    「と、とにかく、服を着て、外に出るからね」  「でも」  「なんでもSEELEの爺さんたちが、母さんの仕事に難癖付けてるらしいよ」  「なぁんですってぇ!! あの耄碌爺どもがぁぁぁぁ!! さあ、出るわよシンちゃん」  「うんちょっと待って<クロ波>を一人溶かすから」  「どして?」  「いくらEVAでも無から有は、作り出せないよ」  「神様でもできないことがあるの」  「・・・ノーコメント」  「ところでシンちゃん」  「なに?」  「本当にお母さんとしたくないの?」  「・・・くだらないこと言ってるとマジで殲滅するよ母さん」  「あはは、冗談よ、冗談・・・それよりクロ波ってなに?」  「ああ、クローン綾波、略してクロ波」  「なるほど・・・センスゼロね」  「放っといてよ!!」    ———用が済んだら絶対殲滅してやる!      初号機が射出口に到達する直前に八面体からビーム軌条が可視できるというとんでもない出力の荷電粒子ビームが放たれ、そして初号機のATフィールドをガラスのようにぶち抜く。  白熱した真紅のビームは、初号機の胸、コアを正確に射抜いている。  さらに初号機の射出に合わせた照準の移動という器用な真似までをして、ビームを維持するという芸当まで披露する。  そこには、なんとしてもこの場で初号機を叩き潰すという強い意志が感じられる。  「初号機に直撃!」  「シンちゃん!!」  「シンジ君!」  「ダメです荷電粒子による妨害で初号機の状態まったくモニターできません!!」    だが、上空で初号機は、身をひねると射線をかわす。  「ナイス、シンちゃん! マヤちゃん、周辺の射出口全部空けて、援護射撃なにやってるの! 使途へ集中砲火ぁぁぁ!!」  ミサトの声が聞こえたわけでもないだろうが、初号機は、地表に落下すると同時に、高機動モードに入ったかのようなすさまじい身のこなしで、手近の射出口へと飛び込んだ。  そして装甲シャッターが閉まったと同時にそれを追ってきたビームは、停止した。    「一回戦は完敗か・・・初号機の回収とパイロットの状況の確認急いでね日向君」  「モニターは、回復しています・・・バイタルに問題・・・あれ?」    「どうしたの?」  「バイタルが二つ計測されていますどっちもとくに問題ありません・・・でもこのバイタルの信号随分古いプロトコルで発信されてますよ・・・」  「マヤ、映像回線は、戻らないの?」  「現在ナロー回線しか繋がっていません、外装が冷えないと熱雑音で・・・」  「メインテナンスのことは気にしないでかまわないからリフトの消火設備で冷やして頂戴」  「判りました・・・E−35番の緊急放水開始っと」  芦ノ湖の水を流し込んだかのようなすさまじい水流に初号機の装甲はあっという間に冷やされてゆく。    『・・・発令所・・・聞・・・発令所! 何してるんだよ・・・聞こえますか』  「音声映像回線回復します」  『ねぇ発令所ぉ、聞こえてますぅ?』  「シンちゃん無事なのね?」  『無事も何も、なんともありませんよ、それよりもそこに父さん・・・じゃなかった碇司令は、居ますか?』  「なんだ」    『この人・・・だれなの? 気がついたらプラグにいたんだけど』  そう言って、カメラフレームに入ってきたのは、ボディーラインも露なプラグスーツに身を包んだ20代の女性だった。    「「ユイ(君)!!」」      「使徒は本部直上に静止、すさまじいばかりのATフィールドで航空攻撃は、全てシャットアウト、底部頂点から掘削シールドを伸張、呑気に穴掘り遊び中です」  「本部までの到達時間は?」  「特殊装甲22枚をぶち抜くのに推定12時間って所でしょう、レーザー掘削シールドですから、液体窒素辺りで妨害すれば、もっと伸びます」  「そう、その辺りは、二係の連中に任せるわ、好きにさせていいわよ」  「判りました」  「でEVAの方は?」  「胸部装甲に若干のダメージを食らった程度のようです」  「あれだけのビームを食らったのに?」  「なにしろシンクロ率400パーセントオーバーで張られたATフィールドですからねぇ」  「・・・それでLCLに溶けちゃうって・・・EVAって何なのかしら」  「そういうのは、赤城博士にどうぞ」  「リツコが教えてくれるわきゃないっしょ」  「・・・あ〜・・・ごもっとも、でどうします?」  マコトは、頭上を指差しミサトへ尋ねた。  もちろんラミエルへの再攻撃をどうするのかをたずねているのだ。  「う〜ん・・・もう少し叩いてみないとなんともいえないわね」  「判りました、使える機材のリストは、こうなります」  ずらずらと使用可能な兵器名称か並んだ表をディスプレイへ呼び出す。  「さっすが副官」  「ほめても、これ以上は、何も出ません」  「マコちゃんの、けちんぼ」      第三ケージに固定された初号機からエントリープラグが逆回転し挿出されてゆく。  LCLが排出され、そして側面ハッチが開き二つの人影が現れる。    駆けつけていたゲンドウとコウゾウへ向かい背の高いほうの人影は、照れたように口を開いた。  「あなた、ただいま」  「ユイ・・・ユイ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」  伝説のルパンダイブでプロトプラグスーツ姿のままのユイへ向かいゲンドウが抱きついてゆく。  それを受け止める! と二人は濃厚な口付けを交わし始める。    「・・・息子の体の心配もしないで、夫婦でなにやってんだか」  そのままゲンドウはユイを押し倒し18禁な展開に進みつつある。    「疲れたかね?」  「副司令」  「ユイ君を連れて帰ってくれてありがとう」  「母さんが勝手に出て・・・」  「ユイ君の決心は固かったのだよ、君に未来を残すというね」  「それで一人にされた僕には迷惑な話ですよ」  「エゴと思うかい?」  「前はそう思っていました」  「今は違うと?」  「EVAに取り込まれて、母さんの想いを直接知りましたから、今なら許せる気がします」  「そうか・・・君は大人だね」  「子供ですよ」    そういうとシンジは寂しそうに薄笑いを浮かべたのだった。      ・・・・しかしラミエルは、どうでもいいのか司令職二人!?   -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#5 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#6 --------------------------------------------------------------------------------  「兵装ビルの中で、射線に捕らえることができるのは、15棟、その内最大威力のものは、SS−N−22 サンバーン搭載が2棟で全力36発あります、可動火砲としては、12試式重光学列車臼砲が4門、AK−130艦載砲が9門ってところです」  ずらずらと表示させた兵装の中で、実際に効果を上げそうな物を絞り込むようにマコトへミサトは依頼した。  旧ソ連製兵器が多いのは、ディスカウントの結果であり、短期決戦であると考えられている対使徒戦であるからこその選択だといえるだろう。  なにしろ、旧東側の規格の製品は、ネジ1つから工具をそろえなくてはいけなくなる整備班泣かせの製品だからだ。  しかも弾薬が切れた場合、ちょっと戦自から拝借などということも不可能である。    「とりあえず、全部使うわ」  「威力偵察ですよね」  「まったく予算削減なんかするから、こうして人類は追い詰められちゃったのよ」  「葛城さぁん」    「大丈夫よ、MAGiにタイミングを合わせてもらえたら、着弾はゼロコンマ数秒に集中できるってリツコが太鼓判をくれたわ」  「だって」  「もちろん威力偵察よ」  「ああ、良かった」  「殺到するどの兵装にあいつがもっとも脅威を感じたのか、それを確かめるわ」  「・・・ビームを散らされて全滅ってありえますよ」  「それならそれで、脅威判定に差別がないってことがわかるわ」  「ははぁ、なるほどです」    「すいません葛城本部長、戦自から指揮権の委譲を行えとせっつかれているんですけど」  「こっちの偵察が終わるまで待ってもらって」    「まったく、こっちのテリトリーに入ったら問答無用でこっちに指揮権があるはずだって〜のに」  「そうは言っても向こうは2体の使徒を、実際に倒してますからねぇ」  「・・・実績がないっていうのは辛いわね」      18禁の展開をようやく終えた、二人は、服装を整えると、ケージのそこここから浴びせられる視線をまったく気にせずに、再びいちゃいちゃとし始めた。    しかし、ユイは自分に向けられているシンジの視線に気がつくと、居住まいをただし、唐突にゲンドウを引き剥がした。    「ユイ?」  「で、あなた赤木リツコさんのことについてどうされるんです」  「・・・な、なんのことだ・・・」  「そういえば赤木ナオコさんとも関係があった様ですわね」  「い・・・いや、そんなことは・・・」  「だいたい、シンちゃんはきちんとあなたの手で育てるという約束でしたわよね」  「・・・す・・・すまん」  「すまんで済んだら、警察も裁判所も弁護士も刑務所も要らないんです、いいですかナオコさんとリツコさんのこと、秘書課の上山さんに・・・坂上さん・・・ね、そう・・・ふぅん・・・私の許容範囲を逸脱しているようですね・・・判りました、たった今からあなたから<碇>の姓を剥奪します」  「・・ユイ、そ、それは!」  「自分の立場をわきまえていない使用人にはそれ相応の罰が必要なのよ六分儀ゲンドウさん」  「だから」  「まあ権力を使わなくちゃ私以外の女を抱けない情けない人ですものねあなたは」  「ユイぃぃぃ・・・うううう・・・俺を俺を許してくれぇ」    「・・・副司令、なんか父さんが可哀想に見えるんですけど・・・男として」  「私もだ・・・だが自業自得でもあるな」  「ま、まあ」  ———この人も顔に似合わずキツイ性格してるなぁ。    「そう、私をサルベージしようとして失敗した結果生まれた女の子を依り代にしようとしていたの」  「ユイお前どうしてそのことを」  「初号機の記録ですわ、その記憶を整理してますのよ」    その答えに、ゲンドウの顔が蒼白に変わる。  「あなたは所詮私の代理人だということを忘れてしまっていたようですわね」  「・・・」  「弁解は、なさらない?」  「私が良かれと思ってしたことだ」  「そう・・・開き直るのね・・・ま、良いでしょ・・・シンジ、いらっしゃい」    「なに母さん」  「六分儀さんにさようならをおっしゃい」  「へっ?」  「この人はたった今からNERVの司令職を解かれます」  ———どうしてそんな権限が母さんにあるの。    「ユイ、そんな」  「あら、まだ自分立場がわかってらっしゃらないのね」  「でも母さん」  「さあシンジ」  思いのほか強い力で肩をつかまれ、その痛みに驚きながらシンジは口を開いた。  「・・・さようなら、六分儀のおじさん」    その時のゲンドウの表情は、顎が落ち、目はうつろとなり、その口からは「裏切ったな、私の気持ちを裏切ったな」などと二番煎じの台詞が呪詛であるかのように流れ出していた。    ———最初に裏切ったのは父さんだってば。    「さあ、一般人がこんなところに居られたら迷惑よ、さっさとここから出ていってちょうだい」  「ユイ、頼む、もう一度チャンスをくれ」  「そう言って、何度目の浮気でしたかしら」  「いや・・・それは・・・」  「どうでもいいですわよ、もうあなたとはなんの関係もありませんから」  「ユイ君いいのかね本当に」  「ええ」  「そうか・・・残念だよ六分儀」  「冬月先生ぇ!」  「たった今から、NERV司令は、EVANGELION初号機を開発したこの碇ユイ君が復帰することとなった!」  ———なんだ、それ。  コウゾウの宣言にシンジが唖然としていると、どこからともなく屈強な黒服が5人ほど現れると、ゲンドウを拘束し、連れ出していってしまったのである。      「母さん本気なの?」  「冗談に決まっているでしょ。反省室でいつものお仕置きで放免よ。  浮気は確かに腹立たしいけど、男の甲斐性って言ってしまえばそれきりだし、私が居ないのに、操を立てとけっていうのも、無理でしょうし」  「結構分かり合ってた夫婦だったんだねぇ」  「親に向かって生意気言うんじゃないの」  「今の母さんの姿だと、親子っていうより兄弟の方が近いかもね」  「そうよ、永遠の若さを保障してくれるシステム、女の理想、キョウコもそれに同調してくれたわ」  「それが一番の目的だったんかい!」  「あら、重要なファクターよ、もちろんEVAを動かすためが最重要だったわ」  「今ひとつ信用できないんだけど」  「女にはいろんな秘密があるものなのよ、さぁてSEELEの耄碌爺どもをどやしつけてくるかなぁ・・・ってシンちゃん使徒の方はいいの」  「ああ・・・うん、そろそろミサトさんが動くから、もうすぐ終わるよ」  「そう、EVAにはどうしても討たせないつもりなのね?」  「それが一番いい方法だと思うからね」  「そうね、あの赤い世界は面白みがまったくなさそうだし、SEELEの爺供には、ゲンドウさんと同じように反省してもらいましょう」  「父さんへのお仕置きって?」  「般若心経の写経1万回」    「しょ・・・諸行無常だ」      「MAGiの設定はOKです」  「カウントタイミングは、私から10で行くわ」  「了解です」  「いい、みんな! 10!」  「9」  で、サンバーン・・・SS−N−22が発射。  続いてハープーンやら、ハーム、フェニックスやらの在庫一斉処分品が打ち上げられる。    ・  ・  ・  「3」  東西南北の四方の位置についていた列車臼砲に灯が入り、AK−130艦載砲も砲弾を吐き出し始める。  「2」  「1」  「今よッ!!」    ラミエルは多分、まったく脅威を感じていなかった筈だ。    なにしろ荷電粒子砲を形成できるほどのATフィールドの強度をもった使徒なのである。  ミサイルだの砲弾だのレーザ砲だのに、いちいちかまっていられない、自分は穿孔シールドでひたすら穴を掘り、八面体の内部に存在している使徒としての本体を本部地下に眠る始原の存在へと接触させなくてはならないのだ。  それが使徒として生まれてしまった自分の行動原理であり、存在意義であるのだから。    だが、ラミエルに迫ってきた4門のレーザービーム砲には細工がされていた。  シンジの神の力により形成されたATフィールドによって弾道を作り出し、ラミエルの誇ったフィールドを紙のように貫くと、使徒の本質であるコアを四方から貫いたのだ。  コアを焼き貫かれたその時点でラミエルの生体反応は消失し、ATフィールドが消滅するのと同時に、シャムシエルと同様十字に爆光を吹き上げ消滅したのであった。      その光景に、一瞬発令所は、沈黙に包まれる。  「い・・・ぃやったぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」  そして次の瞬間、その光景を理解したミサトの歓喜が爆発し、発令所も歓呼の渦に巻き込まれたのだった。  『ぅおおおおおおおおおおおっっ!』    「やったぁ、日向くぅん! やった、私達、使途に勝ったわ!」  ミサトは、喜びのあまりマコトへ飛びつき、キスの嵐を降らせている。  その張り詰めた体を抱きしめながら、マコト自身も二つの意味で、うれしさに打ち震えていた。    こうしてNERVは、使徒迎撃特務機関としての体面を保つことに成功したのであった。   -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#6 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#7 --------------------------------------------------------------------------------  「碇ゲンドウがNERV司令職を退いた」  「なんですと?」  「司令職には、碇ユイが、復帰した」  「・・・復帰?」  まだこの円卓会議に参画して間もない存在が、問うような声を上げた。  「左様、EVANGELIONのゼーレと化すため一時的に、あの男へ司令職を委譲していたのだ」  「今回の会議は、碇ユイの審問会となるだろう」      「碇ユイ、お前に聞きたいことがある」  円卓に集う12人のホログラフ映像、さらに13番目の席にスポットライトが当てられ、ユイが照らし出される。    「いいえ、聞きたいのは私のほうですわキールおじ様」  「この場でおじ様は、よしてくれユイ」  「では・・・」  ユイはその頤に左手を当て考えるしぐさをした後、背筋を伸ばし、そしてリン! と通る声を発した。  「ハフスブルクの裔∴薔薇十字ミカエルの階位∴大審問長官として命じます。  私の質問に速やかなる解答を行うことを宣言なさい」  キールをのぞくホログラフからは、息を呑む気配が感じられた。  まさか東洋の黄色人種の小娘が、自分たちよりも貴い血筋と階位を持っているとは思ってもいなかったからだ。  そしてそのことを知ったことにより、自分たちが碇ユイという存在に決して逆らうことができないということを思い知らされてしまったのである。  「・・・かしこまりました、いかなるご質問にもお答えいたします、碇ユイ様」  「まったく意地をお張りになるから、位など出したくなかったんですよ、おじ様」  「むぅ、すまなかった、で質問とは?」  「ええ、私とキョウコが訳した裏死海文書について疑問があるとか?」  「そうなのだよ、使徒が完全生物とは程遠い存在であったことは、聞いておろう」  「ええ、それは生物である以上、対処可能な攻撃には自ずと限界というものが存在していますわ」  「しかし単体生物として究極進化の果ての姿だと「死海文書」にある」  「もちろん、究極ではありませんか? 腕から光のパイルを打ち出し、音速を超える灼熱のムチを打ち振るい、人が作り出すことも難しい出力の荷電粒子ビーム砲で攻撃を行うことができる」  「・・・だが君が作ったEVANGELIONが迎撃にどうしても必要であるほどには強くはない」  「ええ、それが?」  「それがではない! EVANGELION一体のために、どれだけの金が必要だと思っている!」  「これは異なことをおっしゃられますこと」  「なんだと?」  「EVANGELIONとは、人の限界を伸ばすアウトフィットとして設計・製造したものであると私は報告書にそう書いたはずです」  「だが主目的は使徒の迎撃に・・・」  「この姿を見てもその意味がお分かりになりませんか?  私の主観年齢は40です。私か40の女に見えますか?」  ユイは、蠱惑的な表情を浮かべてみせる。  「・・・い・・・いや、失礼ながら20代の前半・・・いや10代・・・東洋系の女性の年齢は掴みかねるので申し訳ないが」  「まだお分かりになりませんか?」  「・・・すまんが、理解できん」  「初号機の中で過ごした10年は、私の体には降り積もっていないということです。  さらに言うなら、コアへの取り込みとサルベージを繰り返すことによって、人の寿命の限界を簡単に超えることが可能となる、それも人の形のまま、なにも足したり引いたりする必要はありません。  これが本来の人類補完計画だったのですよキールおじ様、それがなんですかリリスのアンチATフィールドを使用した、全人類のLCL化に伴う精神の輔弼による人の心の補完とはなんなのですか?  ましてEVANGELIONを依り代とした特定人種のみのサルベージときては、いつからSEELEは、人類に対する犯罪に手を染めたのですか!!」  「・・・」  「ましてや、依り代とするEVANGELIONのパイロットの精神状態に左右されうる計画では、そのパイロットの精神時様態によってはLCLからの回帰がならずに、そのまま人類が滅んでしまう可能性すらあるではないですか」  「そ、そうなのかね」  「・・・はぁ・・・昔からキールおじ様は思い込みが強くていらっしゃるから・・・なんでしたらMAGiのシミュレーション結果でもご覧になりますか?」  「・・・いや、本当にそんな結果になるならば、我々の計画に意味はない計画は早急に破棄するしかあるまい・・・だが本当なのか」  「ほぼ100%の確率でLCLからの回帰はありえないという推論が出ています」  「そ、そんなものは推論じゃないか」  「あら、科学者でもないあなたに、補完計画の何がわかるというのです? たかが石油メジャーの支配ごときでSEELEの末席にすがり付いている家系のくせに」  「・・・き・・・きさま」  「よさぬか二人とも」  「挑発したのは、そちらでしたわキールおじ様」  「なんだと」  「目の前に居る存在が、自分より絶対的高位にいるということ理解できないようね」  ユイがそういったとき、ようやく逆らってはいけない絶対強者に逆らったことに気がつき、顔面を蒼白にしうつむいてしまう。  その様子に、ユイは満足したのか、語調を和らげた。  「まあ、そのくらい覇気がないとここではやっていけないでしょうから、目くじらを立てるのはやめておくことにするわ、おじ様も処分とかはなさらないでくださいましね」  「・・・おまえはまったく変わってないのだな本当に」  その口調には、羨望が含まれていた。  「ええ、もちろんその為のEVAですもの」  「そのEVAによる本来の補完計画はすぐにでも実行可能なのか?」  「サルベージ理論を煮詰める必要がありますから、弐号機の輸送をお早くお願いいたします」  「判った、急がせることにしよう・・・皆もご苦労だった、久しぶりに楽しい会議になった、ありがとうユイ」  「いいえ、こちらこそ」      「そういえば、NERVの利権にあぶれた連中が怪しげな物をでっち上げた件はどうなりましたか?」  「・・・どうして知っているのかね」  「初号機はMAGiとリンクしてましたから」  「なんでもお見通しかね」  「ええ」  「あれは・・・ジェットアローンとかいうロボットは、通常兵器が使徒に効果があることが判ったために、没になったそうだ」  「巨大ロボットよりも通常兵器の方が利益が大きいですものね」  「そういうことになるのだろう」  「で反省室の状況は?」  「現在4千回に突入した」  「あら、随分頑張っていますわね」  「しかし、墨と硯で墨汁から作らせるとういうのは、そうとう堪えているな」  「その為のお仕置きです・・・弐号機の輸送スケジュールは、立ったんですか?」  「いや、それが・・・」  その問いに、コウゾウは心底困ったという表情で報告をした。  「・・・まあ、それも仕方がありませんわね」  さすがに飽きれたという声でユイはため息をついた。      「・・・はぁ、でどうして僕は、UH−60になんて乗ってるんです」  「あらよく知ってるわね」  「そりゃ僕も男の子ですから、こういうのには一定の興味がありますよ」  「あ、男の子ってそういうもんなんだ」  対面の座席のミサトが感心した声を上げる。  もちろんイアープロテクターとインカムを通じた会話である。  「まあ、それが嵩じすぎると、ミリヲタとか呼ばれるようになっちゃいますけど」  「そりはかんべん・・・でブラックホークに乗ってもらっている理由は単純よ、セカンドチルドレンを出迎えにちょいと海の上まで足を伸ばさないといけなくなっちゃって」  「海の上ですか?」  「そう、駿河湾に入っているドイツの高速駆逐艦<ラインラント>までお出迎え」  「へ? 駆逐艦ですか」  「そうなのよ」  「・・・セカンドチルドレンだけを迎えに行くみたいですね」  「その通りよ」  「ああ、先発でセカンドだけ来たというわけですか!」  判ったという風に、手をたたいてみせる。  だが、ミサトの表情は優れない。  「どうしたんですか?」  「まあそれはラインラントについてから、アスカ・・・セカンドチルドレンは、惣流アスカラングレーっていうんだけど、この子よ・・・に会ってから、話すわ」  ミサトは、ファイルから一葉の写真を手渡す。  そのフレームの中には、こちらへ向かい片目を瞑り<あっかんべ〜>をしている少女が写っていた。  「はぁ? なんか訳ありなんですね」  「そう、訳がありすぎて、わたしにもなんだかさっぱり訳わかんなくなっちゃってるのよシンちゃん」    <ラインラント>は、ドイツとオランダ、ベルギーが共同開発したトライマラン型高速駆逐艦の試作艦だ。  中央船体を極限まで細くし造波抵抗を極限まで小さくし、最高速度47.2ノットという馬鹿げた速度を手に入れたのと同時に、左右の船体との間の「スポンソン」部分に上部構造物を集中配置することで、ステルス性まで考慮した試作艦である。    「どうして船なんですか?」  子供一人をドイツから日本へ送り込むのであれば、どう考えたところで、航空機を使うほうが圧倒的に効率が良い筈だ。  「まあ、それもそうなんだけど、アスカ一人になっちゃったのは、旅の途中からなのよ」  「はぁ?」    ———まったくアスカも大変だ、荒れてなきゃいいけど。  まあ、赤毛のお猿さんですから、それは期待薄でしょう。  ———だよなぁ。  司令室でのユイとコウゾウのやり取りを覗いていたシンジは、内心で頭を抱えていたのであった。      ———弐号機の『差し押さえ』ってなんなんだよ、まったくぅ!!  わははは。 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#7 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#8 --------------------------------------------------------------------------------  駆逐艦<ラインラント>発着艦デッキ。    「風が強いから、気をつけてねん」  飛ばされるものを持っているのは、ミサト本人だけであるが、そういう気遣いをするということだ。  「それにしても、駆逐艦っていうから、日本の汎用護衛艦くらいかと思ったら、大きいですね」  かなり広い印象の着艦デッキから前方の角錐を組み合わせ重ね合わせたような上部構造物群を望んだシンジが言った。  「そうね、14000トンっていうから重巡洋艦クラスの艦だからね戦自の「あかぎ」より一回り小さいくらいかしら」    「ミサトぉ!!」  そのとき、着艦デッキへのハッチを潜り、白いTシャツに空色のアロハを羽織り、ジーンズのホットパンツといういでたちの女の子が片手を上げて、こちらへ向かい呼びかけてきた。  少し前まで掛けていたのだろうサングラスがその手には握られていた。    ———ちぇ。  どうしたんです?  ———アスカのぱんつ見損なった。  そいつは、残念でした。      「あ、アスカ! 元気にしてた?」  「もちろんよって言いたいところだけどね、いったいどういうことなのよ」  「それが、本部も混乱してるのよ」  「稼動機が3体しかないEVANGELIONの1体を、NERVドイツ支部の固定資産税が未納だからってドイツ政府が差し押さえるってなんなのよ!!」  「わたしにも、さっぱりわかんないのよ」  「えっとミサトさん?」  シンジがミサとの脇をつつき、仕事を思い出させる。  「あ、そうだった、この子が惣流アスカラングレー、セカンドチルドレンよ、でこっちの男の子が」  「知っているわ碇シンジ、サードチルドレン・・・会いたかったわシンジっ!!」    「へっ? ぅわぁぁぁっ」  シンジは間抜けな声を上げつつもいきなり自分の胸に飛び込んできたアスカを慌てて抱きとめた。  「えっと・・・惣硫さん?」  「バカシンジっあたしから逃げられると思ったら大間違いよ」  アスカはシンジの胸に顔をうずめたまま小さく言った。    「うひぃ・・・」    「ああっと、二人は知り合い?」  その様子にやや引き気味にミサトは声を掛けてきた。  「・・・シンジのママとわたしのママは、EVANGELIONの開発者だったから、昔会ったことがあるのよ」  確かに、嘘は言っていない。  ユイもキョウコも開発者であるし、アスカとシンジはいきさつはともかく知り合いである。  ただ、二つの事実の時系列は、同一時系列ではないということだ。    「お〜なるほど幼馴染の再会ってわけか」  ミサとはさらに<それなら納得だわ>などと一人で納得している。  「ぼくは覚えて・・・いてっ」  背中を思い切り抓られた。  「痛いよ・・・ア・・・惣流さん」  「ひどい、キスまでしたなかなのに、覚えてないなんて」  「その後でうがいなんかしたくせに」  ジト目で返すシンジ。  「悪かったわね! 照れちゃった乙女心に気がつきやがれぇ!!」  「チョーク、チョークだってば・・・惣流さん」    ———いゃあアスカ思ったとおり荒れてるなぁ。    「こんちくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」  アスカは、シンジの首に回した右手を外そうと伸ばされた左手をつかむと、くるりと体を入れ替え、見事な一本背負いでシンジを投げ飛ばした。  「うわぁあああっ」    ———みんなも一本背負いの投げっぱなしは、危険だから絶対に止めようね。  シンちゃん余裕じゃん。    「まあまあアスカもシンちゃん壊れちゃうと困るからその辺りにしといてね」  「ちっ」  「惣流さんって、つ・・・強いんだね」  「やかましい! 誰のせいだと思ってんのよ!!」  「弐号機が差し押さえられたのは、僕のせいじゃないよ」  ———僕のせいだけどさ、まさか固定資産税の代わりに差し押さえるとは。  ドイツなかなか政府やります。    「ほらほらじゃれてないで、ブリッジへ行くわよ、ラインラントの艦長に挨拶してから本部へ帰るんだから」        「こ、これは、あまり気持ちの良いものではないな」  「・・・」  ユイとコウゾウ目の前には、日々再生しつつあるため、リリスの放つ誘使徒波動を上回り、ドイツ支部を危うくさせつつあった「たくさん」のアダムの入った耐爆コンテナがあった。    目の前には、琥珀色の硬化ベークライトに包まれた無数の胎児様のアダム達が、ユイとコウゾウをにらみつけている・・・。    ・・・考えただけで気持ち悪い。    「どうもいくつか作ったフェイクと本物の区別がつかなくなってしまったらしくてな」  「幾つかって数ではありませんよ・・・ドイツ支部というかキールおじ様たちは、いったいなにを考えていたのやら・・・」  ユイは<はぁ〜>と深いため息をつく    もちろんダミープラグ用の素体<KAWORU>を作成するためであったのだが、要するに量産EVAの製造が中止されたため、始末に困り果てていた、その上、本物もフェイクも再生しつつある為、誘使徒波動を出し続けているときては、いつ使徒に襲われるかわかったものではない。  さらにドイツ支部がドイツ政府による差し押さえ対象となり、セカンドインパクトの原因であるアダムが本部以外に秘匿されていることが暴露されてはなにかと面倒になってしまうという意味からも慌ててコンテナ詰にされ弾道軌道超音速機で移送されてきてしまったのである。    「・・・冬月先生、これではガギエル、来ようがありませんわね」  「魚・・・だったかなガギエルは」  「そうです」  「それは無理だな」  「ええ」    だが、お魚使徒は、二人の予想を覆し、やって来たのである。    ———っていったってどこへさ?  もちろんあなたの元へ。  ———おいおい。      「チルドレンの護衛、ありがとうございました」  「いやいや、艦内が華やかになってよかったよ」  50代の艦長が、やっと厄介払いができるという露骨な口調でミサトへ言った。    「お国の政府は、施設の接収だけでは、飽き足らなかったようですわね」  嫌味のひとつでも言わないと帰れないとでも思ったのか、余計なことをミサトが言う。  「そりゃあれだ、今まで散々あんたたちの<特務機関権限>で好き勝手をされたことへの仕返しだよ」  「それは国連が」  「たとえ国連が付与した特権であろうと、使わないという選択肢も存在していた筈なのだよ、好き勝手をされてきた側としたら、まだまだ足りないくらいだ、用が済んだらさっさと出て行ってくれないかね、我々はこれからまだ長い航海をしなくてはならないんだ」  「・・・失礼します、行くわよ二人とも」  その艦長の言に返す言葉がない。  言いたいことはたくさんあっても、負け惜しみにしかならないからだ。    ラインラントの狭い通路を体を密着させて並んで歩く。  「ミサトも一言多いのよね」  「仕方ないよ、いきなり回りの態度が変わったんだから」  「全部あんたのせいじゃない」  「だから弐号機を差し押さえたのは僕じゃないってば」  「・・・どうするのよ」  「弐号機だけなら、キャリアーで丸一日もあれば移動できるしね」  「そうじゃなくて!」  「アスカは、どうしたいの?」  「え?」  今隣を歩く「こいつ」を追いかけたファーストに便乗して戻ってきたのは確かだ。  ただ、追いかけることが目的であり、戻った先で「なにをするか/したいか」なんてことは、考えたことはない。    「どうしよう・・・」  「はぁ・・・あの赤い世界で随分長い時間を二人きりでありながら一人きりの時間を過ごして、僕はアスカが少しは変わったかなって思ったんだけどね・・・後先考えないのは変わってないんだね」  「・・・悪かったわね」  「僕のやり方が気に入らないなら、近くに居ないほうがお互いに良いんだけど」  「・・・あたしはあんたの邪魔になるの?」    「反対するなら、アスカでも排除するよ」  そう口にしたシンジの気配が変わった、アスカはそう感じた。  凶悪な、肌がビリビリするような殺気が、華奢なその体から溢れ出している。  「あたしを・・・脅すの」  泣きそうな、消え入りそうな、すがるような声と視線で、それでもシンジの腕をつかんだままアスカは聞いた。  「僕には、僕なりのけじめのつけ方があるって話なんだけど・・・ごめんちょっと怖かった?」  殺気が消え去る。  急ぎすぎた。  自分と同じようにアスカ自身も、変わったのだと思っていたから。  あのときからアスカは、変わっていない。  子供のままだ。  彼はそう理解した、だから、アスカに対する関わり方を変えた。  対等なものから、庇護するべき対象へ・・・と。  「・・・怖かったわよ、突然」  「悪かった、アスカに・・・僕の知っているアスカに会えてホッとしたからかな」  カラカラと笑ってみせる。  「まあねそりゃあたしもあんたに会って、肩の力が抜けたもの」    着艦デッキに出る狭いハッチを潜り、陽の光の中へと戻る。  アスカが、大きく伸びをした。    すでに、UH−60は、エンジンを始動しており、ミサトは搭乗口に消えようとしている。  「急ごう」  シンジは、ヘリへ向かいアスカの背中を押しつつ駆け出した。    ———早くはなれないと、この艦が沈むからね。  シンジは、最前から水中を突き進む気配を捉えていた。     -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#8 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#9 --------------------------------------------------------------------------------  二人は駆け出し、搭乗口に飛び込む。  「ミサトぉ、あたしを置いてったら、意味がないでしょ!」  「あんたたちに当てられたくないわよ」  「どういう意味?」  「レイに浮気をしてたわよ〜ってばらしちゃおうかなぁ」  「ミサトさぁん」  ———ったくこの人は・・・。  「・・・あ〜っなるほどね、ミサトはあたしがこいつと付き合ってるとか思ってるわけ」  「だってあんなにべたべたしてたじゃない」  「狭いところを並んで歩いたからよ」  「あら〜、男なんて歯牙にもかけてなかったアスカがねぇ」  「うっさいわね〜、んなこというと、加持リョウジの召喚呪文唱えちゃうんだから」    ———召喚呪文って加持さん使い魔扱いかい(笑)    「・・・い゛っ・・・ちょっとアスカ」  「加〜〜持〜〜〜ぃさぁぁぁぁぁん」  アスカが叫ぶと同時に、搭乗口の横から無精ひげをはやしたYシャツ姿の男が<ひょい>っと顔を覗かせた。  「おう、呼んだかいアスカ」    「ああ、加持ぃ〜、あんたいったい・・・どうして・・・」  「どうしてもこうしても、アスカのエスコート、まその実情は荷物運び、だっがっねっ」  ドンドンドンっとかなり大ぶりのキャリーケースを3つとバッグを3つ、搭乗口へと押し込んでくる。  「えへへ、ごめんなぁさい加持さん」  「まあアスカに持たせるのは無理な量だから仕方ないさ」  この場合荷物を減らせという選択肢は存在していないらしい。  加持は、機内へ入ると「ほれ詰めろ」という風に、ミサトの腰の辺りを手で払うしぐさをする。    搭乗予定の全員が乗り込んだことを確認したオフィサーがドアを閉めた。  やがてコクピットの前に居るオフィサーとの手信号によるやり取りの後ローターが回転数を上げはじめた。  全員がイヤープロテクターとインカムをつけ終わったのを確認したパイロットが、フワリっとUH−60を離艦させた。      「いゃあ、あぜったよ、艦内は妙な音紋を捉えたって、非常体制に入りかけてたし」  「非常体制? ってなに。  戦自の潜水艦でも居たってぇの?」  ミサトは、加持から思い切り離れようと身をよじる様に座っている。  「いまさら戦自の潜水艦くらいで、非常体制を発令するようなタマかい、あの艦長が」  「じゃあ・・・」  「使徒ですか?」    シンジの声に加持は肯いて見せた。    「なによそれ、いったいどうして?!」  という声はアスカだ。  アスカも前回加持の持っていた「アダム」を追いかけて使徒が来たことは知っている。  だからこその疑問だった。  なにろ、今回の加持は「アダム」を持っていない。    「さぁ、あんな存在の行動原理なんてわからないしなぁ」  「ともかくEVAが無いんじゃ話しにならないわ」  「慌てなくても、もう戦時もUNFも動き出したよ」  「あんたね、NERVの職員でしょう! もう少し危機感持ちなさいよ」  「んなこと言ってもオレは、内務省からの出向だしなぁ」  へらへらと笑ってみせる。    「ったく、こいつは・・・ねぇ内田君、急いで戻ってどのくらい?」  『ここからだと全速で30から40分かかりますよ』  それでもヘリの速度が上げられたのが判る加速感があった。  このときミサトは、内心で「MV−22オスプレイかVF/A−4ハヤテを調達するんだった」と後悔をしていた。  ティルトローターのMV−22は、最高速度が200キロほど上回るし、ジェットエンジンをティルト式に4発も装備しているVF/A−4であれば、亜音速で巡航が可能だからだ。  もっともラインラントの発着艦デッキは、ハヤテのジェットブラストに耐えられないためも有り、司令部用のハヤテは、考慮の埒外であった。    「そうよねぇ・・・ねえ内田君、回線本部とつなげてくれる?」  『判りましたぁ・・・どうぞ』  「日向君居るかしら?」  『ああ、葛城さん良かった無事なんですね、そっちに使徒が』  「やっぱり出たのね」  『はいラインラントの至近を遊弋中です!』  「とりあえずEVAの発進準備だけはしておいて」  『それが』  「どうしたの」  『碇司令の指令で、零号機がキャリアーで発進しています、現場まであと15分です』  「よっしゃぁ!!」      『ブラッドタイプ、パターンブルー駿河湾内で確認されました』  例によってロンゲの兄ちゃんの報告からそれは始まった。    NERV本部内に警報が鳴り渡り始める。    「青葉君、警報は止めてください、零号機をキャリアーで出します、それからM型装備に換装を忘れないように」  「了解しました、EVA零号機発進準備にかかります」    「ユイ君、本気かね」  「使徒が出現したというのに、使徒迎撃特務機関であるNERVがなにもしないわけには行きませんわ」  「それは、そうだが、指揮権限が」  「そういう縄張り意識が、弐号機の差し押さえなんて間抜けな事態を引き起こしたんですわよ、冬月先生」  「しかしなぁ」  「演習目的で、出動済みだったということでどうでしょう」  「・・・強引じゃないかね?」  「理由なんて、存在していれば、官僚なんていくらでも納得させられます」  「まあ、そうかもしれんが・・・」  このときコウゾウは、この妻にしてあの夫ありだったのだなぁ、などと一人で納得していたのであった。      「レイ、零号機発進準備」  ガンルームで一人壱中の制服姿で文庫本を読んでいたレイは、そう言って駆け込んできたリツコに引きづられるように、更衣室へと向かい歩き出した。    リツコは、零号機の発進指揮のために、管制室へ行く途中だったようだ。    「使徒ですか?」  「そうよ、ラインラントが襲われるかもしれないわ」  「碇君達がですか」  「そうよ、だから急いで頂戴」  「判りました」    更衣室へ飛び込み、征服を文字通り脱ぎ捨てプラグスーツへ着替えてゆく。    しかし、レイは別段慌てては居ない、シンジの力を知っている彼女とすれば、零号機を出す必要も感じてない。    しかし、レイはあせっていた。  なぜならば、彼女は知っていた、前回弐号機の初陣となったガキエル戦において、弐号機パイロットと碇シンジが同じエントリープラグに乗って勝利したことを。    常々、レイはそれをうらやましいと思っていた。    だからあせっていた、今回は上手くすればシンジとタンデムでエントリープラグに乗ることができる、そう考えたからだ。    「碇君、待ってて、すぐに零号機と私が行くの、そしたら一緒にエントリーして、心をひとつに溶け合わせるの・・・そしたら・・・・うふふふ・・・こんなことも・・・うふふふふふ・・・こうして・・・うふふふふふふ・・・あんなふうなの・・・・うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ・・・」    ちょっと妄想が入りすぎているレイだった。    「零号機へプラグ挿入!」  「いいかしらレイ、レイ!」  「あひゃっひゃっひゃっ・・・あひゃっ・・・あひ・・・・・・あ、はい、赤木博士」  「・・・いまさら冷徹ぶっても遅いわよレイ」  リツコがジト目でレイをにらむ。  「・・・」  レイは、いつものように澄ました表情をしているが、顔が真っ赤な上に目が泳いでいては意味が無い。    「ま、いいわ、零号機用のM型装備が間に合わなかったから、手足の装甲を初号機用の物と換装して装備しています、かなり無理やりな工事だから、振り回すときには脱落に注意して」  「・・・それって無茶」  「予算が下りないから、そういう無茶はこれからも増えるわ」  共食い整備をはじめたら、最早その組織は、その戦争に負けていると言えるだろう。  「判りました」  「M型は・・・」    リツコの装備の使い方と使用上の注意がレイへ口頭で告げられる。  もっともまともに戦闘行動を行うとはレイはそもそも思っていないため、科学技術者としてクドイといえるレベルのリツコの言葉は、聞き流していると言ってよい。    その上彼女はどうせM型装備などというイロモノが、今回限りしか用を成さないことも知っていた。    「いい、脚部のラウンドプロペラには、陸上移動時には気をつけて頂戴」  「わかりました」    「第一ロックボルト解除、EVA零号機キャリアーへ自力で移動願います」  「了解」    メキョ・・・。    「あ・・・」  不用意に足を踏み出そうとしたレイは、いきなりそのラウンドプロペラをへし曲げてしまったのである。    「レ〜イ〜〜〜〜!!!」  「赤木博士」  「なによ」  「取り付け位置の再考をお願いします」  「・・・そう、私たちの取り付け方が悪いと、あなたはいうわけね」  「・・・」  スクリーンの中でジッとレイは、リツコの目を見つめるだけだ。  「・・・わ、判ったわよ・・・再考しておくから、その目は、止めて頂戴」  その言葉に、レイは視線を外すと、今度は細心の注意を払いつつ、零号機の移動に取り掛かった。  「いいわよ別に推力変更ができないだけで、手足を振り回せば、自在に動けるんだから・・・困るのは私じゃない、レイだもの・・・それなのに・・・」  リツコはぶちぶちと文句を言っているが、レイは、そ知らぬそぶりで、ケージからキャリアー発進デッキへの移動リフトへと零号機を移動させていった。    しかし、移動する零号機の挙動は、思考制御であるという特性上、レイの<壊しちゃった、壊しちゃったぁ!>という焦りによって、完全に浮き足立っていたのであった。      「UN太平洋艦隊の増援はまだか?」  「それがオーバーザレインボーを含む機動部隊は、四国沖で演習中とのことで」  航空機を飛ばしても1時間は余裕でかかる距離だ。    「日本の戦自から、イージス護衛艦2隻を含む任務部隊計10隻が来援途中であると言って来ました」  「どれだけかかる」  「はい、10分もあれば、短魚雷の射程に捕らえられると」  「・・・10分か・・・よし」  艦長はシート横のマイクを取り上げた。  「全艦に告ぐ、艦長のユンゲルスだ、前世紀にイワンの艦隊をへちつぶした日本帝国海軍のひ孫たちが、わが艦の救援に急行中だ! いいか10分間だ、それだけの間、このラインラントはその全力を出し切る、諸君らの奮闘を期待する、以上!!」    しかし、誘使徒波動の張本人がラインラントから離れた以上、不用意に手出しをしないかぎり、ラインラントが襲われることは・・・あっ。    「目標突っ込んできます!!」  副長が不用意に転舵した方向に「そっちじゃねぇ!!」というブリッジクルーの突込みの前に、艦長の大音声がマイクを通じて響き渡った。  「総員耐ショック姿勢!!」    自ら進路を変えたりして使徒に突っ込まれない限り、ラインラントは生き残る筈だった・・・合掌。      ———あ〜あ、いくらなんでもこれは僕のせいじゃないからね。    ドイツ海軍試験駆逐艦「ラインラント」神様の配慮にも関わらず、敢え無く<ボカチン>です(爆)     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#9 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#10 --------------------------------------------------------------------------------  『ラインラント』轟沈の報は、周辺に兵力を展開している組織に、タイムラグなしで伝わった。    新横須賀にある統合参謀本部横須賀支所の指揮所である。    正面の大型スクリーンには、戦域図が表示され、展開中の各部隊の位置が示されている。  ラインラント轟沈を受け指揮所内は、喧騒に満ちていた。    「・・・くそっ間に合わなかったか、化け物めっっ!」  戦自の将補が、拳を握り締めうなり声を上げた。    「第一護衛艦群、接触まで5分です」  「二度と無花果野郎供(NERVのマークですな)に、獲物を渡す気は無いんだ、気を引き締めてかかれ」  「それですが小笠原将補、キャリアーとかいう全翼機で木偶が出ているようです」  「ふん、コードがなけば、文字通りの木偶なんだ、運用プラットホームが海上にない以上、なにもできやせん、放っておけばいい・・・だが、監視はつづけろ」  「了解、監視は続行します」      「ええっ!? ラインラント沈んだぁ・・・?」  『はい、使徒に正面から突入されて、轟沈したようです』    「それじゃあ零号機が来ても、降りられないじゃない」  「どっちにしてもラインラントじゃ零号機は、重量オーバーで沈んだと思うんだけどなぁ」  まあ基準排水量一万四千トンの巡洋艦に、装甲が初号機かほど厚くなく軽いとはいえ総重量が2000トンに近い零号機か空中から着艦できるとはとても思えない。  「うちの連中って後先考えなさすぎよ! 運用プラットホームを考えないでEVAだけ出してもしょうがないじゃない!」  「まあ、一応NERVは使徒迎撃特務機関である訳だし、ポーズだけでもしておかないとだめって事じゃない」  「これ以上、予算減らされたらお給料も出ないかもしれないしねぇ、ミサト」  「・・・そうなのよ、車のローンが、わたしの唯一の楽しみのビールが飲めなくなっちゃうわよ〜、加持あんたなんとかしなさい」  「おいおい」  「あんた内務省に顔が利くんでしょ、だったら、日本政府からお金ふんだくってきなさいよ」  「そういうのは、六分儀元司令が得意だっただろう、なぁ息子の碇シンジくん」  「一介のパイロットに、そんなことわかりませんよ」  「あの顔だもの、ハッタリは利きそうよねぇ?」  「ノーコメント」    「内田君、キャリアーに降りられないかしら?」  『葛城本部長無茶をいわんでください』  「無茶は承知で言ってるの、キャリアーにはリツコが乗ってるわ、なんとかして零で使徒を倒さないと、あんたの給料も減っちゃうわよ」  「おい、葛城俺たちだって乗っているんだ」  「こうなったら一蓮托生呉越同舟臥薪嘗胆じゃない、覚悟を決めてちょうだい」  「葛城、無茶言うな!!」  「死んで花実は咲かないわよ〜」    『目いっぱい向こうに減速してもらって、下に下りてきてもらえたらなんとかします』  「ありがとう恩に着るわ」  『それなら査定のほうお願いしますよ』  「まかしといて」    「この上司にしてこの部下ありか」  「あんた達観してないで、なんとかしないよ」  「ミサトさんが、一旦こうと決めたらそれを簡単に変えやしないって惣流さんだって知ってるだろ?」  「だからってあんたともう一度心中・・・は、ごめんだわ」  「僕だってこんなところで死にたくないよ」    ———まったく、この人は本当に後先考えないんだから。  ま、ミサトさんですから。      「で、どうして三人でエントリーしてるのよぉ!」  シンジがインテリアにすわり、その右にレイが左にアスカが屈んでいるという状況だ。  「仕方ないだろ、リツコさんがついでにデータ取るって言うんだから」  「碇君と一緒にエントリー・・・うふふふっ・・・でも異物がひとつ」  冷たい視線でアスカを見据える。  「異物で悪かったわね、あたしだって好きで乗ってるんじゃないわよ」  「碇君のこと好きじゃないなら、降りて」  「あんたね〜!」  「まあまあ二人とも」  『三人とも、どうでも良いけど準備はいいのね』  「「「は〜い」」」    そうは言っても、どうやってウイングキャリアーに移乗したのかは、疑問に思うと思うんですが?  ———ATフィールド。  ・・・そ、それだけですかい!!  ———だって、リベリング(装具降下)しただけの話だし。  でも、ミサトさんはえらい目に会ったようですが?  ———自業自得。  さいですか。      「まったくあのバカ! なに考えてるのよっ、空中で移乗するって時速300キロの空中で、生身の人間がんなことできるわけ無いでしょうがっっ!」  マイクを握り締めたままリツコは、手近の壁をガスンガスンけり上げた。  ミサトがウイングキャリアーへ移るからよろしくぅと無茶を言ってきたのである。  『赤木博士』  「なに?」  『碇君たちと無事に合流する為に、零号機の起動をお願いします』  「どうするって言うの?」  『ATフィールドでUH−60の前方に壁を作り出し無風空間を形成します』  そうなれば、UH−60からの降下も楽になるし、限りなくウイングキャリアーに接近しての移乗も可能だろう。  そんな器用なフィールド形成が可能ならばの話だが。  「・・・でもね」  『言い出しっぺの葛城一尉に最初に降りてもらえば良いと思います』  「・・・そうね少し痛い目にあってもらいましょうか」    かくして、リベリングと相成ったのである。    「のひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜っ、あわわわわわわっ、いがががががががかっ、ひぃやぁあああああああああっ」  時速300キロ、秒速83メートルの風をまともに受ける状態で、ほぼ20メートルの降下を行うと・・・生きているのが奇跡だと感じられるようになるだろう。    びったんびったんとウイングキャリアーの機体に叩きつけられつつもミサトはなんとか上部点検ハッチから機内へ入り込むことに成功した。    続いてシンジが先ほどのミサトの状況が嘘であるかのような無風状態で、スルスルと降下を終え、アスカもそれに続いた。  加持は、ただ一人ヘリへ残り、そのまま本部へ向かったのである。  もちろんシンジとアスカは、シンジが張ったATフィールドのチューブの中を降りたのだから、微塵の危険もありはしなかった。      「ユイ君」  「なんですか?」  「いや・・・来たなガギエル」  「ええ、来ましたわね、なかなか根性のある使徒ですこと」  ふっと遠い目をしてみせる。    「ところで、SEELEの進めていた補完計画とは、それほど危ういものだったのかね」  「沢山の人をアンチATフィールドでLCLへ還元してひとつにしたら、本当にヒトが補完されるなんて思うのですか?」  「群体生命たるヒトの進化とは、そういうことではないのかね?」  「それでは先生にお聞きします、何のためにヒトが群体を選んだと思ってらっしゃるのです?」  「多様性で進化の究極である袋小路の到来を先に延ばすためだろう」  「違いますわ先生、多様性とは、可能性です。  単体を選択した使徒は、その時点で既に袋小路にどっぷりとはまってしまったんです。  たとえ試行錯誤をしたとしても、その多様性の中から問題解決能力を持った個体が出現する、それを期待できる、それこそが群体の意味です。    SEELEの補完計画とは、寂しいから心をひとつに溶け合わせましょう、そうすればお互いに分かり合える、気持ちの良い世界が作れるよ、なんて子供じみた幻想を抱いているだけです。  他人は心が溶け合おうがなにをしようが、所詮は他人でしかありませんわ。  考えが心が読めるから、争い事が無くなるなんていうのも単なる思い違いにすぎません。  逆にありとあらゆる隠しておきたい感情があけすけに見えてしまったなら、人は人に幻滅しますし、その心を健康に保つことも難しくなると思いますわ」  「だが、その状況からサルベージをし、人に戻ったなら、意味があるのではないかね?」  「・・・そうなったら、きっと親しい者同士の殺し合いで人類は滅びるでしょうね」  「きついな君は」  「私は初号機のコアでシンジと交じり合いました<心>が、それでも自分の息子であるあの子とも最終的に分かり合うことはできませんでした、せいぜい和解程度の状態でしかありませんわ、親子でもそうなんです、他人と究極的に理解し会えるなんて、小学生の社会の授業だってそんな恥ずかしいこと言いませんよ」  ———あれは、交じり合ったとは言わないよね?  まあ、そういう認識なんですから仕方が無いのでは?    「そうか、だから君は、補完は幻想だと看破したわけか」  「ええ、その通りです何の根拠も無く、一つの仮説を不可能と決め付けるほど私は、自分の能力を過信していませんから」      「エントリーしたはいいけど、攻撃手段が無いじゃない!」  「とりあえず、この場所に居て、ATフィールドの無効化に役立ったっていう<フリ>は、しないとさ」  「あ〜もう、レイあんまりシンジにくっつくな!」  「・・・あなたカルシウムが足りないわ」  「うるさいわね、どういう意味よ」  「さっきから、ずっと罵詈讒謗(ばりざんぼう)の万里の長城を築き続けているわよ」  「・・・ばりざんぼうって・・・なに?」    流石のアスカといえども、四文字熟語には弱かったようだ。    「ありとあらゆる悪口を言ってののしりそしることだよ・・・まあ確かに女の子の態度としては、いただけないと思うよ惣流さん」  「ううう、判ったわよ、黙ってれば良いんでしょ黙っていれば!」  「あ〜っと・・・あのさ、そうじゃなくてアスカが落ち着かないと、僕達も落ち着けないから、心を安らかにして欲しいって綾波は、言いたいんだと思うよ」  「ったくそれなら遠まわしに言わないで、そう言えば良いじゃない」  「あなたがイライラしているのは、零号機(この子)の雰囲気が弐号機と違うから、あなたの隔意は、そのままあなたへと戻されるの」  「・・・だって、なんだかチクチクするし、ギスギスしてるし」  「弐号機のとき見たく心を委ねて見せれば、零号機のコアは受け入れてくれるよきっと」  シンジは、アスカの肩をポンと叩いた。  「判った・・・」  アスカは深くLCLを吸い込み、肩の力を抜き、そして集中をはじめる。    「ハーモニクスの揺らぎが収まってゆきます」  「4から2・・・1へ」  「セカンド心理反応+へ移行しました」  「セカンドシンクロ率上がります・・・5・・・7・・・12・・・17」  「起動閾値突破!」  「零号機トリプルエントリーで起動しました!」  「統合シンクロ率・・・234.5%」  「そう、そのままデータは取り続けて頂戴、あなたたちトリプルエントリーで起動したわ、ご苦労様」      「葛城さん、厚木からGBU-90を積んで上がったラプターが護衛艦群よりも先に接触します」  ウイングキャリアーのコクピットの後方のコマンドルームに陣取ったミサト@包帯ぐるぐるは、日向マコトからの報告を聞いていた。  まるで前文明状態における衣類の洗濯行為のごとく力いっぱい<びったん、びったん>と思いくそ叩きつけられた割には、元気である。    ———流石アダム因子の保持者だ。  そりゃ別の話です。  ———ここでもそうなんだよ〜ん。  え〜〜〜! マジですか?  ———マジ。    GBU−90とは、二万ポンド級の大型爆弾に、精密誘導キットを取り付けた簡易誘導爆弾である。  およそ10トンという巨大な爆弾を機体中央の兵装架に取り付けたF/A−22ラプターが4群編隊16機で、ウイングキャリアーの下方を流石に亜音速で航過してゆく。    「どうして」  「護衛艦群は、攻撃手段を失ったようです、現在使徒は、相模・・・いえすいません駿河トラフの深部にもぐりこんでしまっていて、護衛艦群が持っている短魚雷では、攻撃できる深度じゃないんですよ」  「・・・あきれたわね、いったい何百メートル潜ってるのよ」  「はあ、600メートルほどだと」  「・・・ありゃん・・・そりじゃ攻撃型原潜でも無理だわねぇ・・・ああもう! 鳶に油揚げさらわれた気分だわったくぅ! いたたっ、あ痛たぁ」  「葛城さん休んだほうが」  「平気よ骨折したわけじゃないし」  「でも・・・心配ですよ、あまり無茶せんでください」  「・・・そうね、マコちゃんがそういうなら無茶はこれ切りにするわ」    ———あれ? もしかしてミサ×マコのフラグが立った?  ええ、ラミたん戦のキスでばっちりです。  ———ありゃ〜・・・加持さんご愁傷様。    「で、どうするの?」  「ラプターが抱えているグランドスラムで決着付けちゃうよ、これ以上ガギエルで引っ張ってもしょうがないし」  「引っ張るってなに?」  レイがシンジの顔を覗き込む。  「いやこっちの話だよ綾波」  そういうと、シンジはチュッと唇を一瞬合わせる。    アスカは、その光景に驚いた顔で固まってしまった。  レイは、ほわわんっと頬を染めると、両手を頬に持っていき、くねくねとなにやらつぶやき始めた。    「碇君の匂い、碇君の唇、碇君の・・・いやっこれ以上は言えないの、恥ずかしいから・・・でも、ああ碇君っ」  レイは、くねくねと体をゆらし妄想を吐き続けている。    「・・・あんたたち、できてたの?」  「まあ、できてたというか、こっちに来てからそうなったというか」  「そう・・・あたしが入る余地なんて最初から無かったんだ」  落ち込んでゆこうとするアスカを引き止める手があった。  「わたしは」  「なによ」  「わたしは碇君と話したわ、碇君に誠意を見せて欲しかったから、あなたは自分の気持ちを碇君に伝えたの?」  「・・・ば・・・ばっかじゃないの、そんなの口にしなくたって男のほうは気がつくべきよ」  「それはずるいわ」  「ずるくても、そういう配慮ができなくちゃ大人の男じゃないわよ」    「碇君は子供よ」  「・・・あ・・・」    え〜っと、そうなんですか?  ———・・・ノーコメント(爆)      んな事をしている間に、使徒が潜んだ駿河トラフの該当海域上空へ到達したラプターがGBU−90を投下したのである。  しかし、元が単なる爆弾とはいえ、60気圧に耐えられる筈がないのは、自明の理である。  だが、この場合16発のGBU−90は、吸い込まれるように使徒を直撃し、その殲滅に成功してしまったのであった。    もちろん、シンジがATフィールドで細工をしたのは言うまでも無い。    ———今回は零号機の力が使えたから割と楽勝だったけどね。     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#10 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#11 --------------------------------------------------------------------------------  「ではどうしても弐号機は、お渡しいただけないとおっしゃいますか?」  恰幅のよい白人男性に向かい、ユイはため息とともにそう言った。  目の前の巨大なホロスクリーンに映っているのは、ドイツ連邦大統領リヒャルト・フォルケンシュタイン。  使徒迎撃特務機関としてのNERVの実務能力にG8諸国の中で最初に見切りをつけ、SEELEの影響力が一番強大なはずのドイツにおいて、反旗を翻した硬骨漢であった。  「あなたにもお分かりのはずだ、NERVという組織の異常さが、ドイツ国内において行われていた数々の違法な実験の証拠はすべて差し押さえさせてもらう、それはEVANGELION弐号機とその付属施設・付属装備についても同様なのだ」  「・・・大統領閣下」  「なにかね」  「では、既に国連軍大西洋・太平洋艦隊の所管となっていた弐号機もドイツの国内法によって接収されたということになるのですか?」  「なに?」  「あなた方が艦隊を使用し公海上において弐号機を接収された時点で、弐号機とその付帯設備・装備は、国連軍の管理下に置かれており、NERVドイツ支部の管理からは外れておりました。  これは、国際法上許されることとは言いかねるのではありませんか、有体に言うならば国家規模の海賊行為と定義されてもおかしくないことだと私は感じております」  「海賊とは恐れ入った」  「他にどう表現をしたら良いのか私にはわかりかねます。  もちろんNERVドイツ支部の行っていた不法行為について特務機関権限すら外れていたことは、弁解の余地もないですし、それらの行為についてドイツ連邦法の枠内において、裁判が行われるのは、当然のことでありましょう。  しかしEVANGELION弐号機については、国連が日本への移送を行っている状況で、さらには、まるで別件の固定資産税滞納による差し押さえなどというとってつけられたような理由を持ち出しての接収では、海賊行為とそしられても仕方が無いのではありませんか」  「・・・」  「それにEVANGELION弐号機は、専属パイロットである惣流アスカ・ラングレー以外の者では指一本動かすことはできませんよ」  「・・・なに?!」  「ドイツ政府がなにを考えて弐号機を接収なされたのかはわかりませんが、動かない木偶を保有していても、その維持管理費だけが嵩んでゆくだけではありませんか?」  「そんなことは聞いていない!」  「・・・言える筈がありませんでしょ。  弐号機専属パイロットは、14才の少女ですよ、そんな子供が地球を守るなんていうジャパニメーションの悪夢のようなことを、世間に公表できますか?」    そのユイの言に、リヒャルトは、う〜んとしばらく唸ったままだ。  ドイツ連邦政府の真意は、要するに通常兵器とは次元の違うEVANGELIONという兵器を接収、戦力化することによって、欧州におけるドイツ連邦の発言権を増大させようというレベルのものであった。  たが、その弐号機が動かないとなれば金食い虫でしかない弐号機を後生大事に抱えている意味はなくなったといって良い。    「・・・そうか、なるほど動かないのでは仕方が無い・・・専属パイロットを帰せと言っても、そちらにその気はまったく無いのだろう?」  「もちろん彼女は、うちのエースパイロットですよ、少なくとも使徒の侵攻が無くなるまで、彼女には本部にいて貰わなくてはなりません」  「・・・わかった、弐号機及び付帯装備一切合財のNERV本部への移管を認めよう」  「では、ウイングキャリアーで弐号機をすぐにでも送り出してください」  「了解した」      「次イスラフェル・・・だっけ? 分裂するやつ」  ジオフロント内スイカ畑予定地にチルドレン三人の姿があった。  なぜこんな場所にいるかというと、喋っている事を聞かれないためだ。  ガード/監視員たちには聞かれるじゃないかとおもうかもしれないが、そのあたりはシンジの万能ATフィールドがなんとかするらしい。    んな事できるんですか?  ───なにしろ心の壁だし。  な、なんだか、判ったような、わからないような。      「そうよ、どうするの」  「いまさらあれしたい?」  あれとは、ユニゾン特訓のことであるのは、言うまでも無い。  「うげぇっ、あたしはミサトのヘタッピィな歌延々と聞かされるの絶対にごめんよ!」    「もっともその前に、弐号機が来てくれないとユニゾンすらできないんだけどね」  「どうしてよ」  「だって初号機に僕は、乗れないことになっているからね」  「へ?」  「母さんサルベージしちゃったから、誰かがエントリーしたら過剰シンクロで取り込まれちゃう筈だもの、怖くて乗せられないんだよ」  「でも、あんたは」  「確かに僕は取り込まれないアダムとリリスの力を受け智恵の実と力の実を宿した人類の完成形である第18使徒リリンだから」  「それなら乗ればいいじゃない」  「それで僕は使徒として殲滅されるのかい? そんなのはごめんだ」  「・・・ふ〜ん、そんなことが怖くて乗らないんだ?」  じっとりとした視線でアスカは、シンジをにらんだ。  「あなた、碇君のこと全然判ってないのね」  とてつもなく冷たい口調でレイが言う。  「どういう意味よ!」  「碇君は、サードインパクトを阻止するため、使徒を全部倒す前に自分の正体が知られてしまうことを避けたいと思っている」  「だってSEELEの爺さん達は、諦めたんでしょ?」  「そう思うの」  「だって・・・シンジのお母さんが説得したって言ったじゃない」  「確かに、説得したし、SEELEの12人の大半は諦めた節がある・・・けどねその中の幾人か、白人至上主義に染め上がった頑迷な人たちは、東洋人との混血である母さんの言うことなんてこれっぽっちも信じちゃいないんだ」  「・・・」  「惣流さんにならSEELEの人たちのそういう部分、なんとなく理解できるんじゃない?」  「したくなんかないわよ! そんなの・・・でもだったら、どう阻止するのよ」  「最悪、僕が直接LCLへ還すよ、大体の居場所はわかっているし」  「だったらさっさと」  アスカは親指で首を掻き切るといういささか剣呑なしぐさをしてみせた。  「それは、ダメだよ、今手を下したところで人が入れ替わるだけで、対象が分散するだけ不利になるだけだよ、やるなら最終局面に決まっている」  「タイミング読み損なって、量産機とエンドレスバトルなんてならなきゃ良いけど」  「僕だってウナゲリオンの顔なんてもう見たくも無いさ」  そういうと、手のひらに浮かび上がった聖痕を掲げて見せた。  「うずくんだよ、これがねあのときのことを思い出すと、暗い感情に流されそうになるんだ・・・ん、ありがとう大丈夫だよアヤナミ」  両手でシンジの掲げた右手を押し包み、自分の胸に押し当てる。  レイの鼓動が伝わり痛みが和らいでゆく。  その様子を拍子抜けした顔でアスカはじっと見詰めていた。     「さて、冬月先生、弐号機の受け入れの準備をお願いします。  弐号機が間に合わずに使徒が出た場合には、零号機のみを出してくださいね、それであちら方はどうなりましたか」  「うむ、それなのだかな流石に疲労が激しくて、現在中断中だよ」  「あらあら、年なのかしら? 前回は1週間で終わったというのに」  「・・・本当かね?」  「ええ、両手で筆を8本持って・・・」  「両手っ?! ・・・儀体でも使っているのかね奴は・・・」  「六文儀家の秘伝とか言ってましたわ」  「・・・これは初耳だ六文儀家とは、格闘家の家系だったか」  「さあ、存じませんわ」       そんなわけでイスラフェル君がやってきました。  なにしろ姿かたちはやじろべえのような妙なやつです。    当初からえっちらおっちら海底を這いずり回っている、その水中雑音は、駿河湾内の護衛艦群によって捕らえられており、その正体不明さ加減から戦自司令部は探知当初から使徒と断定していた訳ですが、直接接触が行えずブラッドパターンの解析が出来ない以上攻撃は手控えていたということになるようです。    で、ようやくパターン解析が可能な深度まで浮上してきたため「たまたま至近を航行していた」実験艦<あすか>が接触を試みパターンの確認は出来たものの、イスラフェルの進路上を航行していたため、もののみごとにイスラフェルの鋭い爪により船体を三枚におろされ轟沈してしまいました。    同名の船が沈められたことに対するセカンドチルドレンの感想。  「ふっざけんじゃないわよ!  大体この国の連中は、何かといえば実験機だの実験船だのに<アスカ>って名前、勝手に付けるんじゃないわよっっっっ!!」    ・・・え〜っと、そんなに多いかな?  STOL実験機と実験艦しか知りません。  だよね。    そこっっっ! いちいち突っ込むんじゃない!! ATFカッターで首ふっとばすよ!  「「はぁ〜いっ」」    ま、実験艦とはいえ沈められた上にそれなりの犠牲者まで出でしまった戦自司令部の怒りは心頭に達し新規開発大深度用N2爆雷の使用を即座に決定(ぉぃぉぃ)  C130Hに搭載し送り出したまではよかった。    狩ってくるぞと勇ましく、勇んで空に出たからは・・・。    ってな感じで、これまた多分C130Hの乗員の皆さんは、結構楽勝気分であったはずなのである。    問題はイスラフェルがやる気満々であるうえアスカの怒りによって神様であるシンジがその力を振るっていないという状況なのである。    だって、あたしに「犯らせろ」・・・もとい「殺らせろ」ってうるさいんだもの。  はあ、さいですか・・・困った娘さんだにゃ。    それにしても  「地図が書き換わった・・・な」  ・・・あ、副指令、お茶いかがです?  もちろん京都の宇治産の一番茶で、ええ、お茶請けに生八橋なんかもありますよ。  ああ弐号機受け入れ準備でお忙しいんですか、じゃ副司令の机に届けときます。    とはいえ普通、水中で<太陽爆弾>爆発させますかぁ?  放射性降下物てんこ盛りの上に海底地形はおろか、津波で沿岸地方えらいことになっちゃって、与党政治家の皆さんは失職の心配をしないといけなくなってますが。  まったく自国の領土を減らしてどうするんだか・・・  空軍さんってもっとクレバーかと思っていたら、意外とイノシシ侍さんばっかりだったわけですね。  後先考えないのははた迷惑だよね。      んふふふ、覚悟しなさい「八墓村」の仇は、ここできっちりとってやるんだからねっ!  前回にしっかりとったじゃないか。  それに八墓村でなくて犬神家だよ。    うるさいわね、日本のムービーなんてみんなおなじにしか見えないわよ。  それにあれは、あんたがいたから敵討ちには入らないのっ。  そ、そう。    「弐号機は、あと6時間で到着しますって」  なぜか、プラグスーツ姿のレイが、待機室へそう言いつつ入ってきた。  「ふふふふふっ見てなさい覚醒したアスカ様の無敵っぷりを!!」  「んじゃ僕らはじっくり無敵ぷりを鑑賞させてもらうとしようか、あアヤナミもこっちにおいでよ、八橋もあるし、沖縄銘菓のチンスコウもあるよ」  「・・・あんた、もう一つじじむさいわねぇ」  「なにしろ神様だし」  「・・・ドラゴンボールじゃないつ〜〜〜のよっっっっっっっっ!」     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#11 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#12 --------------------------------------------------------------------------------  やって来ました、はるばると。  なぜかなぜだか十字架に貼り付けられて真っ赤な巨人が。  はるか一万数千キロ地球を半周してドイツから。    ・・・いやしかし、いったいどうやって降ろすつもりなんてじょうね。    ウイングキャリアーがアンカー切り離して、芦ノ湖へドボン! だって。  うひぃ〜、ま・・・マジですかい?  マジ。  ああ・・・するってえと、要するに芦ノ湖からの回収作業にあと6時間かかるわけなんですね。  そのとおり。  で、あれ大丈夫なんですか?  なにが?  だって・・・どう考えてもバルディエルちゃん憑いてない?    テスタロッサがS2器官取り込むのに丁度いいんじゃない?  赤の一番って「弐」号機ですけどね・・・あ〜・・・ってこたぁやっぱ憑いてるんですね。  ノーコメント。  ひでぇ。    「疼くんですよ、この聖痕が・・・奴のことを思い出すたびに、僕に架せられた7つの原罪の痛み(ジューダスペイン)が・・・」  昏い笑みを浮かべシンジは、そう言い募って見せた。    もう、そうやってすぐに誤魔化すんだから。  わははは・・・でも痛いのは本当だよ。  「最後の嫌がらせか」  レーザー干渉フロントスクリーンウインドウに映し出された弐号機投下の状況を見たコウゾウは、そう切り捨てた。  「最初でもないですし最後でもないでしょう。  ですが東洋人というだけで嫉まれるのは勘弁してほしいですわね」  ユイは、ため息とともに答える。  ハフスブルク家の正統後継者、日本華族として侯爵の位を持っていた名門<碇家>の息女とはいえども、西洋人から見れば、東洋人との混血にすぎない、それはいやと言うくらい裏の世界で経験していた。  「仕方があるまい、われわれはやつらの作り上げた精神世界で勝負をしようとしているのだから・・・青葉君、なるべく回収作業は急ぐようにな」  「りょ了解です!」  いきなり副指令に仕事を振られたロンゲ兄ちゃんが慌てて下層のオペレーターズへ向かいがなり始めた。  そういえば、ロンゲにいちゃん名前初登場かも。  駿河湾内護衛艦DD107 いかづち CIC・・・。  「副長! 放射性降下物濃度下がりましたぁ」  「うしっ、船体の除染作業はじめてくれ、おっとNBC防護服忘れるなよ」  艦長は、現在艦隊旗艦に呼び出され不在であり、副長のタツミウシトラ中佐が指揮を取っていた。  「ありゃ気休めにしかなりませんけどね」  ハードスーツ型の防護服は、流石に数を用意できていない。  薄っぺらなゴムと樹脂と板鉛でできた簡易型のソフトスーツでは、気休めにもなりはしない。  「気休めでもないよりましだよ、頼むぞ」  「アイアイサー」  そのとき、ICIの各所で一斉に非常警報が鳴り響いた。  「ぜ、前方で高エネルギー反応!」  「なんだ、この光わぁ・・・っっっっ」  その瞬間、満載排水量5100トンという、むらさめ型DD「いかづち」は、超高温の爆熱によって、瞬間的に蒸発してしまった。    「N2爆雷規模の高エネルギー反応が観測されたのは以上の20ポイントです」  ブリーフィングルームにはNERVの上級管理者達が雁首を揃えていた。  フロアスクリーンには2万分の一程度の地図(海図)がしめされ、その地図上に20個の×印が貼り付けられ、それぞれ発生時刻がキャプションとして打ち込まれていた。  表示のためのリモコンを操りつつナレーションをつけているのは、なぜか例によってマヤちょんである。    「いずれも戦自の護衛艦を含む太平洋艦隊の艦艇が一隻以上消滅しています。  高エネルギーの中心部分はほぼ4億6千万度という超高温が観測されています。    その高熱量に直撃を受けたらしく船体の一部でも浮いていればよいほうで、油膜すら確認できないポイントのほうが多いです・・・こちらのUAVからでは辛うじてBB−65イリノイか同じくBB−58ケンタッキーのものと思われる浮遊物が確認できた程度です」  そう言って示されたのは、「BB−6・・・」という文字が辛うじて確認できるオレンジ色の浮き輪であった。  イージスにしても、それ以外のシステムだとしても、それぞれのリンクシステムのトランスポンダーシグナルが消失したために、各艦隊司令部でも一瞬での爆沈を認めるしかないというのが現在の状況であった。    「これらUAVの観測結果MAGiの出した結論は、使徒による攻撃の可能性が87.69%とでました」  <じゃ残りの12パーセントちょいは、いったなんやねん!>  と、その場のほぼ全員がうそ大阪弁でMAGiへ向かって心の中で突っ込みを入れていた。    「あやつめ戦自の攻撃で学習しおったか?! ・・・しかし45、000トンもの排水量を持つ戦艦すら蒸発させてしまう熱量とは尋常な相手ではないな」  「・・・先生、やはりN2爆発反応過程を?」  そのつぶやきにユイが合いの手を入れた。  「考えられるのはそれくらいだな、しかし改めて信じられん連中だな使徒という存在は」  「副司令のおっしゃられるようにN2反応のコピーもATFなら、できないことはないと思われます」  リツコは、冷静に自身の解析したN2反応のコピー過程を表示させる。    「・・・確かに、こう考えるしかあるまいな」  それをじっくりと見ていたコウゾウが、唸るようにそう結論付けた。  「弐号機の発進準備を急いで、上陸されたら被害は尋常でなくなるわ」  ユイがその場にいる上級管理者へ向かい指令を発した。    その声に、その場の全員が敬礼を返し、フリーフィングは終了した。  そのブリーフィングルームからの立ち去り際に葛城ミサトが赤木リツコへ向かい問いを発した。  「ねえ・・・リツコそれじゃ今までの使徒ってなんだったのよ」  そのミサトの問いに答えられる人間は、この場にはいなかったのである。  こちらは、例によってブリーフィングからあぶれてしまったパイロット達の待機室である。    ・・・しかし戦う本人たちに情報知らせんでどうするつもりなんだかなぁ。  というよりも、僕たちのことはすっかり忘れちゃってるみたいだよ、イスラフェルの能力があまりにも現実離れしちゃったし。  子供にかまっている精神的余裕が吹っ飛んじゃった訳ですか。  そういうことかな。    ・・・あいかわらず精神的なキャパシティの小さな人たちだこと・・・。    「でどうするのとんでもない奴みたいだけど」  「やるわよN2熱量ビームがなんぼのもんよ!」  「セカンドチルドレン」  例によってプラグスーツ姿のレイが声をかけた。  「なに?」  レイは振り向いたアスカへ向かいいきなり両手を合わせて拝みだす。  「なむなむぅ」    「・・・なにそれ」  「セカンドチルドレン、元気に死んでらっしゃい  「・・・こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こんのポンコツ頭かんなこと考えるのはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」  なにをしていたのか、ようやく理解したアスカの堪忍袋の緒が、まるでアンビリカルケーブルをバージしたかのごとく盛大な切断音とともに、ぶちきれた。  レイに向かい飛び掛ると、頭を両手で押さえつけぐりぐりと待機室のクッションのあまり効いていないベンチシートへ押し付ける。  「いひゃい、あしゅかいひゃい」  「うるさい、このポンコツ頭っ!!」  「まあまあ、アヤナミだって悪気があるわけじゃないんだしさ・・・」  「悪気が服を着て歩いているようにしか見えないわよっ! うきぃ〜!」  と一声遠吠えると、待機室を発進準備の終了した弐号機へ乗り込むために駆け出していった。  「アスカ・・・すこしは肩の力が抜けた?」  レイはレイなりに単独での初陣となるこの戦闘でアスカの妙な力の入り具合を気にしていたらしい。  「なんだ、そういうことだったら、もう少し違う方法のほうが被害が少ないよ」  「いいの碇君に、痛いところは、なでなでしてもらうもの」  レイは、用も無いのにプラグスーツ姿のシンジのひざの上にお尻を乗せ、しなだれかかった。  「ああ、なるほど! でどこが痛いの」  シンジの指は、いきなり胸の頂をつつき始めた。  「もっと下の方、だめそこは違うわ、そこは、お・へ・そっ・・・あん・・・もう・・・碇君・・・好き・・・」  「僕も好きだよアヤナミ」  「碇君、碇くぅん」  ぴちゃぴちゃと舌を絡めあい、互いの指は、硬いスーツの素材の上からもどかしい愛撫を与え合う。    「・・・あんたたちねぇ、そういうプレイをするんだったら部屋でやりなさいよ」  忘れ物でもしたのかアスカが待機室のドアを開けた瞬間固まった。  「アスカも混ざる?」  「あ〜・・・ん〜・・・考えとく・・・」  そう煮え切らない返事を返すとポーチをロッカーからつかみ出し、走り出て行った。   -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#12 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#13 --------------------------------------------------------------------------------  それは、紅い・・・そうルビーのような鮮やかな紅い機体のはずだった。  そしてもっとスマートな存在であったはずだ。    だが、その色はいまやくすんだ赤・・・いやまるで鮮血を吸い込み変色した赤い土のような色のよく言えば「鎧」悪く表せばガチンコ勝負の作業服としか言い表しようの無いものを「着せ」られていた。    ひざ、ひじ、肩、そして新たに胸に作りつけられたフェアリングは、鋭く大気を切り裂くがごとく切っ先を鈍色に光らせ、さらにその足元にはそれらの装備でも物足りないとでも言うかのように、凶悪なフォルムを持った得物が据えられていた。    ただそれらの得物の前にまるで兵器見本市であるかのような説明パネルが掲示されているのがかなり場違いだった。    向かって右にはまるで海生哺乳類であるかのような形状をした、全領域兵器「マステマ」が鎮座していた。  マステマとはヘブライ語で「有害な者」を意味し、そのものずばり天使に敵対する悪魔の名である。  全域兵器と言うだけあり、長距離攻撃用にはN2迫撃弾×2、中距離攻撃用としては大型120ミリ機関砲、そして近距離攻撃用には、プログレッシブ・ソードへと変形し用いる複合兵装となっていた。    確かにATフィールドのことを頭から捨てれば、有害といいうる兵器といえるだろう。  ようするに力業のガチンコ武器の塊である。     そして向かって左には、大型粉砕兵器デュアル・ソーがおかれている。  これも読んで字のごとく使徒の再生遅延の為、その体をガリガリ、ゴリゴリと削り取るために使用されるEVANGELIONサイズの超巨大電鋸を二丁、駆動部で一つにまとめた見た目どおり凶悪兵器である。    さらに肩のフェアリングには、逆位相兵器インパクト・ボルト(アンチATFではなくマイナスATFとあらわすんだろうなぁきっと・・・この辺りは、EVANGELIONSをしてないからよくわからん)が、機体各所にプログレッシブダガーが増設されていた。      「・・・なによ、これ」  凶悪な姿となった愛機を見て絶句しているのはプラグスーツに身を包んだアスカだ。  そのアスカのつぶやきに、似非金髪のMADサイエンティストが答えた。    「これがEVANGELION弐号機、F型装備よ」  「二号機は判ってるわよっ!  なによあの着ているダサダサの物体はっっ!」  「特殊装甲は高いのよ、ああやって少しでもEVA本体の特殊装甲への影響を減らそうとしているの」  「・・・ぁったくこんなMADな真似をするのは、やっぱりあんたなのねリツコ」  「あら、あたしのことを「MAD」というなら、零号機を見てからにして頂戴」  「あのさリツコ、普通MADって言われるのを否定するんじゃないの?」  「科学技術者として、MADの名を奉じられるのは、恥ずかしいことではないわ」  「・・・十分恥ずかしいわよ」  「本当は、初号機用の装備を改修したものなんだけどね、なにしろ予算は凍結どころか削減されちゃったし」  アスカの呟きをまるで無視して説明を続ける似非金髪に向かいアスカが吼えた。  「スルーすなっ!」      「・・・え〜っと零号機、怪我したっけ? それになにあの魚の骨みたいな物体は」  三人して見上げるは、黄色もあざかな開発機塗装もそのままの零号機である。  もっとも右肢部が義体化され、上腕部付け根部分からは、まるで背骨を思わせる形状をしている巨大な銃器が空をにらんでいるとあっては、アスカがそう疑問を口にしても可笑しくはないだろう。    「ふふふふ、これこそがATFの応用兵装「天使の背骨」沈下型領域侵攻銃「フィールドシンカー」よっ!」  ハバンっ! と効果音でも入りそうな勢いでリツコがアスカと途中から合流したミサトへ向かい両腕を広げて見せた。    「・・・ATF応用って、んなことできるの?」  「この銃の肝は、ATFを加速器内に発生させるギミックにあるわ」  「「ふんふん」」  「残念なことに私たちの科学力ではATフィールドを人工的に創滅させることはできなかった」  「「ダメじゃん、それ」」  「そこで、私は考えたは、零号機の生体組織を零号機と物理的な結合状態を保ったまま砲身、この場合は<量子加速器>そのものであるのだけど、の一部として使うことができるならば、ATフィールドを発生維持することができる筈というコンセプトで作成したのが、この「天使の背骨(フィールドシンカー)」なのよっ!」  「・・・はぁん、ようするにEVAの体組織を銃に加工してみましたってこと」    「ああ、なるほどっ!!」  とアスカの身も蓋もない要約に納得した声を上げたのは、何度説明をされても理解できなかったミサトであった。  「要約しすぎよ・・・その通りだけど」  「それって、起動しても大丈夫なの?」    「そこなのよ、一度起動を試みたら、ATフィールドの発生と同時に、ケイジ内の作業員全員にまで精神汚染が広がっちゃって・・・」  「・・・それって、全然ダメダメじゃん」  「どうしても必要なら、レイに影響がないようにEVA本体は、<シミュレーションプラグ>で起動、操縦は模擬体用プラグからの遠隔操作ってことになるでしょうね」  「そこまでしなくちゃならないほど使徒が強かったら、NERVはここまで困ってなかったでしょうけどね」  アスカが端的にそう言ってのけた。  「・・・ま、その通りね」    ふっと遠いまなざしでリツコはため息のような答えを返したのだった。      まあそんなこんなで出撃なのである。 「手出すんじゃないわよ」 とシンジは釘を刺されていた。  でもなぁ。  なにしろ相手はATFで核融合を起こしましょうという使徒の中の使徒といって良い存在なのだ。  上陸されては有無を言わさずサードインパクトの可能性すらある。  すでに戦自及び、UNFの指揮下の各自衛隊は、大量の通常兵器による攻撃を雨よ霰よと続けていたが国内の弾薬の備蓄が底をつくという状況になっても、ただ犠牲を増やしただけで使徒の足止めすら出来ない状態に陥っていた。    もうはや万策は尽きているにもかかわらず頑迷な軍人達は、NERVへの指揮権委譲をためらい続けていた。  馬鹿ですな  うん、そうだね。  その上で何を考えているかといえば自己保身と次期の予算の確保のことなんだからさ、呆れちゃうよね  国だの国民を守るだのの意識のかけらもないんですか。  そういう事を考えているのは一部の上級指揮官だけなんだけどね。  そういう連中が政治力だけで出世したんですな。  困った国だよねぇ。  で、キャリアーでは出られないんですね。  そう! おもいっくそ、重量オーバーで弐号機F型装備のままでは、飛べません。  まあそもそも迎撃戦を想定していたわけですからそれは仕方がありませんね    幸いF型装備によって稼働時間は稼働時間は、伸びていますので自分で歩いて移動するか・・・  「ATFで重力遮断して軽くなったらキャリアー飛べるって言ったのに! なんでえっちらおっちら走ってがなけりゃなんないのよ、全くこの装備も重いだけだしぃ」  「仕方ないわよ、キャリアーもアダプタを新造しなくちゃF型装備のEVAを収容できないんだもの」  「そこまで考えてこその「こんなこともあろうかと」って台詞じゃないの!」  というアスカの突っ込みにリツコは小さく「面目ない・・・私ってブザマね・・・」と呟き自嘲のシニカルな笑いを唇へ浮かべるしかなかったのである。    内部電源による稼働時間推定値は、1時間となっている。  海岸線まで出張るには30分も歩けば十分である。    しかし右手にマステマ、左手にデュアルソーという状態でF型装備に身を包んだ弐号機は、いかにも重そうに見えた。  「歩いてゆくのはいいとしてよミサトあんた作戦考えてあるんでしょうね」  <次はあたしぃ>  という表情のミサトである。  「・・・ごみん」  「なによ、無策なのぉ、ありえな〜いっ!」  「だって・・・どう考えても、N2級の攻撃を連発できる相手に戦う方法なんて思いつかなかったのよ」  「あそっ・・・それじゃ、あたしの好きにさせてもらうわよ」  「わかった・・・アスカに任せるわ」  「いいんですか」  マコトが問う。  「仕方ないわよ、いくら検討したって超長距離からの一点狙撃くらいしかまともな対策が無いんだもの、あたしたちにはもう近接支援を増やしてあげるくらいしかできないわ」  ミサトはオペレーターシートに座るマコトにシートの背もたれ越しに抱きついていた。  もはやそれが常態と化しているのでマヤですら「不潔」という言葉を発することは無い。    なれと言うのは恐ろしいものである。  その発令所のフロントスクリーンには台風予報のごとき使徒の進路予想と弐号機との会敵予想時間が、刻々とカウントを進めていた。  「射程内に入ったら容赦なくぶっ放すから絶対に影響圏内に、入らないでよ」  アスカは<近接支援なんてめんどくさい物いらんわっ!> とでも言うように警告を発した。  この戦いは、どちらが先に相手を射程に捕らえるかという状況になっていた。  そんな発令所の最上層部に爺と精神年齢40のおばさんの姿があった。  「もしも、もしもだ弐号機が倒されたならどうするねユイ君  「あら、決まっています初号機を出します」  「しかしだねユイ君」  「シンジなら平気ですわ」  コロコロと笑いながらそう答えたユイにコウゾウは、内心で<君は鬼かね>などと突っ込みを入れていた。しかしそんな内心を露とも見せずに言葉を続ける。  「いやしかしだね」  「心配ですか? それでしたら、レイちゃんと一緒に乗せましょうか」  そのユイの提案にそうかそのてが有ったか! さすがユイ君だ!!  と鬼という突っ込みを瞬時に忘れ去るコウゾウであった。  「ああそれなら、たしかに取り込まれんかもしれないな」  「それに冬月センセ、過剰シンクロは、半ば意図的に起こした状況ですから必ずEVAに取り込まれてしまうというわけではありませんわ」  一方イスラフェルはというと戦自、UNFからの攻撃か止んだことで、人に例えるならば、ようやく我に返っていた。  そして我に返ったことで広がっていた使徒として限界値まで高まっていた索敵範囲が自身の周囲、地平線レベルにまで低下してしまったのでる。    ・・・要は切れてたと?  そういうこと。    その絶妙のタイミングで弐号機は  マステマに装備されていたN2迫撃弾をはるか地平のかなたからぶっ放したのである。  一発目は囮としてその弾道の頂点を越え落下に入った時点で点火信号で炸裂させる。  はるか上空に突然出現した太陽爆弾の放つ電磁波によってイスラフェルの探知能力はさらに限定される。  そして二発目の迫撃弾はアスカの維持するATFで包まれその爆発を乗り切り、そしてイスラフェルの感覚が爆発の影響で麻痺していることを前提に直上にまで到達させることに成功する。  砲弾のATFとイスラフェルのATFが接触しそして砲弾は内部へ入り込む。  その砲弾を目にしたイスラフェルの<きょとん>とした瞳は、文字通り、こいつなに?  という内心の現れである。  そして、それを見つめる己自身へ脅威を与えるものである、という認識が生じる前に太陽爆弾が極至近距離で炸裂した。  「使徒至近でN2迫撃弾炸裂を確認っっ!」  叫んだのはロンゲの兄ちゃんだ。  「アスカっやったっ!!」  「まだよ、まだコアを潰してないわっ・・・駆けろ弐号機っっ! うおおっっっっっ!!」  ヴェイパーを盛大にたなびかせ弐号機が疾走を開始する。    そして走りつつも、マステマのモードを120ミリ機関砲へと切り替え、爆熱のまだ全く収まらぬそこへ向かいトリガーを引き絞る。  曳光弾のオレンジの火線が、爆熱の陽炎の中へと吸い込まれてゆく。  さらに、デュアルソーが起動され凶悪な電鋸が左右逆回転を開始する。  ・・・あれっ、それって切れないんじゃ?  いやそうじゃないと、回転トルクのせいでEVAでも振り回せないとか言ってたリツコさん。  うひぃ。    弐号機はその全備重量からは、とても考えられぬ速度で20キロメートルあまりを20秒で駆け抜け半壊状態の使徒へと取り付くことに成功した。    <このくされ×××!! くたばりやがれっっっ!!>  などと叫びながらプログレッシブソードへと変形させたマステマを柄まで、半分ほどになっているイスラフェルの体へとズブスブと強引に潜り込ませる。    さらに機関砲口が体内へ潜り込んだ事を確認し、フルオートでトリガーを引き絞る。  体内で炸裂した焼夷弾や榴弾、形成炸薬弾の爆裂によってイスラフェルの半分ほどの体の表皮が小さなあぶく状に膨れてゆく。    その膨れた箇所へ向かい、機関砲弾の切れたマステマを掘り出した弐号機が両手で構えたデュアルソーが粘液質の異音とともに潜り込み、切り刻んでゆく。  すでに虫の息であったイスラフェルは分離して再生することもかなわず再生能力を上回る損傷に反撃能力を完全に奪われてしまっていた。      アスカ・・・そろそろ、終わりにして上げなよ。  そうシンジがそっとアスカへ声をかけた。    「うん判った」    小さくつぶやくと操作スティックのトリガーを押し込んだ。  マイナスATF兵装インパクトボルトが起動し肩のフェアリングからコア向かいたたきつけられ、あっけなくコアは粉砕された。    こうしてようやくイスラフェルは、十字形に爆炎を吹き上げ沈黙したのだった・・・。  「シンジ」  NERV本部職員の歓呼に迎えられたアスカは、しばらくそのバカ騒ぎに付き合っていたが、やがてパイロット待機室へと現れた。  「なに?」  「ご褒美ちょうだいね」  「ご褒美ぃ?」  「最後言うことちゃんと聞いたんだから」  「ああ、あれね、何がほしいの」  「レイと別れて」  「・・・そういうのはダメ」  「ちぇ」  言ってみただけという舌打ちだ。  「おいしいドイツ料理っていうのはどう?」  「そういうのでごまかされないからね」    「あ、そう・・・じゃあ、おいで、こんな場所じゃ嫌でしょ」  「・・・うん・・・」  シンジが伸ばした手を両手で捕まえアスカは小さくうなづいたのだった。 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#13 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#14 --------------------------------------------------------------------------------  ゴロゴロ。  猫ですか?  ゴロゴロ。  両手に花でいですね、で、しちゃったんですね。  そりゃ、あの状況で触るだけで終わりにしたら男の沽券にかかわるでしょ?  成長しましたねぇ「一時的接触を極端に避けていた碇シンジ君」  その言い方はやめてよ聖痕が疼くから。  ああすみません。そういえば学校行ってましたっけ?  行ってないよ〜全知全能とは言わないけどいまさら学ぶことはないもの。  まあ、そうでしょうね、で訓練以外はそうやっていちゃついている訳ですね。  だってその方が楽しいじゃない。  そろそろマグマに潜る季節ではないかと思うんですが。  ああ、良い潜溶岩日和かもしれないね。    ちなみに、地上は土砂降りです。  おいおい。    『戦自大失態NREV縮小論に待った!』  『使徒にはやはりEVANGELION以外では対抗不能』  『NERVはやはり人類最後の砦だった』  『数百億の無駄遣い、情勢不安に追い討ちをかける弾薬払底の恐怖、統幕議長辞任の意向』  発令所のフロントスクリーンを分割し投影されているのは、WEB新聞やら紙媒体の昔ながら新聞の取り込み画像だ。  「しかし、世論とはいい加減なものであるな」  「まあこれで予算が増えてくれればしめたものですわ、副指令戦自とUNFの弾薬備蓄状況の推移を把握するようにしてください」  「どうしてだね」  「備蓄が回復していなければEVAを早期に投入する必要があるじゃありませんか」  「なるほどそのとおりだ」  「ねえ」  つんつんと黒いTシャツにGパンという姿でクッションに深く座り込んだシンジのわき腹をつつくのは黄色いサマードレスのままフローリングの床に寝転がったアスカだ。  「ん〜」  S−DATを聞くでもなしに流しているシンジは、顔をアスカへ向けると「なぁに」という風に顔を傾げてみせる。  「な、なんでもない」  その目を覗き込んでしまい、夕べのことを思い出し見事に真っ赤になると、あわてて顔をそらす。    「碇君」  「ん?」  「浅間山にマグマ観測施設が無いわ・・・」  「ないの?」  「ええ」  「まああの使徒はマグマから出てこないなら放っておいても良いんじゃないかな」  「いえてるD型装備なんて二度と付けたくないわ」  だが、そんなチルドレンの思惑は、見事に崩れ去るのでした。    べべんのぉべん!    「マヤ潜航艇の用意は」  「はい先輩、輸送の準備もできています」  リツコのコンソールへウインドウが開く。  「そう、いい仕事よ」  「しかしどちらへ向かうのでしょう」  「長野群馬県境にある浅間山です」  「浅間ですか?」  「これはね司令直々の命令なのよ」  「判りました」    「・・・参ったなぁ、まさかこっちから動くなんて思わなかったよ」  「あんたのママはあんたの記憶を見たんでしょだからに決まっているわ」  「まあそうだろうと思うけどね・・・そんなに積極的な性格だとは思わなかった」    「その上、なにが悲しくてEVAで歩いて行かなくちゃいけないのよ」  そうただいま、弐号機F型装備+αは、ATFで重量を軽減しつつ、一般道路をゆっくりとした速度で北上中であった。  そのエントリープラグの中インテリアの左右に補助席・・・ようするに観光バスのアレである・・・が増設され、三人が乗り込んでいるのだ。  「ったくそのうえミサトは調子にのって、あんなアピールなんかしてるし恥ずかしいったらありゃしないわ」  アスカの意識に同調し、EVANGELIONの感覚が働き、プラグ内装のスクリーンに足元を白い高機動車で移動しているミサトの姿が大写しとなる。  ハンドマイクを持ちガナッている姿は、選挙立候補者のようだ。  そしてガナッている内容もまるで選挙カーのそれとそっくりだった。  『NERV、NERV、NERVです、皆様の安全をお守りするEVANGELION、その運用母体であるNERVがただいまお邪魔いたしております』  「・・・葛城さぁん選挙じゃないんですから」  「あら今の今まで日陰者だったNERVが予算獲得のために積極的にアピールを開始したんだもの目立たなくちゃ損よ」  弐号機の歩行にあわせ広報部隊が例のマークの入ったチラシやらポケットティシュさらにはエチケットパックなんてものを配っている。  まあそれなりに格好の良いデザインであるから、ポイ捨てはされていない。    日本を壊滅から救った勇姿を一目見ようと沿道は黒山の人だかりというほどでもない。  そもそも日本の人口は7000万を辛うじて超える程度あり、人口密度は20世紀ほど高く無い。  「バッテリーB1終わったわ」  「ったくS2器官さえあればこんな面倒なことしなくていいのに」  「まあまあ予備バッテリーとソーラーパネルと背中に背負ったアルコールタンクで丸一日以上行動が出来るんだから  「いくら燃料電池用だってわかってたってミサトじゃあるまいしアルコールを担いで歩くなんて格好悪いじゃない!!」  「でもほらタンクはそれなりに格好よく作ってあるしさ」  「なによそれにF1じゃあるまいしあちこちにCMなんか張り付いてるし」  「でもこのおかげでこの旅行なんだから」  その通り、企業名の入ったアルコール燃料タンクは、まるで放熱フィンの様な形状をしており、その広告収入が今回のNERVご一行様一斉団体旅行の資金となっていた。    「ずるい」  そのとき、そう声を上げたのはレイだった。  「え?」「なにが」  「アスカばかり碇君に甘えててずるい」  「甘えてなんていないじゃない」  「綾波も甘えて良いよ」  「うん、あとでいっぱいゴロゴロするの」  「だからあたしは甘えてなんて・・・」  「アスカも素直なほうが素敵だなぁ」  「あ〜う〜・・・だってんなに突然変われないもの」  「うんすこしずつで良いと思うよ」  ニカッと笑ったシンジの笑顔に心臓が跳ね上がるのを自覚し、アスカはふにゃふにゃとシートに沈み込んだ。  「あううっ・・・どうしてこんなやつが格好よく素敵に見えるのよ」  「だって碇君は素敵だもの」  「んなこたぁ判ってるのよ!」      「で、どうするのよ」  「うん、今のところ気配もなにも感じないからもう少し時間があると思うんだ、だからもうしばらく客寄せパンダしてるしかないんじないかな」  「あんたね広告塔くらいにしといてよ」  「言葉をいくら変えても実態は一緒だよ」  「そりゃそうだけど、気分は違うじゃない」    「あ〜・・・なんか体がずいぶんだるいわね」    「あ、そういえばそうだね」  「なんか重い感じがする」  「EVANGELIONが長時間移動したことなんて無かったもの」  「へ?」  「それって多分筋肉痛のフィードバックだもの」  松代の極東支部に入った二号機はそこで冷却や長時間稼動の問題点などをチェックされることとなった。  そして松代からチルドレンは、VF−4疾風で旅館まで乗り込んだのだ。  他のご一行はバスで直行である。    「はぁい全員注目! いいですかうちに帰るまでが社員旅行です。  事故などがないように十分・・・」  大広間に全員を集めて、オリエンテーションの時間だ。  ステージの上のカラオケセットのマイクでガナッているのは、ミサトである。    「・・・ミサトさん飛ばしてるなぁ」  その様子にシンジはあの元気はどこから来るんだろうなどと思っていた。  もちろんアダム因子のおかげである。    「なにしろマコトのやつとつるんでから初めての外泊だからなぁ」  シンジの横にはロンゲの兄ちゃんが立っている。  人数が人数であるから、全員が集まると300畳の大広間でも立っているのが精一杯である。  「青葉さんはそういう人居ないんですか」  「ん〜気がついたら一人だなそういえば、シンジ君はいいよなぁ両手に花で」  その両手に花は、女子職員の列に並んでいる。  「これはこれでまた色々と・・・」  「おうおう言うねぇ」  「いやぁ」    「あんた普通にできるんだ」  シゲルとの会話を聞いていたのだろう、部屋へ引き上げてきたときにアスカが言った。  「あのさあ僕をなんだと思っていたわけ」  ジトッとした視線でアスカをにらむ。  しかし平然とアスカは言った。  「神様」  「いや、それはいいから」  「・・・本質的にあのときと変わってないんじゃないかって思ってた」  「変わったよ、よい方か悪いほうかはわからないけどさ、時間がたてば人は変わるんだよ変わろうと思えばね」「ふ〜ん、本当に変わったわね、んじゃひとっぷろ浴びて宴会にそなえますか」  そういってアスカはタオルを持ち大浴場へと向かうのだろう部屋を出ていった。  「いいの?」  「いいと思うよ、誤解をしたのはアスカで僕は、本当のことしか言ってない」  「大丈夫碇君は、私が守るもの」  「でもね綾波」  「なに?」  「僕も思うんだよ、もしかしたらこのままサードインパクトなんて本当に起きずに済んでこんなに気持ちのいい毎日がこの先もずっと続いてくれるんじゃないかなって」  「それは・・・」    ───それはないな。  突然、脳裏に声が飛び込んできた。  それは念話と呼ぶ、シンジがその能力を与えたものができる要するにテレパシーみたいなものである。  ああ、加持さんですか聞いていたんですね?  聞くともなしにね。  出入り口の襖の向こうに気配がする。  どうやら部屋の入り口に人待ち顔で立っている振りをしているようだ。    ああ、ゼーレは割れる碇ユイを支持するキール・ローレンツのグループと、あくまでも白人のみの世界を作ろうとしている先鋭的なグループに。  元が秘密結社の寄り合い所帯だからな、それほど不思議じゃない。  とするとヨーロッパは僕たちに残りますね。  そうだ、新大陸の連中ほど先鋭的だ、だいぶ「くたびれた」とはいえUSAFと全面戦争とは、参ったことだ。  でもS2器官は、搭載できないロンギヌスの槍もキール議長が渡さないでしょ?  NERV本部を制圧してからそういうことは考えるのだろうさ。  あ〜後先考えないのもあの大陸の人たちの悪い癖ですね。  昔はそうじゃなかったんだがなぁ、湾岸戦争のあたりから馬脚が現れてきたというべきかとにかくSEELEの動向にはもう少し注目していないとだめということさ。  そう言うとリョウジの気配はその場から消え去った。    この加持リョウジはサードインパクトの発生した時間で死んだ加持リョウジの記憶と、この今現在の加持リョウジという存在のハイブリッド体といって良い。  もともとアスカが加持の記憶をLCLの海から断片をかき集め、それをここへ戻ってきたときにこちらの加持リョウジへ与えたものだ。  この世界の未来の行く末を知った彼はそれを止めようとしているアスカに協力をしていたのである。  そして本部へ出向と同時にシンジに接触してきたのである。  それ以降彼はシンジの耳目の一部として活動していた。  「さて綾波僕たちもお風呂行こうか?」  「あのね内風呂なら二人で入れるの、ここの部屋の内風呂は中庭の露天風呂になっているの」  「そうだね二人で楽しもうか」  「それがいいの夜にはアスカもいっしょなの」  「綾波は、どうしてほしいの」  「あのねわたしの中にいっぱい出してほしいの、おなかの中に碇君のが広がってゆくのはとってもとっても気持ちがいいことなの」    いゃあ愛されてますね・・・  そりゃねたださ。  ただなんですか?  正直綾波とアスカに搾り取られている気がするのはどうしてなんだろうね。  贅沢な悩みですな。  やっぱりそうだよね。  ええ天地神明にかけて贅沢ですその悩みは。  わはははは。  ま、この後の展開として「第一次ミサト大戦」だの「第二次リツコ大戦」だの「整備班玉砕」だの宴会での悲喜劇はあったものの、まあ概ね平和であったということにしておいてください・・・。  なにしろ描写する私は酔っ払い大嫌いですから。  ようするにごく普通の日本の社員旅行であったということですね。  そういうことです。  「・・・で人の布団の中で母さんはどうして寝てるのさ」  「あのねシンちゃんゲンドウさんと正式に離婚が成立したの」  その母の衝撃的な告白に、シンジは雷の描かれた心理描写を背負ってその場に立ち尽くした。  こらこら立ち尽くしてなんてないってば。    「だって諸行無常のお仕置きで終わりにしてあげるんじゃなかったの?」  「そのお仕置き中にまた秘書の人と浮気をしたの」  「あ痛たたぁ、懲りない親父だなぁ、あの人は」  「で、シンちゃんはどっちの姓を名乗りたいかなぁって、六分儀が良い? 碇がいい?」  「だって六文儀の家は資産なんてほとんど無いんでしょ? 碇の家は総資産推定不能とまで言われている名家じゃないか決まっているよ」  「じゃあ、お母さんとしてちょうだい・・・」  「へ、変態!」  「それが条件よ」  「まあいいけどさぁ・・・綾波ともアスカとも分かれる気はないからね」  「たまにでいいの」  「も・・・もしかしてそういう危ない家系なの?」  「そうよ、そうやって血を濃く残す努力をしてきたの・・・」  「二人はいいの?」  「私は碇君と一緒に居られたらいいもの」  「あたしも別にかまわないわよ、いまさらそういうの気持ち悪がるほどお子様じゃないわ」  「んじゃまあいいか」  そうつぶやくとシンジはユイへ覆いかぶさってゆく。  その様子に、レイもアスカもじっと魅入るばかりだ。  時折女の子座りをしたモモにはさんだ両手をなにやらゆっくりと動かし、熱い吐息をはいている。    あ〜本当に、いいんですか?  まあ古い家系には妙な風習が残っているものだしね。  因習というか業が深いだけかと・・・でユイさんとしちゃうんですか?  ふふふふっ子宮がぼくので破裂するくらいぶち込んでやる、この変態女。    本当にしちゃだめですよ。  あのねぇいくらなんでも、そんな量、出るわけないじゃん。  あははは、まあ毎晩搾り取られてますしね。  その通りなんだけどさ、なんだかお下劣な絞めだなぁ。   -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#14 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#15 --------------------------------------------------------------------------------  真夜中である、すでにこのひなびた温泉地にNERVご一行様が滞在を開始してから一週間が過ぎていた。  「予算も残り少ないというのに困ったものだ」  「広報活動は進んでいますから問題ありませんわ、戦自もUNFも自滅状態反、NERVを掲げていた議員も手のひらを返したようにこちらに擦り寄ってきている有様ですし」  「このまま調子よくことが進めばよいがな」  「碇君?」  ピクンっと全身を震わせレイがむくりと起き上がり、同じ波動を感じたであろうシンジを呼んだ。  「・・・これは・・・動いたかな」    「ええ」  「な・・・に?」  アスカもつられて目を覚ました。  「ようやくお目覚めみたいだよ、ただマグマから出てくるまでにはもう少し時間がかかるみたいだ。  それよりも失地回復を図っている戦自とUNFの動きのほうが気になるよ」  「どうこと?」  「NERVが浅間山に注目していることに気がついたらしくて、自分たちも観測を始めるらしいんだけどうちの機材を貸せと言ってるらしいんだよね」  「なにそれ」  「NERVばかり最新鋭の観測機器をそろえているのは不公平だと言っているらしいよ」  「・・・さんざんこっちを小ばかにしといて、こんどは子供みたいに駄々をこねるってえの?」  「そりゃまあどっちもどっちだとは思うけど、どうも有人運用をするらしいんだよね」  「正気?」  「それもほらアスカに対抗して少年兵というか少女兵を前面に押し立てたいらしい」  「・・・アスカさん?」  「・・・あたしに対抗しようって? そう、ならばそれなりの美少女を」  「あのねアイドルでもないのに容姿で張り合ってどうするのさ」  「だって」  「アスカや綾波に勝てるような女の子なんてそうそう居るわけ無いじゃないか」  「そ、そんなの当たり前じゃない、ねえレイ」  「よくわからない」  「あんたはあたしと同じくらいきれいでかわいいってほめてるの」  「・・・碇君?」  「僕もそう思うよ」  「ポッ・・・」  「はいはいそこでピンク色な位相空間を相転移させてないで、さくさく寝るわよ」  「アスカも混ざればいいのに」  「んなもんに混ざってどうしろって〜の!」  「照れてないで、ほらほら」  「もう、だからどうしておしりをさわるのよっ! あん・・・」  もしかして出てくるんですか彼女。  ま、お約束だし。  でも陸上巡洋艦は出ないんですね。  だってイスラフェルに撃破されちゃったし。  ・・・おい!  武器弾薬は払底と言ったでしょ。  しかしそれにトライデントまで含まれていたとは、盲点というか、思いつきというか  思いつきは自分じゃん。  ごもっとも。    いやそれでねぇ兆の単位の税金をつぎ込んだ、陸上巡洋艦があっさりと消滅しちゃって、その後始末でずいぶん役人と軍人の首が飛んだらしいけど。  それで統幕議長辞任かい!  表向きは対使徒戦敗退の責任になってるけど本当の理由は開発失敗の引責辞任、しかも少年兵にドーピングさせて死亡者まで出したことまでついでにバレちゃって、戦自の上層部は上を下への大騒ぎらしいよ。  ふえええ・・・で、どうするんです。  どうするって?  いやですねぇマナ、霧島マナちゃんですよぉ、どうするんです。  そりゃ助けられれば助けるよ、なにしろ神様だし  まだハーレムに空席はあるわけですね。  そういうのを下種の勘繰りって言うんですよ・・・でもそのとおりだったりして  おいおい。  「私が・・・これに乗るんですか?」  黒い髪に茶の瞳を持ったたれ目がちの美少女が自衛隊の作業服という色気のかけらもない格好で、狭苦しいコクピットを覗き込んでいた。    「そうだ霧島少尉、君はとりあえずは座っていればいい、操作は基本的に上で行うのでな、緊急時に限ってバラスとの放出緊急脱出用ロケットモーターの操作を許可する」  「了解いたしました、あの少尉って・・・わたしまだ・・・」  「おまえのNERVでのカウンターパートは、惣流アスカラングレー少尉だ、同じ階級でなくては、ならないということで4日前から昇進辞令がまとめて発行された」  「士官って食事が自前なんですよね」  「おまえなぁ、その分給料も上がるんだし」  「え〜っだってその分士官食堂は高いじゃありませんか」  「士官食堂の飯はうまいぞ」  「え゛?それならいいかなぁ・・・」  とても任務を前にした軍人の会話ではない。    「あの〜そろそろ宜しいですかぁ?」  「ああすいません日向さん無理をお願いしていたんでした」  「いや細田さん無理は良いんですけど、いくらなんでもこれに人を乗せるのは・・・」  「すいませんそれも上からの命令ですから」  「まあ判りますけど・・・」  「霧島少尉準備はどうか?」  「はいOKです」  「ではお願いします」  「・・・」  マコトは、仕方がないなぁとでもいう風に、頭をかくと、潜航艇の発進シークエンスを開始した。  ちなみに相棒である最愛の上司殿は、松代に呼ばれており、この指揮車には乗っていない。  「第三次潜行開始! 潜行点開口紫外線レーザー発射!」    「ふえええん、いやだよぉ。  こんな狭いところに閉じ込められて、溶岩にダイブするなんて。  ・・・でも・・・でも・・・どうせどうせ拾った命だもん。  ずっとこんな風に厄介者扱いしかされないなら・・・。  それなら、みんなの所へ行った方がいいもん」  ───本当にそう思うの?  あ〜あたし寂しくて頭までおかしくなっちゃったのかな?  突然頭に響いてきた声に、マナは首を傾げるしかない。    ちがうよ、すこしはなれたところから君にちゃんと話しかけている。  あなた誰?  そう改めて聞かれると困るんだけど・・・まあ一応碇シンジっていう名前がある、声を出しても大丈夫この会話は、絶対に上には聞こえないようにシールドしてあるからね。  君がもしも本当に仲間のところへ行きたいなら、この場で事故を起こしてあげられる。  このまま戦自に残りたいならこの任務の間は、決して事故が起きないように起きても助かるようにしてあける。  もしも戦自から抜けたいなら事故を装って君を自由にしてあげる。  自由って・・・だって自由になっても一人じゃ生きていけないもの・・・あたしもう一人は嫌だもん。  ・・・それなら僕と一緒に居たらいい。  ・・・なに、もしかして新手のナンパ?  ぷっ・・・ナンパねぇ、確かにそうかもしれない。  本当にずっと一緒に居てくれる? みんなみたいに死んじゃったりしない? わたしを一人にしない?  しない君が望む限り一緒に居てあげる。もう少し考えさせてあげたいんだけど、そろそろタイムリミットなんだ。  なんの?  使徒が居るんだよねその中。  ええっ!? 本当にいるの?  居るあと300も、もぐると鉢合わせするよ。  マジ? うそ やだやだ死にたくない、死にたくなんて絶対無い、まだ美味しいもの食べてなし恋もしてないし、えっちだってしたことないしんだよあたし。    パニクらなくても大丈夫、逃げ出すのは一瞬で終わるから。  だからって一瞬で死ぬとかじゃ嫌よ。  むう〜そんなに意地悪に聞こえる? 僕の声。  ううんとつても素敵なんだけど正体不明なところは気持ちが悪いかなぁ。  正体は一緒にすごしていれば判るようになると思うよ。  あの〜最後の決断前にひとつだけいい? 絶対に笑わないで聞いてくれる。  努力はするよ。  ・・・努力かぁまあいいや。  で、なに?  ご飯たくさん食べていい?  ・・・うん好きなだけ食べいいよ。  じゃああなたとずっと一緒に居たい。    うんじゃあ助けてあげる、目をつぶって少し落ちるけど大丈夫だからね。  え・・・うわっきゃっ。    そしてマナは、その場から消え去った・・・。  「不味いですよ、赤木さん」  「どうしたの日向君」  浅間山ろくの五合目あたりに停車しているNERVの装甲式指揮通信車。  その中に、赤木リツコ、日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤ、と戦自からの連絡士官細田ケイゴ中尉の姿があった。  先ほどまでは、加持リョウジの姿もあったが、今はいずこかへと雲隠れしていた。  「推進器の熱シール材が思いのほか劣化していたようで、艇内へかなりの熱量の進入が見られます」  「どの程度」  「すでに耐圧船殻内は85度まで上昇」  「べつにその程度の熱なら・・・」  「赤木さん! 忘れたんですか今日は人が乗っているんですよ」  「ちょちょっとテレメーターどうなってるの!」  「だからEVAじゃないんですから、乗員にテレメーターなんてつけられませんよ」  「不味いわ、すぐに引き上げて」  「ソ、ソナーに反応! 下方200に動体反応です」  「まったくこんなときに!」  「細田さんどうします」  マコトはケイゴへ向かいたずねる。  「使徒なのかね」  「この常識はずれの物体が使徒でなかったら僕は、今月の給料をあなたへ差し上げますよ」  「ならば確認をしてくれ、戦自としては使徒を発見したという言い訳は出来る」  「しかし・・・」  「彼女は、この国の旗に忠誠を誓った」  細田は、自分の作業服の胸の日の丸を指差す。  「兵士だそれに彼女の仲間は全員トライデントで死亡してしまった」  「だからといって」  「ならば85度の艇内にどれだけの時間耐えられる、引き上げにかかる時間は?」  「12分・・・とても生存可能な時間では・・・」  マコトも自身のうかつさに語尾をにごすしかなかった。  「ならば、ならば、せめて彼女に使徒との戦いで倒れたという記録をつけさせてやりたいとおもってはいけないかね?」  <上官のエゴですよ、そりゃ!>という言葉をマコトは飲み込んだ。  それは別の行動原理で動かされている組織の人間が口を出せる事柄ではないと理解したからだ。  「判りました潜行を続けます」  「この場にシンジ君たちがいなくて良かった」  とマコトは胸をなでおろしていた。    そのころ、雲隠れしたリョウジは、シンジにとある願い事をされていた。  あ加持さんですか?  ああそうだ。  一人戸籍を用意してほしい女の子が居るんですけど。  霧島マナちゃんかい?  ・・・いっ? どうして知ってるんです。  いま彼女を見殺しにしたところだ。  ああ指揮車にいたんですか?  そういうことだ。  どうでしょう?  そんなことなら朝飯前さ。  にしても死体がないと勘ぐられるぞ。  大丈夫使徒が始末をつけてくれますから。  ・・・おいおいあれ一機でイージス護衛艦が一隻作れるんだぞ。  どうせ使いつぶすつもりだったんでしょ? いいじゃありませんかど〜んとぶち壊しちゃえば、機械なんていつかは壊れるんですから。  そ、そりゃそうだがなぁ・・・いいのか神様がそんなに豪快で。  人の命に豪快に切り捨てるよりずいぶんましなつもりですが?  そりゃそうだ、俺が悪かった。  とはいえ、リョウジは思っていた、シンジ君が運転する車には絶対に乗らない、と。    いいえ、ではお願いします。  ちょちょっと待った。  なんですか?  マナちゃんが君たちと一緒に行動をするなら、せめて顔と髪の毛の色程度は変えてくれよ。  あ〜そうですね・・・じゃ髪の色を黒から茶に目の色を黒から緑へ変えましょう。  ・・・ドイツ系とでもするつもりか?  ええ、アスカの従妹とでもしておけば疑われないでしょ。  判ったそういうことにしておくよ  おて数をかけします。  なに戸籍の偽造なんて片手間仕事さ。  と最後にウインクの波動が飛んできた。      「接近します距離70」  「まだ照合できないの」  「だめですパターンの解析には距離10以内にまで入り込まないと、この溶岩では」  「日向君?」  「ええ艇体は、まだ持ちます。  しかし内部はもう200度を超えました」  「そう、あのこには悪いことをしたわね」  「ぞっとしない死に方のひとつではありますね」  「日向君」  「あ、すいません」  「いや誰もがそう思うさ、そんな任務についたことが彼女への手向けだよ」  ここで一人で気分を出されてもなぁ。  と浸っている連絡士官に突っ込みを入れているるマコトだった。  「距離詰まります40・・・35・・・・30」  「パターン解析まだなの」  「あと15接近してください」  「25・・・・・20・・・・・」  「ブラッドパターン来ました! パターンブルー確認使徒です!!」  「そう、艇を引き上げて」  「すでに回収にかかっています、ですが」  「どうしたの?」  「どうも使徒に食いつかれたみたいで艇体がもち上がってきません。  ソナーもメーザーもなにかに取り囲まれているという反応しか帰ってきません」  「りっちゃん」  「なに加持君、ナンパならいま忙しいわ」  「冷却剤パイプをパージさせたらどうなるかね?」  「そんなことしたら回収できなくなるわ」  「どっちにとても回収はおぼつかないんだやってみちゃどうだい」  「・・・あ〜・・・そうね2500億円の機材を使い捨てにするって、さぞ気分がいいでしょうね」  「日向君冷却剤パイプ一番をパージ」  「はい、パージってええっ!? いいんですか?」  「いいのよやっちゃって」  「は、はい」  マコトがパージスイッチをぐっと押し込んだ。    爆発ボルトで機体の接続基部が吹き飛び、液体窒素の奔流が使徒の口腔内へとぶちまけられ始める。  その暴れまわる先端がなにかの偶然だろうか口腔内の赤い小さな珠を連続して突き上げた。  1000度を超える温度差に構造がもろくなっていた、その珠は、激しい突き上げを立て続けに食らい簡単に砕け散ってしまった。  「やった離れた・・・あ、ぱ・・・パターンブルー消滅しました、使徒殲滅です」    「あ〜あ」  という声が指揮車の中でこだました。  「ま、殲滅しちゃったならそれでいいわ、艇を引き上げて」  「いやそれが窒素がワイヤーにかかったらしくワイヤーも引き千切れたようで、データラインがかろうじてつながっているだけのようです」  「まあ2500億で使徒が殲滅できれば安いもんよねみんな・・・」    というリツコの言葉に賛同するものは皆無だった・・・。   -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#15 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#16 --------------------------------------------------------------------------------  「どう自分のお葬式を見る気分は」  「シンジ君」  「な、なにマナ」  「私の名前は?」  「あ〜っとマーナ・ツエッペリン・ハルナだったっけ?」  「そうアスカの従妹なんだから」  「じゃあマーナとしてどう思った」  「ん〜無駄なお金よねあんなことするなら、ほかの隊員の福利厚生に使ってほしいものだわ」    壁にかけられた薄型TVから、は国旗のかけられた、なにも入っていない棺を正装の戦自隊員が担ぎ弔砲が打ち上げられている様が映し出されていた。  「いやぁさすが大尉の師団葬だ」  「二階級特進は、いいけどお給料も年金もみんなもらえなくなっちゃったのね・・・私いきなり貧乏たよぉ」  「大丈夫だよ、給料は、NERVから出るようになるから。  大尉のUNFの給料がこれだろ」  シンジがPDAを取り出し、おもむろに金勘定を開始した。  「どれどれ、あら大したこと無いのね」  その金額を見てアスカは呆れたような声を上げた。  「あのねぇアスカ、チルドレンと比較したらだめだよ」  「で、これで終わりなの?」  「ううん、特殊勤務地手当、危険手当がこんなもんかな。  あと戦術顧問料がこのくらい」  といって、マナの目の前に出されたのは、6桁にほんの少し足りないという金額であった。  「うわぁあたしお金もちだぁ、うれしいなぁ」  「でさらにNERVへ仕官するに当たって契約金という準備金が3か月分出ているってさ、マーナのIDでもう使えるよ」  「本当? 全部っ使って怒られない?」  「まあ使った内容にもよるだろうけど、基本的にはプライバシーにはノータッチだよ」  「本当、よかったぁ新所全部置いてきちゃったもんだから、着るものとか買い揃えないとダメだし・・・そうだ、じゃあアスカはどれくらいもらっているのよ」  「突然んなこと言われても・・気にしてなかったし・・・ねえシンジ、どれくらいだっけ?」  「基本給が、これくらいで、搭乗時手当てがこれくらい、そのほかもろもろついてだいたいマーナの15倍くらい」  「ひぃぃぃそんなご無体な」  「あそうだ別にシンジから生活費もらってるわね」  「そうねお手当ていただいているの」  「それはマーナにも上げるよ」  「でも・・・」  「いいのよこいつは総資産推定不能世界の通貨の10%を支配してるなんていわれてる「碇家」の跡取りだもの生前贈与で爺様から受け取った株やらなにやらの利回りだけで億単位のお金が転がり込んでるんだから」  「うひゃぁ、あたしもしかして玉の輿?」  「正妻はレイよね」  「そういうの決めてないしきめても仕方ないよ」  「まだ増やす気ね碇君」  「本当浮気者」  「だからどうしてもどうにもならないときだけだよぉ」  「本当ね」  「本当だよ」  「マーナだって僕がなにもしなかったら、本当にあの中だよいまごろ」  「あうん」  「そうだった・・・ごめん」  「まあ浮気者っていう評価は甘んじて受けるしかないけどさ」  「私たちの素敵な旦那様だもの」  「そういってくれるのは綾波だけだね」  「でももこんな美少女ばかりのハーレムなんだから、あんたいつかうしろから刺されるわよ」  「まあおばさんも一人居るけどね」  「ううう、おばさん言わないで〜」  「いきなりどうしたんだねユイ君」  「あ、いいえ、なんでもありませんわ」  「それにしても今月に入ってやけに侵入者が多いな」  「ええ、先月比で4倍というのは、なにか仕掛けてくる前兆とみていいでしょうね」  「加持君に動いてもらうとしよう」    停電んんん!  頭に鳴り響くのはシンジの声。  リョウジは、手にしていた紙コップを危うく取り落とすところだった。    と、突然なんだいシンジ君。    停電がそろそろなんですよ。  あ〜そういえばそんなこともしたっけな。  うんうんなどと頷きつつ、紙コップの中身を口へ運ぶ。  ・・・琥珀色をしているが、決して紅茶などではないましてや麦茶などという毒にも薬にもならない色水とは、全く性質の違うものだ。    あれはどこからの命令だったんです?  内調と公安だった、けどそこもどこから頼まれたのかは微妙だったな。  で当日僕たちを訓練名目で外へ出してほしいんです。  生身でか?  停電の時に来る使徒は最弱級の使徒ですから個人向けの携行兵装だけで処理できると思うんです。  そういうとなら葛城に倒させてやってれよ。  いゃあさすがに溶かされちゃうとしゃれになりませんから。  あ、そりゃそうか。  そのとき、かなり遠くで爆発音が轟いた。  同時に、警報がなり始めアナウンスも流れ始める。  『警戒警報、警戒警報本部施設内に侵入者保安要員は直ちに持ち場へ』  シンジ君どうやら狙いは君たちの確保にあるようだ。  僕たちはおまけで本命はダミープラグ用のカヲル君の奪取でしょう。      遠く再び爆発音が響いた  『全職員へ全職員へ武装を許可する侵入者に対する発砲射殺も許可する。  この発砲により罪に問われることはない。  腕に自信のない職員はパニックルームへ避難を推奨する』    「ったく舐めたまねをしてくるわね、シンジ君たちには」  「はい護衛は十分ついていますし、そもそもあそこはシェルターとして設計してありますから閉めたら並大抵の火力では開きません」  「そうならば」    「どうみんな見る? 肩にでも触れてくれたら見せて上げられるよ」  シンジは全く把握できない外の様子を、奥さんズへサービスするはら積もりのようだ。  「・・・本当にドラゴンボールの世界ね」  「界王様」  「ひどいなぁ僕ゴキブリ扱いかよよぉ、で見るの見ないの?!  「「「見る」」」    「ひのふのみの・・・」  「あらあら中隊規模で進入してきたの、豪胆な奴らね」  「それだけ彼らの意思は固いってことだと思うよ。  持ってる武器は東側と西側チャンポン。  装備もあちこちの使い古しで見た目じゃどこの所属かはわからないね。  うわぁご苦労なことに小隊ごとに使用言語までかえてるよ。  でもこんなことを徹底的に出来る軍なんて世界中にひとつところしか無いんだよね」  「そうよね、でも同盟国なのに、どうしてこんなことするんだろ」  「そんなことよりもずっと大切なことがきっと連中にはあるんだよ」    「変ですね」  マコトは、進入経路を表示していて妙なことに気がついた。    「どうしたの」  「ええ侵入者の通っている経路なんですけどね、対人センサーの類が2ヶ月前まで設置されていなかった、工事も未定だった通路に集中しているんです」  「ああ! 司令が変わられてから最優先で整備されたのよね」  「はい、ですから・・・」  「なに・・・まさか内通者がいるってこと?」  「A級職員でここ二ヶ月以内に退職した者を洗ったほうがいいですよ葛城さん」  「全く身内も疑わないといけないのね、判ったそう報告を上げましょう」  高みの見物で、散発する戦闘を覗き込んでいた、シンジは、分隊規模の集団がある施設へと突入したことに気がつき焦りを覚えた。    ・・・まずい!  どうしたのよ。  あの先には、リツコさんが孤立しているんだ。    実験の為に一人で準備をしていたリツコは、本部棟からかなり離れたP4クラス隔離施設に居たのである。    シンジ君あたしを送って。  マーナ?  あたしは兵隊さんだものリツコさん助けられる。  だめだ。  どうして?!  君にも綾波にもアスカにも人殺しはさせたくない。    だってどうするのよ。  僕が助けるよ、僕の力で  リツコにあんたの正体バレたら最悪解剖されるわよ。  いくらなんでもそこまではしないと思うけど・・・。  わかるもんですか。  とにかくリツコさんには僕の正体さらすから・・・あれ? えっと綾波にマーナはどうしたの。  あんたが人殺しにしたくない宣言で感動してるのよ。  な、なるほど。      不味いわね、どう考えても一人や二人じゃない数が入り込んでいるわ。  こんな豆鉄砲じゃカラシニコフにかないっこないか。  手にした護身用の32口径の自動拳銃をしげしげと見つめ頭の中でつぶやく。  無抵抗なら殺さないかしら?  無理ですね。  聞き覚えのある声がいきなり頭に響いてきた。    シ・・・シンジ君?  あの連中は殺気立ってる上、やばい薬も決めてて男としての本能が暴走寸前になってます、足腰立たなくなるまで輪姦されて、そのボロボロの状態でアダムの隠し場所を尋問されますよ。  じゃあ抵抗して殺されるほうがましだわ。  あいつら死体まで犯しますよきっと。  それはぞっとしないわね。  助かりたいですか?  そりゃあね、でもどうやって・・・この声は、ともかくどうするっていうの。  こうします。    リツコの座り込んだ床に円形の黒い染みが広がりそれは、あっという間にリツコを飲み込んだ。  同時にシンジの頭上、何もない空間に円形の影がひろがりそこからリツコが落ちてきた。  そして胡坐をかいたシンジの差し伸ばした両腕の中へすとんと抱きとめられた。  「きゃっ・・・あ、あら?」  「大丈夫リツ姉」  まるで幼児のような口調でリツコへ問う。  「う、うん大丈夫よシンちゃん。  ・・・ってシンジ君覚えていたの?」  「だって僕の初恋の人ですよ思い出しもします」    「あちゃあハーレムにもう一名追加ですわよ第一婦人」  「別に気にしないもの、碇君は素敵だからみんなが虜になるのは仕方の無いこと」  「浮気者?」  「まあマナもそういう人間・・・じゃないけど・・・をすきになっちゃったんだからあきらめなさい」  「あ、あの降ろして」  「だめですもう少しリツネエのおっぱい堪能するの・・・」  そういいつつシンジは白衣とブラウスを突き上げているリツコの胸に深々と顔をうずめた。  「そういえば昔もそうやって触られたのよね・・・あっだめ下は、ダメよシンジ君んんっ・・・」  「髪の毛黒に戻しといたよ」  「え?」  もう意地を張る必要ないでしょ」  「うん」  「ああ、あれは必殺技の「いやよいやよも好きのうち」ってやつね、さすがリツコ勉強になるわ」  などと一人でアスカは盛り上がっている。    「実は、あの連中リツネエも目標にしてたみたいだから」  「あたし?」  「だってE計画責任者MSGiをもっとも知り尽くしているスーパーウィッチだよ」  「まあ、そういわれたらそうだけど・・・なに?」  じっと見つめられ少しだけ顔を紅くしながら聞くリツコ。  「キスしてもいい?」  「・・・助けてもらったんだから、いいわよそれくらい」  「やった! 初恋がかなった」    そして力強くリツコを抱きしめると、唇を重ねた。  深々としたキスは、二分あまり、互いの舌が疲れるまで続いた。    「それは、それとしてシンジ君、きっちりあなたが私を助けた方法を微に入り細に入り聞かせてもらうわよ」  「大丈夫リツネエはもう全部知ってるよ」  そうシンジが言った瞬間、リツコはシンジのすべてを知った・・・いや知らされた。  「そうシンちゃん大変だったのね・・・それからごめんなさい」  「ちくしょう! そうだったのねっ!!」  「どしたの」  「いいシンジって愛に飢えているのよ、だからお姉さんぽく振舞えば、きっともっと甘えてくれるんだわ」  「そっか、いつもあたしたち甘えてばかりだものね・・・それいい」  「・・・でも、どうしたらいいのかわからない」  「大丈夫あんたは、ユイママに似てるんだから、それだけでも十分あとはだまって抱きしめるとか」  「あんなふうに?」  「そ、そうよやるわねリツコも」    「もうまたするの・・・そういえばシンちゃんってHだったものね」  りつこが言い終わる前に唇がふさがれ、そして床に体が横たえられる。    その上にシンジは覆いかぶさりつつ、腰をリツコの女の部分へとえぐりこむように具ラインドさせる。  「んんっ・・・」  珍しくタイトスカートではなく、ごく普通のプリーツの入ったスカートを履いていたリツコは、シンジのそれをまともに受けてしまい、久しぶりのその甘い刺激に、シンジの体を抱きしめつつブルブルと全身を震わせてしまった。  「気持ち良いのリツネエ」  「そんなこと聞いたらダメ、シンちゃんの好きにしていいから、焦らさないで」  「リツネエ、僕のものになってくれる?」  「なるわ、なるから、赤木リツコは碇シンジの女になります、だから早く」  「いきなりでもいいの?」  「わたしの心も体もシンちゃんのものだもの」  「うん判ったよ・・・リツネエ・・・行くよ」  すばやくパンストとショーツを引きおろし、自身の物もファスナーを下ろし露出させ、位置も決めずに一気に貫く。  「んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、いい、シンちゃん、当たるぅ当たってるぅ」  「リツネエのなかぎゅっぎゅって締めつけられて暖かくて気持ちがいい」  「ああっシンちゃん・・・もっと強く突いてっ」  「リツネエ・・・リツネエっ!」  シンジの少しばかり規格の違うそれは、リツコの子宮口をこじ開けるように出入りを繰り返す。  「んっ・・・んんっ・・・い・・・ふん・・・ふんんっ・・・」  肉と肉とをぶつけ合う音と湿った音がしばらくその場を支配した。    「・・・い・・・イクっ・・・イクっ・・・」  「僕も中に出して良いのリツネエ」  「きょ今日はダメよ・・・あんんっ・・・ダメ・・・ああっ・・・やっぱり中に私の子宮にシンちゃんのザーメンをぶちまけてっ!!」  「い・・・いくよ、リツネエくうううっ・・・」  深々と腰をえぐりこみ、子宮口へと己の出口を押し付け、して腰の奥の熱いものを解き放つ。  「ぁぁぁああああああああっ熱いぃぃい・・・くぅぅぅぅ・・・」  腰を反り返らせ絶頂へと達する。  リツコの膣は、シンジの物を幾度も搾り取るような動きを見せ、シンジもすべてを吐き出すかのような長い射精の悦楽に目じりに涙を溜めて耐える。  「んんっ・・・ふんんっ・・・」  やがてリツコの体が弛緩し、シンジの物も抜け出てくる。  その抜ける瞬間、リツコの体がブルブルっと余韻に打ち震えた。    「あ〜なんかすごいHみちゃった」  「・・・むううう、あたしらじゃまだシンジを、あんなに満足なんてさせられないものね・・・」  「碇君・・・私頑張る」  「あんたね何を頑張るのよ」  「碇君を一度で満足させて上げられるように、赤木博士にいろいろと教わるつもり」  「・・・それあたしも混ざって良い?」  「あたしもいい?」  「ええ、みんなで碇君を気持ちよくさせてあげるの」  なんだか全然違う方向へ盛り上がっている奥さんズだった。  いゃあ本当なんですか初恋の人  本当だよ、なにしろうちの親ときたらネグレクトで、児童相談所に相談されても文句が言えない状態だったし、ゲヒルン本部でリツネエにえっちないたずらするのがいちばん楽しかった思い出かな。  ・・・それって「しんちゃん」違いでは?  わはははどうしてネタが割れるかな。  で、具体的にどんなことを?  おっぱいもんだりスカートの中にもぐってごにょごにょしてリツネエふにゃふにゃにしちゃうのが日課ですた。  うひぃ三歳児にいかされる女子高生というのもそそりますね。  リ、リツネエはぼくんだからねっ!!  幼児化せんでも、とりゃしませんがね他人の物を。  だって女性マッドサイエンティスト属性の人なんでしょ。  ほっといてください!     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#16 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#17 --------------------------------------------------------------------------------  「侵入者、全員射殺拘束いたしました」  「うん・・・ご苦労だった・・・加持君取り逃がしたものは、居ないのだな」  「はい確実に進入した全員を補足し処理しました」  「で、なにか判ったかね」  「それがまあ、ものの見事な狂信者集団を使われました」  「?」  「反NERVでまとまった中国、東南アジア、アフリカさらには、ムスリム諸国、そういう連中を集めて訓練した連中が居るってことです」  「だが統率者が必要だろう」  「そこが見事に糸がぷっつり途切れるように実行集団のトップには、より狂信的な人間を選んでおいたんですな、生きて虜囚の辱めを受けず」  「・・・二次大戦の日本軍かね・・・信じられんことをするな」  「もっともこんなことを徹底してやれるのはMI6とCIAモサドくらいしかありませんから」  「グレートブリテンとの関係は、良好だよイスラエルは、うちの庭みたいなものだ」  「ええ、モサドとの関係もまったく問題ありません。  なにしろ要員を派遣してもらっているくらいですからね」  「そのとおりだ」  「では?」  「ええ、世界の警察という正義の御旗を、前世紀の末にペルシャ湾に忘れてきた連中の工作であることは、明白です。  明白なのですが」  「直接的な証拠は何一つないということか・・・彼らは正気なのかね」  「彼らの信じる正義において十分正気なのでしょう」  「とてもそうは思えんがね」  「本部が外部からの進入を受け、死傷者が出たことは?」  「死人が出ては黙っているわけにはいかんよ」  「その発表にかの新大陸の国の工作であると匂わす程度が限界ですかね」  「それで戦自や各自衛隊政府にも伝わるだろうしな、同盟国が火事場泥棒をねらっているということが」    「ああったくぅマヤちゃんが青くなって探してたつ〜のに、あんたシンジ君のところで、お茶したんですって?」  「そうよいけない?」  「警報が鳴ったんだから居場所くらい申告しといてよ」  「あらとっくにあたしの居場所なんて把握してると思ったわよ」  「あ・・・ちっやぶ蛇だわ・・・いや、まあ見失ったうちが悪いちゃあそうなんだけどさぁ、にしてもいきなり髪の毛どうしたのよ」  「ん〜シンジ君がね、もとの髪のほうがリツネエらしいよって言うんだもの」「り・・・リツネエぇ?」  「あたしも忘れてたんだけどね、ほらここ元はゲヒルンっていう研究機関だったのよ」  「ふうん・・・」  「でね、ほら私は、母さんに呼ばれてよくここに来てたの」  「はへぇ〜」  「でね、シンジ君もユイさんがよくつれてきてたのよ」  「なにそんな小さい子、たらし込んでたの?」  「たらしこまれたの私のほうよ、まったく胸はもむわスカートの中にもぐりこんで来て好き勝手するわ・・・なによ、それでね三才のころのシンジ君にあたし初めていかされたのよ、信じられる?」  「・・・あんた真正のショタコン?」  「なんとでも言っていいわよ」  「だってシンジ君たら今ハーレム状態でしょいいの?」  「ミサト」  「なに?」  「好きになっちゃったらどうにもならないってあなたには、わかるでしょ」  「ん・・・まあそりゃね・・・で、どうなのよそっちの生活は?」  「そういうことがしたくてシンジ君と一緒に居るんじゃないわよ、私だって彼女たちだって」  「なによそれ」  「あの子といると安心するのよ・・・それに」  「それになに?」  「事実上の玉の輿なのよ」  「なにそれどういうこと?」  「碇家といっても判らないでしょうけど「甕星重工」といえばわかるかしら」  「そりゃ、甕星重工っていえば、VF−4だのラプターJだののメーカーだもの知ってるわよ」  「その経営母体は?」  「甕星グループじゃない・・・ってまさか!」  「そうよ甕星っていうのは、碇の家が持っている企業体のひとつ」  「ひとつぅ?」  「そうね事実上日本の総資産の10〜15パーセントを碇の家は支配しているといっていいわ、そんな家の跡取り息子の愛人となれば玉の輿でしょ?」  「あたしは、べつにそういうのに興味ないからいいわ」  「彼ったらお手当てくれるのよちゃんと・・・」  「うひぃ生意気なガキだこと」  「あらここの給料よりずっと多い額だといったら?」  「だぁかぁらぁお子様には興味ございません」  「そう、良かったわ、ハーレムの席増やせてもあと一人とか言ってたし」  「ふ、ふ〜んいいもん、あたしにはマコちゃんがいるもん!」  「なんとしても、なんとしても再び我々が使徒を殲滅し、あのヒゲだるまに・・・」  「司令」  「なんだ」  「現在のNERVの司令は碇ユイという女性ですが」「・・・そ、そうなのか?」  「報告があがっているはずですよ」  「あ〜たしかにNERV司令に関する報告書は見たな」  「では」  「見ただけでゴミ箱へ捨てた・・・そうかあのヒゲだるまは失脚したのか」  「はあなにしろ現司令によって事実上の放逐ということですから」  「なんだどんな失敗をしたんだ」  「原因は浮気だそうです」  「・・・浮気ぃ?」  「現司令は碇ゲンドウ氏の細君であったということですから」  「も・・・物好きな女だなぁ」  「わたしもそう思います」  「しかし浮気がばれて顕職から追われるか・・・哀れなことだ」  「いずれにしてもNERVから、この国を守っているのは我々であるという状態を取り戻さねばならんことには変わりないのだ」  「であります」  「それでだ、現在出せる兵力はまとまったか?」  「はあ今現在活動できるのは事実上潜水艦群と地方護衛艦群のみであります、陸上では兵はおりますが兵に使わせる装備の弾薬が払底しております」  「備蓄はどこまで回復した?」  「はい規定量の5パーセントです」  「・・・判った」  「し、司令、出ました使徒です!」  「こんな時期にか・・・ああっとにかく観測機をあげろ、この間のようなことにならぬように十分距離は保て」  「どうされますか」  「どうもならんだろう、いまから護衛艦を呼んだところで後の祭りだ。  今回はやつらに譲ってやる、だが次はちがうぞ!」      「あ、あちゃあ・・・」  「どうしたの?」  「マトリエルでちゃった」  まるで粗相でもしたかのような口調のシンジである。  「え〜っだって停電してないじゃない!」  「停電はこの間の進入騒ぎで中止になったんじゃない」  「運動会とかじゃないんだから」  「時期がすれたか・・・停電工作に失敗したのかも」  「で、どうするのよ」  「普通に出撃がかかると思うからアスカがんばってね」  「え? いいの」  「綾波と初号機ででるって手もあるけど」  『そうね、その手があるわね・・・久しぶりに初号機を動かしたいし』  「あ、リツネエだ」    「こ、こいつやるわね」  「どうしたのアスカ」  「シンジよ」  「シンジ君がどうしたの」  「リツコの前だと幼い受け答えになるってこと」  「ああ、言われてみれば」  「そうやってリツコに「お姉ちゃん」としての役割を演じさせているのよ」  ゜なるほどなるほど、じゃあわたしとかレイが<おにいちゃぁん>とか言ったら格好いい兄貴になってくれるのかな・・・」  「あ・・・兄貴なんていうとマッチョでグレートな兄貴が出てきそうだからやめた方がいいわよ」  「あははは・・・どいつ、どいつ、どいつ、どいつ、じゃぁまん・・・とか歌われても困っちゃうし、それにマッチョでグレートなシンジ君って考えられない」  「その上すんごい作り笑顔で、てかった顔にやけに白い歯とかだったらいや過ぎるぅ・・・」    「でさ盛り上がってるところ悪いんだけど二人とも出撃だよ」  「あ、あれレイは」  「とっくに待機室へ行ったよ」  「マーナは戦術顧問としてのデビューなんだろ」  「うん・・・あ、あの・・・ね」  「大丈夫リツネエがいるから」  「うん・・・でも・・・」  「んじゃあ落ち着くおまじないだよん」  「んっ・・・んんっ・・・んふん・・・」  「ってアスカも?」  「マーナばっかりす・る・いわよ」  「仕方ないなぁ」  というと移動時間を節約するためディラックの海を展開しつつアスカとマナを抱き寄せる。    「そうだ、あとで綾波にもしてあげないとね」  「本当にまめな男ね」  「でも嫌いじゃないでしょそういうの」  「あたりまえでしょ、旦那様」  「遅れました?」  プラグスーツに着替えた三人がハンガーへ駆け込んできた。  「ううん準備はもう少しかかるけど、エントリーをしてて頂戴」  「判りましたいくよ綾波」  「ええ」    「使徒、強羅絶対防衛線を超えます!」  「攻撃しないんですか?」  「使徒はまだ来るわ、今防衛線の弾薬を使ったら、次には補給がないの」  「いやでも」  「アスカは強いわ、大丈夫」  「・・・知りませんよオレ」  「あたしだって知らないわよ、だって先立つのがないんだものどうにもならないじゃない」  「戦自だの三自衛隊みたいに、後年度負担とかじゃダメなんですか?」  「NERVは、連合国の特務機関だから<つけ>は、効かないの、取っ払いでなにもかも手に入れるしかないの」  「現金が金庫に唸ってるときにはそれでいいですけど、なんとかしないとまずいですよ」  「・・・判ってるんだけどねぇ」      「初号機オールナーブリンク・・・」  「初号機出して、本当に大丈夫なんでしょうね」  「まったく指揮官が不安がってどうするの」  「だってシンジ君事実上、初めての出撃じゃない」  「シミュレーションも生身の訓練も十分したでしょ」  「あんたはよく平気ね」  「あの子のこと信じてるもの」  「へいへい、ご馳走様ぁ〜」  「初号機ダブルエントリーで起動しましたシンクロ率は175.3で安定ハーモニクス振幅なし弐号機も起動しました」  「いいのね」  「ええ大丈夫よ」  「EVANGELION初号機、弐号機発進!」  「綾波S2器官を取り込もうと思うんだけど大丈夫かな?」  「平気だと思う」  B装備のままの初号機がリニアカタパルトで打ち上げられる。  弐号機は、大型搬出口からえっちらおっちらと自力で出で行くことになる。  「碇君気をつけて、あの子泣くだけじゃないかもしれない」  「それってわからない」  「アスカ接近、気をつけて」  「ふん! 射程に入ったら問答無用で120ミリをぶち込んでやるわよ」  四本足あしですべる様に移動している存在は、脅威を感じていた。  自分に匹敵する力を持っているもの自分を超えるものが二つも出てきた。  僕は、ただアダムと、始原のそんざいと合一することだけを願っているというのに、なぜ邪魔をするの、このいぢめっこぉ!  とばかりに、彼は一つの攻撃方法を編み出したのである。    ポン! という間抜けな音で側面の目のような模様の瞳のあたりから放たれたのは、サイズは10倍ほどもあるが、砲丸投げの砲丸のような物体だった。  「なんか撃ってきたわよ」  とはいえ打ち出されたものこそ正体不明だが速度そのものは、せいぜいプロ野球選手の投げたボール程度しか出ていない。  それが放物線を描いて・・・。  「しまった! アスカ、フィールド全開!」  「え? え? なんで?」  「まったく、どうしてひーそこで聞き返してくるかなぁ」  とりあえずシンジは弐号機の直上、傘状にATフィールドを張った。  そして自分も使徒へ向かってフィールドを張り巡らせた。    その砲丸は放物線の頂点を越えた辺りでいきなり形を崩し、そして砲丸の中身が空中へぶちまけられた。  もちろんそれは超が30個もつくほど強力な溶解液だ。  通常強度の酸やアルカリと言えども侵せる物質というものは決まっているものだ。  ところがこの使途の溶解液は金属だろうがプラスチックだろうがガラスだろうがお構いなしに、ありとあらゆるものの分子結合を解いてしまう魔法の溶解液なのである。  そんなものをかぶればF型装備で分厚く鎧ったとはいえ、弐号機が損害を受けるのは必至である。  だがシンジのフィールドがかろうじて間に合い溶解液の大半は道路に穴をあけたただった。  「あ、ありがとシンジ」  「弐号機の装甲が溶けちゃったらリツネエが直すのが大変だから」  「あたしの心配はどうしたぁ!」「もちろんアスカが、熱かったり痛かったりしたらかわいそうだと思ったんだよ、僕の気持ちを疑うの」  「それは疑ってないけど、言葉に出して欲しいの、複雑な乙女心なのよ」  「はい気をつけます・・・まったくわがままなんだから」  「いいなぁアスカは甘え上手で」  「そう? マーナも結構上手だと思うけど」  「あれ一発きりってことは無いわよね」  「だからって待っていることはないよ、アスカ撃って!」  「うっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  120ミリという主力戦車砲の砲弾が機関砲の速度で打ち込まれ始める。  だがその弾は使徒の放つ溶解液の迎撃に効果を及ぼすことなく、次々と溶け崩れてしまう。  「こいつけっこう手ごわい?」  こちらの攻撃が止むと同時に、再び瞳からATFに包まれた溶解液の砲丸が連続する間抜けな音とともに放たれ始めた。  「なによ早くなってるじゃない」  「不味いよ打ち出すのに慣れてきているんだ」  「こんなのどうしろってぇのよ、街中溶けちゃうわ」    あ〜もう油断したなぁ、こいつがこんなに強いなんてさ。  なにしろ最弱の名前を欲しい侭にしていましたからねぇ。  そうなんだよ・・・世間で一番手ごわいマトリエルかもしれないよ、こいつ。  で、この先は?  もちろん続きます。   -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#17 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#18 --------------------------------------------------------------------------------  「冗談じゃないわよ、このままじゃ埒が明かないじゃない・・・突っ込んで」  「だめよ一旦離れて作戦を練り直しよ」  ミサトがアスカを必死の形相で静止する。    「思えば前のときの下からっていうのは多分盲点だったんだな」  「目玉の模様の使徒だけに盲点?」  「綾波ぃぼくに突っ込みを入れるとは成長したねぇ」  よしよしという様に、頭を撫でる。  レイは、ポッと頬を赤らめ、なにやら気に入った様子である。  「でも私は突っ込んで欲しいの碇君に子宮のおくまで」  「綾波さぁん」  「あっ・・・ごめんなさい・・・碇君」  「なに?」  「LCLにわたしのエッチな液が混じっちゃった」  「いいよLCLだってどうせリリスの出してる汁なんだから」  「馬鹿なこといってないで、実際どうするのよ」  「突っ込むのがなしじゃ、上か下からしか攻撃できないよね」    今まで黙って成り行きを見ていたマナが、そこで私の出番! とばかりに、声を上げた。  「作戦案その1 キャリアーで上空へ運んでもらい飛び降りながらの射撃」  「却下ね」  すかさずリツコか反対した。  「え〜どうしてですか?」  「溶解液が上に飛ばせたらどうするの」  「あ、そうか。んじゃそ2 マステマのN2迫撃砲で殲滅」  「市街地でN2なんか使えないわよ」  今度はミサトがダメを出した。  「あううう・・・その3NERVのVF−4部隊に空爆してもらう」  「うちの航空は飛び道具はもってても爆弾なんて3番とか6番くらいしか持ってないわよ〜ん」  ちなみに3番は30キロ爆弾、6番は60キロ爆弾であるから、使徒相手では、屁のツッパリにもならないことは請け合いである。    「え〜・・・つ、つかえねぇっすか? 航空兵団・・・しくしく・・・。  じゃあVF−4で神風とか」  「あんたねぇ200億からする最新鋭機でんなことさせられるわけないでしょ」  安かったらいいんかい!  と思い切り心の中で突っ込みを入れいるのはロンゲの兄ちゃんだ。    「じゃあMig−21でもF−4でもいいっすからぁ」  「残念、うちの航空にはVF−4とキャリアーとあとはヘリコとせいぜいビジネスジェットしかないの」  「はう〜・・・もう少しここのこと勉強しないとだめっすねあたし・・・じゃあ、トップアタックできるミサイルとか残ってないんですか?  確かロシア製の対艦ミサイルが山盛りいくらで買い叩いたと聞いた気がするんですが」  「実を言えばラミエル戦以来ミサイルは補充されていないのよね〜これが」  うれしそうに実戦指揮官が、補給がないことを口にしてはいけない。    「ううっみんな貧乏が悪いのね。じゃリツコさん」  「なに」  「こんなこともあろうかとというのは・・・」  「ないわ」  「ないですかぁぐはぁぁマナちん打つ手ないっす。  しかしリツコさん、マッドなサイエンティストというのは、暇さえあれば、こんなこともあろうかと! のネタを仕込んでいるのではないんですかぁ!?」  「だって暇があるわけないてしょ、そういうときにはシンジ君と乳繰り合ってるんもの」  顔も赤らめずにいえる辺りか30代であろう。  「はぁううっ〜・・・これも全部シンジ君が素敵過ぎるのがいけないのね・・・それじゃ、あのあたりに地下街からの出口はありません?」  「だめだめ直接んなあぶないことさせられるわけないでしょ、そんなことするならあたしが出るわ」  「え〜っとすいません、作戦本部長も戦術顧問も、パターンブルー消滅、使徒沈黙しました」  「え゛?」  「いつのまにぃ!」  「ったくさあ、うだうだ考えること無いのよあんなの倒すのに、下手に考えるから一番簡単なとを忘れちゃうんだわ」  「アスカがやったの」  「あ、それからリツコぉ」  「なにかしら」  「ごめんマステマ多分溶けた」  「ま・・・それは仕方ないわね」  もともとガチンコ兵装として作ったマステマは、そうそう精緻に作ったわけでもないので、諦めるのも軽いものだ。  時系列を、少しもどそう。  発令所の面子の小田原評定を聞いていたアスカは、覚悟を決めていた。  「ったく使えないのはあんたたちじゃない、シンジ援護お願い」  「どうするの?」  「このでかぶつのN2弾頭は、はずしてソードモードにするでしょ、もちろんソードは発動させておくわ。  で120ミリは遠隔でトリガーオープンできるようにして、ATFで全体を包み込む・・・っと、はい援護して」  そういい残すと弐号機は、いきなりダッシュを開始した。  「ちょ・・・ったくぅ、いくよ綾波!」  「ええ」  「高機動モード、ライフルモードは、三点バースト・・・目標をセンターに入れてスイッチ!」  パレットライフルを肩に構えると初号機も援護のためダッシュに入った。  「うおおおっりゃぁあああああああああああああっ!!」  弐号機がマステマを背骨も砕けよとばかりに振りかぶり投げ放つ。  その瞬間のドン! という音は途中で振り下ろす手とマステマ本体が音速を超えた衝撃波だ。  ATFで鎧われたマステマは使徒へ向かい3キロメートルを6.5秒でわたりきりった。  使徒が必死になってぶちまける溶解液の只中に突っ込み、そして使徒本体へ突き刺さる。  「よっしゃぁ! いけぇ!」    ズドドドドドドドドッ!!  マステマ装備の120ミリ機関砲が撃ち放たれ、使徒の柔らかな体内と溶解液を作りためておく器官をズタズタにしつつ跳ね回る。  使徒は、その衝撃に断末魔の「死の舞踏」に体を跳ね回らせ、そして爆発すらすることなく活動を停止した。    「ふん! あたしにかかればざっとこんなもんよ」  「ふええ〜」  「さすがアスカ伊達にエースは張ってないわ」  「お疲れ様、問題なければ戻って頂戴」  「「「了解」」」  「ふう、なんとか勝ったなユイ君」  「しかし、地上があのあり有様では修復予算が付くかどうかは微妙なところですわ」  「だからといって子供たちは責められんしな」  「もちろんですわ、アスカちゃん良くやりました」  「だからこそ困ったものだ」  「整備の皆さんマステマ壊しちゃってごめんなさい」  開口一番、アスカは二号機から降りるとそう集まってきていた整備班の面子へ向かい頭を下げた。  「アスカちゃんがきにすることじゃない。  大丈夫予算がなくっても直してみせる。  俺たちが直したこいつと武器でアスカちゃんが戦ってくれて勝ってくれさえすれば、それでいいんだ」  そう二号機の整備主任は、アスカをなだめた。      「お疲れ」  「お疲れアスカ」  「そっちこそ、お疲れ様。ね最後マステマが突き抜けるの止めてくれたんでしょ」  「うん、アスカはそれを僕に期待してたでしょ」  「うん! 判ってくれたんだ、やっぱりあたしとシンジはどこかでつながってるんだくうううっ・・・うれしい!」  「いいの?」  「つながっているのは本当だしね」  「そうね・・・碇君疲れたでしょ?」  「うん、やっぱりATFを多重展開すると、EVAそれも初号機でもちょっときつかった」  「休んで私が連れて行くから」  「うん、ありがと綾波」    そうしてシンジは深い眠りに身をゆだねた。      「ジンジぃ」  「しぃ!」  「しぃってどうしたのシンジ」  「疲れて寝ているだけ」  「だからってどうしてあんたが膝枕なんてしてるのよ」  「これはとても気持ちがいいことなの碇君が感じられる生きて暖かい碇君の重さとても穏やかな気持ちになれるわアスカもする?」  「うん・・・いいの?」  「私は今までずっとしていたもの気持ちの良いことを独り占めはいけないこと」  レイは、肩へ手をいれシンジの頭を少しだけ持ち上げると、アスカへ場所を変わるように自らがずれた。  「そっと・・・どう?」  「うん重いけど、この重さが、なんか暖かくなるわね」  「碇君・・・」  レイは聖痕の浮いている右手をかき抱くように胸へと押し当てる。  「ねえレイ」  「なに」  「その聖痕って本当は、なんなの」  「これはサードインパクトの寄り代とされた生贄の証。  ロンギヌスの槍に刺し貫かれたその傷痕。  そしてリリンとなった最初の人の印」  「もっと砕いてくれないと意味がわからないわ」  「サードインパクトを発生させるためには、人の強い意志が必要だった。  私・・・リリスだけでは意思というものを持ち得なかったから。  だから動機としての人の意思が必要だった」  「その意思としてシンジが使われたの」  「そう、あの時点でべつにアスカでも良かったんだと思う。  でも初号機は、原型をとどめていたから、初号機をすべての生命を表す生命の木へと化身させる、トリガーとしてロンギヌスの槍とそのレプリカが必要だったの」  「でも槍は初号機に刺さったんでしょ」  「ええそう、でもシンクロ率が高かったから傷となって残ってしまったの」  「7つの原罪(ジューダスペイン)って言ってたけどそれは、なんのことなの」  「碇君があの世界を作ってしまった心の傷を作り出した原因のこと。  1つ目がアスカを助けられなかったこと。  二つ目が二人目の私を助けられなかったこと、それに三人目の私を避けてしまっていたこと。  3つ目が黒ジャージ君を傷つけてしまったこと。  「あれか・・・う〜んあれはたしかにきついわ・・・」  アスカは、シンジの頭を上半身を折るようにして抱きしめる。  トウジが右肢体を欠損したこと、バルディエルの名を聞くと、聖痕が疼くのはそのためなのだろう。  「4つめが葛城三佐を見殺しにしてしまったこと。  5つ目が碇指令を止められなかったこと。  6つ目は親友をその手にかけてしまったこと」  「それは・・・私、知らない」  「碇君が話してくれるまで待ったほうがいい」  「うん、判ってる」  そしてシンジの声がレイの後を受けて続けられた。  「7つめがサードインパクトを起こしてしまったこと」  「あ、起きてる」  「おはよ、アスカ、レイ」  「おはよ、いいの?」  「うん、大分楽になったから」    そのとき、ドアが開けられる音とともに、元気な足音がリビングへと駆け込んできた。  「あ〜ずるいぃ〜わたしもジンジ君、膝枕したいぃ〜」  「と、奥様が申しておりますわよシンジ様」  「仕方ないなぁ、じゃあマーナお願いできるかな」  「もう大丈夫、まぁかせてお願いされちゃう」  腕まくりをする必要はないと思うが、二の腕を露出して見せた。  「じゃあたしは左手をこうしてようっと」  アスカは、場所をマナへ譲ると、レイの対面へ移動し、左手をレイと同じように胸へと抱きしめた。  「マナのももけっこう硬いね」  「痛い?」  「違うよみんな感触が違うんだなぁって、妙な関心をしただけだよ」  「なによレイがしてたときも目覚めてたの」  「ぢがう綾波は、腕が疼いたりしてそれを今みたいに、沈めてくれたときなんかにこうしたことがあったんだよ」  「ねえこの痛みってそんなに痛いの」  「まあ我慢できない痛みじゃないよ」  それがうそだということは、アスカもマナもわかった。  がやせ我慢にしても、シンジがそれを我慢している以上、それ以上は聞けなかった。  「あれそんな痣あった?」  マナは初めて両手に浮き出ている赤いあざに気がついたようだ。  「時々昔を思い出すと出てくるんだ」  「ふぅんシンジ君って不思議の塊だねぇ」  「・・・それで終わりなの」  「だって話していい話ならいずれ聞かせてくれるし、話したくない話だったら無理に聞いたらその人が辛いだけだもの、もちろん聞いてあげなくちゃいけないときには、無理にでも聞くけど、でも今はアスカもレイもシンジ君から聞いたんでしょ? だったら私が無理に聞いてあげなくちゃいけない話とは違うと思うし」  「なによ、あんたずいぶん優しいのね」  「えっへん、こう見えてもマナちんは部隊の中の癒し系として重宝されていたのでしたぁ」    その瞬間、マナの肩ががっくりと落ちる。  忘れていた、忘れていたことに驚いたから、忘れてしまったことに罪の意識を覚えたから。    「マナ?」  「みんな・・・ひどいよね私を置いてちゃうんだもの、ひどいよ」  「マナなんであんただけ残ったの」  「たまたま・・・<あの日>だったから出撃停止になっちゃった」  「そりゃすんごい偶然」  「うんいつもは、来たり来なかったりなのにさ。  本当にその日は、お腹が痛くて仕方がなかったから医療室で薬もらってずっと寝てたんだ。  その寝ているときにみんな使徒に殺されちゃったんだって起きてから聞いたって信じられないよ。  そんなの寝る前には楽しくおしゃべりしてたのに・・・」  「マナなきたい時には涙を流してないて泣いていいんだ」  「やさしいねシンジ君、でも泣かない。  もうみんなのためには、涙をたくさん流したから。  だからみんなの為には泣かないよ」     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#18 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#19 --------------------------------------------------------------------------------  「これが今うちが揃えられる正面通常戦力全力よねマコっちゃん?」  「はい、そうなります」  つんつん頭のオペレーター氏は、にこやかに返事を返してきた。    「はへぇ〜N2弾頭弾道ミサイル30発、これはH3ロケット改なんですね」  「そうよ」  「グラニト70発ぅ?! ・・・ってあのマッハ2、7トン対艦ミサイルですよね?  「そうよ」  「こんな化け物、どうやって手に入れたんですか?」  「潜水艦ごとだっかしら、まあドンガラの方は予備の発電機よ」  「あ〜なるほどEVAって電機食いますからね」  「そうよ」  「あとは130ミリ艦砲と127ミリ艦砲ですか、弾薬はあるんですね」  「この間どっかの倉庫の中で腐ってたのを買い叩いてきたわ」  「・・・大丈夫なんすか、それ?」  問うたマナはジト目である。  「わかんない」  やる気なさ無限大の答えに疲れつつマナは食い下がる。  「試射くらいしましょうよぉ」  「そうねぇ考えとくわ」  「考えとくって・・・葛城さんやる気あります?」  「ん〜ごみん商談で疲れてて、あんまりない」  「はぁ・・・まあいいや、おもな支援火器は、このくらいなんですね」  「そうね、あとはVF−4の部隊が、4個小隊各隊に予備が2機づつで24機。  72ミリロケット弾とサイドワインダー、アムラームと30ミリ機関砲。  武装おろして無理にのせれば2000ポンドまでの爆弾が乗るし。  ランターン装備しているから夜間精密爆撃もOK、なんだけどご存知のとおり3番と6番しか在庫はないわ」  「あのぉ」  「なに」  「シンジ君からお金を借りてはどうでしょう?」  「それも考えたんだけど」  「ど?」  「交換条件に僕に抱かれろとかだったら困っちゃうし」  「それは絶対にありません」  「どして」  「他人のものには手を出さないそうですから」  「礼儀正しい浮気者なのね・・・」  「あはははは」  笑って誤魔化すしかないマナちんだった。  「ねえそろそろ降ってくるんだよどうしたらいい?」  「降ってくる? ああ、サハクィエル?」  「そう」  「問答無用でATF中和して蒸発させちゃえば?」  「やっぱそれしかないかぁ」  「あとはディラックの海で太陽へポイ捨て」  「・・・」  「どしたの?」  「アスカ」  「なに」  「偉い! よくそんな手を思いついてくれた、一番楽だそれ」  「それでしょ、でしょ、ご褒美頂戴ね、レイとリツコにも」  「あ、三人で考えたんだ?」  「最初は、蒸発しちゃうまで無限ループさせちゃおうとか、木星大気圏へ送っちゃおうとか出てきたんだけど、レイが太陽に送りましょうと言い出したの」  「無限ループも面白いね」  「それはあたしのアイデアよ」  「リツネエお仕事はいいの?」  「最近はマヤもやるようになってきたから」  「・・・マヤさんかわいそうに」  「あらちゃんとアフターケアはしているのよ」  「げげっリツコってそっちの気もあるの? ってそういえばミサトとつるんでたのよね」  「そうね少しだったら興味はあるかも」  「リツネエってば、アスカ怖がってるから」  「冗談よちょっと後ろから抱きしめてあげるくらいしかしないわ」  「あ〜よかった」  「へんな子ね、ハーレムは良くてレスビアンはだめなの?」  「そういうわけじゃないけど、生理的に受け付けないの」  「女の子同士のキスとかしなかった?」  「その程度は平気よ、あたしだって」  「まあキリスト教的な刷り込みなのかしら?」  「そうかもしれない」  「じゃあ少しだけタブーに触れてみない旦那様も興味があるみたいよ」  「・・・ったくぅどうしてこんな変態をあたしは好きになっちゃったんだろ」  「やった見せてくれるの?」  「仕方ないわねぇ、いいわよ見せてやろうじゃない、そのかわりあんたよりリツコの方が上手かったら乗り換えちゃうからね」  「う〜・・・それは駄目」  「あらシンジ君もまざれば、なんのもんだいもないわ」  「え? え゛え゛っ?」  「どうしてもしたいんだリツネエ」  「ええこんなにかわいい妹なんだもの」  リツコの手がアスカの頬へと伸びてゆく。  逃げ腰のアスカを背後から抱きとめているのはシンジである。    「あ〜ずるいあたしとレイもまぜなさ〜い」  そこへ絶妙のタイミングでマナとレイが、帰ってきた。  「で、結局朝まで最後は、司令まで加わっての乱痴気騒ぎねぇ」  朝っぱらからぐったりとした様子のリツコを問い詰めたミサトにリツコはいやいやながら夕べの様子を簡潔に語ったのである。  「そういうことで疲れているから、今日は、あんまり役には立たないわよ私」  「別にただコーヒー集りにきただけよ」  「あ、そ」    「ねえ母さん」  「あら今日は母さんなの夕べはユイって呼び捨てだったのに」  「だから今日は碇家の一人娘に、碇家の一人息子がお願いがあるの」  「武器弾薬の補給でしょ?」  「あれ?知ってるんじゃん」  「当たり前よ、まあもう二三日待ちなさい国連の補完委員会で予算承認が降りれば選り取り緑で。ミサっちゃんにもマナちゃんにも好き勝手できるようになるから」  「そういうのはもう少し早く言わないとさあ」  「承認が降りるか降りないか微妙だったのよ」      シンジは、いきなり本部の通路でミサトに呼び止められた。  「あっちょうどよかったわ〜ん。  シンジ君警備担当の主任が変わったの紹介するわ」  「アスカとか綾波はいいんですか?」  「シンジ君が最後」  「ああそれは」  「戦自からNERVへ鞍替えをした山岸だ」  「少佐さんですか?」  「そうだ特務中尉だがここではあまり階級は意識しなくてよいという話だし君たちは俺の娘と同い年のようだ、階級は気にしないでくれていい」  「わかりましたよろしくお願いします」    幅の広い鍛え上げられた背中を見送りシンジが言う。  「・・・ミサトさんいいんですか?」  それは言外にどう見ても<戦自のスパイだろう>といっているのである。  「分ってるんだけど尻尾をつかまない限り何にもできないのよ」  「はあ・・・もう一度あんなことされたらいい笑いものですよ」  「そうなのよ、だからこそ警備担当を増やしたんだとけど、まさか戦自の士官が戦自を止めたふりをしてまで潜入してくるなんて思わなかったわ、それも黄色い悪魔なんて二つ名持ってるような人が」  まいったなぁ・・・と頭をボリボリとかき回しつつじゃあね〜とミサトは去っていった。  これでお腹まで掻いていたら、完全に親父である。  「ねえ、綾波」  「なに」  「少し変な気配を感じない?」  「わからないここは、リリスに近いから・・・地表なら」  「じゃあ少し外へ出ようか」  「あたし<たち>もつれてゆくわよね」  「も、もちろんです奥様方」  ずいっとアスカとマナに迫られ、しどろもどろなシンジだった。    「うわぁさすがにこの高さのビルの屋上は涼しいわね」  「そうだね」  「で、旦那様」  「変な気配とやらは見つかったの」  「いやなんだか余計に分りづらくなったみたいだ、まいったな」  いくら広く薄くATFの触手を伸ばしてもその気配は、都会の人の気配に薄められ、捉えきれない。  「でも今度のやつは落ちてくるんでしょ?」  「そうなんだよねぇ」  「ねえ、ついでに買い物して・・・」  「だめだよ、僕ら黙って出てきちゃったんだから帰るの」  司令室に併設されている仮眠室のビジネスフォンが小さな音を立てた。  ベッドでうつらうつらしていたユイは、腕だけを伸ばし、サイドテーブルを引き寄せ受話器を上げた。  「司令夜分申し訳ありません」  時間的には宵の口と呼んでよい時間だ。  「ん〜・・・どうしたの青葉君」  「はい先ほどから断続的にパターンブルーが観測されています」  「場所は?」  「それが一瞬なため場所の確定には、いたりません」  「そう・・・う〜ん、そうねセンサーの方を少し調べて、人をやるのは明日でいいから遠隔で確認して、それでダメだったら帰っていいわ」  「了解しました、おやすみなさい」  「はい、お疲れ様」      いや、もういや、許してもう、いやです。    薄汚い液体を胎内へ吐き出し、弛緩したからだをあずけこようとしている、いかつい体をさけるように身をよじり風呂場へ駆け込む。  薬は与えられ、それを飲んでいても己の体の内部に獣の放った残滓をとどめておく事に耐えられない。  いくら血がつながっておらずとも生活のためと理解していようとも、それで己の身に対する汚されたという感覚は消え去ることはない。    それがもう3年も続いているのだいっそのことおかしくなってしまいたい。  この男を殺してしまおうと、刃物を持ち出しのど元に突きつけたことも一度や二度ではない。  だがそれをすることはできずズルズルとその爛れた関係は続いていた。  シャワーの水音に混じる、半べその泣き声に、その男はまたやってしまったと罪悪感を深めていた、  もうしまいもうこれでおわりにするんだと、この声を聞くたびに思う。  だが夜になり娘が夜具を整え酒が入ってしまうと、その決意は、消え去り獣の本能のまま死んだ妻の連れ子を犯し続ける日々が続いていた。  いっその事任務で死んでしまえばと志願した不正規戦部隊においても死地は、得られず上層部に請われNERVへと潜入することになった。  もしも露見すればそれは、特務機関権限による死刑がありうることを知らされ、その任務を受けたのだった。  あ〜突然重いよ〜。  どうしたのさ。  いゃそこはなにしろEVAですから最低でもこの程度の欝展開はしておかないと。  ああやっぱそうだよね〜なにしろまがりなりにもEVAのSSだものね〜。  で最後の席は○○○ちゃんなんですか?  わざわざ伏字にせんでも。  というか名前でてきてませんから。  たぶんみんな分ってると思うけどなぁ  で? その辺りは本編でどうぞ。  ・・・ここはアイキャッチかい。  「こりゃだめですねセンサーの問題じゃありません」  「あ〜・・・判ったわさわざ出てもらってすまなかった」  「こっちも仕事ですから」  「青葉二尉、先ほどのバターンブルーですが、第三新東京市内までは絞れましたけど、そこから先はちょっと無理です」  下層のオペレーターが、青葉へ向かい報告を文字通り上げてきた。  「判った、ミキちゃんも上がってくれ、俺もメールで司令に報告出したら上がるから」  「はぁい、お先にしつれいしまぁす」  「はい、お疲れさん・・・こっちもメール打っちまって、さくさくけえるべ」      シンジ聞いた?  うん、僕が感じた妙な気配もきっとそれだね。  シンジの知らない使徒が出てくるの。  それもおしろいとは思うけどね、まあとにかく母さんも寝たほうがいいよ。  肉体的にはリッちゃんよりも若いのよ。  あ、そうだったね、でもお肌の曲がり角は超えてるだから気をつけたほうがいいよ。  また初号機に取り込まれるからいいのよ。  だって取り込まれたそのままでしか再生できないんでしょ?  ちっちっちっそれじゃ永遠の命にならないじゃない。  えっ違うの?  最初に取り込まれた姿かたちに戻るのよ  ・・・うそくせぇぇぇぇぇ・・・。  ちょっとまって母さんそれじゃキール議長とかは。  体の欠損部分は補われるわ。老人が取り込まれたら老人としてしか再生はできない。今の技術ではね  ああ。  将来的にはテロメア逆行酵素を使ったり、コアに記憶された情報をいじればどうにかなると思っているわ  そういう見積もりがあるならいいけどあの人たちって人を処分するのに躊躇なんてしないよ気をつけてね。  私が支配者なのに?  それに胡坐をかいていると足をすくわれるよ。  ご忠告ありがとう神様 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#19 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#20 --------------------------------------------------------------------------------  山岸の紹介から数日後、チルドレンとマナは、ブリーフィングルームへ呼び集められていた。  「はぁ〜いみんなぁ集まってぇ」  「・・・幼稚園児集めんじゃないんですから」  「そうよそうよ」  「いいじゃん新しいチルドレン候補を紹介しようてぇんだから」  「あたらしいチルドレンん・・・機体もないのになに考えてんのよ」  「アスカあなたと組むチルドレンよ」  「あたしと・・・ってどうしてぇ」  「ああ、サルベージの準備ができたんですね」  「まあそれがなんだかは私は知らないんだけどね」  「弐号機のコアにはアスカのお母さんが取り込まれているんですよ。  弐号機をアスカがA10神経を通じて制御できるように。  初号機には僕の母さんが取り込まれていました。  髭親父は母さんにひと目あいたいが為に、NERVを作りEVAを自分の手の内においておこうとしてたんです」  「えっと・・・取り込まれないと制御できないの」  「んなこたぁありませんよ、現に僕と綾波で初号機動いているじゃありませんか。  二人の精神力ならばEVAに対抗できるということです」  「一人がだめなら二人か、まあ妥当な選択よね人身御供がいらないんだもの」  いいんですか? そんなうそついて。  いいの誤解してもらったほうがアメリカンSEELEを誤誘導しやすいから。  あ、なるほど。    「はい、みんなあたらしいお友達山岸まゆみちゃんです。  マユミちゃんは警備主任のお嬢さんです。  はいご挨拶」  「山岸マユミです。  あまり人と争ったりという荒事には、向いていない気がしているんですが、適性があると、こちらの赤木博士に説得をされてしまい、お受けしました。  足手まといになるかもしれませんがどうぞよろしく」  なんかひ弱な印象しか受けないんですけどいいんですか?  どうも警備主任が預けたいって言い出したみたいだよ。  はぁ・・・鬼畜の癖に良くわからない奴だこと。  「サルベージの前に、アスカのお母さんを起こしておかないとね」  「ちょっと待って零には、誰が入っているのよ」  「一人目の私」  「へ?」  「ヒゲがリツコのお母さんのことを<ばあさんは、用済み>とか<ばあさんは、しつこい>とか言っていたのを素直な一人目の私は、リツコのお母さんの前で言ってしまったの」  「で激憤した母さんにくびり殺されちゃったってわけね」  「そうだから二人目の私は、あまり感情を表に出さないようにしていたの、人が怖いから」  「それは、ともかく僕は手伝わなくて本当に大丈夫なのリツネエ」  「ええ」  リツコは確信に満ちた笑顔で答えた。  「じゃあ、アスカママを起こしに行こう」    「まったく、これこれこういう理由でEVAの中に入るけど、また出てこれるから、とか子供のあたしだって言ってくれたら分ったのよ。  それなのに勝手に弐号機に取り込まれちゃってぇぇぇぇぇぇぇ。  ママのバカバカバカバカバカぁああああああああああああ。    はぁはぁはぁはぁはぁ」  「気は済んだ?」  「ねえ、ほんとうにこんなので起きるの?」  「うちの母さんは起きたらしいよ、初号機の中でないてたから僕にいぢめられたって」  「ぷっなによそれ、ママが出ちゃうとあたしが弐号機と直接シンクロするのよね」  「そうだよ、まあ山岸さんはおまけかな」  「大丈夫なの」  「別に今のアスカなら弐号機以上の力を持っているんだからぜんぜん平気だと思うよ」  「そいえばマナは?」  「ああ大量に買い付けた武器弾薬の搬入作業に立ち会ってるよなんか涎をこぼさんばかりに興奮してたけど」    「マナ曰く『これでやっとマナちんお役に立てます』だってさ」  ケージから本部の外、ジオフロント内の雑木林の中を散歩ができる遊歩道へとシンジとアスカは出てきていた。  「あはは、別にそんなの気にしなくても、NERVに穀潰しなんて、履いて捨てるほどいるのに」  「まあ、そういう人たちとは一緒になりたくないんでしょ」  「弐号機に、なんでマナが乗らないの」  「そりゃあ他人の空似にしたら、死んだはずの霧島マナ大尉に似すぎている榛名マナをEVAに乗せたら勘ぐられちゃうでしょ?」  「あ〜それもそっか、髪の毛と瞳の色しか変えてないものね」  「もっとも医療検査をしてもらえたら全然別人だって納得してもらえると思うよ」  「それって逆でしょ?」  「それがねディラックの海を通るときに、体内にたまりまくっていた、いらない化学物質とか内臓の損傷箇所は、直しちゃったから」  「彼女そんなに悪かったの」  「うん、たぶんあのまま部隊にいたら20までは生きられなかったと思うよ。  はっきり言えば人体実験の被験者だもの。  試作の薬品だの劇薬だの致死量飲まされて生き残った子供たちをトライデントのパイロットにするつもりだったようだしね」  「あ〜なんというかうちとかSEELEの爺様立ち寄りひどい連中がいるなんて思いもしなかった」  「まあ今は何の障害もない健康体だから」  「そりゃそうでしょ、あんたに一晩に二度も三度も抱かれる体力があるんだもの」      「ねえあれマユミとパパじゃない」  「あ本当だ」  「なんか思い切り深刻そうねえ」  雑木林の向こうの人工の小川が流れいる堤の上に山岸親子がおり、父親が娘をしかりつけている様子が見て取れ、そして父親が右手を振り上げた。    「やばい殴る気だ」  『どうして私の言うことが聞けない』    もう一方、山岸を見張っていた加持リョウジの元へも、途切れ途切れに、会話が聞こえてきていた。  そして腕を振り上げたのがみえた。  「まずいあれで殴ったら死んじまう」    どうして私は、この子のことになるとこうまで腹を立ててしまうんだ。  殴る気などこれっぽっちもないというのに。    こぶしを固め振りかぶってしまう。  これでこの子は、怯む怯んで謝ってくれ、いつものように、そうすればこの拳は使われないんだ。  「私は私はあなたのことを父だなんて思ったこと一度としてありません。  私の父は、セカンドインパクトで母を助けで濁流に飲まれたたった一人だけです」    ああ・・・そうか、やはりそうなのだな、そんなことは分っていたさ。  妻と似たこの娘が私のことを、母親の男としてしかみていないことに気がついたのは、いつだっただろう。  それは、自分の心の裏返しであることも分っていた。  だが懐いたふりをしてくれたって、ほかの子供たちのように抱きついてくれたっていいじゃないか・・・ちくしょう!    「山岸少佐っ!!」  「あぶない山岸さん  私の腕は、背後から加持リョウジ君に組み付かれたものの慣性は、とめきれずもう一人飛び込んできた碇シンジ特務中尉によってがっしりと受け止められた。  チルドレンの訓練とは、中学生をここまで鍛えてしまうものなのか?   細身の少女のような体躯にそれほどの力があるとはとても思えなかった。    一瞬ATフィールドを展開し、山岸さんの拳をクロスさせた腕で受け止めたように見せかける、それでもすごい衝撃がATFを振るわせた・・・本当に人間ですかあなた?    シンジ君が居てくれて、よかった俺一人じゃこの人の暴走はとめられなかったかもしれない  「アスカ、山岸さんは?」  「大丈夫です、この人には、殴られなれていますから。  吹き飛んで転がる振りをすればたいしたダメージは受けませんでしたから」  「・・・けっこう気が強いんだね。  とにかくアスカと待機室でお茶でも飲んで落ちいててくれるかな、僕と加持さんはこの人と話をするからさ」  「判った、いこうマユミ」  「はい」  「すまなかったとめてくれてありがとう、娘はああいっていたが、あれが当たっていたなら殺していた」  「でしょうね」  「おれが後ろからつぼをついて止めてもとまり切らないパンチだ、シンジ君じゃなくてアスカだったら止め切れなかったかもな」  「それは、どうでしょう夢中でしたから、格闘だったらアスカの方が僕よりも強いくらいですし」  「ご謙遜、ご謙遜」  加持の雰囲気が変わる。  たった今までの笑顔が、皮肉なわらいに取って代わった。  「それにしてもあまり褒められた、ことではありませんね山岸主任」  それは裏の顔を使うときの、触れれば切れてしまうようなカミソリのような気配だ。  「事前に調べたよりも事態は、かなり悪くなっていたとはね」  「どうする淫行と児童虐待で警察にでも突き出すか」  「んなことをして得するのは、くだらないことを書き立てるマスコミだけですね」  「あんたがしたことだって互いに好きあっていて表面化しなけりゃたいした問題じゃない。  問題は、マユミさんが嫌がっているのに無理やり関係を続けたことだ、彼女の心は壊れる寸前だもう一押しで砕け散るところだった。  自分がおかしい、と感じたことはなかったのか?」  「・・・おかしいという自覚はあったさ、だが衝動は止められなかった」  「わるいがあんたの持ち物を、あさらせてもらった。  アルコール類から興奮剤だのいろいろやばめの薬が見つかった」  「・・・まさか仕組まれたというのか?」  「どうもそのようだな」  「くそっ誰がそんなことを」  「アメリカにあるとある秘密結社の支部だ」  「なっ・・・畜生、畜生ゆるさねえ、ゆるさねえぞっっ」  「まあ、待ていくら<黄色い悪魔>なんて呼ばれてたあんただって、なんの準備もなく突っ込めば無事じゃすまない」  「じゃあとせうしろというんだ」  「・・・それはあとで打ち合わせることにするよ」  「ここは眺めがいいんだが掃除ができていないんだね」  「そうか・・・わかった」      あ、ちなみにもうサハクィエルたんの始末は終わっています。  なんですとぉ!  衛星軌道に出現したとたんにディラックの海で太陽中心へさようならしてもらいました。  な、なんか一番不憫なサハクィエルたんかも・・・。  だって落ちてきたら面倒だし疲れるし痛いし。  その上お金もかかりますしね、  ・・・そう、そこなんだよ、ミサイルだの大砲だのビーム砲だので削って削ってってやるとお金が国家予算並になるわよって、リツネエったら笑いながらいうんだもの。  そ、それは、さくさく片をつけるしか・・・。  ないよね。       -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#20 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#21 --------------------------------------------------------------------------------      「もうあの男が生きて君の目の前に出てくることはないよ」  「え?」  「北米に渡ってもらって、とある情報をこちらへ送り続けてもらうことになるから。  あの人は君を最初に抱いたときから、死地を探して戦場を駆けてきた人だったんだよ」  「そうですか・・・」  「君の面倒はNERVが絶対的な責任を持つから大丈夫」  「でもわたし何のとりえもありませんし」  「それはこれから見つけたらいい」  「え?」  「あんたの人生なんてまだ始まってもいないのに、勝手に終わらせた気になってない?」  「だってわたしあの男に汚されて汚され続けて・・・」  「はぁ・・・そんなの汚れた内に入らないわよって、まあいまのあたしが言っても信憑性はないでしょうけど見せてあげるわ、あたしとシンジの潜った地獄。  魂に刻み付けられた汚辱の記憶を」  アスカがマユミを抱きしめそのアスカをシンジが抱きしめる。    やがてその抱擁は解かれマユミは崩れ落ちた。  「大丈夫かな?」  「大丈夫でしょ、使徒の寄代にしようって人間なんだか」  「なんだそこまでわかってたんだ」  「たぶん変な気配の正体はマユミでしょ」「そうだと思う、バルディエルの因子を植えられていたよ」  「はぁ、質が悪い連中ね、で、どうするのよ」  「どうするって最後の席が埋るのかしら?」  「こんなトラウマ抱えた子が、ハーレムになんか入りたがるわけないじゃん」  「トラウマ抱えてるから王子様に縋りたいんじゃない」  「でもさ、なんかこの子マヤさんと同じ気がして・・・ちょっと引いちゃうんだよね」  「?」  「だってそうじゃん、自分じゃなにもしないで気持ち悪がっている潔癖症。  僕あの人好きじゃないんだよね」  「ああいうの趣味かと思ったんだけど」  「ああいうのって・・・まあ、確かに顔だけなら可愛いし美人だけどね、だけどさ物静かな美形なら綾波の方がレベル上でしょ?」  「・・・そりゃまあね」  「それにお姉さんキャラなら母さんに、リツネエって究極がそろってるし」  「あ、目が覚めた」  その瞬間、再起動したマユミは、二人を交互に見たのち絶叫した。  「いやぁああああっ寄らないで不潔よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」  と叫びながら立ち上がり、いきなり走り出す  「あ、そっちは壁だって・・・ば」  そして思い切り壁にタックルし再び気絶してしまった。  「・・・これはちょっとうちにはいないなタイプねぇ」  「まあいいや、とにかく宿舎へ送っとこう」  「でもさ、あたしこの子と組む自信ないんだけど」  「大丈夫あくまで候補生だよ、それに次は電子の使徒だし」    「そうよどうするのよ」  「手は、うってあるんだけどね」  「なんだ打ってあるなら良いじゃない」  「それが、どうも突貫で作ったMAGiMの方がMAGiよりも桁違いに性能が良くなったとかで、リツネエどっちをおとりに使うか悩んでるんだ」  「そんなの簡単ですよ」  「あ、マナおかえり」  シンジはマナを抱き寄せるといつものように軽くキスをした。  「ただいまです」  「で、どうするの?」  「突貫で作れたならもう一台なり二台なり必要な分だけ、また突貫で作ったら良いじゃないですか」  そういったマナに、なるほど! と頷いた後シンジは、やり取りを聞いているはずのリツコへ声をかけた。  だそうだよリツネエ。  ああっっっ、その手があったのね! ありがとマナ。  んふふふ、マナちんお役にたちますってば!  マナは、Vサインを決めている。  しかし取り合えず、すっかりマーナ・ツェッペリン・ハルナという偽名は忘れられているようである。  「それにしてもどんなことしたらいきなりMAGiと桁違いの能力のコンピュータができるのよ、突貫で」  「自己完結しているマイクロマシンを素子化して自身で再配置が可能にして、演算が行われる都度その結合形態が最適化されるように再配置を行うようにしたのよ。  ふ〜ん、なるほど確かに効率はよさそうだけど、それってイロウルって名前がついてない?  そ、そうとも言うわね(汗)    やっぱ人間が一番おっかないわ。  確かにそうかも・・・。  しょ所詮、人の敵は人なのよ。  どっかで聞いた科白ね。      結局MAGiM(Mは、MAGi<もどき>という意味のMである)シリーズは3基作られ3×3連合議制コンピュータとしてMAGiと置き換えられることになった。    しかしイロウルへの対処は、物理的なものへと切り替えられた。  ハッキングされた上、MAGiMシリーズに同化されては、厄介であるからというのがその理由である。  結局イロウルは、蛋白壁が変質していた部分を切り出したうえ外部環境と切り離すため核融合用超伝導電磁石を使用したマイスナー効果型浮揚実験台の上で、シンジの作り出したATFに反応して活性化したところを、同じくレーザー核融合炉用試作レーザ<融けちゃう君3号>の直撃によって殲滅された。  パターン青認識から殲滅まで0.005秒という最速記録を達成した。  仕込んだ連中は思っているに違いない、うちのイロウルたんいったい何時になったら発動してくれるんだろう、わくわく。      「さて碇ユイNERV司令」  「何でしょうかキールおじ様」  「弐号機のサルベージ計画はどうなっているかね」  「順調に進んでいます、ただし弐号機を使徒殲滅のための戦力として運用するためにもう一人チルドレンを選出しなくてはなりません。  その選出が終了し訓練が終わらないことには、サルベージを行うわけには参りません」  「ああ、そうだったな人選を急いでくれたまえ」  「はい現在、鋭意選抜中です」  「うん」  「議長」  「なにかね」  05とナンバリングされた、以前ユイに小ばかにされ切れかかった若禿の上ちびという特徴の男が口を開いた。  「われわれが管轄している北米NERV統括支部において看過できぬ事態を捕らえましたので、ご報告をいたしたいと存じます」  「看過できぬとは、穏やかでないな、続けたまえ」  「はい、ありがとうございます。  われわれが入手した本部中央コンピュータであるMAGiオリジナルのこれはログですね」  そういった男の手の中の書類がホログラムとして浮かび上がる。  それをしげしげと見つめたのちユイは同意の声を上げた。  「このログの今月の12日の13時から23時までの部分に、ぜひ注目してくださいこれは、たいへん大規模なクラッキングの様子を表しています。  われわれが独自に入手したこの時点の本部状況とは、マイクロマシン化した使徒の潜入を許していたという調査結果が出ています。  本部に使徒が進入したんですよ、これがどうして報告されていないのでしょう。  これはわれわれSEELEに対する碇ユイの裏切りではありませんか!?」  その扇動に同意の言葉をあげたのは、08と09のナンバリングをされたいずれも新大陸にその拠点を持つ一族だった。  だが、ユイは全く動じることなくゆっくりと発言の許可をキールへ求め、そしてわざと緩慢な動作で立ち上がるとゆっくりと口を開いた。  「あ〜大変残念ですが、もう少し前後に長いログを入手されるべきでしたね。  これは、本部内で行われた内部犯行によるサイバーテロ演習の最終局面の模様です。  MAGiオリジナルを標的に新ハードウエアに実装されたMAGiMソフトウエアの優位性の検証実験でしかありません。  その報告は、キールおじ様の元にあげてあるはずです」  「うむ、確かにもらった。  MAGiMというハードはかなり優秀性をしめしていたな」  「はい、赤木リツコ博士の開発によるMAGiMシリーズは、単体で三台のMAGiのピーク時100倍の演算能力を発揮いたします。  そのサイバーテロ演習は、MAGiM一台を50箇所からの同時クラックに見せかけた演習で、結局MAGiは最終的にネットワークを物理的に切断することでしかそのクラックに対抗できませんでした。  「うそだ!! 本部に、使徒が侵入したはずだっっっ」  「たしかに進入の恐れは十分にありました」  「な、なんと本当なのかユイ」  「ええですが「恐れ」でしかありませんわおじ様。  本部では事前に密告によって第127プリブノーBOXの蛋白壁に細工がしてあるとの情報を得ていおりました。  ですから変質した蛋白壁を切除した上、孤立環境上で各種覚醒条件試験を行ったうえに初号機のATFに反応し覚醒した使徒を0.005秒後には、超高温レーザーにて殲滅したしました。  現在報告書を作成している段階ですが報告が遅れたことはお詫びいたします」  「いや、さすがにユイだ対応にそつがないな」  「左様NERVとEVAの評価も高まってきており、われわれも補完計画用のEVAを製造しやすくなり助かっているよ」  「ところで皆様」  「なにかなユイ」  「第127プリブノーBOXに搬入された蛋白壁を製造搬入されたのは確か、北米支部であった筈です」  「ほほう、われ等の結束をかき乱しなにを考えておるのだ貴様」  「いいえ滅相もない私は、ただ・・・」  「あら細工をお認めになるの、下手をしたらサードインパクトが本当に発生し、われわれ人類は命運を絶たれていたというのに」  「い・・・」  「左様、末席の一族が一体なにを考えている」  「それとも私への意趣返し以外には頭が回らなかったのかしら?  本当に近頃の新大陸の人間は質が落ちたわね。  昔の新大陸人はもっとクレバーでしたわね、キールおじ様」  「確かに質は落ちているようだな」  そのキールとユイの嘲りに追従する嘲笑が、さらに追い討ちを加える。  「今回は、まあいい新大陸の中でなら好き勝手を行うのは見逃そう、だがわが姪に手をかけるつもりならばヨーロッパの怒りは貴様を焼き尽くすぞ」  「くっ・・・」  「左様、肝に銘じておくといいだろうな」  「今日の会議はこれで解散する」  「あ〜気持ちよかった。  語るに落ちるとはあのことね、本当にお笑いだわ」  「母さん」  ホログラム会議室から出てきたユイに司令席に座ったシンジが声をかけた。  「あらシンちゃん」  「やりすぎ」  「そうかしら?」  「逆切れして使徒と一緒に軍隊来たりEVAが着たりしたらどうするのさ」  「そんなことしたら新大陸の人工国家は自滅よ」  「本部制圧されて人員だの情報だのをとられちゃっても知らないよ」  「だってそんなことシンちゃんさせないでしょ」  「あのねえ僕がいくら神様もどきであっても、使える力は結局この体のサイズに制限されちゃうんだから、あんまり僕の力を過信しないで」  「判ってるわ大丈夫」  ユイはシンジに背後から抱きつくと口付けをする。  「私たちは負けないこの戦いに勝ち残って永遠に、この爛れた関係を続けてゆくのよ」  「うひぃ〜それはちょっといやだなぁ」  「まあ失礼ね」  「母さん」  「なぁに」  「最近EVAの若返りを過信してない?」  「どして」  「少し太ったかも」  「げげっ・・・でも、心当たりは、あるのよ、なにしろ最近ご飯がおいしくて」  「あのさ」  「なに」  「もしかして・・・妊娠してない」  「え゛」  そういえば月のものは、EVAから出て以来一度もなかった気がする・・・。    「ぼくの精子はリリン化してるから受精は、しても分裂は始まらないけど、最後の父さんとのあの強烈なやつは避妊なんてしてなかったよね」  「あの人の忘れ形見か・・・産んでも良いかな」  「え?父さん死んでたの!!」  「さあ野垂れ死んでなければどこかで生きてるでしょ」  「まあ確かにかなりしぶとそうだし・・・」    いいんですか六文儀ゲンドウ放っておいて。  完全に雲隠れしちっゃたからなぁ、もう少し母さんが早く離婚のこと言ってくれたら、監視だってつけられたのに。  なんかやばそうな予感でもあるですか?  う〜んひと目、母さんに会いたいってだけで平然と人類滅ぼしちまえるキチガイだよ、あのひとは、その母さんに三行半をたたきつけられたんだもの。  入水自殺か焼身自殺程度はしてそうですよね。  そうそう恨みを持った自殺ってそういう手段・・・って違うよ!!  冬月先生なら行き場所くらい知ってませんかね  しらないってさ、もうあんな外道のことはどうでもいいんだって。  あ、さいですか。      さていよいよ後半戦な訳ですが、豊富を一言    アスカ)サードインパクト絶対阻止っ!!  レ イ)碇君とラヴラヴ  マ ナ)もっとらヴらヴっっ!!  リツコ)科学者の夢こんなこともあろうかとを一回はやるわよ  ユ イ)永遠の爛れた関係をめざして、がんばります。  シンジ)え〜っと・・・みんなと幸せになります。     -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#21   Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#22 --------------------------------------------------------------------------------    で結局マユミはチルドレンには向いていなかったと?  まあ虫も殺せない女の子にEVAで格闘戦闘はむりでしょ。  あたしのコ・パイどうする?  2−Aから適当に見繕ってくるんじゃない。  ・・・ジャージだったらあたしが完膚なきまでにたたき殺す。  いやアスカと乗せるなら女の子でしょ。  そこまでNERVもゆがんでないと思うけど。      「見知った顔だと思うからこの子という子を選んで頂戴」  「あれ? トウジ居ないね」  「ああ、最初から彼は考慮外」  「どして?」  「NERVの規模縮小の退職者リストにおじいさんもお父さんも乗っちゃって、京都の関連団体へ転職してしまったわ、だからここには居ないもの」  「じゃあヒカリはさびしがってるわね」  そういって数十枚のカードの中から洞木ヒカリを抜き出した。  「やっぱり洞木さんになるのね」  「でもアスカ向こうは・・・」  「あ、それから彼女今一人だから」  「へ?」  「なんか、委員長だからって一人で、疎開せずにここに残ったんだって」  「?」  「そこまで責任感強かったかなぁ」    そして  「アスカ? アスカなの?」  「・・・もしかしてペンペンを預かってくれたヒカリなの」  「うん、そうよ。なんだか綾波さんを男の子にしたような人にアスカのことが気になるかいって聞かれて、はいって答えたら戻ってたの。  でもアスカも碇君も転入してこないし使徒って化け物は自衛隊にも倒せちゃうみたいだし、へんだなぁって思ってたらいきなりEVAがTVに出始めてアスカが載ってたから・・・」    カヲルくぅ〜んいったいなに考えてるのさぁ。  流石自由意志の使徒ですな  感心してる場合じゃないってば!      それから・・・あの・・・い、碇君のことも心配だったから・・・。  「へっ?」  「わたしその白い人に見せてもらったの、二人がどれだけつらい思いをしたのか」  「ヒカリ・・・」  「委員長って」  「碇君」  「なに?」  「学校に来てないんだから委員長って呼ぶのはお願いだからやめて」  「洞木さん?」  「な・・・名前で呼んでほしい」  「ヒカリ・・・さん?」  「ヒカリあんたまさか!」  「し、仕方ないじゃない、確かに同情よ最初は、でも今はちがう違うと思う。  赤木博士からいま碇君がどんな状態か聞いている。  そういうの最初はダメだとおもった。  でもいろいろ考えたら、そうしていないとみんな壊れちゃうんだってわかったの。  だから私が壊れる前に助けてお願い・・・碇君」    「どうするの旦那様」  「アスカを追ってきたにしても、あの世界から帰ってきたっていうことはリリン化していると思うんだ、弐号機に乗ってもらおうよ」  「じゃなくて」  「良いも悪いもないよ、助けを求められたら助けないとね」  これでハーレムの席は全部埋ったわけですね。  まあ・・・例外はなんにでもあるしね  まだ増えるんですか?  だってカヲル君はどうするのさ  え? 殲滅しちゃうんじゃないんですか?  本気でロンギヌスの槍叩き込むよ。  痛くも痒くもありませんが?  槍で耳をほじるんじゃな〜い!! ばっちいじゃないかったく。    そういえば。  こんだ、なに。  あのわけの分からなさではNo1なパンダボールさんの出番ではないかと  ゼブラボールじゃないの  まあどっちにしても。    そろそろ出番ですにゃ。  ヒカリの後席要員としての訓練も進みサルベージに対するMAGiMシリーズの集中演習も終了し、いよいよアスカママこと惣流キョウコ・ツェッペリンのサルベージの日がやってきた。  とはいえ別段式典だの前夜祭だのをするわけでもなく、NERVらしく淡々とスケジュールは、進み大量のたんぱく質やミネラル分の溶かされたLCLの入れられたエントリープラグが挿入され作業が開始された。      「自我境界線安定します」  「LCL内に生命反応を確認」  「惣流キョウコ・ツェッペリン博士と確認!!」  この時点で、発令所は歓声に包まれた。    「脳波正常」  「精神活動波正常値の誤差範囲内」  「とくに異常な兆候は認められません・・・っていうかあれ若すぎないかアスカちゃんと同じくらいか、もう少し年を足したくらいですよね」    「・・・やってくれたわねぇキョウコ」  「あ〜司令なにか心当たりでも?」  「あれは、アスカちゃんの遺伝子情報を若返りを行ったのよ。  さすがに遺伝子の悪魔だけのことはあるわ。  まあシンちゃんが女の子だったら私も同じことができたのに」    「綾波の情報使えばよかったジャン」  「・・・あ・・・ああああっしまったぁそうすればぴちぴちお肌でシンちゃん独り占めできたの・・・オベッ」  シンジのグーパンチが頭のてっぺんに炸裂した。  「ぃいたぁい本気で殴らなくってもいいじゃない」  「ったく母さんわぁ」  プラグが挿出され、ややタブついた感じのある古いタイプのプラグスーツに身を包んだ女性というか少女というか微妙な年齢に見える人影がハッチから身を乗り出す。  そして開口一番  「うらぁあああっ!!!  アスカぁぁ!!!  あんたは、あたしの親心がどうしてわかんね〜ですかぁ!!!」  と駆け寄って感動の涙を流していたわが子へ向かいいきなりラリアットをぶちかましたのだった。    あ・・・アスカが・・・二人・・・あ、頭痛い。    「はいはい、キョウコ、アスカちゃん壊れちゃうから、久しぶりのプロレス技大全は、保安部員にぶちかますとして、お帰りなさい」  「やあユイおひさぁ〜どうこのスタイル」  はだけかかっているプラグスーツから肩を出してしなを作ってみせる。  「アスカちゃんが美少女でよかったわね」  「ちぇ、あたしは、ほめね〜ですかぁ!?」  「精神年齢はあたしと一緒でしょ」  「ごもっとも。  ま、外見弄るのはけっこう簡単だって、これであの爺様たちも納得すっだろ?」  「ところで、あなたねぇもう少しきれいな日本語使ったら、ドイツ語ならきちんと女言葉になるくせに」  「これが地だもの仕方ないでしょ」  とドイツ語で返す。    「アスカ大丈夫?」  「ぃいきなりあの婆ぁ、なにしやがったっ!!」  おいおい。  「アスカ口調が移ってるってば、でも会いたかったんでしょ」  「そりゃねぇ・・・せめてあんたのママみたいに同じ容姿で出てきてくれたら、それもできたんだけど若返られた上に自分と大して違わない歳にしか見えないんじゃ」  「あ〜のさ、たぶんだけど、アスカのお母さん照れてるんだよ」  「そうかなぁ」  「いろいろアスカにつらい思いをさせたから素直に顔をあわせられないんだと思うよ」  ・・・だったらいいなぁ。  「ということで、SEELEの皆様サルベージおよび永遠の命を保障する若返りも可能であることをこのキョウコ・ツェッペリンが保障したします。  今後はゼロ号機での実証作業とさらなるサルベージの、簡略化を進めて数ヶ月内外には実用化をしてゆく心積もりです」  「いやご苦労だったキョウコ君、具合が悪いところなどはないのだな」  「ええ、まったく10代の娘そのままの気力と体力に満ち溢れていますわキール閣下」  「われらの場合には、近親の容姿の似た者をEVAにのせることでそのマトリクスを取り込めるのだな」  「そのとおりです、もしくは最悪クローンでもかまわぬかと思われます」  「おおうそうだ!」  「すばらしい」  「補完計画はこれで完遂可能となったなユイ」  「はいキールおじ様これもキョウコのおかげですわ」  「うむこちらも量産型EVANGELIONに建造がようやく始められた」  「こちらの技術資料はドイツのヨーロッパ支部へお送りすればよろしいのでしたね」  「うむ」  「近日中にはアップデートした資料が山ほど送れるはずですので期待をしていてくださいな」  「みなのもの今日はよい日となった・・・」  そういって一つ一つのホログラフが消えてゆきキールのみとなったときユイが声をかけた。    「北米で不穏な動きがあるという情報があります」  「わかっているよユイ、S2器官を三号機へ乗せようと画策しとるばか者がいる。  あの大陸の者たちは自分の身の丈をしらなすぎるようだ」  「そうですわね」  「ヨーロッパと東洋の怒り、軽く見ていると、火傷程度では済まさぬぞ」  「ママぁ」  やや照れつつアスカは母親に抱きつい行く。  「なぁにアスカ」  「よくも乙女の柔肌にプロレス技なんてぶちかましてくれたわね」  「あら先に喧嘩を売ったのはアスカちゃんでしょ」  「それはあたしを置いて勝手にEVAに取り込まれちっゃたからじゃない」  「あらあらアスカちゃんはさびしがりなのねぇ」  「そうよさびしかったんだから」  「あ〜」  キョウコは自分の胸の中で泣き出してしまった娘に少しだけ戸惑っている    そこへシンジが助け舟を出した。  ・・・キョウコさん、そういう時には抱きしめてせなかでもかるくたたいて上げたらいいと思いますよ、そうするとアスカ落ち着くから。  「そ、そういうのは、にがてなんじゃがの〜・・・」  そうは言いつつも、母親の表情で、娘の背中をポンポンと叩き始めた。    ねえ神様君。  なんですか。  あなたはいつまでこの子達を守ってくれるの、その痣のせいでかなり消耗しているでしょ。  あ〜・・・気がついてましたか?  ええ。  だけど・・・。  だから提案があるわ  ?  リリスの大半とダミーアダムを吸収しちゃいなさい。  あ。  ダミーアダムならいくらでも増やせるわ、それからいくら若くっても一晩に10回はやりすぎ。  あなたには、アスカを傷物にした責任を取ってもらうんだから長生きしなさい。  ありがとうございます。  もうひとついつまでもジューダスペインにこだわっているとせっかくやり直している意味が無くなっちゃうわ、この子達との未来を考えて見てちょうだい。    やっぱりあなたも母親なんですね。  当たり前でしょ    「ふぁぁぁぁあ・・・・」  それを一番最初に発見したのは葛城ミサトだった。  自宅のリビングで歯磨きを動かしつつ、カーテンを開けて、絶句した。    「ちょっと観測班はなにしてんの!!」  「どうしました葛城さん」  「あたしの目の・・・前に・・・」  「どうしました葛城さん、葛城さん!」  「マコちゃん」  「あ、よかった、大丈夫なんですね」  「あたし、目がへんかも・・・なんかね使徒らしきものが目いっぱい浮いてるのよ空が3分で使徒が7分って感じだわ」  「と、とにかく逃げてください!」  ミサトは、すでにルノーの中である。  「言われなくっても逃げてるけど・・・けどこんな状態じゃ生きて本部に着ける自信はさすがにないわよぉ」  その力の抜けた様子に、マコトはあせりを感じた。  「し・・・しっかりしろっミサトっ!!  お前が使徒を倒さなかったらいったい誰が倒すんだ!!」  「ま・・・マコちゃん?」  「いいか今一番安全だと思われるルートをアルピーヌのナビに送る、だから死ぬなっっミサト!!  あ・・・すいません・・・と、とにかく」  「ううんありがとう大丈夫、あなたの言葉で目が覚めた、わたし今ならいえるマコト大好き」  「あ・・・俺も大好きです」    いいんですか。  なにが?  死亡フラグって言いませんこういうの普通。  この話のどこが普通なの。    あ〜言われてみればそうでした〜。      「アドバルーンなんぞは、機関砲で一網打尽にしちまやいいんだ」  そう最上層で声を上げたのはキョウコである。  その声を真に受けたのはマナちんだ  「一番、三番メララ127ミリ用意」  「え? 打っちゃうの冗談だったのに?」  「ふ、副司令ぇ」  「あ〜んごめんなさぁい」  「すみません、遅くなりました・・・マコちゃん、反応は?」  そのままマコトへ駆け寄り、ぎゅっと抱きつく。  「ま、まったくありませんパターンもオレンジのままです」  「そう、EVAを出すしかないわよね」  「どこへ出すんです?」  「葛城少佐、その前に威力偵察かましたほうが良いですよ」  マナが慌てて進言する。  ミサトも流石に動転しているのだろう、戦術の基本すら忘れていた。  「あ〜そっか、そうよね。ありがとマナちゃん」  「はい?」  「威力偵察」  「はい、1番三番127ミリ砲射撃10秒、目標使途と思われる球体・・・用意・・・撃てっっつ!」  ほぼ1.2秒に一発の割合で砲撃が開始された。  オレンジ色の光を曳き突き進む砲弾は、使徒の群れへと突入し使徒を弾けさせてゆく。  「とうみても、ただの風船ですね」  「ありゃん・・・じゃ大半がダミーで本物は、あの中からひとつを探さないとだめってこと?」  「全部ダミーってこともありえますよ」  「あ〜こっちの弾を消費させるつもり?」  「使徒はんなこと考えてないでしょうけど  なんだよ、あれ。  わははっ。  笑える、ひたすら笑えるぅ〜。  メララの艦載砲の砲撃に群れを成して破裂してゆくゼブラボールに、シンジとアスカは、笑い転げている。  だが笑い転げている場合ではなかった。    まあ、確かに本物の影も見当たらないから・・・って、いるじゃんジオフロント内にぃ。  まずいよアスカサードインパクトになっちまう、綾波出るよ。  二機とも飲まれたなんてしゃれにならないわよ。  今回は初号機で三座で出るよ。  ヒカリの訓練が未了だしぜひとも初号機にS2を取り込みたいからね。  そう判ったわ、三座ででるのね、  マナがそれを確認する。    「葛城さん出撃は、初号機のみただし三座ででるそうです」  「わかったわ何が起こるかわからないから全員気を引き締めておいて」  装備はどうするの?  槍でもあるなら別だけとナイフがあればいいです。  そうね。    「EVA初号機発進!」  「初号機ジオフロント内に出ます」    アスカ、綾波ATFで取り囲むよ取り込まれてもリリスの気配でいつでも帰ってくれるからパニックにならないでね。  「ええわかってるって」  「いくよ」  「せぇの!」  「「「ATフィールド全開!!」」」  その瞬間直上都市上空の無数のバルーンは消滅しそして本部棟がディラックの海に飲まれ・・・た。  「な、なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」  シンジ一人がムンクの叫び状態だ。  「錯乱してるのはあんただけよっ! しっかりしなさい」  ゲシッと横頭をどつかれる。    「と、とにかく早くしないと」  「わかってるけど」  「この球体の、このあたりをこうして捻じ曲げて、ここを引っ張って・・・。  だから逃げるなっっ!  このこのこのこのこの・・・ぐふっ・・・・ぐぅぅぅううっ。  「どうしたのっ!」  「は、反撃食らった、初号機の体内にディラックの海、開きやがった。  内臓半分持っていかれた・・・。  ちくしょう・・・こいつ調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」    ぐしょっ!  初号機の両腕がバルーンをつかみそして握りつぶした。    はっはっはっはっはっ・・・。    「本部棟元の位置に出現したわ」  「みんなは無事?」  「うん僕がわかる範囲で全員生きてる」  「よかったぁ」  「まさかEVAがどうでもよくて本部をいきなりねらってくるなんて。  だってさ素直に障害を一つ一つクリアなんてしなくてもトラックをショートカットしてもいいわけだし。  でS2も手に入ったのねうんまだ動かさないけどね」  「あ〜もうびっくりした、いきなり停電したと思ったら無重量でしょ非常電源も動き出さないしこれは、本部が飲まれたなって思ったけどなにもできないし。  とても弐号機のところまではいけそうもないしきっとあなたたちがなんとかしちゃうだろうって思ったから、無重量を楽しんじゃったわ」    「今設備の人たちがクリティカルな部分を点検中ですけど、電線とかはダメみたいです。  パイプの類は、ミリのずれもなく接合したので液体が漏れたりとかはなさそうなんですけど電気情報系は、今は動いてもなんかの拍子に断線してしまうだろうと、それから不運な職員の方が10名ほどいらっしゃいました。  手足程度の場合には接合ができましたが胴体輪切り縦に真っ二つという本当に不運な方が3名いらっしやいました」    「これは委員会へのフォローが大変ね」  「このくらいのピンチがなくちゃうちの有り難味がわかないわよ」  「自分たちがピンチになっても?」  「わたしはシンジを信頼しているわ。  まあ今は娘達に貸しといてあげるけど」    「あんた本気でアスカとかレイちゃんと張り合うつもり?」  「一番のライバルは実は、リッちゃんなのよ」  「へ?」  「あの子は、ゲンドウさんが親戚に育成を、まる投げしちゃったおかげで愛情に飢えているのよ」  「はぁん自分の母親よりも年上の女性にやさしくされたいぃってわけか」  「あ〜もう悩ましいわぁ」  「でもあの子達シンジ君がいなくなったらどうなるかしら」  「追いかけてまた時間でも世界でも越えて行くわよ。  もちろん私もね」  「あの子の負担を増やすだけでも?」  「そんなにしんぱいだったらあなたもついてくれば。  もっともうまくいけばこの世界にとどまることだってできるはずなんだから」  「そうねそっちを考えたほうがいいわね」  「ええ」  ねえ綾波なに綾波は本当は何回目なの・・・碇君は  20までは、数えたけどねあとは、ばかばかしくてやめた  正確には3241回目の繰り返しよ    そう疲れたな    ええ・・・疲れたわね。 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#22 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#23 --------------------------------------------------------------------------------  「カウント−10。  すでにこの時点で強度の重力異常により重力レンズによる光学的なブレが多数確認できます。  カウント−5。  ここでここで発生したノイズは、磁気異常によるもので中心部分では3万テスラというすさまじい磁場が形成された模様です。  カウント0です。  この時点での爆発力は、10Gトンに到達していたと見積もられマイクロブラックホールの最終蒸発に伴う爆発が発生したと考えるのが妥当のようです。  実験データの解析から考えるとS2器官の搭載後、EVAの起動に失敗しS2器官が暴走。  急速に上昇したエネルギー密度によりマイクロブラックホール化これによりS2器官が消滅、エネルギーの供給が停止したマイクロブラックホールが蒸発過程に入り最終的に爆発したという状況のようです。  以上が北米統括支部の消滅の模様です」  ブリーフィングルームに上級職員が集められ、北米統括支部消滅の様子が、分析されていた。  「しかしマイクロブラックホールかかね信じられん出力だなセカンドインパクトが起きるわけだな」  「ええそうですわね」  「あの、すいません。  ここにあんまり物理の素養のないのが揃っていて、もうひとつ事態が飲み込めないんですが」  子供たちが固まっているあたりから加持リョウジが声を上げる。  「ブラックホールってなに?」  「エンジン排気に外気を混ぜ込んで温度を冷やすシステムとは・・・違うみたいですね。しくしく」    「まあ普通知らないでしょうし、知らなくても生きてゆける情報だから、重すぎて光すら出てゆけなくなってしまった不思議な物理状態とでも覚えおけば良いんじゃない。  気になるなら解説のWEBなんて検索すればいやというほど出てくるし」  「説明好きのリツコが説明をしないってことはリツコもわからないんだ?」  「わかるわよアインシュタインの相対性理論の骨子から説明を始めて理論・天体物理の歴史を語らないといけなくなるから二時間や三時間じゃ終わらないわよそれでいいなら説明するけど」  「い、いいえ結構です」  「シンジ君は解るんだ」  「まあ、要するにどんどん重くなっていった星が重くなりすぎてある一線を越えてしまってその星の表面からは光ですら脱出できなくなってしまったという状態のことをぶらっくほーるって言うんだよ。  「でなんでそれが蒸発したり爆発したりするの。  なんにも出てこれないんでしょ?」  何にもでてこれないのは、僕らのサイズで見た場合。  で真空というのはエネルギーが一番低い状態なんだけどつねに、素粒子が対で生まれてその対が消滅している状態であると仮定できるんだ。  「あ〜だめ、もうそこから解らないです・・・」  「あ〜・・・そうするとリツコの言うとおり不思議な物理状態っていう風にスルーするしかないわ」    「この事故で半径30キロ最大で200万の人間が死亡したと考えられます。  「この件について生き残った旧北米第二支部では破壊工作の疑いがあると発表しています。  「破壊工作? 自分たちの未熟さをおいといてよく言う」  「そうとでも言わないと無関係な人たち200万を巻き込んだ事故とあっては北米でNERVは活動できなくなりますから」  「こちらからも発表をしないとまずいかもしれんな」  「すでに草稿はあがっています」  「おお、すばやいな」      「北米NERV統括支部において発生した事故についてNERV本部は、本部が禁止した危険極まりない動力装置の稼動実験によって発生した純粋な事故で彼らの技術的、理論的な未熟さがすべての原因で破壊工作などありえないと発表いたしました。  また日本の本部、松代の極東支部には、事故を起こした動力装置の設置運用の予定は一切なくNERV本部は、本部の懸念の表明にもかかわらず実験を強行した北米NERVをNERV司令系統から切り離し技術支援など一切を打ち切り関係を絶つことも視野に入れていると発表しました」  「北米の事故はテロなどでなく単なる慢心が生んだ事故であるというNERVの主張は、公表された実験時のデータなども信憑性があり検証を待たないとはっきりとしたことはいえませんが本部の言い分が正しいと私は、考えます。  かの国は、常々使徒戦後のEVANGELIONシリーズの独占を画策しており連合国の特務機関でありながら米国政府の言いなりであったなど特務機関としての独立性を自ら損なうような行動を取っていた連中ですから半ば自業自得だといえますね」  「未だにあの国は一国中心主義パクス・アメリカーナで再び世界を混沌とさせたいようです」  「本当に困った連中だ」  「いいんですかあそこまで言っちゃって」  「世界最大の軍事国家であることは間違いない。  20世紀の最後の年のように世界中の軍隊が束になって戦争を仕掛けても余裕で勝てるほど軍事力が大きいわけじゃない。  まして新世代の技術を大胆に導入しているヨーロッパや日本の軍とちがって古い設備を古い頭のままで運用している軍としては、二流に落ち込んでいることすら認められない卒中状態と言い切れます。  まあ、実際かろうじて浮いている空母にかろうじて飛んでる爆撃機だものね。  勝手に建造を行っていたEVAはすべてが失われたようで技術資料を含めてすべてが失われた以上再建は難しいでしょう。  いゃあいっそ見事に消滅しましたね。  S2器官が暴走してどうしてディラックの海へ飲み込まれるのか理解できなかったからこうしてしまいました。  支部の後には直径30キロのクレーターが出来上がってます。  まあ単純に馬鹿ですな。  そだね。    それにしてもびっくり。  なにが  だって何千回も逆行してるなんて。  うちのEVAの話は全部このぼくだったり。  あ〜なるほど・・・。  ・・・あ〜まだだよ。  何もいっとりゃせんですよまだ。    まだこの世界にとどまれるかとどまれないか解らないっていうこと。  とどまれなかったら?  またあの駅前から「さあ冒険の始まりです」ですか?  まあそうとも限らないんだけどね終了時の条件とか綾波の状態とかでずいぶん変わるんだよ。  は・・・あ、さいですか  僕だって放浪はいやだよでもね鍵となってまった以上、世界に求められたらいかなくちゃいけないんだ。    みんなごめん。  シンちゃん  なにリツネエ  あなたからその聖痕を消す方法を、いま考えているわ  無理ですよいくらやってもだめだったんだから。  それはあなたが消そうとしたからじゃない?  レイあなたには、わかっていた筈よ。  ええでも私がみんなに伝えては意味がないことなの  そうね。だから希望を持ってね。  ありがとうリツネエ。  それから。  なに?  あなたがこの世界から消えてしまっても私たちはあなたをきっと追いかける  うん。  リツネエ  なぁに    大好き。  「・・・う〜参号機が出たぁ?」  「どこに? ・・・ドイツぅ」  「どうやってかまでは要領を得ないんだけど、どうも画像を見る限りじゃディラックの海を扱えるらしいわ」  「でどうなったんです?」  「出ただけで2分もしたら、またディラックの海で消えちゃったみたい・・・」  「なんなんですそれ」  「機体の様子が何かを探しているようだったって」  「乗ってる人間は生きてるの?」  「あれから何日たってると思うの」  「あ〜愚問でした」    「・・・野良EVAかぁ捕まえても、ぜってぇ使徒化してるからそういう算段するだけ無駄だよねぇ」  「乗員は?」    「え〜っとKENSUKE−AIDA・・・」  「あ〜・・・ケンスケかぁ・・・」  ある意味本望だろう。    「なるほど、相田ケンスケは、行方不明でした。  4,5日家に帰らないのは常態であったので家人もあまり気にした様子がありません」  「ひでぇ」    「もう一人の後席担当は、向こうの人員でMILY−McDOGALとなっています」  「とにかく日本、それもこの近くに出てくれなくちゃなにもできないわ」    「で、出ました!」  「「「え〜っ!」」」    「いえ・・・あの、こんどはイギリスです。  NERV支部の跡地でやっぱりなにかを探して・・・あ〜っとRAFが攻撃を仕掛けます!」    しかしJSF20機による水平精密爆撃はATFによってなんの効果も及ぼさず、しばらくそのあたりを探索した参号機はディラックの海へと消えた。    「探しているのは使徒のサンプルだねきっと、あいつはS2を吹き飛ばしちゃったから使徒化してもパワーがたりないんじゃないかな」  「しっかし北米総括支部も間抜けよね、相田ごときにS2が制御できるなんて本気で思ったのかしら」  「そもそもATフィールドが張れたかどうかすら怪しい」  「そうよねぇ・・・ねえ、次にどこに出るか予測とかできないの?」  「まあここに出るのは最後だろうね」  「どして?」  「ここなら確実にサンプルがあるのは、解ってもEVAがいるのもわかってるから」  「むりやり、ここにひっぱっくるなんてできないの?」  「できるけど逃げるだけだと思うよ。  待ってるしかないんじゃないかな。  野良EVAには手を出さないよう各国に、要請してさどうせあいつはガチンコのタイマンしかできないし。  妙な攻撃をしなければ向こうは学習をできないしこっちも楽だよ」      ところがどこの国にも手柄を立てようとするばか者はいるのである。    「人民解放軍の意地にかけあのEVAを殲滅する」  「N2砲兵隊、前へ」  「ファルクラム隊位置につきました」  「閃光殲撃隊準備よし」  「よし、全軍攻撃開始!!」  「野良EVANGELIONを攻撃した人民解放軍は、全滅状態に陥った模様です。  戦術N2榴弾砲100門。  N2航空爆雷50発。  ギガワット級紫外線レーザー兵器などを投入したそうですか?」    「まあNERV本部が手を出すなという警告を発していた、にもかかわらず手を出したわけですから自業自得でしょう。  なにやらいつものごとくお得意の「謝罪と補償を要求するっ!!」などと吠えているらしいですが謝罪と補償がこの場合必要なのは、単なる野良EVAに攻撃方法を教え込んでしまった中国に対して命をとして迎撃に当たるNERV本部のEVANGELIONパイロット4名の少年少女達だと中国を除いた全世界が思ってますよ」  「まったくそのとおりです」      ジオフロントは、穴ぼこだらけその割には、ぼこぼこになっているのは参号機だけである。  ったく基本的にザコなんだから、妙な色気なんか出さなきゃ良いのにさ。  多重展開したディラックの海の罠に捕らえられた参号機を、一方的にボコリ、最終的にマステマ2とデュアルソーとで上半身と下半身とを解体し、コアを抉り出しプラグを引き抜いたのである。  三号機の攻撃はすべて早期警戒用に展開した、ATフイールドに連動するディラックの海で参号機の背後へ流すようにした。  自分の放った攻撃が自分に帰るという悪夢のような状態に、三号機は攻撃をやめざるを得ず殲滅されたのであった。  「相田君、生きてるって」  リツコが呆れたような声で、伝えてきた。    「うっそ」  「信じらんない」  「あ〜あ可愛そうに、どうせ生きてたって一生実験動物扱いだよ。  使徒人間とか言われて」  「<はやくアダムと合一したぁい>って?」  「アスカ、それ古すぎ」      「碇シンジなんて奴より僕の方が絶対に優れているんだ!!!!!!  だからこうして生きてるんだろうが。  オレの親父はここの大物だぞ!!    ・・・たんなる広報部の使いっぱです。    こんなところに閉じ込めたって北米統括支部の人たちが助けに来てくれるぞ、お前たちなんて新型のEVAでやっつけてやるんだからな!!!  ひ〜ひひっ。  ぃひひひっ。  全員が哀れみの視線を浴びせる中ケンスケは、自走式の檻に入れられ、重営倉へと放り込まれた。  「よくもまああそこまで自己中心的になれるものね」  「まあそれが生贄の条件みたいなものだし。  いろいろ操作はされたろうしね。  彼一人だけを攻めるのはかわいそうだよ」  「後席の人は助からなかったのに?」  「まあ使徒が憑いていたのは彼女みたいだしケンスケもしばらくすれば、おちつくさそれより明日も迎撃任務なんだからさっさと寝ようよ」  「あ〜そうだった明日は、あの牛柄やろうがくるんだった、ヒカリ寝るわよ」  「え? ええっ!?」  「とにかく体を休めないと明日は体力勝負なんだからね」 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#23 Fin COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION#24 --------------------------------------------------------------------------------  「どうした時化たつらして・・・碇、いや六分儀ゲンドウともあろう男が」  「なに、きさま誰だ」  カウンターバーの止まり木でバーボンを舐めていたゲンドウの隣へ、ダークスーツの男が滑り込んだ。  「復讐をしたくないか」  「貴様を裏切ったあの女に」  「ふん、復縁ならともかく復讐は、いらんユイを傷つけてどうするというのだ」  「たかが女房に捨てられた位で、すっかり腑抜けか魔王とまで言われた男が哀れなことだ」  「なんとでも言えばいい、言葉など痛くも痒くもない」  「くっ・・・ならば」  懐へ腕をいれ得物を取り出そうとした瞬間、その肩をつかむ腕があった。  「はい、はい、CIAのギリング君そこまでにしとこうや」  軽い口調であるが、有無を言わせぬ力がその腕にはこもっていた。  そして男には、その声の主に心当たりがあった。  とても自身では適わぬ実力差に体が冷え、心がなえ果ててゆく。  「・・・か、加持リョウジ」  「大体、こっちの旦那にはまだガードが山ほど付いてる、勝手をしないようにな。  だからおうちに帰ってママに報告しな、六分儀が寝返ることはないってな。  それともこの場で首と胴体が泣き分かれてみるかい」  「よ、よしてくれインビジブルリョウジに敵いっこないだろう・・・わ、わかったここは、引かせてもらう」  「そうそう、人間素直が一番」  さういいつつダークスーツの背中を見送る。    「さて、司令」  「もう、わたしは司令ではない」  「いいえNERVカウンターインテリジェンス部門【這い寄る混沌】のあなたは司令官です」  その言葉にゲンドウの表情が変わった。  「・・・そうか、それを私は、ユイに望まれているのだな」  「そのとおりです」  加持は、命令書と任命書をゲンドウの前へ滑らせた。  それを確認してゲンドウは、口を開いた。  「あいつの怒りが融けることはないだろう、だが私はその役目を果たそうじゃないか」  そういって、ゲンドウは酒代を置くと立ち上がった。      うううぅ僕は、僕は、僕は、父さんのことを誤解していた、ごめんよ父さぁぁぁん。  というか単なる未練というやつでしょ?  それだって、母さんの役に立とうって心意気が健気じゃないか、母さんのいう「可愛いところ」ってこういうことだっだね。  ち・・・ちがうと思いますけどねぇ(汗)  ・・・でも、かあさんどうして父さん嫌いになっちゃったかなぁ。  別に嫌いになんてなってないわよ。  ただね、シンちゃんの方をずっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜と好きになっただけだもの  あ、さいですか。  しかし父さんじゃなけりゃ、ここに押し入るように手引きしたのは誰なんだろうね。  あ、それは冬月せんせよ。  い〜。  ・・・あ〜副司令って。  そりゃあれだ押し入らせて、現場の問題点を見つけ出す実戦演習じゃん。  巻き込まれたCIAこそいい面の皮だったと。  そういうことよ。  まあ死者まで出したのは、予想外だったけど。    それにしても今日本当にゼルエルさん来ますかね  さすがに、そこまでは解らないよ〜ん。      そして、数日後。  副司令キョウコツェッペリンの執務室。  「どうも、いろいろ調べてみたけど、米ちゃんのばら撒いたバルディエル因子が残りすぎててゼルエルが目覚めないみたいですね」  「そういうものなの?」  「なんか、世の中そういう仕組みになってるらしいです」  「はあ、それにしてもばら撒きぎよね」  スクリーンにしめされた、バルディエル因子の分布状況は、目を疑いたくなるようなものだ。  その数にして数十万。  もっともよほど条件が整わないと発現しない使徒因子である以上、それくらいに散布しなくては、ならないというのも判らない話ではない。    「で、ですねしばらく怠惰な日常を生きたいから掃除は一月くらい後でいいですよね」  「「よね」って言われてもね・・・そういえば、疲れとかは?」  「リリスとダミーアダムを吸ったから疲れというか、消耗は回復しましたね、というか前よりも力は出ます。  それにあっちのほうは10回とかいう無茶はしてないですし。  一人のの相手をじっくりとねちねちしてあげれば大丈夫みたいですし」  「そう医者の言うことを聞いてくれてありがたいわ」  会話はちなみにすべてドイツ語である。    「バルディエルの因子ってどれくらいあるのよ」  「ん、まあ世界中に数十万程度」  「・・・なに考えてるんだか理解に苦しむわね」  「ま、本来は1つ発現したと同時に他の因子は枯れるんだと思うんだけどね、あいつS2器官の暴走マイクロブラックホールの爆発から逃れるのにディラックの海へ潜っちゃっただろ?  だから発現信号が確実に受信されてないんだろうね」  「なるほどバルディエルは倒れたけどバルディエル発現がゼルエル因子に伝わっていなくてゼルエルが発現しないってことになるわけね」  「そういうこと」  「ねえどうして最近僕の手をみんなで握ってるの」  「せっかくリリスとアダムの力を取り込んで回復したのに痛みで消耗したら勿体無いでしょ」  アスカとマナが右手を両出で握りこんでいる。  「だからこうして痛くないようにみんなでなでなでするの」  「すりすりしてるひとも約二名いらっしゃいますが」  レイとヒカリは左手の甲と手のひらに頬を擦り付けている。  「なんか変な構図だなぁ」  「気にしない、気にしない」  「キール閣下、おめでとうございます」  例によって例のごとくホログラム会議である。  「うん、ありがとう」  鷹揚に頷いたのは、60代と思われる、恰幅のよい白人男性だ。    「他の皆々様もお喜び申し上げます」  「いやいやこれもすべてドクターキョウコとユイの成果の賜物である。  いきなり若返ると影響力が低下しかねないのでな、まあこの程度で我慢をしておくとしよう」  体の大半を機械にゆだねていたその老人はいまや完全に往時の姿を取り戻していた。  「取り込みとマトリクスの取得、そしてサルベージはMAGiMによって完全に自動化されています。  これにて人類補完計画は成功裏に終了したということでよろしいでしょうか?」  「まだ使徒の始末が残っているがな、本部の二機のEVANGELIONがあれば対処は可能だろう。  予算も増額する。  存分にきゃつらを闇へ葬れ、そしてわれら人類の新たなる夜明けを祝うのだ」  「はいおじ様」  「キール閣下、われわれ新大陸に再びEVAを下賜抱けますよう、どうが・・・」    「貴様の勝手で、民間人がどれほど死んだのだ」  「たかが221万ごときにございます」  「われら君臨せしものは、それら民草一人一人に対して責任があるのだぞ」  その言葉の中には静かな怒りが流れていた。  「おおキール閣下だ! たしかにあのテロに倒れられる前のキール閣下だ」  「われらはキール閣下の高邁なその理想に集った騎士であったはずなのだ」  「左様そのような熱い思いなどとうの昔に忘れ去ったと思っていた」  「補完がなされた今われらは再び理想へ向かい歩みだすことができる」  すっかり置いて行かれ、やっぱこいつについて来たのは間違いだったよなぁと若禿のあたまを内心で抱え込んでいる05だった  「あらあら無理やり叔父を引きずり倒して座った権力の座だと思っていたら、妙な計画に巻き込まれるわ。  一座で若いってだけで相手にされないわ。  たまったもんじゃないわね」  「お前なんかに何がわかる!」  「解るわよ、私は白人と東洋人との混血だもの。  ただそれだけで差別される存在。  力を持たないと白人の方達とは対等な口も聞けない惨めな存在だわ。  あなた達、新大陸の人たちは、あまりそういうことを表に出すことはマナー違反であると思い知らされているから面と向かっては差別はされないけど」  「そんなことは」  「そうよ、し方がないことだわ。  私はそれを実力で跳ね除けたのよ」  「あの連中は、本気で・・・本気であんなことを信じているのか?」  「高邁な理想?」  「そうだ、われわれはエリートだ、選ばれた血筋だ、それがなぜ下層のくずどもを気にかけねばいけない」  「それが<エリート>として生きることの義務だからよ」  「義務? 義務だと?! 笑わせてくれるなよ」  「どのような政治形態においても、統治を行うのならば統治者は、非統治者に対する保護の義務を負うわ。  それが理解できないあなたは血筋による統治をおこなうエリートたる資格がないということになるわ。  そしてそれが理解できない、あなたは所詮成り上がりってことね」  「下らん、何とでも言っていろ、EVAの技術をお前たちが独占しようとしていることを、われわれは許さない」  「あらあら言うに事欠いて独占ですって?  何を言っているの先にEVAの技術を占有しようとしたのは、そちらでしょ。  その上S2機関の搭載に失敗して、無関係の人間に死者まで出すとは、お笑い以外の何者でもないわ」  「くっ・・・」  「事実を自分たちの都合のよいように捻じ曲げ虚構をでっち上げる。  そのでっち上げた中身を心から信じ込む。  これってあなたたち新大陸の十八番よね。  いつまでもそんな子供だましが世界に通じると思っていたら大間違い。  そしていつまで新大陸が力で一番であると考えるのも大間違いよ。  だいたいEVAを使いたいならヨーロッパへ出向けば良いじゃない。  それ相応の対価を支払えばいつでも使えるわ。  それとも戦略兵器としてのEVANGELIONを保有したいのかしら?  もっともS2機関が作れない以上、拠点防衛兵器でしかありえないのにね」  「そんなものがなくっても02は長時間駆動を実現しているではないか!!」  「それを実現するために本来の性能がどれほど犠牲になっているのか知らないんでしょ」  「だが02は本部のエースではないか!!」  「そうねでも、基本性能を犠牲にしていることと、エースであることは別に矛盾はしていないわ。  あなたは、もう少し世界の中の自分たちの立場ってものを考える必要があるんじゃないかしら  似非エリートさん」  まあ、なかなか素敵な世界だよね、自分たちが滅ぶかもしれないのに、その最前線で戦っている集団の邪魔をしようというのは。  ・・・馬鹿なんですか?  というかサードインパクトが発生すること自体を信じてないかもしれない  まあ使徒によるサードインパクトというのは、確かに突拍子もない馬鹿らしさではありますね。  まして人類がその生存競争に負けたとみなされて絶滅させられるというのは、にわかには信じられないんでしょう。  なにより使徒が弱かったし。  そうだったね。  でもいったいどう出るつもりなんだろう。  そういうのはミサトさんとマナちんに尋ねましょう。  「そうね一番簡単なのは要人誘拐よ」  「それはでも」  「ええほぼ不可能ね・・・ありうるとしたら副司令がお出かけになるとき程度しか考えられないし」  「全面戦争っていうのは?」  「それもね一応日本は、アメリカと同盟関係にあるわけだしNERVは国連の所属機関侵攻する言い訳がたたないわ」  「言い訳がたてば侵攻してくる可能性があるんですね」  「まあ、逆に言えばそうね」  「たとえば全力で侵攻してくるとしてどんな感じになりますか?」  「本部を落とすだけならN2戦略弾道弾の100発もあれば跡形もなく吹っ飛んじゃうわよ」  「あ〜本部を占領するつもりなら?」  「そうね天井都市を吹っ飛ばして航空精密爆撃の跡で空挺降下。  こことあなたたちを確保して降伏勧告って感じかなぁ。  まあ戦自とか他のUN部隊とか敵か味方かでずいぶん違ってくるわよ。  最悪の状況だとNERV以外は全部敵って状態かしら」  「はあ変動が大きすぎて最悪には対処しきれない?」  「は〜い! マナちん提案があります」  「なに」  「バルディエルって言うんですかあのEVAを乗っ取った使徒さん」  「し・・・使徒さんって・・・ま、いいけど、そうよ」  「その因子ってたくさん残っているんですよね、で使徒ってアダムとかリリスを目指してここへきているんですよね」  「そうだよ」  「だったらいくつかある、ダミーアダムをアメリカ国内の要所に置いといて一斉にアメリカ国内のバルディエルの因子を活性化させたらどうなります?」  「・・・たち悪いなぁ面白そうだけど・・・結構人が死ぬと思うしEVA再建造再配備の言い訳になる気もするなぁ」  「あ〜それ、なんかもう遅いみたい」  といってアスカが指差す先には、マルチ画面に切り替えられた発令所のフロントスクリーンに映し出された、惨状だった。  「まさか、勝手に因子が発現してるのか・・・? いや勝手に発現なんかするもんじゃない、誰かが覚醒信号を流した? 一体誰だ」  「誰がしたにしても、信じられない真似をするわね・・・自国民の犠牲なんてどうでもいいのかしら?」  それを受けてミサトが心底呆れたという口調で言う。  「でもEVAじゃどうにもならないね、あのサイズじゃ」  そうバルディエル因子の発現した場合、人とはそれほどサイズが違わずに獣の動きを可能としてしまっていたからだ。  あまりにサイズが違いすぎて、EVAでは全く対処不能だろう。  「まあ牛使徒が出てこないから無理やり覚醒信号を流したんだろうけど・・・まさかこんなに覚醒するとは、思ってなかったんだろうね」  マルチ画面に映るアメリカのニュースチャンネルの映像からは、破壊されつくしたスーパーストアとその中の無残な状態の買い物客や店員の遺体が映ってた。    そしてそれを撮影しているカメラークルーが背後から襲われ腹から腕が生えはらわたが握りつぶされ引き抜かれるという猟奇的シーンが展開された。  「うわぁあれは・・・痛いわ」  「っていうかミサトさん、あれは死にますって!」  「でも、ものすっごく痛い思いをするなら首でも折られて即死したほうがマシよね」  「ま、それはいえてるね」  「ねえ、あれだってATFはるんでしょ?」  「S2が人間サイズだから張れたとしても、拳銃弾を跳ね返すのが関の山だと思うけど・・・」  「世界中パニックになるわ」    【這い寄る混沌】  「そうだバルディエル因子をばら撒き、それを活性化させたのは、元NERV北米統括支部の人類への裏切り行為だ。  やつらはサードインパクトに介入することで、サードインパクト後のアメリカが覇権を再び手にすることしか考えておらん。  その結果、自分たちも含めて人類が使徒との生存競争に敗れたこととなり自然消滅してゆくことなどこれっぽっちも信じてはいないのだ。  そうだすべては、アメリカ合衆国の容認の元に行われた。  これは人類への犯罪行為だ」    そういい終わり、受話器を置いたゲンドウの表情は硬かった。  情報のカウンターリークが、間に合わなければ、その人類への犯罪の罪を被されるのは、NERVであることは明白であったから。    だが、それは辛うじて間に合った。      「NERV本部、および各国支部から重大情報が発表されました。  現在発生中の異常事態の元凶は、アメリカ合衆国政府と元NERV北米支部残党などがからんだ、人類社会全体への犯罪行為に間違いがないとのことです。  その主張の根拠は、同時に発表された野良EVAに取り付いていた、使徒のサンプルと各国被害者から取られたサンプルの解析結果・・・これはDNAに類似するきわめて精度の高い同一性の確認方法だそうです・・・および各国軍警察の行った同様の検査の結果が完全に一致し、野良EVAに寄生した使徒と現在凶悪な殺人を行い続けている被害者に取り付いている使徒とが同一でありそれを寄生させることができたのはアメリカ合衆国政府の機関以外にはありえない事が確認できたと思われます。  ですがどうして確認できるんですか? ばら撒くことは容易にできますよね。  「EVANGELION参号機には、北米NERV統括支部およびアメリカ政府関係者しか接触ができないほど厳重な軽微下に置かれていたからですよ。  もしも他のNERVの支部の人間や研究者が近づくことができたなら必ず新型機関の搭載実験の停止を求めることができたはずだからです」  「なるほど新型機関搭載実験を行う為に関係者以外は、近づけないEVANGELIONに近づけたのは、当然関係者であり関係者がEVAに使徒をしかけさらに同じものを世界中にばら撒いたということになるのは当然の結露です」  このあまりにもすばやいNERVの反応に、NERVが因子をばら撒いたという偽情報の流布をねらっていたアメリカ側は、完全に虚を付かれた形になった。  さらに世界中からの非難が集中したことにより、株価さらには国債の信用ランクなどの経済指標がのきなみ暴落することとなった。  それを予期していた日本をはじめとする各国政府はすでにアメリカ国債やドル株などはすでに手放しておりそれがまたさらに暴落に拍車をかけることとなった。  合衆国政府は外貨準備を取り崩し円・ユーロ売りドル買いを行い自国通貨の防衛を図ったがもはやドルの価値は、中南米国家はおろかアフリカ最貧国の通貨ほどの価値も国際的には認められなくなってしまっていた。  もともとが資源大国であるアメリカは、そのことでいきなり困窮するということはないが同時に暴落した株価によって経済活動が完全に破綻してしまっていた。  「いい気味だな」  自身アメリカに国籍をもっていながらあえてドイツで生活していたキョウコはそうはき捨てた。  「ほんの少しタイミングがずれていたらここがああなっていたのよ」  「そうかぁ? たとえうちがやったと言ったとしても状況証拠も物証も向こうが、黒なんだひっくり返すのは、それほど苦労しないだろう」  「それはSEELEの影響の大きな国はどうとでもなったでしょうけど、不信感は醸成されるは」  「なるほどいったん疑われたらそれをぬぐうのは難しいやな」  「そのとおり」  「しっかし1ドル0.0000000001円って・・・紙くず以下だな」  確かに同じ重さの古紙だってもっと高く買ってくれるのは確かだ。    「で、アメリカは変動相場制を停止して固定相場制へ移行するそうよ」  「馬鹿な国だ、円とユーロで経済が回っている状況でんなことしたって、円建てユーロ建てでの支払いを要求されるだけだんなもん」  「なんだか哀れね全盛期の幻想にしがみついている」  「俺等もな、しがみついていることを・・・」  「認識しているわよ私は」  「SEELEの爺様たちも認識してくれりゃいいんじゃがの〜」    これでしばらくアメリカは身動き取れないねぇ。  そりゃそうでしょ大統領自身がバルディエル因子で、使徒化してホワイトハウスで大暴れして主要閣僚ほぼ全員殺害した上、海兵隊の対物ライフルの一斉射撃で討ち取られたってんじゃ。  アメリカってアホですか?  まあ大統領に関しては、自業自得だよね。  そういえばマユミちゃんについていた因子はどうしたんですか?    さぁ・・・。  ・・・やったんですね。  ノーコメント。    「作戦艦艇210隻  作戦機2100機  主力戦車3千両  人員54万名  即応予備役12万名  これがUSAF合衆国軍の全勢力よ」  「こんな軍隊持ってていったい何に使うの?  こいつら世界征服でもするつもりなの」  「ま、まあ、確かに一昔前なら征服できたでしょうね。  今は、日本もヨーロッパもアジアも力をつけたから、そんなにばかげた戦力でもないし最新鋭って本当に言える装備なのは、海軍の攻撃型潜水艦だけ。  それだって海自のスターリングエンジン搭載の「おやしお級潜水艦」には、及ばないわ」  「でも葛城少佐数は力ですよ」  「まあね戦略ミサイル原潜が20隻トライデントD7に10メガトン級N2のMIRVを目いっぱい積んで一隻あたり投射量が288発よ。  4000発近い弾頭数を打ち込まれたら、それだけでTMDシステムは破綻するわ。  その上SLCMまでこられた日には、防空はほぼ不可能。  もっともSLCM相手には、秘策があるわEVAの発進口の防御盤をいきなり展開してやればよけ切れずにボン」  「まあそれにしても相田のやつには参ったわね」  「特殊合金の檻を破壊、警報で駆けつけた警備員4名を殺害、セントラルドグマめざして侵攻するも特殊ベークライトに沈んでまだ生きてるんだから」  「まさか本当に使徒人間になっちゃうとは・・・」  「それにしても碇君可愛い顔して寝てるわよね」  「で、ヒカル初めてしてもらった感想は?」  「あ、あのねぇ・・・み、みんなみたいに碇君を喜ばせるのはまだ無理みたい」  「そりゃあたしだってユイおば様やリツコみたいにシンジを喜ばせるのは無理よ、それにシンジはそういうのを求めてないわよ」  「うん、判ってるの、判ってるけど」  「シンジにも気持ちよくなってほしいのも事実なのよね」  「ええ」  ヒカリとアスカは、シンジの頭を撫で続けていた。    「もう10基艦砲群を増設です。  早期警戒衛星群をあと5群15機、これはEVAによる投擲で初期加速を稼ぎますからペガサスよりも安上がりになるわ」  「EVAで、衛星打ち上げビジネスでも、はじめるかい?」  その間なの説明に、シンジがチャチャを入れた。  「ああ、それも美味しいかなぁ・・・まあ、それはともかく自衛隊との共用ということで衛星はもう少し数がそろえられるはずです。  艦砲についてはメララのライセンスが両日中には降ります。  技術部が製作に入って一号がロールアウトまで1週間、据付けに一日、試射に一日。  もっともアメリカは大混乱してるから、EVA所じゃないかもしれない」  「確かにでも用意はしておくほうが良いに決まってるさ」  「そりゃそうだけど・・・」  「MAGiMの予測が正しければこの混乱は1年〜2年は続くとでているわ。  それにアメリカに対するテロが復活しつつある」  「あ〜なんとなく解ります」  「というか応援したくなるね」  「ええ本当は、この混乱期に乗じて敵戦力を剥ぎ取ってゆくのが王道ですよね」  「それは、そうなんだげとねぇ・・・宣戦布告したわけじゃないのに船を沈める訳にはいかないし」  「でも潜水艦は何とかしたいです」  「そうだね・・・」  セカンドインパクトでもそれほど人口の減らなかった。  アメリカでは、この一連の混乱で100万人が死亡し600万の人間が負傷した。  そして死傷者の数は、日ごとに増え続けており、なお混乱収拾の目処は、まったく立っていなかった。  「厄介なのは潜水艦とSLCMかぁ・・・」  「うう」  んどう考えても、二人でHの真っ最中に交わす内容の話ではない  「大西洋にいるのは無視しても良いよね」  「でも北のほうにいるやつは北極を抜けて太平洋に簡単に出てくるよ」  「そうかぁんじゃ区別しない方がいいのか・・・」  「ねえシンジ君、本気でアメちゃんと喧嘩する気?」  「ごめんなさいして生き残れるような戦争なら、ごめんなさいをするさ。  でも太平洋戦争は、ある意味単純な経済戦争だったろ?  確かに敵国のことを憎いと思ったかもしれないけど勝ち負けがはっきりしちゃえば、後々まで国と国との関係が悪化したままということはなかったんだよ。  でも今回は違う、向こうがほしいものを手に入れた場合、僕らは邦を滅ぼされるよりももっとたちの悪い状況。  消滅してしまうという結末しかないよ。  僕らは、別の世界別の時間へ逃げちゃえばいいけど、ほかの人たちはそうはいかないじゃないか」  「さすが神様」  「だからって何でもできるわけじゃないしね。  この体で使える力は、限られてる。  EVAでブースとしても所詮は、EVAのサイズに依存した力しか使えないせいぜいこうやってマナを気持ちよくしてあげるのが精一杯」  「あん」  冷たく冷えた心の奥で名も知らぬ潜水艦のりたちに詫びながら、マナを頂点へと追い込んでゆく。  ────侘びってなにかしました?  ノーコメント。  【這い寄る混沌】  「そうだ容赦する必要はない、買い叩け。  こちらはなにが来てもそれなりに使う。  そうだ、ああたのむぞ」  フックを叩き、再び別のダイヤルをプッシュする。  「私だ、で、武器はいつものように洋上で引き渡す。  派手にやれ、ああ手加減は、無用だ。  水に落ちた犬はたたく、たとえそれが狼であってもな」  ゲンドウの目の前のディスプレイには、最前の電話主の取引結果が表示されていた。  その内容は、まるで正規一個軍にいきわたらせるかのような装備品のオンパレードである。  もっとも倉庫の中で無駄に死蔵された品物であると考えるならば員数合わせ以外に使い道はないだろう。  それでもそんな武器でも欲しがる輩はいるし、それを仲介する人間も少なくない。  そしてゲンドウが今電話で話した男はとある反米大手テログループのリーダーだった。  この後、ゲンドウは、さらに混乱をあおるため取引を米当局へも通報する。    カウンターインテリジェンスというよりも、完全にテロの首謀者だ。      「思うんだけど」  「なに」  すでに因子発現から、三ヶ月が経ちアメリカの混乱もようやく、収拾に向かおうとしていた。  「ゼルエルの因子なんだけどさ」  「ああ、全然出てこないね、あいつ」  「あれって山岸少佐に付けられてたんじゃないのかな・・・」  「と、すると?」  「そう、マイクロブラックホールの蒸発で消滅・・・」  「それであの異様な、手ごたえか!」    「次の手を打たないとアメリカは、混乱から立ち直ったら行動に出るよ」  「どんな? だって全部自業自得の招いた事態じゃない」  「どんなって・・・まあ悪者探しして戦争しかけてくるんだろ?  いまNERVにんなことしたら自分たちもサードインパクトでサヨナラだっていうのに、再三うちからは、そういう情報を流しているんだよ。  それでもNERVを攻撃するというのであれば自分たち以外の全人類を敵に回すことを覚悟しろとまで言っているんだしね。  ・・・まあ、理屈が通じる相手ならそもそもS2機関を搭載したりしないんだろうけどね。  どっちにしても牛が来ないことにはその次の鳥だってこないし輪っかだってこないね」  「そうね・・・あの鳥野郎は、あたしが絶対始末してやるわ」  「輪っかは私が・・・」  「あんた何時の間に居るのよ」      さらに3ケ月経ち  「・・・待ちくたびれたわゼルエル」  んなことをしている間に母さんが女の子を産みました。  「・・・ねえシンジ、この子ってレイよね」  「そだね」  「でもお名前はユニにしたわ」  「あ〜「ひとつの」ラテン語でしたっけ?」  「意味的には「ユイいつ」と同じだよね」  「そうよこの子は、EVAの中でずっと生まれるのを待っていたの」  「って綾波のお姉さんってこと?」  「そんなところかしらね」  つんつんとほっぺを突付くユイの表情は、母親のそれだった。    そのときシンジの背筋を冷たいものが走り抜けた。  「なんだ」と思うまもなく警報が鳴り響く      全員が.その姿を見て絶句するしかなかった。  「な・・・なによあれ!」  「コアが7つっ!!」    「このさい出し惜しみはなしよ! 射程に入り次第攻撃開始っっっっ!!!」  そのミサトの叫びに、ありとあらゆる兵装ビルから火線が、使徒へ向かい伸びる。  だか、それらは、ATフィールドによって砕け散ってゆく。  「だ・・・駄目ですまったく効いていません」    「位相空間の向こうが見えなくなるようなATFってどんな強度なんのよ!」  「リツネエATFの強度ってどんなもの」  「初号機のざっと49倍ってところよ」  「・・・だってシンジの力なら」  「僕が初号機のS2を使って中和をしていて49倍なんだよ、アスカ」  「なによ、それ・・・」  「多分あいつはバルディエルを食らったんだと思うよ  「出現すのに6ヶ月もかかったのはバルディエルを喰って同化するのにそれだけかかったってこと? コアが7つってことは最低でも6人のバルディエル因子犠牲者をあいつは喰らったってこと?」  「・・・参ったなそんな方法で対抗してくるなんて思ってもいなかった」  「ちょっとリツコ」 「どうしたの」  「どうしてシンジ君たちは出撃しないのよ」  「行っても無駄だからよ」  「だからどうしてっ!!!」  「あの馬鹿げた出力のATフィールドはね、初号機が目いっぱい張ったATFの49倍もの出力で維持されているわ。  どんなにシンジ君やアスカががんばったってあれを破ることすらできないの。  悔しいけど私たちの負けよ」  「なんにもしないで負けを認めなんて私はいやよ!」  「そうね私もいやよ」 リツコはふっと息を吐く。  「でもね、これは厳然たる数字の事実・・・これがたとえば3倍くらいだったらなんとかしちゃうかもしれないわ。  でもこの数字は、あなたの好きな奇跡だの捨て身の努力だのじゃ超えようがない高くて分厚い壁なのよ」  「・・・」    ・・・仕方がないわね。 そうじゃの〜。  「綾波、アスカ」  「「なに?」」  「母さんとキョウコさんが時間だけでも稼げって」  「え〜あんなの相手にしてるだけで大破しちゃうわ」  「とにかくありったけの武器を上げて」  「初号機を暴走させても駄目なの?」  「暴走したところで1が4とか5になるだけだよ」  「・・・絶望的ね・・・」  「まあいいわ。  ママとあんたのママがやれっていうならやるわよ、やってやろうじゃない」  『赤木リツコ博士、マーナツェッペリン・ハルナ両名は第二ケージまでおいでください』  「ミサト後は、任せるけどくれぐれも特攻とか自爆なんて真似はさせないでよ」  「槍を使おう」  「え?」  「綾波」  「大丈夫見つけたわ」  「アスカ受け取って」  ディラックの海から出現する寄り合わされた針金のような1振りの槍。  それを二号機が掴むと同時に二叉の槍へと変形した。      「使徒熱量増大攻撃来ます!」  虚ろな口腔が、その熱量に青白く輝き、そして辺りが閃光に満たされた。    凄まじい轟音と振動に本部棟が、地震のごとく揺さぶりつくされる。  「・・・し、使徒荷電粒子ビーム、特殊装甲全層、か、貫通ぅっ!!  ジオフロント第7レベルまで抜かれました!!  次にきたらセントラルドグマまで一気に抜かれます!!    「んな事させないわよっ!」  「初号機、弐号機使徒の至近へリフトアウト」  「なに、あの武器は」  見慣れぬ得物にミサトの声が上ずっている。  「『ロンギヌスの槍』だ」  「副指令? というとキリストを貫いたアレですか?」  「まあ使徒を制御できるからそう呼んでいるだけで、本当のところは何だから解らんがね」  「はぁ・・・なんかうちってEVAを含めてそういうものが多いですね」  「仕方があるまい全体を科学的に把握しているのは、碇ユイ、惣流キョウコ君、赤木リツコ君ぐらいのもので、それですら人類が把握できるレベルで把握しとるのに過ぎんよ」  「両機使徒と接触します!」    「フィールド固めて、ディラックをいつでも展開できるようにして」  『判ってるわよ』  「初陣がこれじゃヒカリには、辛かったかな」  「大丈夫彼女もあなたの癒手だもの」    「目標エネルギー増大!  まずいです、先ほどのやつより桁がひとつ上の出力です!!」  「全員耐ショック姿勢!」  ミサトが叫ぶ  「アブソーバー全力」  「んなことさせるかつ〜のよっ!!」    弐号機がほんの数歩の跳躍で使徒の背面へ取り付く。  そして振りかぶった槍を叩きつけた。    二股に分かれていた矛先が集中の為だろうひとつにまとまり、そして使徒の分厚いATFに半ばまで突き刺さり、凄まじいプラズマの飛沫を撒き散らす。  「こぉんのぉやろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」  弐号機が渾身の力を込め、槍を一ミリまた一ミリと押し込んでゆく。    「危ないアスカっ!」  そのとき高機動モードの初号機が弐号機を弾き飛ばす。  その正面には、いつの間にかこちらを向いた使徒のうつろな顔と荷電粒子に白く輝く口腔があった。  「シンジっっつ!!」    ────槍を抜いてる暇はない。  フィールドは中和されてる。  初号機っ!    シンジは、初号機に向かい最終防御の展開を命じた。      「FCS目標・・・」  入力スティックでレティクルを誘導し使徒のいくつもあるコアのひとつにロックする。  乱戦のさなか、ヒカリは黙々と自分の仕事をこなしている。  「タイミング敵フィールドの開放と同時。  使用火器インパクトボルト・・・。    アスカっっ寄って!  チャンスは多くないわ」    ビーム放射の閃光に満たされたプラグ内でアスカにヒカリが叫んだ。    ディラックの海が初号機と使徒との間に多重に展開される。  それが、初号機が使徒の恒星中心ほどにも高まった出力を受け流す、唯一の方法だったからだ。  通常ならば、貫通不可能であるはずのディラックの海を、7コア’sゼルエルの放つ荷電粒子ビームは、減衰しつつも貫通する恐れが十分にあった。  そして実際7コア’sゼルエルの放ったビームは、初号機が維持していた、ディラックの海の壁8つのうち、実に5つを貫通しているのである。    その信じられない出力のビーム放つ閃光の中を、弐号機が使徒へと取り付く。  同時に右肩のフェアリングからインパクトボルトが放たれた。  雷撃のような轟音とともに使徒のコアが一つ砕け散る。  「やったっ!」  それと、同時に敵から受けているプレッシャーも、ほんの少し減ったように感じた。  「駄目っ、下がってアスカっ」  ヒカリは、再度の襲撃のために下がれと言った。    「碇君下がって、手が来る」  だが、レイは、敵のもう一つの攻撃が準備を終えたことを見抜いていた。    <来る>という感触はあった。  そして飛びすさるとする意識も働いた。  機体もよくそれに答えた。  だが相手は正真正銘の化け物だった。    EVA両機のダッシュは、瞬間的に音速を超えその二倍にまで達した。  だが相手の放ったまるでテレメーターの記録紙のように折りたたまれた<腕>の瞬間速度は、さらに8倍に達していたのである。    それでも弐号機は幸運だった。  分厚い装甲と新設された鋭いエルボーガード、そして反射的にクロスガードしたそこへ腕本体が突入、エルボーガードに接触し上空へ跳ね上がったことで衝撃だけを受けて終わりだった。  だが初号機は、クロスガードした腕を貫かれさらにわき腹へと、そのATFをまとったすさまじい斬撃を喰らってしまった。  「がっぐぅぁぁぁっっ・・・くぅぅぅ・・・解っていてこの体たらくかっ!!」    シンジは、わき腹に走る痛みに荒い息を吐きつつ初号機を、回避のためにトンボを切らせさらに横へととぷ。  S2機関が働いているため切られた部分など一瞬で再生される。  だが痛みまではどうにもならない。  そして初号機が意外と元気に飛び跳ねたことで使徒は、目標をコアをぶち割った弐号機から初号機へと完全に変更した。    ごく薄の腕が横なぎにたたきつけられ、さらに頭上から襲い掛かる。  再びトンボを切り切った拍子に、かかとで頭上にたたきつけられようとしていた腕を抱え込みひねりこむことで腕を引くことができなくし、そして使徒のフィールドに火花を散らして突き立ったままの槍を呼ばった。    槍は、まるで生きているかのような動きを見せ、初号機の伸ばした腕へと納まる。  ひねりこんだ腕を槍の切っ先が切り落とす。  切り落とした腕を切っ先にまとわりつかせたまま槍を使徒めがけ投げはなつ。  その投げはなった初号機を、もう一方の使徒の腕が袈裟懸けに切り下ろした。    ATFをまとったままの腕を巻きつけた槍は、使徒の分厚いフィールドを貫き再び光を蓄え始めていた虚ろな口腔へと突き刺さった。  その瞬間ビームが放たれ恒星中心ほどの熱量を持ったビームが、槍と腕のフィールドに阻まれ使途の体内を暴れまわった。    <まずいプラグまで来る!>  袈裟懸けにたたきつけられた無事なほうの腕の先端は、初号機の肩を回り込みエントリープラグを切り裂ける状況だった。  「綾波っ!」  シンジはレイをとっさに腕の中へ抱き込む、そして切っ先がプラグを叩き割りLCLが血潮のごとく噴出した。    「し・・・シンジッ!! シンジッ!!」  「アスカ、大丈夫だから離れて」  「シンジ無事?」  「ああ、また融けたけどね」  ようは、ラミエルと同様、融けてしまえば痛くも熱くもなんともないのである。    「・・・もぉぉぉぉ! 馬鹿シンジ、そういうふうに言っておきなさい!」  「ごめん」    そしてシンジとレイは、EVAのコアが形成している「情報圏(データスフィア)」に意識体として、姿を現すこととなった。  「綾波は、大丈夫?」  「ええ問題ないわ」  「終わればすぐに出られるから・・・時間は十分稼いだはずだし」  切り札の用意は整っているはずだった。  「うん・・・」  レイがなにか言いたそうなことにシンジが気が付く。  「えっと、なに?」  「ふたりきりはひさしぶり」  レイはシンジの手を取った。  「ああ、そうだね」  「すこしだけ碇君を独り占めするの」  「うん、独り占めされるよ」    うひぃ〜戦闘中にラヴラヴしますか?  いいじゃん。  沈黙した初号機に使徒は、満足したのか矛先を弐号機へと変えた。  「あんたなんかに負けてらんないのよっ!」  アスカは弐号機を必死で回避動作させている。  「ヒカリっっっ」  「ええ、アスカいけるわもう一撃インパクトボルト!」  初号機と同様に始末しようとしたのだろう、袈裟懸けに大きく振り上げた腕の懐へアスカは、機体をもぐりこませた。  「「いけぇっっ!!」」  二人の気合が重なる。    ほとばしる紫電にまた一つコアが吹き飛んだ。    だがしかしインパクトボルトはこれで種切れだ。  だがそれを気にするまもなく使徒の斬撃から逃れるために、横へ飛びのきさらにトンボを切る。    「瞬間400パーセントのシンクロ率が記録されています」  「ミサっちゃん」  「あ、ユイ司令」  「初号機のフォローは、もういいわ零がでるから」  「しかし、ご子息が」  「私と同じ過剰シンクロで、EVAに取り込まれただけ、あの子だったら自力で出てくるわ」  無事であることを確信しているらしいその様子に、ミサトの肩から力が抜けた。  「はあ・・・こんなときに何なんですが、EVAってなんなんですか?」  「聞いてどうするの」  「いえただ妙な兵器だと」  「いずれ教えてあげる」  「EVANGELION零号機ゼロ射出準備完了!」  その報告にミサトが反射的に発進を命じた。  「EVANGELION零号機発進!」  電磁反発の凄まじい加速で、青色に塗り替えられた零号機が打ち上げられる。      「零号機、使徒後方4キロにリフトオフ!」    「ところで誰が乗っているんです」  ミサトは、思わずユイへそうたずねてしまった。  「それはね」  『それは、可愛い可愛いマナちんとぉ』  『華麗なる天才MADサイエンティスト赤木リツコよ』    フロントスクリーンに大写しで、エントリープラグ内の映像が割り込んできた。  マナは、灰青色のプラグスーツ、そしてリツコは、どうやらユイのものを改修したらしいプロトプラグスーツ姿である。    「おおっ!!」  「せ、せんぱい!?」  「うひぃマジ、リツコぉあんたなにそのプラグスーツえぐすぎ!」  「あら着心地は、いいのよ」  まあ、あちこちかなりいけないところが透け気味であるものの着ている本人が見られることを気にしていなければ、逆に困るのは見るに見られない男性オペレーターの方であろう。    「だいだいどうしてあんたがEVAに乗れるのよ!」  「別に可笑しくないわよ、それに私はおまけみたいなものよ、要は、たんなる調整担当だもの。  マナいけるかしら?」    「はい、でもなんだか右足と右手が自分のものじゃないみたいですけど」  「それだけ? ・・・これでどう?」  キーボードを流れるようにリツコの指が踊る。  「はい・・・あ、いいみたいです」    「じゃあ行くわよ、アイゼン設置!」  「アイゼンおろします」  零号機の両足のふくらはぎから、機体保持のためのアンカーが三方へ打ち込まれる。  今、零号機は、自身の体長ほどもある巨大な砲を抱えている。  そうそれは<封印兵装:天使の背骨(フィールドシンカー)>である。  「マナ、いくわよ」  「どうぞ」  「ATフィールド共鳴増幅スタート」  「出力10からフィールド共鳴開始」  「加速器内へフィールド展開」  「フィールド展開」「砲身励起、ATF展開」  「加速器加圧開始同時に弾体加速スタート」  「ATフィールド加速器内砲身内展開」  「アスカはなれて! そこらにいると使徒と一緒に吹き飛んじゃうわよ」  「ちょちょっと待ちなさいよぉ!!」  アスカは、慌てて弐号機を離脱させる。  「わたしの愛する旦那様、あなたの愛するマナちんと」  「あなたの愛するリツネエが、ご披露いたします。  「「<こんなこともあろうかと!>」」    「天使の背骨(フィールドシンカー)」  「「ブレイクっ、あ〜〜〜うと」」    ATフィールドのマイナス慣性効果によって光速を軽々と飛び越えた加速器内の重金属粒子群は、ATフィールドをまとったまま撃ち出され、使徒へ見事に炸裂した。  あれほどまでに強固だった表皮もコアのシャッターもなにもかもをまとめて吹き飛ばす。  さらに一撃、もう一撃と加えられる科学の暴力についに使徒は擱坐し長い長いそして悲しい咆哮ととも永遠に沈黙した。    「パターンブルー消滅、使徒沈黙しました」  「はぁぁ〜あ、おわったぁ」  思わずインテリアに沈み込みなずら放ったアスカのその一言が、この戦いに参加したすべての人の心を代弁していた。      「高濃度のサルベージLCLをへ入れるだけでいいのね」  「はい」  予備のエントリープラグに高濃度のLCLが充填され初号機へ挿入される。    「じゃ綾波、みんなが呼んでるしそろそろ戻ろうか?」  「はい、あなた」  二人の容姿は、そうまるで10年ほども年を取ったかのようだった。    「みんな、きっとびっくりするね」  「ええ」  「擬似シンクロ上昇してゆきます350・・・370・・・400・・・」  「シンクロ安定・・・」  「シンクロ下がります」  「プラグ内に生体反応確認、数3」「3んっっ?」「はいえ〜っと、心音が3つ2つは40/分、一つはかなり早いです。それに小さいかな」  「もういいわ日向君映像見てみなさい」  「あ・・・子供ぉ!?」      「碇希(マレニ)です。  アスカママ  ナマママ  リツコママ  ヒカリママ  え〜っとユイ・・・いいの?」  「かまわないから引導を渡しちゃいな」  「う〜っ怒られたらパパのせいだからね」  「はいはい」  「ユイおばあさま、よろしくお願いします」    「・・・お・・・お・・・ぉ・・おばあさま・・・」  コテンと小さな音とともにユイが倒れこんだ。  「あ〜あ真っ白に燃え尽きちゃったよ・・・さあマレニ、おいで」  「あっしもばぁちゃん言われるんかのぉ〜外見は18,9ナンジゃがのぉ〜」  「それを言ったらユニなんて生まれて間もないのにおばさんですよ」  「そりゃそうなじゃがのぉ〜」  「いったいどういうことよ・・・って、まあ大体察しはつくけどさ」  「綾波と初号機に融けてさ、久しぶりに二人きりになっちゃってすることなかったんだよね」  「人が命がけで戦ってるのに二人でさかってたってわけね」  「あははは、面目ない・・・でね、初号機の内部の仮想環境の時間を縮めてもらったんだよ。  少なくとも10年くらいは、綾波と二人きりだと思っていたら3年目に綾波が妊娠したんだ。これには僕もびっくり差!  なにしろ思念体なのにね。  思念体だからこそかもしれないけど、もちろん綾波は生むって言ったから生んでもらったよ」  「でそのこがマレニちゃんなの?」  「そういうこと」  大きな少しだけつり気味の黒い瞳と黒く長い髪をしているが顔の印象はレイににている。  「ふ〜んここがおそとなのか」  這い寄る混沌  「ロシアに不穏な動きだと?」  「ええ、量産型の生体部品が相当数行方不明になっています。  その生体部品の製造を請け負っていた工場の管理責任者の口座にかなりの額の振込みが行われていましたその出所自体は、スペインやらポルトガルやらモナコやらになっちゃいましたが振り込んだ人間はCIAのそれなりに実績のあるエージェントでした。  生体部品は、目下あらゆる船舶の出港を差し止めて検索中・・・です。  「だがこちらも工場労働者まで目は、配れんな・・・量産型の建造はこれからも増える頭の痛い話だ」      「EVANGELION関連技術移転に関する国際条約ねえ」  「そう技術移転をしてはいけない国へそれらの技術を移転させた場合」  「場合?」  「量産型EVAの供出が罰則として科せられる」  「そりゃきついわ」  「それにしてもコアの生成とかパイロットの選抜とか超えなくちゃいけないハードルは、けっこう高いよ。  そもそもEVANGELIONっていう兵器システムに懐疑的だったアメリカには、研究者が少なかったのにその少ない研究者がS2機関の暴走で死んでしまっているわ」  「なりふりかまわずとにかくEVAを手に入れる手に入れてからその先は考えるって感じかな?」  「そうね」      「保管艦艇の復帰が開始されました」  「沖縄の各基地からごっそり戦力がグアムハワイまで後退しています」  「いよいよやる気になったか、残りの使徒は3その侵攻にあわせてこちらをたたくつもりなのか。  3つ倒し終わってホッとしているところに突っ込んでくのか」  「先手を打って後方兵站基地でも攻撃しますか?」  「それよりも半導体レアメタルなどのの物資を押さえてしまえばいい。  半導体は日本製は全面禁輸ができるだろううちが買ってセントラルドグマにでも捨ててやれ」  ニヤリと笑った  「シンジ君」  「なぁにリツネエ」  深く浅く腰をグラインドさせながらささやく。  「わたしにも赤ちゃん頂戴」  「リツネエいいの」  「ユニちゃんとかマレニちゃん見てたら我慢できなくて」  「EVAに融けないと駄目だよいいの?」  「今融けておけばいつでもこの私に戻れるんでしょ?」  「まあ、そうなんだけどそれっておかしなことだって思わない?」  「・・・思うわよ生物的に歪(いびつ)だって、でも個体としてその種の限界を超えて生命を維持することというのは、科学者にとっては夢の一つであるの。  だいたいシンジ君はリリン化してるから不死でなくても不老でしょ?」  「・・・だからだから苦しいんだけどね」  「ごめんなさい。  ・・・シンジ君苦しかったら私に話して抱え込んでいては解決できないわ」  「・・・うんリツネエ」  「なぁに」  「大好き。  大大大大大大好き」  「愛してはくれないの?」  「なんかその<愛してる>って言葉が嘘っぽくて嫌いなんだ」  「そうね好きって言われた方がうれしいかな」    ぽてぽてぽてぽて。  と白いサマードレス姿のマレニが、NERV本部内をお散歩です。  通路を歩く職員の皆さんは誰彼となく声をかけてくれます。  マレニも元気にお返事を返します。  ときどきお姉さんやおばさんたちからは、アメやチョコレートやクッキーなどをいただいてしまいます。  でも歩きながら食べるのはお行儀が悪いのでお部屋へ帰ってからいただくことにしています。  たくさんいただきすぎて手ではもてないのでマレニは、黄色い電気ねずみのリュックサックを背負っています。  ちなみに黄色い電気ねずみのアニメーションは、未だに続いている長寿番組と化しています。  でも本当は、黄色い電気ねずみよりもロケット団のおね〜さんや不思議な種の方がレイママに声が似ているのでマレニは好きなのでした。    ぽってりぽてぽて、と歩いてるうちに初号機のケージにたどり着きました。  マレニはお父さんとレイママの次に初号機が好きでした。  マレニは、初号機に昨日一日のことをお話します。  アスカママとチャンネルの取り合いをしたこと。  マナママとユニちゃんお昼寝したこと。  お菓子を食べ過ぎて夕ご飯があんまり食べられなくて、リツコママに怒られたこと。  そのあとでぎゅってしたもらったこと。  香水のにおいがとっても素敵だったこと。  朝起きたらレイママのおなかに頭を乗せて寝ていたこと。  初号機は、うれしそうにマリニのお話を一生懸命聞いてくれます。  そして最後にマレニが元気でよかったね、またあしたもお話を聞かせてね、といってお別れするのでした。  「・・・以上今日のマレニちゃんです」  「うん問題ない」  色眼鏡の向こうの瞳はやに下がっている。  「司令いつまでこれ続けますか?」  「どうせマレニにも、ユニにも山ほど護衛がついているんだ、有効活用せねばもったいないだろう」  「そりゃそうなんですが・・・」  「問題ない」  「はあ・・・?!」  「頼む私のたった一つの楽しみなのだ奪わんでくれるか」  「りょ、了解しましたぁ」  加持は慌ててそのばから逃げ出した。  哀れな父さん。  でも合わせてあげないんですね。  そりゃねマレニはともかくユニはひきつけ起こすよあの髭面見たら。    そんなことは・・・。  ないって言える?  ま、まあ言い切れないあたりが哀れですね。  逃げたね。  私を追い詰めてどうするんですか。  ユニはともかくマレニは完全にオリキャラでしょ。  まあ名前については大野安之氏のThat’sイズミコにその原点があるんですが名前付けてから気がついたんでオリジナルですね。  そういえば、大気圏外になんか居るんだよね。  鳥さん?  そうそうアラエル。  どうして何もしないんです?  だって向こうも何もしないからね、かれこれ3日ずっと大気圏外をお散歩してるよ。  もしかして光で体なんか作るから大気圏に突入できないのでは?  あ〜多分そうだね、でもアスカは引き摺り下ろせって言うだろうね。  どうするんです?そういわれたら。    ディラックの海でつれてくるよ目の前にそれに。  それに?  そろそろ向こうも焦れると思うよ三日も人工衛星やってたら。  ですよね〜  『こちらはフィラデルフィア海軍工廠です。  現在正体不明の光の照射を受けております。  海軍はこの光について物理的な効果はないと説明してますが、工廠内で悲鳴やわめき声を聞いたという証言が・・・。    うわっ・・・こら・・・なにを・・・PAM!PAM!PAM!』  「・・・TVが撮ってたのに撃ちますか?」  「というかあれも怪光線の被害者だと、内にこもっていたマスコミへのうらみつらみを一気に?」  「こえ〜しかしうちに攻撃がこないでアメちゃんだけに行ってるのはどうしてだろう」  「それについてはうちから説明しよう」  「あ、ゲンジイ」  「ジィジ」  マレニとユニに、指を指され、二コリと微笑まれてゲンドウは、その場で行動不能へと陥った。  「あ・・・いや・・・」    別に引き付けなんて起こしてないですな。  ユニもマレニも図太いんだよ。    「え〜司令が固まってしまったので、俺のほうから。  要するにEVAの反応があるところが狙われているという、単純な図式なんだ」  「ああ、なるほどフィラデルフィア、ニューポートニーズ、ノーフォーク。  巨大な物体を作っていても目立たず、移動させるのも割と簡単な場所となると、海軍工廠というのはよい隠れ蓑ですね」  マナが納得の声を上げた。  「ああそうだ」  「その三箇所だけですか?」  「まあ、あとNERVクレーターとかも狙われたようだけどな」  案の定この報道の後、アメリカはパニック状態におちいった。  <神が光臨される>だのなんだのとセカンドインパクト以降、肩身の狭かった宗教が大騒ぎで復権中だ。    やっぱバカですなアメちゃん。  うんバカだね。    「それにしても使徒なんだし殲滅しないと」  「葛城ミサト三佐では尋ねよう静止衛星軌道に存在している使徒への攻撃手段とはなんだ」  静止衛星軌道とは赤道上空36000キロを24時間で地球を周回することにより、あたかもその場に静止しているように見える軌道のことだ。  「え〜・・・」  「・・・どうした攻撃手段は」  「あ・・・ありません」  「そういうことだ」  「ううう六分儀司令のいぢめっ子ぉ」  「ゲンジイミサトねえちゃんいぢめたらめ〜なのよ」  「い、いやマレニちゃんそれは誤解だ、いぢめたのではない」  「そんなこと言ったってミサトねえちゃんのモットーは、無理が通れば道理が引っ込む暖簾に腕押し、糠に釘、馬耳東風に鯨飲馬食で、奇跡は自分で起こすものなのよ」  「そのなマレニちゃん」  「なぁに?」  「一つもフォローになってないようだぞ」  「ううううマレニちゃんもいぢめっ子だぁ」  「いぢめてないよぉ事実だもん」  ・・・あ、果てた。  「マレニ葛城三佐で遊ぶのは、そのへんにしときなさい」  「はぁいレイママ」  「やはり赤木君でも対応策は、ないか?」  「槍でもあれば撃墜可能だと思いますが、ゼルエルとともに吹き飛ばしてしまいましたから」  「むうう・・・フィールドシンカーの射程は?」  「せいぜい20キロ程度です」  「そうか解った。  ではそう発表してけん制しておこう」  「お願いします」  「うむ」  ゲンドウの姿がフロントスクリーンから消えたとき「生きておったのだなあやつ」しみじみとコウゾウがつぶやいた。  「静止衛星軌道に存在している、この使徒ですが。  さすがに大気圏外しかも36000キロも離れていては、攻撃手段が全くなくEVANGELIONもお手上げだそうで、これが人類の科学力の限界だそうです」  「たしかにセカンドインパクト以降、宇宙開発は停止状態でしたからNERVの主張は人類の限界、ということである意味仕方がない状況であるといえます」  「しかし攻撃手段は鋭意、考案中であるとも語られています。  どうかみなさんパニックにならずに静観をお願いいたします」    おおむねアメリカを除いた世界のマスコミの論調はこんなものであった。  もちろんアメリカのマスコミは、いいたいことをわめき散らしてはいたが、どの国のマスコミもすでにアメリカを相手にしなくなって久しく世界は、アメリカという存在を忘れて動き出し板のである。  「とはいえいつまでも使徒が頭の上に居座られたのでは、寝覚めが悪いことこの上ありません。  そこでマナちん考えましたフィールドシンカーの手前にディラックの海を出して、その先をアラエルたんのコアの前に設定すると、どうでしょう」  「OK、マナ採用!!」  「ミサトさんよりずっと優秀だぁ」  「大隊長は奇策を考えるが得意なんですが、今ある戦力を有効に活用するというのはあんまり得意じゃありませんから」  「それって暗に役立たずって言ってない」  「滅相もないカンバンとして十分役割を果たしていますです」  「あれ? アスカが零号機に乗るの?」  「だってリツコのプラグスーツは、同性として我慢できないわよ」  「まあそういうなら仕方ないわね」  「問題はなにかあるの?」  「そうね共鳴体がどれだけ持つかなのよ」  「共鳴体?」  「居たでしょ使徒人間」  「げっ・・・あんたケンスケをフィールドシンカーに使ってたの?」  「そうよ、なにしろ精神汚染を起こさないように、どうATFを強化するかが問題だったんもの。  その検討結果がATFを共鳴させて強化するという方法だったの。  それでATFを共鳴させられるような、物質を探すことだったんだけど、どう考えてもそんな物質なんてあるわけないでしょ?  だからベークライトにいい具合に固まっていた使徒のサンプルを使っちゃったの。  そしたらいい具合に増幅してくれたってわけ。  でもシンカーを撃つたびに生命反応が弱まってるのよ、だからいつまで撃てるか解らないの・・・」  「ま、まあ使いつぶしちゃえばいいんじゃない。  どっちにしても使徒の因子はどうにもできないし、本人もNERVの役にたって本望でしょ」  自分の好きな男以外には、割とつめたい奥さんズであった。  「第一ロックボルト排除」  「第一拘束具排除」    零号機の発進シーケンスが、進められてゆく。  ジオフロントへの打ち上げのため射出のGも割と緩やかなものである。  「シンジ、準備OKよ」  「判った」    そしてアラエルは、殲滅された。      それにしてもいったい何がしたかったんだろう。  さあ?!  大体次代の覇権を競うってえんなら、こっちのことを調べたって意味ないじゃん。  そうなんですけどね。    そもそもさ人を群体生物から一旦単体生物へまとめる手段としてなら、リリスのアンチATFがあれば良いだけでしょ。  リリスに願う巫女として確かに何らかの意思を持った存在が必要なのは解るけど計画を知らない心が壊れた子供がまともにリリスに願えるわけないじゃん。  あ〜たしかにそうですね。  その隙を突いて父さんは、リリスの意思となる綾波を支配することで母さんを引っ張り出そうとしたみたいだけどそれだって確実な方法じゃないでしょ?  まあSEELEの人たちの計画は、ダブリス君にその辺りを言い含めて巫女と拝謁者の両方の役割を果たさせるつもりだったんだと思いますけど。  それなら別に僕やアスカの心を壊してしまう必要なんて一つもないでしょ?  僕たちは命令を聞くしかない子供でしかないんだもの。  大体さ黄色人種の僕だのクォーターのアスカだのを使って本当に、その後に白人だけサルベージできるなんて考えたのかな?  まあ量産型の中に最終的にはSEELEの人たちは、融けた見たいですから。  なんかやろうとしたことがいちいち支離滅裂なんだよね  まあだから失敗したんだと。  ・・・あ、それもそうか。  「次に来るの」  「ああ輪っかのやつね」  「あれさ同化しちゃったら厄介だから、戦自とUNFに任せようと思うんだけど。  実はね、7’sコアゼルエルの時にN2を10発も叩き込んでも、倒せなくてかなり凹んでるんだよ。  アメちゃんとドンパチするのに、凹まれたままだとこっちが大変だから。  やる気まんまん・・・アレっ?」  「レイならマレニとユニとお昼寝中、輪っかの奴は、私出ないからって言ったよ。  マレニを残しては行けないからって」  「うんそれなら問題ないね」  「だれか不満がある人は・・・居ないみたいだね」  「リツネエ」  「なあに」  「約束を果たしに行こう」  「いいの?」  「うん、今なら大丈夫だし」  「なによ約束って」  「ん〜子供がね欲しいなってお願いしたの」  「そ、そうあはははあたしらにゃぜんぜん早いわね」  「これがEVAの中なのね」  「うん、巨大な情報空間って感じかな、綾波とマレニとすごした家ならすぐに再構成できるけど?」  「そうねそれで良いわ」  「あのねリツネエ・・・ここまで来てこういうのは、どうかと思うんだけど、ずっと僕だけのリツネエで居て欲しいの」  「ジンジ君・・・あなた・・・」  「おかしいよね、もうすぐここに居られなくなるっていうのに。  何千回も繰り返してるのに。  こんな風にみんなに求められて、みんなに与えたのって初めてなんだ。  ずっと心の中でこの7つの痛みが僕を縛ってきた。  忘れちゃいけない忘れることは、もう一度この罪を犯すことと一緒なんだって。  僕はずっと自分を縛り付けてきたんだ。  何千回繰り返したって言っても大半は、サキエル、ラミエル辺りにサードインパクトを起こされて終わりなんだけどね。  この罪の痛みだけが僕を開放してくれるっって信じてた。  それって単に逃げてただけなのかな?  みんなにやさしくされて、こり痛みが消えてゆくんだ。  決して忘れるんじゃない。  それは解る、でも痛みに僕の原罪に縛りつけけられ繰り返した。  それは多分無駄じゃないって思う・・・多分僕は変われたから」  「そう・・・シンジ君おめでとう」  「ありがと、リツネエ。  リツネエの事をこんなに好きになったから。  だからずっと一緒に居たいと思ったから。  僕は変われたと思うんだ。  ・・・ってかなり恥ずかしいこと言ってますね」  「そうね、でも男と女はロジックじゃないわ。  言葉に出して、そうして伝えてもらった事が、うれしいのよ」  リツコはシンジを抱き寄せ胸へとかき抱く、この存在が狂おしいほどに愛しい胸が苦しくなるほど。  腕の中の存在が欲しくてたまらない。  「シンジ君、シンジ君」  「リツネエ、リツネエ」  うわごとのように互いの名を呼び合い、そして深い口付けを与え合う。  互いの鼓動を感じながら互いの体の熱さを確かめ合いながら。  「あの二人の子供ってどんなだろうね」  「男かな女かなぁ」  「シンジはスケベだからきっと女よ」  「うわぁい、やらしい。  シンジ君幼い娘にセクハラ三昧のセクハラ大王なのね」  「・・・まあでも相手が嫌がってなければ、セクハラとは言わないわね」  「あやっぱし」  「はぁあ・・・またおばあちゃんて言われる子が増えるのね」  「そりゃどうだろうな」  「あらキョウコどうして? 子供を作りに入ったのよ」  「シンジ君がリッちゃんに本気で惚れてたら、あの中でずっと新婚気分で子供なんて作らないかもしれんじゃろ?」  「あ〜なるほど」  やがて、自動シーケンスによるサルベージが遂行された。  「うん赤ちゃん作らないつもりだったんだけどね」  「主観時間で8年も一緒にいると、やっぱりこの人の赤ちゃんが欲しくなっちゃって、初めて喧嘩しちゃった」  だから少し伸ばしてもらってマユラが手がかからなくなるまで、ねマユラ」  「はいお母様。  はい、はじめまして、あたしマユラです。  よろしくマレニ姉さん」  「あう〜マレニなの、マユラちゃんよろしくなの」    「なんだかマレニのぽややん度があがってない?」  「どんな子が出てくるのか気になってお昼寝してないのよ」  「で、なんでリツコが若返っているわけ」  「僕の記憶の中のマトリクスを初号機に強化してもらった」  「ずるいわシンちゃんそんなことできるなんて」  「あのさ今以上に若い母さんを知っているのは、父さんだけだよ」  「・・・あら、それもそうね、やっぱりレイちゃんのマトリクスを使うしかないわね」  「あのね、母さん」  「なあにシンちゃん」  「十分二人の孫がいる女の人としたら若いと思うよ」  「ば・・・ばあさんは用済みなのね・・・しくしく」  「向こうで、お菓子食べるです。  マユラちゃん」  「うん本物は、初めてだもの」  「お父さんの作ってくれたクッキーは、初号機の中でもおいしかったですけどおそとではもっとおいしいですよ」  「本当?楽しみだなぁ」  「マレニは仲良くなろうと必死だね。  そうね、でもいいことだと思うわ」  「僕も思うよ」  「でもねシンジ君が、あんなに子煩悩だなんて思わなかったわ」  「それは言わない約束なの」  「あらそうだった?」  「まあそうでしょうね、ゲンちゃんだってシンジが生まれたときにはそりゃあ信じられないくらい子煩悩になったんだもの」    マユラは、やや茶色の髪質であるが十分きれいな髪をツインテールに結い薄いブルーのサマードレスを着ていた。  顔はやはりリツコ似だろう。  将来の職業を有望視させるような、鋭い瞳をしている。  言うならば子リツコなのである。    かといってシシンジに似ていないかというとそうでもなく、少し広めの額ややや大振りな耳などはシンジに似ていた。  「駄目ですこういうのは、きちんと半分にしないと喧嘩になっちゃいます」  「でもマユラちゃんは、初めて食べるんだから」  「マレニお姉ちゃんは、優しいのね・・・うん解りました、マユラが少しだけ余分に頂きますでも明日からは半分こです」  「はい」  「そういえばシンジ、聖痕消えたわね」  「うん、みんなのおかげだよ。  ありがと、アスカ、マナ、ヒカリ、母さん、リツネエ、改めて・・・ありがとう」  「ば、ばかね、んなこと気にするんじゃないわよ、こっちだってうまく行くかどうかわかんなくてしてたんだし」  「それに、そういうセリフは、全部が終わってここに留まれたときに一人一人にきちんと言ってください」  「あ・・うん、そうだねマナ。  んじゃ発令所へ上がろうか?  どうやら輪っかのお出ましのようだし」  『出し惜しみはなしだっっ!!!  NERVから今回は譲られたんだ全機死ぬ気で当てて来い!!』  「百里、横田、厚木、浜松、小松の各基地から機体が上がりました!!」  「総計で70機」  「ペトリオットPAC3、PAC4が展開、さらに装甲戦闘車09式が展開を終了」  ラプターJ、JSF、F−2FともにN2航空爆雷を装備し、さらにバンカーバスタークラスのスマート爆弾を吊り下げた高負荷状態での行動だ。    『いいか、N2以外の攻撃はタイミングをあわせてすべてが同時に飽和攻撃となるようにプログラムされている遅滞のない行動を期待するそれでは作戦開始!!』  「すごいね、そんな真似ができるなんて」  「あら、たいしたことないわよ戦自には、MAGiがあるもの」  「へ?」  「うちで廃棄したMAGiを払い下げたのよ」  「ああ! そういうこと」    精密誘導弾の利点とは、ようするにスタンドオフ(敵対空兵器射程外からの打ちっ放し)攻撃が可能であることだ。  敵の対空砲火に身をさらすことなく、投弾をおえることができるというのは、一機当たりの単価の高い先端機を運用しているがわとしては、ありがたい限りの機能だった。  それらスタンドオフ兵器が最初に放たれ、つぎにはペトリオット群が、そして最後に戦車達か使徒へ向かい発砲を開始した。  シンジと三機のEVAによってATフィールドを中和された光る紐は、数キロトンに達した通常兵器の打撃に何とか耐えた。  だがN2爆弾のギガトンに到達しようかという熱と圧力には勝てなかった。  そしてなにひとつなすことなく閃光と爆炎の中に消滅して行ったのである。  「祝電、打ってあげてね、母さん」  「はいはい」  「さぁて正念場かな」  「どうしてよ、あんたが待ち望んでいた相手でしょ?」  「それは・・・う〜ん、どうなんだろう・・・」  「まあ、場合によったら、あたしたちが殲滅するから、あんたはマレニとマユラとユニの相手でもしてたらいいわ」  「そうだね、でもカヲル君しだいだから」  「え〜と補完委からゼブンスチルドレンが送られてくるわ」  「はあ」  「ドイツ支部で訓練を受けてたんだけど複座のパートナーが居ないから訓練が進まないそうなのよ。  まあチルドレンの選抜も終わっちゃってるしね。  だからうちでしばらくあずかるからぁん。  みんなよろしくねん」  「いや、あの、ミサトさぁん」  「大隊長、次が最後の使徒で、ゼルエルたん以来派手に暴れる系の奴が来てないって言うのにですよ、んな余裕がうちにあるわけないじゃありませんか」  「だって戦自もUNFも復活してきたし使徒が全部倒れたってEVAは残るわよ」  「ミサトさん忘れてない?」  「なにをよ?!」  「全部が終わったらアメちゃんと決戦があるって」  「んなことぁ解ってるわよ。  解ってなかったらあちこちのバイヤーさんと武器の買い付け交渉なんてしてないわ」  「それなのに受け入れるんですか?」  「だって、うちの上の決定なんだもの仕方がないじゃない」  「この時期に送られてくるって、裏があるとか思わないんですか?」  「あ〜そういうのは元の司令と今の司令とかの方が得意でしょ?  あたしはそういうのは駄目だし」  「はぁ・・・」  シンジは、ため息をつくしかない。  「相田っちみたいに仕込まれてたら不味いっすよ」  「あ〜そうよね〜でも使徒人間だったらアンチマテリアルライフルが一応効くんでしょ?  なぁ〜んとか、なるっしょ!!」    「ふぅん、セブンスねぇ・・・で、こんな所をお散歩している意味は何?」  ジオフロントの雑木林の中の遊歩道をシンジとアスカは、手をつなぎゆっくりと散歩をしていた。  「しっ・・・ほら聞こえない?」  「・・・なによ・・・あら、唄よね」  「『なぁにぃわぁぶしだぁよっじんせぇぇぇぃわぁ〜♪』  唄は、いいねぇリリンの作った文化の極みだよ。  そうは思わない?シンジ君」    「り・・・リツネエ?!」  「・・・ねえどうして演歌なのよ」  「あらそうは言うけど演歌は、アジア共通の歌謡なのよ。  ま、それはそれとして私も誘って欲しかったわね」  「だって忙しそうだったじゃん」  「あらジンジ君とのお散歩なら、たとえ使徒戦のさなかでも暇を作って見せるわよ」  「あ、そう・・・んじゃ次があったら誘うわよ」  「よろしくね、で、どこ行くの?」  「この当たりをうろついていれば、きっといると思うんだけどね」  「あら、またなにか聞こえるわよ」  『つがるかぁぃぃきょうぅぅふぅぅぅぅゆぅぅげぇしぃきぃぃぃぃぃ〜♪』  ものの見事なこぶしの聞き具合のド演歌が聞こえてきた。    「ま、また演歌かい!」  思わずそう突っ込んだ、シンジの瞳に華奢な背中が飛び込んできた。  誰が持ち込んだのか遊歩道の只中の小さな広場の真ん中。  そこにモアイのレプリカが鎮座している。  そのモアイの上に立てひざをし、こちらに背を向けて座る白い薄でのブラウス、黒いマイクロミニといういでたちの色が抜け落ちてしまったかのような、銀髪の少女が座っていた。  少女だと思うのは、マイクロミニから伸びるすらりとした足もそうだが、なによりも薄でのブラウスに、ふりふりのたくさんあしらわれたブラが見事に透けていたからだ。  一同が予期していた存在と性別が違うことにやや唖然としていると、ゆっくりとその影が振り返った。  その口元には、微笑が浮かんでいる。    「ボケはいいねぇリリンの作った文化の極みだよ。  なによりも突込みが必要ってことが、最高だと思わないかい女性のあそこへの突っ込みは大得意の碇シンジ君」  「余計なお世話だ!!」  「ああやっぱりシンジ君の突っ込みは最高だよ」  「あんた、だれよ」  「セブンスチルドレン渚カヲリ・・・そして最後の使徒ってもう知ってるよね。  おや?シンジ君は?」  「「そこよ」」  心底あきれた口調でアスカとリツコが答えた。  二人が指差す先は、モアイ像の鼻先。  ようするに正面に回りこんでカヲリのスカートの中身を覗き込んでいるのである。  「ちょちょっといきなり何をしているんだい」  「だって女の子の振りをしているだけだったら悲しすぎるし、今この場で確かめる」  「駄目ここじゃ駄目だよシンジ君」  「んじゃどこならいいの」  「・・・そんなところ触ったら、いゃぁぁぁっ」    「どうしますリツコ姉さまあのセクハラ大王」  「とにかくあの子が加わるならば仁義を通してもらいましょ」    「くすん・・・くすん・・・」  「「あ〜あな〜かしたな〜かした」」  リツコとアスカが囃し立てる。    「あ〜ごめん、まさかそういうの免疫がないなんて思わなかったから、なにしろカヲル君は積極的だったし」  「・・・なぁんだ気がついていたのかい」  「当たり前だろ、僕が君の事を間違えるはずがないじゃないか」  「それにしてもいきなり女性器を触るのは感心しないね」  「う〜わかった、ごめん謝るよカヲリさん」  「その謝罪受け入れるよ」  「ありがとう」  「どういたしまして」    「で、あんた最後の使徒としては何を狙っているの?」  「使徒としての僕がすることは決まっているだろ」  「やっぱりそうなのか・・・僕の邪魔をとことんするつもりなんだね」  「決まっているじゃないかシンジ君は、幸せになんてなったら駄目なんだよ」  「その言葉、聞き捨てならないわね」  「2ndか・・・どうして君がシンジ君の肩を持つ、君だって不幸にされた一人じゃないか」  「あたしも悪かったの、それが判ったからシンジだけを攻めるのを止めたの」  「それとシンジ君が幸せになることは関係ないことだね」  「あたしが幸せでいるにはシンジが幸せでなくちゃダメなのよっ!」  「そう思い込んでいるだけじゃないのかい?」  「あんたが、シンジに殺されることを願ったりしなけりゃ、シンジはここまで苦しんでないのよ!!」  「それが僕の役割だからね」    その会話を聞いていたリツコは、説得することは無駄だと理解した。  「保安部、赤木よ、アンチマテリアルライフル大盤振る舞いで、ジオフロントのモアイ像の上に立っているセブンスを撃ちなさい。  使徒よ」    「無駄だよ」  「無駄かどうかは、すぐに解るわ」  そうリツコが言った時、カヲリの体中にレーザーサイトのマーカーが生じた。  「アスカ、シンジ君、伏せてっ」  「ひとの作った銃ごときで・・・がっ・・・ぐぅ」  ビシッ!!  ビスッ、ドスッビスビズビスビスビスビスッ。  倒れることすら許されず、弾丸がカヲリの体を躍らせる。  ドスドスドスドスドスドスドスドスビズビス、ドスッ。    「・・・なぜ・・・」  「ばかだなぁカヲリさん、僕が本気で使徒の相手をしていたと思っているの?」  「・・・どういう・・・こと・・・だい?」  「僕の力は強すぎて、その力を開放したらセカンドインパクトの再現になってしまうんだよ。  だから今まで、力の制御に大半の能力を使っていたのさ。  それを君たちは勝手に僕の力がそこまでの物であると決め付けた。  そのしっぺ返しだよ」  「僕を騙したのか」  「君だけじゃないよ、アスカや綾波たち僕の癒手を除いた者たちは、みんなそう思わされていたんだよ」  「・・・」  「すごいねそんな小さなコアでももう再生が進んでいるんだ?」  「くっ・・・助けてシンジ君」  「僕の原罪をすべて背負ってこの世界から消えてくれカヲル君」  シンジは背を向けた。  その背に力なく手が伸ばされる。  「もう一射よっ!」  再びカヲリの体がぼろ布のように跳ね回る。  やがて、上がりかけた腕が、力を失う。    「使徒殲滅・・・」  「よかったのシンジ」  「一緒に生きたいというのはわがままなのかなぁ。  アスカ、リツネエ・・・くぅぅうううううくうううう」  「シンジ」  「シンジ君・・・マヤ使徒の検死よろしく。  さあシンジ君行きましょう」  「本当に良かったのかねあんなに簡単に倒してしまって」  「あんなのがEVAを使って暴れられたら大迷惑ですわ。  ただでさえ使徒戦が終わろうとして予算が減ってるんだ、弾代とシンジ君の心のダメージだけで済みゃ御の字ってもんじゃでの〜冬月教授」  「次はいよいよ、アメリカとの最終決戦かね?  すこし年寄りにはきつい戦いになりそうだな」  「なんならせんせいもEVAで若返りますか?」  「・・・ひとりくらい年寄りがおらんとNERVの看板の軽重を問われるんじゃないかね?」  「あら本当にそれだけですか?」  「ん?」  「怖いんじゃありませんの?」  「まあ、それもあるよ君が融けるところを間近で見た人間だからね」  「ところで入っていいわよ」  「はぁい、失礼しまぁす」  司令室のドアが開きたった今、死んだはずの少女が入ってきた。    「セブンスチルドレン渚カホリです。よろしくお願いします」  「どういうことかね?」  「レイちゃんと同じですわ」  「リリス・・・いやアダムとのハイブリッドなのかね?」  「はい、さっきまでのカヲリは、ダブリスの因子が取り付いていましたけど、シンジ君に殲滅されちゃいましたから私は、単にアダムとのハイブリッドなクローン少女です」  「明るく言い放つことではないと思うがね?」  「だって物静かな美少女では綾波レイちゃんにかてっこないですし。  勝気な美少女ちょっとこころが弱めは、アスカちゃんがいるし。  ちょっと天然入ったお姉さんは、マナさんがいますし。  しっかり物のまとめ役はヒカリさんがいるでしょ?  甘えられるお姉さんは赤木博士だけで十分ですし。  わがままなお嬢様実母風味はユイ博士が居ますし。  そうなるとあとは天然幼馴染くらいしか残ってないですから」  「ぎゃ・・・ギャルゲーのキャラ設定かね・・・」  天を仰ぎ勘弁してくれといったコウゾウだった。  「そういうわけで渚カホリです。  みなさんご指導ご鞭撻なにとぞよろしくお引き回しください」    「「「「「「ふぅ〜ん」」」」」    「ってどうして驚いてくれないんです?」  「ダミープラグの材料」  「ぐさっ」  「二番煎じ」  「ぐさっ」  「シンジは幸せになっちゃいけないとか言ったよね」  「ぎくっ」  「ジンジく〜んみんながいぢめるよ〜っ」  「僕も本気で君が死んだときないたんだけどな」  「うううう・・・ごめんなさぁ〜〜い・・・だけど」  「解ってるよカヲル君ダブリスの因子のせいで人に対して攻撃的になっていたんでしょ?」  「うん、あそうだキールお爺様から伝言」  「お爺様ぁ?」  「だって、僕は、カホリ・ローレンツ・ナギサ、正真正銘キール・ローレンツ議長の孫だもの」  「孫をダミープラグの材料かい!」  「それは逆」  「へ?」  「不治の病に冒された孫娘を救うためにアダムとのハイブリッド化を泣く泣く選択したの、それから私がダミープラグの材料になってもいいよってお爺様にいったんだもの」  「はぁ」  「まあ、あの時は、そういうふうに誘導されてたんだと思うけど」  「やっぱし」  「あの・・・それで奥さんズに入れてくれますか?」  「その前にキールさんからの伝言は?」  「あ、そうだった」  「ユイの息子、正当なるハフスブルクの後継者よ」  「「「「「ぃ゛ぃ゛ぃっ?!」」」」  「ハフスブルグってオーストリアのあれ?」  アスカが、カホリへ聞いた。  「あれ、がなにをさしているのか知らないけど、ハフスブルグって言ったらそれしかないと思う」  「あ、あんたものすんごいサラブレッドだったのね」  「あ〜本人に自覚はあんまりないけどね」  「つづきいい?」  「うん」  「孫娘カホリを末永く頼むぞですって」  「あ〜いいの?こんな鬼畜に」  「私には、渚カヲルの記憶も残ってるからシンジ君と生きられるならそれだけで幸せだもの」  「あ、それからもう一つ、アメリカはとことんやる気だそうです」  「あ〜僕らが負けるなんてこれっぽっちも考えてないねキール議長は」  「そうみたいね」  【這い寄る混沌】  「キール閣下」  「うむ」  「旧人類補完計画をアメリカ合衆国政府ならびに北米NERV残党が行おうとしているとリークを行います、よろしいですか?」  「かまわんすでに真の補完は、われ等の手の内にあるのだ全人類をLCLへ還し白人だけを完全なるヒトとしてサルベージを行うという旧計画は、破棄されてしかるべきだ。  それ頑迷に拘泥する輩には、それ相応の報いが必要だろう」  「苦労をかけるな六分儀」  「いいえそれがユイの意思ですから」  なんというか健気ですな。  ・・・これで浮気してなけりゃね  ・・あんまし人のことはいえない気がしますが  まあそうだけど。      「始まりました、弾道弾120発現在ブースト過程です」    どうして、どうして戦略原潜が生きてるのさ、全部舵機故障で圧潰させたはずなのに。  あ〜そりゃあれです3分の一が任務について三分の一が航海中で三分の一が休養中ってやつで。  そういうのちゃんと教えといてよ〜別にこの程度の攻撃は平気だけどさ。  だと思いました。  「葛城さん、不味いですよ」  「どうしたの?」  「SLBMは、全弾ポストブーストに入りましたけど、これ弾道計算したら三分の二はヨーロッパを狙ってます」  「なんですって!」  「お爺様!」  「もしかして解ってたかな?」  「まあ狙われて当然だと思っていたでしょうね」  「海自イージス護衛艦TMD動作に入ります」  「あ〜最大で400発のN2弾頭かよたすかりっこねえな」    「アスカ、あわてなくてもいい僕が何とかするから待機をしてれば良いよ」  「なんとかってどうするのよ」  「そんなの決まっている、迷惑な贈り物は元の持ち主に還してあげるんだよ」  「いいのそれで」  「良いも悪いもその原因は向こうが作ったんだし、そんな政府を支持していることもおかしいとは思うけど」  「ちがわよシンジの心は大丈夫なの?」  「後悔するにしても知ってる人間が死んで後悔するよりずっとましだと思う」  「・・・まあそうなったらあたしたちが慰めてあげるから」  「アメリカ合衆国政府から正式な宣戦布告が目標とされている政府に届きました」  「今更、何を戯けた事を」  「NREV各国支部を合衆国軍の管理下に置くならばこれ以上の攻撃は行わないと」  「・・・馬鹿な国」  その瞬間MIRVとして分離したすべての弾頭が、アメリカ国内のありとあらゆる軍事施設の上空へ出現した。  総計で1200発のMIRVの内、N2弾であったのは300発程度。  しかしその300発は、ものの見事に分散し軍事施設および政府機関を吹き飛ばしたのである。  グアム、ディエゴガルシアなどの海外拠点も例外でなく。  この時点でアメリカが使える正面戦力は海軍と海兵隊のみであり、その海軍兵力も大半は、自国内基地への救援へと振り向けられつつあった。  「第六艦隊イギリス海軍と交戦状態に入りました!」  「ドイツ海軍フランス海軍それに続きます」  「第七艦隊は、どう?」  「それが、どうもグアムで直撃を受けたらしく、主要艦艇が軒並み大破状態で行動不能の模様」  マコトの報告と同時に偵察衛星からの超高解像度写真が表示され、彼の言葉に偽りがないことが確認された。  「とするとあとはSLCMか爆撃機くらいか」  「爆撃機はありませんねディエゴガルシアが全滅ですから、少なくも太平洋とインド洋は攻撃から外れます」  「じゃあもう戦争なんてできないじゃない」  「ええ、そうですね」  「こうなると不正規戦を行うか一発逆転をねらってここへもう一度部隊を送り込むか・・・  「降伏勧告でも出してもらいましょうか?」  「それが良いわね」  結局最初のN2弾頭SLBMによる奇襲の失敗がアメリカの敗戦を決定付けた。  結果として日本、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、ロシアによって降伏勧告がなされ、どこぞの省庁の小役人が大統領代理としてその降伏勧告を受け入れたことで戦争状態は終了した。  しかし結局アメリカの復興へは、どの国も手を貸さず、この後10年ほどでその努力は、完全に放棄されアメリカという国は自然消滅的に世界史から姿を消してゆくこととなった。    ふ〜んドッカンバッカンの大騒ぎをするのかと思ったら。  いやよく考えたらアメちゃんEVA持ってないから最終決戦にならんのです。  やっぱゼルエル戦が最大の山で後は、おまけ?  そういうことになりますね、ルシファー降臨とかやっても良かったんですが、そうするとまたあなたは放浪しないといけなくなりそうだから。  ここに落ち着いちゃっていいのかな?  奥さん7人に娘二人を置いてどこいこうってんです?  あ〜そうなんだよ、なんかこの時期になると前回までは世界が呼んでる声が聞こえてきたんだげとね、今回はまったく聞こえないし。  ここがあなたの終着ポイントでいいんじゃありませんか?  そうだね、僕はこの世界で綾波やアスカ、マナやヒカリ、カホリに母さんや大好きなリツネエ、マレニとマユラと生きてゆくことにするよ。  「そうだ、奴は使徒だ、やれ!!」  そこは、カヲリの倒されたモアイ像の広場。  そこを本部へ向かい歩き出したシンジの背中に十数のレーザーマーカーが張り付きそしてシンジの後頭部に小さな穴が穿たれた。    「だ、ダミー1、生命反応喪失!!」  「全保安員は、ダミー1の狙撃手を確保せよ、全保安員は、狙撃手を確保!!!    「あんまり気持ちの良いものじゃないね、自分が頭を吹き飛ばされるところを見るのは」  「当たり前よみんな知ってたから気持ち悪いってくらいで済んでるけど、知らなかったらパニックよ!」  「まあ母さんとリツネエの用心深さに感謝だよね、即席クローンで暗殺を呼び寄せてその犯人をあぶりだすっていうんだもの」  ・・・そう、やっぱり父さんだったんだ。  「ええ、会いましょう」  「やあ父さん」  「私は、貴様のような化け物を子供にした覚えはない」  「ばけものねぇその化け物になっちゃったのは、あんたがやった人類補完計画のお陰なんだけどね」  「正確には、私ではあるまい。  お前が最初にサードインパクトを発生させた世界の私だ」  「ところがそうでもないんだなぁ。  なんだかかなり事情を知ってるみたいだから言うけど、ここは、正確に僕が生まれた、サードインパクトが発生してしまった世界の過去なんだよ。  わざわざ僕が何千回も世界を鍵として放浪していたと思っているのさ」  「なんだとそんな偶然が」  「偶然じゃないよリツネエとの初恋なんてそんじょそこいらの世界じゃ絶対になかった。  母さんがハフスブルク家の末裔なんて世界だってそうそうありはしないよ」  「貴様がユイをたぶらかしたから」  「あんた馬鹿?  第一に自分に魅力がないってことに気がつきなよ、恥ずかしい奴。  そうそう、どうして僕が放浪していたのかを教えてあげるよ、それはあんたを見つけ出して、あんたを新たな鍵にするためさ、僕の代わりにね」  「なんだと!」  「おっと、その前に右腕のアダムは返してもらわないとね」    いきなりゲンドウの右腕から胎児のアダムが消え去った。  「がぐぅぅうう・・・」  「すごい喪失感だろ?  くくくくっアダムのお陰でいい気で居られたんだものね。  たんなる小心者の下衆ごときが。  「・・・」  「せっかくなんの能力もなしに世界を放浪してもらう嗜好なのに、妙な力を持っていかれたら興ざめしちゃうからさ。  あんたのその脆弱な心が何回の繰り返しに耐えられるだろうね。  ほら聞こえてくるだろう?  お前の居場所は、そこじゃない早く次の扉をあけろって、耳元でささやいてるよね」    「いやだ、やめろ俺は嫌だ」  「あそう、じゃ今なら止められるよ。  ただし死ぬしかないけどね。  一度でも扉を開けたら死んでも新しい扉があくだけだからね。  くくくっさあ究極の選択だ。  死んで開放されるか、扉を開けて放浪者となるか。  あ、そうそうあんたが扉を開けると同時にこの世界の扉は、僕が消しちゃうからこの世界に戻ってこれるなんて希望は捨てたほうが良いよ。  ああ、これもそのうちに気がつくと思うけど、ある世界で人につらく当たると次の世界での自分は、ものすごく悪い扱いを受けるからね。  ま、あんたじゃ千回くらい生き死にをしないとわからないかな。  ほら早く決断しないと扉があくよ。  その銃で頭を吹き飛ばすか鍵となるかさ。  なんだよずいぶん優柔不断な男だったんだねぇ」  「畜生!!」  ゲンドウは、足元へ転がされている45口径の自動拳銃を三重手錠のかけられた腕でつかみあげるとシンジへ向かい撃ち放った。  だが至近距離からの一撃であったにも関わらず、その銃弾を頭を横に傾けただけで、避けてしまう。  「畜生、畜生」  そう叫ぶたびにトリガーを轢きぼろうとするが、弾丸は一発しか込められておらず、自動拳銃は、ブローバックしたままだ。  やがてゲンドウは、その拳銃をシンジめがけて投げつけた。    「バカだあんた。  最後の慈悲ってやつで、頭を撃てばホローポイント弾で確実に死ねたのに。  あんたやっぱ馬鹿だったね」  自分を撃つであろうことは、予見していたんだろう、その予見から外れることができなかったゲンドウをバカと揶揄する。  「畜生・・・畜生・・・ぅぅぅぅぅ」  「泣き喚きたいのはこっちのほうだよ。  たかがこんな屑一人の為に僕は、気の狂うような時間の檻に閉じ込められたんだ。  今度はあんたの番だよ碇ゲンドウ。  さようなら」    「よせ来るな・・・ひいぃぃぃぃ・・・・いやめろぉぉぉぉぉぉぉ」  ズルズルとなにが這い回る音がゲンドウへと近づいてゆく。  「ふん<這い寄る混沌>か、本当に混沌に這い寄られる気持ちはどうだい父さん?」  ゲンドウの悲鳴は、粘液質の音が大きくなるにつれ小さく、そして遠くなっていった。  うん、そうだね。  本当は、母さんにも同じ目にあってほしいんだけどユニがかわいそうだからね。  ああSEELEのみなさんかい?  本気でEVAで永遠の命なんて手に入ると思っているのかね?  僕や綾波、アスカの力が介在しなけりゃ単なる劣化コピーが行われるだけなのにね。    え? おまえは怖い奴だ?  褒め言葉として受け取っておくよ。  うん、僕だって君ほど長生きはできないだろうから。  まあ寿命まではみんなと今のように、楽しく爛れまくった生き方をしてゆくよ。    あ〜呆れるなよ。  今まで辛い目にあって来た見返りみたいなもんだろ?  あ、納得してくれた。  いや謝らなくても、いいよ。    うん本当気にしてないよ。  じゃ君の次の出番は、まだまだずっと先。  そうだね一億年くらいしたら、また出ておいで。    うん、おやすみ<アダム>      お・や・す・み。 -------------------------------------------------------------------------------- サクっとEVANGELION THE END COPYRIGHT(C) 2004 By Kujyou Kimito -------------------------------------------------------------------------------- あとがき  え〜終わりました。  サクっとEVANGELION。    まあ本文の中でも言ってますが、ゼルエルの戦闘シーンが、この物語のクライマックスです。    もうカヲリとカホリなんて、単なるおまけです。    アメリカと最終決戦をしようと思ったんですが、EVAがいなけゃどう考えても、盛り上げようがないんですな、だもんで止めました。    最後のゲンドウ追放は、まあこれくらいしないと、シンジがこの世界にこのまま残ったんじゃダメだろうという、代償としてゲンドウに行ってもらいました。      マレニという名前は、<希に>です。数がきわめて少ないさま。からです    マユラは、たまゆら(玉響) しばしの間。ほんの少しの間という意味から  たまゆらという名前は、なんなんで、マユラとしました。      短い連載でしたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。 -------------------------------------------------------------------------------- -------------------------------------------------------------------------------- スポンサーです -------------------------------------------------------------------------------- このお話しが、面白かったらどうかクリックをしてやってください。 明日の創作のために、どうぞよろしく(T_T)/ -------------------------------------------------------------------------------- 簡易感想フォーム 必須の項目は、ありません。どんなものでも感想を頂けたら嬉しいです。 名前: メールアドレス: ホームページ: このお話面白かったですか? 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